説明

蛋白質担持フィルタ

【課題】本発明は、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、効率よく不活性化することができる酵素、抗体等の蛋白質担持フィルタを提供する。
【解決手段】フィルタ上に担持された酵素、抗体等の蛋白質の酸化失活および熱失活を防ぐために、フィルタ上に熱安定化剤、または、熱安定化剤および抗酸化剤を共存させる。また、本発明の蛋白質担持体は、蛋白質溶液に基材を含浸するという簡便な方法で実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、不活性化することができる酵素、抗体等の蛋白質を担持したフィルタに関する。さらに詳しくは、担持した酵素、抗体等の蛋白質の活性発現を抗酸化剤によって特異的に安定化すると同時に、通過した空気中の活性酸素を無害化することを特徴とする空気清浄機やマスク用濾材に好適に用いることができるフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などの有害物質を除去するフィルタ濾材については、これまで様々なものが提案されてきた。また、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、不活性化することができる酵素、抗体等の蛋白質を担持したフィルタについても、これまで様々なものが提案されてきた。しかし、一般に、蛋白質は空気中に暴露しておくだけでも、空気中の活性酸素や熱によって変性する。酵素や抗体等の活性を有する蛋白質は、酸化や熱によって変性するとその活性を失うこととなる。特に、この酸化による失活は、エアフィルタに添着さている蛋白質の場合は、蛋白質がより多くの活性酸素と接触するため、影響が大きい。しかし、このことになんらかの対策を施した蛋白質担持体及びフィルタの提案はこれまでなかった。
【0003】
特許文献1には、シアル酸、シアル酸誘導体、これらを含む糖、糖蛋白質、糖脂質の少なくとも1種類をウィルス捕捉体としたウィルス除去フィルタが開示されている。
【0004】
特許文献2には、高い微細繊維化度を持つ繊維素材であって、少なくとも1本の繊維がウィルスを捕捉する目的で、ウィルスに対する天然の受容体またはその一部またはその類似体を付着させるため、臭化シアンで誘導体化されているものが開示されている。しかしながら、フィルタを用いた濾過や、吸着剤を用いた物理吸着により空気中の有害物質を除去する方法は、非特異的なものであって、精度が低い。また、除去した有害物質が再浮遊したり、フィルタ上で有害物質が増殖して新たな汚染源となったりすることを避けるために、有害物質の殺菌・不活性化の技術を組み合わせなければならない。
【0005】
特許文献3には茶の抽出成分を添着した不織布を耳に留める紐で構成された抗ウィルスマスクが、特許文献4にはフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子抗アレルゲン剤と吸湿性材料を担持したフィルタが開示されている。茶の抽出成分やフェノール性水酸基を有する非水溶性高分子は、抗菌作用を有することが知られているが、酵素・抗体等の蛋白質のように特定の菌やウィルスを不活性化できるような特異的な反応性は有していない。酵素・抗体等の蛋白質は、目的の有害物質に合わせたものを用意することができ、より確実な効果を得ることができて好ましい。
【0006】
フィルタ上で有害物質を殺菌・不活性化するためには、有害物質に対する殺菌・不活性化能を有する酵素・抗体等の蛋白質をフィルタに担持することが有効である。しかし、特許文献5〜8で開示されている共有結合、イオン結合、架橋法、包括法等の方法で各種酵素を基材に担持させたフィルタは、(1)担持方法が複雑でコストがかかる、(2)担持の過程で酵素がダメージを受け、活性が低下する、(3)一般に固定化の際、酵素の固定する向きを制御することができないため、活性が発現しにくい向きに結合される分子が含まれ、全体として活性が低下する、といった問題があり、簡便な方法で蛋白質を担持し、その活性を発現させることが望まれている。
【0007】
【特許文献1】特開平9−234317号公報
【特許文献2】特開2001−527166号公報
【特許文献3】特開平8−333271号公報
【特許文献4】特開2004−290922号公報
【特許文献5】国際公開第98/04334号パンフレット
【特許文献6】特開昭60−49795号公報
【特許文献7】特開平2−41166号公報
【特許文献8】特開2003−210919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、効率よく不活性化することのできる、酵素、抗体等の蛋白質を担持したフィルタを提供することを課題とするものである。また、担持された蛋白質の酸化失活および熱失活を防ぎ、長期間にわたる安定的な活性発現をさせることを課題とするものである。
【0009】
ここでいう酵素とは「生細胞内で作られる蛋白性の生体触媒」であり、抗体とは「免疫反応において、抗原の刺激により生体内に作られた抗原と特異的に結合する蛋白質の総称」であり、蛋白質とは「動物・植物・微生物など、およそ生物とよばれるものの細胞の主要成分として含まれる一群の高分子含窒素有機化合物」である(岩波 生化学辞典 第3版 岩波書店)。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、蛋白質担持体及び蛋白質担持フィルタの性能を向上すべく鋭意検討した結果、酵素、抗体等の蛋白質と共に、熱安定化剤、または、熱安定化剤および抗酸化剤を、共存させることにより酵素、抗体等の蛋白質の酸化失活および熱失活が抑制され、活性発現が特異的に安定化されることを見出し、ついに本願発明を完成するに到った。即ち本発明は、以下の通りである。
1.蛋白質及び熱安定化剤を基材上に担持させてなる蛋白質担持フィルタ。
2.蛋白質、熱安定化剤及び抗酸化剤を基材上に担持させてなる蛋白質担持フィルタ。
3.前記蛋白質が酵素である上記1または2に記載の蛋白質担持フィルタ。
4.前記酵素が蛋白質分解酵素である上記3に記載の蛋白質担持フィルタ。
5.前記蛋白質分解酵素が植物由来である上記4に記載の蛋白質担持フィルタ。
6.前記蛋白質分解酵素がブロメラインである上記4に記載の蛋白質担持フィルタ。
7.前記蛋白質分解酵素がセリンプロテアーゼである上記4に記載の蛋白質担持フィルタ。
8.前記蛋白質が抗体である上記1または2に記載の蛋白質担持フィルタ。
9.前記抗体が卵黄由来抗体IgYである上記8に記載の蛋白質担持フィルタ。
10.前記熱安定化剤が糖類である上記1〜9のいずれかに記載の蛋白質担持フィルタ。
11.前記糖類がオリゴ糖である上記10に記載の蛋白質担持フィルタ。
12.前記オリゴ糖が二糖である上記11に記載の蛋白質担持フィルタ。
13.前記二糖が非還元性二糖である上記12に記載の蛋白質担持フィルタ。
14.前記非還元性二糖がトレハロースである上記13に記載の蛋白質担持フィルタ。
15.前記抗酸化剤がポリフェノール類である上記2〜14のいずれかに記載の蛋白質担持フィルタ。
16.前記ポリフェノール類が植物由来である上記15に記載の蛋白質担持フィルタ。
17.前記ポリフェノール類がブドウ、茶、コーヒー、月見草、エルダーベリー、ボイセンベリーのいずれか由来である上記16に記載の蛋白質担持フィルタ。
18.前記基材に活性炭を含む上記1〜17のいずれかに記載の蛋白質担持フィルタ。
19.前記基材にシリカゲルを含む上記1〜17のいずれかに記載の蛋白質担持フィルタ。
20.蛋白質を含む水溶液に基材を含浸し、その後余分な水分を乾燥させることで製造される上記1〜19のいずれかに記載の蛋白質担持フィルタ。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蛋白質担持体及びフィルタは、酵素、抗体物質等の蛋白質の活性発現を特異的に安定化することで、各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などを吸着し、フィルタ上にて効率よく不活性化することができる。従来のフィルタでは、捕捉した細菌などが、同時に捕捉されたダスト類を糧としてフィルタ内で増殖し、臭気を発生したり、フィルタ下流部まで到達して2次汚染を引き起したりするという問題があったが、細菌を死滅させる効果のある蛋白質を担持したフィルタを用いれば、この問題は解決される。また、従来の蛋白質を担持したフィルタは、経時的に酸化や熱によって蛋白質が変性し、その性能が失われるという問題があった。本発明の蛋白質担持フィルタは熱安定化剤、または、熱安定化剤および抗酸化剤を、同時に担持することで特異的に蛋白質を安定化し、初期の性能を持続できる。また、蛋白質水溶液に基材を含浸し、乾燥させるという簡便な方法で蛋白質の担持が可能であるので生産コストが低いという効果を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願発明にかかるフィルタは、蛋白質を担持させていることが好ましい。蛋白質はその種類の適正化により、目的物を選択的に除去することができるため、除去目的物外の粉塵等の存在の影響が少なく、高い精度で目的とする細菌等を除去することができるからである。
【0013】
本発明の蛋白質担持フィルタに適用可能な酵素、抗体等の蛋白質は特に限定されないが、酵素としては溶菌酵素(リゾチーム)、蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)、各種アレルゲンを酸化還元する酵素(オキシドレダクターゼ)などが、抗体としては細菌、あるいは、カビ、ウィルス、環境アレルゲンなどを不活性化する抗体などが挙げられる。
【0014】
蛋白質分解酵素(プロテアーゼ)としては、ブロメライン、パパイン、カスパーゼ、フィシン、アクチニジンなどのシステインプロテアーゼ、サーモリシンなどの金属プロテアーゼ、トリプシン、キモトリプシン、スブチリシンなどのセリンプロテアーゼ、ペプシン、カテプシン、HIVプロテアーゼなどのアスパラギン酸プロテアーゼ(酸性プロテアーゼ)、N−末端スレオニンプロテアーゼ、グルタミン酸プロテアーゼなどを利用することができ、より好ましくは、植物由来の蛋白質分解酵素、さらに好ましくは、ブロメラインを利用することができる。
【0015】
植物由来の蛋白質分解酵素は、安全性の面で優れており、消費者に対するイメージも良好である。また、酵素を生産するにあたって、有用植物の使用後の残渣(例えば果実を利用した後に残る皮や種や茎の部分)より抽出されるものも多く、環境面でも優れている。植物由来の蛋白質分解酵素としては、ブロメライン(パイナップル由来)、パパイン(パパイヤ由来)、フィシン(イチジク由来)、アクチニジン(キウイフルーツ由来)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
ブロメラインは、パイナップル由来の蛋白質分解酵素であり、パイナップルの果実および茎から採取されるが、茎由来のものの方が活性が高く望ましい。茎由来ブロメラインは、粗精製品でも臭気が少なく、フィルタに担持する用途に好適である。また、水への溶解性も良好であり、加工性も優れている。さらに、酵素活性の高いものが比較的安価にて入手可能である。
【0017】
また、本発明の蛋白質担持フィルタに用いるのに好ましい蛋白質分解酵素として、セリンプロテアーゼが挙げられる。セリンプロテアーゼは、EC番号3.4.21に属する酵素であり、一般に、最適pHが中性付近であり、耐熱性があり、SDS存在下でも活性を保持する。これらの性質は、酵素担持フィルタの加工性や耐久性向上に寄与する。
【0018】
本発明の蛋白質担持フィルタに用いるのに好ましい抗体として、卵黄由来抗体IgYが挙げられる。IgYは製造コストが低く、入手しやすい点で優れているからである。
【0019】
本発明にかかるフィルタは熱安定化剤を担持させていることが好ましい。一般に蛋白質は常温においても熱により変性が進むため、常温で使用するフィルタとして蛋白質を担持した基材を利用する場合にも熱安定化剤の添加は有効である。また、高温環境下で使用するフィルタとして蛋白質を担持した基材を利用する場合は、熱安定化剤の添加はより有効に働く。
【0020】
ここで、本発明で使用する熱安定化剤は、活性を有する蛋白質の熱失活を低減する作用のある剤をいい、糖類を例示することができるが、熱安定化剤として作用する材料であれば特に限定はされない。
【0021】
本発明で熱安定化剤として使用する糖類のなかでは、単糖2分子〜20分子がグリコシド結合により結合した分子であるオリゴ糖を使用することが好ましい。オリゴ糖より分子量の小さい単糖類より、オリゴ糖は保湿性や結晶防止性が大きく熱安定化剤としての性能が優れており、オリゴ糖より分子量の大きい多糖類より、オリゴ糖は水溶液の粘度が低く入手しやすい点で優れているからである。
【0022】
また、オリゴ糖のなかでも好ましくは二糖、より好ましくは非還元性二糖を利用するこが好ましい。オリゴ糖のなかでも二糖は安価に入手しやすく、二糖のなかでも非還元性二糖は熱安定化剤としての性能が特に優れているからである。
【0023】
非還元性二糖のなかでもトレハロースは安価に入手しやすく、熱安定化剤としての性能が特に優れており好適に利用できる。
【0024】
蛋白質と熱安定化剤との基材上での存在比は、特に限定されないが、重量比で(蛋白質/抗酸化剤)=(1/1)〜(1/10)が好ましい。熱安定化剤は、蛋白質の活性発現に対してマイナスの影響は少ないと考えられ、添加量が多いほどその効果が期待できるが、(蛋白質/抗酸化剤)=(1/10)より熱安定化剤の割合が大きくなると、それ以上熱安定化剤を増やしても、増やした割合に対応する効果の上昇が少なくなっていく。また、(1/1)より熱安定化剤の割合が小さくなると蛋白質安定化の性能が非常に低いものとなってしまう。
【0025】
本発明にかかるフィルタは抗酸化剤を担持させていることが好ましい。抗酸化剤を担持させることにより、酵素、抗体等蛋白質の酸化失活の原因となる活性酸素を無害化でき、蛋白質の安定的な活性発現を促すことができるからである。また、空気中の活性酸素を無害化できるため、フィルタを通過した空気の活性酸素濃度を抑えるという副次的な効果をも有する。空気中の活性酸素は人体にも悪影響を及ぼし、様々な疾患の原因となることが知られており、これを無害化できることは大変有意義である。
【0026】
ここでいう活性酸素とは、酸素が化学的に活性になったもので、強い酸化力を有するものである。具体的には、スーパーオキシドアニオンラジカル、ヒドロキシルラジカル、過酸化水素、一酸化窒素、オゾン、過酸化脂質などを挙げることができる。
【0027】
本発明で使用する抗酸化剤は、活性を有する蛋白質の失活の原因となる活性酸素を捕捉するものをいい、ビタミンC(アスコルビン酸)、ビタミンE(トコフェロール)、BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、エリソルビン酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、二酸化硫黄、ポリフェノール類であるコーヒー豆抽出物(クロロゲン酸)、緑茶抽出物(カテキン)、ローズマリー抽出物、ブドウ抽出物、月見草抽出物、エルダーベリー抽出物、ボイセンベリー抽出物など、を例示することができるが、抗酸化作用を有する材料であれば特に限定はされない。
【0028】
ここでいうポリフェノール類とは、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシル基(ベンゼン環、ナフタレン環などの芳香環に結合したヒドロキシル基)を有する分子のことであり、フラボノイド(カテキン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン等)、フェノール酸(クロロゲン酸等)、エラグ酸、リグナン、クルクミン、クマリン等を挙げることができるが、これに限るものではない。
【0029】
性能、及び加工性において好ましくは植物由来抗酸化剤であり、さらに好ましくは、アントシアニンを含むブドウ抽出物である。
【0030】
抗酸化剤は、前述のように活性酸素を除去し、蛋白質の酸化失活を防ぐ作用を有するが、逆に蛋白質のカルボキシル基などと反応して蛋白質の活性発現を阻害する性質も有するため、前者の作用が大きく、後者の作用が小さい抗酸化剤を選択することが重要となる。植物由来抗酸化剤は、活性酸素の除去性能が優れており、蛋白質の活性発現を阻害する作用は少ない。中でもブドウ抽出物はその特徴が特に顕著である。また、一般に植物由来の抗酸化剤は基材表面に均一に塗布する上で加工性が良く好ましい。基材表面に担持されている酵素・抗体等の蛋白質の活性を安定して発現させるためには、抗酸化剤が基材表面に均一に塗布されていることが重要である。植物由来の抗酸化剤は、例えばポリエステル等の高分子素材と親和性も優れており、表面上に均一に皮膜を形成することが可能である。
【0031】
蛋白質と抗酸化剤との基材上での存在比は、特に限定されないが、重量比で(蛋白質/抗酸化剤)=(50/50)〜(99.9/0.1)が好ましい。(蛋白質/抗酸化剤)=(50/50)より抗酸化剤の割合が大きくなると、抗酸化剤が蛋白質のカルボキシル基などと反応して蛋白質の活性発現を阻害する作用が大きくなり適当でない。また、(99.9/0.1)より抗酸化剤の割合が小さくなると蛋白質安定化の性能を期待できない。
【0032】
基材の形態は、フィルム、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、ニードルパンチ不織布、メルトブロー不織布、フラッシュ紡糸不織布、サーマルボンド不織布、ケミカルボンド不織布、ステッチボンド不織布、および湿式抄紙不織布など不織布、あるいは織物、紙などシートの形態を成すものが挙げられる。また、基材の形態がシート状である場合、その目付は特に限定されないが、好ましい範囲を例示すると10〜200g/mである。10g/m未満であると各種細菌、カビ、ウィルス、アレルゲン物質などの不活性化対象物を十分捕捉できない可能性があるからである。また200g/m超えるとフィルタとして用いた場合の圧力損失が大きくなるため、あまり好ましくない。
【0033】
本発明の蛋白質担持フィルタの基材の素材として、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ナイロン、ポリオレフィン系、レーヨン、セルロース、パルプ等が挙げられるが、特に限定はされない。
【0034】
酵素、抗体等の蛋白質の、基材への担持の方法としては、基材を適当な濃度の蛋白質水溶液に含浸し、適当な温度および時間で乾燥する方法が好ましい例として挙げられる。ここで用いる蛋白質水溶液は、各々の蛋白質の活性発現に適したpHに調節されることが好ましい。これは、蛋白質はその種類によって活性発現に適したpHが異なり、通常はそのpH付近でないと十分な活性の発現は得られないためである。また、乾燥温度と時間は、担持する蛋白質が変性により失活しない温度にすることが重要である。蛋白質はその種類によって耐熱性が大きく異なる。通常は高温で乾燥させた方が短時間で処理が済み効率が良いが、蛋白質の耐熱性を考慮して乾燥条件を決めることが好ましい。
【0035】
本発明の担持体は、次のような理由により、フィルタとすることが好ましい。すなわち、物理吸着を利用する従来のフィルタでは、低沸点成分を除去、分解することが困難であったが、目的の物質を分解する蛋白質を担持したフィルタを用いれば、低沸点成分でも除去・分解が可能である。さらに、従来のフィルタでは、捕捉した細菌などが、同時に捕捉されたダスト類を糧としてフィルタ内で増殖し、臭気を発生したり、フィルタ下流部まで到達して2次汚染を引き起こすという問題があったが、細菌を死滅させる効果のある蛋白質を担持したフィルタを用いれば、この問題は解決される。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、これによって本発明はなんら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
100mM Tris−HCl緩衝液(pH6.0)にブロメラインを10重量%になるように懸濁した水溶液に、トレハロースを、重量比で(ブロメライン/トレハロース)=(1/5)になるように添加して添着液を調製した。この添着液に、基材(20g/mの熱カレンダータイプのポリプロピレン/ポリエチレン複合繊維からなる不織布)を1分間含浸した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた後、80℃の温度に保持した熱風乾燥機中で1分間乾燥し、サンプルフィルタを調製した。
【0038】
(実施例2)
100mM Tris−HCl緩衝液(pH6.0)にブロメラインを10重量%になるように懸濁した水溶液に、トレハロースおよびブドウ由来アントシアニンを、重量比で(ブロメライン/トレハロース/ブドウ由来アントシアニン)=(1/5/0.1)になるように添加して添着液を調製した。この添着液に、基材(20g/mの熱カレンダータイプのポリプロピレン/ポリエチレン複合繊維からなる不織布)を1分間含浸した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた後、80℃の温度に保持した熱風乾燥機中で1分間乾燥し、サンプルフィルタを調製した。
【0039】
(比較例1)
100mM Tris−HCl緩衝液(pH6.0)にブロメラインを10重量%になるように懸濁した水溶液に、ブドウ由来アントシアニンを、重量比で(ブロメライン/ブドウ由来アントシアニン)=(1/0.1)になるように添加して添着液を調製した。この添着液に、基材(20g/mの熱カレンダータイプのポリプロピレン/ポリエチレン複合繊維からなる不織布)を1分間含浸した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた後、80℃の温度に保持した熱風乾燥機中で1分間乾燥し、サンプルフィルタを調製した。
【0040】
(比較例2)
100mM Tris−HCl緩衝液(pH6.0)にブロメラインを10重量%になるように懸濁して添着液を調製した。この添着液に、基材(20g/mの熱カレンダータイプのポリプロピレン/ポリエチレン複合繊維からなる不織布)を1分間含浸した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた後、80℃の温度に保持した熱風乾燥機中で1分間乾燥し、サンプルフィルタを調製した。
【0041】
(実施例3)
100mM リン酸緩衝液(pH7.0)に卵黄抗体(IgY)を10重量%になるように懸濁した水溶液に、トレハロースを、重量比で(IgY/トレハロース)=(1/5)になるように添加して添着液を調製した。この添着液に、基材(20g/mの熱カレンダータイプのポリプロピレン/ポリエチレン複合繊維からなる不織布)を1分間含浸した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた後、80℃の温度に保持した熱風乾燥機中で1分間乾燥し、サンプルフィルタを調製した。
【0042】
(実施例4)
100mM リン酸緩衝液(pH7.0)に卵黄由来インフルエンザ抗体(IgY)を10重量%になるように懸濁した水溶液に、トレハロースおよびブドウ由来アントシアニンを、重量比で(IgY/トレハロース/ブドウ由来アントシアニン)=(1/5/0.1)になるように添加して添着液を調製した。この添着液に、基材(20g/mの熱カレンダータイプのポリプロピレン/ポリエチレン複合繊維からなる不織布)を1分間含浸した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた後、80℃の温度に保持した熱風乾燥機中で1分間乾燥し、サンプルフィルタを調製した。
【0043】
(比較例3)
100mM リン酸緩衝液(pH7.0)に卵黄由来インフルエンザ抗体(IgY)を10重量%になるように懸濁した水溶液に、ブドウ由来アントシアニンを、重量比で(IgY/ブドウ由来アントシアニン)=(1/0.1)になるように添加して添着液を調製した。この添着液に、基材(20g/mの熱カレンダータイプのポリプロピレン/ポリエチレン複合繊維からなる不織布)を1分間含浸した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた後、80℃の温度に保持した熱風乾燥機中で1分間乾燥し、サンプルフィルタを調製した。
【0044】
(比較例4)
100mM リン酸緩衝液(pH7.0)に卵黄由来インフルエンザ抗体(IgY)を10重量%になるように懸濁して添着液を調製した。この添着液に、基材(20g/mの熱カレンダータイプのポリプロピレン/ポリエチレン複合繊維からなる不織布)を1分間含浸した後、取り出して余分な付着水分を取り除いた後、80℃の温度に保持した熱風乾燥機中で1分間乾燥し、サンプルフィルタを調製した。
【0045】
(抗アレルゲン性試験:試験例1)
サンプルフィルタを1cm角に裁断したものを試験片として、ダニアレルゲン(Der f2)溶液(濃度:50ng/ml、容量:200μl)に浸漬し、24時間静置する。その後、試験片を取り除き、溶液のアレルゲン濃度を測定し、アレルゲンの減少量を計算した。アレルゲン濃度は、ELISA法により測定した。
【0046】
(インフルエンザウィルス不活性化試験:試験例2)
サンプルフィルタを33mm四方に裁断したものを試験片として、密閉された容器に入れ、それぞれにインフルエンザウィルスを1mlあたり0.5mg含む水溶液を0.5ml容器内に噴霧した後、室温で15時間処理を行った。その後、不活性化したインフルエンザウィルスを1mlあたり1mg含む水溶液を0.5ml容器内に噴霧して、抗体をブロッキングし、処理の終わった試験片をリン酸緩衝溶液9mlで洗い出し、回収した液を10日卵に接種、37℃にて48時間培養後、CAM液を採取し、HAテストを行い、Karber法によりウィルス感染価EID50(50% egg−infective doses)の計算を行った。
【0047】
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2のフィルタに、温度負荷と空気との接触による酸化負荷を与えるため、40℃、相対湿度0%環境下で、風速30cm/秒にて1000時間通風したサンプルについて、試験例1で示した抗アレルゲン性試験を実施した。その結果、実施例1のアレルゲン不活性化率は72%、実施例2のアレルゲン不活性化率は80%であり、比較例1のアレルゲン不活性化率は65%、比較例2のアレルゲン不活性化率は52%であった。
【0048】
実施例3、実施例4、比較例3、比較例4のフィルタに、温度負荷と空気との接触による酸化負荷を与えるため、40℃、相対湿度0%環境下で、風速30cm/秒にて1000時間通風したサンプルについて、試験例2で示したインフルエンザウィルス不活性化試験を実施した。その結果、実施例3のウィルス感染価はEID50=0.5×108.3、実施例4のウィルス感染価はEID50=0.5×108.8、比較例3のウィルス感染価はEID50=0.5×108.0であり、比較例4のウィルス感染価はEID50=0.5×107.7であった。実施例4の活性化ウィルス量は、比較例4の約10分の1であった。
【0049】
これら試験例1、試験例2の結果は、温度負荷と空気との接触による酸化負荷を与えたことによる酵素の熱失活および酸化失活を熱安定化剤と抗酸化剤が抑制していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明の蛋白質担持フィルタは、熱安定化剤、または、熱安定化剤および抗酸化剤が、担持された酵素、抗体等の蛋白質の活性発現を安定化することで、高い性能を実現したものであり、また、簡便な方法で蛋白質の担持が可能であるので、産業界に寄与することが大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質及び熱安定化剤を基材上に担持させてなる蛋白質担持フィルタ。
【請求項2】
蛋白質、熱安定化剤及び抗酸化剤を基材上に担持させてなる蛋白質担持フィルタ。
【請求項3】
蛋白質が酵素である請求項1または2に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項4】
酵素が蛋白質分解酵素である請求項3に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項5】
蛋白質分解酵素が植物由来である請求項4に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項6】
蛋白質分解酵素がブロメラインである請求項4に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項7】
蛋白質分解酵素がセリンプロテアーゼである請求項4に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項8】
蛋白質が抗体である請求項1または2に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項9】
抗体が卵黄由来抗体IgYである請求項8に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項10】
熱安定化剤が糖類である請求項1〜9のいずれかに記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項11】
糖類がオリゴ糖である請求項10に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項12】
オリゴ糖が二糖である請求項11に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項13】
二糖が非還元性二糖である請求項12に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項14】
非還元性二糖がトレハロースである請求項13に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項15】
抗酸化剤がポリフェノール類である請求項2〜14のいずれかに記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項16】
ポリフェノール類が植物由来である請求項15に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項17】
ポリフェノール類がブドウ、茶、コーヒー、月見草、エルダーベリー、ボイセンベリーのいずれか由来である請求項16に記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項18】
基材に活性炭を含む請求項1〜17のいずれかに記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項19】
基材にシリカゲルを含む請求項1〜17のいずれかに記載の蛋白質担持フィルタ。
【請求項20】
蛋白質を含む水溶液に基材を含浸し、その後余分な水分を乾燥させることで製造される請求項1〜19のいずれかに記載の蛋白質担持フィルタ。

【公開番号】特開2010−131537(P2010−131537A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310612(P2008−310612)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】