説明

蛍光体およびその製造方法

【課題】13族窒化物半導体からなる半導体粒子の表面欠陥を強固にキャッピングすることによって、発光効率が高く信頼性に優れた、可視領域で発光する該半導体粒子を備える蛍光体、および該蛍光体簡便な製造方法を提供する。
【解決手段】窒化インジウム・ガリウム混晶を含有する半導体粒子と、半導体粒子の表面に結合したジアルキルジアルキルアミノ基とを備える蛍光体であって、半導体粒子の表面のインジウム元素および/またはガリウム元素と、
一般式 −NR2 化学式(1)
(式中、Rは、互いに同一または異なって、アルキル基を表わす)で示されるジアルキルアミノ基の窒素元素と、が結合してなる蛍光体、およびその製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体粒子を備える蛍光体およびその製造方法に関する。詳しくは、発光強度および発光効率を向上させた窒化インジウム・ガリウム混晶を含有する半導体粒子とジアルキルアミノ基とを備える蛍光体に関する。また、窒化インジウム・ガリウム混晶の制御が容易で、合成手順が簡便であり、蛍光体の合成収率が高い該蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体結晶粒子(以下「半導体粒子」という。)は、該半導体粒子の粒子径を励起子のボーア半径程度に小さくすると、量子サイズ効果を示すことが知られている。量子サイズ効果とは物質の大きさが小さくなるとその中の電子は自由に運動できなくなり、このような状態では電子のエネルギーは任意ではなく特定の値しか取り得なくなることである。また、電子を閉じ込めている粒子のサイズが変化することで電子のエネルギー状態も変化し、半導体粒子から発生する光の波長は寸法が小さくなるほど短波長になる。
【0003】
このような効果が現れる半導体粒子として、非特許文献1は、InAsを用いた研究を開示している。
【0004】
また、近年は低環境負荷のワイドギャップの半導体として窒化物系半導体の半導体微粒子合成の試みがなされている(非特許文献2参照)。また、該窒化物系半導体を用いて可視領域での発光波長を有する13族窒化物半導体ナノ粒子が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
ここで、半導体粒子は、該半導体粒子の粒子径が小さくなるほど、該半導体粒子の表面のタングリングボンド(未結合手)に由来する表面欠陥のために発光効率の低下がみられることが知られている。たとえば、特許文献1に記載されている13族窒化物半導体ナノ粒子は気相反応法で合成されており、該13族窒化物半導体ナノ粒子の表面はタングリングボンドが支配的であり、発光効率が低下する。該発光効率の低下を抑制する手段として、たとえば非特許文献1では、InAs半導体をGaAs、InPおよびCdSeなどのワイドギャップ半導体で包含した半導体コア/半導体シェル構造をとることを提案している。該半導体コア/半導体シェル構造をとることで、該表面欠陥をキャッピングする方法を提案している。
【0006】
しかし、半導体材料のみで構成された該半導体コア/半導体シェル構造の半導体粒子は、凝集を生じやすく、産業上利用価値の高い可視発光の半導体粒子を蛍光体に適用しても、分散性や発光効率が改善されにくいという問題を有している。そこで、半導体粒子の表面欠陥を有機物でキャッピングすることにより、分散性と発光効率とを向上させる技術が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2004−307679号公報
【特許文献2】国際公開第2004/007636号パンフレット
【非特許文献1】Yun Wei 他 Journal of American Chemical Society,2000,122,pp.9692−9702
【非特許文献2】Yi Xie 他 SCIENCE,1996,vol.272,pp.1926−1927
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の製造方法では、13族元素であるインジウムおよびガリウムの窒化物を含有する半導体粒子の表面欠陥を、強固にキャッピングすることは難しかった。また、優れた発光効率を示す13族窒化物半導体からなる半導体粒子は得られていなかった。
【0008】
本発明は、上記状況に鑑み、13族窒化物半導体からなる半導体粒子の表面欠陥を強固にキャッピングすることによって、発光効率が高く信頼性に優れた、可視領域で発光する該半導体粒子を備える蛍光体、および該蛍光体簡便な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、窒化インジウム・ガリウム混晶を含有する半導体粒子と、半導体粒子の表面に結合したジアルキルジアルキルアミノ基とを備える蛍光体であって、
半導体粒子の表面のインジウム元素および/またはガリウム元素と、
一般式 −NR2 化学式(1)
(式中、Rは、互いに同一または異なって、アルキル基を表わす)で示されるジアルキルアミノ基の窒素元素と、が結合してなる蛍光体に関する。
【0010】
また、本発明の蛍光体において、ジアルキルアミノ基が−N(C252であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の蛍光体において、窒化インジウム・ガリウム混晶のインジウム混晶比が5%〜80%であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の蛍光体において、半導体粒子の粒径がボーア半径の2倍以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上述した蛍光体の製造方法であって、分子中にインジウムおよびガリウムの少なくとも一つと窒素との結合を有し、かつジアルキルアミノ基を有する前駆体化合物を、合成溶媒に混合して混合溶液を作製する混合工程と、混合溶液を加熱する合成工程とを含み、半導体粒子の表面にジアルキルアミノ基を結合させる蛍光体の製造方法に関する。
【0014】
また、本発明の蛍光体の製造方法において、ジアルキルアミノ基のアルキル基の炭素鎖数が2以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明の蛍光体の製造方法において、前駆体化合物に含まれるジアルキルアミノ基は、2種以上であることが好ましい。
【0016】
また、本発明の蛍光体の製造方法において、合成溶媒が炭化水素系溶媒であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の蛍光体の製造方法において、合成工程の加熱温度が180〜500℃であることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の蛍光体は、低環境負荷でワイドギャップの半導体である窒化インジウム・ガリウム混晶を含有する半導体粒子の表面にジアルキルアミノ基を結合させてなるため、該半導体粒子の表面欠陥は保護されて、信頼性に優れ、発光強度が向上する。
【0019】
また、本発明の蛍光体は、半導体粒子どうしはジアルキルアミノ基で隔離されているため、該半導体粒子が凝集せず、分散性が良く、蛍光体としての取り扱いが容易である。
【0020】
そして、本発明の蛍光体の製造方法は、液相で合成を行なう。したがって、本発明の製造方法は、一般的に窒化インジウム・ガリウム混晶を作製する際に用いる気相合成より工程が少なく、簡易的に窒化インジウム・ガリウム混晶のインジウム混晶比を制御できる。また、本発明の製造方法は、表面欠陥が少なく、分散性がよい蛍光体を簡易的に大量合成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本願の図面において、同一の符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。また、図面における長さ、大きさ、幅などの寸法関係は、図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、実際の寸法を表わしてはいない。
【0022】
<蛍光体>
図1は、本発明における蛍光体の模式的な断面図である。以下、図1に基づいて説明する。
【0023】
本発明における蛍光体10は、窒化インジウム・ガリウム混晶を含有する半導体粒子11と、半導体粒子11の表面に結合したジアルキルアミノ基12とを備える。半導体粒子11の表面のインジウム元素および/またはガリウム元素とジアルキルアミノ基12の窒素元素とは結合している。本発明においてジアルキルアミノ基12は、化学式(1)で示されるものである。
【0024】
一般式 −NR2 化学式(1)
ただし、式中、Rは、アルキル基を表わす。
【0025】
ジアルキルアミノ基12の窒素元素は、半導体粒子11の表面における金属元素であるインジウム元素および/またはガリウム元素に結合することで半導体粒子11の表面欠陥をキャッピングしている。該キャッピングによって蛍光体10の発光効率は向上する。なお、ジアルキルアミノ基12は、半導体粒子11と結合することによって、該半導体粒子11の少なくとも一部を被覆している。
【0026】
また、ジアルキルアミノ基12におけるRは、アルキル基であり、アルキル基とは、炭素元素と水素元素とからなる官能基のことをいう。該アルキル基は、直鎖状であることが好ましい。Rが側鎖をもつアルキル基の場合、ジアルキルアミノ基12は、立体的にかさ高くなるため半導体粒子11への結合が阻害されてしまうためである。また、アルキル基は、疎水性であり、アルキル基どうしは互いに反発しあう。したがって、ジアルキルアミノ基12と結合した半導体粒子11は、該アルキル基の存在によって凝集しにくい。そして、該アルキル基の炭素鎖数は、2以上であることが好ましい。炭素鎖数が2未満である場合には、該ジアルキルアミノ基12中のアルキル基が短く、該アルキル基どうしの反発力が小さいことから半導体粒子11どうしが凝集しやすくなり、蛍光体10の発光効率が低下してしまうためである。
【0027】
また、ジアルキルアミノ基12の同一分子内において、アルキル基Rは、同一であることが好ましい。同一である場合に、後述する蛍光体10の製造方法において、化学合成が容易であるとの利点を有するためである。
【0028】
また、ジアルキルアミノ基12の窒素元素と、半導体粒子11表面のインジウム元素および/またはガリウム元素との結合は、化学結合であり、その形態は特に限定されないが、共有結合であることが好ましい。これは、ジアルキルアミノ基12と半導体粒子11とが強固に結合するため、該半導体粒子11の表面欠陥を効率よくキャッピングすることができるためである。また、該化学結合は、たとえば他に、配位結合、イオン結合、水素結合およびファンデルワールス力による結合等が挙げられる。
【0029】
ジアルキルアミノ基12におけるRの具体例は、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基およびオクチル基などを挙げることができる。本発明においては、特にRはエチル基であることが好ましい。これは、有機溶媒への溶解性が高く、アルキル基どうしの反発力が少ないため、半導体粒子への結合が強いからである。
【0030】
本発明の蛍光体10は、TEM観察を行ない、高倍率での観察像により半導体粒子に結合しているジアルキルアミノ基12、および半導体粒子11に結合したジアルキルアミノ基12で形成された層を確認できる。また、インジウム元素および/またはガリウム元素とジアルキルアミノ基の窒素元素との結合は、たとえばX線光電子分光法によって確認することができる。
【0031】
<半導体粒子>
本発明の半導体粒子11は、窒化インジウム・ガリウム混晶を含有する半導体の結晶からなる粒子である。つまり、半導体粒子11は、インジウム(In)とガリウム(Ga)と窒素原子との結合からなる結晶を含むものである。
【0032】
本発明の半導体粒子11において、窒化インジウム・ガリウム混晶には意図しない不純物を含んでいてもよい。また、該窒化インジウム・ガリウム混晶には低濃度であれば、ドーパントとして2族元素(Be、Mg、Ca、Sr、Ba)、ZnあるいはSiの少なくともいずれかを意図的に添加していてもよい。濃度範囲は1×1016cm-3から1×1021cm-3の間が特に好ましく、また好ましく用いられるドーパントは、Mg、ZnおよびSiである。
【0033】
また、本発明の半導体粒子11は、単一粒子構造であっても、半導体コア/半導体シェル構造であってもよい。単一粒子構造とは、窒化インジウム・ガリウム混晶のみからなる粒子構造をいう。また、半導体コア/半導体シェル構造とは、窒化インジウム・ガリウム混晶以外の組成の半導体による被膜、つまり半導体シェルによって、窒化インジウム・ガリウム混晶からなる単一粒子構造の半導体コアを覆った構造をいう。半導体粒子11が半導体コア/半導体シェル構造を備えるときに、半導体シェルは半導体コアの表面をすべて包含している必要はなく、また半導体シェルの厚みに分布があってもよい。半導体コア/半導体シェル構造の場合において、半導体シェルは、1つの組成の半導体からなる単層膜であっても、複数の組成の半導体からなる複層膜であってもよい。以下、半導体シェルが、複層膜である場合には、半導体コアに近い膜から第1シェル、第2シェルと呼称する。
【0034】
本発明の半導体粒子11が単一粒子構造である場合に該半導体粒子11の粒子径は、0.1nm〜100nmの範囲であることが好ましく、0.5nm〜50nmの範囲が特に好ましく、1nm〜20nmの範囲が更に好ましい。また、本発明の半導体粒子11が半導体コア/半導体シェル構造である場合には、半導体コアの粒子径が0.1nm〜100nmの範囲であることが好ましく、0.5nm〜50nmの範囲が特に好ましく、1〜20nmの範囲が更に好ましい。ここで、半導体コアの平均粒子径は、2nm〜6nmとScherrerの式(数式(1))から見積もられ、これは励起子のボーア半径の2倍以下の微粒子である。
【0035】
B=λ/CosΘ・R´ 数式(1)
ただし、式中B:X線半値幅[deg]、λ:X線の波長[nm]、Θ:Bragg角[deg]、R´:粒子径[nm]を示す。
【0036】
また、該半導体コアに対して、該半導体シェルの厚さは1nm〜10nmの範囲に調整される。該半導体シェルの厚さが1nmより小さいと半導体コアの表面を十分に被覆できず、また量子閉じ込めの効果が弱くなるため好ましくない。一方10nmより大きいと半導体シェルを均一に作ることが難しくなり欠陥が増え原材料コストの面においても望ましくない。なお、本発明の半導体粒子11が半導体コア/半導体シェル構造である場合には、TEM観察を行ない、高倍率での観察像により格子像を確認することで半導体コアの粒子径および半導体シェルの厚さを確認できる。
【0037】
ここで、ボーア半径とは、励起子の存在確率の広がりを示すもので、数式(2)で表される。たとえば、GaN(窒化ガリウム)の励起子のボーア半径は3nm程度、InN(窒化インジウム)の励起子のボーア半径は7nm程度である。
【0038】
y=4πεh2・me2 数式(2)
ただし、式中、y:ボーア半径、ε:誘電率、h:プランク定数、m:有効質量、e:電荷素量を示す。
【0039】
半導体粒子11が単一粒子構造の場合には、該半導体粒子11の粒径が励起子のボーア半径の2倍以下であることが好ましく、このとき該半導体粒子11の発光強度は極端に向上する。また、半導体粒子11が半導体コア/半導体シェル構造の場合には、半導体粒子11の粒径が励起子のボーア半径の2倍以下であるとき、より好ましくは半導体コアの粒子径が、励起子のボーア半径の2倍以下である場合に、該半導体粒子11の発光強度が極端に向上する。
【0040】
本発明において、半導体粒子11を半導体コア/半導体シェル構造にした場合に、該半導体粒子11に励起光を照射すると、該励起光のエネルギーは、まず、半導体シェルによって吸収され、ついで半導体シェルで覆われた半導体コアに遷移する。本発明においては、半導体粒子11の外表面、つまり半導体シェルの外表面にジアルキルアミノ基12が結合しているため、半導体シェルによって吸収された励起光エネルギーが表面欠陥により失括することを抑制することができる。
【0041】
半導体粒子11における窒化インジウム・ガリウム混晶のバンドギャップは、1.8〜2.8eVの範囲にあることが好ましい。そして、半導体粒子11を備える蛍光体10を、赤色蛍光体として用いる場合には、窒化インジウム・ガリウム混晶のバンドギャップは、1.85〜2.1eVの範囲であることが好ましい。また、半導体粒子11を備える蛍光体10を、緑色蛍光体として用いる場合には、窒化インジウム・ガリウム混晶のバンドギャップは、2.3〜2.5eVの範囲であることが好ましい。また、半導体粒子11を備える蛍光体10を、青色蛍光体として用いる場合には、窒化インジウム・ガリウム混晶のバンドギャップは、2.65〜2.8eVの範囲が特に好ましい。
【0042】
ここで本発明は、該窒化インジウム・ガリウム混晶におけるインジウム混晶比を調整することで、本発明における蛍光体10の色を制御することができる。したがって、発光波長を決定するインジウム混晶比は、5%〜80%であることが好ましい。インジウム混晶比が5%未満の窒化インジウム・ガリウム混晶を含む蛍光体10の発光波長は、紫外領域となり可視発光を示す蛍光体10として用いることができない虞があるためである。そして、インジウム混晶比が80%を超えた窒化インジウム・ガリウム混晶を含む蛍光体10は、量子サイズ効果による発光波長の制御が困難となり、蛍光体10として応用する際に困難となる虞があるからである。
【0043】
なお、半導体粒子11の粒子径が、励起子のボーア半径の2倍以下になると、半導体粒子11は、量子サイズ効果により光学的バンドギャップが広がる。このような量子サイズ効果を得られる場合でも、窒化インジウム・ガリウム混晶のバンドギャップは、1.8〜2.8eVの範囲にあることが好ましい。
【0044】
半導体粒子11が、半導体コア/半導体シェル構造である場合には、半導体シェルが単層膜である場合、半導体シェルのバンドギャップは、半導体コアよりも大きいことが好ましい。また、半導体シェルが積層膜である場合には、第1シェルのバンドギャップが半導体コアのバンドギャップより大きいことが好ましい。そして、第1シェルのバンドギャップより第2シェルのバンドギャップが大きいことが好ましく、第3シェル、第4シェルと半導体コアの外側の膜になるほどバンドギャップが大きいことが好ましい。
【0045】
なお、半導体粒子11が半導体コア/半導体シェル構造の場合に半導体コアの粒子径は、量子サイズ効果を有する程度に小さいので、半導体コアは離散化した複数のエネルギー準位のみとり得るが、一つの準位になる場合もある。半導体コアに遷移した光エネルギーは、伝導帯の基底準位と価電子帯の基底準位との間で遷移し、該半導体粒子11は、そのエネルギーに相当する波長の光を発する。
【0046】
<前駆体化合物の製造方法>
本発明の蛍光体の材料には、分子中にインジウムおよびガリウムの少なくとも一つと窒素との結合を有し、かつジアルキルアミノ基を有する前駆体化合物を用いることが好ましい。該前駆体化合物については特に限定はされないが、該前駆体化合物の製造方法について以下に例示する。
【0047】
(1)ジアルキルアミノ基が1種の場合
分子中に1種のジアルキルアミノ基を有する前駆体化合物の製造方法について説明する。化学式(2)に示される反応により、前駆体化合物としてのヘキサ(ジアルキルアミノ)インジウム・ガリウムを合成することができる。
【0048】
リチウムジアルキルアミドと三塩化インジウムと三塩化ガリウムとを、n−ヘキサンの溶媒中で攪拌しながら、反応温度5〜30℃、さらに望ましくは10〜25℃で、反応時間は3〜72時間、さらに好ましくは6〜36時間反応させ、反応溶液を得る。
【0049】
該反応終了後、副生成物である塩化リチウムを該反応溶液から取り除き、ヘキサ(ジアルキルアミノ)インジウム・ガリウムを取り出す。この反応を化学式(2)で示す。
【0050】
XInCl3 + (1−X)GaCl3 + 3LiNR2
→ [(NR2N)2InX−(μ−NR22−Ga(1-X)(NR22] 化学式(2)
(X:0.05〜0.8、R:アルキル基)
なお、化学式中「μ−ジアルキルアミノ基」と表記する場合には、該ジアルキルアミノ基が分子中InとGaとをつなぐ配位子であることを示す。以下、同様とする。
【0051】
ここで、以下、便宜上、分子中にインジウムおよびガリウムの少なくとも一つと窒素との結合を有し、かつジアルキルアミノ基を有する前駆体化合物を[(R2N)2InX−(μ−NR22−Ga(1-X)(NR22]と表記する。実際には、三塩化インジウムと三塩化ガリウムの混合比が1:1の場合、つまりXが0.5の場合は、[(R2N)2In−(μ−NR22−Ga(NR22]のみであるが、Xが0.5未満の場合は、[(R2N)2In−(μ−NR22−Ga(NR22]と[(R2N)2Ga−(μ−NR22−Ga(NR22]の混合物であり、Xが0.5より多い場合は、[(R2N)2In−(μ−NR22−Ga(NR22]と[(R2N)2In−(μ−NR22−In(NR22]の混合物が生成する。なお、化学式(2)中、Xが0.05未満の場合には生成する半導体粒子In組成比が5%以下になる虞があり、0.8を超える場合には、該In組成比が80%を超える虞がある。
【0052】
(2)ジアルキルアミノ基が2種の場合
以下、分子中に2種のジアルキルアミノ基を含む前駆体化合物の製造方法について説明する。化学式(3)〜(4)に示される反応により、ビス(ジアルキルアミノ(1))−テトラ(ジアルキルアミノ(2))インジウム・ガリウムを合成することができる。
【0053】
ここで、化合物の表記において同一分子中、または1つの前駆体化合物の製造工程中に「ジアルキルアミノ(1)」および「ジアルキルアミノ(2)」と記載する場合には、「ジアルキルアミノ(1)」と「ジアルキルアミノ(2)」とは、異なるジアルキルアミノ基であるものとする。以下同様である。
【0054】
リチウムジアルキルアミド(1)と三塩化インジウムと三塩化ガリウムとを、n−ヘキサンの溶媒中で攪拌しながら、反応温度5〜30℃、さらに望ましくは10〜25℃で、反応時間は3〜72時間、さらに好ましくは6〜36時間反応させ、第1反応溶液を得る。この反応を化学式(3)に示す。さらに、化学式(3)に示す反応後の第1反応溶液と、リチウムジアルキルアミド(2)を、n−ヘキサンの溶媒中で攪拌しながら、反応温度5〜30℃、さらに望ましくは10〜25℃で、反応時間は6〜72時間、さらに好ましくは12〜36時間反応させ、第2反応溶液を得る。反応終了後、副生成物である塩化リチウムを第2反応溶液から取り除き、ビス(ジアルキルアミノ(1))−テトラ(ジアルキルアミノ(2))インジウム・ガリウムを取り出す。この反応を化学式(4)に示す。
【0055】
XInCl3 + (1−X)GaCl3 + LiNR(1)2
→ [Cl2InX−(μ−NR(1)22−Ga(1-X)Cl2] 化学式(3)
(X:0.05〜0.8、R(1)、R(2):アルキル基、R(1)≠R(2)
[Cl2InX−(μ−NR(1)22−Ga(1-X)Cl2] + 4LiNR(2)2
→ [(R(2)2N)2InX−(μ−NR(1)2−Ga(1-X)(NR(2)22
化学式(4)
(X:0.05〜0.8、R(1),R(2):アルキル基、R(1)≠R(2)
便宜上、前駆体化合物の同一分子中に「ジアルキルアミノ(1)」および「ジアルキルアミノ(2)」を有する場合には、[(R(2)2N)2InX−(μ−NR(1)22−Ga(1-X)(NR(2)22]と表記するものとする。
【0056】
リチウムジアルキルアミド(1)、リチウムジアルキルアミド(2)と生成物のヘキサ(ジアルキルアミノ)インジウム・ガリウムおよびビス(ジアルキルアミノ(1))−テトラ(ジアルキルアミノ(2))インジウム・ガリウムは反応性が高いので、反応は、すべて不活性ガス雰囲気中で行なうのが好ましい。
【0057】
なお、化学式(3)および(4)中、Xが0.05未満の場合には生成する半導体粒子In組成比が5%以下になる虞があり、0.8を超える場合には、該In組成比が80%を超える虞がある。
【0058】
<蛍光体の製造方法>
≪半導体粒子が単一粒子構造である場合≫
(混合工程)
ヘキサ(ジアルキルアミノ)インジウム・ガリウム、もしくはビス(ジアルキルアミノ(1))−テトラ(ジアルキルアミノ(2))インジウム・ガリウムなどの前駆体化合物を、トルエン等の合成溶媒に、任意の比率で0.1〜10質量%、特に好ましくは0.5〜5質量%溶解させ、十分に攪拌して、混合溶液を作製する。
【0059】
(合成工程)
該混合溶液に対して、合成温度180〜500℃、さらに望ましくは280〜400℃で、3〜72時間、さらに好ましくは12〜36時間、攪拌しながら、加熱し、合成を行なう。該合成は、不活性ガス雰囲気中で行なうことが好ましい。次に、合成後の混合溶液中の有機不純物を除去するために、n−へキサンと無水メタノールとで数回洗浄を行なう。
【0060】
合成工程において、窒化インジウム・ガリウム混晶を含有する半導体粒子の形成と、ジアルキルアミノ基が該半導体粒子に結合してなる蛍光体の形成とが同時に進行する。
【0061】
これにより、ジアルキルアミノ基で被覆された窒化インジウム・ガリウム混晶半導体粒子蛍光体を得ることができる。
【0062】
また、ジアルキルアミノ基は、前駆体化合物の分子中に存在し、インジウムおよびガリウムに結合している。このジアルキルアミノ基は、半導体粒子が成長すると同時に、半導体粒子の表面に結合することができる。つまり、前駆体化合物中のジアルキルアミノ基は、アルキル基と窒素との結合を開裂させて半導体粒子を構成するものと、アルキル基と窒素との結合を保持したまま半導体粒子表面に結合するものが存在する。
【0063】
また、前駆体化合物に含まれるジアルキルアミノ基が2種類である場合、つまり、1分子中に2種類のジアルキルアミノ基を包含する場合は、そのジアルキルアミノ基を適宜選択することにより、半導体粒子の構成と、半導体粒子の表面保護の役割とを制御することができる。
【0064】
つまり、分子量が大きいアルキル基を有するジアルキルアミノ基は、該アルキル基と窒素との結合を開裂させ、分子量が小さいアルキル基を有するジアルキルアミノ基は、該アルキル基と窒素との結合を保持したまま、半導体粒子の表面に結合することにより、得られた蛍光体は、結晶性がよく、発光効率が高い。そして、所望の蛍光体を効率よく作製することができるために、合成収率を改善することができる。
【0065】
また、本発明のジアルキルアミノ基のアルキル基における炭素鎖数は、望ましくは、上述したとおり、2以上であることがあげられる。該炭素鎖数が2未満である場合には、合成溶媒への溶解性が悪くなる。ジアルキルアミノ基の具体例としては、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、ジヘプチルアミノ基、ジオクチルアミノ基などが挙げられる。
【0066】
また、本発明においては、合成溶媒として炭化水素系溶媒を用いることが好ましい。炭化水素系溶媒とは、炭素原子と水素原子とからなる化合物溶液をいう。本発明において、合成溶媒として炭化水素系溶媒以外を用いると、合成溶媒中に水や酸素が混入してしまい、半導体粒子が酸化してしまうためである。炭化水素系溶媒の例としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレンなどがある。
【0067】
≪半導体粒子が半導体コア/半導体シェル構造である場合≫
上述の≪半導体粒子が単一粒子構造である場合≫の合成工程後の半導体粒子および蛍光体を含む合成溶媒に対して、ヘキサ(ジアルキルアミノ)インジウム・ガリウム、もしくはビス(ジアルキルアミノ(1))−テトラ(ジアルキルアミノ(2))インジウム・ガリウムを、任意の比率であわせて0.1〜10質量%、特に好ましくは0.5〜5質量%溶解させ、混合し、十分に攪拌した後、反応を行なう。
【0068】
この反応は、不活性ガス雰囲気中で行ない、合成温度180〜500℃、さらに望ましくは280〜400℃で、3〜72時間、さらに好ましくは12〜36時間、攪拌しながら、加熱を行なう。反応後に、有機不純物を除去するために、n−へキサンと無水メタノールとで数回洗浄を行なう。
【0069】
この反応によって、単一粒子構造である半導体粒子を半導体コアとして、添加したヘキサ(ジアルキルアミノ)インジウム・ガリウム、もしくはビス(ジアルキルアミノ(1))−テトラ(ジアルキルアミノ(2))インジウム・ガリウムを材料にして、半導体シェルが成長し、半導体コア/半導体シェル構造が形成される。
【0070】
また、この反応は、窒化インジウム・ガリウム混晶を含有する半導体コア/半導体シェル構造の半導体粒子の形成と、該半導体粒子を被覆するようにアルキルアミノ基が結合してなる蛍光体の形成とが同時に進行する。
【0071】
なお、上述の操作を繰り返すことによって半導体シェルを積層膜にすることが可能である。
【0072】
これにより、ジアルキルアミノ基が結合した半導体コア/半導体シェル構造の半導体粒子からなる、窒化インジウム・ガリウム混晶を含有する半導体粒子を備える蛍光体を得ることができる。
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
[実施例]
<実施例1>
窒化インジウム・ガリウム混晶を含有する青色光を発する蛍光体を、以下の2種類のジアルキルアミノ基を含む前駆体化合物を用いる手法により合成した。
【0075】
(前駆体化合物の作製)
上述した化学式(3)、(4)の反応において、ジアルキルアミノ基として、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基を選択し、前駆体化合物として、[((C25)N)2In0.3−(μ−N(C4922−Ga0.7(N(C25))2]を作製した。具体的には、以下のような処理を行なった。
【0076】
まず、グローブボックス内で、リチウムジブチルアミド0.02モルと三塩化インジウム0.003モルと三塩化ガリウム0.007モルとを秤量し、秤量したものをn−ヘキサン中で攪拌しながら、加熱温度20℃で、24時間反応を行ない、反応溶液を得た。反応は、窒素ガス雰囲気中で行なった。反応終了後、該反応溶液から副生成物である塩化リチウムを取り除き、4塩化ビス(ジブチルアミノ)インジウム0.3・ガリウム0.7を得た。上記の反応を化学式(5)に示す。
【0077】
0.3InCl3 + 0.7GaCl3 + LiN(C252
→ [Cl2In0.3−(μ−N(C4922−Ga0.7Cl2] 化学式(5)
さらに、上記の方法により合成した4塩化ビス(ジブチルアミノ)インジウム0.3・ガリウム0.7とリチウムジエチルアミド0.04モルとを秤量し、秤量したものをn−ヘキサン中で攪拌しながら、加熱温度20℃で、24時間反応を行なった。反応は、窒素ガス雰囲気中で行なった。その後、ビス(ジブチルアミノ)−テトラ(ジエチルアミノ)インジウム0.3・ガリウム0.7(化学式(6))を得た。
【0078】
[Cl2In0.3−(μ−N(C4922−Ga0.7Cl2] +
2LiN(C252
→ [((C252N)2In−(μ−N(C4922−Ga(N(C2522
化学式(6)
(混合工程)
次に、前駆体化合物としてのビス(ジブチルアミノ)−テトラ(ジエチルアミノ)インジウム0.3・ガリウム0.70.01モルを、合成溶媒としてのトルエン200mlの溶液に溶解させ、十分に攪拌して混合溶液を作製した。
【0079】
(合成工程)
該混合溶液に、窒素ガス雰囲気下で、合成温度350℃、合成時間12時間で加熱して合成をした。合成の間は、攪拌子を用いて該混合溶液を攪拌しつづけた。合成工程における反応を化学式(7)に示す。
【0080】
[((C252N)2In−(μ−N(C4922−Ga(N(C2522
→ In0.3Ga0.7N 化学式(7)
合成工程において、窒化インジウム・ガリウム混晶のIn0.3Ga0.7Nからなる半導体粒子の形成と、該半導体粒子の表面を被覆するようにアルキルアミノ基が結合した蛍光体の形成とが同時に進行し、In0.3Ga0.7N/nN(C252(ジエチルアミノ基で被覆された半導体粒子)を形成した。
【0081】
次に、合成工程で形成された不純物である有機不純物を除去するために、反応後の混合溶液をn−ヘキサンと無水メタノールとで3回洗浄を行なった。
【0082】
本実施例で得られた蛍光体は、半導体粒子の表面にジエチルアミノ基がむらなく均一に結合していることをTEMで確認した。したがって、蛍光体どうしは凝集せず、均一な大きさで分散性が高いものであった。
【0083】
また、13族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として、該蛍光体に励起光を照射した。該蛍光体は、特に外部量子効率の高い発光ピーク波長405nmの発光を効率よく吸収することを確認した。
【0084】
また、In0.3Ga0.7Nからなる半導体粒子は、励起光を照射によって、発光ピーク波長が480nmの蛍光を発するようにインジウム混晶比および粒子径の大きさを調整したため、該蛍光体は、青色の蛍光を示した。
【0085】
また、該蛍光体の粉末X線回折装置(マックサイエンス社製)のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられた半導体粒子の平均粒子径(直径)は、Scherrerの式(数式(1))を用いると3nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し発光効率は向上した。また、この実施例で得られた蛍光体の収率は95%であった。
【0086】
<実施例2>
窒化インジウム・ガリウム混晶を含有する青色光を発する蛍光体を、以下の1種類のジアルキルアミノ基を有する前駆体化合物を用いる手法により合成した。
【0087】
(前駆体化合物の作製)
上述した化学式(2)の反応において、ジアルキルアミノ基として、ジエチルアミノ基を選択し、前駆体化合物として、[((C252N)2In0.3−(μ−N(C2522−Ga0.7(N(C2522]を作製した。具体的には、以下のような処理を行なった。
【0088】
まず、グローブボックス内で、リチウムジエチルアミド0.06モルと三塩化インジウム0.003モルと三塩化ガリウム0.007モルとを秤量し、秤量したものをn−ヘキサン中で攪拌しながら、加熱温度20℃で、24時間反応を行ない、反応溶液を得た。反応は、窒素ガス雰囲気中で行なった。反応終了後、該反応溶液から副生成物である塩化リチウムを取り除き、ヘキサ(ジエチルアミノ)インジウム0.3・ガリウム0.7を得た。上記の反応を化学式(8)に示す。
【0089】
0.3InCl3 + 0.7GaCl3 + 3LiN(C252
→[((C252N)2In0.3−(μ−N(C2522
Ga0.7(N(C2522
化学式(8)
(混合工程)
次に、前駆体化合物としてのヘキサ(ジエチルアミノ)インジウム0.3・ガリウム0.70.01モルを、合成溶媒としてのトルエン200mlに溶解させ、十分に攪拌して混合溶液を作製した。
【0090】
(合成工程)
該混合溶液に、窒素ガス雰囲気下で、合成温度350℃、合成時間12時間で加熱して合成をした。合成の間は、攪拌子を用いて該混合溶液を攪拌しつづけた。合成工程における反応を化学式(9)に示す。
【0091】
[((C252N)2In0.3−(μ−N(C2522
Ga0.7(N(C2522
→ In0.3Ga0.7N 化学式(9)
合成工程において、窒化インジウム・ガリウム混晶のIn0.3Ga0.7Nからなる半導体粒子の形成と、該半導体粒子の表面を被覆するようにアルキルアミノ基が結合した蛍光体の形成とが同時に進行し、In0.3Ga0.7N/nN(C252(ジエチルアミノ基で被覆された半導体粒子)を形成した。
【0092】
次に、合成工程で形成された不純物である有機不純物を除去するために、反応後の混合溶液をn−ヘキサンと無水メタノールとで3回洗浄を行なった。
【0093】
本実施例で得られた蛍光体は、半導体粒子の表面にジエチルアミノ基がむらなく均一に結合していることをTEMで確認した。したがって、蛍光体どうしは凝集せず、均一な大きさで分散性が高いものであった。
【0094】
また、13族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として、該蛍光体に励起光を照射した。該蛍光体は、特に外部量子効率の高い発光ピーク波長405nmの発光を効率よく吸収することを確認した。
【0095】
また、In0.3Ga0.7Nからなる半導体粒子は、励起光を照射によって、発光ピーク波長が480nmの蛍光を発するようにインジウム混晶比および粒子径の大きさを調整したため、該蛍光体は、青色の蛍光を示した。
【0096】
また、該蛍光体の粉末X線回折装置(マックサイエンス社製)のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられた半導体粒子の平均粒子径(直径)は、Scherrerの式(数式(1))を用いると3nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し発光効率は向上した。また、本実施例で得られた蛍光体の収率は80%であった。
【0097】
<実施例3>
前駆体化合物の作製の工程において、三塩化インジウムと三塩化ガリウムとの混合量を三塩化インジウム0.005モルと三塩化ガリウム0.005モルとした以外は実施例1と同様の製造方法によって、In0.3Ga0.7Nからなる半導体粒子を備える蛍光体を得た。
【0098】
本実施例で得られた蛍光体は、特に外部量子効率の高い発光ピーク波長405nmの発光を効率よく吸収することを確認した。
【0099】
また、In0.5Ga0.5Nからなる半導体粒子は、励起光を照射によって、発光ピーク波長が520nmの蛍光を発するようにインジウム混晶比および粒子径の大きさを調整したため、該蛍光体は、緑色の蛍光を示した。
【0100】
また、該蛍光体の粉末X線回折装置(マックサイエンス社製)のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられた半導体粒子の平均粒子径(直径)は、Scherrerの式(数式(1))を用いると3nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し発光効率は向上した。
【0101】
<実施例4>
前駆体化合物の作製の工程において、三塩化インジウムと三塩化ガリウムとの混合量を三塩化インジウム0.007モルと三塩化ガリウム0.003モルとした以外は実施例1と同様の製造方法によって、In0.7Ga0.3Nからなる半導体粒子を備える蛍光体を得た。
【0102】
本実施例で得られた蛍光体は、特に外部量子効率の高い発光ピーク波長405nmの発光を効率よく吸収することを確認した。
【0103】
また、In0.7Ga0.3Nからなる半導体粒子は、励起光を照射によって、発光ピーク波長が650nmの蛍光を発するようにインジウム混晶比および粒子径の大きさを調整したため、該蛍光体は、赤色の蛍光を示した。
【0104】
また、該蛍光体の粉末X線回折装置(マックサイエンス社製)のX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられた半導体粒子の平均粒子径(直径)は、Scherrerの式(数式(1))を用いると3nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し発光効率は向上した。
【0105】
<実施例5>
実施例1における合成工程後のIn0.3Ga0.7Nからなる半導体粒子を含有する混合溶液100ml(合成溶媒:トルエン)に、ビス(ジブチルアミノ(1))−テトラ(ジエチルアミノ(2))インジウム0.2・ガリウム0.80.01モルをさらに溶解させ、十分に攪拌した。そして、混合溶液を、さらに窒素ガス雰囲気下で、合成温度350℃、合成時間12時間で加熱して合成をした。合成の間は、攪拌子を用いて該混合溶液を攪拌しつづけた。該合成の反応を化学式(10)に示す。
【0106】
In0.3Ga0.7N +
[((C252N)2In0.2−(μ−N(C4922−Ga0.8(N(C2522
→ In0.3Ga0.7N/In0.2Ga0.8N 化学式(10)
ここで、In0.3Ga0.7N/In0.2Ga0.8Nは、In0.2Ga0.8Nからなる半導体シェルでIn0.3Ga0.7Nからなる半導体コアが被覆された半導体粒子を示す。
【0107】
この反応は、半導体コア/半導体シェル構造の半導体粒子の形成と、該半導体粒子の表面を被覆するようにジエチルアミノ基が結合した蛍光体の形成とが同時に進行し、In0.3Ga0.7N/In0.2Ga0.8N/nN(C252(ジエチルアミノ基で被覆された半導体コア/半導体シェル構造の半導体粒子)を形成した。
【0108】
次に、合成工程で形成された不純物である有機不純物を除去するために、反応後の混合溶液をn−ヘキサンと無水メタノールとで3回洗浄を行なった。
【0109】
本実施例で得られた蛍光体は、半導体粒子の表面にジエチルアミノ基がむらなく均一に結合していることをTEMで確認した。したがって、蛍光体どうしは凝集せず、均一な大きさで分散性が高いものであった。
【0110】
本実施例で得られた蛍光体は、13族窒化物からなる青色発光素子を励起光源として、該蛍光体に励起光を照射した。該蛍光体は、特に外部量子効率の高い発光ピーク波長405nmの発光を効率よく吸収することを確認した。
【0111】
また、In0.3Ga0.7N/In0.2Ga0.8Nからなる半導体粒子は、励起光を照射によって、発光ピーク波長が480nmの蛍光を発した。該蛍光体は、青色の蛍光を示した。
【0112】
また、該蛍光体の粉末X線回折装置(マックサイエンス社製)によるX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられた半導体粒子の平均粒子径(直径)は、Scherrerの式(数式(1))を用いると3nmと見積もられ、量子サイズ効果を示し、半導体粒子が、半導体コア/半導体シェル構造であるために、発光効率は向上した。
【0113】
<比較例1>
まず、三塩化ガリウム(GaCl3)0.014モルと三塩化インジウム(InCl3)0.006モルと窒化リチウム(Li3N)0.02モルとを、ベンゼン((C612)200mlに混合し、混合溶液を作製した。該混合溶液を合成温度320℃で、3時間反応を行ない、窒化インジウム・ガリウム混晶からなる半導体ナノ粒子の合成を行なった。反応後の混合溶液を、室温にまで冷却し半導体ナノ粒子のベンゼン溶液とした。
【0114】
図2に、比較例1で作製された半導体ナノ粒子の模式図を示す。図2に示すように、比較例1で作製された半導体ナノ粒子は、凝集しており、分散性が悪かった。これは、該半導体ナノ粒子の表面にジアルキルアミノ基が結合していないためと考えられた。また、半導体ナノ粒子は、結晶欠陥が多く、TEMで観察すると、窒化インジウム・ガリウム混晶中に窒化インジウム層および窒化ガリウム層が偏析している領域が見られた。そして、半導体ナノ粒子の表面の未結合手による欠陥は、キャッピングされていないために、表面欠陥が多かった。また、比較例1においては、製造工程でインジウム混晶比を制御することが困難であった。
【0115】
該半導体ナノ粒子の粉末X線回折装置(マックサイエンス社製)によるX線回折測定の結果、スペクトル半値幅より見積もられた半導体粒子の平均粒子径(直径)は、Scherrerの式(数式(1))を用いると50nmと見積もられ、量子サイズ効果を示さなかった。また、この比較例1で得られた蛍光体の収率は、5%であった。
【0116】
<検討>
図3は、本発明における蛍光体の半導体粒子、および比較例1における半導体ナノ粒子の発光特性を示す図である。横軸は、本発明の蛍光体の半導体粒子の粒子径、および半導体ナノ粒子の粒子径を示す。縦軸は、発光ピーク波長405nmの励起光を照射したときの蛍光(発光ピーク波長480nm)の発光強度(単位は任意値)を示す。図3中(a)は、この実施例1の蛍光体の結果を示し、図3中(b)は、比較例1の半導体ナノ粒子の結果を示す。図3に示されるとおり、実施例1の蛍光体は、比較例1の半導体ナノ粒子よりも励起子のボーア半径が小さく、発光強度が高いことが分かった。
【0117】
そして、図3中(c)は、発光強度−粒子径の関係を示す曲線である。該粒子径が励起子のボーア半径の2倍以下では、発光強度が極端に向上していることが分かった。
【0118】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明は、分散性、合成媒体親和性および発光効率に優れた機能を有する蛍光体、およびその収率の高い製造方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明における蛍光体の模式的な断面図である。
【図2】比較例1で作製された半導体ナノ粒子の模式図である。
【図3】本発明における蛍光体の半導体粒子、および比較例1における半導体ナノ粒子の発光特性を示す図である。
【符号の説明】
【0121】
10 蛍光体、11 半導体粒子、12 ジアルキルアミノ基。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化インジウム・ガリウム混晶を含有する半導体粒子と、前記半導体粒子の表面に結合したジアルキルジアルキルアミノ基とを備える蛍光体であって、
前記半導体粒子の表面のインジウム元素および/またはガリウム元素と、
一般式 −NR2 化学式(1)
(式中、Rは、互いに同一または異なって、アルキル基を表わす)で示される前記ジアルキルアミノ基の窒素元素と、が結合してなる蛍光体。
【請求項2】
前記ジアルキルアミノ基が−N(C252である、請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
前記窒化インジウム・ガリウム混晶のインジウム混晶比が5%〜80%である、請求項1または2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記半導体粒子の粒径がボーア半径の2倍以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体の製造方法であって、
分子中にインジウムおよびガリウムの少なくとも一つと窒素との結合を有し、かつ前記ジアルキルアミノ基を有する前駆体化合物を、合成溶媒に混合して混合溶液を作製する混合工程と、
前記混合溶液を加熱する合成工程とを含み、
前記半導体粒子の表面に前記ジアルキルアミノ基を結合させる蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記ジアルキルアミノ基のアルキル基の炭素鎖数が2以上である、請求項5に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記前駆体化合物に含まれる前記ジアルキルアミノ基は2種以上である、請求項5または6に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記合成溶媒が炭化水素系溶媒である、請求項5〜7のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記合成工程の加熱温度が180〜500℃である、請求項5〜8のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate