説明

蛍光化学センサ

有機蒸気を検出する方法を説明する。より具体的には、本方法では比較的大きな固有多孔度を有するポリマー材料を含み、電磁スペクトルの可視領域において蛍光を発することが可能な検体センサを使用する。本方法は更に、有機蒸気を含む可能性のある環境に検体センサを暴露することと、蛍光シグナルの変化について検体センサを監視することとを含む。通常、有機蒸気自体は可視波長領域において蛍光を発しないが、有機蒸気が存在することによって検体センサの蛍光シグナルが変化し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2006年9月18日に出願された、現在では放棄されている米国特許出願第11/522,559号に対する優先権を主張する、2006年10月25日に出願された現在係属中の一部継続米国特許出願第11/552,825号に対する優先権を主張するものであり、これらの開示内容を本明細書に援用するものである。
【0002】
(発明の分野)
有機蒸気の有無を検出する方法を説明する。
【背景技術】
【0003】
広範な検体に関する堅牢なセンサの開発は、環境の監視等の用途において依然重要な課題である。揮発性の有機化合物を検出可能なセンサが継続して求められている。更に、製造が容易なセンサが常に求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
有機蒸気の有無を検出する方法を説明する。より詳細には、一群のポリマー材料を含む検体センサの蛍光シグナルを有機蒸気への暴露又は潜在的暴露の前後に測定する。蛍光シグナルの変化によって、検体センサが有機蒸気に暴露されたことが示される。検体センサにおける使用に適したポリマー材料は、電磁スペクトルの可視領域において蛍光シグナルを発し、比較的大きな固有多孔度を有するものである。
【0005】
本方法は、式Iの単位を有するポリマー材料を含む検体センサを提供することを含む。
【0006】
【化1】

【0007】
式I中、Ar1はほぼ平面状の第1の芳香族基を含む。Ar2は、第2の芳香族基、及び第2の芳香族基と同一平面上とならないようにねじれ部位を介して第2の芳香族基に結合した第3の芳香族基を含む。A1及びAr2は、第1の1,4−ジオキサン環を介して互いに縮合している。変数nは1以上の整数である。本方法は更に、有機蒸気を含む可能性のある環境に検体センサを暴露することと、環境への暴露時に電磁スペクトルの可視領域における蛍光シグナルの変化について検体センサを監視することを含む。蛍光シグナルの変化によって、通常、有機蒸気への暴露が示される。
【0008】
本発明の上述の「課題を解決するための手段」は、本発明の開示された各実施形態又はあらゆる実施を記載するものではない。以下の「発明を実施するための形態」及び実施例において、これらの実施形態をより詳しく説明する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
有機蒸気を検出する方法を説明する。より具体的には、本方法では比較的大きな固有多孔度を有するポリマー材料を含み、電磁スペクトルの可視領域において蛍光を発することが可能な検体センサを使用する。本方法は更に、有機蒸気を含む可能性のある環境に検体センサを暴露することと、蛍光シグナルの変化について検体センサを監視することとを含む。通常、有機蒸気自体は可視波長領域において蛍光を発しないが、有機蒸気が存在することによって検体センサの蛍光シグナルが変化し得る。
【0010】
本明細書で用いる「有機蒸気」なる語は、少なくとも1個の炭素原子及び少なくとも1個の水素又はハロゲン原子を有する有機化合物のことを言う。有機蒸気は通常、室温(すなわち、約20℃〜約25℃の範囲の温度)、大気圧下で揮発性の有機化合物である。有機蒸気は多くの場合、25℃において最低分圧が0.03Pa(0.2ミリトール)である。
【0011】
検体センサは、少なくとも1個の式Iの単位を有するポリマー材料を含む。
【0012】
【化2】

【0013】
式I中、Ar1の芳香環及びAr2の芳香環は両方とも第1の1,4−ジオキサン環と縮合している。Ar1基は、平面状又はほぼ平面状の第1の芳香族基を含む。Ar2基は、第2の芳香族基、及び第2の芳香族基と同一平面上とならないようにねじれ部位を介して第2の芳香族基に結合した第3の芳香族基を含む。第2の芳香族基及び第3の芳香族基は両方とも、ねじれ部位に結合している。第2の芳香族基及び第3の芳香族基はそれぞれ、ねじれ部位に縮合していてもよく、あるいは1つの化学結合(例えば、一重結合、二重結合、又は三重結合)を介してねじれ部位に結合していてもよい。式I中の変数nは1以上の整数である。ポリマー材料は通常、架橋されない。
【0014】
Ar1は、平面状又はほぼ平面状の芳香族基である。特定の実施形態では、Ar1は複素環式又は炭素環式の1個の芳香環である。例えば、Ar1はベンゼン環又はピリジン環であり得る。シアノ基又はニトロ基等の強力な電子吸引基を芳香環に結合させることができる。Ar1に結合させることが可能な他の基としては、これらに限定されるものではないが、ハロゲン基及びアルキル基が挙げられる。式Iに示されるように、1個の芳香環が1,4−ジオキサン環に縮合される。
【0015】
他の実施形態では、Ar1は少なくとも1個が芳香族である複数の縮合環を有する。縮合環のいずれもが複素環式又は炭素環式であってよい。これらの環の内の1以上が、例えばカルボニル基又はスルホニル基を有していてもよい。シアノ基又はニトロ基等の強力な電子吸引基を、Ar1に含まれる芳香環の1以上に結合させることができる。Ar1に結合させることが可能な他の基としては、これらに限定されるものではないが、ハロゲン基及びアルキル基が挙げられる。Ar1が複数の縮合環を有する場合、1,4−ジオキサン環に縮合される環は芳香族である。
【0016】
Ar2は、第2の芳香族基及び第3の芳香族基を含む非平面状の芳香族基である。第2の芳香族基及び第3の芳香族基は両方とも、共通のねじれ部位に結合している。すなわち、Ar2の第2の芳香族基と第3の芳香族基とはねじれ部位を介して連結される。第2及び第3の芳香族基が同一平面上とならないように第2の芳香族基を第3の芳香族基に連結する任意の分子フラグメント、化学結合又は単一の原子をねじれ部位として用いることができる。
【0017】
Ar2の第2の芳香族基及び第3の芳香族基はそれぞれ独立して、ねじれ部位に縮合していてもよく、あるいは1つの化学結合(すなわち、一重結合、二重結合、又は三重結合)によってねじれ部位に結合していてもよい。第2の芳香族基及び第3の芳香族基はそれぞれ、1以上の芳香環を含み得る。芳香環の内のいずれも、炭素環式又は複素環式であってよい。複数の芳香環は一般に互いに縮合される。1以上の芳香環は更に、炭素環式又は複素環式であり得る非芳香環と縮合していてもよい。第2又は第3の芳香族基の一部である環は、カルボニル基又はスルホニル基を有し得る。Ar2に結合されることが可能な他の基としては、これらに限定されるものではないが、ハロゲン基及びアルキル基が挙げられる。第2の芳香族基又は第3の芳香族基が複数の縮合環を含む場合、ねじれ部位に結合される環は芳香族である。更に、Ar2の芳香環は式Iの1,4−ジオキサン環に縮合している。式Iの多くの実施形態では、Ar2の第2の芳香族基の芳香環は第1の1,4−ジオキサン環に縮合し、Ar2の第3の芳香族基の芳香環は第2の1,4−ジオキサン環に縮合する。
【0018】
WO 2005/012397(マッキューン(McKeown)等)に更に述べられる式Iのポリマー材料は、複数の求核置換反応を介して第1の芳香族化合物を第2の芳香族化合物と反応させることによって調製することが可能である。特定の実施形態では、式Iの単位を有するポリマー材料を反応スキームAにしたがって調製することができる。少なくとも4個のハロゲン基(すなわち、Xはフッ化物、臭化物、塩化物又はヨウ化物から選択されるハロゲン基)を有する式IIの第1の芳香族化合物は、少なくとも4個のヒドロキシ基を有する式IIIの第2の芳香族化合物との複数の求核置換反応を受け得る。
【0019】
【化3】

【0020】
反応スキームA中、式IIの第1の芳香族化合物は、芳香族基を通常1個だけ有し、これは1個又は複数個の環構造を有することができ、この芳香族基は平面状又はほぼ平面状である傾向がある。すなわち、第1の芳香族化合物はねじれ部位を含まない。特定の実施形態では、第1の芳香族化合物は、炭素環式又は複素環式である1個の芳香環を有する。他の実施形態では、第1の芳香族化合物は、少なくとも1個が芳香族である2個以上の縮合環を有する。縮合環の内のいずれも、炭素環式又は複素環式であってよい。第1の芳香族化合物は、同一又は異なる芳香環上にペアで配された少なくとも4個のハロゲン基(すなわち、フッ化物、塩化物、臭化物、又はヨウ化物)を有する。各ペアのハロゲン基は、芳香環上の隣接する炭素原子に結合している。第1の芳香族化合物が1を超える縮合芳香環を有する場合、ハロゲンのペアは多くの場合、末端(最も外側)の芳香環に結合している。一部の第1の芳香族化合物では、シアノ基又はニトロ基等の強力な電子吸引基を芳香環の1以上に結合させることができる。第1の芳香族基の一部である環は、カルボニル基又はスルホニル基を有し得る。一部の第1の芳香族化合物は、アルキル基又は更なるハロゲン基で置換される。
【0021】
反応スキームAにおける第1の芳香族化合物の代表的な例としては、これらに限定されるものではないが、式IIa、IIb、IIc、IId、IIe又はIIfの化合物のような、少なくとも4個のハロゲン基及び任意のシアノ基又はニトロ基で置換されたベンゼン、
【0022】
【化4】

【0023】
式IIg、IIh又はIIiの化合物ような、少なくとも4個のハロゲン基及び任意のシアノ基又はニトロ基で置換されたピリジン、
【0024】
【化5】

【0025】
式IIjの化合物のような、少なくとも4個のハロゲン基で置換されたアントラキノン、
【0026】
【化6】

【0027】
式IIkの化合物のような、少なくとも4個のハロゲン基で置換されたキノキサリン、
【0028】
【化7】

【0029】
式IIIの化合物のような、少なくとも4個のハロゲン基で置換されたフェナジン、
【0030】
【化8】

【0031】
式IImの化合物のような、少なくとも4個のハロゲン基で置換されたピラジノ[2,3−g]キノキサリン、
【0032】
【化9】

【0033】
式IInの化合物のような、少なくとも4個のハロゲン基で置換されたチアントレン5,5,10,10−テトラオキシドが挙げられる。
【0034】
【化10】

【0035】
これらの第1の芳香族化合物において、第1の芳香族基は当該化合物から4個のハロゲン基を除いたものに等しいと考えられる。これらの式中、Xはハロゲンである。
【0036】
反応スキームAにおいて式IIの第1の芳香族化合物は、式IIIの第2の芳香族化合物と反応する。第2の芳香族化合物は、第2の芳香族基、第3の芳香族基、及びねじれ部位を有する。第2の芳香族基及び第3の芳香族基は、芳香環の隣接する炭素原子上にある少なくとも2個のヒドロキシ基をそれぞれ有する。第2の芳香族化合物の第2の芳香族基及び第3の芳香族基はそれぞれ1以上の芳香環を有し得る。芳香環の内のいずれもが、炭素環式又は複素環式であってよい。複数の芳香環は一般に互いに縮合される。1以上の芳香環は更に、非芳香環と縮合していてもよい。第2の芳香族化合物の第2の芳香族基及び第3の芳香族基は両方とも、共通のねじれ部位に結合している。第2及び第3の芳香族基はそれぞれ独立してねじれ部位に縮合していてもよく、あるいは1個の化学結合(すなわち、一重結合、二重結合、又は三重結合)によってねじれ部位に結合していてもよい。第2及び第3の芳香族基が同一平面上とならないように第2の芳香族基を第3の芳香族基に結合する任意の分子フラグメント、化学結合又は単一の原子をねじれ部位として用いることができる。
【0037】
第2の芳香族化合物の第2の芳香族基及び第3の芳香族基は両方とも、隣接する炭素原子に少なくとも2個のヒドロキシ基が結合したベンゼン環を多くの場合含んでいる。第2の芳香族基及び第3の芳香族基のこれらのベンゼン環は、ねじれ部位を介して互いに連結されている。一部の第2の芳香族化合物は、アルキル基で置換される。
【0038】
代表的な第2の芳香族化合物としては、これらに限定されるものではないが、式IIIaの化合物のような、第2の芳香族基及び第3の芳香族基が両方ともスピロインデン基に縮合した化合物(式中、Rは水素又はアルキル)、
【0039】
【化11】

【0040】
式IIIbの化合物のような、第2の芳香族基及び第3の芳香族基がフルオレンに結合した化合物、
【0041】
【化12】

【0042】
式IIIcの化合物のような、第2の芳香族基及び第3の芳香族基が両方とも二環式オクタン基に縮合した化合物(式中、Rは水素又はアルキル)、
【0043】
【化13】

【0044】
式IIId又はIIIeの化合物のような、第2の芳香族基及び第3の芳香族基が両方ともメタ位で1個のベンゼン環に結合した化合物、
【0045】
【化14】

【0046】
式IIIf又はIIIgの化合物のような、第2の芳香族基及び第3の芳香族基が、更に2個のフェニル基が結合した中央の炭素原子に結合した化合物、
【0047】
【化15】

【0048】
式IIIh若しくはIIIiのビフェニル化合物、又は式IIIjのビナフチル化合物のような、第2の芳香族基及び第3の芳香族基が1個の化学結合によって結合した化合物、
【0049】
【化16】

【0050】
あるいは、式IIIkの化合物のような、第2の芳香族基及び第3の芳香族基が、同じアントラセン−ジイルに結合した化合物が挙げられる。
【0051】
【化17】

【0052】
これらの第2の芳香族化合物のすべてにおいて、第2の芳香族基及び第3の芳香族基はベンゼン環である。これらのベンゼン環はそれぞれ少なくとも2個の隣接するヒドロキシ基を有している。化合物の残りの部分はねじれ部位に等しいものと考えられる。
【0053】
ポリマー材料は、反応スキームAを用いて調製される場合、第1及び第2の末端基を有する。特定の実施形態では、第1及び第2の末端基は両方とも、少なくとも2個のヒドロキシ基が結合した芳香族基を含む。他の実施形態では、第1及び第2の末端基は両方とも、少なくとも2個のハロゲン基が結合した芳香族基を含む。更に他の実施形態では、第1の末端基は少なくとも2個のハロゲン基が結合した芳香族基を含み、第2の末端基は少なくとも2個のヒドロキシ基が結合した芳香族基を含む。これらの末端基は多くの場合、第2の芳香族化合物に対する第1の芳香族化合物のモル比を変えることによって選択することができる。すなわち、第1の芳香族化合物がモル過剰であるとハロゲン基を有する末端基が生じやすくなるのに対して、第2の芳香族化合物がモル過剰であるとヒドロキシ基を有する末端基が生じやすくなる。例えば、第1の芳香族化合物がモル過剰である場合、ポリマー材料は、Xがハロゲンであり、mが0以上の整数である式Iaのものであり得る。
【0054】
【化18】

【0055】
第2の芳香族化合物がモル過剰である場合、ポリマー材料は、mが0以上の整数である式Ibのものであり得る。
【0056】
【化19】

【0057】
Ar1及びAr2は式Iについて述べたものと同じである。
【0058】
反応スキームAの代わりに、式Iのポリマー材料を反応スキームBにしたがって調製することができる。少なくとも4個のヒドロキシ基を有する式IVの第1の芳香族化合物は、少なくとも4個のハロゲン基を有する式Vの第2の芳香族化合物との複数の求核置換反応を受け得る。
【0059】
【化20】

【0060】
反応スキームB中、式IVの第1の芳香族化合物は、芳香族基を通常1個だけ有し、これは1個又は複数個の環構造を有することができ、この芳香族基は平面状又はほぼ平面状である傾向がある。すなわち、第1の芳香族化合物はねじれ部位を含まない。特定の実施形態では、第1の芳香族化合物は炭素環式又は複素環式の1個の芳香環を有する。他の実施形態では、第1の芳香族化合物は、少なくとも1個が芳香族である2個以上の縮合環を有する。縮合環の内のいずれもが、炭素環式又は複素環式であってよい。第1の芳香族化合物は、同一又は異なる芳香環上にペアで配された少なくとも4個のヒドロキシ基を有する。各ペアのヒドロキシ基は、芳香環上の隣接する炭素原子に結合している。第1の芳香族基が1以上の縮合芳香環を有する場合、ヒドロキシのペアは多くの場合、末端(最も外側)の芳香環に結合している。第1の芳香族基の一部である環は、カルボニル基又はスルホニル基を有し得る。一部の第1の芳香族化合物は、アルキル基で置換される。
【0061】
少なくとも4個のヒドロキシ基を有する代表的な第1の芳香族化合物としては、これらに限定されるものではないが、式IVaの化合物のような、少なくとも4個のヒドロキシ基で置換されたベンゼン、
【0062】
【化21】

【0063】
式IVbの化合物のような、少なくとも4個のヒドロキシ基で置換された[1,4]ベンゾキノン、
【0064】
【化22】

【0065】
式IVcの化合物のような、少なくとも4個のヒドロキシ基で置換されたトリフェニレン、
【0066】
【化23】

【0067】
式IVdの化合物のような、少なくとも4個のヒドロキシ基で置換されたアントラキノン(anthaquinone)、
【0068】
【化24】

【0069】
式IVeの化合物のような、少なくとも4個のヒドロキシ基で置換されたアントラセン(式中、Rは水素又はアルキル)、
【0070】
【化25】

【0071】
式IVfの化合物のような、少なくとも4個のヒドロキシ基で置換された10,12−ジヒドロ−インデノ[2,1−b]フルオレン(式中、Rは水素又はアルキル)、
【0072】
【化26】

【0073】
式IVg又はIVhの化合物(式中、Rは水素又はアルキル)が挙げられる。
【0074】
【化27】

【0075】
これらの第1の芳香族化合物のすべてにおいて、第1の芳香族基は、当該化合物から4個のヒドロキシ基を除いたものに等しいと考えられる。
【0076】
反応スキームBにおいて式IVの第1の芳香族化合物は、式Vの第2の芳香族化合物と反応する。第2の芳香族化合物は、第2の芳香族基、第3の芳香族基、及びねじれ部位を有する。第2の芳香族基及び第3の芳香族基は、芳香環の隣接する炭素原子上にある少なくとも2個のハロゲン基をそれぞれ有する。第2の芳香族化合物の第2の芳香族基及び第3の芳香族基はそれぞれ1以上の芳香環を有し得る。芳香環の内のいずれもが、炭素環式又は複素環式であってよい。複数の芳香環は一般に互いに縮合される。1以上の芳香環は、更なる非芳香環と縮合していてもよい。第2の芳香族化合物の第2の芳香族基及び第3の芳香族基は両方とも、共通のねじれ部位に結合している。第2及び第3の芳香族基はそれぞれ独立してねじれ部位に縮合していてもよく、あるいは1個の化学結合(すなわち、一重結合、二重結合、又は三重結合)によってねじれ部位に結合していてもよい。第2及び第3の芳香族基が同一平面上とならないように第2の芳香族基を第3の芳香族基に連結する任意の分子フラグメント、化学結合又は単一の原子をねじれ部位として用いることができる。
【0077】
第2の芳香族基及び第3の芳香族基は両方とも、隣接する炭素原子に少なくとも2個のハロゲン基が結合したベンゼン環を多くの場合含んでいる。第2の芳香族化合物の第2の芳香族基及び第3の芳香族基のこれらのベンゼン環は、ねじれ部位を介して互いに連結されている。一部の第2の芳香族化合物は、アルキル基で置換される。
【0078】
代表的な第2の芳香族化合物としては、これらに限定されるものではないが、式Vaの化合物のような、2個のフェニル基及びそれぞれが少なくとも2個のハロゲン基を有する2個の芳香族基が更に結合した、中央の炭素原子を有する化合物が挙げられる(式中、各Xはハロゲン)。
【0079】
【化28】

【0080】
この化合物では、第2及び第3の芳香族基は、ハロゲン基で置換されたベンゼン環である。ねじれ部位は、化合物からハロゲン基で置換された2個のベンゼン環を除いたものに等しい。
【0081】
ポリマー材料は、反応スキームBを用いて調製される場合、第1及び第2の末端基を有する。特定の実施形態では、第1及び第2の末端基は両方とも、少なくとも2個のヒドロキシ基が結合した芳香族基を含む。他の実施形態では、第1及び第2の末端基は両方とも、少なくとも2個のハロゲン基が結合した芳香族基を含む。更に他の実施形態では、第1の末端基は少なくとも2個のヒドロキシ基が結合した芳香族基を含み、第2の末端基は少なくとも2個のハロゲン基が結合した芳香族基を含む。これらの末端基は多くの場合、反応スキームBにおいて第2の芳香族化合物に対する第1の芳香族化合物のモル比を変えることによって選択することができる。すなわち、第1の芳香族化合物がモル過剰であるとヒドロキシ基を有する末端基が生じやすくなるのに対して、第2の芳香族化合物がモル過剰であるとハロゲン基を有する末端基が生じやすくなる。例えば、第1の芳香族化合物がモル過剰である場合、ポリマー材料は、mが0以上の整数である式Icを有し得る。
【0082】
【化29】

【0083】
第2の芳香族化合物がモル過剰である場合、ポリマー材料は、Xがハロゲンであり、mが0以上の整数である式Idを有し得る。
【0084】
【化30】

【0085】
Ar1及びAr2は式Iについて述べたものと同様である。
【0086】
式Iの単位を含むポリマー材料は、主としてAr2におけるねじれ部位の存在のため、固有多孔度を有する。ポリマー材料はその比較的堅い、ねじれた分子構造のために、通常効率的に充填することができず、小孔が形成される。本明細書中で用いる「固有多孔度」なる語は、バレット(Barret)、ジョイナー(Joyner)及びハレンダ(Halenda)(BJH法)、又はホーバス(Horvath)及びカワゾエ(Kawazoe)により開発された方法を用いて極低温条件下で窒素吸着によって測定されるポリマー材料の細孔体積が少なくとも0.1mL/g、少なくとも0.2mL/g、又は少なくとも0.5mL/gであることを意味する。これらの方法は、例えばS.J.グレッグ(S. J. Gregg)及びS.W.シング(S. W. Sing)により、「吸着、表面積、及び多孔度」、第2版、アカデミックプレス社刊、ロンドン(1982)(Adsorption, Surface Area, and Porosity, second edition, Academic Press, London(1982))に述べられている。0.3〜20ナノメートルの範囲、又は2〜10ナノメートルの範囲の細孔による、窒素吸着によって測定されるポリマー材料の総細孔体積は通常、少なくとも25%、少なくとも50%、又は少なくとも75%である。
【0087】
ポリマー材料は少なくとも300m/gの表面積を有する。表面積は、グレッグ及びシングによる上記に引用した文献に記載される、BET(ブルナウアー/エメット/テラー(Brunauer-Emmett-Teller))法を用い、極低温条件下で窒素吸着によって通常測定される。特定のポリマー材料では、表面積は少なくとも350m/g、少なくとも400m/g、少なくとも500m/g、又は少なくとも600m/gである。表面積は多くの場合、最大で800m/g、最大で900m/g、最大で1000m/g、最大で1100m/g、又は最大で1200m/gの値であり得る。すなわち、表面積は多くの場合、300〜1200m/gの範囲、300〜1000m/gの範囲、400〜1000m/gの範囲、又は500〜1000m/gの範囲である。
【0088】
特定の実施形態では、式Iの単位を含むポリマー材料は、粉末の形態、例えば圧縮粉末の形態を取り得る。他の実施形態では、式Iの単位を含むポリマー材料は、フィルムの形態を取り得る。すなわち、検体センサは、式Iの単位を含むポリマー材料のフィルムを含む。いかなる好適なフィルム厚さを使用することもできる。フィルムは、例えばスピンコーティング、ディップコーティング、バーコーティング、スロットダイコーティング、及び押出しコーティング等の溶媒キャスティング法によって形成することができる。より詳細には、ポリマー材料を適当な溶媒に溶解して溶液とすることができる。好適な溶媒としては、これらに限定されるものではないが、テトラヒドロフラン、シクロヘキセンオキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、テトラヒドロピラン、及びクロロベンゼンが挙げられる。この溶液を支持面上に広げ、溶媒を蒸発させてフィルムを形成することができる。任意の好適なポリマー又は無機支持体を使用することができる。溶媒を蒸発させた後、フィルムを支持体から剥離することができる。
【0089】
更なる他の実施形態では、式Iの単位を含むポリマー材料は、別の層に隣接したコーティングの形態を取り得る。例えば、コーティングを他の層に接着させることができる。いかなる好適なコーティング厚さを使用することもできる。特定の実施形態では、他の層は支持基材である。ポリマー材料は支持基材と接触していてもよく、又は結合層若しくは反射層等の1以上の更なる層によって支持基材から分離されていてもよい。コーティングを形成するのに適した方法としては、これらに限定されるものではないが、印刷法、スピンコーティング、ディップコーティング、バーコーティング、スロットダイコーティング及び押出しコーティングが挙げられる。
【0090】
支持基材は、式Iの単位を含むポリマー材料を支持することが可能な任意の適当な材料から形成することができる。支持基材は、可撓性又は非可撓性(例えば、剛性)のものであってよく、特定の用途に合わせて調整されてもよい。支持基材は、特定の用途に応じて変化する厚さを有してもよい。支持基材は多くの場合、少なくとも約50マイクロメートルの厚さを有し、通常最大で約25ミリメートルに及ぶ。支持基材を形成するのに適した材料としては、これらに限定されるものではないが、ポリマーフィルム又はシート(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリカーボネートフィルム)、ガラス基材、セラミック基板又はシリコンウェーハ若しくは金属基材などの無機基材、布地シート、あるいはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0091】
特定の実施形態では、支持基材は反射面を有する。反射面は式Iの単位を含むポリマー材料に隣接していてもよく、又は結合層若しくは接着層のような1以上の層によってこのポリマー材料から分離されていてもよい。反射面は実質的に連続した反射面であっても、不連続な反射面であってもよい。更に、反射面は1以上の反射層を含んでもよい。反射面は、支持基材の外表面を形成する単一の連続した反射面、又は支持基材の外表面上に単一の連続した反射層を含むことが望ましい。
【0092】
反射面は、シリコンウェーハ等の単一層支持基材の外表面であってもよいが、例えば米国特許第6,635,337号(ジョンザ(Jonza)等)、同第6,613,421号(ジョンザ等)、同第6,296,927号(ジョンザ等)、及び同第5,882,774号(ジョンザ等)に開示されるもののような、多層構造を有し、全体がポリマー材料の複屈折光学フィルムの外表面であってもよい。
【0093】
あるいは、反射面は反射性をほとんど又はまったく有さない支持基材上に配置された反射層の外表面であってもよい。反射層は、金属製又は半金属製の層であることができる。反射層に適した材料としては、これらに限定されるものではないが、例えばアルミニウム、クロム、金、パラジウム、プラチナ、チタン、ニッケル、シリコン、銀、及びこれらの組み合わせ等の、金属又は半金属が挙げられる。金/パラジウム、又はニッケル/クロム等の合金を使用することもできる。他の好適な材料として、例えば酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化クロム、酸化チタン及びこれらの組み合わせ等の金属酸化物が挙げられる。更に他の好適な材料として、例えば窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化クロム、窒化炭素及びこれらの組み合わせ等の金属窒化物が挙げられる。反射層は、支持基材から分離した層として存在する場合には、好適ないかなる厚さを有してもよい。反射層の平均の厚さは多くの場合、少なくとも10ナノメートル、少なくとも20ナノメートル、少なくとも25ナノメートル、又は少なくとも50ナノメートルである。この厚さは多くの場合、最大で100ナノメートル、最大で200ナノメートル、又はそれ以上に及ぶ。
【0094】
特定の代表的な実施形態では、反射面は少なくとも90%の反射率、少なくとも95%の反射率、少なくとも98%の反射率、又は少なくとも99%の反射率を有する。他の代表的な実施形態では、反射面は半反射性であり、20〜90%の範囲の反射率、30〜90%の範囲の反射率、20〜70%の範囲の反射率、又は30〜70%の反射率を有する。
【0095】
式Iの単位を含むポリマー材料は、電磁スペクトルの可視領域において蛍光シグナルを発する傾向を有する。本明細書で用いる電磁スペクトルの「可視領域」なる語は、約400〜約1000ナノメートルの範囲、約400〜約900ナノメートルの範囲、又は約400〜約800ナノメートルの範囲の波長を有する放射光を指す。本明細書で用いる「蛍光」なる語は、特定の一重項状態から別の一重項状態への電子遷移のような、特定のスピンを有する励起電子状態から同じスピン状態の低エネルギー電子状態への電子遷移によって生ずる、電磁放射線の放射を指す。蛍光シグナルは、ポリマー材料における芳香環の広範囲の縮合に少なくとも一部起因するものである。第1の芳香族基は、1,4−ジオキサン環を介して第2の芳香族基と縮合する。第1の芳香族基は多くの場合、式Ia、Ib、Ic及びIdにおけるように、第2の1,4−ジオキサン環を介して、別の第2の芳香族基又は第3の芳香族基と縮合する。
【0096】
理論に束縛されることを望むものではないが、比較的大きな固有多孔度を有するポリマー材料では、有機蒸気を含む環境に暴露されるとそのような有機蒸気を収着(すなわち、吸着又は吸収)する傾向が見られる。有機蒸気の収着(すなわち、吸収又は吸着)は、式Iの単位を含むポリマー材料の鎖間及び鎖内相互作用に影響を及ぼし得る。こうした相互作用における変化は、電磁スペクトルの可視領域においてポリマー材料が発する蛍光シグナルを変化させ得、有機蒸気への暴露を示す。蛍光シグナルの強度は、増大する場合もあるし減少する場合もある。更に、蛍光の強度を波長に応じてプロットしたものであるスペクトルも変化し得る。例えば、最大強度の蛍光の波長がより長い又はより短い波長にシフトし得る。
【0097】
有機蒸気自体は、可視波長領域において蛍光シグナルを通常発しない。検体センサを用いた有機蒸気の検出には更なる発色団を必要としないことが有利である。すなわち、有機蒸気の検出は通常、更なる発色団への結合によって行われない。むしろ、検出は有機蒸気と検体センサに含まれるポリマー材料との相互作用に基づいて行われる。
【0098】
環境に含まれる有機蒸気が1種類である場合、蛍光シグナルの変化を環境中の有機蒸気の濃度に関連付けることができる。蛍光シグナルに対する濃度をプロットしたものである検量線は、検体センサを異なる既知濃度の有機蒸気に暴露することによって作られることができる。試料の蛍光シグナルを測定して検量線と比較することによって、有機蒸気の濃度を求めることができる。
【0099】
一部の有機蒸気は、式Iの単位を含むポリマー材料が発する蛍光シグナルを増大させる傾向を有する。蛍光シグナルを増大させる有機蒸気はシアノ(−CN)基を含み得るが、こうした揮発性の有機化合物は、ニトロ基等の他の種類の強力な吸引基を通常含まない。更に、これらの有機蒸気は多くの場合、アミノ基等の強力な電子供与基を持たない有機化合物である。ポリマー材料が発する蛍光シグナルを増大させる多くの代表的な有機蒸気は、工業プロセスに関連した揮発性有機化合物である。こうした揮発性有機化合物としては、これらに限定されるものではないが、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン類;ホルムアルデヒド等のアルデヒド類;テトラヒドロフラン及びジエチルエーテル等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;メタノール、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール類;メタン、エタン、プロパン、ブタン及びヘプタン等のアルカン類;ハロゲン化アルカン等の置換アルカン類;ベンゼン;アルキル(例えば、トルエン又はメシチレン)、ハロゲン(例えば、クロロベンゼン又はブロモベンゼン)、又はこれらの組み合わせにより置換された置換ベンゼン類;並びにアセトニトリル等のニトリル類が挙げられる。
【0100】
有機蒸気には、式Iの単位を含むポリマー材料が発する蛍光シグナルを減少させる傾向を有するものもある。ポリマー材料が発する蛍光シグナルを減少させる代表的な有機蒸気としては、シアノ基以外の強力な電子吸引基又は強力な電子供与基を有する揮発性有機化合物が挙げられる。より詳細には、アミノ基等の強力な電子供与基又はニトロ基等の強力な電子吸引基を有する揮発性有機化合物は、ポリマー材料が発する蛍光シグナルを減少させる傾向を有する。こうした有機蒸気としては、これらに限定されるものではないが、N,N−ジアルキルアニリン(例えば、N,N−ジメチルアニリン)又はトリアルキルアニリン(例えば、トリプロピルアニリン)等のアニリン類;N,N−ジアルキル−p−トルイジン(N,N−ジメチル−p−トルイジン)等のトルイジン類;ニトロベンゼン類;2,4−ジニトロトルエン又はトリニトロトルエン等のニトロトルエン類;並びに、プトレシン、カダベリン、チラミン、ヒスタミン、スペルミジン、及びスペルミン等の生体アミン類が挙げられる。
【0101】
予期されなかったことであるが、同じ検体センサを用いてこのような広範な揮発性有機化合物の存在を観測することが可能である。蛍光シグナルは、存在する有機蒸気の種類に応じて増大又は減少し、この蛍光の変化の方向を利用して、蛍光の変化の原因となる有機蒸気の性質を特定するのを助けることができる。工業プロセスで一般的に使用されている多くの揮発性有機化合物は蛍光シグナルを増大させるものであるが、アミノ基含有化合物及びニトロ基含有化合物等の工業プロセスに一般的に関係のない他の揮発性有機化合物の中には蛍光シグナルを減少させるものがある。
【0102】
米国特許出願第2005/0059168号(ベーゼン(Bazan)等)に述べられているもののような、蛍光測定に基づく公知の検体センサと異なり、別個のセンシング分子及びリポーティング分子の必要がない。むしろ、式Iの単位を含むポリマー材料は、センシング分子及びリポーティング分子の両方として機能することが可能である。検出の目的のために、別個の発色団は有機蒸気に結合されない。
【0103】
蛍光測定に基づく公知の検体センサと異なり、式Iの単位を含むポリマー材料の蛍光シグナルは、強力な電子吸引基又は強力な電子供与基を有する有機蒸気によって消光され得る。対照的に、国際特許出願第WO 2005/07338号(ロズラー(Rosler)等)では、一般的な有機検知ポリマーは電子供与性の材料に反応しないことが報告されている。
【0104】
蛍光測定に基づく公知の検体センサと異なり、蛍光シグナルは多くの揮発性有機化合物の存在下で増大し得る。ほとんどの検出スキームは蛍光の増大よりも蛍光の消光に基づいたものであるため、蛍光シグナルの増大は珍しい。
【0105】
複数の手法を用いて、有機蒸気を含む可能性のある環境への暴露時の、検体センサの蛍光シグナルの変化を監視することができる。ある手法では、第1のセンサを試料用のセンサとして用い、第2のセンサを参照用のセンサとして用いる。試料用センサは、有機蒸気を含む可能性のある環境への暴露前には、参照用センサと同じか、又はほぼ同じである。試料用センサは環境に暴露されるが、参照用センサは暴露されない。しかしながら、参照用センサと試料用センサを同じ相対湿度に暴露することが望ましい場合もある。蛍光シグナルの変化は、(a)環境に暴露されない参照用センサの参照蛍光シグナルを測定し、(b)試料用センサを環境に暴露した後に試料の蛍光シグナルを測定し、(c)試料の蛍光シグナルから参照蛍光シグナルを差し引くことによって監視することができる。あるいは、蛍光シグナルの変化は、(a)環境に暴露されない参照用センサの参照蛍光シグナルを測定し、(b)試料用センサを環境に暴露した後に試料の蛍光シグナルを測定し、(c)試料の蛍光シグナルを参照蛍光シグナルで除することによって監視することもできる。
【0106】
別の手法では、1個のセンサを用いる。蛍光シグナルの変化は、(a)センサを環境に暴露する前に参照蛍光シグナルを測定し、(b)同じセンサを環境に暴露した後に試料の蛍光シグナルを測定し、(c)試料の蛍光シグナルから参照蛍光シグナルを差し引くことによって監視することもできる。あるいは、蛍光シグナルの変化は、(a)センサを環境に暴露する前に参照蛍光シグナルを測定し、(b)同じセンサを環境に暴露した後に試料の蛍光シグナルを測定し、(c)試料の蛍光シグナルを参照蛍光シグナルで除することによって監視することもできる。
【0107】
センサの蛍光シグナルは電磁スペクトルの可視領域にあり、人間の眼又は光検出器等の任意の適当な手段によって検出することが可能である。多くの用途において、より低濃度の検出が可能であり、結果の定量化が可能であることから、光検出器が好ましい。例えば、式Iの単位を含むポリマー材料には、人間の眼によって観測可能な緑色又は黄緑色の蛍光を有するものがある。蛍光の強度は、有機溶媒からの蒸気等の有機蒸気を含む環境に検体センサが暴露される際に増大又は減少し得る。自然光によって、又は電磁スペクトルの可視領域において蛍光シグナルを発生させる波長を含む任意の適当な光源によって、検体センサを励起して蛍光を発生させることができる。
【0108】
検体センサを照射するために、光源が多くの場合用いられる。この光源は可視光光源、紫外線光源、又は可視光/紫外線光源の両方であることができる。多くの場合、光検出器を配して蛍光シグナルを測定する。検出器は一般に、検体センサによって吸収又は伝達される放射光の量ではなく、検体センサが放射する放射光の量を測定するために配される。光源、センサ、及び光検出器は、180°未満の角度をなすように配される。例えば、この角度は多くの場合、約90°に近い角度である。
【0109】
蛍光シグナルは、電磁スペクトルの可視領域内の単一の波長又は一定範囲の波長で測定することができる。少なくとも一部の場合において、可視領域における蛍光スペクトルの変化を用いて有機蒸気の組成を特定することができる。例えば、異なる波長の蛍光を一定の励起条件下で測定することができる。一定の励起条件は、単一波長、狭い範囲の波長、又は広い範囲の波長を与える光源によって得ることができる。あるいは、少なくとも一部の場合において、励起スペクトルの変化を用いて有機蒸気の組成を特定することができる。例えば、単一波長又は波長域からの蛍光シグナルを励起波長に応じて監視することが可能である。
【0110】
検出方法は、一部の有機蒸気では可逆的に行うことが可能である。例えば、有機蒸気のあるものは、窒素でパージすることによって、固有多孔度を有するポリマー材料から除去することができる。アミノ基又はニトロ基を持たない多くの一般的有機溶媒は、窒素でパージすることによってポリマー材料から除去することができる。有機蒸気の除去によって、ポリマー材料の蛍光シグナルは、有機蒸気の収着前と同じ又はほぼ同じ状態に戻る傾向が見られる。
【実施例】
【0111】
これらの実施例はあくまで説明を目的としたものであって、添付の特許請求の範囲を限定するためのものではない。特に記載のない限り、実施例及びこれ以降の明細書における部、百分率、比等は、すべて重量基準である。使用される溶媒及び他の試薬は特に記載のない限り、シグマ・アルドリッチ・ケミカル社(Sigma-Aldrich Chemical Company)(ウィスコンシン州ミルウォーキー所在)より入手した。
【0112】
ニトロベンゼンは、マサチューセッツ州ウォードヒル(Ward Hill)所在のアルファ・エイサー(Alfa- Aesar)社の一部門である、アボカド・リサーチ・ケミカルズ(Avocado Research Chemicals)社より入手した。
【0113】
アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、イソプロピルアルコール、ヘプタン及びテトラヒドロフランは、ニュージャージー州ギブズタウン(Gibbstown)所在のイー・エム・ディー・ケミカルズ社(EMD Chemicals Inc.)より入手した。
【0114】
ブロモベンゼン、クロロベンゼン、N,N−ジメチルアニリン、メシチレン、及びトリプロピルアミンは、ミズーリ州セントルイス所在のシグマ・アルドリッチ社(Sigma-Aldrich Corp.)より入手した。
【0115】
SUBA−SEALセプタムは、英国、サウスヨークシャー州所在のウィリアム・フリーマン社(William Freeman Ltd.)より入手した。
【0116】
蛍光の測定
0.22メートルの経路長を有する励起モノクロメータ(型番1681)及び0.22メートルの経路長を有するダブルエミッションモノクロメータ(型番1680)を備えた、スペックス・インダストリーズ(Spex Industries)社(ニュージャージー州エジソン所在)より入手可能なSPEX Fluorolog分光計によって、蛍光の測定を行った。入射及び出射スリットはすべて1.0mmに設定し、放射光走査の励起波長は400nmに設定した。これらの設定値では一般に490〜510nmの領域に生ずる放射光ピーク最大値の強度を追跡した。サーモ・エレクトロン社(Thermo Electron Corporation)(マサチューセッツ州ウォルサム(Waltham)所在)のGRAMSソフトウェアを用いて、ピーク最大値における蛍光強度の変化を求めた。ピーク強度をピーク最大値に位置するカーソルから読み取った。
【0117】
試験方法1では、走査速度は1nm/点及び2秒/点であった。試験方法2では、走査速度は2nm/点及び0.1秒/点であった。ポリマー材料は、分光計の励起開口と放射開口との間の角度を二等分するように配向した。この配置により、検出器内への光の散乱が最小限に抑えられる。
【0118】
ポリマー材料Aの調製
式Iの単位を含むポリマー材料を、モノマーである5,5’,6,6’−テトラヒドロキシ−3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−スピロビスインダン(BC)及びテトラフルオロテレフタロニトリル(FA)から調製した。合成法は、バッド(Budd)等のアドバンスト・マテリアルズ(Advanced Materials)、2004年、16巻、5号、456〜459頁に報告されていた。BC(10.25g)を、FA(6.02g)、炭酸カリウム(25.7g)及び200mLのN,N−ジメチルホルムアミドと合わせた。混合物を65℃で72時間反応させた。得られたポリマーをテトラヒドロフランに溶解し、メタノールで3回沈澱させてから、真空下室温で乾燥させて重量平均分子量(Mw)が73,900g/モルの黄色の固体生成物を得た。
【0119】
検体センサ1
次いで、ポリマー材料Aの5重量%シクロヘキセンオキシド溶液を用い、複数の50×75mmのスライドグラスに1000rpmで30秒間、ポリマー材料Aをスピンコーティング(ヘッドウェイ・リサーチ(Headway Research, Inc.)社(テキサス州ガーランド所在)のスピンコーター型番EC101)して、約1000nmの乾燥膜厚を得た。ガラスカッターを用いて約7×50mmの寸法を有する試料をより大きなスライドから切り出した。
【0120】
試料を支持するための少量の綿を底に入れ、上部をSUBA−SEAL4号セプタムで封止した8mLのガラスバイアル瓶に、これらのより小さな試料を入れた。ゴム製のセプタムには、試料を適所に保持するためのスロットを切り込んだ。セプタムによって、溶媒の蒸気がバイアル瓶内部に封じ込められ、綿によって、バイアル瓶の底に溶媒が溜まった場合に溶媒に試料の底部が浸されることが防止される。検体がスライドの表面に触れないようにして、検体のアリコートをバイアル瓶に加えた(0.1〜0.2mL)。
【0121】
検体センサ2
この構成は、後の測定時における試料の動きを更に抑制するために考案された。ポリマー材料Aの4重量%テトラヒドロピラン溶液を用い、複数の50×75mmのスライドグラスにポリマー材料Aを1800rpmで30秒間、スピンコーティング(ヘッドウェイ・リサーチ社(テキサス州ガーランド所在)のスピンコーター型番EC101)して、約500nmの乾燥膜厚を得た。約7×30mmの寸法を有する試料をより大きなスライドから切り出した。
【0122】
これらのより小さな試料を、試料を垂直に保持するための三角形のテフロン(登録商標)製ブロック、及び上部を封止するためのSUBA−SEAL4号セプタムを用いた、1cm×1cmの石英製のキュベットに入れた。セプタムによって溶媒の蒸気がキュベット内部に封じ込められた。使い捨ての注射器を用いて検体容器のヘッドスペースから得られた蒸気を2mL注入することによって、検体を加えた。
【0123】
蛍光シグナルの変化の監視
検体を加える前に可視領域において放射光を走査し(走査1、時間=0分)、通常490〜510nmの範囲で生ずる最大ピーク強度を測定することによって、試験を行った。検体を加えた後、放射光走査を連続して行って、バイアル瓶内の溶媒蒸気濃度が上昇する際の経時的なピーク強度の変化を記録した。連続走査によってピーク強度の変化がほとんど見られなくなった時点を試験の終了とした。
【0124】
(実施例1)
検体センサ1をニトロベンゼンに暴露した。試験方法1を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表1に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
(実施例2)
検体センサ2をニトロベンゼンに暴露した。試験方法2を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表2に示す。
【0127】
【表2】

【0128】
(実施例3)
検体センサ1をN,N−ジメチルアニリンに暴露した。試験方法1を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表3に示す。
【0129】
【表3】

【0130】
(実施例4)
検体センサ2をN,N−ジメチルアニリンに暴露した。試験方法2を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表4に示す。
【0131】
【表4】

【0132】
(実施例5)
検体センサ1をテトラヒドロフランに暴露した。試験方法1を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表5に示す。
【0133】
【表5】

【0134】
(実施例6)
検体センサ1をトルエンに暴露した。試験方法1を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表6に示す。
【0135】
【表6】

【0136】
(実施例7)
検体センサ1をブロモベンゼンに暴露した。試験方法1を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表7に示す。
【0137】
【表7】

【0138】
(実施例8)
検体センサ1をヘプタンに暴露した。試験方法1を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表8に示す。
【0139】
【表8】

【0140】
(実施例9)
検体センサ1をメシチレンに暴露した。試験方法1を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表9に示す。
【0141】
【表9】

【0142】
(実施例10)
検体センサ2を酢酸エチルに暴露した。試験方法2を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表10に示す。
【0143】
【表10】

【0144】
(実施例11)
検体センサ2をアセトンに暴露した。試験方法2を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表11に示す。
【0145】
【表11】

【0146】
(実施例12)
検体センサ2をメチルエチルケトンに暴露した。試験方法2を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表12に示す。
【0147】
【表12】

【0148】
(実施例13)
検体センサ2をイソプロピルアルコールに暴露した。試験方法2を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表13に示す。
【0149】
【表13】

【0150】
(実施例14)
検体センサ2をトリプロピルアミンに暴露した。試験方法2を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表14に示す。
【0151】
【表14】

【0152】
(実施例15)
検体センサ2をクロロホルムに暴露した。試験方法2を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表15に示す。
【0153】
【表15】

【0154】
(実施例16)
検体センサ2をアセトニトリルに暴露した。試験方法2を用いて蛍光シグナルを測定した。ピーク最大値における放射光強度を時間に応じて記録したものを表16に示す。
【0155】
【表16】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機蒸気の有無を検出するための方法であって、
式Iの単位を有するポリマー材料を含む検体センサを準備することと、
【化1】

(式中、
Ar1及びAr2はそれぞれ、共通の1,4−ジオキサン環と縮合しており、
Ar1は平面状又はほぼ平面状の第1の芳香族基を含み、
Ar2基は第2の芳香族基、及び第2の芳香族基と同一平面上とならないようにねじれ部位を介して第2の芳香族基に結合した第3の芳香族基を含み、
nは1以上の整数である)
有機蒸気を含む可能性のある環境に検体センサを暴露することと、
前記環境への暴露時に電磁スペクトルの可視領域における蛍光シグナルの変化について検体センサを監視することと、とを含み、前記蛍光シグナルの変化によって有機蒸気への暴露が示される、方法。
【請求項2】
前記有機蒸気が電磁スペクトルの可視領域において蛍光シグナルを発しないものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式Iの単位を有する前記ポリマー材料が多孔質であり、有機蒸気を収着する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
窒素吸着によって測定されるとき、式Iの単位を有する前記ポリマー材料が少なくとも300m/gの表面積を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記蛍光シグナルの変化が有機蒸気の濃度に比例する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
式Iの単位を有する前記ポリマー材料が、少なくとも4個のハロゲン基を有する第1の芳香族化合物と、少なくとも4個のヒドロキシ基を有する第2の芳香族化合物との反応生成物であり、前記第1の芳香族化合物は、
【化2】

(式中、Xはハロゲン基である)から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の芳香族化合物が、
【化3】

(式中、Rは水素又はアルキルである)から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の芳香族化合物が、次式:
【化4】

(式中、Rは水素又はアルキルである)のものである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
式Iの単位を有する前記ポリマー材料が、少なくとも4個のヒドロキシ基を有する第1の芳香族化合物と、少なくとも4個のハロゲン基を有する第2の芳香族化合物との反応生成物であり、前記第1の芳香族化合物は、
【化5】

(式中、Rは水素又はアルキルである)から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の芳香族化合物が、次式:
【化6】

(式中、Xはハロである)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
式Iの単位を有する前記ポリマー材料が、フィルム又はコーティングの形態である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記蛍光シグナルの変化が、ケトン、エーテル、アルカン、ハロゲン化アルカン、エステル、アルデヒド、アルコール、ニトリル、ベンゼン、又は、アルキル、ハロゲン若しくはこれらの組み合わせから選択される置換基で置換されたベンゼンを含む有機蒸気への暴露によって起こる蛍光シグナルの増大である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記蛍光シグナルの変化が、アミノ基又はニトロ基を持たない有機化合物を含む有機蒸気への暴露によって起こる蛍光シグナルの増大である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記蛍光シグナルの変化が、ニトロ基又はアミノ基を有する有機化合物を含む有機蒸気への暴露によって起こる蛍光シグナルの減少である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記検体センサが、式Iの単位を有する前記ポリマー材料に隣接する支持基材を更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記支持基材が反射面を有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記蛍光シグナルの変化について前記検体センサを監視することが、(a)前記検体センサを前記環境に暴露する前に参照蛍光シグナルを測定することと、(b)同じ検体センサを試料に暴露した後に前記試料の蛍光シグナルを測定することと、(c)前記試料の蛍光シグナルから前記参照蛍光シグナルを差し引くことと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記蛍光シグナルの変化について前記検体センサを監視することが、(a)前記検体センサを前記環境に暴露する前に参照蛍光シグナルを測定することと、(b)同じ検体センサを試料に暴露した後に前記試料の蛍光シグナルを測定することと、(c)前記試料の蛍光シグナルを前記参照蛍光シグナルで除することと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記検体センサと同様の参照用センサを準備することを更に含み、蛍光シグナルの変化について前記検体センサを監視することが、(a)前記環境に暴露されない前記参照用センサの参照蛍光シグナルを測定することと、(b)前記検体センサを試料に暴露した後に前記試料の蛍光シグナルを測定することと、(c)前記試料の蛍光シグナルから前記参照蛍光シグナルを差し引くことと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記検体センサと同様の参照用センサを準備することを更に含み、蛍光シグナルの変化について前記検体センサを監視することが、(a)前記環境に暴露されない前記参照用センサの参照蛍光シグナルを測定することと、(b)前記検体センサを試料に暴露した後に前記試料の蛍光シグナルを測定することと、(c)前記試料の蛍光シグナルを前記参照蛍光シグナルで除することと、を含む、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−503864(P2010−503864A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−528418(P2009−528418)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/078086
【国際公開番号】WO2008/036524
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】