説明

蛍光性クラスターの製造方法および蛍光発光分散液

【課題】煩雑な精製分離操作を要することなく蛍光性クラスターを得ることができ、水性溶媒への分散性の高い蛍光性クラスターを得ることもできる蛍光性クラスターの製造方法および蛍光発光分散液を提供する。
【解決手段】蛍光性クラスター前駆体の原子または分子を、蛍光性クラスターに配位可能な官能基を有する蛍光性クラスターの保護剤としての有機塩または有機化合物の液体に接触させる工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光性クラスターの製造方法および蛍光発光分散液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ナノ粒子は量子サイズ効果による蛍光発光特性が知られており、例えば、半導体ナノ粒子は蛍光ラベル等として応用されている。
【0003】
一方、金、銀、銅等の金属は、ディスクリートなバンドギャップを持たず、量子力学的性質は伝導電子のフェルミ波長に依存することから、数個から数十個の小さい径の原子クラスターにおいてのみ観測される。
【0004】
このように、金属ナノ粒子に蛍光発光特性を発現させるためには粒径サイズを小さくする必要があるが、このような粒径の小さい金属ナノ粒子の合成方法は限られているのが現状である。
【0005】
また、蛍光発光特性を持つ金属ナノ粒子は、例えば、バイオプローブ、オフセットインキ、インビジブル塗料、ディスプレイパネル用蛍光体等への応用が期待されるが、このような用途を考慮すると水性溶媒への分散性を高めることも望まれている。
【0006】
粒径数nm以下の金属ナノ粒子の合成方法として、非特許文献1および対応する特許文献1には、イオン液体に金、銀をスパッタリングしてナノ粒子を合成することが記載されている。しかしながら、特許文献1に開示されているイオン液体はその分子構造によりいずれも金属ナノ粒子の保護剤としては機能せず、金属ナノ粒子表面は化学修飾されていない(段落[0015])。また、平均粒径1.0nm未満の金属ナノ粒子は得られておらず、蛍光発光特性を持つ分散液は得られていない。
【0007】
非特許文献2には、イオン液体に塩化金酸を添加し、水素化ホウ素ナトリウムで還元して平均粒径5nmの金ナノ粒子を合成する方法が記載されている。しかしながら、この金ナノ粒子は蛍光発光特性を示さない。一方、非特許文献3では、PTMP-pMAA/H2O中で塩化金酸を水素化ホウ素ナトリウムで還元して平均粒径1.1〜1.7nmの蛍光性クラスターが得られている。また非特許文献4では、PEI/H2O中で塩化金酸を水素化ホウ素ナトリウムで還元して平均粒径5nmの蛍光性クラスター(Au8)が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−231306号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Chem. Commun., 2008, 691-693
【非特許文献2】J. AM. CHEM. SOC. 2004, 126, 3026-3027
【非特許文献3】Chem. Commun., 2008, 3986
【非特許文献4】J. AM. CHEM. SOC. 2007, 129, 2412
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、非特許文献2〜4の方法では、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムの使用を必須としているため、塩や副生物の精製分離が煩雑になるという問題点があった。
【0011】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、煩雑な精製分離操作を要することなく蛍光性クラスターを得ることができ、水性溶媒への分散性の高い蛍光性クラスターを得ることもできる蛍光性クラスターの製造方法および蛍光発光分散液を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0013】
第1:蛍光性クラスター前駆体の原子または分子を、蛍光性クラスターに配位可能な官能基を有する蛍光性クラスターの保護剤としての有機塩または有機化合物の液体に接触させる工程を含むことを特徴とする蛍光性クラスターの製造方法。
【0014】
第2:固体状態の蛍光性クラスター前駆体を蒸発させて蛍光性クラスター前駆体の原子または分子を生成する工程をさらに含むことを特徴とする上記第1の蛍光性クラスターの製造方法。
【0015】
第3:蛍光性クラスターの保護剤として、一般式X-A-Y(Aは、直鎖状の脂肪族炭化水素基、または、ヘテロ原子、芳香族炭化水素基、脂肪族環状炭化水素基、および芳香族複素環基から選ばれるいずれかの2価の基を直鎖構造に含む直鎖状の2価の基、あるいはこれらの基に置換基を有する基から選ばれるいずれかの2価の基を示し、Xは、1価の有機カチオンと対アニオンとの塩構造を示し、Yは、蛍光性クラスターに配位可能な官能基を示す。)で表される有機塩を用いることを特徴とする上記第1または第2の蛍光性クラスターの製造方法。
【0016】
第4:蛍光性クラスターの保護剤として、一般式A’-Y(A’は、直鎖状の脂肪族炭化水素基、または、ヘテロ原子、芳香族炭化水素基、脂肪族環状炭化水素基、および芳香族複素環基から選ばれるいずれかの2価の基を直鎖構造に含む直鎖状の1価の基、あるいはこれらの基に置換基を有する基から選ばれるいずれかの1価の基を示し、Yは、蛍光性クラスターに配位可能な官能基を示す。)で表される有機化合物を用いることを特徴とする上記第1または第2の蛍光性クラスターの製造方法。
【0017】
第5:蛍光性クラスター前駆体は、金属または半導体であることを特徴とする上記第1から第4のいずれかの蛍光性クラスターの製造方法。
【0018】
第6:蛍光性クラスター前駆体は、金、銀、および銅から選ばれる少なくとも1種の金属であることを特徴とする上記第5の蛍光性クラスターの製造方法。
【0019】
第7:上記第1から第6のいずれかの方法により得られた蛍光性クラスターを溶媒に分散したものであることを特徴とする蛍光発光分散液。
【発明の効果】
【0020】
本発明の製造方法によれば、煩雑な精製分離操作を要することなく蛍光性クラスターを得ることができる。また、溶媒への分散性の高い蛍光性クラスターを得ることもできる。
【0021】
すなわち、蛍光性クラスター前駆体の原子または分子を有機塩または有機化合物の液体に接触させると、原子等は凝集し、反応時間に応じて粒径が大きくなり粒子成長する。しかし、蛍光性クラスターに配位可能な官能基を有する有機塩または有機化合物の液体を用いることで、この官能基が原子等に化学修飾して保護剤として働き、凝集を抑制する。そのため、クラスターの粒子成長が抑制されて、例えば1nm未満のクラスターを得ることができ、これによりクラスターは蛍光性を示す。
【0022】
本発明の蛍光発光分散液は、上記の製造方法により得られた蛍光性クラスターを用いているので光励起により強い蛍光を発し、また分散安定性も高いものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例12の銀クラスター分散液の蛍光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0025】
本発明において、蛍光性クラスター前駆体としては、例えば、金属または半導体を用いることができ、これらは気体、液体、または固体として用いることができる。金属または半導体は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
金属としては、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、インジウム、アルミニウム、鉄、ロジウム、ルテニウム、オスミウム、コバルト、モリブデン、亜鉛、バナジウム、タングステン、チタン、マンガン、クロム、シリコン等が挙げられる。中でも、金、銀、銅が好ましい。
【0027】
半導体としては、例えば、ZnS、CdS、CdSe、In2O3、SiO2、SnO2、TaO5、TiO2、BaTiO3、Si、Se、Te、InAgS2、InCuS2等が挙げられる。
【0028】
本発明において、蛍光性クラスター前駆体の原子または分子を生成させる方法としては、例えば、物理蒸着法、化学蒸着法等の乾式成膜法と同様の方法を用いることができる、中でも、固体状態の蛍光性クラスター前駆体から原子または分子を蒸発させる物理蒸着法が好ましく、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等が挙げられる。
【0029】
蒸発原理としては、スパッタリング法の場合には、例えば、DCスパッタ方式、マグネトロンスパッタ方式、高周波スパッタ方式、イオンビームスパッタ方式等を用いることができる。真空蒸着法の場合には、例えば、抵抗加熱方式、遠赤外線加熱方式、電子ビーム加熱方式、アーク加熱方式、高周波誘導加熱方式等を用いることができる。イオンプレーティング法の場合には、例えば、高周波励起方式、イオンビーム方式、クラスター方式等を用いることができる。
【0030】
スパッタリング法により蛍光性クラスターを製造する場合、蒸着装置として、例えば、真空にすることが可能な蒸着チャンバと、蒸着チャンバの上面部に設置されターゲット材の蛍光性クラスター前駆体を装着可能な陰極と、陰極に対向する位置に設置された陽極とを備えたものを用いることができる。
【0031】
蛍光性クラスター前駆体を陰極に装着し、蛍光性クラスターの保護剤としての有機塩または有機化合物を陽極上の容器に収容し、あるいは当該液体を保持可能な陽極上のプレートに配置する。当該容器またはプレートは、加熱冷却装置と共に設置して有機塩または有機化合物を加熱・冷却できるようにすることが望ましい。
【0032】
そして、蒸着チャンバ内を真空またはアルゴンガス等のガス雰囲気下にした状態で陰極に高電圧を印加して蒸着チャンバ内にグロー放電を発生させ、グロー放電によって生じたガスイオンがターゲット材の蛍光性クラスター前駆体に衝突することにより、蛍光性クラスター前駆体を構成する原子または分子が蒸発する。この蒸発した原子または分子が下方の陽極上の有機塩または有機化合物の液体に接触することにより、当該液体中または表面に蛍光性クラスターが生成する。
【0033】
なお、ガス圧力、蒸着電流、反応時間、反応温度は、原料や蒸着装置に応じて適宜設定すればよく、例えば、反応時間は数十秒〜数時間の範囲で設定することができる。
【0034】
本発明に用いられる保護剤としての有機塩または有機化合物は、蛍光性クラスターに配位可能な官能基を有しており、そして蒸気圧が低く常温で液体または固体である。蛍光性クラスター前駆体の原子または分子との接触時には、保護剤としての有機塩または有機化合物は必要に応じて加熱し液体として用いられる。
【0035】
保護剤としての有機塩には、例えば、一般式X-A-Yで表されるものを用いることができる。ここで、A部分は蒸気圧を下げる役割や蛍光性クラスターの溶剤への溶解性を調整する役割を持ち、また蛍光性クラスターの粒径を制御する役割も持つ。Aは、直鎖状の脂肪族炭化水素基、または、ヘテロ原子、芳香族炭化水素基、脂肪族環状炭化水素基、および芳香族複素環基から選ばれるいずれかの2価の基を直鎖構造に含む直鎖状の2価の基、あるいはこれらの基に置換基を有する基から選ばれるいずれかの2価の基を示す。前記の直鎖状の脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基等が挙げられる。前記の置換基としては、例えば、C1〜C6アルキル基、C1〜C6アルケニル基、C1〜C6アルキニル基、C6〜C10アリール基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0036】
Aは、好ましくは、-(CH2)n-(nは0〜20の整数を示す。)または-(CH2)m-B-(CH2)n-(mは0〜20の整数、nは0〜20の整数を示し、m+nは1〜40、好ましくは2〜30である。Bは、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、芳香族炭化水素基、脂肪族環状炭化水素基、または芳香族複素環基を示す。)である。ここで、芳香族炭化水素基としては、p-フェニレン基等のC6〜C10アリーレン基等を挙げることができ、脂肪族環状炭化水素基としては、p-シクロヘキシレン基等のC6〜C10シクロアルキレン基を挙げることができ、芳香族複素環基としては、p-ピリジレン基等のC6〜C10の酸素原子、硫黄原子、および/または窒素原子含有の芳香族複素環基等を挙げることができる。
【0037】
Xは、1価の有機カチオンと対アニオンとの塩構造を示す。当該塩構造としては、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、ピロリジニウム塩、ホスホニウム塩、アンモニウム塩、グアニジウム塩、イソウロニウム塩、およびイソチオウロニウム塩の構造等が挙げられる。
【0038】
Xの対アニオンとしては、ブロミドイオン(Br-)、クロリドイオン(Cl-)、ヨードイオン(I-)、ビス(オキサレート(2−)−O、O’)ボレートイオン(B(C2O42-)、テトラフルオロボレートイオン(BF4-)、ヘキサフルオロホスフェートイオン(PF6-)、トリフルオロスルホネートイオン(CF3SO3-)、トリフルオロアセテートイオン(CF3CO2-)、メタンスルホネートイオン(CH3SO3-)、オクチルスルホネートイオン(C8H16SO3-)、p−トルエンスルホネートイオン(C6H4CH3SO3-)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドイオン((CF3SO2)2N-)、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドイオン((C2F5SO2)2N-)、2,2,2−トリフルオロ−N−(トリフルオロメタンスルホニル)アセトアミドイオン(CF3SO2) (CF3CO)N-、N−(トリフルオロメタンスルホニル)−ペンタフルオロエチルスルホンアミド (CF3SO2) (C2F5SO2)N-、ニトレートイオン(NO3-)、チオシアネートイオン(SCN-)、ジシアナミドイオン(N(CN)2-)、トリシアノメタニドイオン(C(CN)3-)等が挙げられる。
【0039】
Yは、蛍光性クラスターに配位可能な官能基であり、この官能基を有することにより蛍光性クラスターの保護剤として機能させることができる。その具体例としては、チオール基、カルボキシル基、水酸基、ホスホン酸基、リン酸基、スルフィノ基、スルホ基、アミノ基、イソシアノ基、ニトリル基等が挙げられる。
【0040】
保護剤としての有機化合物には、例えば、一般式A’-Yで表されるものを用いることができる。ここで、A’は蒸気圧を下げる役割や蛍光性クラスターの溶剤への溶解性を調整する役割を持ち、また蛍光性クラスターの粒径を制御する役割も持つ。A’は、直鎖状の脂肪族炭化水素基、または、ヘテロ原子、芳香族炭化水素基、脂肪族環状炭化水素基、および芳香族複素環基から選ばれるいずれかの2価の基を直鎖構造に含む直鎖状の1価の基、あるいはこれらの基に置換基を有する基から選ばれるいずれかの1価の基を示す。前記の直鎖状の脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。前記の置換基としては、例えば、C1〜C6アルキル基、C1〜C6アルケニル基、C1〜C6アルキニル基、C6〜C10アリール基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0041】
A’は、好ましくは、CH3(CH2)n-(nは0〜22の整数を示す。)またはCH3(CH2)m-B-(CH2)n-(mは0〜22の整数、nは0〜22の整数を示し、m+nは1〜44、好ましくは2〜30である。Bは、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、芳香族炭化水素基、脂肪族環状炭化水素基、または芳香族複素環基を示す。)である。ここで、芳香族炭化水素基としては、p-フェニレン基等のC6〜C10アリーレン基等を挙げることができ、脂肪族環状炭化水素基としては、p-シクロヘキシレン基等のC6〜C10シクロアルキレン基を挙げることができ、芳香族複素環基としては、p-ピリジレン基等のC6〜C10の酸素原子、硫黄原子、および/または窒素原子含有の芳香族複素環基等を挙げることができる。
【0042】
Yは、蛍光性クラスターに配位可能な官能基であり、この官能基を有することにより蛍光性クラスターの保護剤として機能させることができる。その具体例としては、チオール基、カルボキシル基、水酸基、ホスホン酸基、リン酸基、スルフィノ基、スルホ基、アミノ基、イソシアノ基、ニトリル基等が挙げられる。
【0043】
蛍光性クラスター前駆体の原子または分子を、保護剤としての上記の有機塩または有機化合物の液体に接触させた後、例えば、濾過、超遠心、溶剤による再沈殿等により分離、精製し、蛍光性クラスターを粉体として得ることができる。本発明によれば、平均粒径が好ましくは2.0nm未満、より好ましくは1.0nm未満の蛍光性クラスターを得ることができる。
【0044】
この蛍光性クラスターは、保護剤の種類を適宜に選択することにより水、アルコール等の水性溶媒、あるいは疎水性溶媒に分散させることができる。そしてこの分散液は、励起光を照射することでその長波長領域に蛍光が観測される。例えば、金クラスターの場合にはUV(365nm)照射により青色、赤色等の蛍光が観測される。銀クラスターの場合には、UV照射により青色、近赤外等に蛍光が観測される。銅クラスターの場合には、UV照射により赤色等の蛍光が観測される。
【0045】
本発明により得られた蛍光性クラスターおよびその分散液は、例えば、バイオプローブ、オフセットインキ、インビジブル塗料、ディスプレイパネル用蛍光体等への用途に好適である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
ガラス製の容器に、表1に示す有機塩または有機化合物を入れ、これをマグネトロンスパッタ装置内の陽極上の加熱冷却装置に設置した。
【0048】
一方、この容器に対向する上方位置に蛍光性クラスター前駆体のターゲット材として金、銀、または銅のターゲットを装着した。その後、蒸着チャンバ内をスパッタリング可能な真空度に制御し、また必要に応じて加熱冷却装置により有機塩を融点以上に加熱し液体とした状態で1〜10分間スパッタリングを行った。
【0049】
その後、容器内の液体を回収し、常法に従って分離、精製し蛍光性クラスターを粉体として得た。これを水およびメタノールに分散させ、分散液の分散性、およびUV(365nm)照射時の蛍光を確認した。また、銀については、蛍光スペクトルを用い、蛍光を確認した。なお、実施例14については、分散液ではなく、粒子へ直接に励起光を照射することで長波長領域の蛍光を目視にて観測した。また、実施例15、16については、得られた蛍光性クラスターをヘキサンに分散して蛍光を目視にて観測した。その結果を表1に示し、実施例12の銀クラスター分散液の近赤外における蛍光スペクトルを図1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1より、保護剤の種類を適宜に選択することにより金、銀、銅の蛍光性クラスターは水またはメタノールに良好に分散した。そしてこの分散液は、励起光を照射することでその長波長領域に蛍光が目視にて観測された。なお、実施例12の銀クラスターの場合には、目視では蛍光は観測されなかったが、近赤外に蛍光が観測された(図1)。
【0052】
また、実施例14では、水やメタノールへの分散性は良好ではなかったものの粒子へ直接に励起光を照射することで目視にて蛍光が観測された。
【0053】
また、実施例15、16では、金、銀の蛍光性クラスターはヘキサンに良好に分散した。そしてこの分散液は、励起光を照射することでその長波長領域に蛍光が目視にて観測された。
【0054】
また、実施例1〜16の蛍光性クラスターのサイズをTEMで観察したところ、平均粒子径は2.0nm未満、多くは1.0nm未満であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光性クラスター前駆体の原子または分子を、蛍光性クラスターに配位可能な官能基を有する蛍光性クラスターの保護剤としての有機塩または有機化合物の液体に接触させる工程を含むことを特徴とする蛍光性クラスターの製造方法。
【請求項2】
固体状態の蛍光性クラスター前駆体を蒸発させて蛍光性クラスター前駆体の原子または分子を生成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の蛍光性クラスターの製造方法。
【請求項3】
蛍光性クラスターの保護剤として、一般式X-A-Y(Aは、直鎖状の脂肪族炭化水素基、または、ヘテロ原子、芳香族炭化水素基、脂肪族環状炭化水素基、および芳香族複素環基から選ばれるいずれかの2価の基を直鎖構造に含む直鎖状の2価の基、あるいはこれらの基に置換基を有する基から選ばれるいずれかの2価の基を示し、Xは、1価の有機カチオンと対アニオンとの塩構造を示し、Yは、蛍光性クラスターに配位可能な官能基を示す。)で表される有機塩を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光性クラスターの製造方法。
【請求項4】
蛍光性クラスターの保護剤として、一般式A’-Y(A’は、直鎖状の脂肪族炭化水素基、または、ヘテロ原子、芳香族炭化水素基、脂肪族環状炭化水素基、および芳香族複素環基から選ばれるいずれかの2価の基を直鎖構造に含む直鎖状の1価の基、あるいはこれらの基に置換基を有する基から選ばれるいずれかの1価の基を示し、Yは、蛍光性クラスターに配位可能な官能基を示す。)で表される有機化合物を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光性クラスターの製造方法。
【請求項5】
蛍光性クラスター前駆体は、金属または半導体であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の蛍光性クラスターの製造方法。
【請求項6】
蛍光性クラスター前駆体は、金、銀、および銅から選ばれる少なくとも1種の金属であることを特徴とする請求項5に記載の蛍光性クラスターの製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の方法により得られた蛍光性クラスターを溶媒に分散したものであることを特徴とする蛍光発光分散液。

【図1】
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【公開番号】特開2011−12184(P2011−12184A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158211(P2009−158211)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】