説明

蛍光検出システム

【課題】複数の蛍光を容易且つ同時に検出でき、さらには、複数の被測定対象物から発生する蛍光を容易且つ同時に検出できる蛍光検出システムを提供する。
【解決手段】蛍光検出システム10は、励起光を出射する光源7A,7B,7Cと、該光源7A,7B,7Cのそれぞれと一端が光学的に接続された励起光用光ファイバ群1A,1B,1Cと、受光器8a,8b,8cと、受光器8a,8b,8cのそれぞれと光学的に接続された蛍光用光ファイバ群2a,2b,2cの各他端と、励起光用光ファイバ群1A,1B,1C及び蛍光用光ファイバ群2a,2b,2cの各一端が一束化された先端部20と、レンズ4と、先端部20とレンズ4とを一体的に保持するキャピラリ3とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光検出システムに関し、特に光ファイバを備えた蛍光検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、励起光を被測定対象物に照射して、被測定対象物から発生する蛍光を検出する蛍光検出装置として、特に、複数の蛍光を検出でき、また、複数の被測定対象物から発生する蛍光を検出できる蛍光検出装置が要求されている。
【0003】
複数の蛍光を検出する蛍光検出装置として、励起フィルタ、ダイクロイックミラー、バリアフィルタを備えたフィルタカセットを、検出したい蛍光の波長に合わせて切り替えることで、複数の蛍光を検出する蛍光顕微鏡が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
さらに、複数の蛍光を検出する方法として、レンズの収差を利用する方法(例えば、特許文献2参照。)や、検出したスペクトルを信号処理するする方法(例えば、特許文献3参照。)、あるいは回折格子を使用する方法(例えば、特許文献4参照。)が開示されている。
【0005】
一方、複数の被測定対象物から発生する蛍光を検出する蛍光検出装置として、マイクロウェルプレートのウェルの配列に沿って励起光を拡散させて、ウェル内の被測定対象物に励起光を照射することで、複数の被測定対象物から発生する蛍光を検出するマイクロプレートリーダが開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0006】
さらに、複数の被測定対象物から発生する蛍光を検出する方法として、円弧状に並べた複数の被測定対象物を回転させて順次測定する方法(例えば、特許文献6参照。)や、複数の被測定対象物を順次スキャンする方法(例えば、特許文献7参照。)が開示されている。
【特許文献1】特開2003−29155号公報
【特許文献2】特開2006−308403号公報
【特許文献3】特表平8−506419号公報
【特許文献4】特3866940号
【特許文献5】特開2005−55219号公報
【特許文献6】特3855485号
【特許文献7】特開2001−255272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した蛍光顕微鏡では、一度に1つの蛍光しか検出することができず、同時に複数の蛍光を検出することはできない。このため、複数の蛍光を測定するには、フィルタカセットを切り替えることが必要となり、操作が煩雑となる。
【0008】
また、上述した複数の蛍光を検出する方法では、高精度な微動機構、複雑な信号処理装置、あるいは回折格子といった高価な部品が必要となる。
【0009】
一方、上述したマイクロプレートリーダでは、被測定対象物が高密度に配列している場合には隣り合う被測定対象物から発生する蛍光の光路が重なり合うために測定感度が低くなる。
【0010】
また、上述した複数の被測定対象物から発生する蛍光を検出する方法では、複数の被測定対象物を順次測定し、或いは順次スキャンするため、複数の被測定対象物から発生する蛍光を同時に検出することはできない。
【0011】
そこで、本発明の目的は、複数の蛍光を容易且つ同時に検出でき、さらには、複数の被測定対象物から発生する蛍光を容易且つ同時に検出できる蛍光検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項1記載の蛍光検出システムは、励起光を出射する光源と、前記励起光が照射された被測定対象物から発生する蛍光を受光する受光部とを備える蛍光検出システムにおいて、前記光源と光学的に接続された一端から前記励起光が入射され、前記被測定対象物と対向して配される他端から前記励起光が出射される少なくとも1つの光ファイバからなる励起光用光ファイバ群の複数と、前記被測定対象物と対向して配される一端から前記蛍光が入射され、前記受光部と光学的に接続された他端から前記蛍光が出射される少なくとも1つの光ファイバからなる蛍光用光ファイバ群の複数と、前記複数の励起光用光ファイバ群の他端と前記複数の蛍光用光ファイバ群の一端とが一束化された先端部と、前記先端部と前記被測定対象物の間に配置されたレンズと、前記先端部と前記レンズとを離間して一体的に保持する保持部とを備え、前記先端部において、前記複数の励起光用光ファイバ群の各々は互いに隣接しないように配置されることを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の蛍光検出システムは、請求項1記載の蛍光検出システムにおいて、前記先端部において、各前記蛍光用光ファイバ群を構成する複数の光ファイバは各前記励起光用光ファイバ群を中心とする略同心円状に配列され、かつ、前記複数の蛍光用光ファイバ群は各々異なる前記励起光用光ファイバ群を中心とすることを特徴とする。
【0014】
請求項3記載の蛍光検出システムは、請求項1又は2記載の蛍光検出システムにおいて、前記先端部において、前記複数の蛍光用光ファイバ群及び前記複数の励起光用光ファイバ群を構成する前記光ファイバのうち、隣接する前記光ファイバ同士は互いに接することを特徴とする。
【0015】
請求項4記載の蛍光検出システムは、請求項2又は3記載の蛍光検出システムにおいて、前記略同心円状に配列された各前記蛍光用光ファイバ群を構成する前記光ファイバは、中心角が少なくとも90度以上の略円弧状に配列されることを特徴とする。
【0016】
請求項5記載の蛍光検出システムは、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蛍光検出システムにおいて、前記レンズと前記先端部の間の第1の距離は、前記レンズのバックフォーカスの距離よりも大きく、かつ、前記励起光の前記レンズの透過率が70%以上となる距離であることを特徴とする。
【0017】
請求項6記載の蛍光検出システムは、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の蛍光検出システムにおいて、前記レンズと前記被測定対象物の間の第2の距離は、前記被測定対象物の表面に形成される前記励起光の照射スポットの直径が、隣り合う前記照射スポットの中心間の距離よりも小さくなる距離であることを特徴とする。
【0018】
請求項7記載の蛍光検出システムは、請求項2記載の蛍光検出システムにおいて、前記レンズと前記被測定対象物の間の第2の距離は、1つの前記蛍光用光ファイバ群に入射される前記蛍光の光量について、当該蛍光用光ファイバ群の中心に該当しない前記励起光用光ファイバ群から出射された励起光に起因する蛍光の光量に対する、前記中心に該当する前記励起光用光ファイバ群から出射された励起光に起因する蛍光の光量の比が20dB以上となる距離であることを特徴とする。
【0019】
請求項8記載の蛍光検出システムは、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システムにおいて、3つの前記励起光用光ファイバ群と、3つの前記蛍光用光ファイバ群とを備え、各前記励起光用光ファイバ群は1つの光ファイバからなり、各前記蛍光用光ファイバ群は3つの光ファイバからなり、前記レンズはハーフドラムレンズからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の蛍光検出システムによれば、被測定対象物に対向して配される先端部において、複数の励起光用光ファイバ群の各々が互いに隣接しないように配置されるので、各励起光用光ファイバ群から出射される複数の励起光を、空間的に分離された状態で、被測定対象物の複数の位置に同時に照射させることができる。また、複数の位置に励起光が同時に照射された被測定対象物からは複数の蛍光が発生するが、先端部にはレンズと複数の蛍光用光ファイバ群が存在するため、先端部において、各蛍光用光ファイバ群に、複数の蛍光を、空間的に分離された状態で、混ざることなく同時に入射させることができる。
【0021】
また、上記蛍光検出システムでは、複数の蛍光を受光するためには、先端部における複数の励起光用光ファイバ群から複数の励起光を同時に出射するのみでよく、例えば、励起光を出射する光ファイバを切り替える必要がなく、先端部によって被測定対象物を走査する必要もない。したがって、上記蛍光検出システムによれば、被測定対象物から発生した複数の蛍光を容易且つ同時に検出することができる。
【0022】
さらには、複数の励起光を、空間的に分離された状態で、複数の位置に同時に照射することができるので、被測定対象物が複数存在していても、複数の励起光を複数の被測定対象物に同時に照射することができる。また、励起光が同時に照射された複数の被測定対象物からは蛍光が発生するが、先端部にはレンズと複数の蛍光用光ファイバ群が存在するため、先端部において、各蛍光用光ファイバ群に複数の被測定対象物から発生する蛍光を、空間的に分離された状態で、混ざることなく同時に入射させることができる。
【0023】
また、上記蛍光検出システムでは、複数の被測定対象物から発生する蛍光を受光するためには、先端部における複数の励起光用光ファイバ群から複数の励起光を同時に出射するのみでよく、例えば、励起光を出射する光ファイバを切り替える必要がなく、先端部によって被測定対象物を走査する必要もない。したがって、上記蛍光検出システムによれば、複数の被測定対象物から発生する複数の蛍光を容易且つ同時に検出することができる。
【0024】
また、励起光用光ファイバ群と蛍光用光ファイバ群とを備えることにより、励起光を伝達する光路と蛍光を伝達する光路とを完全に分離することができるので、受光部における励起光を原因とするノイズをなくすことができ、高感度な蛍光検出システムを提供することができる。
【0025】
請求項2記載の蛍光検出システムによれば、先端部において、各蛍光用光ファイバ群を構成する複数の光ファイバは各励起光用光ファイバ群を中心とする略同心円状に配列され、かつ、複数の蛍光用光ファイバ群は各々異なる励起光用光ファイバ群を中心とするので、中心の励起光用光ファイバ群から出射された励起光が被測定対象物に照射されることにより発生した蛍光を、該励起光用光ファイバ群の略同心円状に配列された各蛍光用光ファイバ群の光ファイバに、効果的に入射させることができる。
【0026】
請求項3記載の蛍光検出システムによれば、先端部において、複数の蛍光用光ファイバ群及び複数の励起光用光ファイバ群を構成する光ファイバのうち、隣接する光ファイバ同士は互いに接するので、各励起光用光ファイバ群から出射された励起光が被測定対象物に照射されることにより発生した蛍光を、各蛍光用光ファイバ群に、漏れなく入射させることができる。また、先端部において、複数の蛍光用光ファイバ群及び複数の励起光用光ファイバ群を効率的に配置することができ、もって先端部を小さくすることができる。
【0027】
請求項4記載の蛍光検出システムによれば、略同心円状に配列された各蛍光用光ファイバ群を構成する光ファイバは、中心角が少なくとも90度以上の略円弧状に配列されるので、蛍光がレンズを介することによりレンズの収差に起因して光量の分布にムラのある状態で先端部に到達しても、いずれかの光ファイバに確実に蛍光を入射させることができる。
【0028】
請求項5記載の蛍光検出システムによれば、レンズと先端部の間の距離はレンズのバックフォーカスの距離よりも大きいので、先端部から出射されてレンズを透過する複数の励起光を、収束光又は略平行光の状態で、被測定対象物に照射することができる。したがって、該複数の励起光の各々を、確実に空間的に分離された状態で、被測定対象物に照射することができる。また、励起光のレンズの透過率が70%以上なので、各励起光を被測定対象物に多く照射させることができ、もって、各蛍光を多く発生させることができる。
【0029】
請求項6記載の蛍光検出システムによれば、レンズと被測定対象物の間の第2の距離は、被測定対象物の表面での各励起光用光ファイバ群の各他端から出射される各励起光の照射スポットの直径が、隣り合う照射スポットの中心間の距離よりも小さくなる距離であるため、被測定対象物において、1つの励起光用光ファイバ群から出射された励起光が照射される位置と、他の1つの励起光用光ファイバ群から出射された励起光が照射される位置とが重ならない。これにより、複数の励起光が確実に空間的に分離された状態のままで被測定対象物に照射されるため、生じた蛍光が2つ以上の励起光に起因したものになるのを防止することができ、もって、ノイズの低い、検出感度の高い蛍光検出システムとすることができる。
【0030】
請求項7記載の蛍光検出システムによれば、レンズと被測定対象物の間の第2の距離は、一つの蛍光用光ファイバ群に入射される蛍光の光量について、当該蛍光用光ファイ群の中心に該当しない励起光用光ファイバ群から出射された励起光に起因する蛍光の光量に対する、中心に該当する励起光用光ファイバ群から出射された励起光に起因する蛍光の光量の比が20dB以上となる距離であるので、例えば、ダイクロイックミラーを設けた蛍光分析システムと同程度の蛍光の分離が可能であり、かつ、大型の装置や高価な部品を必要としないため、従来の蛍光検出システムと比して、蛍光分析システムの小型化や製造コストの低減が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、励起光を出射する光源と、前記励起光が照射された被測定対象物から発生する蛍光を受光する受光部とを備える蛍光検出システムにおいて、光源と光学的に接続された一端から励起光が入射され、被測定対象物と対向して配される他端から励起光が出射される少なくとも1つの光ファイバからなる励起光用光ファイバ群の複数と、被測定対象物と対向して配される一端から蛍光が入射され、受光部と光学的に接続された他端から蛍光が出射される少なくとも1つの光ファイバからなる蛍光用光ファイバ群の複数と、複数の励起光用光ファイバ群の他端と複数の蛍光用光ファイバ群の一端とが一束化された先端部と、先端部と被測定対象物の間に配置されたレンズと、先端部とレンズとを離間して一体的に保持する保持部とを備え、先端部において、複数の励起光用光ファイバ群の各々は互いに隣接しないように配置されることにより、複数の蛍光を容易且つ同時に検出でき、さらには、複数の被測定対象物から発生する蛍光を容易且つ同時に検出できることを見出した。
【0032】
本発明は上記知見に基づいてなされたものである。
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0034】
図1は、本発明の実施の形態に係る蛍光検出システムの構成を概略的に示す図である。
【0035】
図1において、蛍光検出システム10は、励起光を出射する光源7A,7B,7Cと、光源7A,7B,7Cのそれぞれと一端が光学的に接続された励起光用光ファイバ群1A,1B,1Cと、受光器8a,8b,8cと、受光器8a,8b,8cのそれぞれと光学的に接続された蛍光用光ファイバ群2a,2b,2cと、励起光用光ファイバ群1A,1B,1Cの各他端及び蛍光用光ファイバ群2a,2b,2cの各一端が一束化された後述する先端部20(図2参照。)並びにレンズ4を一体的に保持するキャピラリ3(保持部)とを備える。また、受光器8a,8b,8cはカットフィルタ9a,9b,9cを備える。
【0036】
また、光源7A,7B,7Cと受光器8a,8b,8cとは、駆動・検出回路13に電気的に接続されており、電源11が投入されることにより、該駆動・検出回路13は、光源7A,7B,7Cが出射する励起光の光量を制御し、光源7A,7B,7Cの出力、及び受光器8a,8b,8cの出力をディスプレイ12(出力部)に出力する。
【0037】
図2は、図1における蛍光検出システムの構成要素である先端部の構成を概略的に示す図である。
【0038】
図2において、励起光用光ファイバ群1A,1B,1Cの被測定対象物5に対向して配置される各他端と、蛍光用光ファイバ群2a,2b,2cの被測定対象物5に対向して配置される各一端とは口金22に嵌合されて一束化された先端部20を構成し、また、一束化された複数の光ファイバの端面は平面状の端面21を形成する。
【0039】
図3は、図2における端面の構成を概略的に示す図である。
【0040】
本実施の形態において、励起光用光ファイバ群1A,1B,1Cはそれぞれ単芯の光ファイバであり(以下「単芯ファイバ」という。)、蛍光用光ファイバ群2a,2b,2cはそれぞれ3芯の光ファイバである(以下「3芯ファイバ」という。)。3芯ファイバ2aの3芯の各々は、単芯ファイバ1Aを中心とする略同心円状に配列される。同様に、3芯ファイバ2bの3芯の各々は、単芯ファイバ1Bを中心とする略同心円状に、3芯ファイバ2cの3芯の各々は、単芯ファイバ1Cを中心とする略同心円状に配列される。また、各単芯ファイバ1A,1B,1Cは互いに隣接しないように配置され、各3芯ファイバ1A,1B,1C及び各3芯ファイバ2a,2b,2cのうち、隣接する光ファイバ同士は互いに接するように配置される。
【0041】
図4は、図1におけるキャピラリとその周辺構造部品との関係を示す断面図である。
【0042】
一点鎖線23は先端部20の中心軸を、一点鎖線24はレンズ4の中心軸を示している。口金22の直径はレンズ4の直径と同じであり、口金22に嵌合された先端部20とレンズ4とは離間され、且つ、先端部20の中心軸23とレンズ4の中心軸24とが平行となるようにキャピラリ3により一体的に保持される。
【0043】
上記の構成により、光源7A,7B,7Cから出射された励起光は、単芯ファイバ1A,1B,1Cの各一端から入射されて先端部20から出射される。ここで、単芯ファイバ1A,1B,1Cは互いに隣接しないように配置されるので、出射された各励起光は空間的に3つに分離されたままの状態で、混ざり合うことなく、レンズ4を介してマイクロウェル6内の被測定対象物5に同時に照射される。そして、空間的に3つに分離されたままの励起光が照射された被測定対象物5からは3つの蛍光が発生するが、先端部20には単芯ファイバ1A,1B,1Cをそれぞれ中心とする3芯ファイバ2a,2b,2cが存在するため、先端部20において、3芯ファイバ2a,2b,2cの各々に3つの蛍光を同時に入射させることができる。また、3つの蛍光を受光するためには、先端部20における単芯ファイバ1A,1B,1Cから3つの励起光を同時に出射するのみでよく、例えば、励起光を出射する光ファイバを切り替える必要がなく、先端部20によって被測定対象物5を走査する必要もない。したがって、本実施の形態に係る蛍光検出システム10によれば、被測定対象物5から発生した3つの蛍光を容易且つ同時に検出することができる。
【0044】
さらには、被測定対象物が複数、例えば3つ存在していても、光源7A,7B,7Cから出射された励起光は、単芯ファイバ1A,1B,1Cの各一端から入射されて先端部20から出射される。ここで、各単芯ファイバ1A,1B,1Cは互いに隣接しないように配置されるので、出射された各励起光は混ざり合うことなく、空間的に3つに分離されたままの状態で、レンズ4を介して3つの被測定対象物に同時に照射される。そして、空間的に3つに分離されたままの励起光が照射された3つの被測定対象物からは3つの蛍光が発生するが、先端部20には単芯ファイバ1A,1B,1Cをそれぞれ中心とする3芯ファイバ2a,2b,2cが存在するため、先端部20において、3芯ファイバ2a,2b,2cの各々に3つの蛍光を同時に入射させることができる。また、3つの蛍光を受光するためには、先端部20における単芯ファイバ1A,1B,1Cから3つの励起光を同時に出射するのみでよく、例えば、励起光を出射する光ファイバを切り替える必要がなく、先端部20によって被測定対象物を走査する必要もない。したがって、本実施の形態に係る蛍光検出システム10によれば、3つの被測定対象物から発生した3つの蛍光を容易且つ同時に検出することができる。
【0045】
上述した蛍光検出システム10では、3芯ファイバ2aの3芯の各々が単芯ファイバ1Aを中心とする略同心円状に配列され、3芯ファイバ2bの3芯の各々が単芯ファイバ1Bを中心とする略同心円状に、3芯ファイバ2cの3芯の各々が単芯ファイバ1Cを中心とする略同心円状に配列されるので、例えば、単芯ファイバ1Aから出射された励起光が被測定対象物5に照射されることにより発生した蛍光を、単芯ファイバ1Aを中心とする略同心円状に配列された3芯ファイバ2aに効果的に入射させることができる。
【0046】
さらに、隣接する光ファイバ同士が互いに接することにより、各単芯ファイバ1A,1B,1Cから出射された各励起光が被測定対象物5に照射されることにより発生した蛍光を、各3芯ファイバ2a,2b,2cに、漏れなく入射させることができる。また、先端部20において、各光ファイバを効率的に配置することができ、もって先端部を小さくすることができる。
【0047】
また、各3芯ファイバ2a,2b,2cをそれぞれ中心角が少なくとも90度以上の略円弧状に配列することにより、蛍光がレンズ4を介することによりレンズ4の収差に起因して各単芯ファイバ1A,1B,1Cの周りにおいて光量の分布にムラのある状態で先端部20に到達しても、確実に各蛍光を3芯ファイバ2a,2b,2cに入射させることができる。
【0048】
また、蛍光検出システム10では、励起光用光ファイバ群及び蛍光用光ファイバ群を構成する光ファイバは単芯でも複芯でもよい。さらに、蛍光検出システム10は、少なくとも2つ以上の励起光用光ファイバ群を備え、各励起光用光ファイバ群が隣接しないように、各蛍光用光ファイバ群が配列されていればよい。
【0049】
また、レンズ4と先端部20の間の距離(レンズ4の先端部20と対向する面と端面21の間の距離)がレンズ4のバックフォーカスの距離以下であると、励起光が拡散光の状態のままレンズ4を介して被測定対象物5に照射されることになる。この場合、被測定対象物5から発生する蛍光はぼやけたものとなり、大きく拡散した状態で先端部20に到達してしまうため、3芯ファイバ2a,2b,2cの蛍光の入射光量が低下してしまう。したがって、レンズ4と先端部20の間の距離は、レンズ4のバックフォーカスの距離よりも大きく設定される。これにより、励起光を略平行光又は収束光としてレンズ4から出射させることができる。
【0050】
また、レンズ4と先端部20の間の距離が大きくなるほど、レンズの励起光の透過率が低下して被測定対象物5に到達する励起光の光量が減少してしまい、発生する蛍光の光量が減少するため、効果的な蛍光の測定が行えないことになる。また、レンズの励起光の透過率が低いと、つまり、レンズで励起光がけられてしまうと、被測定対象物の表面での照射スポットの形状がゆがんでしまうため、例えば、隣り合う照射スポットが重なり合って各励起光が混ざり合う原因となる。ここで、照射スポットとは、単芯ファイバ1A,1B,1Cのそれぞれから出射されてレンズ4を介して被測定対象物5に照射される励起光の被測定対象物5における照射スポットのことである。
【0051】
したがって、被測定対象物5に照射される励起光の入射光量の低下による感度の低下、また励起光の分離能力の低下を防ぐために、レンズ4と先端部20の間の距離は、励起光のレンズの透過率が70%以上である距離に設定される。
【0052】
また、レンズ4と被測定対象物5の間の距離(以下「WD(Working Distance)」という。)を調整することにより、蛍光検出システム10の検出感度をあげることができる。これについて以下詳述する。
【0053】
WDを調整するための第1の因子として、「照射スポットの空間的な分離」がある。照射スポットとは、上述のように、単芯ファイバ1A,1B,1Cのそれぞれから出射されてレンズ4を介して被測定対象物5に照射される励起光の被測定対象物5における照射スポットのことである。
【0054】
蛍光検出システム10において、被測定対象物5の表面における各照射スポットにおいて励起光の照射光量が最も大きい位置を照射スポットの中心とし、励起光の照射光量が中心における照射光量の1/eとなる位置と中心との間の距離を上記照射スポットの半径とした場合に、「照射スポットの直径」が、「隣り合う照射スポットの中心間の距離」よりも小さくなるように調整することにより、例えば1Aから出射された励起光が被測定対象物5に照射されることにより生じる蛍光の出射位置と、1Bから出射された励起光が被測定対象物5に照射されることにより生じる蛍光の出射位置とが重ならないようにすることができる。これにより、生じた蛍光が2つ以上の励起光に起因したものになるのを防止することができ、もって、ノイズの低い、検出感度の高い蛍光検出システムとなる。
【0055】
また、WDを調整するための第2の因子として、「SN比」がある。SN比とは、例えば「単芯ファイバ1B,1Cのそれぞれから出射された励起光によって発生する蛍光が3芯ファイバ2aに入射される光量」に対する「単芯ファイバ1Aから出射された励起光によって発生する蛍光が3芯ファイバ2aに入射される光量」との比のことである。
【0056】
つまり、例えば、各3芯ファイバ2aに、これらの中心に位置する単芯ファイバ1Aとは別の単芯ファイバ1B,1Cからの励起光に起因する蛍光が入射する量が少ないほど、すなわち、蛍光を分離できるほどSN比が高くなるため、蛍光検出システム10の各受光器におけるSN比が高いほど、ノイズの低い、検出感度の高いシステムといえる。
【0057】
蛍光検出システム10において、SN比が20dB以上、より好ましくは30dB以上となるように調整される。これにより、例えば、SN比が20dB以上である場合、ダイクロイックミラーを設けた蛍光分析システムと同程度の蛍光の分離が可能となる。この場合、蛍光検出システム10は、高い検出感度を有するうえに、大型の装置や高価な部品を必要としないため、従来の蛍光検出システムと比して、蛍光分析システムの小型化や製造コストの低減が可能となる。
【0058】
また、WDが、被測定対象物5で反射された励起光が端面21に結合しない距離に設定される。これにより、励起光を原因とするノイズを低減することができる。
【0059】
レンズは、例えば、ハーフドラムレンズ、ロッドレンズ、平凸レンズ、両凸レンズ、アクロマティックレンズ、非球面レンズ等、その材質、形状を問わずに用いることができる。特に、ハーフドラムレンズとロッドレンズはコバが厚いため、キャピラリ3による先端部20との一体化が容易であり、更なる蛍光検出システム10の小型化や製造コストの低減が可能となる。
【0060】
また、ハーフドラムレンズは、色収差が小さいため、波長の異なる励起光が被測定対象物5に照射される際の各励起光の焦点距離のばらつきを抑えることができる。したがって、ハーフドラムレンズは、波長の異なる複数の励起光を被測定対象物5に照射する場合に適している。
【0061】
一方、ロッドレンズは、コマ収差が小さいため、励起光の被測定対象物5における照射スポットの直径が小さくなり、また、照射スポットがぼけず、被測定対象物5の複数箇所から発生する蛍光が混ざり合わない。したがって、同一の波長の励起光を被測定対象物の複数の位置に、又は複数の被測定対象物に照射する場合に適している。
【0062】
また、本実施の形態において、先端部20を口金22で一束化したが、一束化した場合の先端部20の直径がレンズ4の直径と同じであれば、口金22を設けることなく、キャピラリ3で直接一束化して保持してもよい。また、先端部20の中心軸23とレンズ4の中心軸24とは、平行でなくてもよい。
【0063】
また、各受光器8a,8b,8cにそれぞれカットフィルタ9a,9b,9cを設けたが、本蛍光検出システムは、充分に高感度であるため、カットフィルタを用いなくとも良い。
【0064】
上述した蛍光検出システム10では、被測定対象物5を図5(A)のようにマイクロチューブに入れても良く、図5(B)にように、例えばスライドガラス上の流路に入れても良く、図5(C)にようにセルに入れても良い。
【0065】
また、上述した蛍光検出システム10では、各励起光用光ファイバ群と各蛍光用光ファイバ群とを隣接させたが、励起光をより空間的に分離させた状態で被測定対象物に照射する場合には、図6のように、測定する蛍光の波長が異なる蛍光用光ファイバの境目に蛍光を受光しない光ファイバ40を配列しても良い。
【実施例】
【0066】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【0067】
実施例1
蛍光検出システム10において、励起光用光ファイバ群1A,1B,1C及び蛍光用光ファイバ群2a,2b,2cには、コア直径が200μm、クラッド直径が250μm、開口数が0.22の石英系ステップインデックスファイバを用い、励起光用光ファイバ群1A,1B,1Cはそれぞれ単芯ファイバとし、蛍光用光ファイバ群2a,2b,2cはそれぞれ3芯ファイバとし、図3に示す配置となるように設計した。
【0068】
また、レンズ4には、直径2.4mm、長さ2.4mm、曲率半径1.5mm、コバ厚1.5mmのBK7からなるハーフドラムレンズを用い、励起光及び蛍光の反射を低減させるためにレンズ4の表面には反射防止膜を施した。先端部20を直径2.4mmの口金で嵌合し、円筒形のキャピラリ3により先端部20とレンズ4を接着固定した。
【0069】
光源7A,7B,7Cには、LED光源(日亜化学工業社製)を用い、光源7A,7B,7Cには、それぞれ透過波長域が470nm±10nm、532nm±10nm、632nm±10nm、のバンドパスフィルタを設けた。
【0070】
また、受光器8a,8b,8cには、光電子増倍管(浜松ホトニクス社製)を用い、さらに、検出する蛍光の波長に対応させて、受光器8a,8b,8cに、それぞれ透過波長域が532nm±5nm、580nm±5nm、680nm±5nmのバンドパスフィルタ設けた。
【0071】
検討1
まず、レンズ4と先端部20の間の最適な距離について検討した。
【0072】
レンズ4と先端部20の間の距離を変化させながら、単芯ファイバ1Aから主波長470nmの励起光を照射して、レンズ4の励起光の透過光量を測定した。同様に、単芯ファイバ1Bから主波長632nmの励起光を照射して、レンズ4の励起光の透過光量を測定した。それぞれの測定結果から励起光の透過率を算出し、励起光透過率とレンズ4及び先端部20の間の距離との関係を図7に示した。
【0073】
図7において、縦軸はレンズ4の励起光透過率(%)を、横軸はレンズ4と先端部20の間の距離(mm)を示している。また、グラフ内の実線は主波長470nmの励起光の透過率の変化を、グラフ内の点線は主波長632nmの励起光の透過率の変化を示している。両励起光とも、レンズ4と先端部20との距離が小さいほど透過率も高く、該距離が4.5mm以下の場合に70%以上の透過率となることが分かった。
【0074】
そこで、本結果及び本実施例に用いるハーフドラムレンズのバックフォーカスが約1mmであることを考慮し、レンズ4と先端部2の間の距離が2mmとなるように設計し、以降の検討2乃至4を行った。
【0075】
検討2
次に、WDを調整するための第1の因子である「照射スポット」に関して検討した。
【0076】
蛍光検出システム10において、WDを変化させながら、単芯ファイバ1Aから主波長470nmの励起光を、単芯ファイバ1Bから主波長532nmの励起光を照射して、被測定対象物5における各励起光の照射スポットの直径と、各照射スポットの中心間の距離とを測定した。単芯ファイバ1A,1Cから励起光を照射した場合、単芯ファイバ1B、1Cから励起光を照射した場合についても同様に測定を行い、照射スポットの直径とWDとの関係、照射スポットの中心間の距離とWDと関係を図8(A)乃至(C)に示した。
【0077】
図8(A)乃至(C)において、縦軸は照射スポットの直径及び照射スポットの中心間の距離(mm)を、横軸はWD(mm)を示している。
【0078】
図8(A)は単芯ファイバ1A,1Bからそれぞれ470nm,532nmの励起光を照射した結果を示し、グラフ内の実線は470nmの波長の励起光を照射した際の被測定対象物5における照射スポットの直径の変化を、グラフ内の点線は532nmの波長の励起光を照射した際の被測定対象物5における照射スポットの直径の変化を、グラフ内の一点鎖線は各照射スポットの中心間の距離の変化を示している。
【0079】
図8(B)は単芯ファイバ1B,1Cからそれぞれ532nm,632nmの励起光を照射した結果を示し、グラフ内の実線は532nmの波長の励起光を照射した際の被測定対象物5における照射スポットの直径の変化を、グラフ内の点線は632nmの波長の励起光を照射した際の被測定対象物5における照射スポットの直径の変化を、グラフ内の一点鎖線は各照射スポットの中心間の距離の変化を示している。
【0080】
図8(C)は単芯ファイバ1C,1Aからそれぞれ632nm,470nmの励起光を照射した結果を示し、グラフ内の実線は632nmの波長の励起光を照射した際の被測定対象物5における照射スポットの直径の変化を、グラフ内の点線は470nmの波長の励起光を照射した際の被測定対象物5における照射スポットの直径の変化を、グラフ内の一点鎖線は各照射スポットの中心間の距離の変化を示している。
【0081】
図8(A)乃至(C)より、WDを5mm以上とした場合に、各照射スポットの直径よりもスポットの中心間の距離のほうが大きくなることが分かった。
【0082】
検討3
次に、WDを調整するための第2の因子である「SN比」に関して検討した。
【0083】
被測定対象物5として、蛍光物質であるFluoresceine−4−isothiocyanate(以下「FITC」という。)、Cy3(GE Healthcare社製)及びCy5(GE Healthcare社製)を混合して、それぞれの濃度が10μM、10μM、10μMとなるように調製した水溶液を用い、該水溶液を直径3.5mm、深さ8mmのマイクロウェル内に深さ4mmとなるように加えた。
【0084】
FITCは主波長が470nmである励起光を吸収して主波長532nmの蛍光を発し、Cy3は主波長が532nmである励起光を吸収して主波長580nmの蛍光を発し、Cy5は主波長が632nmである励起光を吸収して主波長680nmの蛍光を発する特性を有する蛍光物質である。
【0085】
蛍光検出システム10において、WDを5.7mmに調整し、単芯ファイバ1Aから主波長470nmの励起光を、単芯ファイバ1Bから主波長532nmの励起光を、単芯ファイバ1Cから主波長632nmの励起光をそれぞれ出射して被測定対象物5に照射し、被測定対象物5から発生した各蛍光の受光量を測定し、SN比を算出して下記表1に示した。同様に、WDを6.5mmに調整し、単芯ファイバ1A,1B,1Cから各励起光を出射し、各蛍光の受光量を測定し、SN比を算出して下記表2に示した。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【0088】
表1及び表2において、O(a.u.)は、470nm、532nm、632nmの波長の励起光を同時に被測定対象物5に照射したときの各受光器8a,8b,8cの受光量の出力を示している。On(a.u.)は、それぞれの受光器が受光すべき波長の励起光を出射せず、他の2つの波長の励起光を出射したときの各受光器8a,8b,8cの受光量の出力を示している。例えば、「受光器8a」の場合、470nmの波長の励起光を出射せず、532nm及び632nmの波長の励起光を出射したときの受光器8aの受光量の出力を示している。また、Os(a.u.)は、O(a.u.)の値からOn(a.u.)の値を引いたもの、すなわち、それぞれの受光器が受光すべき波長の励起光のみを出射し、他の2つの波長の励起光を出射しなかったときの各受光器8a,8b,8cの受光量の出力を示している。
【0089】
表1において、いずれの蛍光においても約20dBのSN比が得られた。さらに、表2において、いずれの蛍光においても、約30dBのSN比が得られた。
【0090】
検討4
次に、WDを調整するための第2の因子である「SN比」に関して、さらに詳しく検討した。
【0091】
蛍光検出システム10において、検討3とは異なり、WDを変化させながら、各励起光をそれぞれ出射して、被測定対象物5から発生した各蛍光の受光量を測定し、SN比を算出して図9(A)乃至(C)に示した。その他の構成は、検討3と同じにした。
【0092】
図9(A)乃至(C)において、縦軸は各蛍光の受光量の出力(a.u.)を、横軸はWD(mm)を示している。
【0093】
図9(A)は受光器8aの受光量とWDとの関係を示し、グラフ内の実線は単芯ファイバ1A,1B,1Cから各励起光を出射した時に受光器8aに受光された532nmの波長の蛍光の出力の変化を、グラフ内の点線は、単芯ファイバ1B,1Cから各励起光を出射した時に受光器8aに受光された532nmの波長の蛍光の出力の変化を、グラフ内の太実線は受光器8aが受光した蛍光の532nmの波長のSN比の変化を示している。
【0094】
図9(B)は受光器8bが受光した蛍光とWDとの関係を示し、グラフ内の実線は単芯ファイバ1A,1B,1Cから各励起光を出射した時に受光器8bに受光された580nmの波長の蛍光の出力の変化を、グラフ内の点線は、単芯ファイバ1A,1Cから各励起光を出射した時に受光器8bに受光された580nmの波長の蛍光の出力の変化を、グラフ内の太実線は受光器8bが受光した580nmの波長の蛍光のSN比の変化を示している。
【0095】
図9(C)は受光器8cが受光した蛍光とWDとの関係を示し、グラフ内の実線は単芯ファイバ1A,1B,1Cから各励起光を出射した時に受光器8cに受光された680nmの波長の蛍光の出力の変化を、グラフ内の点線は、単芯ファイバ1A,1Bから各励起光を出射した時に受光器8cに受光された680nmの波長の蛍光の出力の変化を、グラフ内の太実線は受光器8aが受光した680nmの波長の蛍光のSN比の変化を示している。図7(A)乃至(C)より、いずれの蛍光であっても、WDが6mm以上であれば、20dB以上のSN比が得られることがわかった。
【0096】
また、図9(A)乃至(C)における各実線と各太実線とを抽出して1つに重ねたグラフを図10に示した。
【0097】
各蛍光の出力の変化はほぼ同じ曲線を描き、また、各SN比の変化もほぼ同じ曲線を描いた。これは、ハーフドラムレンズの色収差が小さいため、波長の異なる励起光が被測定対象物に照射される際の各励起光の焦点距離のばらつきを抑えることができるためである。図10より、ハーフドラムレンズは、波長の異なる複数の励起光を被測定対象物に照射する場合に適していることが分かった。
【0098】
実施例2
次に、蛍光検出システム10において、実施例1とは異なり、被測定対象物5として、FITC、Cy3及びCy5を混合せずに、FITCが10μM、Cy3が10μM、Cy5が10μMの濃度となるように調製した各水溶液を用い、図11に示すように、FITC水溶液、Cy3水溶液及びCy5水溶液をそれぞれ31a、31b及び31cの位置となるようにスライドガラス上に滴下した。位置31a、31b及び31cはそれぞれが三角形の頂点となる位置に配置されており、470nmの励起光が31aに、532nmの励起光が31bに、632nmの励起光が31cに照射されるように調整した。また、WDを6mmに調整し、その他の構成は実施例1の蛍光検出システム10と同じにした。
【0099】
そして、実施例1の検討3と同様に、単芯ファイバ1Aから主波長470nmの励起光を、単芯ファイバ1Bから主波長532nmの励起光を、単芯ファイバ1Cから主波長632nmの励起光をそれぞれ出射して被測定対象物31a,31b,31cに照射し、各被測定対象物から発生した各蛍光の受光量を測定し、SN比を算出して下記表3に示した。同様に、WDを7mmに調整し、単芯ファイバ1A,1B,1Cから各励起光を出射し、各蛍光の受光量を測定し、SN比を算出して下記表4に示した。
【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
表3において、いずれの蛍光においても約20dBのSN比が得られた。さらに、表4において、いずれの蛍光においても、約30dBのSN比が得られた。表3及び表4からも、いずれの蛍光であっても、WDが6mm以上であれば、20dB以上のSN比が得られることがわかった。
【0103】
実施例3
蛍光検出システム10において、実施例2とは異なり、レンズ4には、直径1.8mm、長さ4.63mmのGRINレンズ(日本板硝子社製)を用い、励起光及び蛍光の反射を低減させるためにレンズ4の表面には反射防止膜を施した。先端部20を直径1.8mmの口金で嵌合し、円筒形のキャピラリ3により先端部20とレンズ4を接着固定した。尚、レンズ4と端面20との距離は2mmに設計した。
【0104】
光源7A,7B,7Cには、LED光源(日亜化学工業社製)を用い、さらに、透過波長域が470nm±10nmのバンドパスフィルタを設けた。また、受光器8a,8b,8cには、光電子増倍管(浜松ホトニクス社製)を用い、さらに、検出する蛍光の波長に対応させて、受光器8a,8b,8cに、それぞれ透過波長域が532nm±5nmのバンドパスフィルタ設けた。
【0105】
被測定対象物5として、FITCを10μMの濃度となるように調製した水溶液を用い、図11に示すように、FITC水溶液を31a、31b及び31cの位置となるようにスライドガラス上に滴下した。また、WDを1.73mmに調整し、その他の構成は実施例2の蛍光検出システム10と同じにした。
【0106】
そして、実施例2と同様に、単芯ファイバ1A,1B,1Cのそれぞれから励起光を出射して31a,31b,31cに照射し、被測定対象物31a,31b,31cから発生した各蛍光の受光量を測定し、SN比を算出して下記表5に示した。同様に、WDを1.35mmに調整し、単芯ファイバ1A,1B,1Cのそれぞれから各励起光を出射し、各蛍光の受光量を測定し、SN比を算出して下記表6に示した。
【0107】
【表5】

【0108】
【表6】

【0109】
表5及び表6において、受光器8aの受光量を示している。O(a.u.)、On(a.u.)及びOs(a.u.)の意味は、表3及び表4と同じである。
【0110】
表5において、約20dBのSN比が得られた。また、受光器8b,8cにおいても、同様の結果が得られた。さらに、表6において、30dB以上のSN比で受光すべき波長の蛍光を受光することができた。
【0111】
実施例4
次に、蛍光検出システム10において、実施例3とは異なり、光源7A,7B,7Cには、それぞれ透過波長域が470nm±10nm、532nm±10nm、632nm±10nm、のバンドパスフィルタ設けた。
【0112】
また、受光器8a,8b,8cには、検出する蛍光の波長に対応させて、受光器8a,8b,8cには、それぞれ透過波長域が532nm±5nm、580nm±5nm、680nm±5nm、のバンドパスフィルタ設けた。その他の構成は実施例3の蛍光検出システムと同じにした。そして、WDを変化させながら、各励起光それぞれを出射して被測定対象物31a,31b,31cから発生した各蛍光の受光量を測定し、SN比を算出して図12に示した。
【0113】
図12において、縦軸は各蛍光の受光量の出力(a.u.)を、横軸はWD(mm)を示している。図内の実線は単芯ファイバ1A,1B,1Cから各励起光を出射した時に受光器8aに受光された532nmの波長の蛍光の出力の変化を、グラフ内の一点鎖線は単芯ファイバ1A,1B,1Cから各励起光を出射した時に受光器8bに受光された580nmの波長の蛍光の出力の変化を、グラフ内の点線は単芯ファイバ1A,1B,1Cから各励起光を出射した時に受光器8cに受光された680nmの波長の蛍光の出力の変化を示している。また、グラフ内の黒三角でプロットした実線は受光器8aのSN比の変化を、グラフ内の×印でプロットした実線は受光器8bのSN比の変化を、グラフ内の白丸でプロットした実線は受光器8cのSN比の変化を示している。
【0114】
図12より、いずれの波長においても、WDが1.2mm以上且つ1.4mm以下であれば、20dB以上のSN比が得られることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の実施の形態に係る蛍光検出システムの構成を概略的に示す図である。
【図2】図1における先端部の構成を概略的に示す図である。
【図3】図2における端面の構成を概略的に示す図である。
【図4】図1におけるキャピラリとその周辺構造部品との関係を示す断面図である。
【図5】本発明における被測定対象物の変形例を示す図である。
【図6】本発明における光ファイバの配置の変形例を示す図である。
【図7】励起光透過率とレンズ及び先端部の間の距離との関係を示すグラフである。
【図8】レンズ及び被測定対象物の間の距離と、励起光の照射スポットの直径との関係、並びに、レンズ及び被測定対象物の間の距離と、励起光の照射スポットの中心間の距離との関係を示すグラフであり、図8(A)は470nm,532nmの励起光を照射した場合であり、図8(B)は532nm,632nmの励起光を照射した場合であり、図8(C)は632nm,470nmの励起光を照射した場合である。
【図9】ハーフドラムレンズを用いた場合における、WDを変化させたときの蛍光の出力及び蛍光のSN比を示すグラフであり、図9(A)は532nmの波長の蛍光の受光量とWDとの関係を示す場合であり、図9(B)は580nmの波長の蛍光の受光量とWDとの関係を示す場合であり、図9(C)は680nmの波長の蛍光の受光量とWDとの関係を示す場合である。
【図10】図9(A)乃至(C)における各実線と各太実線とを抽出して重ねたグラフである。
【図11】実施例2における被測定対象物の配置を概略的に示す図である。
【図12】ロッドレンズを用いた場合における、WDを変化させたときの蛍光の出力及び蛍光のSN比を示すグラフである。
【符号の説明】
【0116】
1A,1B,1C 励起光用光ファイバ群
2a,2b,2c 蛍光用光ファイバ群
3 キャピラリ
4 レンズ
5 被測定対象物
6 マイクロウェル
7A,7B,7C 光源
8a,8b,8c 受光器
9a,9b,9c カットフィルタ
20 先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を出射する光源と、前記励起光が照射された被測定対象物から発生する蛍光を受光する受光部とを備える蛍光検出システムにおいて、
前記光源と光学的に接続された一端から前記励起光が入射され、前記被測定対象物と対向して配される他端から前記励起光が出射される少なくとも1つの光ファイバからなる励起光用光ファイバ群の複数と、
前記被測定対象物と対向して配される一端から前記蛍光が入射され、前記受光部と光学的に接続された他端から前記蛍光が出射される少なくとも1つの光ファイバからなる蛍光用光ファイバ群の複数と、
前記複数の励起光用光ファイバ群の他端と前記複数の蛍光用光ファイバ群の一端とが一束化された先端部と、
前記先端部と前記被測定対象物の間に配置されたレンズと、
前記先端部と前記レンズとを離間して一体的に保持する保持部とを備え、
前記先端部において、前記複数の励起光用光ファイバ群の各々は互いに隣接しないように配置されることを特徴とする蛍光検出システム。
【請求項2】
前記先端部において、各前記蛍光用光ファイバ群を構成する複数の光ファイバは各前記励起光用光ファイバ群を中心とする略同心円状に配列され、かつ、前記複数の蛍光用光ファイバ群は各々異なる前記励起光用光ファイバ群を中心とすることを特徴とする請求項1記載の蛍光検出システム。
【請求項3】
前記先端部において、前記複数の蛍光用光ファイバ群及び前記複数の励起光用光ファイバ群を構成する前記光ファイバのうち、隣接する前記光ファイバ同士は互いに接することを特徴とする請求項1又は2記載の蛍光検出システム。
【請求項4】
前記略同心円状に配列された各前記蛍光用光ファイバ群を構成する前記光ファイバは、中心角が少なくとも90度以上の略円弧状に配列されることを特徴とする請求項2又は3記載の蛍光検出システム。
【請求項5】
前記レンズと前記先端部の間の第1の距離は、前記レンズのバックフォーカスの距離よりも大きく、かつ、前記励起光の前記レンズの透過率が70%以上となる距離であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蛍光検出システム。
【請求項6】
前記レンズと前記被測定対象物の間の第2の距離は、前記被測定対象物の表面での前記励起光の照射スポットの直径が、隣り合う前記照射スポットの中心間の距離よりも小さくなる距離であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の蛍光検出システム。
【請求項7】
前記レンズと前記被測定対象物の間の第2の距離は、1つの前記蛍光用光ファイバ群に入射される前記蛍光の光量について、当該蛍光用光ファイバ群の中心に該当しない前記励起光用光ファイバ群から出射された励起光に起因する蛍光の光量に対する、前記中心に該当する前記励起光用光ファイバ群から出射された励起光に起因する蛍光の光量の比が20dB以上となる距離であることを特徴とする請求項2記載の蛍光検出システム。
【請求項8】
3つの前記励起光用光ファイバ群と、3つの前記蛍光用光ファイバ群とを備え、各前記励起光用光ファイバ群は1つの光ファイバからなり、各前記蛍光用光ファイバ群は3つの光ファイバからなり、前記レンズはハーフドラムレンズからなることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の蛍光検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−19961(P2009−19961A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−182007(P2007−182007)
【出願日】平成19年7月11日(2007.7.11)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】