説明

蛍光温度センサ

【課題】接触式の蛍光温度センサにおいて、センサプローブ先端の形状を変形させずに、高速応答で温度を測定することができる蛍光温度センサを提供する。
【解決手段】温度に基づいた蛍光を発する蛍光体4と、蛍光体4を保護するカバー6とを有するセンサプローブ2と、センサプローブ2に対して投受光を行う投受光部9,10と、投受光部9,10が受光する受光量に基づき被測定面の温度を算出する処理部11とを備えた蛍光温度センサ1において、カバー6の被測定面と接触する面には凹凸が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、温度により蛍光特性が変化する蛍光体を用いて温度を測定する蛍光温度センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
温度センサとして、蛍光体を用いた蛍光温度センサが広く利用されている。この蛍光温度センサは、温度により蛍光特性が変化する蛍光体を用いることにより温度を測定する。具体的には、光源からの励起光を蛍光体に照射して、蛍光体で発生した蛍光を検出する。そして、検出された蛍光の蛍光寿命などの蛍光特性の変化によって、温度を測定する。
【0003】
接触式の蛍光温度センサのセンサプローブでは、被測定面との熱伝達をよくするために、機械的に被測定面にセンサプローブ先端を押し付ける構造を有している。これにより、被測定面における温度変化に応じた熱伝達が迅速に行われ、センサとしての応答性を改善できる効果がある。
【0004】
また、さらに応答性を改善するために、蛍光温度センサのセンサプローブ先端の被測定面への押し付けに応じてセンサプローブ先端面が機械的に変形するように、ダイアフラムを備えた方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このセンサプローブ先端に備えられるダイアフラムを被測定面に押し付け、変形させることにより、蛍光温度センサのセンサプローブ先端面と被測定面との接触面積が増し、熱伝達がスムーズに行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特開第4752141号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された蛍光温度センサのセンサプローブでは、被測定面の温度測定の際、センサプローブの被測定面への押し付けによって、先端に備えられたダイアフラムが変形するため、その押し付け量に応じて、センサプローブ先端面と被測定面との接触面積が広がり、ダイアフラムの形状が一定になるまでの時間がかかるため、被測定面とセンサプローブ先端との温度が熱平衡状態になるまでに時間がかかり、センサとしての応答性が悪くなるという課題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、接触式の蛍光温度センサにおいて、センサプローブ先端の形状を変形させずに、高速応答で温度測定を行うことができる蛍光温度センサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る蛍光温度センサは、温度に基づいた蛍光を発する蛍光体と、蛍光体を保護するカバーとを有するセンサプローブと、センサプローブに対して投受光を行う投受光部と、投受光部が受光する受光量に基づき被測定面の温度を算出する処理部とを備えた蛍光温度センサにおいて、カバーの被測定面と接触する面には凹凸が形成されるものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、上記のように構成したので、蛍光温度センサのセンサプローブ先端と被測定面との接触面積を増やし、熱伝達を良好にすることで、応答性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施の形態1に係る蛍光温度センサの構造を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1におけるセンサプローブの表面形状決定処理を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態1に係る蛍光温度センサが測定する被測定面の表面粗さを導出する例を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る蛍光温度センサが測定する被測定面の表面粗さを導出する他の例を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る蛍光温度センサが測定する被測定面の表面粗さを導出するさらに他の例を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態1におけるセンサプローブと被測定面との接触面積の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る蛍光温度センサ1の構造を示す図である。
図1に示すように、蛍光温度センサ1は、被測定面に接触させ、温度に応じた蛍光を発光するためのセンサプローブ2と、センサプローブ2に励起光を投光し、センサプローブ2からの蛍光を受光し、その受光量から被測定面の温度測定を行うためのセンサモジュール3とにより構成される。
【0012】
センサプローブ2は、図1に示すように、センサモジュール3より投光される励起光により蛍光を発光する蛍光体4と、センサモジュール3により投光される励起光を蛍光体4に導光し、蛍光体4が発する蛍光をセンサモジュール3に導光するため、センサモジュール3と蛍光体4間に接続される光ファイバ5と、センサプローブ2の先端に設けられ、蛍光体4を覆い、表面に凹凸が形成されるカバー6と、光ファイバ5に傷が付かないように保護するための保護管7とにより構成される。
【0013】
センサモジュール3は、図1に示すように、駆動部8により、センサプローブ2に設けられる蛍光体4に励起光を投光するための投光部9と、センサプローブ2に設けられる蛍光体4が発する蛍光を受光するための受光部10と、受光部10が受光した受光量に基づいて、被測定面の温度を算出するための処理部11とにより構成される。
【0014】
次に、上記のように構成される蛍光温度センサ1の動作について説明する。
まず、蛍光温度センサ1のセンサプローブ2先端に設けられる蛍光体4が収納されるカバー6表面を被測定面に接触させる。次いで、投光部9から励起光が蛍光体4に投光される。この投光部9から投光された励起光により蛍光体4は蛍光を発光する。受光部10はこの蛍光体4が発光する蛍光を受光している。このときの受光部10が受光する受光量は、処理部11により逐一計測されている。次いで、投光部9は、蛍光体4への励起光の投光を停止する。これにより、蛍光体4は消光する。この蛍光体4の消光速度は温度が高くなるほど速くなる。この蛍光体4の消光速度を処理部11が計測することにより、被測定面の温度を計測する。
【0015】
次に、蛍光温度センサ1のセンサプローブ2先端に設けられるカバー6の表面形状の決定方法について説明する。
図2はこの発明の実施の形態1におけるセンサプローブ2の表面形状決定処理を示すフローチャートである。
【0016】
センサプローブ2先端に設けられるカバー6の表面形状決定処理では、図2に示すように、まず、被測定面の表面形状を測定する(ステップST1)。すなわち、蛍光温度センサ1により温度測定を行う被測定面の表面形状を測定する。この被測定面の表面形状測定では、触針式粗さ計、レーザによる表面散乱等の方法により測定を行う。
【0017】
次いで、被測定面の表面粗さを導出する(ステップST2)。すなわち、ステップST1において測定された表面形状の測定データから、被測定面の表面粗さを導出する。このステップST2における、被測定面の表面粗さの導出の詳細については後述する。
【0018】
次いで、センサプローブ2の表面形状を決定する(ステップST3)。すなわち、ステップST2において導出された被測定面の表面粗さと一致するように、センサプローブ2先端に設けられるカバー6の表面形状を決定する。
【0019】
次いで、センサプローブ2の表面加工方法を決定する(ステップST4)。すなわち、ステップST3において決定されたセンサプローブ2先端に設けられるカバー6の表面形状から、この表面形状に加工するための道具、加工条件等を決定する。このカバー6の表面形状の加工方法として、回転研磨による加工方法、ブレード等の冶具を用いた切削による加工方法等が挙げられる。
以上の工程によりセンサプローブ2先端に設けられるカバー6の表面形状を決定することができる。
【0020】
次に、図2のステップST2における被測定面の表面粗さの導出について説明する。
図3〜図5はこの発明の実施の形態1に係る蛍光温度センサ1が測定する被測定面の表面粗さを導出する例を示す図である。
【0021】
図3は被測定面の表面粗さを中心線平均粗さRaにより導出する方法について示したものであり、図2のステップST1において得られる被測定面の表面形状データから、ある測定長さLでの粗さ曲線f(x)を導出し、図3に示すように、この粗さ曲線f(x)を基準線で折り返し、この粗さ曲線f(x)と基準線とで挟まれる面積の合計を測定長さLで割った値である中心線平均粗さRaを被測定面の表面粗さとして導出する。
【0022】
図4は被測定面の表面粗さを最大高さRmaxにより導出する方法について示したものであり、図2のステップST1において得られる被測定面の表面形状データから、ある測定長さLでの粗さ曲線f(x)を導出し、図4に示すように、この粗さ曲線f(x)の、基準線に対する、山の最大高さ及び谷の最大深さとの和である最大高さRmaxを被測定面の表面粗さとして導出する。
【0023】
図5は被測定面の表面粗さを十点平均高さRzにより導出する方法について示したものであり、図2のステップST1において得られる被測定面の表面形状データから、ある測定長さLでの粗さ曲線f(x)を導出し、図5に示すように、基準線に対して、山の高い順に5番目までの山と基準線との差の平均値(R+R+R+R+R)/5と、谷の深い順に5番目までの谷と基準線との差の平均値(R+R+R+R+R10)/5との差分値である十点平均高さRzを被測定面の表面粗さとして導出する。
【0024】
また、被測定面の表面粗さを空間周波数kにより導出する方法では、図2のステップST1において得られる被測定面の表面形状データをフーリエ変換することにより得られる表面形状の空間周波数kを被測定面の表面粗さとして導出する。
【0025】
次に、蛍光温度センサ1のセンサプローブ2先端の表面粗さと被測定面の表面粗さによる接触面積の関係について説明する。
図6はこの発明の実施の形態1におけるセンサプローブ2と被測定面との接触面積の関係を示す図である。この図6では、表面粗さとして空間周波数を用いた際のカバー6の表面粗さと被測定面の表面粗さによる接触面積の関係を示す。
【0026】
図6に示すように、蛍光温度センサ1のセンサプローブ2先端に設けられるカバー6の粗面形状をAsin(Ωz)とし、被測定面の粗面形状をBsin(kz)とする。ここで、Aはカバー6の粗面形状の深さであり、Bは被測定面の粗面形状の深さであり、Ωはカバー6の粗面形状の空間周波数であり、kは被測定面の粗面形状の空間周波数である。また、以下説明の簡略化のため、カバー6の粗面形状の深さAと被測定面の粗面形状の深さBとは一致しているものとする(A=B)。
【0027】
図6(a)に示すように、センサプローブ2先端に設けられるカバー6の表面粗さをなくし、Ω≒0とした場合、センサプローブ2に設けられるカバー6は被測定面の凹凸に入り込むことはできず、被測定面とは点接触をしている状態となり、センサプローブ2に設けられるカバー6の表面と被測定面との接触面積が少ないため、熱伝達が悪く、センサとしての応答性は悪くなる。
【0028】
次に、図6(b)に示すように、センサプローブ2先端に設けられるカバー6の表面粗さを、被測定面の表面粗さに近づけていくと、センサプローブ2に設けられるカバー6と被測定面の接触面積が増大し、熱伝達が良好となり、センサとしての応答性がよくなる。
【0029】
さらにセンサプローブ2先端に設けられるカバー6の表面粗さを、被測定面の表面粗さに近づけて、一致させると、図6(c)に示すように、センサプローブ2に設けられるカバー6と被測定面との凹凸が噛み合うことで、接触面積が増大し、熱伝達が良好となり、センサとしての応答性がよくなる。
【0030】
一方、センサプローブ2先端に設けられるカバー6の表面粗さを、被測定面の表面粗さに対して大きくすると、図6(d)に示すように、センサプローブ2に設けられるカバー6と被測定面との凹凸の噛み合わせが悪くなり、接触面積が小さくなるので、熱伝達が悪化し、センサとしての応答性が悪くなる。
【0031】
このように、蛍光温度センサ1のセンサプローブ2先端に設けられるカバー6に凹凸を形成し、カバー6の表面粗さと被測定面の表面粗さとを一致させることにより、センサプローブ2先端に設けられるカバー6の表面と被測定面との接触面積が増大し、熱伝達が良くなることで、良好な温度測定を行うことができる。
【0032】
以上のように、この実施の形態1によれば、蛍光温度センサ1のセンサプローブ2先端に設けられるカバー6に凹凸を形成して、カバー6の表面粗さを、温度測定を行う被測定面の表面粗さと一致するように構成したので、センサプローブ2の先端に設けられるカバー6と被測定面との接触面積が増え、熱伝達がよくなるので、センサとしての応答性を改善することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 蛍光温度センサ
2 センサプローブ
3 センサモジュール
4 蛍光体
5 光ファイバ
6 カバー
7 保護管
8 駆動部
9 投光部
10 受光部
11 処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度に基づいた蛍光を発する蛍光体と、前記蛍光体を保護するカバーとを有するセンサプローブと、
前記センサプローブに対して投受光を行う投受光部と、
前記投受光部が受光する受光量に基づき被測定面の温度を算出する処理部とを備えた蛍光温度センサにおいて、
前記カバーの前記被測定面と接触する面には凹凸が形成されることを特徴とする蛍光温度センサ。
【請求項2】
前記カバーの前記被測定面と接触する面の表面粗さは、予め測定された前記被測定面の表面形状データから導出される表面粗さと一致することを特徴とする請求項1記載の蛍光温度センサ。
【請求項3】
前記被測定面の表面粗さは、前記被測定面の表面形状データから所定の測定長さでの粗さ曲線を導出し、当該粗さ曲線と基準線とで挟まれる面積の合計を前記所定の測定長さで割ることにより導出される中心線平均粗さRaであることを特徴とする請求項2記載の蛍光温度センサ。
【請求項4】
前記被測定面の表面粗さは、前記被測定面の表面形状データから所定の測定長さでの粗さ曲線を導出し、当該粗さ曲線の、基準線に対する、山の最大高さ及び谷の最大深さとの和により導出される最大高さRmaxであることを特徴とする請求項2記載の蛍光温度センサ。
【請求項5】
前記被測定面の表面粗さは、前記被測定面の表面形状データから所定の測定長さでの粗さ曲線を導出し、当該粗さ曲線において、山の高い順に5番目までの山と基準線との差の平均値と、谷の深い順に5番目までの谷と基準線との差の平均値との差により導出される十点平均高さRzであることを特徴とする請求項2記載の蛍光温度センサ。
【請求項6】
前記被測定面の表面粗さは、前記被測定面の表面形状データをフーリエ変換することにより導出される空間周波数であることを特徴とする請求項2記載の蛍光温度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−210248(P2010−210248A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53378(P2009−53378)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000006666)株式会社山武 (1,808)