説明

蛍光測定

試料領域に光を放射する、光源輝度が変調可能な光源と、試料領域に位置する指示薬システムであって、被分析物用の受容体と、前記受容体に関連付けられた蛍光団とを含み、蛍光団が受容体における被分析物の存在に応じて変化する蛍光寿命を有して成る指示薬システムと、光源から試料領域に入射する光に応答して試料領域から放射される蛍光光を受光し、かつ出力信号を発生する単一光子アバランシェダイオードと、第1周波数で光源輝度を変調する駆動装置と、単一光子アバランシェダイオードの降伏電圧より高く、第1周波数とは異なる第2周波数で変調されるバイアス電圧を、単一光子アバランシェダイオードに印加するバイアス電圧源と、単一光子アバランシェダイオードの少なくとも出力信号に基づいて蛍光団の蛍光寿命に関する情報を決定するように構成された信号処理装置とを備えた蛍光測定用のセンサ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の蛍光を測定するため、例えば蛍光寿命を測定するための、または蛍光寿命に関係する試料の特性を測定するための、センサおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光測定、特に蛍光寿命の測定は、光化学および光物理学的研究において実務的にかなり重要である。最近、センサ応用のために蛍光寿命測定を利用することに関心が集まるようになってきた。しかし、絶対的にも、励起光の強度に対して相対的にも、蛍光光の強度が低いことなど、かなりの実務的問題が存在する。さらに、例えばグルコース検知分野において重要な蛍光寿命は約10ns程度と極めて短い。
【0003】
蛍光寿命測定には主に、時間領域および周波数領域の2つの手法が存在する。各方法は、フーリエ変換を介して互いに関係しているので、原則的に同一の結果を得る。
【0004】
時間領域システムは、パルスレーザ、LED、またはナノ秒フラッシュランプを励起光源として使用して、主として時間相関単一光子計数技術を使用してきた。該技術は、時間波高変換器を用いてスタートおよびストップパルス事象(スタートは励起パルスであり、ストップは蛍光光子の検出である)間の時間差を測定するものである。基本的に、該システムは超高速ストップウォッチとして働く。繰返しパルス測定により、蛍光システムの減衰曲線の統計学的表現が構築される。
【0005】
代替的時間領域手法は、均一な強度の一連のレーザパルスを必要とする、いわゆるボックスカー・アベレージャ・システムを使用するものである。これは、高い出力安定性を達成するためにパルスレーザのコストが高くなるか、あるいは信号対雑音比が悪化し、したがって測定の精度が低下することを意味する。さらに、レーザパルスのピークパワーは非常に高くなることがあり、結果的に調査対象の試料のフォトブリーチングを発生させ、したがって蛍光光の測定強度の不正確さを引き起こし得る。
【0006】
第2の手法は、従来から変調励起光源を利用する周波数領域計器である。測定は種々の変調周波数で行なわれ、各周波数における受信信号の変調度の変化と共に位相差(すなわち遅れ)が測定される。従来の周波数領域システムは、ポケットセルとキセノンランプ、またはレーザシステムを使用する場合、励起変調を発生させるためにパワー高周波(RF)回路を必要とする。典型的には光電子増倍管検出器が使用され、これもまた同様のパワーRF発生器を用いて変調する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、蛍光測定のための従来のシステムは大型であり、扱いにくく、高パワー要件を有し、かつ一般的に、測定を準備して実行し、有用な結果を得るためには、専門的なオペレータを必要とする。
【0008】
したがって、例えば糖尿病患者の血糖値に対する医用監視のような用途向けの、例えば家庭用または診療所用の小型かつ安価で使用が容易な低電力装置の製造において問題が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、
試料に光を放射するように構成された光源であって、光源輝度が変調可能である光源と、
試料領域に位置する指示薬システムであって、被分析物用の受容体と、前記受容体に関連付けられた蛍光団とを含み、蛍光団が受容体における被分析物の存在に応じて変化する蛍光寿命を有して成る、前記指示薬システムと、
光源から試料領域に入射した光に応答して、前記試料領域から放射された蛍光光を受光しかつ出力信号を発生するように構成された、単一光子アバランシェダイオードと、
第1周波数で光源輝度を変調するように構成された駆動装置と、
単一光子アバランシェダイオードにバイアス電圧を印加するように構成されたバイアス電圧源であって、バイアス電圧が第1周波数とは異なる第2周波数で変調され、かつバイアス電圧が単一光子アバランシェダイオードの降伏電圧より高くなるようにしたバイアス電圧源と、
単一光子アバランシェダイオードの少なくとも出力信号に基づいて蛍光団の蛍光寿命に関する情報を決定するように構成された信号処理装置と、
を備えた蛍光センサを提供する。
【0010】
好ましくは、被分析物センサはグルコースセンサである。
【0011】
また、
被分析物用の受容体と、前記受容体に関連付けられた蛍光団とを含む指示薬システムを含む試料領域に、光源から光を放射するステップであって、蛍光団が受容体における被分析物の存在に応じて変化する蛍光寿命を有する、ステップと、
光源から試料領域に入射した光に応答して前記試料領域から放出された蛍光光を、単一光子アバランシェダイオードを用いて受光し、かつ出力信号を発生するステップと、
第1周波数で光源輝度を変調するステップと、
第1周波数とは異なる第2周波数で変調されるバイアス電圧であって、単一光子アバランシェダイオードの降伏電圧より高いバイアス電圧を、単一光子アバランシェダイオードに印加するステップと、
単一光子アバランシェダイオードの少なくとも出力信号に基づいて、蛍光団の蛍光寿命に関する情報を決定するステップと、
を含む蛍光検知の方法をも提供する。
【0012】
好ましくは、被分析物はグルコースである。
【0013】
好適な実施形態では、光検出器は単一光子アバランシェダイオードである。光源によって放射される光の強度は、第1周波数で変調され、単一光子アバランシェダイオードに印加されるバイアス電圧は、第1周波数とは異なる第2周波数で変調される。バイアス電圧は単一光子アバランシェダイオードの降伏電圧より高い。バイアス電圧のこの選択は、検出器の単一光子感度が維持されることを意味するが、ヘテロダイン測定法を使用することができるという利点をも有する。換言すると、単一光子アバランシェダイオードから結果的に得られる重要な測定信号は、第1および第2周波数間の差に相当する周波数である。第1および第2周波数は約1MHz程度またはずっと高くすることができるが、それらの差が例えば数十kHz程度となるように選択することができる。したがって、測定用電子機器の動作帯域幅は、第1および第2変調周波数よりずっと低くすることができ、設計を単純化しかつ雑音感度を引き下げることが可能になる。
【0014】
さらなる有利な態様は、光源用の変調信号に一連の追加位相角(すなわち位相シフトに匹敵する時間遅延)を導入するものである。その後、測定信号の変調度を導入された位相角に関連付けて、一連の測定値を得ることができる。これらの結果を解析することにより、蛍光寿命測定の全体的精度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の蛍光センサの略図である。
【図2】本発明の好適な実施形態に係る被分析物濃度測定方法のフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係るグルコース検知システムの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、蛍光測定のためのセンサおよび測定方法を提供する。好適な実施形態は、以下でさらに詳述する通り、グルコース濃度の測定に関する。最初に、蛍光センサの一般的構成および動作について説明する。
【0017】
図1は、本発明に係る蛍光センサの実施形態を概略的に示す。信号発生装置10は第1周波数の高周波周期信号を生成し、この高周波周期信号は駆動装置12に渡される。駆動装置12は第1信号を調整し、次いでそれを使用して光源14の変調を駆動することができる。光源14は、調査対象の蛍光システムを刺激するために使用される励起光を発生する。光源14は、例えばLEDまたはレーザダイオードとすることができる。好ましくは、光源14は温度安定化される。光源の出力波長の選択は、調査対象の試料に適合して、試料における遷移を刺激するように行なわれる。「光」という用語は、光源の放射波長に対する特定の制約を暗示する意図はなく、特に可視光に制限されない。光源14は励起の波長を選択するために光学フィルタを含むことができるが、光源が充分に狭い帯域を有するか、あるいは単色である場合には、このフィルタリングは不要である。
【0018】
駆動装置12は、励起光の強度(振幅)を変調するように光源14を駆動する。好ましくは、この駆動は、光源を電子的に変調して発光強度を変動させる駆動装置12によって行なわれる。代替的に、光源14は、最終出力強度を変更するために可変光変調器を含むことができる。信号発生装置10および駆動装置12によって制御される、光源14からの光の強度の変調の形状(波形)は、正弦波、三角波、またはパルス波を含め、状況に応じて種々の形を取ることができるが、変調は第1周波数で周期的である。
【0019】
光源14から出力される光は、試料領域に位置する試料16に伝送される。図1では、光ファイバ18が使用され、かつ光ファイバ18に入出射する光を結合するために適切なカプラ(図示せず)が使用される。しかし、伝送は、他の形の導波管または自由空間光学系のような代替的手段によって行なうことができる。
【0020】
調査対象の試料16は特定の相に制限されず、例えば固体または水溶液とすることができる。特定の例として、グルコース監視のためにグルコースを含有する血液と接触する蛍光団がある。試料16は離散試料セル内に入れることができ、あるいは1つの好適な実施形態では、光ファイバ18の遠位端内にまたは遠位端上に密接に設けられる。調査対象の試料は光源14から受光した励起光の一部を吸収し、その後すぐに典型的にはより長い波長の蛍光光を放射する。光源14が単一パルスを放射した場合、放射される蛍光光の強度は指数関数的減衰を示し、この減衰の半減期が蛍光寿命になる。しかし、光源14の出力は周期的に変調されるので、蛍光光もまた事実上同一の基本第1周波数で変調される。しかし、試料16の蛍光挙動のため、蛍光放射光に導入される時間遅延が存在する。これは、励起光の変調と蛍光光の変調との間の位相遅延として顕現する。
【0021】
本発明の1つの実施形態では、蛍光信号は温度補正することができる。この実施形態では、熱電対(サーミスタまたは他の温度プローブ)(図示せず)は試料位置に配置される。
【0022】
放射蛍光光は、再び自由空間光学系または光ファイバのような導波管を用いて検出器20に伝送される。図1に示す実施形態では、光ファイバ18は、蛍光光の一部を検出器20に向かわせるスプリッタを含む。検出器20に到達することのできる光の波長を制限するために、例えば関心のある蛍光波長を除いて実質的に全ての光を遮断するように、光学フィルタ(図示せず)を設けることができる。検出器20は単一光子アバランシェダイオード(SPAD)(フォトダイオードの一種)である。適切なSPADとしては、SensL SPMMicro、Hamamatsu MPPC、Idquantique ID101、および他の同様のデバイスがある。(単一光子アバランシェダイオードは、ガイガーモードAPDまたはG‐APDとしても知られる。APDはアバランシェフォトダイオードの略語である。)単一光子アバランシェダイオード検出器20は、低い降伏電圧(閾値)または高い降伏電圧のいずれかを有する種類とすることができる。バイアス電圧が単一光子アバランシェダイオードの降伏電圧より高くなるように、バイアス電圧源22によって、バイアス電圧が単一光子アバランシェダイオード検出器に印加される。この状態で、検出器20は非常に高い感度を有するので、単一光子を受け取ると出力電流パルスを生じ、したがって、強度が非常に低い場合でも、総出力電流は受光した光強度に関係する。
【0023】
バイアス電圧源22は信号発生装置10から第2周波数の周期信号を受信し、単一光子アバランシェダイオード検出器20に印加されるバイアス電圧は、その第2周波数で変調される。好適な実施形態では、単一光子アバランシェダイオード検出器は低電圧型であり、平均バイアス電圧はDC25〜35Vの領域にあるが、第2周波数で典型的には3〜4Vの変調度で、実際のデバイスの降伏電圧に応じてより高く、またはより低くすることができる。変調の波形は、光源の変調の波形と同様に、なんらかの特定の形には限定されないが、典型的には正弦波である。検出器20の出力は信号処理装置24に渡される。単一光子アバランシェダイオードのアナログ出力信号がデジタル領域に変換されるように、アナログデジタル変換器(ADC)(図示せず)を設けることができ、信号処理装置24はデジタル信号処理(DSP)を使用することができる。
【0024】
バイアス電圧の変調は、単一光子アバランシェダイオード検出器20の利得を変調する。光源14と、したがって受け取る蛍光光は第1周波数で変調されるが、単一光子アバランシェダイオード検出器20のバイアス電圧は、第1周波数とは異なる第2周波数で変調される。この変調は、第1周波数と第2周波数との間の差に等しい周波数の解析信号に対し動作する信号処理装置24によってヘテロダイン測定法を使用することを可能にする。そのため、例えば低周波ADCおよび低周波信号処理装置24を使用して、測定電子機器の動作帯域幅を低減することが可能になる。したがって、雑音の影響をあまり受けずに、簡素化されたより安価な電子機器を使用することが可能になる。好ましくは、第1および第2周波数の差が10%未満なため、信号処理電子機器24は光源の変調周波数の10分の1未満で動作することができる。より好ましくは、周波数差は1%未満である。
【0025】
別の実施形態では、第1および第2周波数は名目上同一とすることができるが、(例えば、連続的に変動する遅延時間だけ1つの信号を他の信号に対して遅延させることによって)信号間に変動位相シフトが導入される。位相シフトは周期毎に変化するので、これは事実上、2つの異なる周波数を有することと同じである。好ましくは、導入される位相シフトは速やかに掃引される。
【0026】
信号処理装置24は、専用電子ハードウェアで、または汎用プロセッサで動作するソフトウェアで、または両方を組み合わせて実現することができる。好適な実施形態では、マイクロプロセッサ(図示せず)が、解析を実行する信号処理装置24と信号発生装置10の両方を制御する。したがって、信号処理装置24は光源変調信号周波数および位相、ならびに検出器バイアス電圧変調周波数および位相に関する情報を有する。
【0027】
光源の所要変調周波数は、部分的には所望の測定精度によって、かつ部分的には測定する必要のある最短蛍光寿命によって決定され、該最短蛍光寿命は試料によって異なるので、任意に選択することができない。一例では、第1周波数(光源輝度の変調周波数)は1.00MHzであり、第2周波数(単一光子アバランシェダイオード検出器20の利得を変調するバイアス電圧の変調周波数)は1.05MHzである。したがって差周波数は50kHzであり、これが、処理する必要のある解析信号の周波数である。信号発生装置10は単一高周波発振器を含むことができ、その出力は分周回路に通され、第1および第2周波数の信号を発生する。第1および第2周波数は、行なわれる特定の測定の必要に応じて、変更可能とすることができる。
【0028】
解析される信号から、かつ光源14の変調と検出器バイアス電圧の変調の両方の周波数および位相を知ることにより、信号処理装置24は原理的に、システムに導入される位相遅延を決定することができ、その一部は試料16の結果生じるものである。しかし、システムの各構成要素もまた時間遅延または位相遅延を導入する。したがって、最初に、測定はいかなる試料も存在しない状態で、または蛍光寿命が既知の(位相遅延が既知の)試料で行なわれる。これにより、電子および光学システムの固有遅延を得ることができ、固有遅延はこの遅延に関連付けられる位相角によって表わされる。これは、計器の較正をもたらす。次に、調査対象の試料が導入され、試料の蛍光はシステムの位相を変化させる。計器の固有位相シフトに対するこの位相変化は、純粋に試料に起因するはずである。試料から生じる位相シフトが分かると、蛍光寿命に関係する情報を決定することができる。例えば、光源14の位相および変調周波数が分かれば、蛍光寿命自体を直接得ることができる。しかし、センサ用途の場合、蛍光寿命は実際には最終的な所望の出力ではない。それどころか、測定されるパラメータは蛍光寿命に、ひいては位相遅延に影響を及ぼす。位相遅延から、例えば数学的関係を用いて計算することによって、またはルックアップテーブルから値を得ることによって、測定されるパラメータの値を得ることができる。要求される測定結果は次いで、出力26に提示される。出力された測定結果は、ディスプレイ(図示せず)に表示することができ、かつ/または後で検索できるようにメモリ(図示せず)に記録することができる。
【0029】
上述した方法は基本的に単一データ点を使用して、所望の蛍光関連情報を導出する。しかし、本発明のさらなる好適な実施形態では、試料16が存在する状態で一連の測定が実行されるが、各測定に対し、位相角を制御可能に進角または遅角させることができるように、異なる位相シフトおよび/または周波数差が電子的に導入される。信号発生装置10によって生成される2つの信号波形は、互いに異なる第1および第2周波数での波形であるので、これらの周波数の信号の相対位相は時間と共に変化する。しかし、装置は、例えば2つの周波数における波形が特定の瞬間に同期することができ、かつ次いで他の時間における実際の位相シフトを算出することができるように、制御される。一例では、測定は、10kHz、20kHz、および30kHzの周波数差をシフトして繰り返される。さらに、波形が既知の初期位相差を有するように、同期点に特定の位相シフトを導入することができる。導入される各位相角シフトに対し、位相変調空間を効果的に計画するために、解析される信号の変調度が得られる。導入する位相角は、例えば0〜180度まで5度ずつ増分することができる。その結果、変調度を導入された位相角に関係付ける一連のデータ点が得られる。これらのデータ点は、例えば曲線当てはめによって、かつ/または試料が存在しない状態または1つ以上の標準較正試料が存在する状態のいずれかで位相角に対する変調度の較正データとの比較によって、解析することのできるグラフを構成する。一般的に、異なる初期位相差および/または異なる周波数差を用いた測定の結果を集約することができ、したがって、全体的測定精度を向上することができる。
【0030】
上記の発明を具現する方法の要旨を、図2のフローチャートに概略的に示す。
【0031】
較正データは、試料に対して実行される測定と同時に得ることができ、あるいは較正データの一部または全部を事前に得てメモリ(図示せず)に保存することができる。センサ装置全体をマイクロプロセッサ(図示せず)によって制御することができる。図1は多数の離散電子回路要素を示すが、これらの要素の少なくとも一部は、フィールドプログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)または特定用途向け集積回路(ASIC)のような単一集積回路に統合することができる。
【0032】
蛍光寿命の測定に加えて、該装置は、単一光子計数条件下で試料16からの発光強度を直接測定することもできる。これにより、寿命測定と強度測定の両方を組み合わせることで、試料のより強力な解析が可能になる。
【0033】
単一蛍光寿命に関して上述したが、該センサはいうまでもなく、試料が2つ以上の蛍光発光を有する場合、複数の蛍光寿命を同時に測定することができる。
【0034】
本発明のセンサは、被分析物の存在に応じて蛍光寿命が変化するように構成された適切な指示薬システムが設けられた場合、被分析物の存在の定量的測定に使用することができる。ここで、被分析物がグルコースの場合について、本発明の例示的応用を説明する。この場合、「試料」は、選択的にグルコースに結合する受容体と受容体に関連付けられた蛍光団とを含む指示薬システムを含む。グルコース値を測定しようとする被検者の血液または間質液のような体液が、指示薬システムに導入される。体液中のグルコースが指示薬システムと接触すると、受容体とグルコース分子との間で結合が生じる。受容体に結合されたグルコース分子の存在は、蛍光団の蛍光寿命の変化を引き起こす。したがって、指示薬システム中の蛍光団の寿命を監視することにより、受容体に結合されたグルコースの量が指し示され、したがってそれを用いて体液中のグルコースの濃度を測定することができる。
【0035】
グルコース用の適切な受容体として、1つ以上、好ましくは2つのボロン酸基を含む化合物が挙げられる。
【0036】
指示薬システムにおいて、受容体は典型的には1つ以上の官能基を介して蛍光団に、かつ任意選択的にヒドロゲルのような支持構造に結合される。
【0037】
適切な蛍光団の例としては、アントラセン、ピレン、およびそれらの誘導体、例えばその内容全体を参照によって本書に援用する英国特許出願第0906318.1号明細書に記載された誘導体が挙げられる。蛍光団は典型的には非金属である。典型的には蛍光団は非内因性である。蛍光団の寿命は典型的には100ns以下、例えば30ns以下である。適切な蛍光団の特定の例としては、1〜10nsの典型的寿命を持つアントラセンおよびピレンの誘導体、ならびに10ns〜30nsの典型的寿命を持つアクリドンおよびキナクリドンの誘導体がある。一部の好適な実施形態では、寿命は20ns超である。
【0038】
受容体および蛍光団は典型的には互いに結合されて、例えば米国特許第6,387,672号明細書に記載された受容体‐蛍光団コンストラクトを形成する。このコンストラクトはさらにポリマーマトリクスのような支持構造に結合することができ、あるいはプローブ内に、例えばポリマーマトリクス内に、もしくはグルコース透過膜によって、物理的に閉じ込めることができる。ヒドロゲル(親水性の高い架橋ポリマーマトリクス、例えば架橋ポリアクリアミド)は適切なポリマーマトリクスの一例である。好適な実施形態では、受容体‐蛍光団コンストラクトは、例えば受容体の官能基を介して、ヒドロゲルに共有結合される。したがって、指示薬は蛍光団‐受容体‐ヒドロゲル複合体の形を取る。
【0039】
1つの好適な実施形態では、グルコースセンサはインビボグルコース測定に使用される。皮膚を穿通するための中空金属針を含む滅菌使い捨てプローブが設けられる。指示薬システムが設けられたプローブ内に体液を浸入させるための開口が設けられる。光ファイバは励起光および蛍光光をプローブ内の指示薬システムへ伝達、および、指示薬システムから伝達することができ、実際には指示薬システムは光ファイバの端部に付着させることができる。
【0040】
センサの他の構成要素はプローブと一体的に設けることができ、あるいはプローブに選択的に接続可能である。グルコース情報を得るために、蛍光データを保存して定期的に解析することができ、あるいはグルコース値を連続的に監視することができる。
【0041】
グルコースセンサシステムの特定の例を図3に示す。モニタユニット30は、図1の破線の囲み30内に示す構成要素を含む。モニタ30に接続されているのはプローブ32である。プローブ32は、例えばカニューレを介して血管内に挿入することによって患者内に挿入するための先端34を含む。先端34は、グルコース受容体‐蛍光団指示薬システム37が配置される検知領域36を含む。放射される蛍光光が光ファイバを介して伝送されるように、グルコース受容体‐蛍光団指示薬システム37は光ファイバ上または光ファイバ内に固定される。光ファイバはケーブル38内を、モニタユニット30と嵌合するように適応されたコネクタ40まで延びる。モニタユニット30は、一端がコネクタ40と係合しかつ他端が光源および検出器に接続するように二又分岐した、さらなる光ファイバを含む。
【0042】
検知領域36は任意選択的に温度センサ(図示せず)をも含む。温度センサへの電気接続はコネクタ40を介して達成することができ、適切な温度検出装置をモニタ30に設けることができる。
【0043】
プローブ32の検知領域36は典型的には、周囲の体液から受容体‐蛍光団へのグルコースの拡散を可能にすると共に、インビボ用の場合には血液適合性である、膜で被覆される。
【0044】
本発明を種々の特定の実施形態および例に関連して説明したが、本発明はこれらの実施形態および例に限定されないことを理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料領域に光を放射するように構成された光源であって、光源輝度が変調可能である光源と、
前記試料領域に位置する指示薬システムであって、被分析物用の受容体と、前記受容体に関連付けられた蛍光団とを含み、前記蛍光団が前記受容体における被分析物の存在に応じて変化する蛍光寿命を有して成る指示薬システムと、
前記光源から前記試料領域に入射した光に応答して、前記試料領域から放射された蛍光光を受光しかつ出力信号を発生するように構成された、単一光子アバランシェダイオードと、
第1周波数で光源輝度を変調するように構成された駆動装置と、
前記単一光子アバランシェダイオードにバイアス電圧を印加するように構成されたバイアス電圧源であって、前記バイアス電圧が前記第1周波数とは異なる第2周波数で変調され、かつ前記バイアス電圧が前記単一光子アバランシェダイオードの降伏電圧より高くなるようにしたバイアス電圧源と、
前記単一光子アバランシェダイオードの少なくとも出力信号に基づいて前記蛍光団の蛍光寿命に関する情報を決定するように構成された信号処理装置と、
を備えた蛍光センサ。
【請求項2】
前記第1および第2周波数の差が10%未満である、請求項1に記載の蛍光センサ。
【請求項3】
前記信号処理装置が、前記第1および第2周波数間の差によって与えられる周波数における前記単一光子アバランシェダイオードの出力信号の成分に対し動作する、請求項1または2に記載の蛍光センサ。
【請求項4】
前記第1および第2周波数間の周波数差、ならびに前記光源を変調しかつ前記バイアス電圧を変調するために使用される前記第1および第2周波数における信号間の位相差のうちの少なくとも一方を変動させるように、信号発生装置が制御される、請求項1、2、または3に記載の蛍光センサ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の蛍光センサを備え、前記被分析物がグルコースである、グルコースセンサ。
【請求項6】
被分析物用の受容体と、前記受容体に関連付けられた蛍光団とを含む指示薬システムを含む試料領域に、光源から光を放射するステップであって、前記蛍光団が前記受容体における被分析物の存在に応じて変化する蛍光寿命を有する、ステップと、
前記光源から前記試料領域に入射した光に応答して前記試料領域から放射された蛍光光を、単一光子アバランシェダイオードを用いて受光し、かつ出力信号を生成するステップと、
第1周波数で光源輝度を変調するステップと、
前記第1周波数とは異なる第2周波数で変調されるバイアス電圧であって、前記単一光子アバランシェダイオードの降伏電圧より高いバイアス電圧を、前記単一光子アバランシェダイオードに印加するステップと、
前記単一光子アバランシェダイオードの少なくとも出力信号に基づいて、前記蛍光団の蛍光寿命に関する情報を決定するステップと、
を含む蛍光検知の方法。
【請求項7】
前記第1および第2周波数の差が10%未満である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記第1および第2周波数間の差によって与えられる周波数における前記単一光子アバランシェダイオードの出力信号の成分に基づいて、蛍光寿命情報を決定するステップを含む、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記第1および第2周波数間の周波数差を変動させるステップと、光源を変調しかつバイアス電圧を変調するために使用される前記第1および第2周波数における信号間の位相差を制御するステップと、のうち少なくとも一方をさらに含む、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記被分析物がグルコースである、請求項6〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記蛍光寿命が100ns未満、好ましくは30ns未満である、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−520646(P2013−520646A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553394(P2012−553394)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【国際出願番号】PCT/GB2011/000210
【国際公開番号】WO2011/101627
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(512212863)ライトシップ メディカル リミテッド (4)
【Fターム(参考)】