説明

融合ポリペプチドの翻訳と同時のトランスロケーションを使用するファージディスプレイ

本発明は、ファージ粒子上にディスプレイされた関心のあるポリペプチドを、シグナル認識粒子経路に基づいてグラム陰性菌の細胞膜を横切って翻訳と同時にトランスロケーションさせる、繊維状ファージディスプレイ方法に関する。この方法は、ファージ上にディスプレイするのが困難であることが知られているポリペプチド、および、特に非常に速く折りたたまれそして安定なタンパク質スカホールドに由来する場合の、cDNAライブラリー及び他のコンビナトリアルライブラリーのタンパク質のために特に適当である。本発明は、更に、ファージ粒子上にディスプレイされるべきポリペプチドおよび翻訳と同時のトランスロケーションを促進するN末端シグナル配列を含む融合ポリペプチドをコードする遺伝子構築物を含む、前記方法において有用なファージまたはファージミドベクターに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、新規なファージディスプレイ法、それに使用されるファージまたはファージミドベクターおよびそのようにして得られたファージ粒子に関する。
【0002】
発明の背景
バクテリオファージ上のポリペプチドのディスプレイ(ファージディスプレイ)は、大集団の変異体から所望の性質を有するポリペプチドを取り出すことを可能とする選択技術である(Russel,M., Lowman,H.B., and Clackson, T., Introduction to phage biology and phage display, in"Phage Display",Clackson, T. and Lowman, H.B., eds., Oxford University Press, 2004, pp.1-26)。ファージディスプレイは、コンビナトリアル抗体またはペプチドライブラリーからの選択のために集中的に研究された。
【0003】
ファージディスプレイに使用される明らかに最も広く使用されたバクテリオファージは、繊維状ファージである。繊維状ファージは、多くのグラム陰性菌に感染するバクテリアウイルスの大きなファミリーを構成する。最も良く知られている繊維状ファージは、Escherichia coliに感染する繊維状ファージであり;これらはf1/M13/fdおよびIKeである。ファージf1、M13およびfdは、これまで繊維状ファージディスプレイのために使用されてきた繊維状ファージである。それらのゲノムは98%より高く同一でありそしてそれらの遺伝子産物は相互に交換可能である。
【0004】
繊維状ファージアセンブリーの独特の局面は、多くの他のバクテリオファージのアセンブリーと対照的に、それが分泌プロセスであるということである。成長しているファージへのコートポリペプチドの組み込みは、細胞膜において起り、そして新生ファージは、それらがアセンブルされるにつれて細胞から押し出される(Russel et al., loc.cit.)。E.coli細胞はこのプロセスにおいては溶解しない。5つのウイルスコートタンパク質(pIII、pVI、pVII、pVIIIおよびpIX)は、それらがファージ粒子に組み込まれる前に細胞膜に挿入される(図1)。例えば、pIIIの主要部は、膜を横切ってペリプラズムにトランスロケーションされ、一方そのC末端疎水性テイルはタンパク質を膜内にアンカーする。
【0005】
繊維状ファージディスプレイのための1つの前提条件は、関心のあるポリペプチド(POI)の細胞膜を横切るトランスロケーションである。これは、ファージコートタンパク質にPOIを遺伝子的に融合することおよび対応する融合ポリペプチドのトランスロケーションにより普通は達成される。または、POIおよびファージコートタンパク質は独立にトランスロケーションされる。この状況において、POIは、例えば対応するファージコートタンパク質とのジスルフイド結合の形成(Cysディスプレイ)またはロイシンジッパーの形成(pJuFoシステム)により、ペリプラズムにおいてファージ粒子に安定に連結される。pIIIへの融合を使用する慣用の繊維状ファージディスプレイにおいては、POIを含む融合ポリペプチドのトランスロケーションのためにSec経路が使用される。この経路では、ポリペプチドは、リボソームで最初に合成され、次いでその折りたたまれていない状態で、Secトランスロコンにより翻訳後にトランスロケーションされる(図2、(3)−(4)−(5))。即ち、細胞膜を横切るトランスロケーションは、実質的量のポリペプチド鎖が合成された後にのみ始まる。しかしながら、ファージディスプレイの成功に対するトランスロケーションの機構の寄与は、完全には解明されておらず、そして翻訳と同時のトランスロケーション経路(cotranslational translocation pathway)を使用する可能性は、先行技術では探求されていない。
【0006】
広い範囲のサイズおよび構造の細胞内および細胞外タンパク質が、繊維状ファージ上に機能的にディスプレイされた(Russel et al., loc. cit.)。それにもかかわらず、あるポリペプチドは、大抵は未知の理由で、個々の性質によりディスプレイに対して抵抗性である。これは、ある種のタンパク質のディスプレイの成功を予測不可能とする。従って、使用されるべき各タンパク質について繊維状ファージ上のディスプレイの効率を最初に試験することが通常推奨されてきた。さらに、ファージディスプレイのためのコンビナトリアルライブラリーが創生されるとき、すべてのクローンが同様な効率でディスプレイされるわけではなく;これはcDNAから生成されたライブラリーについて特に当てはまる。ポリペプチドのディスプレイ問題は、ファージ産生のそれらの妨害、それらのペリプラズム凝集、それらのプロテオリシス、E.coliに対するそれらの毒性または使用されたトランスロケーション経路とのそれらの不適合性の結果でありうる。特に、トランスロケーションに先立つ工程は、ファージ粒子への融合ポリペプチドの組み込みに影響を与える重要な因子である。ポリペプチドが未熟に折りたたまれるならば、それらはトランスロケーションに対して抵抗性でありうるかまたは細胞質毒性を示すことすらありうる。従って、タンパク質が翻訳後にトランスロケーションされるか(未熟な折りたたみを潜在的に可能とする)または翻訳と同時にトランスロケーションされる(細胞質折りたたみを許容しない)かどうかは重要である。最近の繊維状ファージディスプレイ法は細胞膜を横切る融合ポリペプチドのトランスロケーショのために翻訳後経路を使用する(Russel et al., loc. cit.; Paschke, M. and Hoehne, W., Gene 350, 79-88, 2005)。従って、これらの経路と非適合性のポリペプチドはディスプレイに対して抵抗性であり、ファージディスプレイ選択を非常に非効率的にするかまたは不可能とさえする。例えば、ファージディスプレイにおいて殆ど独占的に使用される翻訳後Sec経路は、細胞質において折りたたまれていない状態のままにあることができないタンパク質をトランスロケーションすることが本質的にできない。何故ならばSecトランスロケーション自体は折りたたまれていないポリペプチドのみ輸送することができるからである(Huber, D., Boyd, D., Xia, Y., Olma, M.H., Gerstein, M., and Beckwith., J., J.Bacteriol. 187, 2983-2991, 2005; Paschke et al., loc. cit.)。
【0007】
従って、本発明の基礎をなす技術的問題は、翻訳後トランスロケーションを使用することにより非効率的にディスプレイされる繊維状ファージ上のこれらのポリペプチドの効率的なディスプレイのための新規なトランスロケーションアプローチを確認することである。この技術的問題にたいする解決は特許請求の範囲に特徴付けられた態様を提供することにより達成される。
【0008】
発明の要約
本発明は、ファージ粒子上にディスプレイされた関心のあるポリペプチド(POI)が、特にシグナル認識粒子経路に基づいて、グラム陰性菌の細胞膜を横切って翻訳と同時にトランスロケーションされる、繊維状ファージディスプレイ法に関する。
【0009】
従って、本発明は、POIを含む融合ポリペプチドの翻訳と同時のトランスロケーションによるファージディスプレイを可能とする。この方法は、ファージ上にディスプレイすることが困難であることが知られているポリペプチドのために、および特に非常に速く折りたたまれる安定なタンパク質スカホールドに由来する場合のcDNAライブラリーおよび他のコンビナトリアルライブラリーのタンパク質のために特に適当である。
【0010】
本発明はさらに、ファージ粒子上にディスプレイされるべきPOIおよびシグナル認識粒子経路に基づく翻訳と同時のトランスロケーションを促進するN末端シグナル配列を含む融合ポリペプチドをコードする遺伝子構築物を含むファージまたはファージミドベクター、ならびに本発明の方法により得られたファージに関する。
【0011】
発明の詳細な説明
本発明の状況では、用語「繊維状ファージディスプレイ」は、繊維状ファージに基づいたファージディスプレイを指す。繊維状ファージは、多くのグラム陰性菌に感染するバクテリアウイルスの大きなファミリーを構成する。好ましい繊維状ファージは、E.coliに感染する繊維状ファージ、特にf1/M13/fdおよびIKeである。繊維状ファージディスプレイを実施するための方法は、当業者に周知である(例えば、Russel et al., loc.cit.)。
【0012】
本発明の状況では、用語「シグナル配列」は、トランスロカーゼへのポリペプチドのターゲティングをもたらすポリペプチドのアミノ酸のN末端ストレッチを指す。E.coliでは、N末端シグナル配列は、一般に15〜52アミノ酸を含む。大部分のシグナル配列は、正に帯電したN末端領域(n領域)、非極性疎水性コア(h領域)およびより極性のC末端領域(c領域)を含有する。c領域は、シグナルペプチダーゼのための開裂部位を含有する。シグナルペプチダーゼは、トランスロケーション反応期間中ポリペプチドからシグナル配列を除去する膜結合プロテアーゼである。18〜30アミノ酸を含むこのようなシグナル配列は好ましい。シグナル配列の決定は、当業者に周知である。例えば、それらは、Swiss−ProtもしくはGenBankなどのデータベースからまたはアノテーションされたゲノムワイドなデータセットを使用して得られうる。
【0013】
本発明の状況では、用語「プレプロテイン」は、N末端シグナル配列を含むポリペプチドを指す。シグナル配列は、トランスロケーション反応期間中プレプロテインから開裂されて、成熟タンパク質を生成する。
【0014】
本発明の状況では、用語「融合ポリペプチド」は、N末端シグナル配列、関心のあるポリペプチド(POI)および繊維状ファージ上のディスプレイを可能とする追加のアミノ酸配列を含む、ポリペプチドを指す。好ましくは、この追加の配列は、繊維状ファージコートポリペプチドまたはそのフラグメントを含む。または、この配列は、安定な連結の形成により、例えば対応するファージコートタンパク質とのジスルフィド結合の形成(Cysディスプレイ)またはロイシンジッパーの形成(pJuFoシステム)によりペリプラズムにおいてファージ粒子にPOIを連結する。この別のストラテジーでは、POIおよび対応するファージコートタンパク質は、細胞膜を横切って独立にトランスロケーションされる。
【0015】
本発明の状況では、用語「トランスロケーション」は、トランスロコンにより媒介される生物学的膜を横切るポリペプチドのトランスロケーションを指す(Holland, I.B. et al., Biochim. Biophys. Acta 1694, 5-16,2004)。トランスロケーションは、翻訳後または翻訳と同時に起る。従って、トランスロカーゼは、トランスロコンを通じてポリペプチドを特異的に輸送する酵素または酵素複合体である(Holland et al., loc. cit.)。
【0016】
本発明の状況では、用語「Sec経路」は、Secトランスロコンを通じてのグラム陰性菌の細胞膜を横切るプレプロテインの翻訳後のトランスロケーションのためのタンパク質輸送機構を指す(Holland et al., loc.cit.)。Sec経路は、トランスロケーションの前にプレプロテインを折りたたまれていない状態に保つ分子シャペロン、たいていSecBにより媒介される。Sec経路は、グラム陰性菌におけるタンパク質トランスロケーションの主要な経路である。
【0017】
本発明の状況では、用語「SRP経路」は、Secトランスロコンを通じてのグラム陰性菌の細胞膜を横切るプレプロテインの翻訳と同時のトランスロケーションのためのタンパク質輸送機構を指す(Schierle, C. F., Berkmen, M., Huber, D., Kumamoto, C., Boyd, D., and Beckwith, J., J.Bacteriol.185,5706-5713,2003; Huber et al., loc. cit.)。SRP経路は、54kDaタンパク質ホモログ(54ホモログ;Ffh)および4.5S RNAからなるリボヌクレオタンパク質であるシグナル認識粒子(SRP)により媒介される。SRP経路では、シグナル配列は、それがリボソームから現れるやいなやSRPと相互作用する。次いでSRP、新生ポリペプチドおよびリボソームからなる複合体は、SRPレセプターを介してSecトランスロコンに移送され、そこでポリペプチドはSecトランスロコンを通じて翻訳と同時にトランスロケーションされる。
【0018】
SecおよびSRP経路は、膜を通じて折りたたまれていない状態においてタンパク質を輸送するSecトランスロカーゼに収束する。プレプロテインのトランスロケーションのためにSec経路よりもSRP経路へのプレプロテインのターゲティングを強く選ぶのは、シグナル配列のアミノ酸組成である。(Huber et al., loc. cit.)。
【0019】
本発明の状況では、用語「DsbA」は、ペリプラズムE.coliチオール:ジスルフィド相互交換タンパク質DsbAを指す(Swiss−Prot アクセッションナンバー P24991)。DsbAは、SRP経路の基質である(Huber et al., loc.cit.)。DsbAは、翻訳と同時にエキスポートされて、そのエキスポートを抑制する細胞質におけるその折りたたみを回避する。
【0020】
本発明の状況では、用語「TrxA」は、E.coliタンパク質チオレドキシン1(Swiss−Prot アクセッションナンバー P00274)を指す。TrxAは、プレプロテインをSRP経路またはSec経路にターゲティングするシグナル配列を区別するためのレポータータンパク質として使用され得る(Schierle et al., loc. cit.; Huber et al., loc.cit.)。
【0021】
本発明の状況では、用語「Tat経路」は、ツインアルギニンタンパク質トランスロケーション(Tat)経路を指す(Paschke et al., loc. cit.)。Tat経路は、Sec経路およびSRP経路とは基本的に異なる。Secトランスロコンと対照的に、Tatトランスロコンは、完全に折りたたまれたタンパク質のみをエキスポートする。SRP経路とは対照的に、Tatトランスロコンは、膜を通じて翻訳後にタンパク質を通す。
【0022】
1つの特定の態様では、ファージ粒子上にディスプレイされるべきPOIを含む融合ポリペプチドのシグナル配列は、翻訳と同時のトランスロケーションを促進するシグナル配列である。
【0023】
関心のあるシグナル配列が、グラム陰性菌の細胞膜を横切る翻訳と同時のトランスロケーションを促進するかどうかを試験するための方法は、当業者に周知である。例えば、関心のあるシグナル配列は、成熟MalE (Swiss−Prot アクセッションナンバー P02928、残基27〜396) に遺伝子的に融合される。次いでこの人工的プレプロテインは、E.coliにおいて発現されそしてその新生鎖の翻訳と同時のタンパク質分解プロセッシングの収率は、記載されたとおりの二次元ゲル電気泳動により分析される(Josefsson, L-G. and Randall, L.L., Methods Enzymol. 97, 77-85, 1983; Schierle et al., loc. cit.)。プレプロテイン鎖がまだ新生である間に関心のあるN末端シグナル配列を除去することは、ポリペプチドの合成が完了する前にトランスロケーションが開始され、従ってトランスロケーションが翻訳と同時であることを示す。好ましいシグナル配列は、成熟MalEに融合されるとき、80%を超える、更に好ましくは90%を越える翻訳と同時のトランスロケーションの収率を促進するシグナル配列である。最も好ましいシグナル配列は、成熟MalEに融合されるとき、翻訳と同時のトランスロケーションのみを促進しそして翻訳後のトランスロケーションを促進しないシグナル配列である。または、DsbAからのシグナル配列などの、翻訳と同時のトランスロケーションを促進することが既に知られているシグナル配列を使用することができる。
【0024】
他の特定の態様では、ファージ粒子上にディスプレイされるべきPOIを含む融合ポリペプチドのシグナル配列は、シグナル認識経路をターゲティングするシグナル配列である。
【0025】
グラム陰性菌のシグナル認識経路および関心のあるシグナル配列がプレプロテインをSRP経路にターゲティングするかどうかを試験するための方法は、当業者に周知である。例えば、SRP経路をターゲティングするシグナル配列に融合されたTrxAのトランスロケーションは、SRPの成分をコードする、遺伝子ffhに突然変異を有するE.coli(例えば、ffh77またはffh87突然変異体株)において強く阻害される(Schierle et al., loc.cit.; Huber et al., loc. cit.)。従ってSRP経路をターゲティングするこれらのシグナル配列は、野生型E.coliにおける細胞膜を横切るTrxAのトランスロケーションを促進するが、ffh突然変異体株においては非常に効率悪く促進する。かくして、シグナル配列は、2つの異なるクラス:SRP経路をターゲティングするシグナル配列およびSRP経路をターゲティングしないシグナル配列、に分けることができる。Sec経路をターゲティングするシグナル配列は、シグナル配列の全体の疎水性を増加させることにより、特にそのh領域の疎水性を増加させることによりSRP経路に再指向させることができる。例えば、h領域における極性のまたは小さな(GlyまたはAla)アミノ酸を大きな疎水性残基で置換することにより単にその疎水性を増加させるMalEシグナル配列の適度の変更は、タンパク質をSecからSRP経路に経路変更する(reroute)。または、SRP経路をターゲティングすることが既に知られているシグナル配列、例えば、DsbAからのシグナル配列を使用することができる。SRP経路を使用するシグナル配列の他の例は、オートトランスポーター(autotransporters)のサブセットのシグナル配列、例えばヘモグロビンプロテアーゼ(Hbp、UniProtKB アクセッションナンバー O88093)のそれである。異常なことに、Hbpシグナル配列は相対的に長く(52アミノ酸)そして古典的シグナル配列に先行するN末端延長部を含有する。さらに、Hbpシグナル配列のh領域は、特に疎水性ではない。SecMのシグナル配列(Swiss−Prot アクセッションナンバーP62395)は、N末端延長部およびSRP経路をターゲティングすることが知られている適度に疎水性のh領域を含む長いシグナル配列の他の例である。
【0026】
更に他の特定の態様では、ファージ粒子上にディスプレイされるべきPOIを含む融合ポリペプチドのシグナル配列は、グラム陰性菌の細胞膜を横切るTrxAのトランスロケーションを促進するシグナル配列である。
【0027】
多くの良く使用されるシグナル配列、例えば、PhoA(Swiss−Prot アクセッションナンバー P00634)およびMalE(Swiss−Prot アクセッションナンバー P02928)のシグナル配列は、細胞膜を横切るTrxAのトランスロケーションを非効率的にのみ促進する(Schierle et al., loc. cit.)。対照的に、DsbAからのシグナル配列は、TrxAの効率的なトランスロケーションを促進する。関心のあるシグナル配列に融合されたTrxAを発現するホスト細胞の細胞内分画(subcellular fractionation)は、ペリプラズムへの細胞膜を横切るTrxAのトランスロケーションを促進することができるこれらのシグナル配列を、促進できないシグナル配列から区別することを可能とする(Huber et al., loc. cit.)。ペリプラズム画分におけるTrxAの量は、TrxAのトランスロケーションを促進するシグナル配列の効率を説明する。または、TrxAのトランスロケーションを促進することが既に知られているシグナル配列、例えばDsbAからのシグナル配列を使用することができる。
【0028】
好ましい態様では、ファージ粒子上にディスプレイされるべきPOIを含む融合ポリペプチドのシグナル配列は、TorT、SfmC、FocC、CcmH、YraI、TolB、NikA、FlgIおよびDsbAからなる群より選ばれるシグナル配列およびそのホモログである。
【0029】
特に好ましい態様では、ファージ粒子上にディスプレイされるべきPOIを含む融合ポリペプチドのシグナル配列は、TorT、SfmC、TolBおよびDsbAからなる群より選ばれるシグナル配列である。
【0030】
本発明の状況では、用語シグナル配列の「ホモログ」は、それぞれ、シグナル配列のn領域、h領域およびc領域の全体の電荷、疎水性および開裂特性を保存しながら、前記したシグナル配列のいずれかとの70%以上、好ましくは80%以上、特に90%以上のアミノ酸一致を有するアミノ酸配列を意味する。このようなホモログの例は、1つ、2つ、3つまたは4つ、特に1つまたは2つのアミノ酸が他のアミノ酸により置換されているか、1つ、2つ、3つまたは4つのアミノ酸が欠失しているか、または1つまたは2つのアミノ酸が付加されているアミノ酸配列または、前記した置換、欠失および付加の組み合わせである。アミノ酸の置換においては、非極性アミノ酸が、好ましくは、他の非極性アミノ酸により置換され、例えば、IleがLeu、Val、Ala、Trp、PheまたはMetにより置換されるか、またはその逆もあり、極性アミノ酸が他の極性アミノ酸により置換され、例えばThrがSer、AsnまたはGlnにより置換されるかまたはその逆もあり、負に帯電したアミノ酸が他の負に帯電したアミノ酸により置換され、例えばAspがGluにより置換されるかまたはその逆もあり、または正に帯電したアミノ酸が他の正に帯電したアミノ酸により置換され、例えばLysがArgまたはHisにより置換されるかまたはその逆もある。
【0031】
例えば、アミノ酸配列、
【表1】


を有するDsbAの好ましいシグナル配列では、アミノ酸Lys2のArgによる置換、Ala9のLeuによる置換、Ala14のValによる置換およびSer16のThrによる置換が可能である。
【0032】
TorT、SfmC、FocC、CcmH、YraI、TolB、NikA、FlgIおよびDsbAのシグナル配列は、SRP経路をターゲティングすることによりTrxAの翻訳と同時のトランスロケーションを促進することが知られており、そして大部分の場合に、Sec経路をターゲティングするシグナル配列に比べてより高い全体の疎水性を有することが知られている(Huber et al., loc. cit.)。前記タンパク質は、下記のSwiss−Prot アクセッションナンバー:TorT P38683、SfmC P77249、FocC P62609、CcmH P33925、YraI P42914、TolB P0A855、NikA P33590、FlgI P0A6S3およびDsbA P24991を有する。
【0033】
疎水性の計算だけでは、高い疎水性範囲においてを)SRP依存性シグナル配列およびSRP非依存性シグナル配列を区別することを可能としない(Huber et al., loc. cit. )。従って疎水性以外の特徴(例えば、シグナルペプチドの構造)は、1つのトランスロケーション経路に対する優先に影響を与える。
【0034】
特に好ましい態様では、シグナル配列は、DsbAシグナル配列またはDsbAシグナル配列と90%一致を有する任意のアミノ酸配列である。
【0035】
この方法は、例えばファージf1、M13、fd等、特にf1、M13およびfdによる、繊維状ファージディスプレイ法のいずれかに適用可能である。
【0036】
特に、本発明の方法は、
(a)グラム陰性菌の細胞膜を横切る融合ポリペプチドの翻訳と同時のトランスロケーションを促進するN末端シグナル配列を有する融合ポリペプチドのための発現カセットを含有する繊維状ファージもしくはファージミドベクターを構築する工程;
(b)関心のあるポリペプチドをコードするDNAライブラリーを工程(a)のベクターの発現カセットにクローニングすることによりファージまたはファージミドベクターのコンビナトリアルライブラリーを構築する工程;
(c)工程(b)のベクターのライブラリーにより適当なグラム陰性菌をトランスフォーメーションする工程;および
(d)ファージディスプレイ選択サイクルを行って、ディスプレイされた関心のあるタンパク質の性質に基づいてファージ粒子を分離する工程、
を含む。
【0037】
工程(a)では、繊維状ファージまたはファージミドベクターは、遺伝子技術の標準方法を使用して構築される。例えば、確立されたファージまたはファージミドベクターの融合ポリペプチドのための発現カセットのシグナル配列コード部分は、標準DNA技術を使用して該シグナル配列のコード配列により置換される。または、該シグナル配列を含有する融合ポリペプチドのための発現カセットを含有する新規なファージまたはファージミドベクターは、このようなベクターの組成に関する一般的知識(例えば、Russel et al., loc. cit)および標準DNA合成およびアセンブリー方法を使用して新規に構築される。その目的に有用なファージまたはファージミドベクターは、例えば、pAK100、pComb3、pEXmide3、pHEN1、pJuFoまたはpSEXである。このようなファージミドベクターの例(pDST23)は、この特定の態様に本発明を限定することなく本発明を説明するものとして、図3および付随する実施例に記載されている。
【0038】
好ましくは、工程(a)における融合ポリペプチドのシグナル配列は、SRP経路を通じての融合ポリペプチドのトランスロケーションを促進する。
【0039】
更に好ましくは、工程(a)における融合ポリペプチドのシグナル配列は、TrxAの翻訳と同時のトランスロケーションを促進する。
【0040】
工程(b)において、ベクターのコンビナトリアルライブラリーの調製のための標準方法が使用される。例えば、関心のあるタンパク質をコードするコンビナトリアルDNAライブラリーは、ランダムもしくは部位特異的突然変異誘発により、DNAシャフリングにより、細胞mRNAの増幅によるcDNAの調製によりまたはコンセンサスデザインにより生成され、次いで標準DNA技術により該ベクターの発現カセットにライゲーションされる。
【0041】
工程(c)において、グラム陰性菌のトランスロケーションのための標準方法が使用される。例えば、バクテリアは、エレクトロポレーションもしくは化学的手段により工程(b)のベクターのコンビナトリアルライブラリーによりトランスフォーメーションされる。このような方法は当業者に周知である。
【0042】
工程(d)において、標準ファージディスプレイ選択サイクルが行われる。このようなファージディスプレイ選択サイクルは当業者に周知である(例えば、Russel et al., loc.cit.)。
【0043】
好ましくは、工程(d)のディスプレイされた関心のあるポリペプチドの性質は、関心のあるターゲット分子への特異的結合である。この場合に、ターゲット分子へのPOI結合をディスプレイするファージ粒子は、各選択サイクルにおいて増幅されたファージ粒子を表面に機能的に固定化されたターゲット分子に適用し、結合しなかったファージ粒子を洗い落とし、結合したファージ粒子を溶離し、そして溶離したファージ粒子を次の選択サイクルのファージ粒子の増幅のためのインプットとして使用することにより、無関係なポリペプチドをディスプレイするファージ粒子から分離される。
【0044】
本発明の状況において、「シグナル配列」と記載されている場合には、このような表現は、「1つ以上」の、例えば1つ、2つ、3つもしくは4つの異なる組成のシグナル配列も意味することは理解される。1つより多くのシグナル配列を使用することは、特定の用途に有利であり得、そしてやはり本発明の範囲内にある。
【0045】
本発明は、更に、TrxAの翻訳と同時のトランスロケーションを促進するN末端シグナル配列、特にTorT、SfmC、FocC、CcmH、YraI、TolB、NikA、FlgIおよびDsbAからのシグナル配列およびそのホモログからなる群より選ばれるシグナル配列、好ましくはTorT、SfmC、TolBおよびDsbAから選ばれるシグナル配列、に融合されたPOIを含む融合ポリペプチドをコードする遺伝子構築物を含むファージまたはファージミドベクターに関する。最も好ましいのは、シグナル配列DsbAまたはそのホモログを含むファージまたはファージミドベクターである。
【0046】
好ましくは、融合ポリペプチドは、ファージコートタンパク質pIIIまたはpVIIIに、またはコートタンパク質pIIIのフラグメントに融合されたPOIを含む。このようなフラグメントは、例えば、pIIIのアミノ酸250〜406を含むフラグメントである。
【0047】
ペリプラズム酵素DsbAのシグナル配列は、融合したレポータータンパク質をSRP経路に指向させ、従ってそれらの翻訳と同時のエキスポートを増強させる。これは、相対的に疎水性のDsbAシグナルペプチドがSRPと相互作用しそしてDsbAの翻訳と同時のトランスロケーションを促進することを示す。従って、DsbAのシグナル配列は、実施例で下記に示されるとおり、他のタンパク質のための一般的シグナル配列として使用することもできる。
【0048】
同様に、DsbAのシグナル配列のホモログおよびTorT、SfmC、FocC、CcmH、YraI、TolB、NikAおよびFlgIのシグナル配列およびそのホモログを使用することができる。
【0049】
本発明の方法は、化合物のライブラリー、例えばDNAライブラリー、特にcDNAライブラリーを伴う用途に特に適当である。ファージディスプレイにおいてこれまでに使用された方法と対照的に、本発明の方法は、このようなライブラリーの発現により得られたポリペプチドの信頼性のある提示を可能とする。
【0050】
本発明の特定の態様は、DNAライブラリーによりコードされたPOIがファージ粒子上にディスプレイされる前記した繊維状ファージディスプレイ法である。好ましくは、DNAライブラリーによりコードされたPOIのための翻訳と同時のトランスロケーションは、シグナル認識粒子経路に基づいて、例えばTrxAの翻訳と同時のトランスロケーションを促進するシグナル配列に基づいて達成される。最も好ましいのは、リピートタンパク質のファージディスプレイについて本明細書で説明したとおりの方法である。
【0051】
任意の選択技術の場合と同じく、ファージディスプレイ選択の成功は、ディスプレイされたライブラリーメンバーの多様性に強く依存する。大きなコンビナトリアルDNAライブラリーは、ライブラリーメンバーの大きな多様性がディスプレイされうることをそれ自体は保証しない。ファージディスプレイにおいて、ディスプレイされるべきポリペプチドは、それらのファージ粒子への組み込みの前に細胞膜を横切ってトランスロケーションされなければならない。最近の繊維状ファージディスプレイ法は、すべて、細胞膜を横切る融合ポリペプチドのトランスロケーションのための翻訳後の経路を使用する(Russel et al., loc. cit.; Paschke et al., loc. cit.)。従ってこれらの経路と非適合性のライブラリーメンバーは、ディスプレイに対して抵抗性であろうし、従って、ディスプレイされたライブラリー多様性を明らかに減少する。
【0052】
考慮されるDNAライブラリーは、ランダム突然変異誘発もしくは部位特異的突然変異誘発により、DNAシャフリングによりまたはコンセンサスデザインにより産生されたDNAライブラリーを含むすべての可能なコンビナトリアルライブラリーである。このような方法は、新規な性質、例えば結合特性を有するライブラリーメンバーを生じるであろう;それらのいくらかはSec経路を使用するトランスロケーションと非適合性であろう。このようなライブラリーは、ペプチドライブラリー、抗体ライブラリーまたはオルタナティブスカホールド(alternative scaffold)に基づいたライブラリーをコードするDNAライブラリーを含む(Russel et al., loc. cit.; Nygren, P.A. and Skerra, A., J. Immunol. Methods, 290, 3-28, 2004)。
【0053】
考慮される更なるDNAライブラリーは、cDNAライブラリー、特に真核生物起源のcDNAライブラリーである。cDNAライブラリーは、細胞質タンパク質、膜タンパク質および細胞外タンパク質を含む非常に多様な天然に存在する細胞タンパク質をコードする。これらの天然に存在するライブラリーメンバーのいくらかは、Sec経路を使用するトランスロケーションと非適合性であろう。
【0054】
考慮される更なるDNAライブラリーは、細胞内で活性なscFvフラグメント(イントラボディ)を選択するのに使用される単鎖Fv(scFv)抗体ライブラリーをコードするDNAライブラリーである。イントラボディのための前提要件は、それらが良く折りたたまれそしてE.coliの細胞質中で安定であると言うことである。かくして、細胞質で安定な且つ良く折りたたまれたイントラボディは、Sec経路の翻訳後の機構により非効率的にトランスロケーションされる。
【0055】
考慮される更なるDNAライブラリーは、アンキリンリピートタンパク質、ロイシンリッチリピートタンパク質、テトラトリコペプチドリピートタンパク質、ペンタトリコペプチドリピートタンパク質またはアルマジロ/HEATリピートタンパク質を含む、リピートタンパク質に基づくオルタナティブスカホールドライブラリーをコードするDNAライブラリーである。
【0056】
好ましいDNAライブラリーは、デザインされたアンキリンリピートタンパク質(DARPin)をコードするライブラリーである(Binz, H. K., Amstutz, P., Kohl, A., Stumpp, M. T., Briand, C., Forrer, P., Grutter, M.G., and Pluckthun, A., Nat. Biotechnol., 22,575-582,2004)。ファージ粒子上にディスプレイされたDARPinの例は、実施例に示される。
【0057】
本発明は、更に本発明の方法により産生されたファージに関する。
【0058】
本発明は、更に、非常に速く折りたたまれそして細胞質内で安定なタンパク質のペリプラズム発現、特に、DARPinのペリプラズム発現に関する。実施例のDsbAssおよびDARPinコード化ファージミドは、非サプレスE.coli(non-suppressing E. coli)でのDARPinの効率的なペリプラズム発現のために直接使用されうる。または、標準ペリプラズム発現ベクターは、ペリプラズム発現のために使用されるシグナル配列をコードするDNAを、本発明のシグナル配列をコードするDNAにより、特にDsbAssをコードするDNAにより置換することにより適合させることができる。例えば、DARPinの効率的なペリプラズム発現は、エフェクタータンパク質、特に細胞質で発現することが非常に困難である毒素またはサイトカイン、に融合されたDARPinの発現に役立つ。
【0059】
下記に例示された新規なファージディスプレイ法は、非常に広い範囲のディスプレイされるべきPOIをファージ粒子に効率的に組み込むことを可能とし、従って効率的なファージディスプレイを可能とする。従来のファージディスプレイ法に比べてのこの新規な方法の重要な差は、ディスプレイされるべきPOIを含む融合ポリペプチドを翻訳と同時のSRP経路に指向させるシグナル配列の使用である(図2、(1)〜(2))。この方法では、ディスプレイされるべきPOIは、細胞膜を横切ってペリプラズムに効率的にトランスロケーションされ、従ってファージ粒子へのPOIの効率的な組み込みを可能とする。好ましい融合タンパク質は、繊維状ファージコートタンパク質または該コートタンパク質のトランケーションされたバージョンの1つも含む。この場合に、POIは、トランスロケーション後(図1)におよびファージ粒子への組み込みの前に、ファージコートタンパク質の疎水性延長部により細胞膜にアンカーされる。
【0060】
SRP経路をターゲティングするシグナル配列の1つの特定の例は、E.coliタンパク質DsbAのシグナル配列(DsbAss)である。例示されたpDSTファージミドのすべての他のエレメントは、古典的ファージミド、例えばpAK100シリーズに由来し、このpAK100シリーズは、関心のあるポリペプチドの翻訳後のSec経路を介したディスプレイを指向させるPelBのシグナル配列(PelBss)またはPhoAのシグナル配列(PhoAss)を有する(図2、(3)−(4)−(5))。
【0061】
1つのシリーズの実験において、PhoAssをコードするpDSTファージミドおよびDsbAssをコードするpDSTファージミドから産生されたファージ粒子間でディスプレイ収率を比較した。ファージ粒子は、下記の標準プロトコールにより産生されそしてCsCl勾配遠心により精製された。ウエスタンブロット法は、単鎖Fv抗体のディスプレイのために、pDSTファージミドが、使用したシグナル配列に無関係にPOIのほぼ同じディスプレイ収率を有するファージ粒子を産生することを示した(図4A、scFv)。しかしながらまったく対照的に、すべての4つの試験されたDARPinは、DsbAss含有pDSTファージミドを使用するときにのみ効率的にディスプレイされ得、そしてPhoAss含有pDSTファージミドを使用するときはディスプレイされたタンパク質は殆ど検出できなかった(図4A、DARPins)。同様に、DsbAss含有pDSTファージミドは、ポリペプチドGCN4(図4A)、ラムダヘッドタンパク質D、TrxAおよびAPH(図4B)の場合に、相当より高いディスプレイ収率をもたらした。タンパク質Taqポリメラーゼ、ファージλプロテインホスファターゼ(λPP)では僅かにより高いディスプレイ収率しか観察されず、そしてc−junN末端キナーゼ2(JNK2、図4B)の場合にはディスプレイされたタンパク質は検出できなかった。これは、DsbAss含有pDSTファージミドを使用することにより産生されたファージ粒子上のディスプレイ収率は、PhoAssを使用する古典的ファージミドにより産生されたファージ粒子上のディスプレイ収率に少なくとも匹敵することを示すが、DARPinおよび他の速く折りたたまれ且つ熱力学的に安定なタンパク質をディスプレイするときには顕著に増加したディスプレイ収率を示す。
【0062】
この差を定量するために、ファージ粒子をファージELISA実験において使用した。タンパク質APHおよびJNK2に特異的に結合するDARPinをディスプレイするファージ粒子を、DsbAss含有pDSTファージミドまたはPhoAss含有pDSTファージミドからの産生後に比較した。抗M13抗体で定量された結合したファージ粒子の検出に基づいて、100倍より多くの増加したディスプレイ収率が観察された(図5)。
【0063】
DsbAssを使用することにより得られたより高いディスプレイ収率が選択実験も益することを証明するために、DsbAssまたはPhoAssをコードするファージミドから産生された3つの異なるタイプのファージ粒子を含有する2つの試験混合物を種々の希釈率で混合した。両試験混合物について、タンパク質APHおよびJNK2に特異的に結合するDARPinをディスプレイするファージ粒子を、選ばれなかったDARPin E3_5およびE3_19をディスプレイするファージ粒子中に1:10希釈率でスパイクした。これらの2つの試験混合物は、ターゲットタンパク質APHおよびJNK2に対する標準ファージディスプレイ選択のためのインプットライブラリーとして使用された(表2)。APHおよびJNK2特異的ファージ粒子は、DsbAssコードファージミドから産生された試験混合物から選択サイクル当たり約1000倍濃縮され得た(既に10%より多くの試験されたクローンが2サイクルのみの選択の後にそれらのターゲットに対して特異的であった)が、PhoAss含有ファージミドから産生された試験ライブラリーからの濃縮は、5選択サイクルの後にすら観察できなかつた(特異的クローンは観察されなかった)。
【0064】
他のシリーズの実験では、PhoAss、PelBss、DsbAss、TorTss、TolBssまたはSfmCssをコードするpDSTファージミドから産生されたファージ粒子間でファージELISAによりディスプレイ収率を比較した。タンパク質APHおよびJNK2に特異的に結合するDARPinをディスプレイするファージ粒子は、個々のpDSTファージミドからの産生の後に比較された。抗M13抗体で定量された結合したファージ粒子の検出に基づいて、Sec依存性シグナル配列PhoAssに比較してSRP依存性シグナル配列(DsbAss、TorTss、TolBssまたはSfmCss)で、700倍までの増加したディスプレイ収率が観察された(図6)。
【0065】
【表2】



【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
実施例
材料
化学品は、Fluka(Switzerland)から購入した。オリゴヌクレオチドは、Microsynth(Switzerland)からのものであった。VentDNAポリメラーゼ、制限酵素およびバッファーは、New England Biolabs(USA)またはFermentas(Lithuania)からのものであった。ヘルパーファージVCS M13は、Stratagene(USA)からのものであった。すべてのクローニングおよびファージ増幅は、Stratagene(USA)からのE.coliXL1−Blueにおいて行った。
【0069】
分子生物学
特記しない限り、すべての分子生物学方法は、説明されたプロトコールに従って行われた(Ausubel, F.M., Brent,R., Kingston, R. E., Moore, D.D., Sedman, J.G., Smith, J.A. and Stuhl, K.eds., Current Protocols in Molecular Biology, New York: John Weley and Sons,1998)。簡単なプロトコールは下記に示される。
【0070】
ファージディスプレイ関連方法
特記しない限り、すべてのファージディスプレイ関連方法は、説明されたプロトコールに従って行われた(Clackson, T. and Lowman, H.B. eds., Phage Display A Practical Approach, New York: Oxford University Press, 2004; Barbas III, C.F., Burton, D.R., Scott, J.K.eds.,Phage Display: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2001)。簡単なプロトコールは下記に示される。
【0071】
クローニング
DARPin3aをコードするファージミドpAK100の誘導体(Krebber, A., Bornhauser, S., Burmester, J., Honegger, A., Willuda, J., Bosshard, H.R., and Pluckthun, A., J.Immunol. Methods 201, 35-55, 1997)は、pDST23と呼ばれる、この研究の最初のファージミドのクローニングのための出発点であった。
【0072】
このpAK100誘導体のシグナル配列を置換するために、オリゴヌクレオチドoDST4(配列番号5)、oDST5(配列番号6)、oDST6(配列番号7)およびoDST8(配列番号8)をデザインした。これらの4つのオリゴヌクレオチドは、E.coliDsbAシグナル配列をコードする。E.coliDsbAタンパク質は、Swiss−Protデータベースに見出されうる(アクセッションナンバーP24991)。そのシグナル配列は、MKKIWLALAGLVLAFSASA(配列番号1)である。オリゴヌクレオチドoDST4、oDST5、oDST6およびoDST8をアニーリングしそしてPCRによりオリゴヌクレオチドoDST6およびoDST8を用いて増幅した。得られるDNAフラグメントは、DsbAシグナル配列をコードしており、そして制限エンドヌクレアーゼ部位XbaIおよびBamHIにより隣接されている。このDNAフラグメントをXbaIおよびBamHIで消化しそして、同様に処理されそして脱リン酸化されたpAK100誘導体にライゲーションした。得られるファージミドpDST23(図3)を単離しそして正しい配列をDNA配列決定により証明した。
【0073】
PhoAのシグナル配列(配列番号9)をコードするファージミドとの直接実験比較を可能とするために、pDST22と呼ばれる第2ファージミドを生じさせた。再び、oDST4p(配列番号10)、oDST5p(配列番号11)、oDST6(配列番号7)およびoDST8p(配列番号12)と呼ばれる4つのオリゴヌクレオチドをアニーリングしそしてPCRによりoDST6およびoDST8pを用いて増幅した。得られるDNAフラグメントは、PhoAシグナル配列をコードしており、そして制限エンドヌクレアーゼ部位XbaIおよびBamHIにより隣接されている。このDNAフラグメントをXbaIおよびBamHIで消化しそして、同様に処理されそして脱リン酸化されたpDST23にライゲーションした。得られるファージミドpDST22を単離しそして正しい配列をDNA配列決定により証明した。
【0074】
この研究で使用した他のファージミドは表1に列挙されておりそして下記のとおりに得られた:関心のあるタンパク質のコード配列を適切なデザインされたPCRプライマーおよびテンプレートDNA、例えば、調製されたcDNAもしくは公的に入手可能なプラスミドDNAを使用してPCR増幅した。それにより、BamHIまたはBglII制限部位が、コード配列の各々の5‘側に導入され、そして2つの制限部位(EcoRIおよびPstI)はコード配列の各々の3’側に導入された。これらのPCRフラグメントをBamHIまたはBglIIならびにEcoRIまたはPstIで消化し、次いで同様に処理されそして脱リン酸化されたファージミドpDST23またはpDST22にライゲーションした。クローニングされたPCR産物を含む融合ポリペプチドのための発現カセットのオープンリーディグフレームをすべての構築物について維持し、特にファージタンパク質IIIのC末端ドメイン(CTp3)へのC末端融合のための正しいリーディングフレームを維持した。関心のあるクローニングされたタンパク質の最初のアミノ酸および最後のアミノ酸は表1に与えられ、そしてGenBankまたはSwiss−Protデータベースについての参照ナンバーまたはアクセッションナンバーも与えられる。すべてのファージミドの正しい配列はDNA配列決定により証明された。
【0075】
デザインされたアンキリンタンパク質(DARPin)3aおよび2_3について、 DsbAssおよびPhoAssについて上記したのと同じクローニングストラテジーを使用して、PelBss(それぞれ、pDST80およびpDST81)、SfmCss(それぞれ、pDST86およびpDST87)、TolBss(それぞれ、pDST84およびpDST85)およびTorTss(それぞれ、pDST88およびpDST89)をコードするファージミドを生成した。
【0076】
ファージ産生および精製
1%グルコース、34μg/mlクロラムフェニコール(cam)および15μg/mlテトラサイクリン(tet)を含有する5ml 2×YT培地に、関心のあるファージミドを含んでいるE.coli XL−1Blueの単一コロニーを接種し、そして細胞を、振とうしながら30℃で一夜成長させた。1%グルコース、34μg/ml camおよび15μg/ml tetを含有する新鮮な5ml 2×YT培地に、一夜培養物を1:100の比で
【表5】


接種し、そして振とうしながら0.5のOD600となるまで37℃で成長させた。培養物に1ml当たり4×1010pfu(プラーク形成単位)でVCS M13ヘルパーファージを感染させ(感染多重度〜20)そして細胞を攪拌しないで37℃で30分間インキュベーションし、次いで振とうしながら37℃で30分間インキュベーションした。遠心(3500g、24℃、10分)により細胞を回収し、そして34μg/ml cam、50μg/mlカナマイシン(kan)および0.1mMイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)を含有する2×YT培地50ml中にペレットを再懸濁させることにより、培地を変えた。振とうしながらの30℃で14〜16時間の成長の後に、細胞を遠心(5600g、4℃、10分)により除去した。培養上清を1/4容積の氷冷PEG/NaCl溶液(20%ポリエチレングリコール(PEG)6000、2.5M NaCl)と1時間氷上でインキュベーションした。次いで沈殿したファージ粒子を遠心(5600g、4℃、15分)により集めそしてTBS150(25mM Tris/HCl、150mM NaCl、pH7.5)1ml中に再溶解した。ファージ粒子の更なる精製を、下記のとおりCsCl勾配遠心により行った。CsCl 1.6gの添加後に、TBS150により容積を4mlに調節した。CsCl溶液を1/2×1/2インチポリアロマーチューブ(Beckmann,USA,No358980)に移し、そして4℃でTLN−100ロータ(Beckman Instruments)において100000r.p.m.で4時間遠心した。遠心の後に、ファージバンドを回収した。ファージを1/2×2インチのポリカーボネートチューブ(Beckmann,USA,No349622)に移し、これにTBS150を充填して3mlとした。4℃でTLA−100.3ロータにおいて50000r.p.m.で1時間遠心した後、ペレット化されたファージを3mlTBS中に再溶解した。4℃でTLN−100.3ロータにおいて50,000r.p.m.で1時間追加の遠心をした後、ファージを1mlTBS中に溶解した。ファージ粒子の総濃度を分光光度法により定量した。ファージサンプルの感染力価は、1%グルコースおよび34μg/ml camを含有する2×YT寒天プレートを使用してE.coli XL−1Blue細胞でのタイトレーションにより決定した。37℃で一夜インキュベーション後に、コロニーを計数した。
【0077】
ファージブロット
CsCl勾配により精製された5×1011個のファージ粒子を、還元条件下に15%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)にかけ、そしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)Immobilon−P Transfer Membrane(Millipore,USA)にエレクトロブロッティングにより移した。この膜をMTTBS150(TBS150、0.1%Tween20、5%脱脂乳)により室温(RT)で1時間ブロッキングし、そしてpIIIのC末端ドメインを認識する一次抗体としてのマウス抗pIII抗体(MoMiTec,Germany,NO.PSKAN3)とインキュベーションした(MTTBS150中1:1000、RTで20分)。F(ab’)フラグメントヤギ抗マウスIgGセイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート(Pierce,USA,No.31438)を二次抗体として使用した(MTTBS150中1:10000、RTで1時間)。タンパク質をChemiGlow West基質(Alpha Innotech、USA)により検出した。
【0078】
第2の実験では、ブロッキングされた膜を、一次抗体としてのマウス抗FLAG M1抗体(Sigma,USA,No.F3040)とインキュベーションした(MTTBS150中1:5000、RTで1時間)。ヤギ抗マウスIgGアルカリホスファターゼコンジュゲート(Sigma,USA,No.A3562)を二次抗体として使用した(MTTBS150中1:10000、RTで1時間)。タンパク質を基質5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェート(BCIP)およびニトロブルーテトラゾリウム(NBT)(Fluka,Switzerland)により検出した。
【0079】
ファージELISA
ファージELISAを行って、M13ファージ粒子上の機能的にディスプレイされたDARPinの量をアッセイした。ビオチン化されたAPHおよびJNK2タンパク質(Binz et al., loc. cit)を下記のとおりに固定化した:TBS150中のNeutravidin(66nM、100μl/ウエル;Socochim,Switzerland)を4℃での一夜インキュベーションによりMaxiSorpプレート(Nunc,Denmark,No.442404)上に固定化した。ウエルを室温で1時間300μl BTTBS150(TBS150、0.1%Tween20、1%BSA)でブロッキングした。BTTBS150中のビオチン化APHおよびJNK2タンパク質(100μl、1μM)の結合を4℃で1時間行った。
【0080】
BTTBS150中のファージ粒子の希釈シリーズをウエルに加えそして2時間RTでインキュベーションした。ウエルを300μl TTBS150(TBS150、0.1%Tween20)で5分間5回洗浄した後、結合したファージ粒子を、抗M13セイヨウワサビペルオキシダーゼコンジュゲート(Amersham Pharmacia Biotech,UK,No.27−9421−01)および可溶性BM BluePOD基質(Roche Diagnostics,Germany,No.1484281)により検出した。
【0081】
ファージパニング
それぞれ、PhoAシグナル配列をコードするファージミド(pDST30、pDST65、pDST22、pDST34)またはDsbAシグナル配列をコードするファージミド(pDST32、pDST66、pDST23、pDST37)から、E3_5、E3_19、3aおよび2_3をディスプレイするファージ粒子を産生した。これらのファージ粒子を使用して、PhoAssまたはDsbAssをコードするファージミドから産生されたファージ粒子の混合物を調製した。結合していないDARPin E3_5およびE3_19をディスプレイしているファージ粒子の1:1混合物に、ターゲット特異的DARPin 3aまたは2_3をディスプレイしているファージ粒子を1:10希釈で加えた。ビオチン化APHおよびJNK2タンパク質をファージELISAについて記載のとおりにコーティングした。各ウエルに、0.1mlのファージ粒子混合物(1013cfu/ml)を0.1ml BTTBS150に加え、そして2時間インキュベーションした。TTBS150による洗浄(第1選択サイクルで3回、第2サイクルで4回および追加のサイクルで5回)およびTBS150による洗浄(第1選択サイクルで3回、第2サイクルで4回および追加のサイクルで5回)後に、0.2ml溶離バッファー(0.2Mグリシン/HCl、pH2.2)と約22℃で15分間インキュベーションし、次いで0.2mlトリプシン(TBS150中10mg/ml)により37℃で30分間溶離することによって、ファージ粒子を溶離した。一緒にした溶離液(2M Trisベース10μlで中和された)を、対数成長しているE.coliXL1−Blue 4mlの感染のために使用した。攪拌しないで37℃で30分および振とうしながら37℃で30分の後に、細胞を、1%グルコースおよび34μg/ml camおよび15μg/ml tetを含有する2×YT寒天プレート上に広げそして37℃で一夜成長させた。細胞を、1%グルコース、15%グリセロール、34μg/ml camおよび15μg/ml tetを含有する2×YTを有するプレートから洗浄し、そして次のサイクルのパニングのためのファージ産生のために使用した。各パニングサイクルの後に、9〜16の溶離されたファージ粒子のアイデンティティーを決定した。これは、これらのファージ粒子をE.coliに感染させることおよびクローン特異的プライマーを用いるPCRによりコロニーをスクリーニングすることにより行われた。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】関心のあるポリペプチドの膜挿入およびディスプレイN末端(N)、C末端(C)、関心のあるポリペプチド(POI);pIIIのN末端ドメイン(N1、N2)pIIIのC末端ドメイン(CT)。 A)繊維状ファージ粒子上の関心のあるポリペプチド(POI)のポリペプチドのディスプレイは、ペリプラズム(pp)への細胞膜(cm)を横切るPOIのトランスロケーションを常に含む。たいてい、POIは、コートタンパク質III(pIII)またはそのフラグメントを含む融合ポリペプチドとしてトランスロケーションされる。pIIIは、2つのN末端ドメイン(N1、N2)およびC末端ドメイン(CT)含む。この特定の例では、融合ポリペプチドは、N末端POIおよびC末端CTからなる。融合ポリペプチドおよびpIIIは、トランスロケーション後に且つファージ粒子へのそれらの組み込みの前にCT部分でC末端疎水性ストレッチにより細胞膜にアンカーされる。細胞質(cp)、外膜(om)、細胞外空間(ex)。 B)A)のplllおよび融合ポリペプチドをディスプレイする繊維状ファージ粒子の単純化された図。plllのN末端ドメイン(N1、N2)およびPOIは、CT部分を介してファージ粒子に組み込まれる。
【図2】グラム陰性菌の細胞膜を横切るポリペプチドのトランスロケーション。 グラム陰性菌のペリプラズム(pp)への細胞膜(cm)を横切るポリペプチドのトランスロケーションについて知られている3つの主要な経路の単純化された図。これらの経路は、SRP経路、Sec経路およびTat経路である。SecおよびSRP経路の両方とも、Secトランスロコン(SecTR)に頼っているが、これに対してTat経路は、Tatトランスロコン(TatTR)に頼っている。SecおよびTat経路の両方とも、ポリペプチドを翻訳後にトランスロケーションするが、これに対してSRP経路は、ポリペプチドを翻訳と同時にトランスロケーションする。SecおよびSRP経路は、折りたたまれていない(uf)状態でタンパク質を前記膜を通して輸送するSecトランスロカーゼに収束する。対照的に、Tatトランスロコンは折りたたまれた(f)タンパク質のみをトランスロケーションする。シグナル配列(ss)のアミノ酸組成は、これらの経路の1つへのプレプロテインのターゲティングを強く選ぶ。トランスロケーションの後に、シグナル配列は、ペプチダーゼによりプレプロテインから開裂除去される。SRP経路は、54kDaタンパク質ホモログおよび4.5S RNAからなるリボヌクレオタンパク質であるシグナル認識粒子(SRP)により媒介される。この経路では、SecトランスロコンにプレプロテインをターゲティングするのはSRPである。SRPはリボソーム(R)から現れる対応するシグナル配列を認識しそしてそれに結合し、リボソーム−新生鎖複合体をSRPレセプター(SR)に送達し、次いでプレプロテインはSecトランスロコンを通じて翻訳と同時にトランスロケーションされる。従って、ポリペプチドの未熟な細胞質折りたたみの故にSec経路と非適合性であるポリペプチドは、翻訳されている間にSRP経路により効率的にトランスロケーションされうる。(1)SRPはリボソームから現れる新生タンパク質の特に疎水性のシグナル配列に結合する。(2)SRPは、リボソーム新生鎖複合体をSRPレセプターを介してSecトランスロコンに指向させ、そこで翻訳と同時のトランスロケーションが行われる。大部分のプレプロテインは、より少なく疎水性のシグナル配列を有し、そしてSecB依存性エキスポートを受ける。(3)新生ポリペプチドに対する一般的アフィニティーを有する細胞質ゾルシャペロンであるトリガー因子(TF)は、新生プレプロテインの成熟領域に結合し、そして翻訳が殆ど終了するまで有効に結合したままである。(4)TF解離に続いて、細胞質ゾル因子、例えばSecBは、プレプロテインを伸張した折りたたまれていないコンホメーションに維持するのを助ける。(5)伸張したコンホメーションを保持するプレプロテインは、Secトランスロコンを通じて効率的に輸送される。(6)しかしながら、プレプロテインの折りたたみが細胞質において起るならば、このタンパク質は通常分解されるか(10)またはSecトランスロコンをふさぐことすらありうる。ツインアルギニンモチーフを含有するシグナル配列を有するプレプロテインは、Tatトランスロコンに運命付けられている(destined)。(7)シャペロン(TC)、例えばDnaKまたは他のTat特異的因子との会合は、多分折りたたみが完了するまでシグナル配列をシールドする(8)。この同じ因子または追加の因子は、正しい折りたたみを促進することもありうる。Tatトランスロケーションは、プレプロテインが正しく折りたたまれる場合にのみ進行し;そうでなければ、プレプロテインは細胞のタンパク質分解装置により分解される(9、10)。
【図3】pDSTファージミドベクターシリーズの模式図。 A)pDSTファージミドベクターシリーズの発現カセットの拡大図である。この発現カセットは、E.coliのlacZ遺伝子のプロモーター/オペレーターエレメント(lacZp/o)、リボソーム結合部位(示されていない)、シグナル配列(ss)およびディスプレイされるべき関心のあるポリペプチド(POI)のためのコード配列、サプレッサーストップコドン(TAG)、可動性グリシン/セリンリンカー(G/S)およびファージ粒子への融合ポリペプチドの組み込みを媒介する繊維状ファージのタンパク質IIIのC末端ドメイン(アミノ酸250〜406)(CTpIII)のためのコード配列、2つのストップコドン(TGATAA、示されていない)および転写ターミネーターエレメント(示されていない)を含む。POIのコード配列は、Flagタグ(Flag)およびcmycタグ(c−myc)をコードするDNA配列により隣接されている。SRP経路をターゲティングするシグナル配列を代表するものとしてのDsbAシグナル配列(DsbAss)およびSec経路をターゲティングするシグナル配列を代表するものとしてのPhoAシグナル配列(PhoAss)のための一文字アミノ酸配列が示される。これらのシグナル配列は、正に帯電したN末端領域(n領域)、非極性疎水性コア(h領域)およびより極性の高いC末端領域(c領域)を含有する。 B)ファージミドpDST23の模式図。A)に示されたエレメントに加えて、繊維状ファージ複製起点(Ff ori)、lacZp/oの厳重なコントロールのために必要なlacリプレッサーを産生するE.coliからのlacリプレッサー遺伝子(lacl)、ベクターのバクテリア複製のためのColE1複製起点(ColE1 ori)、クロラムフェニコール耐性を媒介するクロラムフェニコール−アセチル−トランスフェラーゼをコードする抗生物質耐性遺伝子(cat)および制限部位XbaI、BamHI、PstIおよびEcoRIが示される。pDST23においてコードされたPOIは、デザインされたアンキリンリピートタンパク質(DARPin)3aである。
【図4】ウエスタンブロット分析によるディスプレイ収率比較 A)およびB)それぞれのファージミドの使用により産生されたCsCl精製されたファージ粒子を、SDS−PAGEにより分離し、PVDF膜上にブロットし、そしてタンパク質IIIのC末端ドメインに特異的な抗体(抗pIII)またはFlagタグに対して特異的な抗体(抗FlagM1)により検出した。1レーン当たりに適用されたアリコートは標準化されておりそして5×1011個のファージ粒子に相当している。種々のポリペプチドについてファージ粒子上のディスプレイ収率を分析する。ポリペプチドの略称は、レーンの上部に示されそして表1に列挙されたポリペプチドを指す。さらに、表1は、ファージ粒子を産生するために使用された対応するファージミドを示しそして発現カセットの略図は、図3Aに示される。PhoAシグナル配列(「p」と表示されたレーン)またはDsbAシグナル配列(「d」と表示されたレーン)を使用して、それぞれ、Sec経路またはSRP経路による対応する融合ポリペプチドをトランスロケーションして、各ポリペプチドについてディスプレイ収率を比較した。より強いバンドは、より高いディスプレイ収率を示す。kDaで示されたマーカータンパク質の分子量は、ブロットの両側に示される。抗pIIIブロットにおける62kDaでのバンドは、pIII野生型タンパク質に対応する。
【図5】ELISA分析によるディスプレイ収率比較 2_3と呼ばれるcJunN末端キナーゼ2(JNK2)結合DARPin(白記号)または3aと呼ばれるアミノグリコシドキナーゼAPH(3’)−IIIa(APH)結合DARPin(黒記号)をディスプレイするファージ粒子を、それぞれ固定化されたビオチン化JNK2またはAPHタンパク質を含有する、neutravidinでコーティングされそしてBSAでブロックされたウエルにおいてインキュベーションした。洗浄の後に、結合したファージ粒子は、セイヨウワサビペルオキシダーゼにカップリングされた抗M13抗体で検出されそして可溶性BM BluePOD基質で可視化された。プロットされたデータは、x軸上の1ウエル当たりに適用されたファージ粒子(pp)の数に対する392nmで測定されたバックグラウントを差し引いた後の360nmで測定されたy座標上の吸光度(Abs)を示す。DsbAシグナル配列コード化ファージミド変異体を使用して産生されたファージ粒子(三角形記号)は、1ウエル当たり約8×10個のファージで既に最大値の半分のシグナルを示したが、これに対してPhoAシグナル配列コード化変異体から産生されたファージ粒子(四角形記号)は、1ウエル当たり約2×1011個のファージ粒子でのみ最大値の半分のシグナルを示し、これは100倍より多く低いディスプレイ収率を示す。従って、融合ポリペプチドのトランスロケーションのためのDsbAシグナル配列媒介SRP経路の使用は、PhoAシグナル配列媒介Sec経路を使用することに比較してディスプレイ収率を強く増加させた。
【図6】ELISA分析によるディスプレイ収率の定量 DARPin2_3または3aをディスプレイするファージ粒子を、図5について記載したとおりに分析した。結果は、PhoAssディスプレイ収率を1にセットして、棒グラフ(対数スケール)で示される。使用された各シグナル配列についてのディスプレイレベル(増加倍数)は、OD450=0.5のシグナルを与えるPhoAss含有ファージ粒子の数に対して相対的なOD450=0.5のシグナルを与えるファージ粒子の数に対応する。PelBss:Erwinia carotovora PelBのシグナル配列(推定Sec依存性シグナル配列)。DsbAssの外に、E.coliタンパク質TorTのSRP依存性シグナル配列(TorTss)、TolBのSRP依存性シグナル配列(TolBss)およびSfmCのSRP依存性シグナル配列(SfmCss)を試験した。Sec依存性PhoAssに比較して、SRP依存性TorTssで700倍までの増加したディスプレイ収率が観察された。SRP依存性TolBssおよびSfmCssは、300倍までの増加したディスプレイ収率を与えた。推定Sec依存性PelBssは、2〜6倍の増加したディスプレイ収率を示したにすぎない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNAライブラリーによりコードされた関心のあるポリペプチドをファージ粒子上にディスプレイし、そして該関心のあるポリペプチドをグラム陰性菌の細胞膜を横切って翻訳と同時にトランスロケーションさせる、繊維状ファージディスプレイ方法。
【請求項2】
翻訳と同時のトランスロケーションがシグナル認識粒子経路に基づいて達成される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ファージ粒子上にディスプレイされるべき関心のあるポリペプチドのトランスロケーションのために使用されるシグナル配列が、TrxAの翻訳と同時のトランスロケーションを促進するシグナル配列である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ファージ粒子上にディスプレイされるべき関心のあるポリペプチドのトランスロケーションのために使用されるシグナル配列が、TorT、SfmC、FocC、CcmH、YraI、TolB、NikA、FlgIおよびDsbAのシグナル配列およびそのホモログからなる群より選ばれる、請求項1、2または3に記載の方法。
【請求項5】
ファージ粒子上にディスプレイされるべき関心のあるポリペプチドのトランスロケーションのために使用されるシグナル配列が、TorT、SfmC、TolBおよびDsbAのシグナル配列からなる群より選ばれる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ファージ粒子上にディスプレイされるべき関心のあるポリペプチドがリピートタンパク質である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
(a)グラム陰性菌の細胞膜を横切る融合ポリペプチドの翻訳と同時のトランスロケーションを促進するN末端シグナル配列を有する融合ポリペプチドのための発現カセットを含有する繊維状ファージもしくはファージミドベクターを構築する工程;
(b)関心のあるポリペプチドをコードするDNAライブラリーを工程(a)のベクターの発現カセットにクローニングすることによりファージまたはファージミドベクターのコンビナトリアルライブラリーを構築する工程;
(c)工程(b)のベクターのライブラリーにより適当なグラム陰性菌をトランスフォーメーションする工程;および
(d)ファージディスプレイ選択サイクルを行って、ディスプレイされた関心のあるポリペプチドの性質に基づいてファージ粒子を分離する工程、
を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ファージ粒子上にディスプレイされた関心のあるポリペプチドを、TorT、SfmC、FocC、CcmH、YraI、TolB、NikA、FlgIおよびDsbAのシグナル配列およびそのホモログからなる群より選ばれるシグナル配列を使用して、グラム陰性菌の細胞膜を横切って翻訳と同時にトランスロケーションさせる、繊維状ファージディスプレイ方法。
【請求項9】
シグナル配列が、TorT、SfmC、TolBおよびDsbAのシグナル配列からなる群より選ばれる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ファージ粒子上にディスプレイされるべき関心のあるポリペプチド、およびTorT、SfmC、FocC、CcmH、YraI、TolB、NikA、FlgIおよびDsbAのシグナル配列およびそのホモログからなる群より選ばれるシグナル配列を含む融合タンパク質をコードする遺伝子構築物を含むファージまたはファージミドベクター。
【請求項11】
シグナル配列が、TorT、SfmC、TolBおよびDsbAのシグナル配列からなる群より選ばれる、請求項10に記載のベクター。
【請求項12】
融合タンパク質の各々がTrxAの翻訳と同時のトランスロケーションを促進するシグナル配列およびファージ粒子上にディスプレイされるべき関心のあるポリペプチドを含み、関心のあるポリペプチドの各々がDNAライブラリーのメンバーによりコードされている、融合タンパク質をコードする遺伝子構築物を含むファージまたはファージミドベクターのライブラリー。
【請求項13】
シグナル配列が、TorT、SfmC、FocC、CcmH、YraI、TolB、NikA、FlgIおよびDsbAのシグナル配列およびそのホモログからなる群より選ばれる、請求項12に記載のベクターのライブラリー。
【請求項14】
シグナル配列が、TorT、SfmC、TolBおよびDsbAのシグナル配列からなる群より選ばれる、請求項12に記載のベクターのライブラリー。
【請求項15】
関心のあるポリペプチドをコードするDNAライブラリーが、リピートタンパク質をコードするDNAライブラリーである、請求項12〜14のいずれかに記載のベクターのライブラリー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−500027(P2009−500027A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−519913(P2008−519913)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2006/063729
【国際公開番号】WO2007/006665
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(507324681)ユニバーシティ・オブ・チューリッヒ (7)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF ZURICH
【Fターム(参考)】