説明

融合マイクロチャネルを備えたコンタクトレンズ

【課題】 涙液の有効な交換を促進するマイクロチャネルを備えたコンタクトレンズを提供することにある。
【解決手段】 眼に着用するコンタクトレンズが提供され、本発明のコンタクトレンズは、レンズ本体と、該レンズ本体の後面に形成される複数のマイクロチャネルとを有している。マイクロチャネルは、眼の露出表面と、レンズ本体により覆われた眼の表面との間の有効な涙液交換を促進するように構成されている。各マイクロチャネルは、マイクロチャネルの長さの大部分に沿う、実質的に無継目の凸状表面を有するのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くはコンタクトレンズに関し、より詳しくは、涙液の有効な交換を促進するマイクロチャネルを備えたコンタクトレンズに関する。
なお、本願は、2000年7月28日付米国仮特許出願第60/221,575号の利益を主張する2001年7月20日付米国特許出願第09/910,355号の一部継続出願である2002年10月11日付米国特許出願第10/270,025号の一部継続出願であり、これらの各出願の全開示は本願に援用する。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズの長期着用は角膜の合併症を招くことはこれまでに知られている。コンタクトレンズの長期着用による有害角膜反応は、主として、レンズと眼との界面(以下、「レンズ/眼界面」という)に捕捉されたデブリ(debris)の蓄積により引起こされる。
【0003】
角膜は、活性代謝を有する生体組織である。このような代謝により発生される、例えば乳酸、二酸化炭素および水等の老廃物は、角膜から排除されなくてはならない。コンタクトレンズの着用により、例えば、このような老廃物、死んだ上皮細胞および眼から通常的に除去される他の物質等から生じるデブリが、レンズ/眼界面に捕捉されるようになる。このようなデブリが眼の中に蓄積されたままに残されると、眼を傷つけ、例えば炎症および/または、眼および/またはレンズ着用者の広範な接眼レンズ健康に対する他の損傷を引起こす。角膜は、他の生体組織のように血液の供給から酸素を受入れないので、健康状態を維持するためには、充分な酸素供給を受入れなくてはならない。充分な酸素が角膜に到達しない場合には、角膜膨脹が生じる。
【0004】
コンタクトレンズの長期着用耗による酸素剥奪の問題に対処するため、高い酸素伝達特性をもつ親水性レンズが開発されている。親水性レンズはときどきヒドロゲルレンズとも呼ばれており、ソフトでフレキシブルな含水レンズである。親水性レンズの臨床的研究により、長期間に亘って着用した場合でも、このようなレンズを着用する人の角膜膨脹の度合いが比較的低いことが証明されている。
しかしながら、残念なことに、従来の親水性レンズを使用しても、コンタクトレンズの着用、特に長期着用に対する全ての有害角膜反応を解消することはできない。例えば、従来の親水性レンズは、レンズ/眼界面でのデブリ蓄積の問題に対処することはできない。このことは、長期着用するための安全でソフトなコンタクトレンズの開発に対処するには、酸素透過性以外の他の考察があることを示唆している。
【0005】
1つの重要な考察は、眼の露出表面と、レンズにより覆われる眼の表面との間の有効涙膜交換である。涙液は、デリケートな眼の組織への水分補給と、眼からのデブリの連続フラッシングとを行う。眼と、コンタクトレンズの後面すなわち眼に対面する側の面との間の涙膜交換は、眼の健康を維持する重要なファクタであると考えられる。涙膜は、さもなくばレンズと眼との間に捕捉される虞れのある死んだ上皮細胞、粒状異物および他のデブリを除去できる。高い涙膜交換は角膜の健康を向上させるだけでなく、眼の感染および微生物による角膜炎等の合併症を制限する。
【0006】
眼の上でのレンズの回転は、眼の健康および快適性の維持手段であると長い間考えられてきた。例えば下記特許文献1には、レンズの内側面上に等間隔に配置されかつ螺旋状に傾斜した5つのダクトが形成されたコンタクトレンズが開示されている。各ダクトはレンズの中心に向かって延びているが、角膜領域までは延びていない。レンズのゆっくりした一定回転は、角膜上でのレンズの過度の固定が防止されると記載されている。ダクトの螺旋状傾斜は、この傾斜方向に基いて、レンズを時計回り方向または反時計回り方向に回転させるといわれている。
【0007】
より最近の下記特許文献2には、眼の上に置かれたときに、角膜表面から間隔を隔てて配置される角膜領域を備えたコンタクトレンズが開示されている。着用者の瞼のまばたき作用によりレンズを回転させることも提案されている。この特許文献2によれば、涙膜は、レンズの平坦ゾーンにより引起こされる「ターボ効果(turbo effect)」の結果として眼の表面に沿って運ばれ、これにより、レンズは、まばたき作用に応答して眼の上で回転される。この特許文献2はまた、涙の移動がレンズ本体の後面の凹部により与えられることも開示している。特許文献2は、凹部とはレンズ本体の後面の窪んだ部分であり、溝状または鋸歯状であることを示しかつ説明している。特許文献2はまた、「薄い波形湾曲チャネル」を設けることもできることを開示している。
【0008】
下記特許文献3には、イオン透過性または水透過性と酸素透過性とのバランスを得るべく開発されたレンズ材料であって、コンタクトレンズの充分な「アイ・オン移動(eye-on movement)」(すなわち、眼の表面上でのレンズの移動)が得られる透過性を有するレンズ材料が開示されている。
【0009】
特許文献1〜3の各々は、その全体を本願に援用する。
【特許文献1】Gordonの米国特許第2,989,894号明細書
【特許文献2】Hoefer等の米国特許第5,166,710号明細書
【特許文献3】Nicolson等の米国特許第5,849,811号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
快適で、安全で、長期着用できるコンタクトレンズの開発においてなされた進歩にもかかわらず、改善されたコンタクトレンズ、例えば眼の表面領域、より詳しくは角膜領域の全体での涙液交換を促進するレンズに対する要望が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
眼の露出表面とコンタクトレンズにより覆われた眼の表面との間の有効な涙液交換を促進するのに有効な新しいコンタクトレンズが見出されている。レンズの周囲の外側からの涙液または涙膜と、レンズの後(すなわち、レンズと眼との間すなわちレンズ/眼界面)に位置する涙液または涙膜との交換により、レンズ/眼界面からのデブリの増強された除去が行われる。角膜とコンタクトレンズとの間に位置する涙膜は、本明細書では、ときどき、レンズ後面涙膜(post-lens tear film:PoLTF)と呼ぶことにする。PoLTFの一貫したフラッシングにより、高い角膜健康および/または小さい有害角膜反応でのコンタクトレンズの着用期間の延長が可能になる。
【0012】
本発明によるコンタクトレンズ、例えば長期着用コンタクトレンズは、高い涙混合(例えばPoLTFの一貫したフラッシング)による、コンタクトレンズ下からのデブリの除去、好ましくは角膜への酸素の多量供給、また、好ましくはレンズの回転によらない涙液または涙膜の有効交換の促進を行うことができる。
【0013】
本発明の広い一態様では、後面および前面を備えたレンズ本体を有するコンタクトレンズが提供される。レンズ本体の後面には複数のマイクロチャネル形成されており、レンズ本体は、コンタクトレンズが眼に着用されたときに、例えばPoLTFから、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約5%短縮するように構成されている。本発明の他の態様では、好ましくは、本明細書に開示するような複数のマイクロチャネルを有するレンズ本体は、該レンズ本体への瞼(まぶた)の作用に応答してコンタクトレンズを着用する眼に向かって撓むように構成されており、これにより、眼の露出表面とレンズ本体により覆われた眼の表面との間の有効涙液交換の促進を少なくとも補助し、好ましくは、コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、このように撓まない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約15%短縮する。
【0014】
本発明を任意のいかなる特定作動理論にも限定することなく、例えば瞼のまばたき作用に応答するレンズ本体の構造は、レンズに、レンズと、該レンズにより覆われた眼の表面との間の涙液の大きいポンピングすなわちフラッシング作用を引起こすものと考えられる。より詳しくは、本発明のこの態様によれば、例えばまばたき作用時に瞼を閉じると、瞼はレンズを角膜に近付くように押し、これにより、幾分かのPoLTFをレンズの下から絞り出す。次に瞼が開けられると、レンズの弾性によってレンズが反発して角膜から離れる方向に移動し、これにより、周囲の強膜上の涙膜から涙液を引出し、PoLTFを有効に補給する。
【0015】
本発明の特定実施形態では、レンズ本体は、該レンズ本体の光軸から、各マイクロチャネルの少なくとも一部を周方向に横切って延びる半径に沿って、実質的に連続的に変化している厚さを有することが好ましい。
例えば、複数のマイクロチャネルは、周方向に波形を形成する。より好ましくは、複数のマイクロチャネルは、実質的に連続的、好ましくは実質的に無継目(junctionless)な波形を形成する。換言すれば、複数のマイクロチャネルは、全体的にレンズの光軸からレンズ本体の周方向部分を横切って延びる、実質的に円滑で、実質的に連続的な湾曲面を形成することが好ましい。
【0016】
好ましくは、各マイクロチャネルは、約5〜30°の範囲内の幅を有する(例えば、360°で、実質的に円形の配列になる)。複数のマイクロチャネルは、約3〜200個、より好まし約10〜100個のマイクロチャネルを有する。
本発明の一実施形態では、レンズは、複数のマイクロチャネルが実質的に存在しない光学的ゾーンを有する。例えば、複数のマイクロチャネルは、レンズの周辺部分のみに形成することができる。
【0017】
各マイクロチャネルは、レンズ本体の前面に対して凸状以外の湾曲面を有することが好ましい。より好ましくは、各マイクロチャネルは、半径方向および周方向の両方向に実質的に連続的に湾曲する。ここで、「周方向」とは、レンズ本体の後軸から延びる少なくとも1つの半径に沿う方向であると定義する。
【0018】
本発明の特に有効な実施形態では、少なくとも2つのマイクロチャネルが、周方向に波形を形成する。本明細書で使用するとき、波形とは、少なくとも2つの各マイクロチャネルの頂部を含む連続曲線をいう。ここで、マイクロチャネルの頂部はマイクロチャネルの最も後方の点をいう。より好ましくは、複数のマイクロチャネルは、周方向に実質的に連続的な波形を形成し、更に好ましくは、全体として、レンズ本体の最も薄い領域に溝を有しかつ最も厚い領域に頂部を有する、実質的に周方向に無継目の波形を形成する。本明細書のより特定の態様では、波形は、レンズの周辺部分の少なくとも一部の回りで周方向に反復する。
【0019】
本発明の他の広い態様では、後面および前面を備えたレンズ本体を有し、該レンズ本体が複数のマイクロチャネルを備え、各マイクロチャネルが、レンズ本体の前面に対して全体として凹状以外の、好ましくは全体として凸状の湾曲面を備えている構成のコンタクトレンズが提供される。好ましくは、各マイクロチャネルの湾曲面は、マイクロチャネルの後面領域に設けられる。
【0020】
一実施形態では、レンズ本体は、該レンズ本体の少なくとも一部、例えば各マイクロチャネルの大部分または実質的に全部を横切ってレンズ本体の光軸から延びる半径に沿って実質的に周方向に連続的に変化する厚さにすることができる。一実施形態では、レンズ本体は、各マイクロチャネルの一部のみを横切って光軸から延びる半径に沿って実質的に周方向に連続的に変化する厚さを有する。
各マイクロチャネルは、半径方向および周方向の両方向に、実質的に円滑すなわち無継目で、連続的な湾曲面であるのが好ましい。
【0021】
好ましくは、各マイクロチャネルは、該マイクロチャネルの幅および深さのうちの少なくとも一方に関して、レンズ本体の光軸に向かって小さくなるテーパを有する。
【0022】
本発明の一実施形態では、レンズは、複数のマイクロチャネルが実質的に存在しない光学的ゾーンを有している。例えば、レンズの周辺部分のみに複数のマイクロチャネルを設けることができる。
この場合にも、本発明を特定の作動理論に限定することなく、マイクロチャネルの全体的に非凹状の湾曲面が涙液交換の促進に有効であり、例えば、本明細書で説明するように、マイクロチャネルが設けられていないか、このような湾曲面を備えていないマイクロチャネルを有する実質的に同一のコンタクトレンズと比較して、例えば少なくとも約15%、好ましくは少なくとも約35%涙液交換を高めることができる。
【0023】
本明細書で説明するように、T95試験を用いるときは、本発明のコンタクトレンズは、該コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、例えばマイクロチャネルが設けられていないか、本発明によるマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して、少なくとも約15%、または少なくとも約20%、または少なくとも約25%、または少なくとも約30%、または少なくとも約35%短縮するように構成されている。
【0024】
本発明の他の広い態様では、レンズ本体を有し、該レンズ本体の後面には複数のマイクロチャネルが形成されており、各マイクロチャネルが、1つ以上のマイクロチャネルに対して実質的に当接関係をなして配置されている構成のコンタクトレンズが提供される。マイクロチャネルは、好ましくは、眼の露出表面と、レンズ本体により覆われた眼の表面との間の涙液交換を有効に促進、より好ましくは高めることができるサイズを有しかつこれに適合している。
【0025】
各マイクロチャネル、例えば当接するマイクロチャネルは、レンズが着用されたときに、レンズ本体の後面と、眼の表面との間に大きい間隔を形成するサイズを有しおよび/または形状を有することが好ましい。例えば、複数のマイクロチャネルは、後面の大部分を占めるようにして、眼の表面とレンズとの間に一貫したPoLTFが形成されるように構成できる。例えば、本発明によれば、複数のマイクロチャネルは、レンズ後面の少なくとも約10%、または約20〜30%、または約50%以上を占めるように構成できる。好ましくは、本発明のコンタクトレンズは、瞼が接触する作用に応答して、レンズ本体が、コンタクトレンズを着用する眼の方向に向かっておよび眼から離れる方向に撓むことができ、これにより、少なくとも眼の表面と、レンズ本体により覆われた眼の表面との間の有効な涙液交換を促進する補助をなすことができる。
【0026】
当接する各マイクロチャネルには、レンズ本体の前面に対し、全体として凹状以外の湾曲面にすることができる。例えば、各マイクロチャネルには、レンズ本体の前面に対して全体として凸状の湾曲面を設けることができる。
好ましくは、本発明のコンタクトレンズは旋削技術により作られる。より詳しくは、複数のマイクロチャネルは、コンタクトレンズの金型成形に使用されるツーリングインサート上で旋削されるのが好ましい。
【0027】
或いは、本発明のコンタクトレンズのマイクロチャネルは、任意の適当な技術または加工方法またはこれらの組合せを用いて形成することができる。好ましくは、このようなマイクロチャネルは、慣用されかつ当業界で良く知られた技術を用いて、コンタクトレンズの製造時に形成することもできる。例えば、マイクロチャネルを形成できるコンタクトレンズの製造方法には少なくとも3つの機会があり、例えば次の通りである。
・薬品、レーザ、EDM、写真製版、UV照射、マイクロマシニング等の技術を用いて、モールディングインサートをエッチングしまたは好ましくは旋削する方法
・マイクロコンタクト印刷等の技術を用いて、熱可塑性モールド上にレリーフを形成する方法
・レイジング(lasing)等により、レンズ上に直接マイクロチャネルを形成する方法
本発明のレンズを長期着用したとき、レンズ/眼界面での涙膜は、レンズ周辺部分の外側からの眼の部分からの涙液により連続的にフラッシング(洗い流し)される。レンズ/眼界面(該界面には、しばしば、多量のデブリが含まれている)からの涙膜のこのフラッシングは、「きれいな」涙膜によりデブリ濃度を低下させ、これにより、レンズを眼から取出す前に、レンズを長期着用することが可能になる。レンズを長期着用しない場合でも、涙膜の連続的フラッシングは、レンズ着用者の角膜の健康に非常に優れた効果を与える。
【0028】
本発明による優れたデブリ除去は、親水性コンタクトレンズ(例えば、親水性ポリマー材料、シリコーンヒドロゲル材料等で作られたコンタクトレンズ)のような高い酸素透過性をもつコンタクトレンズと組合せると、特に有効である。
本明細書に説明する各特徴およびあらゆる特徴、およびこれらの特徴の2つ以上の各組合せおよびあらゆる組合せは、本発明の範囲内に包含されるものであり、このような組合せに包含される特徴は相互矛盾するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の上記および他の態様は、特に、添付図面(同類の部品は同じ参照番号で示されている)を参照して述べる以下の詳細な説明、例および特許請求の範囲の記載から明らかになろう。
【0030】
図1および図2を参照すると、ここには、本発明によるコンタクトレンズ10が示されている。コンタクトレンズ10はレンズ本体14を有し、該レンズ本体14は、後面16と、反対側の前面17(図1からは見えない)とを備えている。後面16は、視力矯正を行うように構成された光学的ゾーン18と、該光学的ゾーン18を全体として包囲する周辺部分22と、周縁面24とを有している。本明細書で使用するとき、後面16とは、着用中に眼の方向を向くレンズ10の表面をいうものとする。
【0031】
本発明のレンズ10は、概略的に、後面16に形成された複数のマイクロチャネル30を有している。概略的にいえば、レンズ本体14は、該本体14上に載る瞼の作用に応答して、コンタクトレンズ10が着用される眼の方向(矢印28で示す方向)に撓み、これにより、本明細書のいずれかで述べるように、例えばPoLTFを一貫して補給することにより、少なくとも有効涙液交換の促進を補助する。
有利な構成として、マイクロチャネル30は、眼の露出表面と、レンズ本体14により覆われた眼の表面との間の有効な涙液交換を促進することができるサイズが好ましい。
【0032】
好ましくは、本発明のレンズは、眼に着用されたときに、マイクロチャネルを備えていない同一のコンタクトレンズまたは本明細書に示しかつ説明するように構成されたマイクロチャネルを備えていない同一のコンタクトレンズと比較して、涙の混合を、少なくとも約15%、または少なくとも約20%、または少なくとも約25%、または少なくとも約30%、または少なくとも約35%以上増大するように構成される。例えば、本発明のコンタクトレンズは、眼(例えば人の眼)に着用されたときに、マイクロチャネルまたは本発明に従って構成されたマイクロチャネルを備えていない同一のコンタクトレンズと比較して、涙液の交換に要する時間を、少なくとも約15%、または少なくとも約20%、または少なくとも約25%、または少なくとも約30%、または少なくとも約35%以上短縮するように構成されたレンズ本体を有するのが好ましい。本明細書で説明するように、本発明のレンズは、約0.4%増強から少なくとも46%増強までの範囲の高い涙交換速度が得られる。
【0033】
各マイクロチャネル30は、全体として、前面17に対して凹状以外の湾曲面34を有するのが好ましい。より詳しくは、湾曲面34は、前面17に対して全体として凸状で、マイクロチャネル30の後方領域内に配置される。
これは、図3を参照することにより、より明瞭に理解されよう。図3は、レンズ本体14の光軸から特定半径方向距離を隔てた部分に沿う、レンズ10の断面図である。例えば図3は、レンズ本体4の光軸から約4mmの半径方向距離を隔てた部分のレンズ10の厚さを示す。各マイクロチャネル、例えばマイクロチャネル30′は、頂部31aと頂部31bとの間に形成されている。
【0034】
好ましくは図1に示すように、各マイクロチャネル30の湾曲面は、実質的に周方向に連続して湾曲している。このため、レンズ本体14は、隣接する当接マイクロチャネル例えば図3のマイクロチャネル30′、30″を横切ってレンズ本体14の光軸から延びる半径に沿って実質的に連続的に変化する厚さを有し、最も厚い部分は頂部31a、31bであると説明できる。各頂部31a、31bは、2つのマイクロチャネルの頂部であることに留意されたい。例えば頂部31bは、両マイクロチャネル30′、30″に共通である。
【0035】
各マイクロチャネルは、1つ以上の隣接マイクロチャネルに対して実質的に当接して配置されている。例えば、特定マイクロチャネルの湾曲面は、1つ以上の他のマイクロチャネルの湾曲面に対し、実質的に当接関係をなして配置されている。複数のマイクロチャネル30は、レンズ10の後面16の少なくとも一部に、無継目の連続的湾曲面を形成するのが好ましい。本発明のレンズ、例えば少なくとも一部に無継目のマイクロチャネルを備えたレンズは、例えば継目すなわち不連続部(不連続または鋭い縁部)を備えた、間隔を隔てたマイクロチャネルを備えたコンタクトレンズと比較して、着用者に優れた快適性を与える利益を有する。
【0036】
より好ましくは、複数のマイクロチャネル30は、周方向の波形を形成する。本発明では、波形は、少なくとも2つのマイクロチャネルの頂部を含む連続湾曲として形成される。波形は、実質的に連続的な波形であるのが好ましい。より好ましくは、複数のマイクロチャネルは、実質的に無継目の波形を形成する。例えば、各マイクロチャネルは、マイクロチャネルの長さの、少なくとも一部、好ましくは大部分に沿って実質的に無継目であるのが好ましい。
【0037】
例えば、図1に示す実施形態では、複数のマイクロチャネルが、光学的ゾーン18から放射しかつレンズ本体14の周辺部分22の少なくとも一部と交差して延びている連続波形を形成している。マイクロチャネル30は、半径方向および周方向の両方向に、実質的に円滑かつ連続的に湾曲しているのが好ましい。複数のマイクロチャネルにより形成される波形は、図1に示すように周期的に構成できる。換言すれば、マイクロチャネルは頂部から頂部まで実質的に等距離であるが、これは必ずしもそうしなければならない訳ではない。
【0038】
各マイクロチャネル30内のレンズ本体14の最も薄い領域は、レンズ本体14の最大厚さの約5%、約10〜30%、約50%、または約80%にすることができる。各マイクロチャネル30は、その幅に関して、レンズの周縁面24から光学的ゾーン18の光軸に向かって減少するテーパ状であるのが好ましい。別の斜視図から見て、各マイクロチャネル30は、例えばレンズのほぼ周縁面24で最大幅を有するのが好ましい。
【0039】
コンタクトレンズ10は、眼の露出表面と、レンズ10により覆われた眼の表面との間の涙液の交換を促進するように構成されている。マイクロチャネル30は、このような涙液交換を促進すなわち容易にするのに有効であり、レンズ/眼界面で自由に流れる涙膜を形成するのが好ましい。また、レンズは、まばたきする度毎に、少なくとも幾分かのPoLTFのフラッシングを生じさせるように構成されている。
【0040】
複数のマイクロチャネル30は、レンズ10自体の厚さに基いて定められた深さを有するマイクロチャネルで形成できる。例えば、各マイクロチャネルの深さは、特定レンズ本体の厚さの約0.1〜90%の間に定めることができる。一実施形態では、各マイクロチャネルは、レンズ本体の厚さの約10〜80%の深さを有している。一般的なコンタクトレンズの厚さでは、本発明によるマイクロチャネルは、約0.1〜50ミクロンの深さを有する。
【0041】
図1に示す実施形態では、複数のマイクロチャネル30はレンズ10の周辺部分16にのみ設けられており、光学的ゾーン18内にはマイクロチャネル30は存在しない。光学的ゾーンと各マイクロチャネルとの間の界面には、継目すなわち不連続部分を設けることができる。この継目を除き、各マイクロチャネルは完全に無継目であるのが好ましい。複数のマイクロチャネル30は、後面16の少なくとも一部で、光学的ゾーン18からレンズ周辺部分24、好ましくは周縁面24まで延びている。光学的ゾーン18内にマイクロチャネルを設けないことにより、マイクロチャネルが、コンタクトレンズ10により提供される視覚クオリティすなわち光学的ゾーンの機能に及ぼすことがあるあらゆる有害効果を低減させまたは実質的に無くすことができる。
【0042】
マイクロチャネルが存在しない光学的ゾーン18での有効な涙液交換を得るため、コンタクトレンズ10は、該レンズ10の光学的ゾーン18が周辺部分22(特に、マイクロチャネル30同士の間に位置する周辺部分22の部分すなわち表面)に対して幾分前方に配置されるように構成できる。
特に図示はしないが、比較的一定の深さを有するマイクロチャネルの一変更形態として、各マイクロチャネル30は、周縁面24から光学的ゾーン18に向かって、より浅くなる(深さが小さくなる)ように構成できる。また、光学的ゾーン18は、マイクロチャネル30の最も浅い部分の深さに実質的に等しい距離だけ前方に配置できる。例えば、光学的ゾーン18は、周辺部分22に対して、約20ミクロン、または約10ミクロン、または約5ミクロン以下の距離だけ前方に配置できる。
【0043】
図4は、図1に示したコンタクトレンズ10の後面を示す平面図である。この図面で、半径方向に延びている各実線(例えば実線50)は、後面16の曲りが、凸状曲線から凸状以外の曲線に変化する理論的な線である。換言すれば、線50は、レンズの後面が凹状から凸状に変化する反曲線を表す。1つのマイクロチャネル30は、例えば破線50a、50bの間に形成された領域Aに跨っているものとして定義される。特定実施形態10では、複数のマイクロチャネル30は12個のマイクロチャネルを有し、各マイクロチャネル30は、レンズの約30°の幅に跨る領域を占める。
【0044】
好ましくは、複数のマイクロチャネルは約3〜192個または約200個のマイクロチャネルからなり、例えば、複数のマイクロチャネルは約5または10個〜約100個のマイクロチャネルからなる。例えば図5には、本発明による同様なコンタクトレンズ110が示されており、この実施形態では、複数のマイクロチャネルは24個のマイクロチャネルからなり、各マイクロチャネルはレンズ110の約15°を占める。本明細書には説明されていないが、図5のコンタクトレンズ110は、図1のコンタクトレンズ10と同様に構成されかつ機能する。
【0045】
ここで図6および図7を参照すると、本発明の他の実施形態によるコンタクトレンズ210が示されている。ここに説明する箇所を除き、コンタクトレンズ210は、コンタクトレンズ10と同様に構成されかつ機能する。レンズ10の構成要素と同じレンズ210の構成要素は、レンズ10に使用したのと同じ参照番号に200を加えた参照番号で示されている。
【0046】
コンタクトレンズ210とコンタクトレンズ10との主な相違点のうちの1つは、マイクロチャネル230の構造に関するものである。より詳しくは、各マイクロチャネル230は、凸状湾曲面234と、湾曲面により形成されていない部分240とを形成する後面部を有している。このことは、図3と同様にしてレンズ210を概略的に示す図8を参照することにより一層明瞭に理解されよう。図示のように、各マイクロチャネル230は、例えば頂部230a、230bの間に形成される。従って、レンズ210は、レンズの光学的中心すなわち中心光軸から特定の半径方向距離において変化する厚さを有している。しかしながら、湾曲面234に加え、各マイクロチャネル230は比較的平らな領域240を有している。図示のように、平坦領域240はレンズ本体214の薄い領域であり、一方、湾曲面234はレンズ本体214の厚い領域である。
【0047】
図8Aには、レンズ210と同様な本発明による他のコンタクトレンズ310が示されている。特に説明する部分を除き、コンタクトレンズ310は、コンタクトレンズ210と同様に構成されかつ機能する。レンズ10の構成要素と同じレンズ310の構成要素は、レンズ10に使用したのと同じ参照番号に300を加えた参照番号で示されている。
レンズ310とレンズ210との主な相違点は、各平坦領域340が、より大きい表面積を有することである。このことは、本発明のコンタクトレンズが、本発明の範囲内において、広範囲の異なるサイズおよび形状のマイクロチャネルを設けることができることを示すものである。
【0048】
本発明の他の態様では、1人以上の特定グループの個人、例えば特別な眼および/または瞼の解剖学的および生理学的特徴を有する個人に、優れた涙混合を与えることができるように構成されたレンズ本体を備えたコンタクトレンズが提供される。有利なことに、本発明のコンタクトレンズは、小さい瞼張力(eye-lid tension)を有する人に比べて大きい瞼張力を有する人に、優れた涙混合を与えるように構成されたレンズ本体を有している。一実施形態では、コンタクトレンズは、非アジア人種に比べて、アジア人種に優れた涙混合を与えるように構成されている。一般に、中国人、日本人、韓国人等のようなアジア人の血統または先祖をもつ人または人種は、非アジア人の血統または先祖をもつ人または人種に比べて、大きい瞼張力を有している。これは一般に真実であると考えられているが、全てのアジア人が、全ての非アジア人に比べて大きい瞼張力を有しているとは限らないことに留意すべきである。約10〜15人のアジア人の代表的グループは、約10〜15人の非アジア人の代表的グループに比べて、大きい平均瞼張力を有している。
【0049】
他の実施形態では、一般に大きい瞼張力をもたない個人に優れた涙混合を与えるように構成されたレンズ本体を備えたコンタクトレンズが提供される。有利なことに、このようなレンズは、本明細書に開示されているような複数のマイクロチャネルを備えたレンズ本体を有するが、マイクロチャネルの個数は、大きい瞼張力をもつ人のために構成されたコンタクトレンズよりも少数すなわち低密度である。
【0050】
他の実施形態では、本発明のコンタクトレンズは、アジア人のように比較的厚いPoLTFに関連する瞼開口サイズをもつ個人に、優れた涙混合を与えるように構成されたレンズ本体を有している。他の実施形態では、本発明のコンタクトレンズは、他の解剖学的特徴(但しこれらの特徴に限定されるものではない)、例えばまばたき時に眼球に作用する力を発生する瞼の能力に影響を与える特徴、瞼板の特徴(例えば瞼板のサイズおよび/または厚さ)、瞼の厚さ、瞼のひだの存否、瞼開口のサイズ、接眼レンズ前面のトポグラフィ(例えば、角膜トポグラフィ、角膜縁のトポグラフィ、および角膜縁および強膜のトポグラフィ)、瞼に対する眼球の位置、眼球の突出(例えば、まばたきしたときに、眼球が後方移動できる能力)をもつ個人に優れた涙混合を与えるように構成されたレンズ本体を有している。
【0051】
特定個人のグループのためのこれらのコンタクトレンズは、本明細書に開示する方法により製造され、コンタクトレンズを、眼の形状、筋系瞼張力等を含む或る眼および/または瞼特性をもつ所望の個々のグループに、優れた涙混合を与える構成に設計する1つ以上の付加段階を有している。従って、特定または特殊のグループの人々に優れた涙混合を与えるコンタクトレンズおよびその製造方法は、本明細書に開示する本発明の範囲内に包含される。
【0052】
本発明のレンズは、コンピュータ制御型旋削技術を用いて製造するのが好ましい。或いは、レンズは、任意の適当な慣用製造技術および該製造技術の組合せを用いて製造できる。多くのこのような技術または方法は慣用のものであり、当業界で良く知られている。このような方法として、例えば、旋削、レーザ加工、スウェージング、射出成形、キャスティング(セミモールド、フルモールド)等、およびこれらの組合せがある。
【0053】
本発明によるコンタクトレンズ10、110、210、310は、好ましくは、フレキシブルなソフトシリコーン、または適当なヒドロゲル成形ポリマー材料等の他の親水性材料から作られた親水性シリコーンレンズまたはソフトレンズである。しかしながら、適当な改変を施すことにより、本発明のコンタクトレンズは、「ハード」または「剛性」レンズとすることもできる。本発明のコンタクトレンズは長期着用に特に適しており、例えば、レンズは、取外すことなく約1〜14日着用できるし、使い捨てレンズとすることもできる。本発明のレンズとしての使用に適した材料として、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレートをベースとする材料、シリコーン−ヒドロゲル材料、ガス透過性材料、上記特許文献3に開示された材料(これらの多くは当業界で知られている)等、およびこれらの組合せがある(但しこれらに限定されるものではない)。
【0054】
本発明のコンタクトレンズ10、110、210、310は、後でコンタクトレンズ製品のモールドを作るのに使用されるツーリングインサート上に、マイクロチャネルを旋削することにより製造される。所望形状をもつツールインサートを作るのに、オプチフォーム旋盤(Optiform lathe)に使用するバリフォームアタッチメントファストツールサーボ(variform attachment Fast tool servo)のようなハードウェアを利用できる。例えば、ツールサーボは、図1に示すレンズを作るべく、ツールインサートを、24個の半子午線(15°の等間隔)に旋削するようにプログラムすることができる。ツールサーボは、旋削すべき表面を一点ずつ画くべく、既知の技術、例えば慣用されかつ当業者に良く知られた「ミニファイル(Minifiles)」を用いてプログラムすることができる。ツールサーボは、マイクロチャネルの深さおよび幅のいずれか一方または両方を変えることができるように、付加的にプログラムすることができる。マイクロチャネルの深さはその長さに沿って一定にする必要がないこと、すなわちチャネルは、光軸から周縁部に向かって徐々に深くなり、次に徐々に浅くなるように構成できることに留意すべきである。マイクロチャネルの深さ、幅および/または形状は、マイクロチャネル毎に変えることができる。もちろん、レンズの周縁部でのマイクロチャネルの深さは、レンズの周縁部の厚さより深くすることはできない。
【0055】
約384個の子午線を切削するように、インサートツールを旋削するハードウェアを適宜改変して、レンズ設計のフレキシビリティを高めることができる。
以下に述べる非制限的な例は、本発明のレンズと、マイクロチャネルが設けられていない慣用レンズとを眼に着用したときに生じる涙混合の大きさすなわち度合いを比較して示すものである。
【実施例】
【0056】
例1
ソフトコンタクトレンズの下の涙混合は、トレーサ物質(例えば、染料、微小球、赤血球細胞等)がコンタクトレンズの下から除去されるのに要する時間を測定することにより評価できる。殆どの涙混合の評価は、特定着用時間に亘って、コンタクトレンズの下の蛍光の変化を測定できる蛍光光度計を用いて行われる。一般に、蛍光測定には、高分子量フルオレセインナトリウム(Fluorosoft(R)、MW=600Da)またはフルオレセイン/デキストラン組合せ(FITC-dextran、Smith Chemical社、MW=1〜12kDa)として配合された染料のいずれかが使用される。フルオロソフト(Fluorosoft(R))は、約50%より高い含水率をもつレンズにより吸収される。従って、レンズまたは接眼レンズ(ocular)によるトレーサ染料の吸収により生じることがある涙混合の過小評価を回避するため、FITC-dextran(MW=1〜12kDa)を使用するのが好ましい。
【0057】
涙混合を評価するのに、現在、2つの蛍光光度計が使用されている。1つの技術は、蛍光強度(fluorescence intensity:FI)の変化がモニタされるときにPoLTF上に合焦される光を有する修正型スリットランプを使用する。この技術は、励起光をターゲット領域(例えば涙膜)上に直接当てることができる長所を有する。他の蛍光光度計技術は、コンピュータ駆動型ステッパモータを用いて、励起光を、プレ・レンズ涙膜(pre-lens tear film:PrLTF)から角膜へと駆動する走査蛍光光度計(Ocumetrics, Inc.社、Mountain View、カリフォルニア州)を使用する。この機器は、一連の蛍光強度を読取り、レンズ下のピークFITC-dextran蛍光の回りに中心をもつFIデータを提供する。この機器は、低レベルの蛍光染料に対して非常に高感度である。残念なことに、光を当てることの正確な制御はできないので、涙混合の評価は、レンズ前面上に蛍光が全く存在しないものと仮定する。この仮定は、低涙混合速度のレンズには有効であると考えられるが、効率的な涙混合を行うレンズには正確ではない。これらの機器は慣用のものであり、各測定器の詳細は、一般に当業者により理解されている。
【0058】
涙混合を評価する手順は継手の通りである。すなわち、各被検者の眼上のレンズにより、ベースライン(Bo)の自動蛍光読み(autofluorescence reading)(角膜+レンズ)が得られる。次にレンズを取出し、レンズの後面上に少量のFITC-dextranを付着して、再びレンズを直接角膜上に挿入する。次に、FIを30分間モニタする。被検者は通常の速度でまばたきしてもよいし、或いは、メトロノームを用いてリズミカルに15回/分(平均まばた速度)でまばたきするように依頼してもよい。染料消滅速度は、指数関数−枯渇モデル(exponential-decay model)を、30分間の観察期間に亘って取得したFI値に適合させることにより決定される。約30分間の経過後には、FITC-dextran強度の変化は、殆どまたは全く検出できなくなる。
【0059】
指数関数枯渇速度は、単位時間(T)当りに、レンズの下から37%の染料が消滅するのに要する時間として定義される時定数Tで表される。計算のためには、最初の5分間のデータは削除する。なぜならば、レンズが最初に挿入されるときには、反射作用により涙が出ることがあるからである。涙混合の効率は、レンズの下から95%の染料が消滅するのに要する時間として表され、これは、T95として表示される。有利なことに、T95は、更にデータ操作することなく、蛍光強度枯渇データから直接得ることができる。上記手順は、カリフォルニア大学バークレー校のKenneth Polse博士の研究室で行われたものである。
【0060】
下記表1および表2には、本発明によるチャネル型レンズ、より好ましくは、図1〜図3に示したコンタクトレンズ10と同様に、30°のピーク−ピーク角度をもつ12個のマイクロチャネルを備えた融合型マイクロチャネルレンズを着用した26人の患者について行った実験と、実質的に同じレンズであるがチャネルが設けられていないレンズを着用した同じ26人の患者について行った実験とにより得られた実際のT95データが示されている。
【0061】
【表1】
















【0062】
【表2】

【0063】
表1は、13人のアジア人患者から得たデータ、表2は、13人の非アジア人患者から得たデータを表すものである。
データがプールされるとき、チャネル型コンタクトレンズの平均T95は27.26分、非チャネル型コンタクトレンズの平均T95は31.66分である。チャネル型レンズは、涙交換速度を大幅に増大させ、すなわち涙交換時間を短縮させる(P<0.05)。換言すれば、涙交換時間の約14%の全体的変化があり、または涙交換速度の約14%の全体的向上が見られた。
【0064】
涙交換時間の短縮または涙交換速度の向上を示した、26人の患者のうちの17人の患者からのデータを考察すると、チャネル型コンタクトレンズの平均T95は25.23分、非チャネル型コンタクトレンズの平均T95は34.86分であり、約29%の涙交換時間の全体的短縮が見られた。涙交換速度は少なくとも0.4%だけ向上され、より一般的には少なくとも6%向上された。少なくとも45%の涙交換速度の改善も観察された。
【0065】
涙交換時間の短縮を示した患者からのデータを、アジア人患者および非アジア人患者に分類すると、アジア人患者および非アジア人患者の涙交換速度の他の相違が明らかになる。例えば、アジア人患者についてのチャネル型コンタクトレンズの平均T95は23.50分であり、アジア人患者についての非チャネル型コンタクトレンズの平均T95は34.60分であので、涙交換時間に、約11.10分の差すなわち約26%の変化が生じた。これに対し、非アジア人患者についてのチャネル型コンタクトレンズの平均T95は28.41分であり、非アジア人患者についての非チャネル型コンタクトレンズの平均T95は35.34分であので、涙交換時間に、約6.94分の差すなわち約20%の変化が生じた。
また、このデータは、この例に使用されたコンタクトレンズが、非アジア人種(約46%)よりもアジア人種(約85%)の方が高い涙混合が得られたことを証明した。
【0066】
かくして、上記データは、本発明のレンズは、チャネルを備えていないレンズと比較して、高い涙交換に関して優れた長所が得られることを確認するものである。また、上記データは、特定の眼および/または瞼の解剖学的および/または生理学的特徴にとって或るレンズ形態が好ましいことを確認するものである。換言すれば、一形態のマイクロチャネルを備えたレンズは、アジア人被検者にとって優れた涙交換速度を呈し、一方、小さいチャネル密度すなわちマイクロチャネルの頂点間の大きい距離をもつマイクロチャネルのような異なる形態のマイクロチャネルを備えたレンズは、非アジア人被検者にとって優れた涙交換を呈する。
以上、種々の特定例および実施形態に関して本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲内で種々の実施が可能なことは理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明によるコンタクトレンズの斜視図であり、レンズの後面に複数のマイクロチャネルが形成されているところを示すものである。
【図2】図1の2−2線に沿う断面図である。
【図3】図1に示したコンタクトレンズのマイクロチャネルの形状を示す概略図である。
【図4】図1に示したコンタクトレンズの後面を示す平面図である。
【図5】本発明の他の実施形態によるコンタクトレンズの後面を示す平面図である。
【図6】本発明による他のコンタクトレンズを示す斜視図である。
【図7】図6の7−7線に沿う断面図である。
【図8】図6に示したコンタクトレンズのマイクロチャネルの形状を示す概略図である。
【図8A】本発明のコンタクトレンズのマイクロチャネルの他の形状を示す概略図である。
【符号の説明】
【0068】
10 コンタクトレンズ
16 レンズ本体の後面
18 光学的ゾーン
22 周辺部分
30 マイクロチャネル
31a、31b 頂部
234 凸状湾曲面
240 平坦領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼に着用するコンタクトレンズにおいて、
後面および前面を備えたレンズ本体と、
レンズ本体の後面に形成された複数のマイクロチャネルとを有し、
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約5%短縮するように構成されていることを特徴とするコンタクトレンズ。
【請求項2】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約15%短縮するように構成されていることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項3】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約20%短縮するように構成されていることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項4】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約25%短縮するように構成されていることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項5】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約30%短縮するように構成されていることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項6】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約35%短縮するように構成されていることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項7】
前記複数のマイクロチャネルの各マイクロチャネルは、周方向に波形を形成していることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項8】
少なくとも2つのマイクロチャネルが周方向に波形を形成していることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項9】
前記複数のマイクロチャネルは、実質的に連続的な波形を周方向に形成していることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項10】
前記複数のマイクロチャネルの各マイクロチャネルは、実質的に無継目の波形を周方向に形成していることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項11】
前記複数のマイクロチャネルは、実質的に無継目の波形を周方向に形成していることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項12】
前記複数のマイクロチャネルは、実質的に連続的で、実質的に無継目の波形を周方向に形成していることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項13】
前記各マイクロチャネルは、マイクロチャネルの長さの少なくとも一部に沿って実質的に無継目のマイクロチャネルからなることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項14】
前記各マイクロチャネルは、マイクロチャネルの長さの大部分に沿って実質的に無継目のマイクロチャネルからなることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項15】
前記レンズ本体は、複数のマイクロチャネルが実質的に存在しない光学的ゾーンを有していることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項16】
前記複数のマイクロチャネルの各々が、約5〜30°の範囲内の幅を有していることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項17】
前記複数のマイクロチャネルが、約3〜200個のマイクロチャネルを有していることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項18】
前記複数のマイクロチャネルが、約10〜100個のマイクロチャネルを有していることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項19】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズがアジア人の眼に着用されたときに、レンズ後面の涙膜の涙混合を、非アジア人の眼に着用される、同一に構成されたコンタクトレンズにより得られるレンズ後面の涙膜の涙混合と比較して、促進するように構成されていることを特徴とする請求項1記載のコンタクトレンズ。
【請求項20】
眼に着用するコンタクトレンズにおいて、
後面および前面を備えたレンズ本体と、
レンズ本体の後面に形成された複数のマイクロチャネルとを有し、各マイクロチャネルは、前面に対して凹状以外の全体的な湾曲面を有し、マイクロチャネルは、眼の露出表面とレンズ本体により覆われる眼の表面との間の有効な涙液交換を促進するサイズを有しかつ適合していることを特徴とするコンタクトレンズ。
【請求項21】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約5%短縮するように構成されていることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項22】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約15%短縮するように構成されていることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項23】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約35%短縮するように構成されていることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項24】
前記各マイクロチャネルの湾曲面は、前面に対して全体的に凸状であることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項25】
前記各マイクロチャネルの湾曲面は、周方向に実質的に連続的に湾曲していることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項26】
前記レンズ本体は、該レンズ本体の光軸から、各マイクロチャネルの少なくとも一部を周方向に横切って延びる半径に沿って、実質的に連続的に変化している厚さを有することを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項27】
前記レンズ本体は、該レンズ本体の光軸から、各マイクロチャネルの大部分を周方向に横切って延びている半径に沿って、実質的に連続的に変化している厚さを有することを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項28】
前記各マイクロチャネルの湾曲面は、マイクロチャネルの後面領域に設けられていることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項29】
前記各マイクロチャネルは、マイクロチャネルの長さの一部に沿って実質的に無継目であることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項30】
前記各マイクロチャネルは、マイクロチャネルの長さの大部分に沿って実質的に無継目であることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項31】
複数のマイクロチャネルが実質的に存在しない光学的ゾーンを有していることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項32】
前記複数のマイクロチャネルの各々が、約5〜30°の範囲内の幅を有していることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項33】
前記複数のマイクロチャネルが、約3〜200個のマイクロチャネルを有していることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項34】
前記複数のマイクロチャネルが、約10〜100個のマイクロチャネルを有していることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項35】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズがアジア人の眼に着用されたときに、レンズ後面の涙膜の涙混合を、非アジア人の眼に着用される、同一に構成されたコンタクトレンズにより得られるレンズ後面の涙膜の涙混合と比較して、促進するように構成されていることを特徴とする請求項20記載のコンタクトレンズ。
【請求項36】
眼に着用するコンタクトレンズにおいて、
後面および前面を備えたレンズ本体と、
レンズ本体の後面に形成された複数のマイクロチャネルとを有し、各マイクロチャネルは、1つ以上のマイクロチャネルに対して実質的に当接関係をなして配置され、マイクロチャネルは、眼の露出表面とレンズ本体により覆われる眼の表面との間の有効な涙液交換を促進するサイズを有しかつ適合していることを特徴とするコンタクトレンズ。
【請求項37】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約5%短縮するように構成されていることを特徴とする請求項36記載のコンタクトレンズ。
【請求項38】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約15%短縮するように構成されていることを特徴とする請求項36記載のコンタクトレンズ。
【請求項39】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズが眼に着用されたときに、涙液の95%を交換する時間を、複数のマイクロチャネルが設けられていない実質的に同一のコンタクトレンズと比較して少なくとも約35%短縮するように構成されていることを特徴とする請求項36記載のコンタクトレンズ。
【請求項40】
前記レンズ本体は、該レンズ本体の光軸から、各マイクロチャネルの大部分を横切って延びている半径に沿って、実質的に連続的に変化している厚さを有することを特徴とする請求項36記載のコンタクトレンズ。
【請求項41】
前記各マイクロチャネルは、マイクロチャネルの長さの大部分に沿って実質的に無継目であるマイクロチャネルからなることを特徴とする請求項36記載のコンタクトレンズ。
【請求項42】
複数のマイクロチャネルが実質的に存在しない光学的ゾーンを有していることを特徴とする請求項36記載のコンタクトレンズ。
【請求項43】
前記複数のマイクロチャネルの各々が、約5〜30°の範囲内の幅を有していることを特徴とする請求項36記載のコンタクトレンズ。
【請求項44】
前記複数のマイクロチャネルが、約3〜200個のマイクロチャネルを有していることを特徴とする請求項36記載のコンタクトレンズ。
【請求項45】
前記複数のマイクロチャネルが、約10〜100個のマイクロチャネルを有していることを特徴とする請求項36記載のコンタクトレンズ。
【請求項46】
前記レンズ本体は、前記コンタクトレンズがアジア人の眼に着用されたときに、レンズ後面の涙膜の涙混合を、非アジア人の眼に着用される、同一に構成されたコンタクトレンズにより得られるレンズ後面の涙膜の涙混合と比較して、促進するように構成されていることを特徴とする請求項36記載のコンタクトレンズ。
【請求項47】
眼に着用するコンタクトレンズにおいて、
レンズ本体を有し、該レンズ本体は、人の眼に着用されたときに、所望のグループの人のレンズ後面の涙膜の涙混合を、異なるグループの他の人の眼に着用される、実質的に同一のコンタクトレンズと比較して、高い涙混合を与えるように構成されていることを特徴とするコンタクトレンズ。
【請求項48】
前記レンズ本体は後面および前面を備えかつ後面に形成された複数のマイクロチャネルを有ていることを特徴とする請求項47記載のコンタクトレンズ。
【請求項49】
前記レンズ本体は、1グループの人に特有の眼特性または瞼特性をもつ人のレンズ後面の涙膜の涙混合を促進するように構成されていることを特徴とする請求項47記載のコンタクトレンズ。
【請求項50】
前記レンズ本体は、高い瞼張力をもつグループの人のレンズ後面の涙膜の涙混合を、異なるグループの人と比較して、促進するように構成されていることを特徴とする請求項47記載のコンタクトレンズ。
【請求項51】
前記レンズ本体は、コンタクトレンズがアジア人の眼に着用されたときに、涙混合を、非アジア人の眼に着用される、同一に構成されたコンタクトレンズにより得られる涙混合と比較して、促進するように構成されていることを特徴とする請求項47記載のコンタクトレンズ。
【請求項52】
前記レンズ本体は、コンタクトレンズが非アジア人の眼に着用されたときに、涙混合を、アジア人の眼に着用される、同一に構成されたコンタクトレンズにより得られる涙混合と比較して、促進するように構成されていることを特徴とする請求項47記載のコンタクトレンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2006−515688(P2006−515688A)
【公表日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−500785(P2006−500785)
【出願日】平成16年1月5日(2004.1.5)
【国際出願番号】PCT/US2004/000114
【国際公開番号】WO2004/063773
【国際公開日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(502153776)オキュラー サイエンシス インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】