説明

融合DNA断片製造用プライマー及びこれを用いた融合DNA断片の製造方法

【課題】PCR法を用い複数のDNA断片を融合させたDNA断片の製造に利用可能なプライマー、及びこれをもちいた融合DNA断片の効果的な製造方法の提供。
【解決手段】オーバーラップエクステンションPCR法で利用可能なプライマーにおいて、オーバーラップさせるプライマーの5’末端が、グアニン(G)とシトシン(C)の含量が50%以上で、9−45bpの長さを有し、標的DNA断片同士を相補的に結合可能な、特定の配列であることを特徴とする1組のプライマー、及びこれを用いた融合DNA断片の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のDNA断片を融合させたDNA断片(融合DNA断片)を効果的に製造可能なプライマーに及びこれを用いた融合DNA断片の製造方法に関し、より詳しくは、PCR(Polymerase chain reaction)により複数の標的DNA断片から1つの融合DNA断片を製造可能なプライマー及びこれを用いた融合DNA断片の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子遺伝学分野において、組換えDNA断片の製造は、目的とするタンパク質の大量生産、タンパク質検出のためのツール製造、機能性タンパク質の改変など、種々の目的に広く利用される技術である。この中でも特に、検出ツールの製造や機能性タンパク質の改変などの際には、複数のドメインをコードしたDNA断片を融合させる技術が必要となる。これらの例として、ターゲット遺伝子をコードしたDNA断片とGFP(Green fluorescent protein)をコードしたDNA断片を融合させて蛍光融合タンパク質をコードしたDNA断片を製造する技術などが用いられている。通常の組換えDNA断片の製造には、コアとなるDNA断片をPCR法(Polymerase chain reaction)などにより製造し、大腸菌プラスミドを制限酵素により切断し、リガーゼを用いてこの中にコアDNA断片を融合させてベクターとし、更に大腸菌を当該プラスミドで形質転換するという方法が一般的であり、操作が煩雑で時間がかかるという大きな問題点があった。
【0003】
融合DNA断片の製造にPCRを介する方法として、オーバーラップエクステンション法(Overlap extension)が知られている。この技術の原理はPCR反応における標的DNAの増幅に際し、標的DNA特異的なプライマーの5’末端側に別の配列を付加しておくことによって、新たな配列をPCR産物に付加し、この新たな配列が複数の標的DNA間で相補的になるよう設計しておくことによって、アニーリング時に複数の標的DNAの末端同士を融合させ、その後のDNAポリメラーゼによる伸長反応で1本のPCR産物を合成するというものである。この原理を様々に応用し、遺伝子内に変異を挿入する手法などがこれまでに開発されてきている(非特許文献1−4、特許文献1,2)。しかしながら、オーバーラップエクステンション法は融合DNA断片の製造に一般的には用いられておらず、主には制限酵素とDNAリガーゼによるin vitro組換えなどが開発され利用されている。DNA断片の自由自在な融合は遺伝子操作の基本技術であって、その操作性の高さと確実性とが求められており、オーバーラップエクステンション法は理論的には大変有用な手法であるが、これまでは、PCRの条件を厳しく最適化しなければならないなどの問題が多く、原理的には自由にDNAの配列をデザイン可能、という利点を活かし切れていないのが現状であった。簡便かつ確実にオーバーラップエクステンションを行うことができ、PCR条件の最適化も必要ではなく、複数のDNA断片も一度に融合可能な手法の開発が望まれていた。
【特許文献1】US Patent 2004/0053267
【特許文献2】US Patent 2006/0257876
【非特許文献1】Kuwazawa H.et al.2002.Biotech.Lett.24:1307−1312.
【非特許文献2】Charlier N.et al.2003.J.Virol.Methods 108:67−74.
【非特許文献3】Yang L.et al.2004.Eukaryot.Cell 3(5):1359−1362.
【非特許文献4】Heckman K.&Pease L.2007.Nature Protocols 2(4):924−932.
【非特許文献5】Brachmann et al.1998.Yeast 14:115−132.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の現状に鑑み、本発明は、PCR法を用い複数のDNA断片を融合させたDNA断片の製造に利用可能なプライマー、及びこれをもちいた融合DNA断片の効果的な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明者らは、オーバーラップエクステンションを効率的に行える手法を検討してきた。その過程において、オーバーラップさせる1組のプライマーの5’末端側に、グアニン(G)とシトシン(C)の含量が50%以上で、9−45bpの長さを有し、2つの標的DNA断片を結合可能な特定の相補的配列を用いることで、従来よりもはるかに高い効率でオーバーラップエクステンションを行えるという事実を見いだし、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち本発明の第1の態様は、以下の(a)、(b)2つの領域からなり、2種類の標的DNA断片を結合させるために用いられることを特徴とする、1組のプライマーを提供する。
(a)標的DNA断片の末端の部分配列と相同性を有する、3’末端側の領域
(b)グアニン(G)とシトシン(C)とを50%以上含有し、全長が9−45bpで、標的DNA断片同士を相補的に結合可能な、5’末端側の領域(以下「融合配列」という)
【0007】
本発明の第2の態様は、融合配列のGC含量が80%以上である、第1の態様に記載のプライマーを提供する。
本発明の第3の態様は、融合配列が連続した(GC)m(mは5以上20以下の整数)を持たない、第2の態様に記載のプライマーを提供する。
本発明の第4の態様は、以下の(1)、(2)のプライマーを用い、PCR法によりn個の標的DNA断片(nは2以上10以下の整数)を含む融合DNA断片を製造する方法を提供する。
(1)融合DNA断片の全長を増幅するためのプライマー
(2)第1から第3の態様のうちいずれか1つに記載のプライマー
【発明の効果】
【0008】
本発明の提供するプライマーを用いることにより、複数個の、好ましくは2−4個のDNA断片から1つのDNA断片を製造することが可能となる。この方法は、任意の機能的なドメインを融合させた新しいタンパク質をコードする遺伝子等を効率よく、簡便に製造することを可能とするDNA断片の製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を実施するための最良の形態を示す。本発明は2種類の標的DNA断片を結合させるために用いられることを特徴とする、1組のプライマーであって、具体的には次の2つの領域からなる1組のプライマーである。
(a)標的DNA断片の末端の部分配列と相同性を有する、3’末端側の領域
(b)グアニン(G)とシトシン(C)とを50%以上含有し、全長が9−45bpで、標的DNA断片同士を相補的に結合可能な、5’末端側の領域(以下「融合配列」という)
図1に、本発明の基本的な概念を示している。図1Aで示すとおり、本発明の提供するプライマーは上記(a)、(b)の2つの領域からなる1組のプライマーであって、これを用いた標的DNA断片の結合様式を図1Bに示している。標的DNA断片1と2は、本発明のプライマーの融合配列を介して相補的に結合する。
また、本発明の提供するプライマーを用いた融合DNA断片の製造方法の模式図を図2に示している。本態様はn個の標的DNA断片(nは2以上10以下の正の整数)から、PCR(Polymerase chain reaction)法により1つのDNA断片(融合DNA断片)を製造可能なプライマーであって、プライマー(1):融合DNA断片の5’末端及び3’末端の部分配列と相補的な配列を有する1組のプライマー、及び、プライマー(2):融合配列では内部に位置する標的DNA断片の5’末端または3’末端の部分配列と相補的な塩基配列を有し、更にその5’末端側に、GCの含量が50%以上で、9−45bpの長さを有し、標的DNA断片同士を結合可能な塩基配列(融合配列)を有する、第1から第3の態様に記載のプライマー、好ましくはn−1組の前記プライマー、とを用いることを特徴とする、融合DNA断片の製造方法である。ここで、前記プライマー(2)の各々の組の融合配列は互いに相補的である。本発明はいわゆるオーバーラップエクステンションと呼ばれる、PCRを用いた核酸増幅方法に大幅な改良を加え、標的配列が2個や3個の場合だけでなく、4以上の場合にも適用可能としたものである。
【0010】
図2において、上段にn=2の場合を示している。プライマー(1)は融合DNA断片の5’と3’の各末端と相補的な配列であり、一方プライマー(2)は融合DNA断片の内部に位置する配列である。プライマー(2)の3’末端側はそれぞれの標的DNA断片の末端と相補的な配列を有しており、一方5’末端側が融合配列で、プライマー(2)−5’、(2)−3’の融合配列は互いに相補的である。この組合せでPCR、すなわちまずプライマー(2)を用いたPCR(1st PCR)を行い、標的DNA断片に融合配列が付加された産物を得、このPCRで得られた産物を鋳型にプライマー(1)を用いたPCR(2nd PCR)を行うことにより、標的DNA断片1と標的DNA断片2の間に融合配列を挟んだ融合DNA断片を製造できる。
図2下段にはn≧3の場合を示している。代表例としてn=3を示すが、原理は3以外でも共通である。プライマー(1)は融合DNA断片の5’と3’の各末端と相補的な配列であり、一方2組のプライマー(2a)、(2b)は融合DNA断片の内部に位置する配列である。プライマーのデザインはn=2の場合と同様であるが、重要なのは各組のプライマーの融合配列が相手とのみ相補的な結合可能な様にするという点である。この組合せでPCRを行うことにより、5’末端側から標的DNA断片1,2,3の順に並んだ、原理的には1種類のPCR産物が増幅される。
【0011】
本発明の提供するプライマーにおいて最も重要なのは、融合配列のデザインである。融合配列は、下記実施例に示すとおり、単にお互いが相補的であれば良いというわけではない。グアニン(G)とシトシン(C)の含量が50%以上で、9−45bp、好ましくは12−24bpの長さを有する塩基配列を有する条件が必要である。
DNAの相補的な結合においては、A−TよりもG−Cの結合の方が「結合の手」が多いことからより特異性が高いと考えられ、従来オーバーラップエクステンションに用いられてきたプライマーがGC含量に着目していなかったのと異なり、本発明の提供するプライマーの融合配列のGC含量が50%以上、好ましくは80%以上、更に好ましくは100%という条件は一つの目安となりうる。下記実施例1に示すとおり、融合配列のGC含量が20−25%では良好な結果が得られず、50%以上が好ましい。
加えて、融合配列が(GC)m(mは5−20の正の整数)を含まない塩基配列という点も重要である。実施例4で示す通り、(CG)15の様な融合配列では、GC含量が100%であるにもかかわらずPCR産物が得られていない。RNAなどの研究から、ある程度の長さを持った1本鎖の核酸はその末端同士が相補的な塩基配列を有する場合、相補的な部分が結合してループ上の構造をとることが知られており、プライマーでこれがアニーリング時に起こるとPCRの増幅効率を著しく下げることが考えられる。従って、融合配列の条件として、(GC)m、(mは5−20の正の整数)を持たないこと、または5’末端、3’末端の各々30%程度が相補的でないという条件が重要になる。
【0012】
上記の条件を満たす融合配列の好ましい例としては、GまたはCのどちらか1つが複数個、好ましくは9−30個連なった配列があげられる。更にその片側または両側の末端に、AまたはTが単数または複数個、好ましくは1−5個付加された配列も、上記条件を満たす限りは有効である。AまたはTが末端ではなく内部にある配列も、上記条件を満たす限りは有効である。
融合配列の好ましい例としては、下記実施例4で示す通り、GまたはCの塩基とAまたはTの塩基が交互にくり返す配列、例えば(GA)m、(GT)m、(CA)m、(CT)m、(AG)m、(TG)m、(AC)m、(TC)m(mは5−20の正の整数)で表される配列があげられる。mは好ましくは6−15の範囲内の正の整数である。
融合配列としては、更に複雑な構造を有する配列も、上記の条件を満たしていれば本発明の好適な例として適用可能である。例えば3G3C3G3C3G、3C3G3C3G3C、5C5G5C、5G5C5Gなどである。
【0013】
融合配列は融合DNA断片の内部に入るため、融合DNA断片からタンパク質を合成する際には融合配列の塩基数にも注意が必要である。融合DNA断片の製造が遺伝子破壊を目的とする様なケース(実施例5)では、その塩基数に特に注意する必要はないが、複数のドメインを結合させた改良遺伝子などを製造する場合には、融合配列を3の倍数となるよう設計して翻訳時のフレームシフトが起こらない様にするなどの工夫が必要である。
また融合配列は、長ければ長いほどその特異性が高まると考えられるが、プライマーが2次構造を取る可能性やPCRそのものの効率の観点から、好ましくは9bp以上45bp以下、更に好ましくは15−24bpの長さが良い。以下に本発明の実施例を示すが、本発明は実施例にのみ限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
(酵母、その培養、及びDNA抽出)酵母株として、BY系列の酵母(非特許文献5)を用いた。酵母の培養法はYPD寒天培地(1% 酵母抽出物、2% ポリペプトン、2% グルコース、2% 寒天)を用いて培養し、酵母からのDNA抽出は、Zymolyase(生化学工業社製)の粉末3mgを0.9mlのSET buffer(1.2M Sorbitol,20mM Tris−HCl,10mM EDTA,pH7.5)に溶かし、0.1mlのβ−メルカプトエタノールを加えてDNA抽出溶液とし、培養した酵母細胞をDNA抽出溶液、次いで10%SDS溶液に溶かし、フェノール−クロロホルム抽出/エタノール沈澱を行ってDNAを抽出・精製した。抽出したDNAはTE bufferに溶かし、RNase処理により予めRNAを除去した。
【0015】
(標的DNA断片の製造)予め大量に調製したプラスミドpST106をEcoRIとHindIIIで切断し、0.7%アガロースゲルで電気泳動して1.8kbpのバンドを切り出し、フィルターで遠心精製して、URA3TDH3p断片を得た。
1.2kbpと1.0kbpのPpHIS3断片はRAK3600から、2.1kbpのTDH3pTAA断片はp316TDHTAAプラスミドから、1.2kbpのURA3断片はURA3TDH3p断片から、2.4kbpのTDH3pTAAPGK断片はp316TDHTAAPGKプラスミドから、0.3kbpのURA3−5’断片と1.3kbpのURA3−3’断片はBY4704から、0.8kbpのADE2−5’断片と2.0kbpのADE2−3’断片はBY4741から、1.2kbpのURA3断片はBY4704から、それぞれPCR法にて増幅した。全てのPCR反応(10μl)はKOD Plus Polymerase(東洋紡)を用いて用法に従い行った。PCRの各反応条件は、下記表1の通りである。なお、以降のPCR反応においてアニーリング温度は適宜変更し、変更の際にはその旨明記している。
【0016】
【表1】

【0017】
(オーバーラップエクステンション1)上記にて製造した複数の標的DNA断片を鋳型に、これを融合させるオーバーラップエクステンションPCRを行った。PCRは10μlの系で行い、反応条件は上記表1と基本的に同じで、アニーリング温度を50−68℃の間で適宜変更して最適条件を探索した。
まず、オーバーラップエクステンションPCRに対する融合配列のGC含量の影響を検証した。上記標的DNA配列のうちTDH3pTAAとPpHIS3とを融合させるため、プライマー(1)としてTDH3−572プライマー(配列番号1)及びURA3−200cプライマー(配列番号2)を、プライマー(2)として、融合配列のGC含量が5/20(25%)で長さ20塩基のプライマー、すなわちPGK1ter1−20c−TAAcプライマー(配列番号3)及びPGKter1−20−PpHIS3(配列番号4)の組合せ、またはプライマー(2)として、融合配列のGC含量が7/30(約23%)で長さ30塩基のプライマー、すなわちPGKter1−30c−TAAcプライマー(配列番号5)及びPGKter1−30−PpHIS3プライマー(配列番号6)の組合せ、またはプライマー(2)として、融合配列のGC含量が8/40(20%)で長さ40塩基のプライマー、すなわちPGKter1−40c−TAAcプライマー(配列番号7)及びPGKter1−40−PpHIS3プライマー(配列番号8)の組合せ、の3種類のプライマーセットを用いたPCRを行った。アニーリングの温度条件は50℃、55℃、60℃、68℃の4条件であった。PCRの概要を図3に示した。
【0018】
上記の融合配列に加えて、GC含量を高める検討も行った。上記と同じ標的配列、同じ条件を用いたPCRにおいて、プライマー(2)として15G−TAAc(配列番号9)、及び15C−PGKter1(配列番号10)のプライマーを用いたPCRを行った。融合配列のGC含量は100%、アニーリング温度は68℃であった。PCR反応の概要を図4に示した。
【0019】
PCRの結果を、図5に示す。図はPCR産物の電気泳動写真を示しており、レーンMは分子量マーカー(kbラダー)を、矢印は泳動の方向を、レーン20,30,40はそれぞれ融合配列の長さを示し、更にその上にはアニーリングの温度条件を示している。この結果から、GC含量が20−25%と低い割合の融合配列を用いた場合には、60℃以下のアニーリング温度条件下では20,30,40のいずれでも融合DNA断片(3.3kbp)が増幅されないという事が示された。60℃では融合配列長が30,40のときバンドが現れたが明瞭ではなく、68℃においても良い増幅効率とはいえない結果であった。
【0020】
一方、図5中右端のレーンは、融合配列が15個のCからなるプライマーを用いたPCRの結果を示す。左側の各レーンとは異なり、3−4kbpに明瞭なシングルバンドが確認され、このサイズは2つの標的DNA断片を融合させた際の理論上の大きさと一致した。GC含量が低い融合配列よりも短い融合配列であったのにもかかわらず、オーバーラップエクステンション産物が増幅され、GC含量が大きい(GCリッチな)融合配列を用いることがオーバーラップエクステンションの成功には重要であることが示された。
【実施例2】
【0021】
融合配列が15Gである融合プライマーで良好な結果が得られたため、G(またはC)のみからなる融合配列の長さについて検討した。標的配列としてTDH3pTAAPGKとURA3配列を鋳型とし、プライマー(1)としてTDH3−572プライマー(配列番号11)及びKanMX75−TDHu1プライマー(配列番号12)を、プライマー(2)として連続するG/Cの数が9個の9G−PGKterCプライマー(配列番号13)及び9C−ASCプライマー(配列番号14)の組合せ、またはG/Cの数が12個の12G−PGKterCプライマー(配列番号15)及び12C−ASCプライマー(配列番号16)の組合せ、またはG/Cの数が15個の15G−PGKterCプライマー(配列番号17)及び15C−ASCプライマー(配列番号18)の組合せ、の3種類のPCRを行った。アニーリング温度は50℃、55℃、65℃の3種類を検討した。PCR反応の概要を図6に示す。
【0022】
上記PCRの結果を図7に示す。図7中、下線「実施例2」に上記PCRの結果を示す。実施例2,3,4で図は共通である。本図はPCR産物を電気泳動したものであり、レーンMは分子量マーカーを、横の数字は分子量(kbp)を、それぞれ表している。A,B,Cはそれぞれアニーリング温度が50℃、55℃、65℃での結果を示す。PCRで増幅された産物は3kbp−4kbpの位置にシングルバンドとして表れ、これは標的配列から予測される大きさ(3.5kbp)と一致した。レーン9Cは融合配列中のG/C数が9個のPCR産物であり、50℃、55℃では増幅が見られず、65℃で産物が見られた。
レーン12Cは融合配列中のG/C数が12個のPCR産物であり、50℃では産物の量が少ないものの、55℃と65℃では増幅が見られ、特に65℃では多くのPCR産物が得られていることが示された。
レーン15Cは融合配列中のG/C数が15個のPCR産物であり、50℃から65℃まで、明瞭なPCR産物が確認された。PCR産物量(蛍光の強度が表す)は全ての温度条件下で15Cが最も多かった。これらの結果から、プライマー(2)における融合配列がGmまたはCm(mは9−45正の整数)で表されるとき、その数がPCRの効率には重要であり、mが9以上30以下、好ましくは12以上21以下、更に好ましくは15以上18以下であるプライマーが適していることが示された。
【実施例3】
【0023】
(オーバーラップエクステンション3)C、C12、C15で表される融合配列が良好な結果を示したため、次に、融合配列C15にTを加えた場合についてのPCR増幅の効率を検討した。標的配列として実施例2と同様、TDH3pTAAPGKとURA3配列を鋳型とし、プライマー(1)としてTDH3−572プライマー(配列番号11)及びKanMX75−TDHu1プライマー(配列番号12)を、プライマー(2)として15個のCの間にTを付加し(5C−T−4C−T−3C−T−2C−T−CT)となるようデザインした15CCT−ASCプライマー(配列番号19)及び15AGG−PGKterCプライマー(配列番号20)の組合せ、または15個の連続したCの両端にTを付加したT−15C−T−ASCプライマー(配列番号21)及びA−15G−A−PGKterCプライマー(配列番号22)の組合せ、または15個の連続したCの両端に3つのTを付加した3T−15C−3T−ASCプライマー(配列番号23)及び3A−15G−3A−PGKterCプライマー(配列番号24)の組合せ、または3つのTが15個のCの間に付加された(5C3T)−ASCプライマー(配列番号25)及び(3A5G)−PGKterCプライマー(配列番号26)の組合せ、の4種類のPCRを行った。アニーリング温度は50℃、55℃、65℃の3種類を検討した。
【0024】
図7中、下線「実施例3」に上記PCRの結果を示す。図中レーン15C−Tは(5C−T−4C−T−3C−T−2C−T−CT)の融合配列でのPCR産物であり、50℃では少し増幅が弱いものの55℃、65℃とアニーリング温度が上昇するにつれて産物量が多くなり、65℃では15Cと同程度の産物量であることが示された。
レーンT−15C−Tは15個の連続したCの両末端にTを付加した融合配列でのPCR産物であり、15C−Tと同様、アニーリング温度が高くなるにつれて産物量が多くなる傾向が見られ、65℃では15Cと同程度の産物が得られていた。
レーン3T−15C−3Tは15個の連続したCの両末端に3個のTを付加した融合配列でのPCR産物であり、このとき融合配列のGC含量は約70%であったが、50℃と55℃で上の2つのプライマーよりも増幅の効率がすぐれており、65℃でも15Cと同程度の産物が得られていた。
レーン(5C3T)は5個のCの後に3個のTが付加されたものが3回くり返した融合配列でのPCR産物であり、このとき融合配列のGC含量は約60%であったが、50℃ではやや増幅の効率が悪いものの、55℃と65℃では15Cと同程度の産物が得られており、この融合配列が有効であることが示された。
【0025】
上記の結果から、融合配列として5C−T−4C−T−3C−T−2C−T−CT、T−15C−T、3T−15C−3T、(5C3T)の各配列が適していることが示された。
【実施例4】
【0026】
(オーバーラップエクステンション4)融合配列のGC含量が60%程度であってもオーバーラップエクステンションが良好な結果を示したため、次に、融合配列において異なる塩基種がくり返した場合について検討した。標的配列として実施例2と同様、TDH3pTAAPGKとURA3配列を鋳型とし、プライマー(1)としてTDH3−572プライマー(配列番号11)及びKanMX75−TDHu1プライマー(配列番号12)を、プライマー(2)として、CGが15回くり返した(CG)15−ASCプライマー(配列番号27)及び(GC)15−PGKterCプライマー(配列番号28)の組合わせ、またはプライマー(2)として、CTが15回くり返した(CT)15−ASCプライマー(配列番号29)及び(AG)15−PGKterCプライマー(配列番号30)の組合せ、またはプライマー(2)としてCTが10回くり返した(CT)10−ASCプライマー(配列番号31)及び(AG)10−PGKterCプライマー(配列番号32)の組合せ、またはプライマー(2)としてCAが10回くり返した(CA)10−ASCプライマー(配列番号33)及び(TG)10−PGKterCプライマー(配列番号34)の組合せ、のそれぞれについて検討した。プライマー(2)として、Aが15回くり返した15A−ASCプライマー(配列番号35)及び15T−PGKterCプライマー(配列番号36)についても同様に検討した。アニーリング温度は50℃、55℃、65℃の3種類を検討した。
【0027】
図7中、下線「実施例4」に、上記PCRの結果を示す。図中レーン(CG)15はCGが15回くり返した融合配列での結果を示す。この融合配列はGC含量が100%であるにもかかわらず、全ての温度条件でPCR産物が観察されなかった。これは、PCRのアニーリング時に融合配列の末端同士が相補的に結合してループ状の構造を形成し、PCR反応の効率が極端に低下したのが原因と考えられた。この結果から、融合配列が(GC)mまたは(CG)m(mは5−20の正の整数)では表されないことがオーバーラップエクステンションには重要であることが示された。
レーン(CT)15は、CTが15回くり返した融合配列での結果を示す。(CG)15とは異なり、この融合配列でのPCRの結果は良好であり、特に55℃、65℃では高い増幅効率を示した。(CT)15では融合配列の末端同士は相補的でないことから、上記の予測を支持する結果といえる。
レーン(CT)10は、CTが10回くり返した融合配列での結果を示す。(CT)15に比べて、50℃では増幅の効率が少し低いものの、55℃、65℃では良好な結果を示し、この融合配列が適していることが示された。
レーン(CA)10は、CAが10回くり返した融合配列での結果を示す。全ての温度条件下で良好な増幅が見られ、この融合配列が適していることが示された。
レーン15Aは、Aが15個連続した融合配列での結果を示す。15Cの結果と異なり、この融合配列ではどの温度条件でもPCR産物が観察されなかった。このことから、融合配列におけるGC含量の重要性が改めて示された。
【0028】
以上の結果から、融合配列におけるくり返しのパターンとしては(CT)m、(CA)m(mは5−20、好ましくは10−15の正の整数)が適していることが示された。
【実施例5】
【0029】
(3つの標的DNA断片を用いたオーバーラップエクステンション−遺伝子破壊)2つの標的DNA断片を用いたオーバーラップエクステンションが良好な結果を示したため、標的DNA断片が3つのオーバーラップエクステンションを検討した。3つの標的DNA断片を融合させる手法は、標的遺伝子の5’末端側領域と3’末端側領域の間に特定の配列を挿入して遺伝子の機能を破壊する「遺伝子破壊」に用いることができるため、酵母の系を用いて融合DNA断片の製造とその検証を行った。
【0030】
遺伝子破壊の標的遺伝子としてはADE2(Phosphoribosylaminoimidazole carboxylase)遺伝子を用い、ADE2遺伝子の開始コドンから379塩基下流の部分にPpHIS3断片を挿入するオーバーラップエクステンションを試みた。
酵母RAK3600株のゲノムDNAから、PpHIS3遺伝子断片を増幅し、ADE2遺伝子破壊のため、ADE2−5断片とADE2−3断片をそれぞれ酵母BY4741株よりPCRで増幅した。これら3つの標的配列を鋳型に、プライマー(1)としてADE2−797プライマー(配列番号37)及びADE2+2392cプライマー(配列番号38)を、プライマー(2)として15C−PpHIS3−1プライマー(配列番号39)及び15G−ADE2−1cプライマー(配列番号40)の組合せ、及び5C5G5C−ADE2+379プライマー(配列番号41)及び5G5C5G−PpHIS3cプライマー(配列番号42)の組合せをそれぞれ用い、オーバーラップエクステンションを行った。PCRの概要を図8に示す。PCR産物を0.7%アガロースゲル電気泳動にて確認し、その結果を図9に示す。図はPCR産物の電気泳動像であり、レーンMは分子量マーカー(kbpラダー)を、レーン2はそれぞれオーバーラップエクステンションPCRの産物を表している。図が示すとおり、レーン2には4kbp付近にシングルバンドが観察され、これはオーバーラップエクステンションの予測値(3.8kbp)とよく一致した。
得られたPCR産物50ngを用い、酵母BY4741株に酢酸リチウム法によって形質転換を行った。120μlの60%PEG3350、10μlのキャリアDNA(10mg/ml)、5μlの4M 酢酸リチウム、65μlのBY4741株培養液、50ngのPCR産物を混合し、42℃のヒートショックを加えることで酵母細胞内にPCR産物を導入した。形質転換後の細胞をヒスチジン欠失培地にまき、出現したコロニーを観察した。ADE遺伝子破壊株はこの培地上で赤色を示すため、出現した赤色コロニーをADE2破壊株としてカウントした。遺伝子破壊株の全体に対する割合は28.9%(赤コロニー488/赤コロニー+白コロニー1688)であった。
【実施例6】
【0031】
(4つの標的配列を用いたオーバーラップエクステンション)3つの標的配列を用いたオーバーラップエクステンションが良好な結果を示したため、4つの標的配列の融合を検討した。標的配列としてADE2−5(0.8kbp)、PpHIS3(1.0kbp)、ADE2−3(2.0kbp)、URA3(1.2kbp)を用い、プライマー(1)としてADE2−797プライマー(配列番号43)及びURA3−200cプライマー(配列番号44)を、プライマー(2)として5G5C5G−PpHIS3プライマー(配列番号45)及び5C5G5C−ADE2−1cプライマー(配列番号46)の組合せ、及び3C3G3C3G3C−ADE2+379プライマー(配列番号47)及び3G3C3G3C3G−PpHIS3cプライマー(配列番号48)の組合せ、及び15C−URA3−223プライマー(配列番号49)及び15G−ADE2−1cプライマー(配列番号50)の組合せ、の各プライマーを用い、アニーリング温度68℃でPCRを行った。図10に、実施例6のPCRの概要を示す。
【0032】
PCRの結果を、図11に示す。図はPCR産物をアガロースゲル電気泳動した結果を示し、レーンMは分子量マーカー(kbpラダー)を、レーン1はPCR産物を表している。図が示すとおり、5.0kbp付近にバンドが観察され、これは4つの標的DNA断片から推定される分子量と一致した。本発明のオーバーラップエクステンションが、標的配列が4つの場合にも有効に利用できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の技術の概要を示す。
【図2】本発明の提供するプライマーを用いた融合DNA断片の製造方法の模式図を示す。
【図3】実施例1(前半)のオーバーラップエクステンションの概要を示す。
【図4】実施例1(後半)のオーバーラップエクステンションの概要を示す。
【図5】実施例1のPCR産物の電気泳動像を示す。
【図6】実施例2−実施例4のオーバーラップエクステンションの概要を示す。
【図7】実施例2−実施例4のPCR産物の電気泳動像を示す。
【図8】実施例5のオーバーラップエクステンションの概要を示す。
【図9】実施例5のPCR産物の電気泳動像を示す。
【図10】実施例6のオーバーラップエクステンションの概要を示す。
【図11】実施例6のPCR産物の電気泳動像を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)2つの領域からなり、2種類の標的DNA断片を結合させるために用いられることを特徴とする、1組のプライマー。
(a)標的DNA断片の末端の部分配列と相同性を有する、3’末端側の領域
(b)グアニン(G)とシトシン(C)とを50%以上含有し、全長が9−45bpで、標的DNA断片同士を相補的に結合可能な、5’末端側の領域(以下「融合配列」という)
【請求項2】
融合配列のGC含量が80%以上である、請求項1に記載のプライマー
【請求項3】
融合配列が連続した(GC)m(mは5以上20以下の整数)を持たない、請求項2に記載のプライマー。
【請求項4】
以下の(1)、(2)のプライマーを用い、PCR法によりn個の標的DNA断片(nは2以上10以下の整数)を含む融合DNA断片を製造する方法。
(1)融合DNA断片の全長を増幅するためのプライマー
(2)請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載のプライマー

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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