説明

融着防止剤

【課題】 主に焼結質の窯業製品などを得るための被焼成物を焼成する際に、被焼成物同士や被焼成物とその設置面との融着を防ぐために使用される融着防止剤であって、従来の融着防止剤よりも極めて安価に得られ、通常の窯業製品ならその殆どを対象とすることができるような高い焼成温度まで使用することができ、且つ焼成物の品質に支障を及ぼすことのない融着防止剤を提供する。
【解決手段】 アルミ残灰又はアルミ残灰とアルミ残灰に概ね同等かそれよりも高融点の物質を含有してなる粉粒体からなる融着防止剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に窯業成形物を焼成する際の融着防止技術に関するもので、より詳しくは、焼成時に被焼成物同士や被焼成物とその設置面との融着を防ぐための融着防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器、耐火物、碍子、瓦、人工骨材や一部のファインセラミックス等の焼成工程を経て得られる焼結質の窯業製品では、焼成時に被焼成物同士の融着や被焼成物とこれを設置する炉材や敷板が融着を起こすことがある。焼成効率を高め、焼成コストの低減を図る上で焼成装置内の限られたスペースに被焼成物同士を接触設置させたり積み重ねて焼成されることも多く、品質保全と生産効率向上の観点から融着防止技術が検討されてきた。一般に窯業製品の融着防止には、シリカ、アルミナなどの高融点酸化物の粉末を融着防止剤として被焼成物の表面に振り掛けたり接触部分に介在させることが行われている。(例えば、特許文献1参照。)一方で、このような融着防止剤は工業的に製造されることが多く、廉価窯業製品に使用するには製品製造コストに占める融着防止剤の割合が高くなり過ぎて不経済である。石灰石などの比較的融点の高い天然鉱物粉末を融着防止剤として用いればコスト上昇をある程度抑えることができる。(例えば、特許文献2参照。)また、融着防止剤に、シリカやアルミナなどの高融点酸化物の一部を石炭火力発電の副産物である石炭灰で置換した混合粉末を用いることでコスト低減を行える可能性がある。(例えば、特許文献3参照。)しかし、通常の石炭灰には遊離炭素が含まれるため、石炭灰への置換量を増すと、融着防止剤中の遊離炭素量も増加し、これが焼成中に被焼成物へ拡散して外観や性状等の品質に支障を及ぼす虞がある。更に、上記何れの方策でも、石灰石や高融点酸化物のコストは必要となることから融着防止剤の原料面でのコスト低減には限界があり、一方で、被焼成物の設置状態によっては不必要であったり、また使用されても焼成後は廃棄されるのが通例の融着防止剤に、コストを極力費やしたくないのも実情である。
【特許文献1】特開2000−219555号公報
【特許文献2】特開2000−302503号公報
【特許文献3】特開2002−265243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、従来の融着防止剤よりも極めて安価に得られ、主に窯業成形物等の焼成の際に優れた融着防止効果が見られ、且つ焼成物の品質に支障を及ぼすことのない融着防止剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、課題を解決する上で、その有効活用策が十分見出されておらず、殆どが廃棄され、また廃棄処分に多大な費用や労力が費やされているような工業製品副産物のうち、比較的融点が高く、高温で安定な、且つ焼結窯業製品に対して焼成下でも実質不活性となる副産物としてアルミ鉱滓溶解時の副産物であるアルミ残灰を見出し、この粉末を融着防止剤に用いることで、原料コストは殆ど要らず、また焼成物の品質に支障を及ぼすことなく融着を十分防止できたことから本発明を完成させた。
【0005】
即ち、本発明は、次の(1)〜(2)で表す融着防止剤である。(1)アルミ残灰又はアルミ残灰とアルミ残灰に概ね同等かそれよりも高融点の物質を含有してなる粉粒体からなる融着防止剤。(2)粉粒体が、1μm以下の粒子含有率が1重量%未満であって20〜600μmの粒子含有率が50重量%以上且つ最大粒径5mm以下である前記(1)の融着防止剤。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、これまで極一部が研磨剤に利用される程度で、大半が多大な費用と手間をかけて廃棄されてきたアルミ残灰の有望な活用先が見出せると共に、従来品に勝るとも劣らない性状の融着防止剤を極めて安価に得ることができる。しかも、本発明による融着防止剤は使用可能な温度が高いため、大部分の酸化物系焼結窯業製品の焼成に適用でき、更に所謂敷粉として用いると焼成物の形状面での品質安定化に優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の融着防止剤に使用するアルミ残灰は、主にアルミニウム精錬工場や鋳物工場などでアルミニウム又はアルミニウム合金の地金や製品を製造する際のアルミ鉱滓(ドロス)溶解過程で産出する副産物である。使用するアルミ残灰の化学成分は限定されないが、好ましくは、より高い耐用温度での使用が可能となることから、化学成分としてAlN及びAl23合計含有率が約85重量%以上且つアルカリ金属塩の含有率が0.5重量%以下のアルミ残灰が適当である。
【0008】
本発明の融着防止剤は、前記アルミ残灰からなる粉粒体であれば良いが、アルミ残灰に、例えばアルカリ土類金属酸化物、ジルコニア、アルミナ等のアルミ残灰と概ね同等かそれより高い融点であって被焼成物に不活性な物質が加わった粉粒体でも良い。該物質は本発明の融着防止剤の使用対象を鑑み、酸化物が望ましい。また、アルミ残灰以外の物質の含有割合は特に制限されないが、コスト増大に繋がることがあるので工業製造原料を用いる場合はおよそ50重量%以下に留めるのが望ましい。
【0009】
本発明の融着防止剤は粉粒体状のものとする。当該粉粒体は単粒の粉末でも複数の粒子が凝集・結合した顆粒の何れでも良い。粉粒体の粒径は5mm以下が好ましい。5mmを超える粉粒体は被焼成物間の所望の部位への介在配置が困難になることがある。より好ましくは、1μm以下の粒子含有率が1重量%未満で、20〜600μmの粒子含有率が50重量%以上且つ最大粒径5mm以下の粉粒体とする。20〜600μmの粒子含有率が50重量%以上確保されないと、被焼成物下面に敷設した場合に、摩擦力等による収縮抵抗を緩和し難くなり、また1μm以下の粒子含有率が1重量%を超えると被焼成物と融着防止剤自体との摩擦が増大し、何れも不均一な焼成収縮の原因となる。尚、ここに規定した粒度は、工業的に行われているアルミ鉱滓溶解過程で通常得られるアルミ残灰の粒度からかけ離れたものではないため、コスト高騰に繋がる微粉砕や複雑な分級処理を駆使せずに、比較的簡単な分級処理程度で得ることができ、整粒処理のコストを低く留められる。また、粉粒体の形状は特に限定されないが、焼成時に被焼成物を設置する炉床や敷板との融着防止に用いる場合、球形に近い形状になるに連れて焼結による被焼成物収縮に対する抵抗を減少できるので、形状面での品質安定化を図る上では球形乃至球形に近い顆粒を用いるのが好ましい。
【0010】
本発明の融着防止剤が使用できる被焼成物は、概ね1700℃以下の非還元性雰囲気で焼成されるものであって、無機系酸化物からなる成形物が好適であるが、焼成後に酸化物焼結体の如く無機系酸化物になるものなら特に制限されない。即ち、例えば炭酸化物や水酸化物のような焼成中に二酸化炭素や水蒸気として容易に分解気化する成分を含む原料を用いた成形物でも良く、更には、例えば3重量%程度までなら窯業成形物に使用される有機系結合剤等の有機物を含むものでも良い。焼成温度が1700℃を超える被焼成物では融着防止剤が被焼成物に融着する可能性がある。また、表面に釉薬を施した成形物では基材が1700℃以下で焼結するものでも、釉薬施設部位では融着を防げないことがある。
【0011】
また、本発明の融着防止剤の使用方法は特に限定されないが、被焼成物同士の接触部を中心に被焼成物間に介在させたり、また焼成時に被焼成物を設置する炉床や敷板などの上面への敷設が好ましい。被焼成物間に介在する方法は、例えば適量を被焼成物に振り掛けるのが最も簡単な方法であるが、これで対応できない場合は被焼成物の一部分又は全体を融着防止剤で埋設するように覆っても良い。また被焼成物を積み重ねて焼成する場合は積み重ねる被焼成物面が概ね水平ならば、この面上に敷設しても良い。本融着防止剤を敷設する際は必ずしも対象面全体を本剤で覆い尽くす必要はなく、散在させる程度でも良い。また、本発明の融着防止剤を還元性雰囲気で使用すると、温度によっては焼成中に金属相が出現することがあるので避けるのが望ましい。
【実施例】
【0012】
以下、実施例により本発明を具体的に詳しく説明する。
含有成分の化学分析値が表1に表すアルミ鉱滓溶解時の副産物であるアルミ残灰を分級し、表2に表す粒度の粒子を得た。尚、表1中の炭化物の含有量には遊離炭素を含まない。
【0013】
【表1】

【0014】
更に、該アルミ残灰80重量%とアルミナ(市販試薬)20重量%を乾式混合し、表2に表す粒度に調整した粒子も作製した。また、比較のため、従来から窯業製品焼成時に所謂敷粉として用いられているアルミナ又はシリカ(何れも市販品)からなる粒子と、アルミナ(市販品)とフライアッシュとの等重量混合物からなる粒子についても、表2に表す粒度に調整した。尚、表2に記した中心粒径とは当該粒径を超える粒子重量と当該粒径以下の粒子重量が同一になる時の粒径である。
【0015】
【表2】

【0016】
次いで、原料源に酸化アルミニウム、二酸化珪素、無水炭酸カルシウム、水酸化ナトリウム、塩化カリウム(何れも市販試薬)を用い、SiO2;73.0重量%、Al23;17.0重量%、CaO;6.5重量%、Na2O;2.0重量%及びKCl;2.0重量%となるよう組成調整した混合粉末を、円柱形型枠に3.0g充填し、二軸加圧成形により直径15mmで高さ9mmの円柱状成形物を作製した。該成形物を内径約30mm、高さ30mmで耐用温度約1500℃の市販磁性坩堝中に入れ、電気炉を用いて大気中、昇温速度30℃/分で1300℃まで昇温し、1300℃で30分保持した後、炉内自然放冷した。ここで、磁性坩堝中への成形物の設置方法は、坩堝の内底面上に表2に表す粒子をそれぞれ約1.0mmの厚さに敷設し、敷設粒子上に該成形物の一方の円面を底面とし、1つの坩堝内に1個ずつ設置した。また、比較のため、粉粒体を敷設せず坩堝内底に直に成形物を設置したものも同様の焼成条件で焼成した。
【0017】
放冷後、坩堝又は敷設粒子と焼成物との融着状態を次の方法で調べた。坩堝と焼成物、敷設粒子と焼成物が、何れも目視で融着が見られなかったものを融着「無し」と判断し、これ以外の状態となったものは融着「有り」と判断した。但し、敷設粒子の一部が焼成物に付着したものでも硬毛ブラシで容易に剥離でき、その痕跡が残らなかったものは融着「無し」と判断した。
【0018】
また、焼成による成形物の形状変化も次の方法で調べた。焼成前の円柱状成形物の下端面について、任意の直交する直径(以下、直径A、Bとして表す。)の各長さを測定し、更にAの直径と同一の方向に配する該成形物上端面の直径C及びBの直径と同一の方向に配する該成形物上端面の直径Dも測定した。焼成後、焼成前と同じ箇所の焼成物上下各端面の直径(以下、焼成前の直径A、B、C、Dに対応する箇所の焼成後の直径をそれぞれA’、B’、C’、D’として表す。)A’〜D’を測定し、焼成前の直径と対応する箇所の焼成後の直径の差から収縮量を求め、焼成収縮率も算出した。また、焼成物の密度をJIS A 1110の規定に準じた方法で測定した。以上の結果を纏めて表3に表す。
【0019】
【表3】

【0020】
更に焼成物の側面色調を目視で調べたが、比較例7を除く各焼成物(実施例1〜4、比較例1〜6及び8)は何れも差は見られず白色で、比較例7の焼成物のみ他の焼成物よりも灰色がかった色になっていた。
【0021】
表3より、本発明の融着防止剤は何れも融着が見られず(実施例1〜4)、従来から窯業製品の焼成に用いられているアルミナやシリカ質の敷粉と遜色ない融着防止効果が得られることがわかる。また、本発明の融着防止剤を焼成物設置用の敷材に使用すると、特定粒度のものでは少なくとも上下端面の収縮率がほぼ同一になるため、従来より敷粉として使用されているものよりも設置面との摩擦等による収縮抵抗を著しく低減できることがわかる。また本発明の融着防止剤は外観色調や緻密化状態もアルミナやシリカを使用した場合と比べて特に差異が見られず、この方面でも安定した品質の焼成物が得られ易いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミ残灰又はアルミ残灰とアルミ残灰に概ね同等かそれよりも高融点の物質を含有してなる粉粒体からなる融着防止剤。
【請求項2】
粉粒体が、1μm以下の粒子含有率が1重量%未満であって20〜600μmの粒子含有率が50重量%以上且つ最大粒径5mm以下である請求項1記載の融着防止剤。

【公開番号】特開2006−117474(P2006−117474A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307387(P2004−307387)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(501173461)太平洋マテリアル株式会社 (307)