説明

融雪電線

【目的】 低電流通電時にも高い融雪効果を有し、過度の温度上昇が抑えられ、且つ架線工事が容易に行える融雪電線を提供する。
【構成】 本発明の融雪電線は、架空電線5に磁性線材6を螺旋状に巻付けたもので、螺旋状に巻付けた磁性線材6の間隙にアルミ線材のスペーサー7を介在させて金車通過時の磁性線材6のずれを防止し、磁性線材6に低磁界における渦電流発熱の大きい磁性線材6を用いて融雪効果を高め、磁性線材6の高磁界における過度の発熱を、前記磁性線材6をスペーサー7より突出させて巻付けてそのフィン冷却効果により抑え、磁性線材6にAl材層8を被覆して架空電線5との電食を防止した。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、アルミ架空電線に磁性線材を巻付け、前記磁性線材に生じる渦電流と履歴損失による発熱でアルミ架空電線上の着雪・着氷を解かすようにした融雪電線で、低電流通電時にも高い融雪効果を有し、過度の温度上昇が抑えられ、且つ架線工事が容易に行えるものである。
【0002】
【従来の技術】架空電線に雪や氷が付着すると、この雪や氷は架空電線の撚溝に沿って回転しながら発達し、遂には巨大な筒雪や氷塊となる。その結果、架空電線に多大の荷重がかかり、架空電線の断線や鉄塔の倒壊事故に至る。この対策として、架空電線の外周に複数の難着雪リングを間隔を空けて取付けて、撚溝に沿って回転する着雪や着氷をこの難着雪リングで止め、巨大化する前に落下させる方法が実用化された。しかし、この方法では架空電線直下にあるビニルハウスや自動車等が、落雪や落氷を受けて損傷する問題があった。そこで、架空電線に磁性線材を巻付け、架空電線を流れる交流電流の交番磁界により前記磁性線材に渦電流と履歴損失を発生させ、そのときの発熱で架空電線上の着雪や着氷を解かす方法が提案された(特開昭58-44609)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記磁性線材を巻付けた融雪電線では、送電量が多い昼間は、磁性線材の渦電流や履歴損失による発熱(以下渦電流発熱と略記する)が大きく、これに架空電線自体の抵抗発熱が加わって着雪や着氷は起き難いが、逆に、架空電線が許容温度以上に昇温して送電量を落とさざるを得ない事態が起きた。この事態解決の為に、磁性線材の組成を変えてキュリー温度を下げ、所定温度以上では渦電流発熱が生じないようにしたが、キュリー温度の低い磁性線材は、一般に低磁界下での磁束密度が低く、早朝の送電量の少ない肝心なときに十分な渦電流発熱が得られなかった。又磁性線材によっては、架空電線との間で電食が起きて、架空電線の断面積が実質的に減少した。又架空電線を金車を通して架線する際に架空電線に巻付けた磁性線材がずれ、その間隔が変動して当初の融雪効果が得られないという問題があった。プリフォームした磁性線材を架線後装着する方法は工事に多大の労力を要した。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明は、このような中で鋭意研究を行いなされたもので、その目的とするところは、送電量が少ないときも十分に発熱して、付着する雪や氷を速やかに解かし、送電量が多いときは過度に発熱せず、電食を起こさず、架線工事が容易に行える融雪電線を提供することにある。即ち、請求項1の発明は、アルミ架空電線の最外層に、磁性線材が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、磁性線材が、Niを40〜60wt%含有し残部Feからなる合金磁性線材であり、前記磁性線材にアルミ材が10〜60μmの厚さ被覆されており、前記螺旋状に巻付けられたアルミ材被覆磁性線材の間隙に、アルミ線材が、前記アルミ材被覆磁性線材の間隔を一定に保持するスペーサーとして巻付けられており、前記アルミ材被覆磁性線材が、前記アルミ線材巻付け体から突出していることを特徴とするものである。
【0005】この請求項1の発明は、架空電線に磁性線材を螺旋状に巻付けた融雪電線で、■金車通過時の磁性線材のずれを磁性線材間にスペーサーを介在させて防止し、■磁性線材に、低磁界における渦電流発熱の大きい磁性線材を用いて融雪効果を高め、■磁性線材の高磁界における過度の発熱を、前記磁性線材をスペーサーより突出させて巻付けてそのフィン冷却効果により抑え、■磁性線材にアルミ材を被覆して架空電線との電食を防止したものである。
【0006】架空電線には、そこを流れる交流電流により交番磁界が生じ、この交番磁界により架空電線に巻付けられた磁性線材に渦電流損失と履歴損失が発生して前記磁性線材が発熱する。この発熱量は前記磁性線材の飽和磁束密度と透磁率に左右される。断面円形状の軟磁性線材の軸方向に交番磁界が掛かっているときの磁性線材における損失は、殆どが渦電流損失である。この渦電流損失は、低磁界下では磁束密度の2乗に比例し、高磁界下では磁束密度の 1.6乗に比例する。いずれにしろ飽和磁束密度の高い磁性線材程、発熱量が大きい。例えば純鉄は22,000Gの飽和磁束密度を有していて、高磁界での発熱量は大きいが低磁界ではそれ程でもない。融雪電線には、低磁界での磁束密度が高く発熱量の大きい磁性線材が好ましく、本発明では、前記条件を満たすFe−Ni系の磁性合金に着目した。Feの飽和磁束密度は、前述の通り 22000Gである。このFeにNiを添加していくと、Ni30%で飽和磁束密度は4000Gと最低になり、Niが30%を超えると飽和磁束密度は再び高くなり、Ni45wt%で極大値を示す。透磁率はNi78%で極大を示す。そして、Niが40〜60wt%のFe−Ni系合金は低磁界における飽和磁束密度が14,000G以上と高く、又透磁率も比較的高い。従って融雪電線用磁性線材として有利である。このようなことから、本発明では、Niを40〜60wt%含有し残部Feからなる合金磁性線材を選択した。Niの含有量を40〜60wt%に限定したのは、Niが40wt%未満では透磁率と低磁界での磁束密度が低下し、Niが60wt%を超えると低磁界での磁束密度が低下して、いずれも融雪に必要な発熱量が得られなくなる為である。
【0007】請求項1の発明において、磁性線材に被覆するアルミ材は、架空電線(アルミ導体)との電位差による電食を防止する。この磁性線材にアルミ材を被覆した場合、磁束が飽和しない低磁界においては、アルミ被覆層に流れる外部磁界を打ち消そうとする渦電流によって磁性線材の磁束がシールドされて発熱量が低下する。磁束が飽和する高磁界においては、磁性線材及びアルミ被覆層に流れる渦電流により逆に発熱量が増大する。従って飽和磁束密度が高く角型比の高い磁性材料を磁性線材に使用すれば、アルミ材を被覆しても低磁界での発熱量を高くできる。
【0008】請求項1の発明において、アルミ材には、純アルミ又はアルミ合金が適用される。磁性線材にアルミ材を被覆するには、溶融浸漬法、電気めっき法、アルミ管を磁性線材に被せ引抜加工するアルミ管被着法等任意の方法が用いられる。アルミ材の被覆厚さは、10μm未満では十分な防食効果が得られず、60μmを超えると磁性線材にFe−40〜60wt%Ni合金を用いたときに、その渦電流発熱量が低下する。又アルミ材を溶融浸漬法で60μmを超えて被覆するのは困難である。又電気めっき法はめっき厚さが60μmを超えると、めっき表面が荒れ、前述のアルミ被覆による発熱改善効果が減少する。従って表面研磨が必要となりコスト高になる。このようなことから、アルミ材の被覆厚さは10〜60μmが好ましい。
【0009】請求項1の発明において、螺旋状に巻付けられた磁性線材の間隙に巻付けられるアルミ線材は、前記アルミ被覆磁性線材の間隔を一定に保持するスペーサーとしての役目を担い、架空電線の金車通過時に磁性線材のずれを防止するもので、その形状は断面円形、角形等任意である。このアルミ線材は磁性線材のフィン冷却効果を邪魔しないように、アルミ材被覆磁性線材を前記アルミ線材巻付け体から突出させる。こうすることにより、許容最大通電時の磁性線材の発熱は、自らのフィン冷却効果により除去され、磁性線材を巻付けない架空電線の温度以上には上昇しない。このスペーサー用アルミ線材は、磁性線材と並べて一緒に架空電線上に巻付けられる。
【0010】請求項2の発明は、アルミ架空電線の最外層に、磁性線材が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、磁性線材が、Niを40〜60wt%含有し残部Feからなる合金磁性線材であり、前記磁性線材に亜鉛材が10〜60μmの厚さ被覆されており、前記螺旋状に巻付けられたアルミ材被覆磁性線材の間隙に、アルミ線材が、前記アルミ材被覆磁性線材の間隔を一定に保持するスペーサーとして巻付けられており、前記アルミ材被覆磁性線材が、前記アルミ線材巻付け体から突出していることを特徴とする融雪電線である。
【0011】請求項1及び請求項2の発明の融雪電線に巻付けられる磁性線材は、Niを40〜60wt%含有するFe−Ni系合金である。この合金は、前述の通り、低磁界における飽和磁束密度が14,000G以上と高く、又透磁率も比較的高い。従って融雪電線用磁性線材として有用である。しかし、本発明者等は、FeにNiを3〜78wt%含有させた合金は、磁歪が正となり、この磁性線材に引張応力を残留させると磁気特性が改善され、発熱量が向上することを見出し、更に研究を重ねて、融雪電線用としてのFe−Ni系磁性線材の特性改善に成功した。
【0012】即ち、請求項3の発明は、アルミ架空電線の最外層に、磁性線材が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、磁性線材が、Niを3〜28wt%又は35〜65wt%、Coを0〜10wt%未満、Alを0〜9wt%、Siを0〜7.5 wt%、Vを0〜4wt%、Crを0〜9wt%含有し残部Feからなる合金、又はNiを3〜65wt%、Coを10wt%〜65wt%、Alを0〜9wt%、Siを0〜7.5 wt%、Vを0〜4wt%、Crを0〜9wt%含有し残部Feからなる合金のいずれかからなり、前記磁性線材の表面に10〜120 μm厚さのAl、Al合金、Zn、又はZn合金のいずれかの金属が被覆されており、前記金属被覆磁性線材に、送電中引張応力が残留するように巻付けられていることを特徴とする融雪電線である。
【0013】請求項3の発明では、Niを3〜28wt%又は35〜65wt%、Coを10wt%未満、Alを0〜9wt%、Siを0〜7.5 wt%、Vを0〜4wt%、Crを0〜9wt%含有し残部Feからなる■合金、又はNiを3〜60wt%、Coを10〜65wt%、Alを0〜9wt%、Siを0〜7.5 wt%、Vを0〜4wt%、Crを0〜9wt%含有し残部Feからなる■合金を磁性線材に用いる。
【0014】この合金元素の限定理由は、先ずNiとCoはFe系材料の磁気特性を高める合金元素であり、前者の■合金では、Coが10wt%未満の為、Niが3wt%未満では、十分な正磁歪が得られず磁性線材に引張応力を残留させても磁気特性が改善されない。28wt%を超え35wt%未満の範囲でも、又65wt%を超えても、磁性線の磁束密度が低下して融雪に必要な発熱量が得られない。又後者の■合金では、Coが10〜65wt%と多量に含有される為、Niの含有量が28wt%を超え35wt%未満の範囲でも融雪に必要な発熱量が得られる磁束密度が得られ、Niは3〜65wt%の広い組成範囲で良好な磁気特性が達成される。次にAlとSiは磁束密度を高める作用を有する。その含有量がそれぞれ 9wt%、 7.5wt%を超えると磁束密度が却って減少する。又Vは冷間加工性を改善する。その含有量が4wt%を超えると硬くなりすぎて、逆に加工性が悪くなる。又Crは磁性線材の耐食性を改善する。その含有量が9wt%を超えると磁性線材の磁束密度が低下して融雪に必要な発熱量が得られなくなる。
【0015】請求項3の発明の融雪電線は、前記合金組成の磁性線材にアルミ材を被覆し、このアルミ被覆磁性線材に引張応力が残留するようにアルミ架空電線に巻付けた融雪電線である。アルミ材を被覆するのは、アルミ架空電線との間で電食を起こさないようにする為である。又磁性線材に引張応力を残留させるのは、本発明の磁性線材の磁歪は正であり、磁歪が正の磁性線材に引張応力が残留していると、磁気特性が改善され発熱量が向上する為である。送電中、磁性線材に引張応力を残留させるには、磁性線材を架空電線に室温以下の温度で溶接、又はろう付け、又は機械的固定により行うこともできるが、張力を掛けながら磁性線材をアルミ架空電線に巻付け固定する方法が発熱量を大幅に改善できる。溶接、ろう付け、又は機械的固定は磁性線材の両端でのみ行うようにしても良い。磁性線材を架空電線に固定することにより、金車通過時の磁性線材のずれを、スペーサーを用いずに防止できる。
【0016】請求項4の発明は、螺旋状に巻付けた磁性線材の間隙にアルミ線条体をスペーサーとして、前記金属被覆磁性線材の高さ未満に巻付けたことを特徴とする請求項3記載の発明の融雪電線である。融雪電線の金車通過時の磁性線材のずれがなく、又磁性線材がアルミ線材から突出している為、磁性線材のフィン冷却効果により大電流送電時にも過度の温度上昇が防止される。
【0017】請求項5の発明は、螺旋状に巻付けた磁性線材の間隙にアルミ線条体をスペーサーとして、前記金属被覆磁性線材の高さの半分以下の高さに巻付けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4記載の融雪電線である。アルミ材被覆磁性線材がその径の半分以上をスペーサー(アルミ線材巻付け体)から突出しているので、フィン冷却効果が大きくなり、最高使用温度での許容電流を大きくできる。
【0018】請求項6の発明は、磁性線材の断面が長方形、正方形、又は扇形であることを特徴とする請求項1乃至請求項5記載の融雪電線である。磁性線材の断面形状を長方形、正方形または扇形とすることにより、断面円形の電線より、架空電線との接触面積が大きくなり、その融雪効果を高めることができる。
【0019】請求項7の発明は、架空電線の所要部分のみに磁性線材、又は磁性線材とスペーサーを巻付けたことを特徴とする請求項1及至請求項6記載の融雪電線である。融雪対策が必要な個所だけに磁性線材を巻くので、エネルギー損失ばかりでなく、布設コストも低減できる。
【0020】
【作用】請求項1の発明では、アルミ架空電線の最外層に、アルミ被覆した磁性線材が螺旋状に巻付けられ、前記螺旋状に巻付けられた磁性線材の間隙に、アルミ線材が、前記アルミ被覆磁性線材の間隙を一定に保持するスペーサーとして巻付けられているので、架線の際の金車通過時に、前記磁性線材がずれることがなく所定の良好な融雪効果が得られる。又前記アルミ被覆磁性線材は、その径の半分以上を前記スペーサー用のアルミ線材巻付体から突出させているので、自らのフィン冷却効果により冷却されて、渦電流発熱による温度上昇は阻止される。このように磁性線材はフィン冷却効果により冷却されるので、磁性線材に、キュリー温度が高いものを使用することができ、従って磁性線材は、低磁界での磁束密度の高い材料を選択できる。フィン冷却効果は、磁性線材をスペーサー用アルミ線材巻付体から少しでも突出させることにより得ることができる。又磁性線材にアルミ材が被覆されているので、磁性線が架空電線との間で電食を起こすようなことがない。請求項2の発明は、磁性線材に亜鉛材を被覆するもので、アルミ材を被覆する場合と同様の電食防止効果が得られる。亜鉛材には純亜鉛の他、亜鉛合金も適用できる。
【0021】又請求項3の発明で用いる磁性線材は正磁歪であり、この磁性線材をアルミ架空電線の最外層に、送電中引張応力が残留するように螺旋状に巻付けるので、磁性線材の磁気特性が向上して融雪効果が改善される。磁性線材にアルミ材が被覆されているので架空電線との電食が防止される。送電中磁性線材に引張応力を残留させる為に磁性線材を架空電線に固定すると、金車通過時の磁性線材のずれが防止される。金車通過時の磁性線材のずれは磁性線材間にスペーサーを介在させることによっても防止される。磁性線材をスペーサーより突出させることにより、磁性線材にフィン冷却効果を持たせることができる。磁性線材の高さの半分以上をスペーサーから突出させることにより磁性線材のフィン冷却効果を更に高めることができる。
【0022】請求項1乃至請求項3の融雪電線に共通することとして、磁性線材の断面を長方形、正方形、又は扇形にすることにより、磁性線材を架空電線に密着させることができる。又融雪対策が必要な個所だけに磁性線材を巻くことにより、エネルギー損失及び布設コストの低減が計れる。
【0023】
【実施例】以下に本発明を実施例により詳細に説明する。
(実施例1)架空電線に、磁性線材を、前記磁性線材間にアルミ線材をスペーサーとして介在させて巻付けて、融雪電線を製造した。架空電線には、アルミを0.45mm厚さ被覆した 4.4mmφのインバー線の7本撚線に、断面扇形の特別耐熱アルミ合金線を3層撚合わせたXTACIR650mm2(インバー線断面積106mm2、特別耐熱アルミ合金線の断面積653.4mm2、外径33.150mmφ)の送電線を用いた。この送電線は、送電線1m当たり1Kgの磁性線材を巻付けても荷重に耐えられる。前記送電線に巻付ける磁性線材には、表1に示す、純鉄、Fe−Ni系合金7種、Fe−Ni−Cr−Si系合金1種を用いた。前記9種の磁性線材に純アルミ、アルミ合金、又は亜鉛を、溶融浸漬法、電気めっき法、アルミ管被着法のいずれかの方法により被覆した。アルミ管被着法は10mmφの磁性線材にアルミパイプを被覆し、これを磁性線材の径が 2.6mmφになるよう伸線して行った。このアルミ材等を被覆した磁性線材を、前記のインバー補強送電線にスペーサーを介して螺旋状に巻付けた。スペーサーには、特別耐熱アルミ製の条又は線を用いた。融雪電線のスペーサーを巻付けたアルミ導体部の外径は約34.3mmφであった。
【0024】得られた融雪電線の実施例を図を参照して具体的に説明する。図1イ、ロは本発明の融雪電線の実施例を示すそれぞれ横断面図及び側面図である。Al層1を被覆したインバー線2のインバー撚線3の外周に、断面扇形の特別耐熱アルミ合金線4を3層に撚合わせて架空電線5を構成し、この架空電線5の外周に磁性線材6とスペーサー7が、1対5の本数比で撚合わされている。磁性線材6はスペーサー7より突出して巻付けられておりフィン冷却効果が維持されている。磁性線材6には電食防止の為Al材層8が被覆されている。
【0025】次に、前記磁性線材の製造方法をFe−Ni−Cr−Si系合金に例をとって説明する。先ず、純度99.9%の電解鉄、同99.9%の電解ニッケル、同99%の電解クロム、同99.999%のシリコンを原料に用い、各々を所定量配合して真空溶解し鋳造してインゴットとなした。次にこのインゴットを 950℃48時間ソーキングしたのち、熱間圧延、引抜加工、伸線加工を順次施して 2.6mmφの線材となした。次にこれを水素中で1050℃3時間焼鈍し炉冷した。他の材料についても同様にして 2.0、 2.6、又は 4.0mmφの線材に加工した。これらの磁性線材の磁気特性を測定した。磁気特性のうち、飽和磁束密度とキュリー温度は 2.6mmφ×5mmの試料について、振動試料型磁力計を用い10 Oe の磁界強度下で測定した。磁束密度は、0.65mmφのエナメル線を 327ターン巻付けた励磁コイルの中心に、25ターンの磁束検出用コイルを配置し、この検出用コイルの中に 2.6mmφ×1000mmの磁性線材を入れ、B−Hカーブトレーサーで測定した。磁界強度は40、20、10 Oe に変えた。結果を、0℃における比抵抗を併記して表1に示す。
【0026】
【表1】


【0027】表1から明らかなように、本発明の融雪電線で使用した磁性線材用合金a〜eの10 Oe における磁束密度B10は比較例品(No.f、g、h、i)と比べても高く、また本発明の磁性線材用合金の20 Oe 、40 Oe における磁束密度B20、B40と比べても差が小さく磁束密度の飽和特性が良いことが分かる。本発明のB10は従来融雪電線で使用されている合金hの磁束密度と比較すると2倍近く高い。
【0028】前記磁性線材を巻付けた融雪電線について、塩水噴霧試験を行って耐食性を調査した。又融雪電線に91A通電時(電線表面磁界10 Oe)の送電線1mあたりの発熱量、及び許容最大電流の2300A通電時の電線温度を測定した。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】


【0030】表2より明らかなように、本発明例品(No.1〜13) の耐食性は、磁性線材のアルミ被覆厚さを20μm以上にすると3000時間の塩水噴霧試験に耐えられるようになる。10μmでも2000時間の塩水噴霧に耐えられ、実用上問題ない。Al−20wt%Mn合金を電気めっきした磁性線材を使用したもの(No.4)も純アルミを被覆したときと同様の高い耐食性を示した。
【0031】本発明例品 (No.1〜14) の91A通電時の発熱量は、比較例品(No.21〜23)に較べてかなり高い。本発明の融雪電線で使用した磁性合金a〜eの飽和磁束密度は純鉄iより5000G以上低いにも関わらず、本発明の融雪電線(No.1 〜14)の発熱量が、純鉄の磁性線材を用いた融雪電線(No.24)より高いのは、B10(10 Oe における磁束密度) が高い為である。Niの含有量が50wt%のとき、91A通電時の発熱量が最大になる。Niが40wt%又は60wt%のもの(No.1,9)の発熱量は幾分低下したが、部分融雪に必要な発熱量は得られた。尚、毎時5mmの降雪量(降水量換算値)における完全融雪に必要な発熱量は15.9w/m、部分融雪に必要な発熱量は12.5w/mである。
【0032】本発明例品の2300A通電時の電線温度は、磁性線材を巻付けないものの温度(No.25, 230℃) を下回った。本発明で用いた磁性線材は、いずれもNi含有量が多くキュ−リー温度が高いものであり、2300A通電時には、かなり発熱するのであるが、自らのフィン冷却効果により発熱が抑えられた。このことから、キュリー温度の低い磁性線材を使用しなくても、磁性線材にフィン冷却効果を持たせることにより、最大許容電流通電下で、電線温度の上昇を十分抑えられることが判る。本発明例品のうち、No.7は電線温度が 220℃と比較的上昇した。これはスペーサーの条の厚さが1.0 mmφと厚かった為磁性線材のフィン冷却効果がやや低下した為である。No.12 はスペーサーに 1.0mmφの線材を用いたもので、やはり 218℃と比較的高温になった。線材(No.12) の方が隙間が多い分、熱が逃げ易く条材(No.7)より温度が若干低下した。
【0033】比較例品の耐食性は、塩水噴霧2000時間未満で、めっきなしのもの(No.16)と、アルミめっきが5μmと薄いもの(No.17)に腐食が見られた。
【0034】比較例品の91A通電時の発熱量は、No.15,18,20 〜24,25 が低かった。これは表1より明らかなように、用いた磁性合金の低磁界下の磁束密度B10が低い為である。No.15 はNi含有量が36%と少ない磁性合金aを用いたもので、この合金aはB40、B20に比べてB10が急激に低下し、91A通電時の発熱量は本発明の融雪電線(No.1 〜13)の半分程度である。Ni含有量が60%を越える磁性合金bを用いたNo.20 の発熱量は、部分的に融雪効果が得られる発熱量12.5w/m 未満で融雪電線用には不適当である。
【0035】比較例品の2300A通電時の電線温度は、 No.19,24 が、磁性線材を巻付けないNo.25 の電線温度を上回った。No.19 はスペーサーの厚さが磁性線材の直径の半分以上で、磁性線材のフィン冷却効果が十分に得られず 232℃に上昇した。No.2,4はキュリー温度の高い純鉄を使用したもので、許容電流での温度は磁性線材を巻付けない電線(No.25) の温度上昇より高くなる。No.8は、Niの含有量が60%を超えてキュリー温度が 600℃以上になったものであるが、温度上昇はあまり見られない。これは許容電流での磁性線材発熱量より磁性線材のフィン冷却効果による放熱の方が大きくなる為である。
【0036】次に磁性線材に被覆するアルミ材の被覆厚さについて説明する。No.21 〜23は、従来の融雪電線に使用されている比抵抗が 120μΩcmと高い磁性合金hの線材にアルミを種々の厚さ被覆した融雪電線で、91A通電時の発熱量はアルミ被覆厚さが 150μmで最大になる。他方、比抵抗が32μΩcmと低い Fe-50wt%Ni合金cの磁性線材にアルミを 5,10,20,60 及び80μm電気めっきした磁性線材を巻付けた融雪電線(No.17,5,6,13,18) の発熱量は20μm(No.6)で最大となり、めっき厚さが80μmに厚くなると融雪可能な発熱量が得られなくなる。めっき厚さが厚いと、めっき後研磨を必要とし、コスト高になる。従って最適めっき厚さは20μm前後である。
【0037】91A通電時の発熱量に及ぼす磁性線材のアルミ被覆方法の影響をNo.3(溶融めっき) とNo.6(電気めっき) について見てみると前者の方が発熱量が小さい。アルミの溶融めっきは磁性線材の磁気特性を低下させるものと考えられる。同じく91A通電時の発熱量に及ぼす磁性線材の線径の影響を No.10(2.0mmφ), No.6 (2.6mmφ), No.11(4.0mmφ) について見てみると、線径は大きい程発熱量が増加する傾向が見られる。
【0038】(実施例2)表3に示した合金組成の磁性線材を下記方法により製造した。純度99.9%の電解鉄、同99.9%の電解ニッケル、同99.5%のコバルト、同99.99 %のアルミ、同99%の電解クロム、同99.999%のシリコン、同99.7%のバナジウムを原料に用い、各々を所定量配合して真空溶解し鋳造してインゴットとなした。次にこのインゴットを 950℃48時間ソーキングした後、熱間圧延、引抜加工、伸線加工を順次施して 2.6mmφの線材となした。次にこれを水素中で1050℃3時間焼鈍し炉冷した。得られた磁性線材の磁気特性を測定した。磁気特性のうち、飽和磁束密度とキュリー温度は 2.6mmφ×5mmの試料について、振動試料型磁力計を用い10kOe の磁界強度下で測定した。磁束密度は、0.65mmφのエナメル線を 327ターン巻付けた励磁コイルの中心に、25ターンの磁束検出用コイルを配置し、この検出用コイルの中に 2.6mmφ×1000mmの磁性線材を入れ、B−Hカーブトレーサーで測定した。磁界強度は40、10 Oe に変えた。結果を、0℃における比抵抗を併記して表3に示す。
【0039】
【表3】


【0040】表3から明らかなように、本発明磁性合金のB10(10 Oe における磁束密度)は高いものも低いものもある。合金 No.k、l、m、o、p、tは従来用いられている合金 No.hよりB10が低い。
【0041】表3に示した磁性線材を、架空電線に張力をかけて巻付け固定することにより、磁性線材に引張応力を残留させて融雪電線を製造した。架空電線には、アルミを被覆した4.4 mmφのインバー線の7本撚線に、断面扇形の特別耐熱アルミ合金線を3層撚合わせたXTACIR650mm2(インバー線断面積106mm2、特別耐熱アルミ合金線の断面積653.4mm2、外径33.150mmφ)の送電線の 4.4mmφインバー線を 5.3mmφと太くし、送電線1m当たり1Kgの磁性線材を巻付けても荷重に耐えられるようにした。磁性線材間にアルミ線材をスペーサーとして介在させたものも製造した。磁性線材には、純Alを、溶融浸漬法、電気めっき法、アルミ管被着法のいずれかの方法により被覆した。アルミ管被着法は10mmφの磁性線材にAlパイプを被覆し、これを磁性線材の径が 2.6mmφになるよう伸線して行った。スペーサーには、特別耐熱アルミ製の条又は線を用いた。融雪電線のスペーサーを巻付けたアルミ導体部の外径は約34.3mmφであった。
【0042】得られた融雪電線の形状は、磁性線材を架空電線に固定してスペーサーを用いないものの、横断面図及び側面図を図2イ、ロにそれぞれ示す。Al層1を被覆したインバー線2のインバー撚線3の外周に、断面扇形の特別耐熱アルミ合金線4を3層に撚合わせて架空電線5を構成し、この架空電線5の外周に磁性線材6が巻付けられている。磁性線材6には電食防止の為Al材層8が被覆されている。架空電線5と磁性線材6とはシーム溶接されている。スペーサーを用いたものの形状は図1と同じである。
【0043】前記磁性線材を巻付けた融雪電線について、塩水噴霧試験を行って耐食性を調査した。又融雪電線に91A通電時(電線表面磁界10 Oe)の送電線1mあたりの発熱量、及び許容最大電流の2300A通電時の電線温度を測定した。結果を表4〜表5に示す。
【0044】
【表4】


【0045】
【表5】


【0046】表4より明らかなように、本発明例品(No.26〜45) は、磁性線材のアルミ被覆厚さが20μm以上なので3000時間の塩水噴霧試験に耐えられた。本発明例品(No.26〜45) はいずれも、91A通電時の発熱量が、比較例品(No.43〜61) に較べて高い。電線No.34 〜36から判るように、残留させる引張応力が大きい程発熱量が増大する。特にB10が低い合金k,l,mの磁性線材を用い、引張応力を残留させない比較例品47,48,49の発熱量は低いが、引張応力を残留させた本発明の融雪電線(No.27,28,29) の発熱量は著しく改善されている。その他の本発明の磁性合金でも張力をかけることにより発熱量が改善されている。尚、毎時5mmの降雪量(降水量換算値)における完全融雪に必要な発熱量は15.9w/m、部分融雪に必要な発熱量は12.5w/mである。
【0047】本発明例品の2300A通電時の電線温度は、磁性線材を巻付けないものの温度(No.61, 230℃) を下回った。本発明で用いた磁性線材は、hを除いていずれもキュリー温度が 230℃より高いものであり、2300A通電時には、かなり発熱するのであるが、自らのフィン冷却効果により発熱が抑えられた。このことから、キュリー温度の低い磁性線材を使用しなくても、磁性線材にフィン冷却効果を持たせることにより、最大許容電流通電下で、電線温度の上昇を十分抑えられることが判る。2300A 通電時の電線温度はスペーサーのないNo.30 が、No.33,34に較べて213℃と比較的低くなっている。スペーサーを用いた中では、厚さの厚いNo.33の温度上昇が大きい。
【0048】Fe-50%Ni合金の鉄を3%Crと1%Siで置換した合金nを用い、引張応力を残留させたNo.31,32は完全融雪効果が得られる。引張応力を残留させない場合は表5のNo.56,57から判る通り部分融雪効果も得られない。合金nの電線温度上昇は比較的低いが、これはキュリー温度が低い為である。
【0049】比較例で張力をかけた融雪電線(電線No.58,59) は、Niの含有量が請求項2の発明のNi含有量を外れた為、十分な融雪効果が得られる発熱量が得られなかった。又純鉄の磁性線材に張力をかけた融雪電線(電線No.60)の発熱量は低下した、これは純鉄の磁歪が負の為である。
【0050】
【効果】以上述べたように、本発明の融雪電線は、架空電線に磁性線材を螺旋状に巻付けたもので、磁性線材に、低磁界における渦電流発熱の大きい磁性線材を用いているので低電流通電時にも高い融雪効果を有し、又金車通過時の磁性線材のずれを磁性線材間にスペーサーを介在させて防止し、又磁性線材の高磁界における過度の発熱を前記磁性線材をスペーサーより突出させそのフィン冷却効果により抑え、又磁性線材にアルミ材を被覆して架空電線との電食を防止したものである。又架空電線に磁性線材を引張応力を残留させて巻付けることにより、低磁界における渦電流発熱を向上させ、更に引張応力の残留を、磁性線材を架空電線に固定して行うことにより金車通過時の磁性線材のズレを防止したものである。依って、工業上顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の融雪電線の実施例を示す横断面図及び側面図である。
【図2】本発明の融雪電線の他の実施例を示す横断面図及び側面図である。
【符号の説明】
1 Al被覆層
2 インバー線
3 アルミ被覆インバー線の撚線
4 断面扇形の特別耐熱アルミ合金線
5 架空電線
6 磁性線材
7 スペーサー
8 Al材層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 アルミ架空電線の最外層に、磁性線材が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、磁性線材が、Niを40〜60wt%含有し残部Feからなる合金磁性線材であり、前記磁性線材にアルミ材が10〜60μmの厚さ被覆されており、前記螺旋状に巻付けられたアルミ材被覆磁性線材の間隙に、アルミ線材が、前記アルミ材被覆磁性線材の間隔を一定に保持するスペーサーとして巻付けられており、前記アルミ材被覆磁性線材が、前記アルミ線材巻付け体から突出していることを特徴とする融雪電線。
【請求項2】 アルミ架空電線の最外層に、磁性線材が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、磁性線材が、Niを40〜60wt%含有し残部Feからなる合金磁性線材であり、前記磁性線材に亜鉛材が10〜60μmの厚さ被覆されており、前記螺旋状に巻付けられたアルミ材被覆磁性線材の間隙に、アルミ線材が、前記アルミ材被覆磁性線材の間隔を一定に保持するスペーサーとして巻付けられており、前記アルミ材被覆磁性線材が、前記アルミ線材巻付け体から突出していることを特徴とする融雪電線。
【請求項3】 アルミ架空電線の最外層に、磁性線材が螺旋状に巻付けられた融雪電線において、磁性線材が、Niを3〜28wt%又は35〜65wt%、Coを0〜10wt%未満、Alを0〜9wt%、Siを0〜7.5 wt%、Vを0〜4wt%、Crを0〜9wt%含有し残部Feからなる合金、又はNiを3〜60wt%、Coを10wt%〜65wt%、Alを0〜9wt%、Siを0〜7.5 wt%、Vを0〜4wt%、Crを0〜9wt%含有し残部Feからなる合金のいずれかからなり、前記磁性線材の表面に10〜120 μm厚さのAl、Al合金、Zn、又はZn合金のいずれかの金属が被覆されており、前記金属被覆磁性線材に、送電中引張応力が残留するように巻付けられていることを特徴とする融雪電線。
【請求項4】 螺旋状に巻付けた磁性線材の間隙にアルミ線条体をスペーサーとして、前記金属被覆磁性線材の高さ未満に巻付けたことを特徴とする請求項3記載の融雪電線。
【請求項5】 螺旋状に巻付けた磁性線材の間隙にアルミ線条体をスペーサーとして、前記金属被覆磁性線材の高さの半分以下の高さに巻付けたことを特徴とする請求項1乃至請求項4記載の融雪電線。
【請求項6】 磁性線材の断面が長方形、正方形、又は扇形であることを特徴とする請求項1乃至請求項5記載の融雪電線。
【請求項7】 架空電線の所要部分のみに磁性線材、又は磁性線材とスペーサーを巻付けたことを特徴とする請求項1及至請求項6記載の融雪電線。

【図1】
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【図2】
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