説明

螺子転造ダイス

【課題】高品質の二重螺子構成の転造ボルトを転造でき、転造時のびびり振動、寿命低下の発生を防止し、耐久性を向上させた螺子転造ダイスを提供する。
【解決手段】螺子転造ダイス31は、並目螺子を展開した並目螺子の山部Aと、細目螺子を展開した細目螺子山Bと前記並目螺子の山部との位相ずれに応じて前記並目螺子の谷部に周期的に形成された前記細目螺子山に対応する突起とを備えた螺子転造ダイスであって、前記螺子転造ダイスの並目螺子山の谷部分、及び前記細目螺子山の山部の両側に形成される二つの谷部の小谷部40側を、細目螺子山の山頂部の高さに合わせた平面または円筒面39とした突起であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緩み防止機能を有するボルトの製造に用いられる螺子転造ダイスに関する。更に詳しくは、二重螺子構成の転造ボルトを転造する螺子転造ダイスにおいて、高品質の転造ボルトを容易に転造でき、転造時のびびり振動の発生、寿命低下の発生等を防止して耐久性を向上させることができる螺子転造ダイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、緩み防止機能を有する種々のボルト、及びその製造方法とそれに使用されるダイス等が研究、開発されその結果が種々開示されている。例えば、ボルト軸部の先端部から所定位置まで形成されたねじに関する規格で定められた標準的なピッチPの並目螺子部と、少なくともボルト軸部の並目螺子部の全長もしくは先端部から並目螺子部の所定位置まで並目螺子部に重ねて形成された標準的なピッチより小さいピッチp(p=P/n、nは2以上の整数)の細目螺子部とを備えるボルト構成が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このボルトは、ボルトの並目螺子部に並目ナットを螺合させた後、細目螺子部に細目ナットを、並目ナットに重ねて螺合させて、ボルト及び両ナット間を締結させることができるものである。この際、細目ナットと並目ナットのピッチが異なるので、両者が一体になって同一方向に回転すると、両ナット間の接触面に反発力が働き、並目ナットが緩み方向に回転するのを防止することができる。
【0004】
又、本発明者らは、螺子転造ダイスのうち少なくとも1つが並目螺子を展開した並目螺子山の山部と、並目螺子山の谷部に並目螺子と同一方向のつる巻き線を持ち並目螺子よりもピッチの小さい細目螺子(但し、並目螺子と細目螺子のピッチの比はa対bであり、aとbは、最小の整数比である。)を、その谷底が並目螺子山の谷底よりも高い位置となるように展開したときに並目螺子山との位相ずれに応じて並目螺子山のb巻きごとに、周期的に現れる細目螺子山に対応する突起とを有するボルトを提案した(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
更にこれに関する螺子転造ダイスの製造方法も開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第3770320号公報
【特許文献2】特許第3546211号公報
【特許文献3】特許第3534117号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に螺子転造ダイスは、螺子転造ダイス材料に、切削加工、研削加工、放電加工、ミーリング加工等を施し螺子部を形成し製造されている。この螺子転造ダイスで、丸棒状のボルト素材に押圧し転造しながらボルトが製作されている。この螺子転造ダイスを用いて、ボルトを大量に且つ短時間に製作する方法が一般的である。従って、螺子転造ダイス側の形状は、ナットの螺子に準じた形状に形成されている。緩み防止機能を有するボルトは、例えば、前述のとおり、並目螺子と細目螺子の設けられた二重螺子ボルト構造である。
【0007】
この螺子転造ダイスで転造する際は、丸棒状のボルト素材に徐々に押圧し、丸棒状のボルト素材の外周面を徐々に変形させて所望の螺子形状にする。螺子転造ダイス側は、前述したようにボルトの螺子部に相当するナット形状の螺子部を構成している。従って、並目螺子と細目螺子の二重螺子ボルトであれば、螺子転造ダイスの螺子形状も並目螺子と細目螺子の両方の形状を有するものとなっている。
【0008】
螺子転造ダイスの周期的に変化する溝の深さは、並目螺子山の谷底の位置と突起を形成するために展開した細目螺子の細目螺子山の谷底の位置とが互いに最もよく重なり合う部分で最も深く、両者の位置が最もずれている部分で最も浅くなっている。このため、従来の螺子転造ダイスで二重螺子ボルトを転造する場合、各角度位置における断面である溝部の断面積が異なるため、各断面における溝部への材料充填率に差が生じる。すなわち、溝部の断面積の小さい部位から順に充填し、溝部の断面積の大きい部位が最後に充填される。特に加工終期においては、溝部への材料の充填率が高いため、余剰材料の逃げ場がなくなる。
【0009】
この結果、転造加工を行う場合、びびり振動、騒音等の原因となるおそれがあった。また、このびびり振動の程度によっては、精度不良を引き起こし、工具寿命を著しく縮め、製造装置にも悪影響を及ぼす可能性が生じるおそれがあった。
【0010】
また、螺子転造ダイスによる転造は、螺子部が均等に押圧されてボルト素材が変形するようにし、螺子転造ダイスに、部分的に偏った負荷がかからないようにするのが理想である。言い換えると、螺子転造ダイスに対して、ボルト素材の接触部分は転造部分のどこの回転角度位置であっても、均等な肉盛状態になり変形させていくことが理想である。
【0011】
螺子転造ダイスの螺子部を通常のナットの形状に合わせると、螺子転造ダイスにおいて、並目螺子に対する細目螺子の山谷の形状が細かくなり部分的に断面積が小さい小凸部が生じ、又、浅い谷部も螺子転造ダイス側に形成されることになる。即ち、螺子の転造が並目螺子部から、徐々に細目螺子部に差し掛かる最終段階においては、細目螺子山の山部の一部であるこの転造螺子ダイスの小凸部が、ボルトの転造の際ボルト素材に食い込み、続いて谷部が肉盛状態となりボルトの螺子部を形成する。
【0012】
この谷部による肉盛成形は広い部位から狭い部位へと肉盛が徐々に進行し、更に細目螺子部に達すると、食い込みと同時にこの小凸部の両側に形成される谷部に肉盛り部が分断され転造が進行する。この転造の進行とともに押圧力が増し、最終的に谷部に肉盛り部が満たされ、過転造により押し込む形でボルト形状を整えている。このボルトの転造の際、最初に転造されて目標とする最終的な形状部分と、最後に転造され目標となる形状部分とが時間差が発生する。このために塑性流動が大きくなる部分、即ち過転造される部分が発生することになる。
【0013】
このように塑性流動による負荷変動が激しいので、螺子転造ダイスの弱い部分は特に損傷がひどく、この螺子転造において螺子転造ダイスを損傷させるおそれが生じた。また、螺子転造ダイスが損傷すると、新しい螺子転造ダイスとの交換を行う必要がある。言い換えると、螺子転造ダイス交換に伴なう作業効率、生産性の低下を招くとともに、ボルト製造価格のコストアップ要因になってしまう。
【0014】
本発明は、以上のような従来技術の問題点を解決するために創案されたもので、次の目的を達成する。
【0015】
本発明の目的は、転造を行う際、各角度位置における溝部へ充填される充填量の均等化を向上させることができる螺子転造ダイスを提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、転造に伴なう負荷を均等化させ、螺子転造ダイスの剛性、耐久性を向上させることができる螺子転造ダイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、前記目的を達成するために次の手段をとる。
本発明1の螺子転造ダイスは、
並目螺子を展開した並目螺子の山部と、細目螺子を展開した細目螺子山と前記並目螺子の山部との位相ずれに応じて前記並目螺子の谷部に周期的に形成された前記細目螺子山に対応する突起とを備えた螺子転造ダイスであって、前記突起は、前記螺子転造ダイスの並目螺子山の谷部分に形成され、かつ、前記細目螺子山の山部の両側に形成される二つの谷部のうち、所定の範囲内における小谷部側を、前記細目螺子山の山頂部の高さに合わせた平面または円筒面を有する突起であることを特徴とする。
【0018】
本発明2の螺子転造ダイスは、本発明1において、
前記螺子転造ダイスは丸ダイスであり、前記突起は、所定の範囲内を、前記細目螺子山の山頂部の高さに合わせた前記螺子転造ダイスの回転中心線を中心とする円筒面とした突起であることを特徴とする。
【0019】
本発明3の螺子転造ダイスは、本発明1において、
前記螺子転造ダイスは平ダイスであり、前記突起は、所定の範囲内を、前記細目螺子山の山頂部の高さに合わせた前記平面とした突起であることを特徴とする。
【0020】
本発明4の螺子転造ダイスは、本発明2または3において、
前記突起と前記並目螺子山とは、連続面を形成するように接合されていることを特徴とする。
【0021】
本発明5の螺子転造ダイスは、本発明2または3において、
前記突起は、前記細目螺子山の山部両側に形成される谷部のうち小谷部側を前記細目螺子山の山頂部の高さに合わせた平坦部となるように形成されたものであることを特徴とする。
【0022】
本発明6の螺子転造ダイスは、本発明5において、
前記平坦部と前記並目螺子山との境界部は、断面形状が円弧形状であることを特徴とする。
【0023】
本発明7の螺子転造ダイスは、
並目螺子を展開した並目螺子の山部と、細目螺子を展開した細目螺子山と前記並目螺子の山との位相ずれに応じて前記並目螺子の谷部に周期的に形成された前記細目螺子山に対応する突起とを備えた螺子転造ダイスであって、螺子転造ダイス材料に、並目螺子山に対応する山頂部を平坦にした形状を有する第1の除肉工具を、前記細目螺子山に対応する突起の最大高さ以下の位置まで送り込み、前記螺子転造ダイス材料の一部分を除肉することにより、前記螺子転造ダイス上の並目螺子山の山部が形成され、前記除肉後の螺子転造ダイス材料に、細目螺子山の形状を有する第2の除肉工具を、前記螺子転造ダイス上の並目螺子山の山部分の谷部から前記細目螺子山に対応する突起の形状に合わせて送り込み、前記螺子転造ダイス材料を除肉することにより、前記螺子転造ダイスの細目螺子山の谷部分、及び前記細目螺子山の山部両側に形成される谷部のうち小谷部側を前記細目螺子山の山頂部の高さに合わせて平坦になる突起が形成されたことを特徴とする。
【0024】
本発明8の螺子転造ダイスは、本発明7において、
前記細目螺子山の前記突起は、前記第1の除肉工具で一部分が除肉された前記螺子転造ダイス材料に、前記第2の除肉工具の先端形状より大きい半径の先端形状に形成された第3の除肉工具により所定の角度範囲内の細目螺子山の谷部分が形成された後、前記第2の除肉工具により残りの角度範囲内の前記細目螺子山の谷部分、及び、前記突起が形成されたものであることを特徴とする。
【0025】
本発明9の螺子転造ダイスは、本発明7または8において、
前記第2の除肉工具、及び、前記第3の除肉工具による加工は、前記螺子転造ダイスの軸線の周り方向、前記軸線と平行な方向、及び、前記軸線と直交する方向の位置及び速度を同期制御し、前記螺子転造ダイス材料を除肉する切削加工であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように、本発明の螺子転造ダイスは、転造加工を行う際、各角度位置における溝部へ充填される充填量の均等化の向上を図ることができる。このことにより、転造加工を行う場合のびびり振動、騒音等を発生させない。また、このびびり振動のよって精度不良を引き起こし、工具寿命を著しく縮め、製造装置にも悪影響を及ぼすことがない。
【0027】
また、本発明の螺子転造ダイスは、転造に伴う負荷を均等化させるようにし、バランスのとれた状態で、剛性、耐久性を向上させた螺子転造ダイスを製造することができる。並目螺子山に細目螺子山を設けるとき、小谷部を螺子転造ダイスに形成しないようにして、塑性加工量を均一化するために突起部の断面形状を円弧、及び/又は直線形状にした。このような構成にしたことで、螺子転造ダイスの螺子部は、剛性が高く、耐久性の向上した螺子転造ダイスとなった。このことにより、転造の際、螺子部を損傷させる等のトラブルを防止でき、かつ螺子転造ダイスの高寿命化が図れ、螺子転造ダイスを交換することなく転造加工できる時間も長くなり、作業効率を高めることができるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の螺子転造ダイスの実施の形態を、図に基づいて、詳細に説明する。図1は、本発明に関する二重螺子構成の転造ボルト(以下、二重螺子ボルトと記載する)の製造装置の基本構成を示す概念図であって、丸ダイスである螺子転造ダイスで製造する製造装置である。図2は、図1に示される螺子転造ダイス(丸ダイス)の外観図である。これらの図に示されるように、二重螺子ボルトの製造装置は、所定間隔で対向配置した一対の螺子転造ダイス1と、丸棒状のボルト素材(以下、「ワーク」という。)3を所定位置で支持するワーク支持部(ワークレスト)2とで構成されている。
【0029】
又、図2に示した螺子転造ダイス(丸ダイス)1は、円筒形状のダイスの外周に、二重螺子ボルト形成用のための螺旋状の凹凸である転写パターン4が形成されている。この転写パターン4は、二重螺子ボルトにねじ込まれるナット形状に準じた螺旋形状のものである。螺子転造ダイス1に関する基本的な技術、構成は、特許文献2、3に詳細に説明されているが、本実施の形態の理解を容易にするために、その前提となる二重螺子ボルトを転造加工で製造する螺子転造ダイス1の構成について説明する。
【0030】
図3は、螺子転造ダイス1の外周の展開図で、転写パターン4を平面的に模式的に展開している。外周の二重螺子構成の異なる角度位置の部位を、二重螺子ボルト一周の転写パターン4に沿い、A〜Fの6分割で示し、その各部位A〜Fに相当する断面図を図4の(A)〜(F)に示している。従って、図4の(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、及び(F)は、各々、図3のA−A断面図、B−B断面図、C−C断面図、D−D断面図、E−E断面図、F−F断面図に相当する。
【0031】
図3に示すように、螺子転造ダイス1の外周には、製造する二重螺子ボルトに対応する螺子転造ダイス1の転写パターン4の螺子形状が形成され、螺子転造ダイス1の一周分は二重螺子ボルトの16周分に相当する。従って、螺子転造ダイス1の外周において、角度位置の22.5度分が二重螺子ボルトの一周分になり、それに合致する転写パターン4が形成されている。図3の各部位はその6分割になり角度3.75°間隔に設けられたものである。
【0032】
図4に示すように、螺子転造ダイス1の転写パターン4は、並目螺子を円筒状のダイスの外周面(表面)に展開した基準の螺子山となる並目螺子山の一部(以下、「並目螺子山部」という。)5と、この並目螺子山部の谷部5aに周期的(一定ピッチ)に形成された付加的な突起6とにより構成されている。突起6は、展開した並目螺子山部の元の並目螺子と同一方向のつる巻き線を持ち、並目螺子よりもピッチの小さい細目螺子を展開した細目螺子山(図4に想像線6aで示す。)と、並目螺子山部との位相ずれ7に応じて周期的な形状に形成されたものである。並目螺子山部はねじに関する規格で定められた標準的なピッチPの並目螺子が形成されたものであるとよい。
【0033】
ここで、並目螺子と細目螺子のピッチの比をa対b(但しaとbは最小の整数比であり、図4の図示例では2対1としている。)とすると、突起6は、細目螺子を展開したときに並目螺子山部との位相ずれに応じて、並目螺子山部のb巻き(図示例では1巻き)ごとに、周期的に現れる細目螺子山の一部となる。図4に示すように、想像線6aで示す細目螺子山は、並目螺子山との位相ずれ7によって、この並目螺子山から突出した部分が、付加的な突起6として並目螺子山部の谷部5aに現れている。
【0034】
即ち、突起6は、細目螺子山そのものではなく、位相ずれ7に応じてずれた分だけ細目螺子山の想像線6aに対応するように、並目螺子山5に対して付加的に突出させた突起である。並目螺子山5の断面は、螺子転造ダイス1の表面に現れている細目螺子山の一部(突起6の表面)を除く部分である。
【0035】
〔螺子転造ダイスの製造方法1〕
螺子転造ダイス1の製造方法1について説明する。図5は、螺子転造ダイス1の製造工程の概要を示すフローチャートである。図6(a)は、螺子転造ダイス1の製造に用いる第1の切削工具20を示す平面図、図6(b)は、第2の切削工具25を示す平面図、図6(c)は第3の切削工具125を示す平面図である。
【0036】
図7は、本実施の形態における螺子転造ダイス1に形成されている並目螺子山の加工工程を説明するための説明図である。図8は、突起の加工工程を説明するための説明図である。まず、螺子転造ダイス1の螺子山を切削加工(除肉加工)するための切削工具(除肉工具)について説明する。図6(a)に示すように、第1の切削工具20は、その先端部(並目螺子山形状21の山頂部)22を平坦にするとともに、先端の両角部が丸みR1に形成された略台形状をしたバイトである。なお、図6(a)において、想像線23は通常の螺子転造ダイスに、並目螺子山を形成する際に用いられるバイトの形状を示す線である。想像線23によって示すように、本実施の形態における第1の切削工具20は、通常の並目螺子山の形状を有するバイトの先端部を、所要形状(平坦)に切り欠いたものに相当するものである。
【0037】
図6(b)に示す第2の切削工具25は、細目螺子山に相当する形状を有するバイトであり、先端部27には丸みR2が形成されている。すなわち、この第2の切削工具25の先端部(細目螺子山形状26の山頂部)27は、平面視で、円弧、又は曲線(平面視)に形成されているとよく、この実施の形態では、先端部に刃先の丸みR2が形成されている。図6(c)に示す第3の切削工具125は第2の切削工具25の丸みR2より大きい丸みR3が先端部(細目螺子山形状126の山頂部)127に形成されたバイトである。
【0038】
図5に示すように、螺子転造ダイス1の製造に際して、まず、素材としての螺子転造ダイス材料30(図7参照)の旋削工程を行い(ステップS11)、続いて並目螺子山加工工程(ステップS12)及び突起(細目螺子山に相当)加工工程(ステップS13)を行う。
【0039】
ステップS12の並目螺子山加工工程では、第1の切削工具20を用いる。図7に示すように、並目螺子山加工工程では、主軸(図示せず)前端のチャックに把持等され主軸側に固定された螺子転造ダイス材料30を所定の回転速度(回転数)で回転させるとともに、螺子転造ダイス材料30に、第1の切削工具20を、図7のX軸方向(主軸軸線と直交する方向)に、「突起の最大高さの位置」または「突起の最大高さ以下の位置」まで送り込み、並目螺子山のピッチで図7のZ軸方向(主軸軸線と平行な方向)に第1の切削工具20を移動させる。すなわち、螺子転造ダイス材料30に第1の切削工具20による旋削加工が施される。このとき、主軸の軸線の周り方向とZ軸方向とは同期をとった制御がされる。すなわち、主軸1回転に対して第1の切削工具20がZ軸方向に並目螺子山の1ピッチ分移動するように同期制御される。この第1の切削工具20による加工で、螺子転造ダイス材料30の一部分を切削する。これにより、螺子転造ダイス材料30に並目螺子山部5が形成される。
【0040】
ステップS13の突起加工工程では、第2の切削工具25を用いる。図8(a)〜(h)に示すように、突起加工工程では、螺子転造ダイス材料30を所定の回転速度(回転数)で回転させるとともに、並目螺子山加工工程において切削した後の螺子転造ダイス材料30に、第2の切削工具25を、X軸方向(主軸軸線と直交する方向)、Z軸方向(主軸軸線と平行な方向)に移動させて、並目螺子山部5の一部分の谷部5aから、細目螺子山の谷部及び突起6等の加工を行う。すなわち、主軸の軸線の周り方向、X軸方向、Z軸方向の3軸を同期をとった同時制御することで、所望の形状の螺子転造ダイスの螺子山を製造することができる。言い換えると、螺子転造ダイス材料30に、第2の切削工具25による複合旋削加工が施される。
【0041】
このような制御を行うことにより、螺子転造ダイス材料30に細目螺子山の谷部及び突起6が形成される。この切削過程を図示すると、図8のようになる。
図8(a)〜(h)は、主軸軸線の周り方向の45°毎の第2の切削工具25と、螺子転造ダイス材料30の加工状態(細目螺子山の谷部と突起等の加工状態)との関係を断面図として示した図である。図8では、細目螺子山を二点鎖線で図示している。また、説明の都合上、図8は、(a)の状態を0°とし、順次、(b)が45°、(C)が90°・・(h)が315°のように図示されている。
【0042】
このような第1の切削工具20、第2の切削工具25による加工は、NC(数値制御)旋盤、NC複合旋盤、ターニングセンタ等と呼ばれている工作機械によって施すとよい。すなわち、NC装置、CNC(コンピュータ数値制御)装置等の制御機能を使い、主軸軸線の周り方向、X軸方向(主軸軸線と直交する方向)、Z軸方向(主軸軸線と平行な方向)の3軸を同時に制御することで加工することができる。また、この加工に使用するNCプログラムは、自動プログラミング等と呼ばれている機能を使用すると容易にプログラムすることができてよい。
【0043】
その後、(1)焼き入れ、(2)焼き戻しの熱処理工程(ステップS14)を行う(図5参照)。これにより、図4に示す断面形状を有した螺子転造ダイス1が得られる。
【0044】
なお、図4(A)〜(F)の断面図に示す例では、基準となる並目螺子山の谷部5aの谷底5bと、突起6に対応させた細目螺子山の想像線6aの谷底6bとの位置を一致させているが、これに限るものではない。
【0045】
このような製造方法1で螺子転造ダイス1(31)を製造すると、従来の方法で製造された螺子転造ダイスにおいて部位90°近傍から270°近傍の領域(例えば、部位90°近傍の領域、部位270°近傍の領域等)に現れる細目螺子山の浅い方の溝を取り除くことができる。すなわち、この螺子転造ダイス1は、転造時にその部分に発生する応力集中を緩和することができる。
【0046】
〔螺子転造ダイスの製造方法2〕
この製造方法2は、前述した製造方法1と、突起加工工程S13が異なるのみであるので、その工程を中心に説明を行う。すなわち、第1の切削工具20による並目螺子山の切削加工と、第2の切削工具25による切削加工の間に、第3の切削工具125による切削加工を行い、所定の角度範囲における細目螺子山の谷部の加工の一部を行う。
【0047】
図9(a)〜(h)に示すように、製造方法2による突起加工工程では、螺子転造ダイス材料30を所定の回転速度(回転数)で回転させるとともに、並目螺子山加工工程において切削した後の螺子転造ダイス材料30に、第3の切削工具125、第2の切削工具25を、X軸方向(主軸軸線と直交する方向)、Z軸方向(主軸軸線と平行な方向)に移動させて、並目螺子山部5の一部分の谷部5aから、細目螺子山部の谷部及び突起6等の加工を行う。すなわち、主軸の軸線の周り方向、X軸方向、Z軸方向の3軸を同期をとった同時制御することで、所望の形状の螺子転造ダイスの螺子山を製造することができる。言い換えると、螺子転造ダイス材料30に、第2の切削工具25、第3の切削工具125による複合旋削加工が施される。これにより、螺子転造ダイス材料30に細目螺子山の谷部及び突起6が形成される。
【0048】
図9(a)〜(h)は、主軸軸線の周り方向の45°毎の第2の切削工具25、第3の切削工具125と、螺子転造ダイス材料30の加工状態(細目螺子山の谷部と突起等の加工状態)との関係を断面図として示した図である。なお、図9では、細目螺子山を二点鎖線で図示している。また、説明の都合上、図9(a)の状態を0°とし、順次、(b)が45°、(c)が90°・・(h)が315°のように図示されている。
細目螺子山の谷部に相当する溝輪郭は、まず刃先の丸みR3(≧R2)の第3の切削工具125により、細目の溝輪郭に合わせて加工する。この場合、部位0°から部位90°、部位270°から部位360°の領域は細目の溝深さを一定とし、部位90°から部位270°の領域は細目の溝輪郭に合わせて徐々に浅くなるように加工する。
【0049】
次に、部位90°から部位270°の領域の細目溝を刃先の丸みR2(≦R3)の第2の切削工具25により細目の溝輪郭に合わせて加工する。さらに、部位90°近傍の領域、部位270°近傍の領域等に現れる細目の浅い方の溝を取り除くように加工する。このように、第2の切削工具25、第3の切削工具125により、螺子転造ダイス材料30に細目螺子山の谷部及び突起6を形成する。
【0050】
このような製造方法2で螺子転造ダイス1(31A)を製造すると、従来の方法で製造された螺子転造ダイスにおいて部位90°近傍から270°近傍の領域(例えば、部位90°近傍の領域、部位270°近傍の領域等)に現れる細目螺子山の浅い方の溝を取り除くことができる。すなわち、この螺子転造ダイス1は、転造時にその部分に発生する応力集中を緩和することができる。
さらに、螺子転造ダイス1の各角度位置での溝部の断面積の差は、従来の製造方法で製造された螺子転造ダイスより縮小させることができる。
【0051】
〔二重螺子ボルトの製造〕
前述した二重螺子ボルトの製造装置を用いて二重螺子ボルトを製造する方法について説明する。図1に図示したように、丸棒状のボルト素材であるワーク3をワーク支持部2上に配置し、このワーク3を一対の螺子転造ダイス1間に押圧させ、一対の螺子転造ダイス1をそれぞれ同一方向に回転させる。これにより、ワーク3の外周表面に並目螺子山及び細目螺子山の一部が一工程で同時に転造され、並目螺子部と細目螺子部の一部とが形成された二重螺子ボルトが得られる。
【0052】
得られた二重螺子ボルトの外周表面には、図4の螺子転造ダイス1の転写パターン4の逆パターンの螺子形状が形成される。この二重螺子ボルトは、従来の加工方法により形成された二重螺子ボルトと同様、並目螺子山が形成されたうえで、細目螺子山が形成された状態のものとなる。従って、転造加工された二重螺子ボルトには並目螺子ナットと細目螺子ナットとをねじ込むことができる。
【0053】
尚、二重螺子ボルトは、この二重螺子ボルトの並目螺子山の谷部に並目螺子ナットの並目螺子山の山部をねじ込むことができるものであり、この二重螺子ボルトの並目螺子山の山部に形成された細目螺子山の谷部に、細目螺子ナットの細目螺子の山部をねじ込むことができるものである。そのため、並目螺子山の山頂の半径方向位置と細目螺子山の山頂の半径方向位置とが常に一致するように形成するのが一般的である。
【0054】
このような二重螺子ボルトを製造するための螺子転造ダイス1の突起は、細目螺子を展開したときの谷底の位置が並目螺子山の谷底の位置と一致するように細目螺子を展開し、並目螺子山との位相ずれに応じて並目螺子山のb巻きごとに周期的に現れる細目螺子山の一部からなる。このような突起を有する螺子転造ダイスの構造、製造については、特許文献2、3に記載されているので詳細な説明を省略する。
【0055】
次に、本実施の形態の螺子転造ダイスの構成の中で、特徴部分について説明する。図10、11は、製造方法1、2で製造された螺子転造ダイス31、31Aであり、図4に相当する螺子転造ダイス31、31Aの断面図である。二重螺子ボルトに相当する一周分の部位を8分割し、異なる角度で180°範囲までの転写パターン32を部位0°、45°、90°、135°、180°の角度位置で示した断面図である。
【0056】
図10は、並目螺子山と平坦部(断面形状において)との間の角部のR形状33が小さい場合の断面図で、図11は、R形状33が大きい場合の断面図である。図12は、図10、図11に準じた螺子転造ダイス31、31Aの表面螺子部の展開図であり、前述した図3に相当する。この展開図は、螺子転造ダイスの所定の範囲を示している。図10、図11は、二重螺子ボルトの0°から180°の各角度位置の螺子転造ダイスの断面図であるが、図12は、二重螺子ボルト一周分である360°を超える範囲を示している。
【0057】
又、図12の展開図で理解されるように、螺子転造ダイスの各部位225°、270°、315°の角度位置において、部位225°は部位135°の場合の勝手違いの形状パターンであり、部位270°は部位90°の場合の勝手違いの形状パターンであり、部位315°は部位45°の場合の勝手違いの形状パターンである。図12において、符号34は、螺子転造ダイス31に形成された図10、11の断面図における谷部に相当する部位34を示し、符号35は、螺子転造ダイス31に形成された図10、11の断面図における平坦部39に相当する部位を示している。なお、図12の想像線36は、理解を容易にするため、部位34の谷部の断面形状を仮想的に各角度毎に便宜的に示したものである。
【0058】
図18は、従来の螺子転造ダイスの表面螺子部の展開図である。図18は、図12との比較のため示すものであるが、従来は細目螺子山の山部両側に、谷部が形成される。図18の部位34aは、図12の部位34に相当するものであり、図18の想像線36aは、図12の想像線36に相当するものである。図18において、例えば、部位135°の角度位置では、大谷部37、小谷部38が形成される。大谷部37と小谷部38との間の突起部は、上部に、平坦部(円筒面)が設けられていない構成である。
【0059】
これは、図4の転写パターン4においても類似構成として示されているとおりである。これに対して本実施の形態の場合は、図10〜図12に示すように、細目螺子山A(6a)の山部両側に形成される谷部のうち、小谷部40側を細目螺子山Aの山部の山頂部の高さに合わせて平坦にしている。例えば、図10、図11に示す部位135°の角度位置の場合、図に示すパターンの並目螺子山B(5)との境界の部位が従来であると、二点鎖線で示す小谷部40(図18の小谷部38に相当)の形状になるべきところを図に示すように平坦部39にしている。
【0060】
この平坦部39は、図10、図11で示すように、部位135°から225°の角度位置において、前述したように小谷部40側に谷部を形成せず、突起側の上部を、即ち細目螺子山の山頂部を平坦形状としている。この平坦形状は、図12に示すように二重螺子ボルトの一周分にわたって、平坦部(断面視において)を設けた構成にしている。丸ダイスの場合、この平坦部(平坦形状)は、所定の範囲内における小谷部側を、細目螺子山の山頂部に合わせた円筒面となっている。
【0061】
図10、図11の断面図では、部位180°の角度位置以外、部位0°、45°、90°、135°の角度位置の全ての小谷部40側は、平坦形状としている。部位180°の角度位置の場合は、両谷部の大きさが同じであり両側に谷部が配置されている。又、部位180°の角度位置を挟んで、部位135°から225°の角度位置の範囲は、小谷部側をなだらかに傾斜させ、部位135°または部位135°近傍の角度位置、及び、部位225°または部位225°近傍の角度位置で平坦になるように傾斜させている。このように平坦にしたのは、螺子転造ダイス31、31Aの突起部分の剛性を高めるためであり、この部分の過転造を防ぐためのものである。この平坦にする構成は、他の螺子山についても同様である。
【0062】
従来は螺子転造ダイスに、並目螺子山Bとの間に細目螺子山Aを理論形状のまま形成したために、切り欠き状の小段差、小突起が生じていた。これは理論的に正確な形状ではあるが、転造する際にはワーク3側の材料変形に伴ない、螺子転造ダイスの小段差、小突起にアンバランスな力が加わることになる。このことは、この部分が変形、損傷、欠損等のトラブルの原因になっているということになる。この突起の上部を平坦にしたのは、前述の問題点を解消し、剛性を高めたことになる。次に本実施の形態による螺子転造ダイス31、31Aを使用して二重螺子ボルトを転造する場合の転造方法を説明する。
【0063】
図13、14は、図10〜図12の部位0°、90°、180°の角度位置における断面図で、転造過程の材料流動の状態の一例をイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、トの7段階に分けて示した図である。一対の螺子転造ダイス31、または、一対の螺子転造ダイス31Aを、同一方向に回転させながら互いの間の距離を狭めていったときの材料(ワーク3)の流動変化状態を模式的に示している。なお、図13は、螺子転造ダイス31でワーク3を転造している状態を示し、図14は、螺子転造ダイス31Aでワーク3を転造している状態を示している。
【0064】
図13イ〜ハ、図14イ〜ハに示すように、螺子転造ダイス31、31Aがワーク3に徐々に押し込まれるに従い、ワーク3はまず螺子転造ダイス31、31Aの並目螺子山Bの表面に沿って塑性変形しながら並目螺子山Bの谷部を埋めていく。このとき、螺子転造ダイス31、31Aの各角度位置での溝部の断面積の差は、従来の製造方法で製造された螺子転造ダイスより縮小させることができる。
【0065】
このように、各角度位置での溝部の断面積の差を小さくすることにより、転造加工を行う場合のびびり振動、騒音等の発生を最小限とすることができる。従って、このびびり振動による二重螺子ボルトの精度不良、螺子転造ダイスの工具寿命低下、製造装置への悪影響等の発生を抑えることができる。
【0066】
更に、図13ニ〜ト、図14ニ〜トに示すように、螺子転造ダイス31、31Aがワーク3に徐々に押し込まれ、細目螺子山A、並目螺子山Bの谷部を埋めていく。このとき、平坦部39の面(円筒面)等に沿って、変形しながら谷部を埋めていく。
なお、螺子転造ダイス31Aは、図14イ〜トに示すように、螺子転造ダイス31より、各角度位置での溝部の断面積の差を、さらに縮小させることができる。
【0067】
従来は、部位90°の場合、図19に示すように、螺子転造ダイス105がワーク107に徐々に押し込まれ、山部106の両側の大谷部106B、小谷部106Aを埋めていく場合、押圧力F1、F2が発生する。この押圧力F1、F2は、アンバランスな押圧力になるので、螺子転造ダイスの細目螺子山の山部106(図10、11の山部43に相当)は変形または欠損するおそれがあった。しかし、本実施の形態の部位90°の場合、山部43の一方の側にのみ谷部44が構成されており、谷部45は構成されていない。従って、螺子転造ダイス31、31Aの山部43を変形または欠損させる力は発生しないようにしている。
【0068】
本実施の形態の部位180°の場合、図10、11で示すように、凸状の細目螺子山Aの山部43の両側に2つの谷部44、45が構成されているが、その2つの谷部44、45にワーク3は塑性変形し押し込まれていく。
この押し込みは、塑性変形の最終端に当たり、過転造状態になり、強い押し込み力が発生する。2つの谷部44、45への螺子転造形態がアンバランスであると、前述したように螺子転造ダイス31、31Aの山部、即ち細目螺子山の山部43は弱い部位であり、異常な力が作用し、変形損傷してしまうことが多かった。これは不良品の発生の原因となり、螺子転造ダイス31、31Aも損傷等により交換しなければならないなど不具合が多かった。
【0069】
本発明の特徴はこの問題を解消するものである。すなわち、図10〜図12の部位90°、135の角度位置の例で示すように、細目螺子山Aの山部43両側に形成される谷部44、45のうち、小さいほう谷部(小谷部)45(40)に相当する側を細目螺子山Aの山部43の山頂高さに合わせほぼ平坦(円筒)になる突起にした。図10はこの平坦部と並目螺子山Bの山部との間の角部を比較的小さいR形状33にした場合を示し、図11は、角部を大きなR形状33に構成したものである。
【0070】
この部位を平坦(円筒)、及び/又は円弧面にしたことで、最終転造部は1つの谷部に集中して材料変形する。従って、1つの谷部のみに過転造状態を形成するので、従来のように2つの谷部による過転造のアンバランスな押し込み力の発生は防止できることになる。更に、転造時の回転角度位置による螺子転造ダイス31、31Aの押込み圧力、即ち、塑性加工時に螺子転造ダイス31、31Aへの材料からの反力を一定にすることができる。即ち、R形状33、及び平坦部39の形状を変えることにより、螺子転造ダイス31、31Aへの反力を一定の大きさにできる。
【0071】
言い換えると、材料の塑性流動量を一定にすることができる。このことにより、螺子転造はスムースに行うことができ、従来のように螺子転造ダイスが損傷し、その損傷した螺子転造ダイスの交換を頻繁に行う必要がなくなった。
【0072】
第2の切削工具25、第3の切削工具125による加工は、従来に比べ複雑形状になっているが、例えばNC(数値制御)工作機械、CNC(コンピュータ数値制御)工作機械を使用することで加工は容易にできるので加工上の困難さはない。図11は、平坦部の形状の立ち上がり部のR形状を大きくしたものである。このR形状のRを大きくすることで、転造に伴なう材料の塑性流動がこのR形状部を抵抗なくスムースに通過することになり、大きな転造負荷は避けられる例である。
【0073】
〔螺子転造ダイス(平ダイス)〕
二重螺子ボルトを製造するための螺子転造ダイスは、いわゆる平ダイスであってもよい。
図17は、二重螺子構成の転造ボルトの製造装置を模式化して示す概略図であって、平ダイスである螺子転造ダイスで製造する製造装置を示す。
二重螺子ボルトは、図17に示すように、平ダイスである螺子転造ダイス101、101で製造することができる。螺子転造ダイス101、101でワーク103を転造加工することで、二重螺子ボルトは製造される。この螺子転造ダイス101の転写パターン104は、図12の展開図に示す形状と同じ形状のものであり、螺子転造ダイス101の平面に形成されている。
【0074】
また、二重螺子ボルトの各角度位置に相当する断面形状も、図10、11に示す形状と同じものであり、詳細な説明を省略する。上下の螺子転造ダイス101、101を例えば矢印方向に平行に移動させることにより、二重螺子ボルトの製造を行える。
なお、平ダイスの場合、この平坦部(平坦形状)は、所定の範囲内における小谷部側を、細目螺子山の山頂部に合わせた平面となっている。
【0075】
図15、図16は、螺子転造ダイス31で製造された二重螺子ボルト50、及び、螺子転造ダイス31Aで製造された二重螺子ボルト50Aに細目螺子ナット47と並目螺子ナット48をねじ込んだ状態を示した図である。図15(a)は、螺子転造ダイス31(製造方法1)における部位0°の角度位置に相当する部位の状態、(b)は部位90°の角度位置に相当する部位の状態、(c)は部位180°の角度位置に相当する部位の状態を示している。図16(a)は、螺子転造ダイス31A(製造方法2)における部位0°の角度位置に相当する部位の状態、(b)は部位90°の角度位置に相当する部位の状態、(c)は部位180°の角度位置に相当する部位の状態を示している。
【0076】
二重螺子ボルト50は、並目螺子山53の谷部に、並目螺子である雌ねじが形成された並目ナット48の山部がねじ込まれる。細目螺子の細目螺子山52には、細目螺子である雌ねじが形成された細目ナット47がねじ込まれる。そして、細目ナット47と並目ナット48とはピッチが異なるので、両者が一体になって同一方向に回転すると、細目ナット47と並目ナット48との間の接触面に反発力が働き、並目ナット48が緩み方向に回転するのを防止することができる。また、小山部52Sは平坦部となっている。
【0077】
二重螺子ボルト50Aは、並目螺子山53aの谷部に、並目螺子である雌ねじが形成された並目ナット48の山部がねじ込まれる。細目螺子の細目螺子山52aには、細目螺子である雌ねじが形成された細目ナット47がねじ込まれる。そして、細目ナット47と並目ナット48とはピッチが異なるので、両者が一体になって同一方向に回転すると、細目ナット47と並目ナット48との間の接触面に反発力が働き、並目ナット48が緩み方向に回転するのを防止することができる。また、小山部52Sは平坦部となっている。この二重螺子ボルト50Aは、並目螺子山53aのフランクと平坦部51aとの角部51bが大きなR形状に構成されたものであり、他の部位は二重螺子ボルト50と同一のものである。
【0078】
図15、図16のようなねじ込み固定状態となることで、緩み防止機能を発揮することができる。
図示していない他の角度位置の相当する部位の状態も、突起を平坦にした構成により、ボルトの形状は変わり、ナットとのねじ込み関係に差は生じるが、緩み防止機能の面を有する点で問題が生じない。
【0079】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこの実施の形態で説明した内容に限定されることはない。本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内での変更が可能なことはいうまでもない。例えば、熱処理工程の後に、研削加工工程を行うようにし、螺子転造ダイスを製造してもよい。また、丸ダイス、平ダイスである螺子転造ダイスは、研削加工、ミーリング加工、放電加工等他の加工方法で加工されたものであってもよい。すなわち、除肉工具として、研削砥石、ミーリング工具、放電加工用電極等を使用して加工すればよい。また、除肉工具が研削砥石、ミーリング工具等回転工具の場合、螺子転造ダイスの軸線に対して、回転工具の軸線を、螺子のピッチに対応した所定の角度傾斜させるとよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、二重螺子構成の転造ボルトの製造装置を模式化して示す概略図であって、丸ダイスである螺子転造ダイスで製造する製造装置である。
【図2】図2は、図1の螺子転造ダイスを示す外観図である。
【図3】図3は、図2の螺子転造ダイスの外周の転写パターンの一部の平面展開図である。
【図4】図4は、図3に示す各部位の断面図で、(A)、(B)、(C)、(D)、(E)、(F)は、それぞれ、図3のA−A断面図、B−B断面図、C−C断面図、D−D断面図、E−E断面図、F−F断面図である。
【図5】図5は、螺子転造ダイスの製造工程を示すフローチャートである。
【図6】図6は、螺子転造ダイスを製造するための切削工具を示す部分平面図で、図6(a)は、第1の切削工具を示し、図6(b)は、第2の切削工具を示し、図6(c)は、第3の切削工具を示す。
【図7】図7は、螺子転造ダイスの並目螺子山を加工している加工状態を説明するための説明図である。
【図8】図8は、製造方法1において、螺子転造ダイスの突起部(細目螺子山)を加工している加工状態を説明するための説明図である。
【図9】図9は、製造方法2において、螺子転造ダイスの突起部(細目螺子山)を加工している加工状態を説明するための説明図である。
【図10】図10は、突起上部のR形状が小さい螺子転造ダイスの断面図で、各角度部位を段階的に示した図である。
【図11】図11は、突起上部のR形状が大きい螺子転造ダイスの断面図で、各角度部位を段階的に示した図である。
【図12】図12は、図10、図11に相当する螺子転造ダイスの展開図である。
【図13】図13は、製造方法1で加工された螺子転造ダイスにおいて、図10〜図12の部位0°、90°、180°の角度位置における溝部への充填状態をイ〜トの各段階で示した断面図である。
【図14】図14は、製造方法2で加工された螺子転造ダイスにおいて、図10〜図12の部位0°、90°、180°の角度位置における溝部への充填状態をイ〜トの各段階で示した断面図である。
【図15】図15は、製造方法1で加工された螺子転造ダイスで製造された螺子転造ボルトに細目螺子ナットと並目螺子ナットをねじ込んだ状態を示した断面図である。
【図16】図16は、製造方法2で加工された螺子転造ダイスで製造された螺子転造ボルトに細目螺子ナットと並目螺子ナットをねじ込んだ状態を示した断面図である。
【図17】図17は、二重螺子構成の転造ボルトの製造装置を模式化して示す概略図であって、平ダイスである螺子転造ダイスで製造する製造装置である。
【図18】図18は、従来の螺子転造ダイスの展開図である。
【図19】図19は、従来の螺子転造ダイスで螺子転造ボルトを転造している状態を示した部分断面図である。
【符号の説明】
【0081】
1、31、31A…螺子転造ダイス(丸ダイス)
2…ボルト支持部
3、103…ボルト素材(ワーク)
4、32…転写パターン
5…並目螺子山部
5a…谷部
5b…谷底
6…突起(細目螺子山)
6a…細目螺子山の想像線
6b…谷底
20…第1の切削工具
25…第2の切削工具
125…第3の切削工具
30…螺子転造ダイス材料
39…平坦部
101…螺子転造ダイス(平ダイス)
A…細目螺子山
B…並目螺子山


【特許請求の範囲】
【請求項1】
並目螺子を展開した並目螺子の山部と、細目螺子を展開した細目螺子山と前記並目螺子の山部との位相ずれに応じて前記並目螺子の谷部に周期的に形成された前記細目螺子山に対応する突起とを備えた螺子転造ダイスであって、
前記突起は、前記螺子転造ダイスの並目螺子山の谷部分に形成され、かつ、前記細目螺子山の山部の両側に形成される二つの谷部のうち、所定の範囲内における小谷部側を、前記細目螺子山の山頂部の高さに合わせた平面または円筒面を有する突起である
ことを特徴とする螺子転造ダイス。
【請求項2】
請求項1に記載された螺子転造ダイスにおいて、
前記螺子転造ダイスは丸ダイスであり、
前記突起は、所定の範囲内を、前記細目螺子山の山頂部の高さに合わせた前記螺子転造ダイスの回転中心線を中心とする円筒面とした突起である
ことを特徴とする螺子転造ダイス。
【請求項3】
請求項1に記載された螺子転造ダイスにおいて、
前記螺子転造ダイスは平ダイスであり、
前記突起は、所定の範囲内を、前記細目螺子山の山頂部の高さに合わせた前記平面とした突起である
ことを特徴とする螺子転造ダイス。
【請求項4】
請求項2または3に記載の螺子転造ダイスにおいて、
前記突起と前記並目螺子山とは、連続面を形成するように接合されている
ことを特徴とする螺子転造ダイス。
【請求項5】
請求項2または3に記載された螺子転造ダイスにおいて、
前記突起は、前記細目螺子山の山部両側に形成される谷部のうち小谷部側を前記細目螺子山の山頂部の高さに合わせた平坦部となるように形成されたものである
ことを特徴とする螺子転造ダイス。
【請求項6】
請求項5に記載された螺子転造ダイスにおいて、
前記平坦部と前記並目螺子山との境界部は、断面形状が円弧形状である
ことを特徴とする螺子転造ダイス。
【請求項7】
並目螺子を展開した並目螺子の山部と、細目螺子を展開した細目螺子山と前記並目螺子の山との位相ずれに応じて前記並目螺子の谷部に周期的に形成された前記細目螺子山に対応する突起とを備えた螺子転造ダイスであって、
螺子転造ダイス材料に、並目螺子山に対応する山頂部を平坦にした形状を有する第1の除肉工具を、前記細目螺子山に対応する突起の最大高さ以下の位置まで送り込み、前記螺子転造ダイス材料の一部分を除肉することにより、前記螺子転造ダイス上の並目螺子山の山部が形成され、
前記除肉後の螺子転造ダイス材料に、細目螺子山の形状を有する第2の除肉工具を、前記螺子転造ダイス上の並目螺子山の山部分の谷部から前記細目螺子山に対応する突起の形状に合わせて移動させ、前記螺子転造ダイス材料を除肉することにより、前記螺子転造ダイスの細目螺子山の谷部分、及び前記細目螺子山の山部両側に形成される谷部のうち小谷部側を前記細目螺子山の山頂部の高さに合わせて平坦になる突起が形成された
ことを特徴とする螺子転造ダイス。
【請求項8】
請求項7に記載された螺子転造ダイスにおいて、
前記細目螺子山の前記突起は、
前記第1の除肉工具で一部分が除肉された前記螺子転造ダイス材料に、前記第2の除肉工具の先端形状より大きい半径の先端形状に形成された第3の除肉工具により所定の角度範囲内の細目螺子山の谷部分が形成された後、前記第2の除肉工具により残りの角度範囲内の前記細目螺子山の谷部分、及び、前記突起が形成されたものである
ことを特徴とする螺子転造ダイス。
【請求項9】
請求項7または8に記載された螺子転造ダイスにおいて、
前記第2の除肉工具、及び、前記第3の除肉工具による加工は、
前記螺子転造ダイスの軸線の周り方向、前記軸線と平行な方向、及び、前記軸線と直交する方向の位置及び速度を同期制御し、前記螺子転造ダイス材料を除肉する切削加工である
ことを特徴とする螺子転造ダイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2010−12499(P2010−12499A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175844(P2008−175844)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(502195477)オリオ精機株式会社 (1)
【出願人】(594167141)株式会社ニッセー (13)