説明

血中インスリン濃度上昇抑制剤

【課題】血中インスリン濃度上昇抑制剤を提供する。
【解決手段】ポリグルタミン酸のカリウム塩を有効成分として含有する血中インスリン濃度上昇抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血中インスリン濃度上昇抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インスリンは、すい臓の膵β細胞から分泌されるペプチドホルモンの一種で、上昇した血糖値を下げ正常な値に保つ働きしている。主な生理的作用としては、筋肉組織における糖、アミノ酸等の取込み促進、タンパク質の合成促進、脂肪組織における糖の取込みと利用促進、脂肪合成の促進と分解・燃焼の抑制、タンパク質の合成促進などが挙げられる。
インスリンの分泌は、主にグルコースにより促進される。食事等により体内に糖が取込まれ血糖値(血中グルコース濃度)が上昇すると、上昇した血糖値を下げるためにインスリンが分泌されて血中インスリン濃度が上昇する。このようにインスリンの分泌は、血糖値を一定の値に保ち、糖尿病を防ぐために非常に重要であるといえる。
【0003】
しかし一方で、高血糖状態によるインスリンの分泌が続くと、インスリンの標的臓器である骨格筋、肝臓、脂肪組織においてインスリンの感受性の低下(インスリン抵抗性)が生じることが知られている。インスリン抵抗性が生じると、血糖降下作用の不足を補おうと膵臓からインスリンがさらに多く分泌されるようになる。このようなインスリンの過剰分泌が繰り返されると、最終的は膵臓が疲弊し、膵β細胞からのインスリンの分泌能そのものが低下する。その一方で各標的臓器のインスリン抵抗性は増大したままの状態となる。こうして、生体内での一連のインスリン作用機構がうまく機能しなくなると、糖尿病等の生活習慣病になりやすい体質を招き、高じて肥満やII型糖尿病(高血圧症)等を発症することが知られている(非特許文献1)。
【0004】
また、これまでは、血中インスリン分泌量は血糖値、すなわち糖質の摂取量に依存して変化すると考えられてきた。しかし、近年、血中インスリン濃度の上昇が、糖質の摂取のみならず脂質の摂取とも相関関係が認められることが報告されている(特許文献1参照)。特許文献1によれば、糖質及び脂質を共に摂取した場合、糖質を単独で摂取した場合におけるインスリン分泌量を超えた、過剰なインスリン分泌が起こることが確かめられている。さらに、このような糖と脂質の同時摂取による過剰なインスリン分泌が、肥満と相関性の高い因子であることも確認されている。
近年、日本人の食生活は欧米化し、従来の糖質中心の食事から、脂質の占める割合の高い食事へと変化している。このような食生活の変化に伴う生活習慣病やメタボリック症候群の増加も懸念されている。そのため、高脂肪食による健康への悪影響を予防改善することは、今後重要になってくると考えられる。
【0005】
従来から、血糖値上昇については、糖尿病の予防の観点からこれを抑制する試みが種々なされてきている。例えば、特許文献2には、血糖値上昇を抑制するために、ポリグルタミン酸を用いた血糖値改善剤が提案されている。ポリグルタミン酸は、その保水力の高さから保湿剤、吸収剤等として広く使用されており、生分解性ポリマーとして注目されている。また、小腸からのカルシウム吸収促進作用や血圧上昇抑制作用、唾液分泌促進作用、脂質吸収抑制作用があることが報告されている(例えば、特許文献3〜6参照)。
しかしながら、血中インスリン濃度の上昇を抑制することについては、積極的な取り組みがなされていないのが現状であり、ポリグルタミン酸の特定の塩に関する血中インスリン濃度上昇抑制作用はこれまで報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−145136号公報
【特許文献2】特開2005−200330号公報
【特許文献3】特開平5−95767号公報
【特許文献4】特開2008−255063号公報
【特許文献5】再公表W2005/049050号
【特許文献6】特開2009−173634号公報
【0007】
【非特許文献1】Modan Mら、J ClinInvest. 75(3):809-17,1985.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、食後の血中インスリン濃度上昇を抑制する血中インスリン濃度上昇抑制剤を提供することを課題とする。また、血中インスリン濃度上昇の結果引き起こされる肥満や糖尿病を予防・改善するのに有用な血中インスリン濃度上昇抑制剤を提供することを課題とする。
すなわち本発明は、医薬又は食品用途として有用な血中インスリン濃度上昇抑制剤を提供することを課題とする。具体的には、本発明は、食後のインスリン濃度上昇を抑えることで、肥満や糖尿病の発症リスクの低下・予防・改善・緩和・処置のための医薬又は非医薬用途である食品用途として有用な血中インスリン濃度上昇抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、ポリグルタミン酸の塩に食後の血中インスリン濃度上昇を抑制する効果があることを見い出した。さらに、ポリグルタミン酸の塩の中でも、カリウム塩に特に優れた血中インスリン濃度上昇を抑制する効果があることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0010】
本発明は、ポリグルタミン酸のカリウム塩を有効成分として含有する血中インスリン濃度上昇抑制剤に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の血中インスリン濃度上昇抑制剤は、血中のインスリン濃度上昇を抑制することができる。さらに、本発明の血中インスリン濃度上昇抑制剤は、血中の過度のインスリンの濃度上昇を抑制することで食後の体内のインスリン作用機構を正常な範囲に調節することができ、肥満や糖尿病の予防・改善に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の血中GIP濃度上昇抑制剤は、ポリグルタミン酸のカリウム塩を有効成分として含有する。ポリグルタミン酸は、グルタミン酸のγ位のカルボキシル基とα位のアミノ基がペプチド結合したもので、その構造式は(-NH-CH(COOH)-CH2-CH2-CO-)nで表されるが、本発明に用いられるポリグルタミン酸のカリウム塩は、前記構造式におけるカルボキシル基の水素原子の50%以上がカリウムに置換されたものである。本発明に用いられるポリグルタミン酸のカリウム塩は、前記構造式においてカルボキシル基の水素原子の60%がカリウムに置換されたものであることが好ましく、さらに上記カルボキシル基の水素原子の70%以上、さらに80%以上、さらに90%以上、さらに95%以上、殊更99%以上がカリウムに置換されたものであることが好ましいが、実質的にすべてのカルボキシル基がカリウムに置換されたものであることが特に好ましい。また、前記構造式において末端に位置することになるカルボキシル基も、カリウムで置換されたものであることが好ましい。
ポリグルタミン酸のカリウム塩は、ポリグルタミン酸やそのカリウム塩以外の塩に比べて血中のインスリン濃度の上昇を顕著に抑制する作用を有する。従って、当該ポリグルタミン酸のカリウム塩は、血中のインスリン濃度上昇抑制剤として使用することができ、また、当該インスリン濃度上昇抑制剤を製造するために使用することができる。ポリグルタミン酸のカリウム塩が食後の血中インスリン濃度上昇を抑制する作用があることは今まで知られていなかった。また、ポリグルタミン酸のカリウム塩に肥満の予防・改善効果があることも知られていない。本発明に用いられるポリグルタミン酸のカリウム塩は、後述の実施例で示すように、血中インスリンの濃度上昇を効率よく抑制する効果を有する。
【0013】
本発明において、「血中インスリン濃度上昇を抑制する」とは、主として食後に生じる血中インスリンの濃度上昇を抑制することを意味する。食後の血中インスリンの濃度上昇の抑制は、食後に引き起こされる血中インスリンの濃度の上昇を必ずしも完全に抑制することを意味するものではなく、本発明の血中インスリン濃度上昇抑制剤を投与していない場合に比べて、血中インスリン濃度の上昇度合を穏やかにすることをも含む概念である。
また、本発明における「血中インスリン濃度上昇抑制作用」は、すい臓からのインスリン分泌を抑制することで血中インスリン濃度上昇を抑制するインスリン分泌抑制作用、及び血中インスリン濃度を低下させることにより血中インスリン濃度上昇を抑制するインスリン低下作用のいずれをも含む概念である。
【0014】
上記脂質とは、一般的な食事中に含まれる脂質成分であり、インスリン分泌を高めるものであれば特に制限はなく、具体的には、バター、ラード、魚油、コーン油、なたね油、オリーブ油、ごま油などが挙げられる。
上記糖質とは、一般的な食事中に含まれる糖質成分であり、インスリン分泌を促すものであれば特に制限はなく、具体的には、米飯、澱粉、小麦粉、砂糖、果糖、ぶどう糖、グリコーゲンなどが挙げられる。
また、上記糖質を脂質と共に摂取すると、糖質を単独で摂取した場合に比べて血中インスリン濃度の上昇が促進されることが知られている。本発明の血中インスリン濃度上昇抑制剤は、このような脂質と糖質とを共摂取したときに引き起こされる血中インスリン濃度の急激な上昇をも効果的に抑制することができる。したがって、本発明の血中インスリン濃度上昇抑制剤は、例えば、1回の食事で5g/60kg体重以上の脂質と10g/60kg体重以上の糖質とを摂取した場合であっても、血中インスリン濃度の上昇を正常な上昇レベルに抑える(近づける)ことができる。
【0015】
後述の実施例に示すように、本発明に用いられるポリグルタミン酸のカリウム塩の血中インスリン濃度上昇抑制効果は、ポリグルタミン酸のカリウム塩の分子量にかかわらず全般的に認められるが、重量平均分子量が大きすぎると効果が低くなる傾向がある。
本発明に用いられるポリグルタミン酸のカリウム塩の分子量は、重量平均分子量が約500以上であることが好ましく、1,000以上であることがより好ましく、2,000以上であることがさらに好ましく、3,000以上であることがさらに好ましく、5,000以上であることが特に好ましい。
また、使用されるポリグルタミン酸のカリウム塩の重量平均分子量の上限は約5,000,000であるのが好ましいが、製造面、及び本発明の血中インスリン濃度上昇抑制剤を経口用液体製剤としたときの喉ごし、ぬるつき、嚥下のしやすさなどの観点から、その粘度が比較的低い方が好ましく、使用されるポリグルタミン酸のカリウム塩の重量平均分子量は1,000,000以下であるのがより好ましく、500,000以下であるのがさらに好ましい。
また、ポリグルタミン酸のカリウム塩は、その重量平均分子量が500〜1,000,000の範囲内において、同じような重量平均分子量を有するポリグルタミン酸及びそのカリウム塩以外の金属塩に比べて際立って高い血中インスリン濃度上昇抑制効果を示し、重量平均分子量が1,000〜800,000の範囲内、さらに2,000〜400,000の範囲内、特に3000〜200,000の範囲内、殊更4,000〜150,000の範囲内において、顕著に際立った血中インスリン濃度上昇抑制効果を示しうる。
重量平均分子量の測定は、例えば、ゲルろ過カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーにより行うことができる。
【0016】
本発明に用いられるポリグルタミン酸のカリウム塩は、化学的合成や微生物によって生産したポリグルタミン酸又はその塩、あるいは市販されているポリグルタミン酸又はその塩を、後述する実施例に記載されているように水酸化カリウム水溶液を用いて中和することで得ることができる。また、カリウムを含有する混合培地で培養した微生物によって生産することもできる。ポリグルタミン酸のカリウム塩を構成するグルタミン酸の光学活性はD体でもL体でもよく、それらの混合物でもよい。天然のポリグルタミン酸は、グルタミン酸がγ位で結合した重合体であり、野生型でポリグルタミン酸を生産する微生物としては、例えば、納豆菌を含む一部のバチルス(Bacillus)属細菌とその近縁種(Bacillus subtilis var.chungkookjangBacillus licheniformisBacillus megateriumBacillus anthracisBacillus halodurans)や、Natrialba aegyptiacaHydra等を挙げることができる[Ashiuchi,M.,et al.:Appl.Microbiol.Biotechnol.,59,pp.9-14(2002)]。また、遺伝子組換え技術を用いたポリグルタミン酸の生産例としては、プラスミドにて遺伝子導入された組換え枯草菌(Bacillus subtilis ISW1214株)において約9g/L/5日[Ashiuchi,M.,et al.:Biosci.Biotechnol.Biochem.,70,pp.1794-1797(2006)]、プラスミドにて遺伝子導入された組換え大腸菌において約4g/L/1.5日[Jiang,H.,et al.:Biotechnol.Lett.,28,pp.1241-1246(2006)]の生産性が得られることが知られている。或いは、ポリグルタミン酸は、食品添加物、化粧品素材及び増粘剤等として商業的に生産されており、国内及び海外のポリグルタミン酸メーカーが供給するポリグルタミン酸を購入することもできる(例えば、国内メーカー:日本ポリグル、一丸ファルコス、明治フードマテリア等、海外メーカー:バイオリーダース等)。
【0017】
本発明に用いられるポリグルタミン酸のカリウム塩は、糖質、脂質及び/又は蛋白質を摂取した後のインスリン分泌を抑制することができ、これにより血中インスリン濃度上昇を抑制する。しかもその抑制効果は、ポリグルタミン酸や他のポリグルタミン酸塩と比較して顕著に優れている。
【0018】
本発明の血中インスリン濃度上昇抑制剤は、前記ポリグルタミン酸のカリウム塩そのものであってもよい。また、本発明の血中インスリン濃度上昇抑制剤は、ポリグルタミン酸のカリウム塩の他に、例えば酸化チタン、炭酸カルシウム、蒸留水、乳糖、デンプン等の適当な液体または固体の賦形剤または増量剤を含んでもよい。この場合、ポリグルタミン酸のカリウム塩の含有量は特に制限されないが、血中インスリン濃度上昇抑制剤中0.01〜100質量%含まれるのが好ましく、0.1〜95質量%含まれるのがより好ましく、1〜90質量%含まれるのが更に好ましく、5〜85質量%含まれるのが特に好ましい。
【0019】
本発明の血中インスリン濃度上昇抑制剤を食品や医薬品等の用途に用いる場合、ポリグルタミン酸のカリウム塩を単体でヒト及び動物に、消化管内投与、腹腔内投与、血管内投与、皮内投与、皮下投与等により投与できる他、各種食品、医薬品、ペットフード等に配合して摂取することができる。食品としては、一般食品のほか、血中のインスリン濃度の上昇抑制、肥満や糖尿病の発症リスクの低下・予防・改善・緩和・処置をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品、特定保健用食品等の食品に応用できる。医薬品として使用する場合は、例えば、錠剤、顆粒剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。
【0020】
なお、経口用固形製剤を調製する場合にはポリグルタミン酸のカリウム塩に、賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等を製造することができる。また、経口用液体製剤を調製する場合は、矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯味剤等を加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等を製造することができる。
【0021】
上記各食品や製剤中のポリグルタミン酸のカリウム塩の配合量は特に制限されないが、0.01〜100質量%含まれるのが好ましく、0.03〜90質量%含まれるのがより好ましく、0.1〜80質量%含まれるのが更に好ましく、0.3〜70質量%含まれるのが特に好ましく、1〜60質量%含まれるのが殊更好ましい。
上記各食品や製剤中の有効投与(摂取)量は、ポリグルタミン酸のカリウム塩として、1日当たり0.01g/kg体重〜1.0g/kg体重とするのが好ましく、0.003g/kg体重〜0.5g/kg体重とするのがより好ましく、0.01g/kg体重〜0.2g/kg体重とするのが更に好ましい。また、本発明の血中インスリン濃度上昇抑制剤は、食前・食中・食後に用いると効果的であり、特に食前又は食中に用いることが好ましく、食前1時間から食中に用いることがより好ましい。
投与又は摂取対象者としては、それを必要としている者であれば特に制限されないが、空腹時血糖値が100mg/dL以上、あるいは、空腹時血中トリグリセリド値が100mg/dL以上の者を投与又は摂取対象者とすることが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0023】
〔分析方法〕
ポリグルタミン酸のカリウム塩の定量法及び重量平均分子量測定法−1:
ポリグルタミン酸のカリウム塩の定量及び重量平均分子量測定は、D−6000(日立ハイテクノロジーズ社製)HPLCシステムを用いてゲルろ過法にて実施した。分析条件は、分析カラムにTSKGel G4000PWXL及びTSKGelG6000PWXLゲルろ過カラム(商品名、東ソー社製)を用い、溶離液に0.1M硫酸ナトリウムを使用し、流速1.0mL/分、カラム温度50℃とし、UV検出波長を210nmとした。また、濃度は分子量880kのポリグルタミン酸(明治フードマテリア社製)を標準品として用いて検量線を作成することで算出した。また、重量平均分子量は、プルラン(商品名:Shodex STANDARD P−82、昭和電工社製)を用いて予め重量平均分子量を求めた分子量の異なる複数のポリグルタミン酸(和光純薬工業社製(商品名:162−21411、162−21401)、SIGMA−ALDRICH社製(商品名:P−4886、P−4761)、明治フードマテリア社製(分子量880k))を標準品として用いて測定した。
【0024】
ポリグルタミン酸のカリウム塩の重量平均分子量測定法−2:
分子量が10k前後となる低分子量ポリグルタミン酸のカリウム塩の重量平均分子量測定は、D−6000(日立ハイテクノロジーズ社製)HPLCシステムを用いてゲルろ過法にて実施した。分析条件は、分析カラムにTSKGel G3000PWXLゲルろ過カラム(商品名、東ソー社製)を用い、溶離液に0.1M硫酸ナトリウムを使用し、流速0.8mL/分、カラム温度50℃とし、UV検出波長を210nmとした。重量平均分子量は、プルラン(商品名:Shodex STANDARD P−82、昭和電工社製)を用いて予め重量平均分子量を求めたポリグルタミン酸(明治フードマテリア社製、分子量9k)、ポリーヒドロキシプロリン(SIGMA−ALDRICH社製、分子量4k)を標準品として用い測定した。
【0025】
ポリグルタミン酸塩の金属分析法:
ポリグルタミン酸塩の金属分析は、D−7000(日立ハイテクノロジーズ社製)HPLCシステムを用いてイオンクロマト法にて実施した。分析条件は、ガードカラムにShodex IC YK−G、分析カラムにShodex IC YK−421(いずれも商品名、昭和電工社製)を用い、溶離液を1.5mMクエン酸水溶液とし、流速1.0mL/分、カラム温度40℃で電気伝導度検出器を用いて検出を行なった。標準試料として関東化学社製のナトリウム標準液(1000ppm)及びカリウム標準液(1000ppm)を用い、これらの標準品について10〜100mg/Lの範囲で検量線を作成し、これらの検量線に基づきポリグルタミン酸塩の金属分析を実施した。
【0026】
〔調製例1〕重量平均分子量12,000のポリグルタミン酸カリウム塩の調製
重量平均分子量9,000のポリグルタミン酸のナトリウム塩(明治フードマテリア社製)を初発材料として、10%(w/w)水溶液を500mL作製し、氷冷下にて塩酸を用いてpH2以下に調整した。続いて、生成した酸沈殿物を8,000rpm、5分の遠心分離(商品名:himacCR21GIII、日立工機社製)にて回収し、得られた沈殿物を同量の蒸留水を用いて洗浄し、再度遠心分離に供した。この洗浄操作を2回繰り返し行なった後、得られた沈殿物を300mLの蒸留水に懸濁し、これをpH7以上となるように水酸化カリウム水溶液を用いて中和した。この上記酸処理および水酸化カリウムによる中和処理を再度実施し、得られた中和試料に対して2.5倍量のエタノールを添加し、氷冷下にて一晩放置した。このエタノール添加により生成した沈殿物を14,000rpm、5分の遠心分離(同上)にて回収し、回収試料を減圧乾燥に供して、27.4gの固形物を得た。この試料の重量平均分子量は前述の分析方法により、12,000と算出された。また、この試料はポリグルタミン酸のカルボキシル基量に相当する量のカリウムが検出され、ナトリウムは検出限界以下であったため、中和前のポリグルタミン酸の実質的にすべてのカルボキシル基の水素原子がカリウムに置換されたものであることが確認された。
【0027】
〔調製例2〕重量平均分子量240,000のポリグルタミン酸のカリウム塩の調製
重量平均分子量350,000のポリグルタミン酸のナトリウム塩(明治フードマテリア社製)を初発材料として、5%(w/w)水溶液を1L作製し、氷冷下にて塩酸を用いてpH1以下に調整した。続いて、生成した酸沈殿物を8,000rpm、5分の遠心分離(商品名:himacCR21GIII、日立工機社製)にて回収し、得られた沈殿物を同量の蒸留水を用いて洗浄し、再度遠心分離に供した。この洗浄操作を2回繰り返し行なった後、得られた沈殿物を800mLの蒸留水に懸濁し、これをpH7以上となるように水酸化カリウム水溶液を用いて中和した。この上記酸処理および水酸化カリウムによる中和処理を再度実施し、このエタノール添加により生成した沈殿物を14,000rpm、5分の遠心分離(同上)にて回収し、回収試料を減圧乾燥に供して、36.2gの固形物を得た。この試料の重量平均分子量は前述の分析方法により、240,000と算出された。また、この試料はポリグルタミン酸のカルボキシル基量に相当する量のカリウムが検出され、ナトリウムは検出限界以下であったため、中和前のポリグルタミン酸の実質的にすべてのカルボキシル基の水素原子がカリウムに置換されたものであることが確認された。
【0028】
〔調製例3〕重量平均分子量6,000のポリグルタミン酸のカリウム塩の調製
重量平均分子量9,000のポリグルタミン酸のナトリウム塩(明治フードマテリア社製)を初発材料として、20%(w/w)水溶液を125mL作製し、塩酸を用いてpH1以下に調整した。続いて、このPGA溶液を95℃にて12時間恒温し、生成した酸沈殿物を8,000rpm、5分の遠心分離(商品名:himacCR21GIII、日立工機社製)にて回収し、得られた沈殿物を同量の蒸留水を用いて洗浄し、再度遠心分離に供した。この洗浄操作を2回繰り返し行なった後、得られた沈殿物を300mLの蒸留水に懸濁し、これをpH7以上となるように水酸化カリウム水溶液を用いて中和した。この上記酸処理および水酸化カリウムによる中和処理を再度実施し、得られた中和試料に対して2.5倍量のエタノールを添加し、氷冷下にて一晩放置した。このエタノール添加により生成した沈殿物を14,000rpm、5分の遠心分離(同上)にて回収し、回収試料を減圧乾燥に供して、16.5gの固形物を得た。この試料の重量平均分子量は前述の分析方法により、6,000と算出された。
【0029】
〔試験例1〕ポリグルタミン酸のカリウム塩の血中インスリン濃度上昇抑制作用
重量平均分子量12,000及び240,000(それぞれ調製例1及び2で調製)のポリグルタミン酸のカリウム塩と、重量平均分子量9,000及び350,000のポリグルタミン酸のナトリウム塩(明治フードマテリア社製)を用いて下記のように経口投与サンプルを調製した。
また、8週齢の雄性マウス(C57BL/6J Jcl:日本クレア社製)を各群10匹ずつ用いて下記のように経口投与試験を行った。
【0030】
〔試験例2〕低分子量のポリグルタミン酸のカリウム塩の血中GIP濃度上昇抑制作用
重量平均分子量6,000(調製例3で調製)のポリグルタミン酸のカリウム塩と、重量平均分子量12,000のポリグルタミン酸のカリウム塩(調製例1で調製)及び重量平均分子量9,000のポリグルタミン酸のナトリウム塩(明治フードマテリア社製)を用いて下記のように経口投与サンプルを調製した。
また、8週齢の雄性マウス(C57BL/6J Jcl:日本クレア社製)を各群7匹ずつ用いて下記のように経口投与試験を行った。
【0031】
経口投与サンプルの調製:
グルコース(関東化学社製)とトリオレイン(Glyceryl trioleate:Sigma社製)をレシチン(卵製、和光純薬社製)とアルブミン(ウシ血清由来、Sigma社製)を用いて乳化し、乳液を調製した。この乳液に、ポリグルタミン酸塩試料を添加し、最終濃度がポリグルタミン酸塩試料5(w/w)%、グルコース5(w/w)%、トリオレイン5(w/w)%、乳化剤(レシチン0.2(w/w)%、アルブミン1.0(w/w)%)となるよう、経口投与サンプルを調製した。なお、コントロールサンプルとして、ポリグルタミン酸塩の代わりに水を添加したサンプルを調製した。
【0032】
経口投与試験:
一晩絶食させたマウスをエ−テル麻酔下、眼窩静脈よりヘパリン処理ヘマトクリット毛細管(VITREX社製)を用い、初期採血を行った。その後、経口投与サンプルを経口ゾンデ針にて経口投与し、10分、30分、1時間、2時間後にエーテル麻酔下、眼窩静脈より採血を行った。マウスに対する経口投与量を下記表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
ヘパリン処理ヘマトクリット毛細管で採取した血液は血漿分離まで氷冷下で保存後、11000rpmにて5分間遠心し、血漿を得た。得られた血漿から、インスリン測定キット(森永生化学研究所製、ELISA法)を用いて血中インスリン濃度を測定した。
サンプル経口投与後の2時間後までの血中インスリン濃度を測定した結果、血中インスリンの濃度が最大となるのは投与後10分後であることがわかった。そこで、血中インスリン濃度の最大値(投与10分後)と初期値(初期採血時)の差(Δ値)を最大インスリン濃度上昇と定義し、コントロール群を100としたときの値を下記表2(試験例1の結果)及び表3(試験例2の結果)に示した。
【0035】
得られた最大インスリン濃度上昇の値をもとに、群間の統計学的有意差についても検討し、その結果も表2に示した。分散分析によって有意性(P<0.05)が認められた場合、多重比較検定(Bonferroni/Dunn法)により、コントロール群と各ポリグルタミン酸塩投与群との間、及び類似分子量のナトリウム塩投与群とカリウム塩投与群との間での検定を行い、得られた結果から、P<0.05を有意な差として有意性を判断した。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示す結果から、ポリグルタミン酸のナトリウム塩は、血中インスリン濃度上昇の有意な抑制作用を有さないことがわかった。同時に、ポリグルタミン酸のナトリウム塩は、コントロール群に比べて有意差はないものの分子量が大きい方が血中インスリン濃度上昇を抑制しうる効果が高まることもわかった。一方、ポリグルタミン酸のカリウム塩は、分子量にかかわらず血中インスリン濃度上昇抑制効果を示した。
特に重量平均分子量が12,000のポリグルタミン酸のカリウム塩は、最大血中インスリン濃度上昇を50%以上も(コントロール比で約45%まで)抑制するという顕著に優れた効果を有していた。
【0038】
【表3】

【0039】
ポリグルタミン酸のナトリウム塩では、重量平均分子量が9,000程度の大きさでは、血中インスリン濃度上昇を抑制する効果が認められなかったのに対し、重量平均分子量12,000のポリグルタミン酸のカリウム塩では最大血中インスリン濃度上昇を顕著に抑制することがわかった。
また更に、低分子量である重量平均分子量6,000のポリグルタミン酸のカリウム塩が、重量平均分子量12,000のポリグルタミン酸のカリウム塩と同等のインスリン濃度上昇抑制効果を有することも明らかとなった。
【0040】
試験例1及び2の結果から、ポリグルタミン酸のナトリウム塩は、分子量が大きい方が血中インスリン濃度上昇を抑制する作用が高まる傾向があるのに対し、ポリグルタミン酸のカリウム塩では、意外にも低分子である方が、血中インスリン濃度上昇を抑制する効果がより高まることもわかった。ポリグルタミン酸塩は低分子であるほど粘度が低いことから、低分子のポリグルタミン酸のカリウム塩を用いることができれば製造過程における取り扱いが容易となる。また、本発明の血中インスリン濃度上昇抑制剤を経口用の液剤の形態とする場合には、低分子のポリグルタミン酸のカリウム塩を用いることにより、飲用時の喉ごし、ぬるつき、嚥下のしやすさなどに優れた液剤とすることができるという利点もある。
【0041】
前述のように、過度のインスリン濃度上昇はインスリン抵抗性を生じ、ひいては肥満や糖尿病を引き起こすことが知られている。そのため、ポリグルタミン酸のカリウム塩は、食後のインスリンの分泌を効果的に抑制することで、肥満や糖尿病の予防・改善に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグルタミン酸のカリウム塩を有効成分として含有する血中インスリン濃度上昇抑制剤。

【公開番号】特開2012−144483(P2012−144483A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4314(P2011−4314)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】