説明

血圧測定装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明の血圧測定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】血圧は体の健康状態を表す重要な指標の一つであり、それをモニタする自動血圧測定装置は医療現場だけでなく、一般の家庭にも広く普及している。これまでの自動血圧測定装置での血圧測定は、カフを所定の圧力まで加圧し、その後の微速減圧過程で血管情報を得て、血圧を決定するものであり、1回の測定に約1分程度かかり、被測定者はその間、動くことができないことや、血圧の変動を知るためには日に何度も血圧測定をしなければならないことから、なるべく測定に時間のかからない血圧測定装置が求められている。
【0003】この要望に応えるため、近年、カフを例えば上腕に装着し、加圧過程でカフ圧と脈波信号等の血管情報を検出して、加圧中に血圧値を測定することにより測定時間を短縮した血圧測定装置が開発され、市販もされるに至っている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上記した従来の血圧測定装置において、測定時間を短縮するには、加圧速度を上げればよい。しかし、加圧速度を上げ過ぎると、血圧測定に必要な脈拍数が得られなくなり、血圧測定が不能、あるいは精度が悪くなる。そこで、通常人なら十分に測定可能な加圧速度に設定する。それでも脈拍の遅い人の場合は、通常人よりも、測定中に得られる脈拍数が少なくなり、その人に限っては測定の信頼性が悪くなる場合があり得る。従来は、このような場合に、信頼性が悪い状態での測定であることに気付かず、通常人と同様に測定データとして扱ってしまうという問題があった。
【0005】また、加圧速度を変化させることによって、加圧の初期には、加圧速度を下げ、加圧が進むと、加圧速度を上げてゆくことにより、測定精度を落とさず、トータル的な測定時間を短くできるが、この場合、低血圧かつ脈拍数が少ない場合には、ポンプ電圧調整手段から加圧ポンプにかかる電圧が低くなり、加圧ポンプの回転数が遅くなると、図8に示すように、加圧ポンプの回転数が遅い場合には、ポンプの出す脈動ノイズの周波数成分が脈波の周波数成分に近くなり、測定の信頼性を低下させることになる。このような場合も測定者は信頼性の悪いデータであると気付く術がない。
【0006】この発明は上記問題点に着目してなされたものであって、測定者が測定値の信頼度を知り得る血圧測定装置を提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明の血圧測定装置は、血管を圧迫するためのカフと、このカフを加圧する加圧手段と、前記カフの内部圧力を検出するカフ圧検出手段と、加圧過程又は減圧過程で血管情報を検出する血管情報検出手段と、前記加圧過程又は減圧過程で得られる血管情報とカフ圧から血圧値を決定する血圧決定手段と、得られた血圧値を表示する表示手段と、を備えるものにおいて、測定時に得られる被測定者からの血管情報に基づいて測定の信頼度を検出する信頼度検出手段と、検出した信頼度を前記表示手段に表示された血圧値の信頼性の高低の度合いとして視覚的に出力する視覚出力手段と、を備えている。
【0008】この発明の血圧測定装置では、測定時に得られる被測定者からの血管情報に基づいて測定の信頼度が検出され、その検出された信頼度が表示手段に表示された血圧値の信頼性の高低の度合いとして視覚的に出力される。そのため、測定者は測定後、視覚的出力を目視することにより測定の信頼度を知ることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】以下、実施の形態により、この発明をさらに詳細に説明する。図1は、この実施形態血圧測定装置の構成を示すブロック図である。この実施形態血圧測定装置は、血圧測定装置本体1と被測定者の腕に巻付けるカフ2から構成されている。血圧測定装置本体1は、圧力検出手段3、脈波抽出手段4、加圧速度決定手段5、ポンプ電圧調整手段6、加圧ポンプ7、血圧決定手段8、信頼度判定手段9及び表示手段10を備えている。ここで脈波抽出手段4、加圧速度決定手段5、血圧決定手段8、信頼度判定手段9等は、CPUの処理機能によって実現する。
【0010】この実施形態血圧測定装置において、人体に装着したカフ2の圧力は、圧力センサなどで構成される圧力検出手段3により検出する。脈波抽出手段4は、加圧ポンプ7などから発生するノイズ成分及び加圧速度の変化で発生するゆっくりとした圧力変動を除去して、カフ圧に重畳している脈波を検出する。また検出した脈波の間隔を計測し、脈拍数を算出する加圧速度決定手段5で、脈拍数に応じた最適な加圧速度を算出する。ポンプ電圧調整手段6は、加圧速度決定手段5で決定された加圧速度に応じた電圧を加圧ポンプに与える。
【0011】ここで、脈拍数による加圧速度の最適化方法を説明する。脈拍数がHr〔拍/分〕の場合、ある圧力区間Pwで血圧測定に必要な脈拍数Pnを検出しようとすると、必要な加圧速度Vtは(1)式で求められる。
【0012】
【数1】


【0013】例えば、脈圧が50mmHgで脈拍が70拍/分の場合の最適加圧速度は、精度を確保するために必要な脈拍数を7個とすると、
【0014】
【数2】


【0015】と計算する。圧力区間Pwの値は、被測定者の脈圧であることが望ましいが、これを推定するのは難しいので、臨床測定データの脈圧の分布で、頻度の多い50mmHg程度の値を使うことでも十分効果を期待できる。必要脈拍数Pnは、脈波包絡線の粗さを決めており、要求される測定精度に基づき可変することが可能である。
【0016】加圧速度vは、カフ圧Pより次式(3)で求められるから、
【0017】
【数3】


【0018】この(3)式を(2)式に導入して、(4)式のようにすることで脈拍数に応じた加圧速度を決定することができ、より最適な加圧時間で血圧を測定することができる。
【0019】
【数4】


【0020】次に、実施形態血圧測定装置のこの加圧速度決定手段の詳細を図2のフロー図を参照して説明する。この加圧速度決定ルーチンに入ると、先ず、脈波間隔カウンタWcntを1インクリメントし(ST1)、脈波が検出されたか否かを判定する(ST2)。脈波検出でない場合はそのままリターンする。ST2で脈波検出の場合は、変数iを1インクリメントして(ST3)、脈波間隔カウンタWcntのカウント値をWp(i)として保存し(ST4)、脈波間隔カウンタWcntをクリアする(ST5)。次に脈波から2拍以上であるか否か判定し(ST6)、そうでない場合はリターンし、2拍以上である場合は、Wp(i)−Wp(i−1)で脈波間隔Wt(i)を計測する(ST7)。続いてカフ圧が80mmHg以上か否かを判定し(ST8)、80mmHgに達していない場合には、Vp←15×{P+100/180}2 を計算して、目標速度Vpを求め(ST9)、80mmHg以上の場合には、Vp←15mmHg/sを目標速度とし(ST10)、脈波周期Tw=W+(i)×0.01(秒)を算出する(ST11)。そして、Vp←Vp×{50/(7+T)}の計算により、脈拍による目標速度補正を行う(ST12)。つまり、脈波周期Tが大きい程、加圧速度Vpを遅くする。
【0021】目標とする加圧速度を決定すると、ポンプ電圧調整手段6によりポンプ回転数を調整することで、目標速度で加圧する。血圧決定手段8では、オシロメトリック法で血圧を決定し、表示手段10で測定結果の表示をする。この実施形態血圧測定装置の信頼度判定手段9の処理の詳細を図3のフロー図を参照して説明する。この信頼度判定ルーチンに入ると、先ず最低血圧決定がなされたか否か判定し(ST21)、決定がなされていると、ポンプ電圧が2Vより小さいか否か判定する(ST22)。ポンプ電圧が2V以上であると、ポンプの回転数が大きな状態、つまり加圧速度の大きな状態で決定されているので、最低血圧の信頼性を100%とし(ST23)、ポンプ電圧が2Vより小さい場合は、ポンプ電圧/2V×100%を最低血圧の信頼性とする(ST24)。次に、最高血圧の信頼性判定も、ST25〜ST28で最低血圧決定時の信頼性判定と同様の処理を行う。このようにして測定した血圧値が加圧ポンプのノイズに影響されたかどうかを判定する。信頼性の低い場合は、その旨を表示手段に表示する。表示の態様については、後述する。
【0022】オシロメトリック法は、図4に示すように時間の経過とともにカフ圧〔図4の(a)〕と脈波振幅データ〔図4の(b)〕を取り、脈波振幅包絡線と、最低血圧閾値、最高血圧閾値の交点に対応するカフ圧をそれぞれ最低血圧、最高血圧を決定するが、脈波が実線に示す場合と、脈波数がその半分である場合の破線で示す包絡線とは、閾値と交わる点がずれ、それぞれ最低血圧誤差、最高血圧誤差となる。すなわち、検出した脈波数が少なくなると誤差が大きくなる。
【0023】この脈波数が少なくなると、誤差が大きくなることに着目し、この発明の他の実施形態血圧測定装置は、振幅極大脈波から最高血圧までに検出した脈波数、振幅最大脈波から最低血圧までに検出した脈波数をそれぞれ評価し、最高血圧、最低血圧の信頼性を判定する。この実施形態血圧測定装置の信頼度判定手段9の処理の詳細を図5のフロー図を参照して説明する。この信頼性判定ルーチンに入ると、最高血圧決定がなされたかを判定し(ST31)、決定していなければそのままリターンするが、決定されていると、最低血圧から脈波振幅のピークまでに検出した脈波数Nd を計数する(ST32)。この脈波数Nd が2以上であれば判定NOで、最低血圧信頼性を100%と(ST34)し、Nd が2よりも大きいか判定し(ST33)、Nd が2より小さい場合は、ST33の判定NOで最低血圧信頼度を0%とする(ST35)。
【0024】最低血圧の信頼度を求めると、次に今度は、脈波振幅のピークから最高血圧までに検出した脈波数NS を計数する(ST36)。そして、NS が2より小さいか否か判定し(ST37)、2以上であると判定NOで、最高血圧信頼度を100%とし(ST38)、2よりも小さいと最高血圧信頼度を0%(ST39)してリターンする。信頼度は表示手段10に表示される。
【0025】なお、最低血圧から最高血圧までの脈波数を求め、この脈波数から血圧測定全体の信頼性を求めてもよい。信頼性が低いと判定した場合の表示例を図6、図7に示す。図6の場合は、信頼度を直接表示する例であり、図6の(a)は信頼度を%値で示しており、図6の(b)は信頼度の変化を点灯ドット数で示しており、図6の(c)は信頼度をOKかNGで示している。図7の(a)は信頼度が低い時、表示を点滅させる例であり、図7の(b)は信頼性が高い場合と低い場合で表示色を変える例である。又、図7の(c)は信頼度の低い場合に血圧値を表示しない例である。
【0026】また、上記実施形態血圧測定装置は、加圧過程で測定し、しかも加圧によって加圧速度を変えるものについて説明したが、この発明は加圧速度一定で加圧するもの、減圧過程で測定するものにも適用できる。
【0027】
【発明の効果】この発明によれば、測定時に得られる被測定者からの血管情報に基づいて測定の信頼度を検出し、検出した信頼度を表示手段に表示された血圧値の信頼性の高低の度合いとして視覚的に出力するので、測定者は測定した血圧の信頼度を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一実施形態血圧測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態血圧測定装置における加圧速度決定処理を説明するためのフロー図である。
【図3】同実施形態血圧測定装置における信頼性判定処理を説明するためのフロー図である。
【図4】オシロメトリック法による血圧決定及び誤差発生を説明する図である。
【図5】この発明の他の実施形態血圧測定装置における信頼性判定処理を説明するためのフロー図である。
【図6】上記各実施形態血圧測定装置の信頼度の表示例を示す図である。
【図7】上記各実施形態血圧測定装置の信頼度の他の表示例を示す図である。
【図8】血圧測定装置における加圧ポンプのモータ回転数とポンプノイズの影響を説明するための図である。
【符号の説明】
2 カフ
3 圧力検出手段
4 脈波抽出手段
7 加圧ポンプ
8 血圧決定手段
9 信頼度判定手段
10 表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】血管を圧迫するためのカフと、このカフを加圧する加圧手段と、前記カフの内部圧力を検出するカフ圧検出手段と、加圧過程又は減圧過程で血管情報を検出する血管情報検出手段と、前記加圧過程又は減圧過程で得られる血管情報とカフ圧から血圧値を決定する血圧決定手段と、得られた血圧値を表示する表示手段と、を備える血圧測定装置において、測定時に得られる被測定者からの血管情報に基づいて測定の信頼度を検出する信頼度検出手段と、検出した信頼度を前記表示手段に表示された血圧値の信頼性の高低の度合いとして視覚的に出力する視覚出力手段と、を備えたことを特徴とする血圧測定装置。
【請求項2】前記視覚出力手段は、決定された血圧値と対応して当該血圧値の信頼度を視覚的に出力するものである請求項1記載の血圧測定装置。
【請求項3】前記信頼度検出手段は、ポンプ回転数を検出して、ポンプ回転数により信頼度を検出するものである請求項1記載の血圧測定装置。
【請求項4】前記信頼度検出手段は、ポンプの駆動電圧を監視するものである請求項1記載の血圧測定装置。
【請求項5】前記信頼度検出手段は、測定中の全脈波又は特定の部分の脈波数により信頼度を評価するものである請求項1記載の血圧測定装置。
【請求項6】前記測定中の特定の部分の脈波数は、最低血圧と最高血圧間に検出した脈波数である請求項5記載の血圧測定装置。
【請求項7】前記測定中の特定の部分の脈波数は、最大振幅脈波と最高血圧間に検出した脈波数である請求項5記載の血圧測定装置。
【請求項8】前記測定中の特定の部分の脈波数は、最大振幅脈波と最低血圧間に検出した脈波数である請求項5記載の血圧測定装置。
【請求項9】信頼度検出手段で信頼度が得られない時に、その旨を出力する手段を備えた請求項1記載の血圧測定装置。

【図1】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図7】
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【特許番号】特許第3473325号(P3473325)
【登録日】平成15年9月19日(2003.9.19)
【発行日】平成15年12月2日(2003.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−133066
【出願日】平成9年5月23日(1997.5.23)
【公開番号】特開平10−314128
【公開日】平成10年12月2日(1998.12.2)
【審査請求日】平成12年12月7日(2000.12.7)
【出願人】(503246015)オムロンヘルスケア株式会社 (584)
【参考文献】
【文献】特開 平8−215162(JP,A)
【文献】特開 平8−56913(JP,A)
【文献】特開 昭62−172935(JP,A)
【文献】特開 昭61−19336(JP,A)
【文献】特開 昭61−191338(JP,A)
【文献】特開 昭61−119239(JP,A)
【文献】実開 平5−15906(JP,U)
【文献】実開 昭60−141801(JP,U)