説明

血圧監視装置

【目的】 患者に負担を与えることなく連続的に高精度に血圧を監視できるようにする。
【構成】 CPU1は、光電脈波センサ10から得られる脈波と、時間間隔検出基準点検出部8から得られる基準点から脈波伝播時間を求め、この脈波伝播時間の変動が閾値より大きいときに加圧ポンプ4および排気弁3を制御してカフ2を用いた血圧測定を行う。CPU1は、カフ2を用いた血圧測定を行うと、まず患者固有の定数を求め、この定数に応じて前記閾値を変更するようにした。また、キー14の入力があった場合にも、CPU1は、カフ2を用いた血圧測定を行い、さらに前記閾値を変更するようにした。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、手術室、集中治療室、救急処置室、人工透析室などにおいて患者の連続的な血圧監視が必要な分野における血圧監視装置に関し、特に脈波伝播時間を用いて血圧監視を行なう装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、患者の血圧を連続的に測定して血圧の監視を行なうには、患者の上腕部などにカフを巻き付けてオシロメトリック法により非観血血圧測定を行なう方法や、患者の動脈に穿刺して観血血圧測定を行なう方法がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、カフによる非観血血圧測定では定時測定で測定周期が長い場合(例えば5分間隔以上の場合)にショックによる血圧の急変を見落とすことがある。この対策として、測定周期を例えば1分間隔と短くした場合、カフを巻いた部分の血管に負担を与えることになり、内出血を起こすなどの問題が生じるようになる。また、定時測定の場合、必要以上の頻繁なカフの締め付けにより患者に負担を与え、睡眠障害などを起こすことになる。一方、観血測定では、侵襲により患者に精神的な負担を与えたり、感染などの問題をもたらすとともに、非観血血圧測定以上の手間を要するためスタッフに負担を与えるという問題がある。
【0004】本発明は、このような従来の技術が有する課題を解決するために提案されたものであり、患者に負担を与えることなく連続的に安全に血圧を監視できる血圧監視装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】以下、本発明の基本的な考え方を説明する。非観血血圧計の一つに脈波伝播速度(一定距離の脈波伝播時間)を利用して血圧測定を行なう血圧計が知られている。脈波伝播速度から血圧が測定できる原理はつぎの通りである。まず、脈波伝播時間について説明する。図3に示すように指や耳などの末梢血管側では脈波の特異点が大動脈波の特異点より時間的に遅れて現れる。この遅れ時間が、脈波伝播時間である。一定距離の脈波伝播時間に対応する脈波伝播速度は、血管の容積弾性率の関数として現わされる。血圧が上がると、血管の容積弾性率は増加し、血管壁が硬くなり伝播速度が速くなる。したがって、脈波伝播速度から血圧変動を求めることができる。
【0006】この脈波伝播時間を用いた血圧計は、カフを用いるなど他の方法で血圧を測定し、この測定結果を参照して校正を行なう必要がある。この校正にあたっては、例えば安静時と運動負荷時それぞれにおける血圧と脈波伝播時間を測定する。ここで、安静時の血圧と脈波伝播時間をそれぞれP1 ,T1 、運動負荷時の血圧と脈波伝播時間をそれぞれP2 ,T2 とし、被験者によって異なる固有の定数をα、βとすると、血圧P1 ,P2 は、P1 =αT1 +βP2 =αT2 +βで表わされる。したがって、P1 ,T1 ,P2 ,T2 を測定することにより、この2式より、α、βを算出することができ、一度α、βを求めてしまえば、以降脈波伝播時間を測定するだけで、その被験者の血圧を測定することができる。なお、異なる2つの血圧値を測定するにあたっては、安静時と運動負荷時でなくともよく、異なる血圧値が現われるときに2つの値を計測すればよい。
【0007】一方、単に脈波伝播時間を逐次測定したとしても、被験者の血圧変動を監視することができる。この場合、脈波伝播時間の変動分△Tが、予め設定した脈波伝播時間変動分閾値△Ts を超えたときに、被験者の血圧変動に急変が起こったと判断し、その時点でカフを用いた非観血血圧測定を正確に行なえばよい。このようにすることにより、一定周期でカフにより血圧測定を連続的に行なった場合のような負担を被験者に与えることがなく、大幅に被験者の負担を軽減できる。
【0008】この測定原理に基づく本発明による血圧監視装置は、カフを用いて血圧測定を行なう血圧測定手段と、外部からの操作に応じて上記血圧測定手段に測定開始を指示する指示手段と、外部から入力される脈波伝播時間変動分閾値と血圧変動分閾値とを記憶するメモリと、生体の大動脈側の脈波上の時間間隔検出基準点を検出する時間間隔検出基準点検出手段と、上記大動脈側の脈波より遅れて現われる末梢血管側の脈波を検出する脈波検出手段と、上記時間間隔検出基準点検出手段と上記脈波検出手段とのそれぞれの検出出力に基づき脈波伝播時間を計測する脈波伝播時間計測部と、計測した2つの脈波伝播時間から脈波伝播時間変動分を算出する第一の演算手段と、上記血圧測定手段により求めた2つの血圧値の差を、計測した2つの脈波伝播時間の差で除して被験者固有の定数を算出する第二の演算手段と、上記メモリから読み出される血圧変動分閾値を、算出された被験者固有の定数で除してメモリ内の脈波伝播時間変動分閾値を更新する第三の演算手段と、脈波伝播時間変動分閾値の更新を制御する第一の制御手段と、算出された脈波伝播時間変動分がメモリから読み出される脈波伝播時間変動分閾値を超えたか否かを判定する判定手段と、この判定手段の出力および上記指示手段の指示のいずれかに基づいて上記血圧測定手段を制御し、カフによる被験者の血圧測定を行なう第二の制御手段とを有する構成としてある。
【0009】上述した構成によれば、脈波伝播時間変動分を計測して、この脈波伝播時間変動分が脈波伝播時間変動分閾値を超えたか否かを逐次判定することにより、被験者の血圧を監視できる。脈波伝播時間変動分が脈波伝播時間変動分閾値を超えたときに、カフを用いて被験者の血圧測定を正確に行なうようにすれば、被験者に与える負担を極力少なくできる。さらに、この構成によれば、カフによる血圧測定が行われると、脈波伝播時間変動分閾値が更新され、その閾値は被験者固有の値となるので、被験者の血圧監視をより高精度に行なえるようになる。カフによる血圧測定は、脈波伝播時間変動分が脈波伝播時間変動分閾値を超えた場合に開始されるか、指示手段から指示があった場合に開始される。
【0010】
【発明の実施の形態】つぎに、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1のブロック図に、本発明による血圧監視装置の実施の形態を示す。この図で、カフ2は患者の上腕部または指に装着されるように構成され、排気弁3によってその内部が大気に対して開放または閉塞される。このカフ2には、加圧ポンプ4によって空気が供給される。カフ本体には圧力センサ5が取り付けられており、センサ出力がカフ圧検出部6によって検出される。このカフ圧検出部6の出力は、A/D変換器7によってディジタル信号に変換され、CPU(セントラル・プロセッシング・ユニット)1に取り込まれる。
【0011】時間間隔検出基準点検出部8は、心電図のR波の発生とほぼ同時に大動脈圧がボトム値となる時点を検出するためのものであり、この検出部の出力はA/D変換器9によりディジタル信号に変換されて、CPU1に取り込まれる。この時間間隔検出基準点検出部8は、患者の胸部に装着される電極と、この電極が接続される心電図R波検出部とにより構成することができる。また、この時間間隔検出基準点検出部8を、大動脈の脈波を検出する光電脈波センサと、あるいは圧脈波センサこのセンサが接続される脈波検出部とにより構成することもできる。
【0012】一方、光電脈波センサ10は、患者の例えば指に装着され、末梢血管側の脈波が計測される。このセンサ10の出力は、脈波検出部11に送られることで、患者の装着部位の脈波が検出される。脈波検出部11の出力は、A/D変換器12によりディジタル信号に変換されて、CPU1に取り込まれる。
【0013】キー14は、手動操作でカフ2を用いた血圧測定を行なうか、脈波伝播時間変動分閾値△Ts を更新する場合に押される。入力手段13からは、初期脈波伝播時間変動分閾値△Ts や血圧変動分閾値△BPs が入力される。
【0014】CPU1は、A/D変換器7,9,12、キー14から与えられた信号に基づいて処理プログラムを実行し、必要な制御信号を排気弁3、加圧ポンプ4などに出力するとともに、処理結果を表示器15に出力する。このCPU1に接続されるメモリ(ROM)16には、処理プログラムが格納されているとともに、メモリ(RAM)17には処理過程のデータが格納される。なお、CPU1は、請求項1において脈波伝播時間計測部、演算手段、判定手段、制御手段、第一乃至第三の演算手段、第一および第二の制御手段を構成している。またキー14が指示手段である。
【0015】つぎに、本装置の動作を図2の流れ図を参照して説明する。まず、ステップS11において入力手段13から初期脈波伝播時間変動分閾値△Ts と血圧変動分閾値△BPs が入力され、メモリ17に書き込まれる。続いて、ステップS12でキー14の入力の有無が判定され、キー入力が有れば、ステップS13において排気弁3と加圧ポンプ4がCPU1により制御され、カフ2を用いて患者の血圧測定が行なわれる。このとき、A/D変換器7から取り込まれたデータがCPU1の内部で処理され、オシロメトリック法で測定された血圧値BP1 がメモリ17に書き込まれる。続いて、ステップS14でA/D変換器9,12からCPU1に取り込まれたデータに基づき、心電図のR波の発生とほぼ同時に大動脈圧がボトム値となる時点から末梢血管側で脈波がボトム値となるまでの時間に相当する脈波伝播時間T1 が測定され、メモリ17に書き込まれる。次にステップS15で血圧値BP1が表示される。続いて、ステップS16で血圧値の測定データBP3 が有るか否かが判定され、データがなければ、ステップS19で血圧値BP1 をBP3 としてメモリ17に書き込むとともに、脈波伝播時間T1 をT3 としてメモリ17に書き込んだあと、ステップS12に戻る。
【0016】ステップS16で、血圧値の測定データBP3 がある場合は、次式に基づいてα,β,△Ts が算出される。
α=(BP1 −BP3 )/(T1 −T3 )
β=BP1 −αT1△Ts =△BPs /α算出された患者固有の定数α,βは、メモリ17に書き込まれ、のちに脈波伝播時間T2 から血圧を算出するのに用いられる。また、ステップS18において脈波伝播時間変動分閾値△Ts が算出された値に更新され、メモリ17に書き込まれる。続いて、ステップS19で血圧値BP1 をBP3 としてメモリ17に書き込むとともに、脈波伝播時間T1 をT3 としてメモリ17に書き込んだあと、ステップS12に戻る。
【0017】ステップS12で、再びキー入力の有無が判定され、キー入力がなければ、ステップS20においてA/D変換器9,12からのデータに基づき、脈波伝播時間T2 が測定されて、その値がメモリ17に書き込まれる。続いて、ステップS21では、測定した脈波伝播時間T2 とステップS17で求めた定数α,βを用いて次式により血圧値Pが算出され、メモリ17に書き込まれる。
P=αT2 +βステップS22では、測定した血圧値Pが表示器15に表示される。続いて、ステップS23では、先に測定された脈波伝播時間T3 のデータがあるか否かが判定され、データがなければステップS12に戻り、データがあれば、ステップS24においてT2 ,T3 を用いて次式に基づき脈波伝播時間変動分△Tが算出される。
△T=T2 −T3続いて、ステップS25においてステップS24で求めた脈波伝播時間変動分△Tが脈波伝播時間変動分閾値△Ts を超えているか否かすなわち△T>△Tsの式を満たすか否かが判定され、△T>△Ts でなければ、ステップS12に戻り一連の処理が再び繰り返される。
【0018】一方、ステップS25において△T>△Ts を満たすと判定された場合は、患者の血圧変動にショックなどによる急変があったとみなされ、ステップS13に処理が移行する。ステップS13では、患者の血圧変動の急変に対応するために、カフ2を用いた血圧測定が行なわれ、測定値BP1 がメモリ17に書き込まれる。続いて、ステップS14において再びA/D変換器9,12からのデータに基づき脈波伝播時間T1 が測定され、メモリ17に書き込まれる。ステップS15では、ステップS13で正確に測定した血圧値BP1 が表示器15に表示され、以降ステップS16に移行し同様な処理が繰り返される。
【0019】このように、脈波伝播時間を常時測定し、脈波伝播時間変動分△Tが脈波伝播時間変動分閾値△Ts を超えたか否かを判定することにより、患者の血圧変動の急変を監視するとともに、血圧変動の急変時にカフ2を用いた血圧測定を正確に行なうようにしているので、従来与えていた患者への負担を大幅に軽減できる。
【0020】さらに、この実施の形態では脈波伝播時間変動分閾値△Ts を更新できるので、患者の血圧変動の急変をより正確に監視することができる。さらに、脳波伝播時間計測処理は一拍ごとに行ってもよいし、一定時間ごとあるいは一定拍数ごとに行って平均値を求めるようにしてもよい。平均値を求めることで不規則に発生するノイズの影響をなくし精度のよい測定が可能となる。
【0021】
【発明の効果】以上説明したように請求項1に対応した本発明によれば、脈波伝播時間を逐次測定し、脈波伝播時間変動分が脈波伝播時間変動分閾値を超えたか否かにより、患者の血圧変動に急変が生じたか否かを判定するとともに、血圧急変時にカフを用いて患者の血圧を正確に測定するようにしているので、従来のように短い周期でカフを用いて血圧測定を行なったり、観血血圧測定を行なう場合のような苦痛が生ぜず、患者への負担を大幅に軽減することができる。さらに、カフによる血圧測定が行われると、患者固有の定数が求められ、これにより脈波伝播時間変動分閾値が更新されるので、より正確に患者の血圧変動の急変を監視できる。さらに、本発明によれば、外部からの操作に応じて上記血圧測定手段に測定開始を指示する指示手段を有しているので、本装置による監視を開始する前に、測定者が上記指示手段を介してカフによる測定開始を指示することによって、患者に固有の定数を求め、これにより脈波伝播時間変動分閾値を変更することができる。その閾値は患者に応じた値であるので、患者監視の当初から正確に血圧変動の急変を検出することができる。また、測定者は監視を開始する前に限らず、所望のときにカフによる測定を指示することができる。このため、測定者は所望のときに脈波伝播時間変動分閾値の校正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による血圧監視装置の実施の形態を示すブロック図である。
【図2】図1の血圧監視装置の動作を説明するための動作流れ図である。
【図3】脈波伝播時間を説明するための波形図である。
【符号の説明】
1 CPU
2 カフ
3 排気弁
4 加圧ポンプ
5 圧力センサ
6 カフ圧検出部
7,9,12 A/D変換器
8 時間間隔検出基準点検出部
10 光電脈波センサ
11 脈波検出部
13 入力手段
14 キー
15 表示器
16 メモリ(ROM)
17 メモリ(RAM)

【特許請求の範囲】
【請求項1】 カフを用いて血圧測定を行なう血圧測定手段と、外部からの操作に応じて上記血圧測定手段に測定開始を指示する指示手段と、外部から入力される脈波伝播時間変動分閾値と血圧変動分閾値とを記憶するメモリと、生体の大動脈側の脈波上の時間間隔検出基準点を検出する時間間隔検出基準点検出手段と、上記大動脈側の脈波より遅れて現われる末梢血管側の脈波を検出する脈波検出手段と、上記時間間隔検出基準点検出手段と上記脈波検出手段とのそれぞれの検出出力に基づき脈波伝播時間を計測する脈波伝播時間計測部と、計測した2つの脈波伝播時間から脈波伝播時間変動分を算出する第一の演算手段と、上記血圧測定手段により求めた2つの血圧値の差を、計測した2つの脈波伝播時間の差で除して被験者固有の定数を算出する第二の演算手段と、上記メモリから読み出される血圧変動分閾値を、算出された被験者固有の定数で除してメモリ内の脈波伝播時間変動分閾値を更新する第三の演算手段と、脈波伝播時間変動分閾値の更新を制御する第一の制御手段と、算出された脈波伝播時間変動分がメモリから読み出される脈波伝播時間変動分閾値を超えたか否かを判定する判定手段と、この判定手段の出力および上記指示手段の指示のいずれかに基づいて上記血圧測定手段を制御し、カフによる被験者の血圧測定を行なう第二の制御手段とを有することを特徴とする血圧監視装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平10−66681
【公開日】平成10年(1998)3月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−221577
【分割の表示】特願平7−56940の分割
【出願日】平成7年(1995)3月16日
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)