説明

血液から白血球を除去するための装置

中空糸が内腔と、内部の内腔側表面および外部表面を有する内腔を取り囲む壁面を有し、この際前記中空糸が流入装置と流出装置とを有する円筒形カバー内にあり、この際中空糸とカバーとの間に、流入装置と流出装置とを介して液体が到達可能な外部空間が形成されている、有機ポリマーベースの中空糸を多数含む、血液から白血球を減少させるための装置であって、中空糸の外部表面にのみ液体が到達可能であり、中空糸の内腔に液体は到達できず、中空糸の配置が高度の規則性を有し、かつ有機ポリマーベースの中空糸が、糸表面1m2あたり少なくとも10μgの濃度で補体活性化生成物C5aの形成作用をもたらすことを特徴とする装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液から白血球を除去するための装置に関する。
【0002】
血液は基本的に、血漿および細胞要素から成る。この要素に含まれるのは、赤血球、血小板(栓球)、および白血球である。白血球に含まれるのはリンパ球、単球、および好中顆粒球(好中球、PMN)である。リンパ球は特異免疫において決定的な役割を果たし、単球と好中球は非特異免疫防御、または炎症反応に関与するタイプの細胞である。これらの役割は例えば、特定の生体内タンパク質(例えば、補体系のC3b、または免疫グロブリンlgG)により相応して事前に異物と認められている、侵入してくる微生物を破壊することである。
【0003】
これらの細胞が侵入してきた微生物に近づくと、これらの細胞は酸素基とプロテアーゼを放出し、これらによって微生物は死に、この後に食菌される。この反応が不完全に進行する場合、またはこの反応が制御不能になってしまい慢性化する場合、攻撃性の酸素基およびプロテアーゼの放出によって生体自身の組織もまた傷つけられることがある。炎症の間、とりわけ様々なサイトカインを使用する活発なコミュニケーションと協調がすべてのタイプの細胞の間で起こる。この反応は非常に複雑であり、そして完全には解明されていない。しかしながらこの反応は最終的に、医療で観察される腫れ、赤み、そして発熱といった炎症性の症状につながる。とりわけ特徴的なのは、骨髄で形成されて血液中を循環する単球と好中球の増加、および特定のメッセンジャーの増加である。前述の炎症促進性のサイトカインに加え、補体タンパク質C3aとC5a(これらはタンパク質C3とC5の活性化により生成する)が形成され、そしてこれらが炎症反応の間の、または急性相反応の間の補体活性化の基準として用いられる。
【0004】
一連の炎症性疾病においては今日、体外的な治療が用いられており、その例は例えば潰瘍性大腸炎、クローン病、および関節リュウマチである。現在の技術水準によればこのために、患者の血液を体外に再循環させ、そして細胞フィルターで処理することにより一定の細胞数を(おそらく特に単球と好中球を)患者から取り除く。例えば、酢酸セルロースから成る粒子またはビーズで充填したカラムを白血球フィルターとして使用する。この場合、除去は主にビーズ表面にある細胞の細胞吸着によって行われる。このような製品は、すでに市販で入手可能である。この場合、血液は酢酸セルロースビーズを含むカラムを通じて導入される。酢酸セルロースビーズは特に、血液中の顆粒球と単球を吸着により減少させる。
【0005】
US6,498,007は、担体への吸着により血液から白血球を除去する方法を開示している。この際に血液を、好ましくはいわゆるビーズ形態のこの担体と接触させ、この際この担体は、非感染性の、活性化されていない、または非欠陥性の白血球よりも、感染性の、活性化された、または欠陥性の白血球に対してより高い親和性を有する。
【0006】
また別法としては不織布繊維または織布繊維も、白血球フィルターによる体外での除去のために使用される。例えば輸血用保管血液(例えば赤血球もしくは血小板)から白血球を除去するために、不織布繊維ベースの製品を使用し、この製品内では細胞の除去は主に不織布繊維を用いた機械的な濾過によって起こる。輸血のために典型的には、500mlのバッチ血液を30分以内に濾過する。この過程は重力を利用して一方向的に進み、循環には流れない。細胞フィルターを体外循環で使えるようにするには、約1〜6lの血液をポンプで送り込んで数時間で濾過できなければならない。このためには、端面に供給接続部と、その反対側の端面に放出接続部を有する、円筒形カバー内にあるポリプロピレン不織布が、市販で利用可能である。その場所で使用される不織布繊維により、濾過効果と吸着効果で白血球が取り除かれる。
【0007】
WO95/18665は、血漿または他の血液フラクションから、白血球とウイルス不活性化物質を除去するための、フィルターと方法を開示している。このフィルターは、織物繊維から成るネットに基づく。このネットには、ウイルス不活性化物質、または白血球に対して高い親和性を有する配位子が、共有結合している。この方法は選択的ではあるが、技術的には非常にコストのかかる方法である。と言うのもこれらの配位子は直接、またはリンカーによってポリマーマトリックスに結合されていなければならないからである。
【0008】
このようなフィルターによる白血球の除去は、不織布繊維に細胞を捕捉すること、ならびに多かれ少なかれ繊維表面に細胞を吸着させることに基づく。しかしながらこれらの方法においては、様々な血液細胞が高い機械的負荷にさらされ、このことが細胞活性化、それどころか血液細胞の破壊につながることもある。
【0009】
既存の装置と方法の根本的な欠点は、様々なタイプの細胞を適切に、または特定して吸着させることができないこと、および単球や顆粒球に加えてリンパ球、血小板、および赤血球までも吸着してしまうことにある。それぞれの場合において指摘したように、こうしたことは患者にとって不必要であるか、さらには有害ですらあり得る。特別な事例となるのは、血小板の吸着である。血小板は活性化後、凝血に関して中心的な役割を果たす。体外循環の間に血液凝固が起きることがないよう、この作用は例えば抗凝血剤としてのヘパリンの投与によって医薬的に打ち消さなければならない。抗凝血剤にも関わらず血液凝固が起こると、フィルターの目詰まりにつながる。
【0010】
従来の白血球フィルターのさらなる欠点は、臨床的な使用の前、フィルターの取り扱いが非常に困難なことである(例えば脱気に関して)。気泡は体外循環において、患者にとって潜在的な危険であり、このため非常に望ましくない。フィルターに存在する空気の除去が容易になればなるほど、取り扱いが改善され、かつ適用がより安全になる。
【0011】
従って本発明の課題は、血液から白血球を減少させるための簡便かつ使用効率のよい装置を提供することであり、該装置においては従来技術の欠点が少なくとも低減されている。
【0012】
この課題は、中空糸が内腔と、内部の内腔側表面および外部表面を有する内腔を取り囲む壁面を有し、この際中空糸は流入装置と流出装置とを有する円筒形カバー内にあり、この際流入装置と流出装置とを介して液体が到達可能な外部空間が、中空糸とカバーとの間に形成されている、血液から白血球を減少させるための、有機ポリマーベースの中空糸を多数含む装置により達成され、該装置は中空糸の外部表面にのみ、液体が到達可能であり、中空糸の内腔に液体は到達できず、糸の配列は高度な規則性を有し、かつ有機ポリマーベースの中空糸により、糸表面1m2あたり少なくとも10μgの濃度で補体活性化生成物C5aの形成作用をもたらすことを特徴とする。
【0013】
有機ポリマーベースの中空糸は、流入装置と流出装置とを有するカバー内に多数存在する。この際、中空糸がカバー内に挿入されていることによって、繊維周囲にカバーで仕切られた、かつ血液が貫流可能な外部空間が形成され、この際同時に流入装置と流出装置がカバー上で、中空糸周囲の外部空間のみに貫流可能なように実施されている。中空糸内部の内腔側表面、または中空糸の内腔は、本発明による装置では到達不可能である、すなわち中空繊維の内部表面に流入させること、または貫流させることはできない。従ってこのカバーは、内部表面へ流入させるためにふさわしい流入装置、および/または流出装置を有さない。
【0014】
血液から白血球を除去するための、本発明による装置の適用に不可欠なのは、中空繊維周囲の外部空間に血液を貫流可能なことである。つまり、中空繊維は外部表面周囲に液体を流すことができる。未公開の国際特許出願PCT/EP2006/008585にすでに示されているように、中空糸外部表面の周辺に液体を流すことにより、中空糸の内腔を貫流させるのに比べて、白血球の吸着に関して特別な利点が得られる。おそらく、中空糸において層状に流れるという条件により、内部の中空糸表面による血液の物質交換が、外部の中空糸表面の流れと比較して著しく減少されるのだろう。
【0015】
中空糸の外部表面にのみ到達できることによりまず、本発明による装置の単純な構成が可能になる。さらにこれと同時に、中空糸周辺の外部空間における圧力比という条件のため、血液または血液成分が中空糸の壁面に浸透し得ること、およびそこで凝集反応が起こることが避けられる。
【0016】
中空糸外部表面で、または中空糸周辺の外部空間でのみ到達可能であること、ひいては中空糸内腔へ到達できないことは、本発明によれば中空糸の端部が封止されていることによって実現されている。このために、中空繊維の端部が封止材内に存在し、かつ封止材によって封止されているように、中空繊維の端部をカバーの内側と結合された封止材に埋め込むことができる。本発明による装置の好ましい実施態様においてはこの際、中空糸が端部で別々に封止材に埋め込まれていてよく、かつこれらの封止材の間にほぼ直線的に伸びていてよい。この場合、多数の中空糸は基本的に平行な中空糸を有する糸の束として存在する。両側での埋め込みが、中空糸の設置の点で特に有利である。しかしながら中空糸はまた、両端部が同一の封止材に埋め込まれていてよく、この際、こうして形成されたU字型のループ周辺に液体を流すことができる。この場合、中空糸はその総体でループを形成することができるか、または各中空繊維が自身でループを形成することができ、かつその両端が同一の封止材に埋め込まれている。中空糸は一方の端のみで埋め込まれていてよく、この際もう一方の自由末端は、例えば溶接または接着により封止されており、このためその内部表面には到達できない。
【0017】
カバーは、その全長にわたって一定の直径を有することができる。しかしながら好ましくは、流入部または流出部の範囲にあるカバーは、拡張された直径を有し、該直径は流量分配器として役立ち、かつ均一な血液体積量が流れの断面に全体にわたるようになる。
【0018】
流入装置と流出装置は本発明による装置においてカバージャケット上に配置されていてよく、この際流入装置が好ましくは一方のカバージャケット端部にあり、流出装置がもう一方のカバー端部にある。流入装置と流出装置はカバーの同じ側にあってよいが、より有利なのは、対向側への取り付け、または少なくとも90゜、好ましくは180゜移動させた取り付けである。
【0019】
中空糸の封止は、以下に説明するように、中空糸を封止材に埋め込む、溶接する、または接着することによって行うことができる。しかしながら本発明にはまた、中空糸端部が直接封止されていない態様、例えば封止材に埋め込まれていることにより、中空糸が不透過性のカバーキャップにより封止されており、このことにより中空糸の内腔に液体が到達できないという実施態様も含まれる。
【0020】
好ましい実施態様においてはまた、流入装置および流出装置がカバーの端面にあってよい。中空糸が封止材にそれらの端部で埋め込まれている場合、流入装置および流出装置を端面中心部に取り付けた箇所で、多数の中空糸はそれらの端部で環状形に封止材中に埋め込まれており、この際中空糸の環状配置の内径は、流入装置および流出装置の外径と少なくとも同じ大きさであるのが望ましい。流入装置または流出装置は、端面中心部から封止材を通じてカバー内部へ、すなわち中空糸周辺の外部空間に導入されるように設計されている。
【0021】
中空糸を封止するための、および取り付けのための様々な可能性は、もちろん相互に組み合わせることができる。従って例えば、カバー端部にある端面の流入装置または流出装置を、カバージャケットのもう一方の端部にある流入装置または流出装置と横方向で組み合わせることができる。中空糸端部が流入側に埋め込まれており、かつ流出側で接着または溶接により封止されているか、そうでなければ自由末端であることも可能である。中空糸の自由末端があるカバー側は、エンドキャップにより封止されていてよく、この際流入装置または流出装置は、カバージャケット上もしくはエンドキャップの端面に取り付けるか、または封止材により導入されていてよい。
【0022】
さらに好ましい実施態様において、中空糸は平行な中空糸の複数の層中に存在し、この際平行な中空糸層は特に好ましくはマットとして実施されている。それぞれのマット内部の中空糸は、織り工程もしくはニット工程を適用した複数の横方向の糸により支持する。このような平行な中空糸の配置は例えば、EP285812に記載されている。特に好ましい実施態様において中空糸マットは、屈曲状に設置された唯一の中空糸から成り、この中空糸は織り工程もしくはニット工程により作成された複数の横方向の糸により同様に支持されている。この配置においては、マット全体に対して中空糸の両端部のみが封止されていなければならず、このため内部表面全体に到達不可能である。
【0023】
本発明による装置における使用のために中空糸マットは、複数の層、好ましくは10〜200のマット層で相互に重ね合わせることができ、この際それぞれのマット層は好ましくは1cmあたり3〜30の中空糸を含む。マット層の平行な中空糸は好ましくは、隣接するマット層の中空糸と、10゜〜90゜の角度で、特に好ましくは10゜〜40゜の角度で交差する。中空糸は端部で封止材に好ましくは別々に埋め込まれており、かつこれらの封止材により不透過性に封止されている。本発明による装置の好ましい実施態様は、圧力損失がとりわけ低いことにより特徴付けられる。加えて本発明による装置稼働の間、相互に交差するマット層によって優れた流量分散、および均一な血液層膜厚が得られる。
【0024】
本発明による装置における使用のために、中空糸マットは巻状体として実施されていてよく、かつ円形断面を有する円筒形カバー内にあってよい。中空糸が封止材に埋め込まれていることにより、中空糸の端部が封止材内部にあり、かつこの封止材により封止されている。しかしながら本実施態様においてはまた、カバーがエンドキャップもしくは封止材により封止されており、かつ中空糸マットがカバー内にのみ挿入されていれば充分であり、この際中空糸の端部が封止材に埋め込まれていない場合には、例えば接着もしくは溶接により封止されていなければならない。
【0025】
中空繊維間の流路が狭くもしくは小さくなりすぎること、および貫流不可能な領域が形成されることを防止するために、本発明による装置の好ましい実施態様において中空糸の外径は少なくとも150μm、好ましくは250μmである。このような中空糸は同時に容易に取り扱うことができ、そして必要とされる最小直径にも関わらず、中空構造のために重さが軽いことと材料コストが低いことにより特徴付けられる。さらに好ましくは、中空糸の外径は200μmを越えない、と言うのもそうでなければ、体積に対して僅かな表面しか吸着のために利用できなくなるからである。
【0026】
中空糸すべてが、血液と均一に接触して流れることを保証するために、本発明による装置の好ましい実施態様において中空糸を空間的に相互に離して、例えばいわゆるスペーサーヤーン(Spaceryarn)を用いて配置することができる。ふるい効果を避けるという点において、糸の離隔はとりわけ有利である。これにより基本的に平行に存在する中空糸間の均一な距離が保証されるので、このようなスペーサーヤーンはとりわけ有利である。このようなスペーサーヤーンを有する配置は例えば、EP732141、またはEP285812に記載されている。スペーサーヤーンは好ましくは同一の材料、例えば多数の平行な糸からなる。しかしながらまた、スペーサーヤーンとして特別な糸材料を用いることによって、血液中に含まれるさらなるタイプの細胞数を減少させることも可能である。
【0027】
血液中に含まれる細胞へのダメージを避けるために重要となるのは、血液が中空糸材料に侵入できないように、または中空糸材料を血液が貫流できないように中空糸材料が実現されていることである。これは一方では中空糸の封止により達成される。他方、好ましくは不透過性の表面、または最大孔径0.1μmの多孔質表面を有する中空糸を使用する。
【0028】
中空糸としては、不透過性の、または多孔質構造を有する中空繊維膜が、最も適している。このような膜は例えば、透析の際の血液処理のために使用する。この場合、中空繊維膜の孔径は、膜壁を血液が貫流できないように、すなわち血液が基本的に中空糸、もしくは中空繊維膜に侵入できないように選択すべきである。
【0029】
本発明による装置における中空糸の数は、好ましくは2,000〜20,000の範囲の中空糸、とりわけ好ましくは4,000〜14,000の範囲の中空糸である。
【0030】
有機ポリマーから成る中空糸によるカバーの充填率は、10〜70%の間、好ましくは30〜60%であるのが望ましい。糸の材料により、糸は液体と接触したときに様々なレベルで激しく膨潤しうるので、カバーの充填率の測定は、膨潤状態の糸を用いて測定するべきである。激しく膨潤する糸、例えばセルロースベースの糸においては、膨潤状態と非膨潤状態で、糸直径に関して大きな差異が観察された。従って膨潤が原因で、糸が乾燥状態で存在する時とは異なる充填率が生じる。これとは逆に、膨潤しない、またはほとんど膨潤しない糸、例えばポリスルホンから成る糸では、膨潤状態と非膨潤状態との間で充填率の測定において差異はほとんど、あるいはまったくなかった。
【0031】
一方では充分に大きな繊維表面を利用可能にするため、もう一方では本発明による方法において白血球を減少させる際のふるい効果を避けるために、カバーの充填率は、前述の範囲に限定されるべきである。
【0032】
本発明による装置は好ましくは、長さ対直径の比が少なくとも3:1、とりわけ好ましくは少なくとも5:1である。長さ対直径の比が少なくとも10:1である装置により、特に良好な結果が得られる。こうして稼働の間、接触時間が充分に長く、かつ本発明による装置を通る血液の流速が低くなりすぎないことを保証することができる。
【0033】
本発明の意味において高度の規則性とは、糸が相互に似た配置で存在するか、または糸の大部分が延長方向に沿って相互に隣接するように配置されていることと理解される。これらの糸は不織布繊維、不規則な糸(Wirrfaeden)、または不規則な繊維のマットとして配置されているのではなく、糸の配置は規則的な構造を有する。糸は端部の間で層内において互いに高度の規則性を有する。相互に平行に並ぶ直線的な糸の束が、理論的には最も高度の規則性を有する。本発明の意味において高い規則性を有するのは、波形の、またはカールした糸の束であり、この際に糸束の糸はすべて同一の延長方向を有する。本発明の意味において、ループに設置されている繊維の束もまた、高度の規則性を有する。この場合でも、糸の配置は互いに似ている。同様に高度の規則性とは、少なくとも30%の糸が平行に存在することと理解される。糸はさらに、複数の層内に存在する糸を含み、この際これらの糸は層内で基本的に相互に平行に配置されている。しかしながら一つの層の平行な糸は、他の層の平行な糸と交差することができる。このような配置は、EP285812に記載されている。本発明による高度の規則性を有する配置に含まれていないのは、繊維が完全に無秩序に、かつ相互に混合した不織布繊維、または不規則な繊維のマットである。不織布繊維と比較して本発明による高度の規則性を有する糸の配置は、より大きな比表面を有し、かつ本発明による方法の適用の際に均一な血液膜厚を有する。高度の規則性により、糸のそばを流れる血流の乱流性が僅かになり、かつ血液中に含まれる細胞が僅かな剪断負荷にしかさらされないようになる。これに加えて高度の規則性により、デッドスペース形成が回避され、好ましい流路、いわゆるシャントの形成が充分に回避される。このことによって、とりわけ穏やかな血液処理が達成される。
【0034】
また高度の規則性により、白血球数の減少が基本的にふるい効果によって起こるのではなく(例えば不織布繊維の場合には問題となるだろうが)、むしろ特に穏やかな血液処理を可能にする吸着効果によって起こるようになる。さらに、不織布繊維の場合に現れるふるい効果は、他の血液細胞成分、例えば血小板の望ましくない減少をも不可避的にもたらす。従って好ましくは多数の中空糸が、基本的に並行の糸を有する糸の束として配置されている。
【0035】
C5aは、血漿タンパクC5の分解生成物である。従って血液中のC5a濃度の最大値は、血漿中のC5の濃度によって限定されており、この際血漿中のC5濃度は個人的な変動に大きく影響され、この際この濃度は約40mg/l〜150mg/lであり得る。C5:C5aのモル質量比を根拠として、これにより血中で9mg/lという理論的な最大C5a濃度が得られる。
【0036】
補体活性化生成物C5aの濃度は、Marburg在のDRG Diagnotics社製のSandwich−ELISA(酵素結合免疫分析)を用いて血漿中で測定する。ヒトのドナー血液を糸と接触させた後(ヘパリン1mlあたり5回転)、血液1.8mlを様々な時間で取り除き、100mMのEDTA溶液0.2mlで停止させた。分析前に製造者の指示書に従い、C5を沈殿させた(血漿200μl+沈殿試薬200μl)。上澄み50μlを測定に使用する。分析器の測定感度は<0.02μg/l、血漿中のC5aの回収率は、86〜114%であり、変動係数は5〜8%(Intraassay)、または6〜10%(Interassay)である。測定するC5aの濃度は、血液の体積と糸の表面積に左右される。従って糸の外部表面に対してC5a濃度を測定するためには、試料中のC5aの絶対含分を測定し、外部の糸の表面と関連づけなければならない。この際、血液体積量(V)と糸の表面積(A)との比、V/Aを0.3L/m2に維持しなければならない。表面積に関連づけたC5a濃度の測定は、3時間の処理時間後、すなわち血液試料を糸の外部表面に沿って3時間流し、この際に直線的な流速は5〜30cm/分に維持しなければならない。測定結果はドナーによる個人的な変動に影響されるため、試料Nの数は少なくとも2であるのが望ましく、試料の平均値を記載するのが望ましい。
【0037】
理論と結びつけるつもりはないが、炎症性疾病の処置においては補体活性化が重要であり、そして補体活性化と組み合わせた白血球数の減少が、白血球数のみの減少よりも、いっそう効果的であると考えられる。このために補体の活性化(血中のC5a濃度により測定される)が、本発明による閾値以上でなければならない。
【0038】
白血球数パラメータとC5aとの間の関連はおそらく、特定の白血球がC5aにより活性化され得ることによる。C5aと他の要因による活性化は、細胞がより粘着性に(くっつくように)なり、従ってC5aを生成する表面とより強く結びつくという作用をもたらす。
【0039】
従って好ましくは、中空糸により補体活性化生成物C5aの形成が、糸の表面1m2あたり少なくとも75μgの濃度でさらに増加する作用がもたらされる。
【0040】
特に好ましくは、中空糸により補体活性化生成物C5aを、糸の表面1m2あたり少なくとも100μgの濃度で形成する作用がもたらされる。
【0041】
必要とされるC5aの形成はポリマーだけではなく、また不純物、またはポリマーの置換の程度に左右され、「有機ポリマーベース」という言葉は、ポリマー材料それ自体、置換体、およびこれらの混合物、これらの材料のコポリマー、ならびに場合により添加する補助材料もしくは添加剤、例えば親水化剤を含む。
【0042】
中空糸の配置は好ましくは、血液処理のための比表面を、処理すべき血液1mlあたり糸の表面の0.1〜100cm2、好ましくは処理すべき血液1mlあたり糸表面の0.5〜20cm2有する。処理すべき血液の量は、血液処理の持続時間と体積流量から求められる。
【0043】
有機ポリマーから成る中空糸は、天然ポリマー、もしくは合成的に製造されたポリマーから成る中空糸を含む。天然ポリマーから成る中空糸はとりわけ、セルロースポリマーベースのものであり、これらはまたいわゆるポリマー類似反応に供された中空糸を同様に含む。このようなセルロースベースの中空糸の例は、再生セルロース、酢酸セルロース、または変性セルロース、例えばセルロースエステル、セルロースエーテル、ベンジル基で変性したセルロース(ベンジルセルロース)、またはジエチルアミノエチルで変性したセルロース、またはこれらのセルロースポリマーの混合物である。本発明による方法において白血球数の大幅な減少は、セルロースポリマーベースの中空糸により達成される。とりわけ大きな減少は、再生セルロースから成る中空糸により得られる。さらには、キチンまたはキトサンベースの中空糸を使用することができる。
【0044】
有機ポリマーは、合成的な方法を用いて製造されるポリマーを含む。合成ポリマーから成る中空糸としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、またはポリエステルから成るポリマー、ならびにこれらの変性ポリマー、ブレンドポリマー、これらのポリマーのコポリマーから成るものを使用することができる:。好ましくはスルホンポリマー、例えばポリスルホン、またはポリエーテルスルホンをベースとするポリマーを使用する。これらのポリマーにさらなるポリマー、例えばポリエチレンオキシド、ポリヒドロキシエーテル、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、またはポリカプロラクトンを添加剤として混合することができる。これに加えて中空糸は、添加剤によるコーティングを有することができる。このような中空糸は好ましくは、親水化剤、例えばポリビニルピロリドン、または親水性に変性したポリビニルピロリドンポリマーを含む。
【0045】
本発明による装置は明らかに、全血中の白血球数を減少させるために適しているだけではなく、血漿中、もしくは他の血小板における残存白血球数を減少させるためにも適している。従って本発明の範囲において血液とは、全血、血漿、または血小板を意味すると理解される。
【0046】
記載した糸材料によって第一に白血球が減少することが判明した。とりわけセルロース糸材料を用いて、顆粒球と単球の数を主に減少させる。リンパ球は、セルロース材料によってごく僅かに減少するのみである。
【0047】
従って、本発明の方法の範囲においては、一つのグループの特定のタイプの細胞を適切に減少させる、例えば白血球のグループから単球と顆粒球(リンパ球は除く)を減少させることが可能になる。さらにセルロースベースの糸材料は、血小板が僅かにしか除去されないことにより特徴付けられる。
【0048】
特定の適用のために血液から付加的にリンパ球を適切に取り除くことも、特に有利になりうる。これらの適用事例には、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリスルホン、またはポリエーテルスルホンから成る糸が適している。リンパ球と白血球の減少が所望の場合には例えば、セルロース糸とPET糸との組み合わせを、本発明による装置に加える。
【0049】
血液から白血球を除去するための本発明による装置を、以下の図に基づいてより詳しく説明する。これらの図は本発明による装置の好ましい実施態様を示すが、これらの実施例は、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1aと1bは、カバージャケット上に流入装置と流出装置とを有する本発明による装置の好ましい実施態様を示す。
【図2】図2は、端面に流入装置と流出装置とを有する本発明による装置の好ましい実施態様を示す。
【0051】
図1aは、カバージャケット上に流入装置と流出装置とを有する本発明による装置の好ましい実施態様を示す。この実施態様において流入装置1はカバージャケット2の端部に位置し、流出装置3はカバージャケットのもう一方の端部に180゜の角度で取り付けられている。流入装置、および/または流出装置のために例えば、図示したルアーロック接続部を使用することができるが、当業者に公知の他の接続部もすべて、使用することができる。中空糸4の端部が封止材5内にあり、かつ封止材5によって封止されているように、中空糸4の端部がカバーの内側と結合された封止材5に埋め込まれている。埋め込まれた中空糸4の内腔には、中空糸の外部表面によってのみ到達可能である。図示した好ましい実施態様において中空糸4は、それらの端部で別々に封止材5に埋め込まれており、かつこれらの中空糸はこれらの封止材5の間で基本的に平行に伸びている。流入装置1の範囲、および流出装置3の範囲に、分流装置6がこの箇所で拡張されたカバー外径の形で存在し、よりよい血液分配に役立つ。
【0052】
図1bは、カバージャケットに流入装置1と流出装置3とを有し、かつ図1aと比べてより大きい長さ/直径比(約6:1)を有する、本発明による装置のさらなる好ましい実施態様を示す。
【0053】
図2は、カバー端面の中心部に取り付けられている流入装置1と流出装置3とを有する本発明による装置の好ましい実施態様を示す。この場合、流入装置1と流出装置3はまた、ルアーロック接続部により実現化されているが、当業者に公知のあらゆる他の接続部を使用することもできる。この好ましい実施態様において中空糸4はまた、それらの端部で別々に封止材5に埋め込まれており、これらの中空糸はこれらの封止材5の間で基本的に平行に伸びている。流入装置と流出装置を端面に取り付けることによって、多数の中空糸4はそれらの端部で流入装置および流出装置周辺にある封止材に円形状に埋め込まれている。図2に示したカバージャケット2の接続部7は封止されているが、装置使用の間に使用しても、また装置の換気のために使用してもよい。流入装置と流出装置は、端面から封止材を通してカバー内部に、すなわち中空糸周辺の外部空間に中心部で導かれるように形成されている。血液のよりよい分配のために流入装置1、およびまた流出装置3が、カバー内部に有孔管として実施されていてよく、この際、流入装置と流出装置の管形の端部が封止されている結果、流れ込む液体がこの有孔ジャケットを介してのみ、中空糸周辺の外部空間に流れることができる。
【符号の説明】
【0054】
1 流入装置、 2 カバージャケット、 3 流出装置、 4 中空糸、 5 封止材、 6 流量分配器、 7 接続部
【図1a】

【図1b】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸(4)が内腔と、内部の内腔側表面および外部表面を有する内腔を取り囲む壁面とを有し、この際前記中空糸が流入装置(1)と流出装置(3)とを有する円筒形カバー内にあり、この際中空糸(4)とカバーとの間に、流入装置(1)と流出装置(3)とを介して液体が到達可能な外部空間が形成されている、有機ポリマーベースの中空糸(4)を多数含む、血液から白血球を減少させるための装置において、
液体が中空糸(4)の外部表面にのみ到達可能であり、中空糸(4)の内腔に液体は到達できず、中空糸(4)の配置は高度な規則性を有し、かつ有機ポリマーベースの中空糸(4)が、糸表面1m2あたり少なくとも10μgの濃度で補体活性化生成物C5aの形成作用をもたらすことを特徴とする、血液から白血球を減少させるための装置。
【請求項2】
前記中空糸が、それらの端部で封止材への埋め込みにより、溶接または接着により封止されていることを特徴とする、血液から白血球を減少させるための、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
中空繊維の端部が封止材内に存在し、かつ封止材により封止されており、かつ中空糸がそれらの端部で別々に封止材に埋め込まれており、かつこれらの封止材の間で基本的に直線的に延びているように、中空糸の端部がカバー内部と結合された封止材に埋め込まれていることを特徴とする、血液から白血球を減少させるための、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
流入装置がカバージャケットの一方の端部にあり、かつ流出装置がカバーのもう一方の端部にあることを特徴とする、血液から白血球を減少させるための、請求項1から3までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記流入装置と流出装置が、端面中心部から封止材を通ってカバー内部、すなわち中空糸周囲の外部空間に導かれるように形成されていることを特徴とする、血液から白血球を減少させるための、請求項1から3までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
有機ポリマーベースの糸の糸直径が、150μm〜2000μmであることを特徴とする、血液から白血球を減少させるための、請求項1から5までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記中空糸が、不透過性の、または多孔質の構造を有する中空糸であり、かつこの多孔質構造を有する中空糸が最大0.1μmの孔径を有することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の、血液から白血球を減少させるための装置。
【請求項8】
カバー内の糸の充填率が、10%〜70%の範囲であることを特徴とする、血液から白血球を減少させるための、請求項1から7までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
有機ポリマーベースの前記中空糸が1またはそれ以上の層に存在し、かつ糸が層内で基本的に平行であることを特徴とする、血液から白血球を減少させるための、請求項1から8までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記中空糸が、糸の表面1m2あたり少なくとも75μgの血液濃度で補体活性化生成物C5aの形成作用をもたらすことを特徴とする、血液から白血球を減少させるための、請求項1から9までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
有機ポリマーベースの前記中空糸が、再生セルロース、酢酸セルロース、またはベンジル基で変性したセルロース(ベンジルセルロース)から成ることを特徴とする、血液から白血球を減少させるための、請求項1から10までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
有機ポリマーベースの糸が、基本的にポリエーテルスルホン、またはポリスルホンから成ることを特徴とする、血液から白血球を減少させるための、請求項1から11までのいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
多数の糸の配置が、付加的にポリエチレンテレフタラートから成る糸も含むことを特徴とする、血液から白血球を減少させるための、請求項1から12までのいずれか1項に記載の装置。

【図2】
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【公表番号】特表2010−515503(P2010−515503A)
【公表日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545142(P2009−545142)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際出願番号】PCT/EP2008/000128
【国際公開番号】WO2008/083965
【国際公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(300083158)メムブラーナ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (14)
【氏名又は名称原語表記】Membrana GmbH
【住所又は居所原語表記】Oehder Strasse 28, D−42201 Wuppertal, Germany
【Fターム(参考)】