説明

血液をその成分に分離するための細胞分離装置用のチューブセットおよび血液をその成分に分離するための方法

【課題】 大きな支出を要することなく患者の負担を軽減して、ウイルス処理を施される血液成分の採取を可能とする細胞分離装置用チューブセットおよびこのようなチューブセットを備えた細胞分離装置を提供し、また患者の負担を軽減してウイルス処理を施される血液成分の採取を可能とする簡素化された方法を提供すること。
【解決手段】 細胞分離のために供血者の血液が分離ユニット1に供給され、そのなかで血液成分の少なくとも1つが分離されて収集容器24に集められ、少なくとも1つの分離不可能な成分は再び戻される。分離されたおよび/または分離不可能な単数または複数の成分は、細胞分離中、ウイルスが除去されまたはウイルスの感染力が低減されるように処理される。このため、細胞分離装置内に挿入されるべきチューブセットの戻り管路8中にウイルス処理ユニット13が介設されている。細胞分離後に血液成分の付加的処理は必要でない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、チューブ系と血液をその成分に分離するための分離ユニットとを備えた細胞分離装置用のチューブセットおよび血液をその成分に分離するための方法に関する。本発明は更にこのようなチューブセットを備えた細胞分離装置に関する。
【0002】
【従来の技術】特定血液成分からなる濃縮物を採取するためのさまざまな装置および方法が公知である。例えば血小板濃縮物を採取するために供血者の血液が体外循環中に遠心分離にかけられ、その成分に分離される。この血液分離では第1段において2つの相への、つまり実質的に赤血球からなる分画と実質的に多血小板血漿からなる分画とへの、血液の粗分離が行われる。これら両相の間に白血球混合物の濃縮層(Anreicherung)がある。次に第2分離段では多血小板血漿が少血小板血漿と希望する血小板濃縮物とに分離され、この血小板濃縮物は血小板減少症患者の治療に利用される。残りの血液成分は遠心分離後に再び1つにまとめられ、供血者に供給される。このような方法を実施するための装置が例えばDE4227695A1により公知である。しかし血小板濃縮物の代わりに同じ装置を使って中間相から白血球濃縮物も採取することができる。その際に白血球混合物が濃縮され、次に循環式に容量制御下にチャンバーから抽出される。
【0003】細胞分離法の他に、ウイルスを除去しまたはウイルスの感染力を低減するさまざまな方法が公知である。
【0004】血液中のウイルスを吸着するための方法をEP0110409A1が述べている。血液中のウイルスを不活化するための方法がWO91/03933により公知である。血液をフェノチアジン色素と混合し、引き続き光を照射することによって、不活化は行われる。ウイルス不活化のための細胞濃縮物用フォトフェレシス療法(photopheretische Behandlung)がBlood, Vol. 82, No. 1 (July 1), 1993: pp 292〜297に述べられている。セルロース膜を使ったウイルス除去方法が論文Vox. Sang 1989; 56; 230〜236により公知である。
【0005】ウイルスの除去もしくは不活化と遠心分離による血液成分の採取は、各血液成分がまず集められ、次に初めて当該処理を施されるとき、実際にはきわめて時間がかかり適用者にあまり好まれないものであることが明らかではあるが、先行技術において別々の方法として知られている。これは多くの操作者と大きなスペースを必要とする。体外血液循環の実施は患者にとって高い循環負荷を意味しており、しかも血液を抗凝固剤と混ぜねばならず、そのことによっても凝固系が強く負荷される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、大きな支出を要することなく患者の負担を軽減してウイルス処理を施される血液成分の採取を可能とする細胞分離装置用チューブセットおよびこのようなチューブセットを備えた細胞分離装置を提供し、また患者の負担を軽減してウイルス処理を施される血液成分の採取を可能とする簡素化された方法を示すことである。
【0007】
【課題を解決するための手段】この課題の解決が本発明によれば請求項1、5もしくは9の特徴によって行われる。
【0008】患者の循環系および凝固系の負担軽減は、本発明によれば、2つの体外処理法を1つの体外循環路内で実施することによって達成される。つまり、血液成分が戻されまたは集められるよりも前にウイルス処理が行われる。細胞分離とウイルス処理が1つの処理ステップにおいて実施され、これにより、血液成分の分離は時間の消費が少なくなり、適用者に親しめるものとなる。
【0009】好ましい実施態様では、処理ユニットが、収集管路または戻り管路の処理ユニットに通じた部分に接続される入口と、収集管路または戻り管路の処理ユニットから分岐する部分に接続される出口とを有する。従って細胞分離装置のチューブ系は、処理ユニットと共に、簡単に操作することのできる無菌セットを形成する。使用後、チューブ系は処理ユニットと共に単純に廃棄することができる。この処理ユニットは、好ましくは、戻り管路を介して再び戻される分離されてない成分中、特に血漿中のウイルスを除去しまたはウイルスの感染力を低減するのに利用される。
【0010】処理ユニットはコネクタを利用してチューブ系に接続しておくことができる。しかし、処理ユニットをチューブ系の一体な構成要素とすることも可能である。処理ユニットが収集管路または戻り管路中に介設されていないとき、収集管路または戻り管路の両方の部分を互いに接続することができるように、処理ユニットを接続するためのコネクタは構成しておくことができる。処理ユニットなしでもチューブ系を作動させることができるようにするために、処理ユニットはバイパス管路で架橋しておくこともでき、バイパス管路を開路もしくは閉路するための遮断部材、例えばチューブ鉗子がこのバイパス管路中に配置されている。
【0011】処理ユニットの透過性を監視するために、好ましくは、処理ユニットの上流で膜間圧を測定する圧測定装置が設けられている。
【0012】本発明による方法の利点は、主に赤血球からなる分画と主に多血小板血漿からなる分画が第1分離段で分離され、第2分離段では白血球濃縮物が採取されるようになった細胞分離装置において特に発揮される。ウイルスを除去しまたはウイルスの感染力を低減するための処理ユニットは、好ましくは、供血者に再び供給される血漿用の第2分離段から分岐する戻り管路に組み込まれている。
【0013】白血球の照射によって例えばHIV、CMV、肝炎ウイルスを不活化することができる限りで、白血球の同時分離は有利である。これにより、ウイルス不活化の効果はなお高めることができる。というのも、このような照射処理によって急激なウイルス感染力低減の他に、白血球中でのウイルス複製も防止することができ、従って一種の長期効果を達成することができるからである。
【0014】ウイルス活性低減処理を施すことのできる血漿と照射を施すことのできる白血球との採取は、2段分離ユニット内だけでなく、1段分離ユニット内でも実施可能である。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明による細胞分離装置の1つの実施例とこの細胞分離装置用のチューブセットを以下に図面を参考にして詳しく説明する。
【0016】図1には細胞分離装置の主要構成要素が示してあるだけであり、使い捨て用に指定されたチューブセットをこの細胞分離装置に挿入することができる。全血をその成分に分離するための装置は先行技術に属すので、本発明を理解するには略示図で十分である。血液細胞分離装置は例えばUSP3655123、4056224、4108353により公知である。このような血液遠心分離中に相界面を監視する装置が例えばEP0116716により公知である。以下の説明ではこの開示をはっきりと参考にする。
【0017】細胞分離装置に挿入される使い捨て用に指定されたチューブセットは分離ユニット1、例えば分離チャンバーと、チューブ系とを含む。チューブセットの分離ユニット1は細胞分離装置の図示しない遠心分離器に挿入され、第1分離段1aを有する。供血者の分離される血液、いわゆる全血VBが、この分離段に供給される。この第1分離段において全血は2つの相に粗分離される。第1分画は実質的に赤血球RBCからなり、第2分画は実質的に血漿からなる。これら両方の相の間に白血球混合物の濃縮層がある。第1分離段からの赤血球は戻される。溜まってくる白血球は周期的に分離チャンバー1の第2分離段1bに送られて白血球濃縮物として分離され、血漿と残成分は第2分離段から戻され、採取された白血球濃縮物は集められる。
【0018】チューブ系は動脈側全血接続口3、例えば針を有し、分離チャンバー1の第1分離段1aに通じた血液供給管路4がこの針に接続されている。血液供給管路4が蠕動全血ポンプ5に挿入されており、このポンプが供血者の血液を吸引して分離チャンバー内に送る。赤血球は、分離チャンバーの第1分離段に接続される戻り管路6を介して抽出される。第1戻り管路が気泡検知器7の第1入口に通じている。血漿を送るために設けられている収集管路または戻り管路8は一方で分離チャンバー1の第2分離段1bに、他方で気泡検知器7の第2入口に、接続されている。収集管路または戻り管路8は蠕動血漿ポンプ10に挿入されている。気泡検知器7の出口から共通の戻り管路11が静脈側全血接続口12、例えば針に通じている。
【0019】ウイルスを除去しまたはウイルスの感染力を低減するための処理ユニット13が血漿ポンプ10の下流で収集管路または戻り管路8中に介設されている。
【0020】処理ユニットは、収集管路または戻り管路の処理ユニットに通じた部分に接続された入口13aと、収集管路または戻り管路の気泡検知器7に通じた部分に接続された出口13bとを有する。処理ユニット13はさまざまに構成しておくことができ、例えばウイルスを除去するために、論文Vox.Sang 1989;56:230〜236により公知のセルロース膜を備えていることができる。
【0021】処理ユニット13の膜間圧を監視するために、図示しない圧測定装置を接続するためのコネクタ16を有するチューブ管路15がY継手14を介して分岐している。チューブ管路15は細菌濾過器17で無菌閉鎖されている。
【0022】血漿を供血者に戻すのではなく、集めることができるようにするために、処理ユニット13の下流で収集管路または戻り管路8からY継手18を介して分岐した収集管路19がトランスファーバッグ20に通じている。血漿を集めるのか、それとも戻すのかに応じて、これら両方のチューブ管路の一方がチューブ鉗子21、22によって挟止される。
【0023】採取された白血球濃縮物用の収集管路23が分離ユニット1の第2分離段1bから分岐して他のトランスファーバッグ24に通じている。この収集管路23が蠕動細胞ポンプ25に挿入されており、このポンプが第2分離段から白血球濃縮物を抽出してトランスファーバッグ内に送る。
【0024】細胞ポンプ25の下流で収集管路23からY継手26を介して分岐した他の戻り管路27は気泡検知器7の上流でY継手28を介して戻り管路6に接続されている。容量/時間を制御されて分離ユニットの第2分離段から残血液成分が戻り管路27を介して抽出される。
【0025】チューブ系が更にACD管路29を備えており、この管路は動脈側全血接続口3の近傍でY継手30を介して血液供給管路4に通じ、ACDポンプ52に挿入されている。ACD管路29は、その末端にACDバッグ32に接続するためのコネクタ31を有する。ACD管路中にドロップチャンバー33が介設されている。
【0026】更にチューブ系が2つの洗浄液管路34、35を備えており、これらの管路は静脈側全血接続口12もしくは動脈側全血接続口3の近傍でY継手36、37を介して血液供給管路4もしくは共通戻り管路11に通じている。洗浄液管路34、35は、それらの末端に、洗浄液バッグ40に接続するためのコネクタ38、39を有する。ドロップチャンバー41もしくは42とチューブ鉗子43もしくは44が洗浄液管路中に介設されている。動脈圧を監視するために全血ポンプの上流で血液供給管路に入口圧モニタ53が接続されている。
【0027】チューブ系はなお他の構成要素、例えばコネクタ、細菌濾過器またはチューブ鉗子を備えていることができるが、しかし見易くするためにそれらは図示されていない。例えば、トランスファーバッグ20、24はチューブ系に直接接続するのではなく、コネクタを介して接続しておくことができる。
【0028】分離チャンバー1から抽出される血漿が処理ユニット13を貫流するので、血漿に含まれたウイルスが除去されまたはウイルスの感染力が低減される。血漿は供血者に直接戻しまたはトランスファーバッグ内に集めることができる。従って、分離操作終了後にその他のウイルス処理措置が必要ではない。
【0029】トランスファーバッグ24内に集められた白血球濃縮物は、例えばBlood, Vol. 82, No. 1 (July), 1993: pp 292〜297に述べられているように、ウイルスを不活化するための照射処理を施すことができる。
【0030】図2は、チューブ系の選択的実施例の部分図を示す。図2のチューブ系は、処理ユニット13が収集管路または戻り管路8に直接接続されているのでなく、当該コネクタを介して接続されている点で、図1の実施例とは相違している。管路8の処理ユニット13に通じた部分と処理ユニットから分岐する管路部分とに接続されたコネクタ45、46は処理ユニットの入口13aおよび出口13bの当該コネクタ47、48に接続されている。管路8の一方の部分からY継手49を介して分岐するバイパス管路50は管路8の他の部分でY継手51に通じている。バイパス管路を開路もしくは閉路するためにチューブ鉗子54が設けられている。
【0031】図3は処理ユニット13が使い捨て品として構成される他の実施例を部分図で示す。管路8の処理ユニットに通じた部分が雄ルエル・ロック・コネクタ(Luer-Lock-Konnector)56を有し、管路8の気泡検知器7に通じた部分は雌ルエル・ロック・コネクタ55を有し、処理ユニット13の供給管路57と排出管路58とには相補的ルエル・ロック・コネクタ60、59が設けられている。処理ユニット13がチューブセットから分離されると、管路8の両方の部分はコネクタ53、54によって互いに接続することができる。管路部分8を遮断するためにチューブ末端に鉗子61、62が取付けられている。
【図面の簡単な説明】
【図1】細胞分離装置の主要構成要素を、使い捨て用に指定されたチューブセットと共に示す略示図である。
【図2】図1のチューブセットの選択的実施例を示す部分図である。
【図3】図1のチューブセットの他の実施例を示す部分図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 細胞分離装置用のチューブセットであって、血液をその成分に分離するための分離ユニット(1)とチューブ系とを有し、このチューブ系が、分離ユニットに通じた、血液を供給するための1つの血液供給管路(4)と、分離ユニットから分岐した、分離された成分を抽出するための少なくとも1つの収集管路(23)と、分離ユニットから分岐した、分離されてない成分を戻すための少なくとも1つの戻り管路(8)とを備えているものにおいて、分離された及び/又は分離されてない単数又は複数の成分中でウイルスを除去しまたはウイルスの感染力を低減するための処理ユニット(13)を特徴とするチューブ系。
【請求項2】 処理ユニット(13)がチューブセットとで一体な密閉系を形成することを特徴とする、請求項1記載のチューブセット。
【請求項3】 処理ユニット(13)が入口(13a)と出口(13b)とを有し、収集管路(23)または戻り管路(8)の処理ユニットに通じた部分に前記入口が接続され、収集管路または戻り管路の処理ユニットから分岐する部分に前記出口が接続されていることを特徴とする、請求項1または2記載のチューブセット。
【請求項4】 処理ユニット(13)の上流で膜間圧を測定する圧測定装置用の接続口(16)がチューブ系に設けられていることを特徴とする、請求項3記載のチューブ系。
【請求項5】 分離ユニット(1)が、主に赤血球からなる分画と主に多血小板血漿からなる分画とに血液を粗分離するための第1分離段(1a)と、この第1分離段の後段に設けられた白血球濃縮物を採取するための第2分離段(1b)とを有し、赤血球分画戻り管路(6)が第1分離段から分岐し、白血球濃縮物収集管路(23)と血漿戻り管路(27)が第2分離段から分岐しており、第2分離段から分岐する血漿戻り管路(8)に処理ユニット(13)が割り当てられていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項記載のチューブセット。
【請求項6】 血液をその成分に分離するための分離ユニット(1)とチューブ系とを有するチューブセットを備えた細胞分離装置であって、チューブ系が、分離ユニットに通じた、血液を供給するための1つの血液供給管路(4)と、分離ユニットから分岐して収集容器(24)に通じた、分離された成分を抽出するための少なくとも1つの収集管路(23)と、分離ユニットから分岐した、分離されてない成分を戻すための少なくとも1つの戻り管路(8)とを有するものにおいて、分離されたおよび/または分離されてない単数または複数の成分中でウイルスを除去しまたはウイルスの感染力を低減するための少なくとも1つの処理ユニット(13)を特徴とする細胞分離装置。
【請求項7】 処理ユニット(13)がチューブセットとで一体な密閉系を形成することを特徴とする、請求項6記載の細胞分離装置。
【請求項8】 処理ユニット(13)が入口(13a)と出口(13b)とを有し、収集管路または戻り管路(8)の処理ユニットに通じた部分に前記入口が接続され、収集管路または戻り管路の処理ユニットから分岐する部分に前記出口が接続されていることを特徴とする、請求項6または7記載の細胞分離装置。
【請求項9】 処理ユニット(13)の上流で膜間圧を測定する圧測定装置用の接続口(16)がチューブ系に設けられていることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか1項記載の細胞分離装置。
【請求項10】 分離ユニット(1)が、主に赤血球からなる分画と主に多血小板血漿からなる分画とに血液を粗分離するための第1分離段(1a)と、この第1分離段の後段に設けられた白血球濃縮物を採取するための第2分離段(1b)とを有し、赤血球分画戻り管路(6)が第1分離段から分岐し、白血球濃縮物収集管路(23)と血漿戻り管路(27)が第2分離段から分岐しており、第2分離段から分岐する血漿戻り管路(8)に処理ユニット(13)が割り当てられていることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか1項記載の細胞分離装置。
【請求項11】 血液をその成分に分離するための方法であって、血液が分離ユニットに供給され、そのなかで血液成分の少なくとも1つが分離されて収集容器に集められ、少なくとも1つの分離されてない成分が再び戻されるようになったものにおいて、ウイルスが除去されまたはウイルスの感染力が低減されるように、分離されたおよび/または分離されてない単数または複数の成分が処理されることを特徴とする方法。
【請求項12】 分離ユニットの第1分離段において血液が主に赤血球からなる分画と主に多血小板血漿からなる分画とに分離され、分離ユニットの第1分離段の後段に設けられた第2分離段から白血球濃縮物が抽出されかつ血漿が戻され、戻された血漿はウイルスを除去しまたはウイルスの感染力を低減するために処理されることを特徴とする、請求項11記載の方法。
【請求項13】 第2分離段から抽出された白血球濃縮物はウイルスを不活化するために照射されることを特徴とする、請求項12記載の方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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