説明

血液処理フィルター

【課題】出口側容器がフィルター要素に密着することなく、血液の流れが阻害される恐れのない、かつ耐圧性、耐剥離性に優れた可撓性の血液処理フィルターを提供する。
【解決手段】可撓性シート8に血液入口側容器、血液出口側容器2’と血液から微小凝集物と白血球または微小凝集物と白血球と血小板を除去するためのシート状フィルター要素3,4からなる血液処理フィルターであり、シート状フィルター要素3,4は前記夫々の容器で挟み込まれ、周縁部にて前記夫々の容器に固定され、内部が入口側空間と出口側空間とに仕切られており、シート状フィルター要素と出口側容器との間に、厚みが0.5〜5mm、開孔率30〜70%、開孔部を含む総面積が有効濾過面積に対する面積比で10〜90%のスペーサが、シート状フィルター要素の周縁部にてフィルター要素および前記夫々の容器のいずれにも固定されていないことを特徴とする血液処理フィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液から凝集物や白血球等の好ましくない成分を除去する為の血液処理フィルターに関する。特に輸血用の全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などから輸血副作用の原因となる微小凝集物や白血球を除去する目的で用いられる、精密で使い捨ての血液処理フィルターに関するものであって、特に容器の材質として可撓性材料が用いられている血液処理フィルターに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドナーから採血された全血は、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤等の血液成分製剤に分離され、貯蔵された後に輸血されるのが一般的となりつつある。またこれらの血液製剤に含まれる微小凝集物や白血球が種々の輸血副作用の原因となることから、輸血の前にこれらの好ましくない成分を除去してから輸血する、または、採血後これらの好ましくない成分を除去してから保存した後に輸血に用いる方法が多く用いられている。
【0003】
血液製剤から白血球を除去する為の方法としては、血液製剤を白血球除去フィルターで処理するのが最も一般的である。従来、この白血球除去フィルターによる血液製剤の処理は、輸血操作を行う際にベッドサイドで行われることが多かったが、近年では白血球除去製剤の品質管理、及び白血球除去処理の安定性向上の為に、血液センターに於いて保存前に行われることが一般的になりつつある。白血球除去フィルターには、不織布や多孔質体からなるフィルター要素を、採血分離セットのバッグに使用されているものと同一または類似の、可撓性かつ蒸気透過性に優れる素材の容器に充填した、可撓性容器の白血球除去フィルター、および不織布や多孔質体からなるフィルター要素をポリカーボネート等の硬質容器に充填した硬質容器の白血球除去フィルターの二種類が用いられている。
【0004】
通常これらの白血球除去フィルターで血液を処理する際は、フィルターの血液入口側に導管を介して接続されている、処理されるべき血液製剤が入ったバッグを、フィルターよりも20cmから100cm程高い位置に置き、重力の作用によって血液製剤をフィルターに通し、フィルターの血液出口側に導管を介して接続された回収バッグに濾過後の血液製剤を収容する。可撓性容器の白血球除去フィルターの場合、濾過の最中にはフィルター要素の抵抗によって圧力損失が生じ、フィルター入口側の空間は陽圧となる。可撓性容器からなるフィルターの場合、容器が可撓性であるが故、この陽圧によって容器は風船状に膨らみ、フィルター要素は出口側の容器に押しつけられる。
【0005】
一方、出口側容器とフィルター要素との空隙は、出口に接続された導管内の血液が重力によって流下して、通常フィルターよりも50〜100cm低い位置に置かれた濾過後の血液を収納するためのバッグへと移動しようとするため、この作用によって逆に陰圧となり、可撓性容器はフィルター要素に密着し、更に血液出口の開口部がふさがれた状態となる。即ち、血液はフィルター内から流出しようとするが、開口部が閉塞されているため、血液が流れ出すことが困難となる。
【0006】
この問題を解決する方法として、先行技術には、フィルター要素と出口側容器との間に連接棒と呼ばれる軟質塩ビチューブを挿入して密着を防ぐ方法(特許文献1)や、軟質容器内面に高低差0.2〜2mmの凹凸をつけて密着を防ぐ方法(特許文献2)、ニットファイバー製のスクリーン等を挿入する方法(特許文献3)、メッシュまたは突起状物等を配置する方法(特許文献4)等が提案されている。
しかしながら、特許文献1に記載されている連接棒を挿入する方法では、フィルター要素と出口側容器との間の空間を保つために多くの連接棒を必要とし、そのために製造工程が複雑になり、またコストが増すことになる。特許文献3、特許文献4に記載されるように、スクリーン、メッシュまたは突起状物を挿入する方法では、コストが増すだけでなく、スクリーンやメッシュのような太い繊維を可撓性容器に溶着しようとする場合、通常の溶着では十分に繊維を押し潰すことができないためリークなどの問題が生じ、逆に通常より強い条件で溶着すると可撓性容器の強度が低下してしまう。また、突起状物を用いる場合では、別部材を挿入することによる容器の溶着不良を起こす危険性がある。特許文献2に開示された方法は、連接棒やスクリーン、メッシュまたは突起状物を挿入する方法の問題点を解決する方法として提案されたものの、凹凸部を持つ容器の均一な溶着は難しく、安定した強度が得難い。
【0007】
血液の流れが阻害されるのを防ぐとともに、耐圧性、耐剥離性に優れた可撓性の血液処理フィルターとして、第一、第二のフィルター要素と出口側容器との間に厚み1cmに換算した時の通気度が3〜40cc/cm/秒で、厚みが0.04〜0.25cmである第三のフィルター要素が配置されている血液処理フィルターが提案されている(特許文献5)。この血液処理フィルターは従来のものに比べ、濾過時の圧力や遠心操作時のストレスに対しても十分な強度を有しており、かつ濾過時間の短縮効果も見られているが、それでも第三のフィルター要素中を濾過面に対して平行方向へ流れる時の通液抵抗が高く血液の流れが阻害されるため、必ずしも十分な効果が得られていない。また、50〜5000μmの孔径を有する多孔質体もしくは不織布を配置したフィルター(特許文献6)についても、同様の理由で十分な効果が得られていない。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0526678号明細書
【特許文献2】特開平11−216179号公報
【特許文献3】特開平7−267871号公報
【特許文献4】国際公開第95/17236号パンフレット
【特許文献5】特開2003−180822号公報
【特許文献6】国際公開第02/04045号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、濾過時に生ずる入口側の陽圧によってシート状フィルター要素が出口側容器に押しつけられ、および/または出口側の陰圧によって出口側容器がシート状フィルター要素に張り付くことにより、出口側容器がシート状フィルター要素に密着することを防止した血液処理用フィルターを提供することである。より具体的には、上記の作用を有することにより、血液の流れが阻害される恐れのない、即ち血液の流れが均一で血液処理速度の速い可撓性の血液処理フィルターを提供するとともに、耐圧性、耐剥離性に優れ、濾過時の圧力や遠心操作時のストレスに対しても十分な強度を持つ可撓性の血液処理フィルターを提供することにある。
【0009】
さらにはスクイージング操作やポンプによる急速濾過で発生する更に高い圧力にも耐えて、リークや破裂や剥離を生じない可撓性の血液処理フィルターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、例えば出口側容器とシート状フィルター要素との間であって、有効濾過面の中央部に切り欠きを設けたシート状のスペーサを配置することにより、血液が流れる時の通液抵抗が下がり、出口側が陰圧であってもスペーサによって血液の通る空間が保持され、かつ血液の流れは阻害されないことを見出した。その結果、血液が濾材を均一に流れ、濾過時間が大幅に短縮されるだけではなく、濾材が有効に使用されるため濾過効率が飛躍的に向上することを見出し、さらに別の部材を溶着することによる容器の溶着不良を起こすことがなく、耐圧性、耐剥離性の面において格段に優れた強度を持つ血液処理フィルターが得られることを見出し、本発明を得るに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下を含む。
(1)可撓性シートに血液入口が取付けられた入口側容器と、可撓性シートに血液出口が取付けられた出口側容器と、血液から微小凝集物と白血球または微小凝集物と白血球と血小板を除去するためのシート状フィルター要素とからなり、シート状フィルター要素が前記夫々の容器で挟み込まれ、その周縁部にて前記夫々の容器に固定されることにより、内部が入口側空間と出口側空間とに仕切られてなる血液処理用フィルターにおいて、シート状フィルター要素と出口側容器との間に、厚みが0.5〜5mm、開孔率30〜70%、開孔部を含む総面積が有効濾過面積に対する面積比で10〜90%のスペーサが配置され、該スペーサはシート状フィルター要素の周縁部にてフィルター要素および前記夫々の容器のいずれにも固定されていないことを特徴とする血液処理フィルター。
(2)スペーサが、有効濾過面の重心を中心に有効濾過面形状を1/16収縮した面を覆っている(1)の血液処理フィルター。
(3)スペーサの周辺部の一部と出口側可撓性容器とがフィルター要素の固定部以外で接合されている(1)または(2)の血液処理フィルター。
(4)スペーサの材質が可撓性容器の材質と同じである(1)乃至(3)の何れかの血液処理フィルター。
【発明の効果】
【0012】
本発明の血液処理フィルターは、濾過時に生ずる入口側の陽圧および/または出口側の陰圧によってシート状フィルター要素が出口側容器に押しつけられたり、出口側容器がシート状フィルター要素に張り付つけられても、出口側容器がシート状フィルター要素に密着することなく、血液の流れが阻害される恐れのない可撓性の血液処理フィルターとなった。
【0013】
また、耐圧性、耐剥離性に優れ、濾過時の圧力や遠心操作時のストレスに対しても十分な強度を持つ可撓性の血液処理フィルターとなった。さらにはスクイージング操作やポンプによる急速濾過で発生する更に高い圧力にも耐えて、リークや破裂や剥離を生じない可撓性の血液処理フィルターとなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の血液処理フィルターの全体的形状は、平板状であり、その平面が矩形状、円盤状、長円板状などのいずれでも良いが、フィルター製造時の材料ロスを少なくするためには、矩形状が好ましい。なお、正方形や菱形も矩形状の一種と見なすこととする。
【0015】
本発明に用いる可撓性容器は、可撓性の合成樹脂製のシート状成形物から形成されるのが好ましく、さらに熱可塑性樹脂であることが好ましい。シート状であることが必要なのは、フィルター要素と可撓性容器、或いは可撓性容器どうしの接着の際、厚みが均一なシート状であることが必要なためであり、接着部が均一の厚みであれば、シートまたはフィルム、更には射出成形品から可撓性容器が作られていてもシート状成形物から形成されているとみなすことができる。
【0016】
本発明の可撓性容器には、シート、フィルムとして市販されている材料であれば使用することができる。例えば、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィン、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体の水添物、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体またはその水添物等の熱可塑性エラストマー、及び、熱可塑性エラストマーとポリオレフィン、エチレン−エチルアクリレート等の軟化剤との混合物等が好適な材料として挙げられる。血液と接触するので、可撓性容器の材質は、好ましくは血液バック等の医療品の材料として用いられている、軟質塩化ビニル、ポリオレフィン、及び、これらを主成分とする熱可塑性エラストマーであり、更に好ましくは軟質塩化ビニルである。
【0017】
本発明のシート状フィルター要素は、血液から微小凝集物と白血球、または微小凝集物と白血球と血小板を除去するためのものであり、不織布や織布などの繊維状多孔性媒体や、スポンジ状構造物などの三次元網目状連続細孔を有する多孔質体などの公知の濾過媒体を用いることができる。メッシュやスクリーンなど、シート状フィルター要素と可撓性容器との空間を作るものは、溶着性に優れないので該当しない。これらフィルター要素の素材としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、スチレン−イソブチレン−スチレン共重合体、ポリウレタン、ポリエステル、等が挙げられる。フィルター要素が不織布である場合には、生産性の点から特に好ましい。
【0018】
本発明で用いられるシート状フィルター要素は、単一のシート状フィルター要素でもよく、複数のシート状フィルター要素からなってもよい。複数のシート状フィルター要素からなる場合、上流に配置された微小凝集物を除去する第一のシート状フィルター要素と、第一のシート状フィルター要素の下流に配置された白血球または白血球と血小板を除去するための第二のシート状フィルター要素からなるのが好ましい。例えば、入口側に繊維径が数〜数十μmの不織布からなるシート状フィルター要素を凝集物除去の為の第一のシート状フィルター要素として配置し、次に、繊維径が0.3〜3.0μmの不織布からなるシート状フィルター要素を、白血球または白血球と血小板を除去するための第二のシート状フィルター要素として配置し、更に下流側に特定の空間を有するポストフィルターを積層して用いる場合もある。
【0019】
第一、第二のシート状フィルター要素は、それぞれが更に複数種類のシート状フィルター要素から構成されていても良く、片方のみが複数種類のシート状フィルター要素から構成されてもよい。例えば、繊維径が30〜40μmの不織布および/または繊維径が10〜20μmの不織布からなる第一のフィルター要素を上流側に配置し、第一のシート状フィルター要素の下流側に繊維径が1.5〜2.5μmの不織布および/または繊維径が0.5〜1.8μmの不織布からなる第二のシート状フィルター要素を配置して用いても良い。また、太い繊維径の不織布と細い繊維径の不織布が交互に配置されていても良いが、太い繊維径の不織布が上流側に配置されている方が好ましい。
【0020】
以下、本発明のフィルターの詳細な構造について、図面を参照しながら説明する。
図2は本発明の血液処理フィルターの一例を示す全体図である。図2に示すように、本発明においては、可撓性容器のうち、ろ過される血液を導入する側の容器を入口側容器2、ろ過された血液が導出される側の容器を出口側容器2’と称する。これらは互いに対称的な構造または同一構造であるのが一般的であるが、それに限定される必要はない。
入口側容器2には、容器の外部から内部へ液体を漏れなく流通させる血液入口1が、また出口側容器2’には、容器の内部から外部へ液体を漏れなく流通させる血液出口5が取付けられている。このような容器構造は、予め開口部を一箇所設けた容器用の可撓性シートを作成し、その容器開口部に、別途成型した血液入口1(血液出口5)を接着または溶着して液密に取付けることにより得られる。血液入口1と血液出口5のうち少なくとも血液出口5は、後述する入口側容器2、出口側容器2’およびシート状フィルター要素3,4とが固定された周縁部よりも内側に設けられている場合に、本発明においてより効果的である。血液入口1(血液出口5)の外側開口部1a(5a)と内側開口部1b(5b)は、図6のAのように互いに対面するものや、図6のBおよび図2のように互いに対面せず、外側開口部1a(5a)がシート状フィルター要素のシート面に対して略垂直になる形状でもよい。
【0021】
本発明の血液処理用フィルターは、シート状フィルター要素が前記夫々の容器で挟み込まれ、その周縁部にて前記夫々の容器に固定されることにより、内部が入口側空間と出口側空間とに仕切られている。この固定は溶着によって行われる。
【0022】
本発明の可撓性容器とシート状フィルター要素の溶着形態は、例えば可撓性容器を直接シート状フィルター要素とポストフィルターに溶着させる容器溶着型、フィルター要素を一旦シート状の可撓性フレームに溶着した後に、該フレームを可撓性容器と溶着するフレーム溶着型などいずれの形態でもよい。製造工程が少なく、また原材料のロスが少ない点で容器溶着型が好ましい。
【0023】
図1および2は、容器溶着型のフィルター作製過程を示す図である。血液入口1が設けられた入口側容器2と、血液出口5が設けられた出口側容器2’とで第一、第二のシート状フィルター要素3,4を挟み込み(図1を参照)、その周縁部を二重に溶着することにより、容器溶着型血液処理フィルター装置を得ることができる。なお、二重に溶着するとは、シート状フィルター要素と入口側(出口側)容器とを溶着した第1シール区域6と、入口側容器と出口側容器とを直接溶着した第2シール区域7とを形成することをいう。
また、図3および4は、フレーム溶着型のフィルター作製過程を示す図である。第一、第二のシート状フィルター要素3,4をフレーム状可撓性シート8で挟み込んでフレーム部を溶着した後、これを、血液入口1が設けられた入口側容器2と、血液出口5が設けられた出口側容器2’とで挟み込み(図3を参照)、その周縁部で入口側容器2、フレーム状可撓性シート8および出口側容器2’を溶着することにより(図4を参照)、フレーム溶着型血液処理フィルター装置を得ることができる。
【0024】
本発明の可撓性容器またはフレーム状可撓性シートとシート状フィルター要素との溶着は、高周波溶着、超音波溶着による内部溶着、ヒートシールによる外部溶着などの方法で行うことが出来るが、均一な溶着性という点で高周波溶着が好ましい。溶着を行う場合は、シート状フィルター要素の最外層、つまり可撓性シートと接するシート状フィルター要素の空隙部に溶融した可撓性シート材が入り込み、冷却後、各繊維をアンカーの如くした溶着面が形成されることが重要である。そのために、最外層のフィルター要素の繊維径を大きくすることで孔径(空隙)を大きくすることが好ましい。
【0025】
また、最外層のシート状フィルター要素の融点は、可撓性シート材料の融点より高いことが望ましい。これは、可撓性シート材料とシート状フィルター要素に接着性がない場合でも、可撓性シート材が溶融して最外層のフィルター要素の中に入り込み、内層部のシート状フィルター要素が最外層のフィルター要素と接着することにより、可撓性シート材料とシート状フィルター要素との接着部が高い強度を得ることができるためである。可撓性シート材料とシート状フィルター要素に接着性がある材料どうしの組合せの場合、繊維径、孔径、及び融点はこのようになっている必要はない。
【0026】
本発明のスペーサとは、厚みが0.5〜5mm、開孔率30〜70%、開孔部を含む総面積が有効濾過面積に対する面積比で10〜90%の開孔を持つシート状成形物のことを言う。
本発明において、スペーサの厚さは0.5〜5mmである事が必要である。これは、厚さが0.5mm未満の場合、血液の流れる空間が小さいのでスペーサとしての機能を殆ど発揮できず、流速向上の効果が小さくなる。反対に5mmを越える場合、濾過終了後に血液処理用フィルター内部に血液が残ってしまい、血液の回収量の低下が発生する。また、溶着時に、可撓性容器の溶着部を高周波溶着等で溶融させたときスペーサの厚さが厚い場合、溶着部が引張られるため、溶着部脇の厚さが薄くなる。スペーサの厚みが薄い場合溶着部脇が薄くなることを防げるため、リーク等が発生することを防ぐことができ、製品使用時に発生するフィルター内圧によるリーク等の発生を防ぐことができる。好ましくは1〜3mmである。
【0027】
本発明において、スペーサの開孔率は、(スペーサの開孔部の面積/スペーサの開孔部を含む面積)×100で定義される。この開孔率が大きいほど、スペーサとシート状フィルター要素、及びスペーサと入口側容器または出口側容器との接触が少なくなり、シート状フィルター要素と可撓性容器の間を流体が流れるときの抵抗が小さくなることにより、流体の流れ性が向上する。そのため30%以上の開効率が必要となる。但し、開孔率が大きくなりすぎると、工業的に取り扱う場合にハンドリングが困難となるため開効は70%以下である必要がある。つまり、スペーサの開効率は30〜70%である必要がある。より好ましくは30〜60%、更に好ましくは30〜50%であれば更に高い効果を発揮することができる。
【0028】
本発明において、スペーサの開孔部を含む面積がフィルター要素の有効濾過面積に対し10%以上のスペーサを配置すれば、入口側容器もしくは出口側容器とシート状フィルター要素、または、可撓性フレームとシート状フィルター要素の溶着時に、溶融、固化し、収縮したために発生するシート状フィルター要素のしわを減少させることができる。また、出口側容器とシート状フィルター要素との間の流れに対して抵抗を減少させることが可能となる結果、高い流速を得ることが可能となる。
【0029】
一方、スペーサの開孔部を含む面積がフィルター要素の有効濾過面積に対し90%以下のスペーサを配置すれば、高周波溶着等の方法を用いてシート状フィルター周縁部を固定する際、スペーサと固定部に十分な距離を確保できるため、スペーサが固定部に挟まれることなく容器の耐圧性や剥離性を低下させることが無い。従って、スペーサの開孔部を含む面積はフィルター要素の有効濾過面積に対し10〜90%である必要があり、より好ましくは20〜85%、更に好ましくは30〜80%であれば更に高い効果を発揮することができる。
【0030】
スペーサを配置する際、その周囲が可撓性容器とシート状フィルター要素、または、可撓性フレームとシート状フィルター要素との溶着部より5mm以上離れていることが好ましい。溶着時に、溶着部にシート材料が挟まれることを確実に防ぐことが可能になるためである。溶着部が直線でない場合は、平行な線と仮定して5mm以上離れていれば問題はない。この大きさであれば、溶着時にスペーサの厚みにより影響を受け、可撓性容器の溶着部脇の厚さが薄くなりリーク等が発生することを防ぐことができ、製品使用時に発生するフィルター内圧によるリーク等の発生を防ぐことができる。
【0031】
ここで、図6を用いて血液処理フィルター内の血液の流れを説明する。図6において矢印が示すように、血液流入口から流入した血液は、シート状フィルター要素の抵抗が高いことと、シート状フィルター要素を通過するよりも血液流入口から流入する血液量の方が多いことにより、先ずは入口側容器との隙間を満たす。続いて、血液がシート状フィルター要素を通過し始め、今度は濾過された血液がシート状フィルター要素と出口側容器との隙間を満たしつつ血液流出口から流出する。これをシート状フィルター要素の平面側から見れば、血液流入口から流入した血液は、流入口直下から放射状にシート状フィルター要素表面を覆い、一方、反対面では濾過された血液がシート状フィルター要素表面から反放射状に血液流出口へ流れていく。
【0032】
また、血液処理フィルターにおいては、フィルター内部の血液の流れをより効率的にするため、血液流入口と流出口がシート状フィルター要素の面に正対称にはならず、互いに離間する形状が一般的である。
【0033】
以上を考慮すると、シート状フィルター要素の表面では、血液流入口方向から流出口方向への血液の流れが生じやすいため、スペーサはこの血流方向に沿った縦リブが配置されている(血流方向に沿った開口部を有する)ことが流れ性の点から好ましい。例えば、図6に示す矩形フィルターの場合は、図7に示すように長手方向に縦リブが設けられた形状が好ましい。また、図示しないが、血液流入口と血液流出口とがシート状フィルター要素の中央で正対称になる場合には、スペーサは中央から放射状にリブが伸展した形状が好ましい。
【0034】
スペーサのリブについては横リブ、すなわち、図7の矩形における短方向のリブを設けてあっても好ましい。横リブを設けるのは、リブ全体が一体化された方が、工業的に取り扱う上でハンドリングが容易となるからである。さらに横リブは、縦リブと直交する必要はなく縦リブをつなげるように配置されていれば良い。縦リブ、横リブともに、直線である必要はなく曲線になっていても問題はない。
【0035】
縦リブの間隔は1〜7mmである事が好ましい。より好ましくは2〜5mmである。これは、縦リブ同士の間隔が1mm未満の場合、血液の流れる空間が小さく流速向上の効果が小さくなる傾向にあるためである。反対に、間隔が7mmを越える場合には、血液処理用フィルターの出口側空間の陰圧が大きくなった際、出口側容器とシート状フィルター要素との接触面積が著しく増大し、スペーサとしての機能を殆ど発揮できなくなる。その結果、流速向上の効果が小さくなる傾向にあり、血液の回収量の低下も発生し易くなる。
【0036】
一方、縦リブの幅は1〜10mmであることが好ましい。縦リブの幅が1mm未満の場合、シート状フィルター要素と可撓性容器との間に挟まれた場合に縦リブが変形しやすく、シート状フィルター要素と可撓性容器との隙間を保てなくなる恐れがある。反対に、幅が10mmを越える場合、大きいほどスペーサとシート状フィルター要素、及びスペーサと可撓性容器との接触が大きく、流体の流れの抵抗となる。より好ましくは1〜7mm、更に好ましくは1〜5mmであれば更に高い効果を発揮することができる。
【0037】
本発明のスペーサは、必ずしもシート状フィルター要素の有効濾過面積の中心に配置する必要はない。ただし、可撓性容器とシート状フィルター要素、または、可撓性フレームとシート状フィルター要素との溶着時に、溶融、固化、収縮の過程でシート状フィルター要素にしわが発生することがあり、そのしわは、有効濾過面に対しての重心を中心に有効濾過面形状を1/16収縮した面が大きい場所となる。例えば、矩形状の場合、対角線に沿ってしわが発生するため、対角線の交点付近が最も凹凸の大きい場所となり、それは重心を中心に有効濾過面形状を1/16収縮した面付近となる。従って、その部分にスペーサを入れることにより、シート状フィルター要素と出口側容器との間の流れ抵抗を減少させることができるため、高い流速を得ることが可能となるため好ましい。更に好ましくは1/9以上を覆うと、高い流速を得ることができる。
【0038】
スペーサは、その周辺部の一部で、シート状フィルター要素の固定部以外の出口側容器の内側に接合されていることが好ましい。そうすることにより、シート状フィルター要素と可撓性容器、可撓性容器と可撓性シート状フレームとを溶着する際に、スペーサの位置がずれて、スペーサを挟んだまま溶着してしまうことを回避できる。また、流体のろ過中に、濾材のしわの部分からずれることで、効果が低下することを防ぐことができる。接合の方法としては、高周波溶着、超音波溶着、ヒートシール等の材料どうしを溶融させ貼り付ける方法、接着剤を用いて貼り付ける方法等を用いることができるが、安全性の観点から、他の物質を使用しない、溶融しての貼り付けが好ましい。
【0039】
スペーサの材質が可撓性容器の材質と同じ場合、スペーサの周辺部の一部を出口側容器に固定する際に接着性が優れるため、加工性がよく好ましい。
【0040】
[実施例]
以下、実施例に基づき、本発明の血液処理フィルターについて詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0041】
(1)血液処理フィルターの流れ性試験の方法
本発明の血液処理フィルターを、貯留バッグと回収バッグとの間に配置し、貯留バッグに接続した入口側導管を血液処理フィルターの血液入口へ、回収バッグに接続した出口側導管を血液処理フィルターの血液出口へそれぞれ接続した。また、それぞれの導管として、内径3mm、外径4.2mmの塩化ビニル製のチューブを使用し、入口側導管の長さを35cm、出口側導管の長さを85cmとした。入口側導管をクランプで閉じた後、注射用蒸留水(大塚製薬株式会社製)にポリビニルピロリドン(以下、PVPと言うことがある。和光純薬工業株式会社製)を添加し、粘度を10.0mPa・Sに調製したPVP水溶液460gを貯留バッグへ入れた。
【0042】
システム全体を吊り下げ、また、回収バッグを天秤の上に静置した後、入口側導管を閉じているクランプを開放し、濾過を開始した。クランプを開放した時間からPVP溶液が回収バッグに到達するまでの時間をプライミング時間とした。
さらに、PVP溶液が回収バッグに到達してから貯留バッグのPVP溶液が空になるまでの時間を処理時間とした。貯留バッグが空になった後、1分毎に回収バッグを載せた天秤の値の読み取り、1分間の天秤の値の変動が0.5g以下になった時点で回収を終了し、貯留バッグが空になってから回収が終了するまでの時間を回収時間、回収終了時の天秤の値を回収量とした。
【0043】
(2)血液処理用フィルターのリーク検査方法
血液処理用フィルター装置に一定圧力をかけ、リークの発生の有無を確認する方法である。血液出口は、片止めした軟質ポリ塩化ビニル製チューブを接着し密封した。血液入口に圧気ラインを接続した導管を接続する。その後、フィルター装置を水温25℃の水中に沈め、フィルター装置を水中に沈めたままの状態で、導管から30kPaの空気を注入し、フィルター装置の第1シール区域から空気が漏れるか、確認を行う。10個検査し、その発生率をリーク発生率とする。
【実施例1】
【0044】
繊維径12μm、目付30g/m、厚さ0.189mmのポリエステル不織布である第一のフィルター要素、繊維径1.2μm、目付40g/m、厚さ0.235mmのポリエステル不織布である第二のフィルター要素を、それぞれ第一のフィルター要素を血液の入口側、出口側にそれぞれ4枚で、第二のフィルター要素を25枚重ねたものを挟みフィルター要素とした。
血液入口の付いた塩化ビニル樹脂製シートからなる入口側可撓性容器、シート状フィルター要素、厚さ1.2mm、寸法45mm×65mmの塩化ビニル樹脂製シートの中央に寸法4mm×55mmの開口部6個を開口部の間隔(縦リブの幅)2mmで配置したスペーサ、血液出口の付いた塩化ビニル樹脂製シートからなる出口側可撓性容器、をこの順序に配置した。このように、シート状フィルター要素とスペーサを入口側可撓性容器と出口側可撓性容器で挟んだ状態で、スペーサを有効ろ過面の中央に配置し、フィルター要素がスペーサを挟み込まないで可撓性容器と一体化するように溶着し、有効濾過部の平面寸法が65mm×85mmの容器溶着型血液処理フィルター装置を作成した。
流れ性試験を行ない、プライミング時間、処理時間、回収時間、回収量を測定した。開効率、開口部を含む総面積が有効濾過面積に対する面積比、リーク発生率および結果を表1に示す。
【実施例2】
【0045】
厚さ0.8mm、寸法45mm×65mmの塩化ビニル樹脂製シートの中央に、寸法4mm×55mmの開口部6個を開口部の間隔(縦リブの幅)2mmで配置したスペーサを用いた以外は実施例1と同じ方法でフィルターを作成し、流れ性試験を行ない、プライミング時間、処理時間、回収時間、回収量を測定した。開効率、開口部を含む総面積が有効濾過面積に対する面積比、リーク発生率および結果を表1に示す。
【実施例3】
【0046】
厚さ1.2mm、寸法30mm×30mmの塩化ビニル樹脂製シートの中央に、寸法3.75mm×25mmの開口部4個を開口部の間隔(縦リブの幅)3mmで配置したスペーサを用いた以外は実施例1と同じ方法でフィルターを作成し、プライミング時間、処理時間、回収時間、回収量を測定した。開効率、開口部を含む総面積が有効濾過面積に対する面積比、リーク発生率および結果を表1に示す。
【実施例4】
【0047】
厚さ2.7mm、寸法45mm×65mmの塩化ビニル樹脂製シートの中央に、寸法4mm×55mmの開口部6個を開口部の間隔(縦リブの幅)2mmで配置したスペーサを用いた以外は実施例1と同じ方法でフィルターを作成し、流れ性試験を行ない、プライミング時間、処理時間、回収時間、回収量を測定した。開効率、開口部を含む総面積が有効濾過面積に対する面積比、リーク発生率および結果を表1に示す。
【実施例5】
【0048】
厚さ1.2mm、寸法45mm×65mmの塩化ビニル樹脂製シートの中央に、寸法4mm×7mmの開口部36個を横方向に6個、縦方向に6個、横方向の開口部の間隔(縦リブの幅)2mm、縦方向の開孔部の間隔(横リブの幅)1.4mmで配置したスペーサを用いた以外は実施例1と同じ方法でフィルターを作成し、流れ性試験を行ない、プライミング時間、処理時間、回収時間、回収量を測定した。開効率、開口部を含む総面積が有効濾過面積に対する面積比、リーク発生率および結果を表1に示す。
【実施例6】
【0049】
厚さ1.2mm、寸法55mm×75mmの塩化ビニル樹脂製シートの中央に、寸法6.5mm×71mmの開口部7個を開口部の間隔(縦リブの幅)1mmで配置したスペーサを用いた以外は実施例1と同じ方法でフィルターを作成し、流れ性試験を行ない、プライミング時間、処理時間、回収時間、回収量を測定した。開効率、開口部を含む総面積が有効濾過面積に対する面積比、リーク発生率および結果を表1に示す。
【0050】
[比較例1]
スペーサを配置しなかったこと以外は実施例1と同じ方法でフィルターを作成し、プライミング時間、処理時間、回収時間、回収量を測定した。開効率、開口部を含む総面積が有効濾過面積に対する面積比、リーク発生率および結果を表2に示す。
【0051】
[比較例2]
厚さ7mm、寸法45mm×65mmの塩化ビニル樹脂製シートの中央に、寸法4mm×55mmの開口部6個を開口部の間隔(縦リブの幅)2mmで配置したスペーサを用いた以外は実施例1と同じ方法でフィルターを作成し、プライミング時間、処理時間、回収時間、回収量を測定した。開効率、開口部を含む総面積が有効濾過面積に対する面積比、リーク発生率および結果を表2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
表1の結果から、スペーサを挿入しない場合(比較例1)は、処理時間、回収時間ともに長く操作上の問題が懸念された。また、スペーサの厚さが必要以上に大きい場合(比較例2)は、通常の操作でフィルター要素と容器の周縁部を溶着する際に可撓性容器の溶着部脇の厚さが薄くなりリークの発生が見られたため、不良品の発生が懸念された。
これらに対して、スペーサが特定の大きさ,配置の場合には、いずれもそれらの欠点が解消された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明血液処理フィルターは、輸血治療の現場で、主に輸血用の血液から微小凝集物と白血球、または微小凝集物と白血球と血小板を除去するためのフィルターとして有用であり、また本発明血液処理フィルターは体外循環白血球除去療法に用いられるフィルターとしても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】容器溶着型の血液処理用フィルターを作製する前の、各部品が積層された断面模式図。
【図2】図1の積層物を溶着して作製された、本発明の血液処理用フィルター装置の例を示す断面模式図。
【図3】フレーム溶着型の血液処理用フィルターを作製する前の、各部品が積層された断面模式図。
【図4】図3の積層物を溶着して作製された、本発明の血液処理用フィルター装置の例を示す断面模式図。
【図5】図4をさらに別仕様の、可撓性容器を用いたときの例を示す断面図。
【図6】血液処理フィルター内の血液の流れを示す模式図
【図7】本発明のスペーサの形状の例
【符号の説明】
【0057】
1:血液の入口
2:可撓性容器
3:第一のフィルター要素
4:第二のフィルター要素
5:血液の出口
6:第1シール区域
7:第2シール区域
8:可撓性フレーム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性シートに血液入口が取付けられた入口側容器と、
可撓性シートに血液出口が取付けられた出口側容器と、
血液から微小凝集物と白血球または微小凝集物と白血球と血小板を除去するためのシート状フィルター要素とからなり、
シート状フィルター要素が前記夫々の容器で挟み込まれ、その周縁部にて前記夫々の容器に固定されることにより、内部が入口側空間と出口側空間とに仕切られてなる血液処理用フィルターにおいて、
シート状フィルター要素と出口側容器との間に、厚みが0.5〜5mm、開孔率30〜70%、開孔部を含む総面積が有効濾過面積に対する面積比で10〜90%のスペーサが配置され、該スペーサはシート状フィルター要素の周縁部にてフィルター要素および前記夫々の容器のいずれにも固定されていないことを特徴とする血液処理フィルター。
【請求項2】
スペーサが、有効濾過面の重心を中心に有効濾過面形状を1/16収縮した面を覆っている請求項1記載の血液処理フィルター。
【請求項3】
スペーサの周辺部の一部と出口側可撓性容器とがフィルター要素の固定部以外で接合されている請求項1または2記載の血液処理フィルター。
【請求項4】
スペーサの材質が可撓性容器の材質と同じである請求項1乃至3の何れかに記載の血液処理フィルター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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