説明

血液処理フィルター

【課題】出口側容器とフィルター材との間の密着等により流れが阻害されたり濾過性能を低下されたりすることを回避して、単位時間・単位面積当たりの処理量を増加させることができる血液処理フィルターを提供することである。
【解決手段】フィルター材5と、フィルター材5を挟んで配置された入口側容器9、及び出口側容器11と、入口側容器9、及び出口側容器11によって、フィルター材5の略周縁を環状にシールすることで形成されたシール部13と、を備えた血液処理フィルター1Aであって、シール部13の厚み方向の中心を通る仮想平面20を基準にして、仮想平面20と出口側容器11とで形成される出口側空間Aout、及び仮想平面20と入口側容器9とで形成される入口側空間Ainを仮定した場合に、フィルター材5は、出口側空間Aoutに比べて入口側空間Ainに偏って配置されていることを特徴とする血液処理フィルター1Aに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液から凝集物や白血球等の好ましくない成分を除去する為の血液処理フィルターに関する。特に、この血液処理フィルターは、重力落差によって白血球含有血液を濾過する場合に用いられる白血球除去フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
輸血の分野において、血液製剤中に含まれている混入白血球を除去してから血液製剤を輸血する、いわゆる白血球除去輸血が普及している。これは、輸血に伴う頭痛、吐き気、悪寒、非溶血性発熱反応などの比較的軽微な副作用や、受血者に深刻な影響を及ぼすアロ抗原感作、ウィルス感染、輸血後GVHDなどの重篤な副作用が、主として輸血に用いられた血液製剤中に混入している白血球が原因で引き起こされることが明らかにされたためである。白血球除去方法には、いくつかの方法があるが、そのうちフィルター法は、白血球除去性能に優れていること、操作が簡便であること、及びコストが安いことなどの利点を有するため現在普及している。
【0003】
フィルター法、すなわち白血球除去フィルターによる血液製剤などの処理は、輸血操作を行う際にベッドサイドで行われることが多かったが、近年では白血球除去血液製剤の品質管理を徹底するために、血液センターにおいて濾過が行われることが一般的である。通常、血液センターで白血球除去フィルターを使用して血液を濾過する際は、濾過されるべき血液製剤が入った血液バッグをフィルターよりも20cmから100cm高い位置に置き、重力の作用によって血液製剤を濾過することが一般的に行われている。
【0004】
近年、保存前白血球除去率の増加に伴い、血液処理を行うフィルターの数は増加している。また、保存前に白血球除去を行う施設の統合が進み、1つの施設で処理する血液の数は非常に増えている。
【0005】
可撓性容器の白血球除去フィルターの場合、濾過の最中にはフィルター材の抵抗によって圧力損失が生じ、フィルター入口側の空間は陽圧となる。可撓性容器からなるフィルターの場合、容器が可撓性であるが故、この陽圧によって容器は風船状に膨らみ、フィルター材は出口側の容器に押しつけられる。
【0006】
一方、出口側容器とフィルター材との空隙は、出口に接続された導管内の血液が重力によって落下して、通常フィルターよりも50cm〜100cm低い位置に置かれた濾過後の血液を収納するためのバッグへと移動しようとするため、この作用によって逆に陰圧となり、可撓性容器はフィルター材に密着する傾向を示す。即ち、フィルター材は二重の力によって出口側容器と密着し、血液の流れが阻害されて単位時間・単位面積当たりの処理量が減少してしまう場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−245342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、出口側容器とフィルター材との間の密着等により流れが阻害されたり濾過性能を低下されたりすることを回避して、単位時間・単位面積当たりの処理量を増加させることができる血液処理フィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、白血球除去フィルターを鋭意検討した結果、出口側容器とフィルター材との密着を防止するために、フィルター材をできるだけ入口側に偏らせて配置することで上記の課題を解決できることを見出した。すなわち本発明は、以下に関するものである。
【0010】
すなわち、本発明は、フィルター材と、フィルター材を挟んで配置された入口側容器、及び出口側容器と、入口側容器、及び出口側容器によって、フィルター材の略周縁を環状にシールすることで形成されたシール部と、を備えた血液処理フィルターであって、シール部の厚み方向の中心を通る仮想平面を基準にして、仮想平面と出口側容器とで形成される出口側空間、及び仮想平面と入口側容器とで形成される入口側空間を仮定した場合に、フィルター材は、出口側空間に比べて入口側空間に偏って配置されていることを特徴とする血液処理フィルターに関する。なお、本発明における血液とは、輸血用の全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などの血液製剤を含む。
【0011】
この血液処理フィルターによれば、フィルター材が入口側空間に偏って配置されているので、例えば、重力落差で血液処理フィルターに血液を流し込む濾過方法を行った場合であっても、出口側容器とフィルター材との間での全面にわたる密着を回避して血液の流路を確保でき、単位時間・単位面積当たりの処理量を増加させることができる。この単位時間・単位面積当たりの処理量は、0.6g/(min・cm)以上であることが望ましい。0.6g/(min・cm)未満の場合には濾過時間を10分以下にするために、濾過面積として60cm以上必要となり、遠心機への導入が難しくなって好ましくないからである。
【0012】
さらに、上記の血液処理フィルターのフィルター材は、入口側空間に存在するフィルター材の容積Vinと、出口側空間に存在するフィルター材の容積Voutとの関係が、1.3<Vin/Vout<7となるように配置されているものとすることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、出口側容器とフィルター材との間の密着等により流れが阻害されたり濾過性能を低下されたりすることを回避して、単位時間・単位面積当たりの処理量を増加させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る血液処理フィルターの一部を破断して示す平面図である。
【図2】図2は、図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図3は、血液処理フィルターを備えた血液処理システムの概略を示す正面図である。
【図4】図4は、本発明の第2実施形態に係る血液処理フィルターの断面図である。
【図5】図5は、比較例に係る血液処理フィルターの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態中で説明する白血球含有血液(以下、濾過前血液と言う)とは、白血球と赤血球とを含有する血液であり、輸血を対象とする全血製剤、赤血球製剤などを指す。濾過前血液中の白血球の混入数は、通常5×10個/単位以上であることが殆どである。濾過後の血液(以下、濾過後血液と言う)とは、白血球混入数が5×10個/単位未満にまで減じられた全血製剤、赤血球製剤などの血液を指す。
【0016】
また、血液処理フィルターの外形は、矩形状、円盤状、長円盤状、楕円状などの様々な態様を採用できるが、製造時の材料ロスを少なくするためには矩形状が好ましく、従って、以下の実施形態では矩形状を例に説明する。
【0017】
まず、図1、及び図2を参照して、第1実施形態に係る血液処理フィルター1Aについて説明する。血液処理フィルター1Aは、血液の入口ポート9aと出口ポート11aとを有する可撓性容器3と、可撓性容器3の内部を入口ポート9a側と出口ポート11a側とに隔てるように配置したシート状の白血球除去フィルター材(以下、「フィルター材」と言う)5と、を備えている。
【0018】
可撓性容器3は、矩形扁平状の容器である。扁平状とは、厚みが薄くて面が広い形状を意図する。可撓性容器3は、矩形シート状の入口側容器9と、矩形シート状の出口側容器11とを備えている。入口側容器9には、内側と外側とを連通する入口流路9bが形成された入口ポート9aがシールされている。また、出口側容器11には、内側と外側とを連通する出口流路11bが形成された出口ポート11aがシールされている。なお、シールするとは、液体の漏洩を防止できる程度に接着(溶着含む)にて固定することを意味する。
【0019】
入口側容器9と出口側容器11とは、矩形状のフィルター材5を挟むようにして重なり合っている。また、入口側容器9と出口側容器11とは、フィルター材5の周縁に沿って、フィルター材5を挟みつけた状態でシールされている。フィルター材5の周縁に沿った帯状の接着領域はシール部13である。シール部13は入口ポート9aを矩形環状に囲んでおり、シール部13よりも内側の内部領域は血液が流動するろ過部になる。さらに、入口側容器9と出口側容器11との外縁同士は、シール部13を環状に囲むようにシールされている。
【0020】
入口側容器9にシールされた入口ポート9aは、シール部13の内側の領域に適宜に配置することができる。本実施形態に係る入口ポート9aは、可撓性容器3の長手方向の一方の端部側、すなわち、血液処理フィルター1Aを血液処理のために立てた状態において上側に配置されている。入口ポート9aには、血液が流動する入口側回路102(図3参照)を形成した際に処理前の血液を受け入れる入口流路9bが形成され、さらに入口ポート9aには、入口流路9bと入口側容器9の内部とを連通する入口開口部9cが形成されている。
【0021】
出口側容器11にシールされた出口ポート11aは、シール部13の内側の領域に適宜に配置することができる。本実施形態に係る出口ポート11aは、可撓性容器3の長手方向の他方の端部側、すなわち、血液処理フィルター1Aを血液処理のために立てた状態において下側に配置されている。出口ポート11aには、血液が流動する出口側回路104(図3参照)を形成した際に、フィルター材5で処理された血液を排出する出口流路11bが形成されている。
【0022】
次に、フィルター材5の形状や配置について詳しく説明する。まず、図2に示されるように、シール部13の厚み方向の中心を通る平面を仮想平面20として仮定し、さらに、可撓性容器3内の空間は、入口側空間Ainと出口側空間Aoutとによって形成されていると仮定する。ここで、入口側空間Ainは仮想平面20と入口側容器9との間の空間であり、出口側空間Aoutは仮想平面20と出口側容器11との間の空間である。
【0023】
フィルター材5は、略矩形のシート状であり、可撓性容器3内に収容された状態で、中央付近が撓んで湾曲しており、出口側空間Aoutに比べて入口側空間Ainの側に偏って配置されている。この偏りの程度を定量的に示すと、以下の通りとなる。つまり、入口側空間Ainに存在するフィルター材5の容積Vinと、出口側空間Aoutに存在するフィルター材5の容積Voutとし、容積Vinと容積Voutとの関係について、容積Vinを容積Voutで割った値(Vin/Vout)を用いて説明すると、フィルター材5は、1.3<Vin/Vout<7となるように配置されている。
【0024】
つまり、1.3<Vin/Vout<7の関係を満たす態様であれば、フィルター材5の撓みや湾曲の形状にかかわらず、フィルター材5は、入口側空間Ainに偏って配置された形態を具現化していることになる。
【0025】
以上、血液処理フィルター1Aでは、フィルター材5が入口側空間Ainに偏って配置されているので、例えば、重力落差で血液処理フィルター1Aに血液を流し込む濾過方法を行った場合であっても、出口側容器11とフィルター材5とが全面にわたって密着してしまうのを回避して血液の流路を確保でき、単位時間・単位面積当たりの処理量を増加させることができる。この単位時間・単位面積当たりの処理量は、0.6g/(min・cm)以上であることが望ましい。0.6g/(min・cm)未満の場合には濾過時間を10分以下にするために、濾過面積として60cm以上必要となり、遠心機への導入が難しくなって好ましくないからである。
【0026】
次に、血液処理フィルター1Aを構成する各要素の材料や形状などの各態様について説明する。上述のように可撓性容器3は、入口側容器9及び出口側容器11によって形成される。可撓性容器3に用いる可撓性樹脂は、滅菌のための高圧蒸気や電子線の透過性が良好であること、さらには、遠心時の負荷に耐える強靭性を有するという点で、軟質ポリ塩化ビニルや、ポリオレフィンまたはこれらを主成分とする熱可塑性エラストマーなどが好適に使用される。
【0027】
本実施形態においてフィルター材5を例に説明した白血球除去フィルター材としては、メルトブロー法などによって製造された不織布等の繊維構造物や、連続した細孔を有する多孔質体(スポンジ状構造物)、多孔膜などからなる白血球除去フィルター材が挙げられる。白血球除去フィルター材を形成する基材が繊維構造物である場合、その素材としては、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリトリフルオロエチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリスチレンなどが挙げられる。さらに、繊維構造物を基材とする場合、ほぼ均一な繊維径を有する繊維からなる基材であっても良いし、国際公開第97/232266号パンフレットに開示されているような、繊維径の異なる、複数種の繊維が混繊された形態の基材であっても良い。濾過後血液に混入する白血球数を5×10個/単位以下にまで減じるには、白血球除去フィルター材を形成する基材繊維の平均繊維径が3.0μm以下であるものが好ましく、特に望ましくは0.9〜2.5μmである。
【0028】
白血球除去フィルター材を構成する基材が多孔質体あるいは多孔膜である場合、その素材としては、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、セルロースアセテート、ポリビニルホルマール、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタンなど何れの素材であってもよい。濾過後血液に混入する白血球数を5×10個/単位以下にまで減じるには、多孔質体あるいは多孔膜の平均孔径は2μm以上で、且つ10μm未満であるものが望ましい。
【0029】
また、白血球除去フィルター材は基材そのものから構成しても良いし、その表面を化学的あるいは物理的に改質したものでも良く、何れの白血球除去フィルター材も白血球除去に寄与しているシート状のフィルター材5に含まれる。白血球除去フィルター材は、繊維構造物、多孔質体あるいは多孔膜を単層で用いても良いし、複数層組み合わせて用いても良い。
【0030】
白血球除去フィルター材のカット方法は、刃による切断、超音波カッターによる切断、レーザーによる切断等ある。
【0031】
次に、第1実施形態に係る血液処理フィルター1Aを備えて構成される血液処理システム100、及び血液処理フィルター1Aの使用状態について図3を参照して説明する。図3は血液処理システム100の概略を示す正面図である。
【0032】
血液処理フィルター1Aは、重力落差を利用した濾過に使用することができる。例えば、血液処理フィルター1Aを適用した血液処理システム100は、採血後の血液を入れた貯留バッグ101と、血液処理フィルター1Aと、濾過後の血液をためる回収バッグ103と、を備える。貯留バッグ101と血液処理フィルター1Aの入口ポート9aとは、血液チューブなどの導管102aによって互いに接続され、回収バッグ103と血液処理フィルター1Aの出口ポート11aとは、血液チューブなどの導管104aによって互いに接続されている。更に、上流側の導管102aには、流路を開閉するローラークランプなどの開閉手段102bやチャンバー102cなどが取り付けられており、導管102a、開閉手段102b、及びチャンバー102cなどによって入口側回路102が形成される。また、下流側の導管104aなどによって出口側回路104が形成される。
【0033】
そして、採血後の血液を入れた貯留バッグ101は、血液処理フィルター1Aよりも、例えば50cm程度高い位置に設置され、濾過後の血液をためる回収バッグ103は血液処理フィルター1Aよりも、例えば100cm程度低い位置に設置されている。血液処理システム100の流路を開放することで血液の濾過処理が行われる。濾過処理を行っている際(使用時)に、血液処理フィルター1Aの可撓性容器3の出口側では陰圧が発生し、出口側容器11は撓んでフィルター材5に密着しようとする。しかしながら、血液処理フィルター1Aでは、フィルター材5が入口側空間Ainに偏って配置されているので、出口側容器11とフィルター材5とが全面にわたって密着して流れを規制してしまうことを回避でき、単位時間・単位面積当たりの処理量を増加させることができる。この単位時間・単位面積当たりの処理量は、0.6g/(min・cm)以上であることが望ましい。0.6g/(min・cm)未満の場合には濾過時間を10分以下にするために、濾過面積として60cm以上必要となり、遠心機への導入が難しくなって好ましくないからである。
【0034】
次に、本発明の第2実施形態に係る血液処理フィルターについて図4を参照して説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係る血液処理フィルターの断面図である。なお、第2実施形態に係る血液処理フィルター1Bは第1実施形態に係る血液処理フィルター1Aと実質的に同一の要素や構造を備えているため、同一の要素や構造には同一の符号を付して詳しい説明は省略し、以下の説明では、異なる要素や構造を中心に説明する。
【0035】
血液処理フィルター1Bは、血液の入口ポート30aを有する入口側容器30と、出口ポート11aを有する出口側容器11と、入口側容器30と出口側容器11との間に配置されたシート状のフィルター材5と、を備えている。
【0036】
入口側容器30は硬質性樹脂からなり、内側と外側とを連通する入口流路30bが形成された入口ポート30aが設けられている。入口側容器30は、矩形の略平板状であり、中央部分31の内側には凹み部31aが形成されている。入口側容器30に用いられる硬質性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ABS、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等が使用できる。更に好ましくは耐熱性の高いポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド等がよい。
【0037】
入口側容器30と出口側容器11とは、フィルター材5の周縁に沿って、フィルター材5を挟みつけた状態でシールされている。フィルター材5の周縁に沿った帯状の接着領域はシール部32である。さらに、入口側容器30と出口側容器11との外縁同士は、シール部32を環状に囲むようにシールされている。
【0038】
フィルター材5は、略矩形のシート状であり、中央付近が撓んで湾曲しており、この湾曲部分が入口側容器30の凹み部31aに収まるように配置されている。そして、シール部32の厚み方向の中心を通る平面を仮想平面20として仮定し、さらに、仮想平面20と入口側容器30との間に形成される入口側空間Ainと仮定し、仮想平面20と出口側空間Aoutとの間に形成される出口側空間Aoutとを仮定した場合に、フィルター材5は、出口側空間Aoutよりも入口側空間Ainに偏って配置されている。つまり、入口側空間Ainに存在するフィルター材5の容積Vinと、出口側空間Aoutに存在するフィルター材5の容積Voutとし、容積Vinと容積Voutとの関係について、容積Vinを容積Voutで割った値(Vin/Vout)を用いて説明すると、フィルター材5は、1.3<Vin/Vout<7となるように配置されている。
【0039】
本実施形態に係る血液処理フィルター1Bによれば、フィルター材5が入口側空間Ainに偏って配置されているので、例えば、重力落差で血液処理フィルター1Bに血液を流し込む濾過方法を行った場合であっても、出口側容器11とフィルター材5とが全面にわたって密着してしまうのを回避して血液の流路を確保でき、単位時間・単位面積当たりの処理量を増加させることができる。この単位時間・単位面積当たりの処理量は、0.6g/(min・cm)以上であることが望ましい。0.6g/(min・cm)未満の場合には濾過時間を10分以下にするために、濾過面積として60cm以上必要となり、遠心機への導入が難しくなって好ましくないからである。
【実施例】
【0040】
次に、実施例により本発明をより詳細かつ具体的に説明するが、本発明は、これらによって範囲を限定されるものではない。
【0041】
まず、血液処理フィルターの流れ性試験の方法を以下に説明する。本発明の実施例または比較例に係る血液処理フィルターを、貯留バッグと回収バッグとの間に配置し(図3参照)、貯留バッグに接続した入口側導管を血液処理フィルターの入口側血液導入口へ、回収バッグに接続した出口側導管を血液処理フィルターの出口側血液導出口へそれぞれ接続した。なお、それぞれの導管として、内径3mm、外径4.2mmの軟質塩化ビニル製のチューブを使用し、貯留バッグとフィルターとの間の長さは60cmとし、フィルターと回収バッグとの間の長さは110cmとした。入口側導管をクランプで閉じた後、注射用蒸留水(大塚製薬株式会社製)にポリビニルピロリドン(以下PVPと言うことがある。和光純薬工業株式会社製)を添加し、粘度を25.8mPa・sに調製したPVP水溶液350gを貯留バッグへ入れた。
【0042】
上流側落差(濾過前血液貯留バッグ下端と血液処理フィルターの入口側血液導入口との鉛直距離)、血液処理フィルターの入口側血液導入口と出口側血液導出口間の落差、および下流側落差(血液処理フィルターの出口側血液導出口と濾過後血液回収バッグ上端との鉛直距離)とを合計した全落差を1.0mに調整し、濾過前血液貯留バッグを吊り下げたあと、回収バッグを天秤の上に静置し、入口側導管を閉じているクランプを開放し、濾過を開始した。クランプを開放した時間からPVP溶液が回収バッグに到達するまでの時間をプライミング時間とした。
【0043】
さらに、PVP溶液が回収バッグに到達してから貯留バッグのPVP溶液が空になるまでの時間を処理時間とした。貯留バッグが空になった後、1分毎に回収バッグを載せた天秤の値の読み取り、1分間の天秤の値の変動が0.5g以下になった時点で回収を終了し、貯留バッグが空になってから回収が終了するまでの時間を回収時間、回収終了時の天秤の値を回収量とした。
【0044】
[実施例1]
繊維径12μm、目付30g/m、厚さ0.189mmのポリエステル不織布である第一のフィルター要素、繊維径1.2μm、目付40g/m、厚さ0.235mmのポリエステル不織布である第二のフィルター要素を用意し、第一のフィルター要素を血液の入口側に4枚、第二のフィルター要素を血液の出口側に26枚重ねてシート状のフィルター材とした。以上のようにして作製した二種の不織布からなる積層物(フィルター材)を74mm×91mm(長方形)に切断した。その後、直径30mm、高さ10mmの円錐状の金属にて不織布を出口側から押し、これらの可撓性の容器と不織布の積層体とを、入口側容器、不織布の積層体、出口側容器の順に重ね合わせ、ろ過部が57mm×74mmとなるように高周波溶着法で溶着し、白血球除去フィルターとした。実施例1に係る白血球除去フィルターは上記の第1実施形態に係る血液処理フィルターに対応する(図1参照)。実施例1に係る白血球除去フィルターでは、Vin/Voutは1.32となり、フィルター材が、入口側空間に偏って配置された形態を具現化している。この白血球除去フィルターで流れ性試験を行った結果、処理量/単位時間は30.4(g/min)であり、処理量/単位時間・単位面積は0.72(g/min・cm)であり、濾過時間は11.5分だった。実施例1では、処理量/単位時間・単位面積が0.6(g/min・cm)以上となっているために好適であり、濾過面積が後述の比較例1と略同一であるにもかかわらず、比較例1に比べて濾過時間を大幅に短縮できた。
【0045】
[実施例2]
直径99mmの円形に切断した積層不織布を使用し、中央部の内側が直径30mmの半球状に窪んでいる硬質性容器を入口側容器として、不織布を容器に沿って超音波溶着し、その後、可撓性の出口側容器を不織布と入口側容器とに接着した白血球除去フィルターを作製した。実施例2に係る白血球除去フィルターは、上記の第2実施形態に係る血液処理フィルターに対応する(図4参照)。また、実施例2に係る白血球除去フィルターのろ過部は直径82mmの円形であり、フィルター材となる不織布構成は実施例1と同じである。実施例2に係る白血球除去フィルターでは、Vin/Voutは1.32となり、フィルター材が、入口側空間に偏って配置された形態を具現化している。実施例2に係る白血球除去フィルターを用いて実施例1と同一の操作を行ったところ、処理量/単位時間は34.7(g/min)であり、処理量/単位時間・単位面積は0.66(g/min・cm)であり、濾過時間は10.1分だった。実施例2では、処理量/単位時間・単位面積が0.6(g/min・cm)以上となっているために好適であり、濾過面積が後述の比較例2よりも小さいにもかかわらず、比較例2に比べて濾過時間を大幅に短縮できた。
【0046】
[実施例3]
84mm×104mmに切断した積層不織布に直径40mm、高さ10mmの円錐状の金属にて不織布を出口側から押し、その後、ろ過部が65mm×85mmとなるように高周波溶着法で溶着し、そのほかの部分は実施例1と同じである白血球除去フィルターを作製した。実施例3に係る白血球除去フィルターでは、Vin/Voutは1.47となり、フィルター材が、入口側空間に偏って配置された形態を具現化している。実施例3に係る白血球除去フィルターを用いて実施例1と同一の操作を行ったところ、処理量/単位時間は36.1(g/min)であり、処理量/単位時間・単位面積は0.65(g/min・cm)であり、濾過時間は9.7分だった。実施例3では、処理量/単位時間・単位面積が0.6(g/min・cm)以上となっているために好適であり、濾過面積が後述の比較例2と略同一であるにもかかわらず、比較例2に比べて濾過時間を大幅に短縮できた。
【0047】
[実施例4]
ろ過部が57mm×74mmであり、可撓性の入口側容器と不織布と可撓性の出口側容器を高周波溶着する際に凸形状(中央部が4mm入口側に突き出している形状)である金型で溶着を行い、それ以外は実施例1と同じである白血球除去フィルターを作製した。実施例4に係る白血球除去フィルターでは、Vin/Voutは6.3となり、フィルター材が、入口側空間に偏って配置された形態を具現化している。実施例4に係る白血球除去フィルターを用いて実施例1と同一の操作を行ったところ、処理量/単位時間は34.0(g/min)であり、処理量/単位時間・単位面積は0.81(g/min・cm)であり、濾過時間は10.3分だった。実施例3では、処理量/単位時間・単位面積が0.6(g/min・cm)以上となっているために好適であり、濾過面積が後述の比較例1と略同一であるにもかかわらず、比較例2に比べて濾過時間を大幅に短縮できた。
【0048】
[比較例1]
不織布積層物を74mm×91mm(長方形)に切断し、ろ過部寸法が57mm×74mmとなるように高周波溶着法で溶着した。それ以外は実施例1と同じである白血球除去フィルターを作製した。図5は、比較例1に係る白血球除去フィルターの断面図である。比較例1に係る白血球除去フィルター50は、可撓性の入口側容器51、可撓性の出口側容器52、及び入口側容器51と出口側容器52との間に配置されたフィルター材(不織布積層物)53とを備えている。入口側容器51と出口側容器52との内部には、仮想平面20と入口側容器51との間に形成された入口側空間Ainと、仮想平面20と出口側容器52との間に形成された出口側空間Aoutとが形成されており、フィルター材53は入口側空間Ainに偏ることなく配置されている。その結果、比較例1に係る白血球除去フィルター50では、Vin/Voutは1.0になっている。比較例1に係る白血球除去フィルターを用いて実施例1と同一の操作を行ったところ、処理量/単位時間は24.1(g/min)であり、処理量/単位時間・単位面積は0.57(g/min・cm)であり、濾過時間は14.5分だった。比較例1では、処理量/単位時間・単位面積が0.6(g/min・cm)未満となり、実施例1や実施例4に比べて濾過時間が長くなってしまった。
【0049】
[比較例2]
不織布積層物を84mm×104mm(長方形)に切断し、ろ過部寸法が65mm×85mmとなるように高周波溶着法で溶着した。それ以外は実施例1と同じである白血球除去フィルターを作製した。比較例2に係る白血球除去フィルターでは、Vin/Voutは1.0、すなわち偏りがなく、比較例2に係る白血球除去フィルターを用いて実施例1と同一の操作を行ったところ、処理量/単位時間は31.0(g/min)であり、処理量/単位時間・単位面積は0.56(g/min・cm)であり、濾過時間は11.3分だった。比較例2では、処理量/単位時間・単位面積が0.6(g/min・cm)未満となり、実施例2や実施例3に比べて濾過時間が長くなってしまった。
以上の実施例1〜実施例4、及び比較例1、及び比較例2の結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【符号の説明】
【0051】
1A、1B…血液処理フィルター、5…フィルター材、9,30…入口側容器、11…出口側容器、13,32…シール部、20…仮想平面、Aout…出口側空間、Ain…入口側空間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルター材と、前記フィルター材を挟んで配置された入口側容器、及び出口側容器と、前記入口側容器、及び前記出口側容器によって、前記フィルター材の略周縁を環状にシールすることで形成されたシール部と、を備えた血液処理フィルターであって、
前記シール部の厚み方向の中心を通る仮想平面を基準にして、前記仮想平面と前記出口側容器とで形成される出口側空間、及び前記仮想平面と前記入口側容器とで形成される入口側空間を仮定した場合に、前記フィルター材は、前記出口側空間に比べて前記入口側空間に偏って配置されていることを特徴とする血液処理フィルター。
【請求項2】
前記フィルター材は、前記入口側空間に存在する前記フィルター材の容積Vinと、前記出口側空間に存在するフィルター材の容積Voutとの関係が、1.3<Vin/Vout<7となるように配置されていることを特徴とする請求項1記載の血液処理フィルター。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−235188(P2011−235188A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2011−187807(P2011−187807)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(507365204)旭化成メディカル株式会社 (65)
【Fターム(参考)】