説明

血液脳関門を備えた昆虫を使用するスクリーニング方法

脊椎動物の血液脳関門(BBB)透過性を反映することを目的とした昆虫モデルが提供される。BBB透過性の調査は創薬において非常に重要である、すなわち、優れたCNS薬はBBBを横断しなければならない一方、BBB透過性は、末梢作用性の薬物については望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。具体的には、本発明は、脳または中枢神経系に対する生物学的作用、および脳または中枢神経系の疾病または障害に対する作用のうち少なくともいずれか一方を備えた物質のスクリーニングにおける昆虫の使用に関する。本発明はさらに、所望の生物学的活性を有するが血液脳関門を横断しない物質のスクリーニングにおけるそのような昆虫の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脊椎動物の血液脳関門(BBB)の透過性を反映することを目的とした昆虫モデルに関する。BBB透過性の調査は創薬において非常に重要である、すなわち、優れたCNS薬はBBBを横断しなければならない一方、BBB透過性は、末梢作用性の薬物については望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。具体的には、本発明は、脳または中枢神経系に対する生物学的作用、および脳または中枢神経系の疾病または障害に対する作用のうち少なくともいずれか一方を備えた物質のスクリーニングにおける昆虫の使用に関する。本発明はさらに、所望の生物学的活性を有するが血液脳関門を横断しない物質のスクリーニングにおけるそのような昆虫の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
創薬はコストのかかる仕事であり、この仕事において金銭および時間に関する主な経費のうちの1つはin vivoでの研究である。これらのコストを縮小するために、in
vivoの研究に最も適した化合物を選択するためのフィルタとして数多くのin vitroモデルが開発され適用されている。しかしながら、in vitroモデルは単純化され過ぎていることが多く、そのため意志決定の過程において誤った判断を招きやすい可能性がある。従って、in vitroモデルよりも信頼性が高く、同時に従来の脊椎動物のin vivoモデルよりも高速かつ安価な、中間的なモデルが必要とされている。昆虫はこの機能を担う可能性があり、フルーツフライは、CNS薬を開発しているエンビボ・ファーマシューティカルズ・インコーポレイテッド(EnVivo Pharmaceuticals Inc.)によって中間的な薬力学的(PD)モデルとして目下使用されている。
【0003】
既存のin vitro試験には様々な問題点がある。in vivoで生じるすべての生物学的事象を明らかにするin vitroアッセイを行うことは不可能である。既存のin vitroアッセイにはいまだ理解されていない生物学的事象または欠点があり、例えば、アッセイは、活性を有する輸送体分子、代謝性酵素、または予期せぬ生物学的事象などのin vivoでは存在する重要な特徴を欠いている可能性がある。明白な欠点にもかかわらず、in vitroモデルは、ほとんどの製薬会社が大量の(large batteries of)in vitroスクリーニングを使用する創薬過程において大いに使用されている。数多くのin vitroアッセイにおける化合物の試験は、必ずしもin
vivoでの挙動を反映するとは限らない場合がある。実際、許容可能なin vitroプロファイルを有する化合物について不適当なin vivoプロファイルを有することが判明することはまれではない。逆に、化合物が誤った理由で廃棄される可能性もある。したがって、改善されたデータを用いて創薬研究を支援することにより高価なin vivo実験の数を低減することが可能と思われる、中間的なin vitro/in vivoモデルが必要とされている。
【0004】
in vitroのモデルは、各々のモデルが単一かつ個別のin vivoの生物学的事象を反映するという仮定と共に使用される。しかしながら、発見段階で使用される多数のin vitroモデル(Ruiz-Garcia et al. 2007)は、多数の生物学的事象が複
数のコンパートメントにおいて起こるin vivoの生態の複雑さを反映することを目的としている。数多くのin vitroモデルを使用することによる主な限界は、異なる生物学的事象間の相互作用および異なるコンパートメント間の相互作用の欠如である。しかしながら、中間的モデルとして昆虫を使用することによる1つの大きな利点は、これらのモデルが、脳関門構造の異なる構成成分の間だけでなく、昆虫が脊椎動物に非常に(to a large extend)類似したコンパートメントを備えた生物種であるため昆虫に見られ
る異なるコンパートメント間についても、複雑な相互作用の要求を満たすということであ
る。
【0005】
脊椎動物の血液脳関門(BBB)は、脳組織と血管との間の生理学的関門に相当し、溶質の交換を制限して、血液から脳内への外因性物質(例えば薬物)の吸収を調節する。中枢神経系(CNS)の機能は高度に調節された細胞外環境を必要とする。解剖学的には、脊椎動物のBBBは高度に特殊化した密着結合(TJ)により相互連結した微小血管内皮細胞で構成されており、密着結合は拡散障壁を提供し、したがって透過性に関して中心的な役割を果たす。最近同定されたTJの構成成分には、TJの障壁機能を担うと示唆される4回膜貫通タンパク質のファミリーであるクローディンが挙げられる(Turksen and Troy 2004)。BBBの透過は、優れたCNS薬の開発における主なハードルのうちの1つ
である。他方、BBBの透過が生じると、末梢作用性の薬物については望ましくない副作用を引き起こす場合がある(Schinkel 1999)(総説についてはPardridge 2002を参照の
こと)。
【0006】
BBB透過は、通常は化学的透過または生物学的透過に分類される。化学的透過は、分子の生理化学的性質に依存する脂質介在性の受動拡散に関連する、すなわち小さな疎水性分子は大きな親水性分子よりも容易にBBBを透過する傾向がある。生物学的透過には、内在性のBBB流入輸送系または排出輸送系の基質である化合物が関与しており、例えば多くの小分子(例えば薬物)はP‐糖タンパク質(P‐gp)輸送体の基質であることが示されている。P‐gpは、BBBを構築する細胞の壁の中にある輸送体タンパク質であり(Schinkel 1999)、原生動物、植物、昆虫および哺乳動物といった多様な分類群の間
で保存されている(Gaertner et. al. 1998参照)。P‐gpは多くの種類の細胞中に存
在し、薬物の吸収、体内動態、代謝、および毒性に重要な役割を果たす(Xia et al. 2006)。
【0007】
明白なことであるが、創薬プロジェクトにおいてBBB透過性について理解していることは極めて重要であり、好ましくは、この理解は過剰な数のin vivo研究を使用することなく得られるべきである。そのため、いくつかのin vitroのBBB吸収モデルが試験化合物のin vivoでの挙動を予測するために開発されている。しかしながら、P‐gp輸送体系を備えた複雑なin vitroモデル(Di and Kerns 2003, Summerfield et al. 2005)であっても、TJの入り組んだ複雑さを満たすことはないようであり、したがって、in vivoでの挙動について十分には表現できない。このことは、22種の化合物が10種の異なるin vitroBBB吸収モデルで試験された大規模なBBB吸収研究において強く示されている(Garberg 2005)。10種のモデルのいずれも、in vitroの透過性とin vivoの透過性との間に相関を示さなかった。このことは、特定のBBBモデルがBBB由来ではないモデルより必ずしも良好な予測を提供するとは限らないことを示している。さらに、タンパク質の結合、血流、代謝的安定性および親油性、ならびにBBB中の他の輸送体への親和性は、in vivoでの脳内分布の予測がなされるときに考慮を要する要因であることが示唆された。従って、in vitroモデルは、受動拡散によってBBBを透過する化合物またはP‐gp輸送体を介して流出される化合物の定性的計測に主に適しているようである(Garberg 2005)。
【0008】
ある種の無脊椎動物は数多くの様々な生物学的プロセスを理解するための有用なモデルとして役立ってきた。特にフルーツフライであるキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)はよく知られたモデル研究生物であり、遺伝学、神経生物学、分子生物学
などの理解に著しく貢献してきた(Gullan and Cranston 2000)。一般に、昆虫および脊椎動物は多くの共通した生理学的特徴を有する。昆虫および脊椎動物は、視覚、嗅覚、学習および記憶のような特殊機能のための複雑で区分化された神経系を備えた多細胞生物である。昆虫の神経系は、数多くの同一の神経ホルモンおよび受容体を用いて脊椎動物と同
様の方法で生理学的に応答する。昆虫は、血リンパが神経節および神経の外側表面すべてを浸している無血管神経系を有する。したがって、多くの昆虫は、植物由来の神経毒から自身のCNSを防御し、かつニューロンの適切なイオン性微環境を維持するための精巧なBBBシステムを必要とする。実際、昆虫においても精巧なBBBシステムは進化上の利点であった。昆虫ではこのBBBは主にグリア細胞系に基づいており、グリア細胞系は脊椎動物の脳内では微小血管系の高い重要性に対応して網内系に転じることは確実である。この見解を支持するのは、軟骨魚綱の魚におけるグリア系の外観および現代の哺乳類のCNSにおけるグリア関門の名残である。したがって、昆虫は、神経系の被鞘化における重要な構成要素であるBBBを所有する。昆虫のBBBは極めて精巧であるが、異なる目の昆虫の間では構造は多様である。したがって、脊椎動物の関門によく似た複雑な統合的構成要素を備えた極めて精巧な脳関門を備えた昆虫は、この構造を通る様々な分子の透過について実証するための優れたモデルになるであろう。
【0009】
特許文献1には、ヒトのアミロイドβ前駆体タンパク質(APP)のヒトAβ42ペプチドのイタリア型(Italian)突然変異体を発現するト遺伝子組換えハエ、ならびにタウ
タンパク質およびヒトアミロイドβ前駆体タンパク質(APP)のヒトAβ42Italianペプチドの両方を発現する二重遺伝子組換えハエが開示されている。該遺伝子組換えハエは、アルツハイマー病のような神経変性障害のモデルを提供する。特許文献1にはさらに、遺伝的修飾因子を同定する方法、および神経変性障害を治療する治療用化合物を同定するための遺伝子組換えハエを用いるスクリーニング方法が開示されている。
【0010】
特許文献2には、昆虫集団に対する試験物質の影響をスクリーニングする方法であって、検体集団を提供するステップと、該集団に少なくとも1つの試験物質を投与するステップと、昆虫の活動を示すデジタル化された動画を制作するステップと、試験物質の影響を伴った該集団の昆虫の少なくとも1つの形質を計測するステップとを含んでなる方法が開示されている。該文献はさらに、哺乳類の疾病の治療に有用な医薬を調製する方法も提供している。
【0011】
マーシュおよびトムプソン(Marsh and Thompson 2006)は、昆虫が、単純性と揺るぎ
ない再現性とを兼ね備えていることからモデル系として非常に有用であることを教示している。いくつかのモデル(ショウジョウバエを使用)は、適切な薬物の試験に関する該モデルの効率を実証し、ハンチントン病、パーキンソン病およびアルツハイマー病のような疾病に関してハエおよび哺乳動物における薬効の一致を明らかにしている。
【0012】
マーシュおよびトムプソン(Marsh and Thompson 2004)は、ショウジョウバエ(フル
ーツフライ)のような昆虫が、ヒトの優性遺伝型の神経変性疾患の重要な特徴、例えば緩徐進行性の変性、遅い発病、異常なタンパク質凝集物の形成を示すことから、該昆虫において上記疾患を正確にモデル化することができることを示唆している。上記著者によれば、そのような遺伝子組換え生物を扱う能力により、病原性のメカニズムが明らかとなり、潜在的な薬理療法の迅速な試験が可能となる。上記著者は、ハエおよびマウスの両方において病状の抑制に有効な薬理学的治療がこれまで極めてよく一致していることから、無脊椎動物のモデル生物が哺乳動物の疾病の治療に有効である可能性の高い作用物質の同定を生産的に促進することができるという確信が高まることを示唆している。
【0013】
上述の文献から見られるように、先行技術は主に、ヒトの神経変性疾患の治療に使用するための化合物をハエ(ショウジョウバエ)で試験することに関する。しかしながら、薬物の血液脳関門の透過を測定/評価するための一般に使用されているin vitroの試験方法に優る適切なスクリーニングモデルを得ることが依然として必要とされている。この点では、ハエが脊椎動物ならびにバッタ類、蛾およびゴキブリのような密着結合ではなく中隔結合を有することを心に留めておくべきである。
【0014】
創薬における、また脳機能に対する影響があまり知られていない市販の化学物質のCNS毒性の試験における、より精巧なスクリーニングモデルが切望されている。
したがって、創薬においては:
a)CNS系内部の標的を対象とする化合物の効率的なスクリーニングが必要とされている。このスクリーニングは、完全なBBB機能を備えた昆虫モデルにおいて優先的に行なわれ、BBBを透過する化合物の正の選択に寄与することになる。そのようなスクリーニングは、多くの適応症(例えば疼痛、癲癇、パーキンソン、統合失調症、アルツハイマー、睡眠障害、不安神経症、うつ病、摂食障害、喫煙を含む薬物乱用)における低分子化合物を含んでなる。
b)CNSの外側での有効性を目的とする化合物、およびCNSの透過が許容不可能な副作用を引き起こす可能性のある場合の化合物の効率的なスクリーニングが必要とされている。
c)BBBの機能の選択的な変化を特徴とする昆虫モデルにおける効率的なスクリーニングが必要とされている。そのようなスクリーニングは、BBB機能の低下を特徴とする疾病(例えば虚血性脳卒中、外傷性脳損傷、薬物乱用、パーキンソンおよびアルツハイマーのような神経変性疾患、癲癇、感染症、脳膜炎およびMSのような炎症、HIV)における低分子〜極めて高分子の化合物またはペプチドもしくは巨大分子を含んでなる。
【0015】
潜在的な神経毒性について分類も立証もされていない市販の(on the marked)化学化
合物のスクリーニングも必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許出願公開第20050132425A1号明細書
【特許文献2】国際公開第2004/006854A2号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
発明の概要
本発明の全般的な目的は、初期の創薬過程での化合物スクリーニングの手法/処理工程を改善するために、様々な化学化合物の、哺乳動物(好ましくはヒト)のような脊椎動物における血液脳関門の透過を測定/評価する昆虫のスクリーニングモデルを開発することである。上記目的には先行する技術に対して多くの長所がある、というのも、昆虫モデルは既存のin vitroモデルよりも判定プロセスに関して一層信頼のおけるツールであり、かつ薬物スクリーニング過程の速度を上げて後期における欠落率を低減することになるからである。さらに、薬物発見段階の間に犠牲になる哺乳動物の数を低減することになる。
【0018】
本発明者らは、意外にも、ゴキブリ、バッタ類および蛾から成る群から選択された昆虫の血液脳関門(BBB)がかつて想定されたよりも哺乳動物のBBBとの共通点が多いことを見出した。これらの昆虫の関門系はTJで構成されている一方、ハエ(例えばショウジョウバエ)では関門系は中隔結合(SJ)で構成されていることが分かっている(Banerjee and Baht 2007)。したがって、本発明の昆虫は、化学物質のBBB透過性の測定のための中間的モデルとしての役割を果たす可能性がある。
【0019】
よって本発明は、神経学的な適応症のために化合物をスクリーニングし、同様に化合物の脳透過性の測定用の簡便なin vivoシステムを生成する合理的な戦略を初めて提供することができる。本発明はさらに、神経障害の結果としてのBBB機能不全を模倣する昆虫モデルにおける化合物の合理的スクリーニングも提供することができる。
【0020】
創薬は、莫大な量の化学的・生物学的供給源を必要とする、時間および費用のかかるプロセスである。本発明では、化合物選別過程を改善して薬物発見段階での費用を縮小するために、モデル系として昆虫を使用する実現性について徹底的に開拓してきた。近年の発見に基づき、本発明者らは、本発明の昆虫モデルが、脊椎動物で試験すべき化合物の選択のための既存のin vitroモデルよりも良好な基盤を提供することについて十分に検討してきた。
【課題を解決するための手段】
【0021】
1つの態様では、本発明は、試験物質のBBB透過性についてスクリーニングする方法を提供し、前記方法は、
ゴキブリ亜目(Blattodea)、バッタ上科(Acridoidea)、ナナフシ目(Cheleutoptera)、ハエ亜目(Brachycera)および鱗翅目(Lepidoptera)から成る目から選択された昆
虫に試験物質を投与するステップと、
該昆虫を0.05時間〜72時間の期間にわたってインキュベートするステップと、
該昆虫の脳を切除するステップと、
切除した脳内の試験物質の濃度を計測するステップと
を含んでなる。
【0022】
本発明の好ましい実施形態では、昆虫はバッタ上科(バッタ類)およびゴキブリ亜目(ゴキブリ)から選択される。
本発明の別の好ましい実施形態では、昆虫は0.5時間〜5時間の期間にわたってインキュベートされ、その後脳内の投与された試験物質の濃度を定量する目的で昆虫の脳が切除される。
【0023】
脳の切除は、好ましくは昆虫を屠殺した直後に実施されるべきである。あるいは、脳は生きている昆虫から切除および摘出される。
好ましくは、切除された脳はホモジナイズされ、最終的には脳の組成を反映する均質な液体を得るために溶解される。この液体は遠心分離処理され、上清は分析時まで保存される。該液体のさらなる分析は、液体クロマトグラフィーを用いて恐らくは溶出化合物の質量分析検出と共に、実施可能である。
【0024】
さらなる実施形態では、本発明は、体内で所望の生物学的活性を示すが、同時に脳、中枢神経系または目のうち少なくともいずれかに存在する標的に対して望ましくない生物学的活性を示す作用物質のスクリーニング方法を提供する。
【0025】
したがって、本発明のスクリーニング方法は、試験物質の生物学的活性を測定し、かつ該試験物質が血液脳関門、特にヒトの血液脳関門を横断する能力の有無を、例えば、該物質が脳、中枢神経系または目に直接投与されていない場合に前記組織内に何らかの有意な量で出現するか否かを測定することによって、測定/評価するために使用可能である。
【0026】
様々な態様および実施形態において、本発明は、添付の特許請求の範囲に記載された主題を提供する。
本発明は、様々な疾病および障害、特に変性疾患、例えば:パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、運動ニューロンの封入体を伴う疾患、タウオパチー、大脳皮質基底核変性症;神経精神障害、例えば:双極性うつ病(Depression Bipolar disease)、統合失調症、不安神経症、および攻撃性(Aggression)、を対象とする創薬計画のいずれにも広く適用可能である。さらに、本発明は、CNSで引き起こされる副作用を許容することができない末梢の標的を対象とする創薬計画、またはCNSの機能に対する影響が未知である化合物をスクリーニングする創薬計画に適用可能である。
【0027】
したがって、本発明は、疾病または障害の徴候または症状を改善する生物学的作用をもたらす作用物質のスクリーニングに適用可能であるように、正常であるか疾病もしくは障害を有しているかにかかわらず中枢神経系、脳もしくは目における活性もしくは機能を変更する生物学的作用をもたらす作用物質のスクリーニングにも等しく適用可能である。さらに、本発明は、末梢に作用する薬物および殺虫剤のような毒物が偶発的にBBBを透過するかどうかを試験する可能性を提示している。
【0028】
本発明の任意の態様または実施形態によるスクリーニング方法を使用して所望の生物学的活性を備えた試験物質が同定された後、該試験物質は、少なくとも1つの追加成分、例えば薬学的に許容可能な賦形剤、担体、補形薬を含んでなる組成物へと製剤化されてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0029】
発明の詳細な説明
本発明は、血流に入る化学物質のBBB透過性についてスクリーニングする新しい方法を提供する。本発明は一般に、様々な疾病および障害、特に変性疾患、例えば:パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン舞踏病、運動ニューロンの封入体を伴う疾患、タウオパチー、大脳皮質基底核変性症 神経精神障害、例えば:双極性うつ病(Depression Bipolar disease)、統合失調症、不安神経症、および攻撃性(Aggression)、を標的とする創薬計画において開発される作用物質のハイスループットスクリーニングに特に有用である。さらに、本発明は、CNSで引き起こされる副作用を許容することができない末梢の標的を対象とする創薬計画に適用可能である。さらに、本発明は、摂食障害および睡眠障害などを標的とする創薬計画において開発される作用物質のスクリーニングにおいて適用可能である。
【0030】
本発明は、以下の目から選択された昆虫の使用に関するが、該昆虫の使用に限定されるものではない:(分類法はDjurens Vaerld, Ed B.Hanstroem; Foerlagshuset Norden AB,
Maoelmoe, 1964による):
【0031】
【表1】

【0032】
特に、本発明は、ゴキブリ亜目、バッタ上科、ナナフシ目、ハエ亜目および鱗翅目から選択された昆虫種に関し、特にバッタ上科(トノサマバッタ(Locusta migratoria)およびサバクトビバッタ(Schistocera gregaria))に関する。
【0033】
本発明はさらに、該スクリーニング方法に関連する昆虫種を含んでなる以下の目にも関係することになる:
【0034】
【表2】

【0035】
本発明は、分析のための、給餌ならびに薬物の注入およびその後の血リンパ試料の採取および脳組織の切除を実現可能である、例えばトノサマバッタ(Locusta migratoria)およびサバクトビバッタ(Schistocera gregaria)またはゴキブリのような大型の昆虫を使用することが好ましい。バッタ類は、様々な治療薬のBBB透過性を測定するスクリーニングモデルを開発するために、またこのモデルを従来の脊椎動物でのin vivo研究に由来する既存文献データと比較するために使用されてきた。
【0036】
創薬は、莫大な量の化学的・生物学的供給源を必要とする、時間および費用のかかるプロセスである。本発明では、化合物選別過程を改善して薬物発見段階でのコストを縮小するために、モデル系として特定の昆虫が用いられる。実験に基づき、驚くべきことに、本発明の昆虫モデルは、脊椎動物で試験すべき化合物を選択するための既存のin vitroモデルよりも良好な基盤を提供することが見出された。
【0037】
従って、本発明は、脊椎動物の血液脳関門(BBB)透過性を反映することを目的とした昆虫モデルに重点を置いている。上述のように、BBB透過性の調査は創薬において非常に重要である、すなわち;優れたCNS薬はBBBを横断しなければならず、一方でBBBの透過は末梢作用性の薬物に関しては望ましくない副作用を引き起こす可能性がある。
【0038】
本発明の好ましい実施形態によれば、繁殖が簡単で、かつ比較的大型の昆虫(体長40〜60mm、体重:およそ2g、血リンパ体積:およそ300μL、脳重量:およそ2mg)であることから、トノサマバッタ(Locusta migratoria)またはサバクトビバッタ(Schistocera gregaria)のうち少なくともいずれか一方が使用される。
【0039】
本発明について以降の節において詳細に説明するが、1つの実例となる実施形態についての簡潔な導入的説明が、読み手による本発明の理解を助けることになろう。しかしながら、特定の実施形態について説明するこの導入は本発明を限定するものとして解釈すべきではない。
【0040】
スクリーニング方法における本発明の昆虫への試験物質の適用は、本発明の好ましい実施形態によれば以下のとおりであってよい。
実施例
本発明の好ましい実施形態では、昆虫はバッタ上科(Acridoidea)から選択され、特にトノサマバッタ(Locusta migratoria)およびサバクトビバッタ(Schistocera gregaria)が用いられる。該昆虫は地域の供給業者から入手することも可能であるし、Goldsworthy et al. (2003)に従って研究室内で繁殖ならびに維持および給餌を行うことも可能であ
る。試験化合物は、Goldworthy et al.(2003)に記載されているようにして血リンパ中へ
投与するか、または飼料に含めるかプローブを使用して経口投与する。脳内薬物濃度の定量については、脳をMokri-Moayyed et al. (2008)に従って切除し、洗浄し、急速凍結し
て分析まで保存する。分析では、脳をホモジナイズ/攪拌して遠心分離処理する。薬物を含有している上清は、HPLC、LC/MSMSまたは他の適切な方法によって薬物濃度について分析する。薬物処理の影響は、挙動に対する薬理効果を記録することにより、または中枢神経系の神経シグナル伝達の記録を使用することにより示すことができる。
【0041】
実施例A
9.8mg/mlのミアンセリン溶液20ulを6匹のバッタ(トノサマバッタ、雄)に注入した。5分後、脳をMokri-Moayyed et al. (2008)に従ってリン酸緩衝生理食塩水
(PBS)中で切除した。試験チューブ毎に3つの脳を入れ、100ulの蒸留HOおよび80ulの過塩素酸(PCA)を添加した。試験チューブを超音波処理器に入れ、脳をおよそ5秒間の超音波処理によって崩壊させた。崩壊した脳を含んだ試料を5分間遠心
分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度27ng/mlのミアンセリンが計測された。
【0042】
実施例B
9.8mg/mlのミアンセリン溶液20ulを3匹のバッタ(トノサマバッタ、雄)に注入した。15分後、脳をMokri-Moayyed et al. (2008)に従ってリン酸緩衝生理食塩
水(PBS)中で切除した。1つの試験チューブに3つの脳を入れ、100ulの蒸留HOおよび80ulの過塩素酸(PCA)を添加した。試験チューブを超音波処理器に入れ、脳をおよそ5秒間の超音波処理によって崩壊させた。崩壊した脳を含んだ試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって濃度73ng/mlのミアンセリンが計測された。
【0043】
実施例C
9.8mg/mlのミアンセリン溶液20ulを6匹のバッタ(トノサマバッタ、雄)に注入した。5分後、脳をMokri-Moayyed et al. (2008)に従ってリン酸緩衝生理食塩水
(PBS)中で切除した。脳をPBS中で1回洗浄した。試験チューブ毎に3つの脳を入れ、100ulの蒸留HOおよび80ulの過塩素酸(PCA)を添加した。試験チューブを超音波処理器に入れ、脳をおよそ5秒間の超音波処理によって崩壊させた。崩壊した脳を含んだ試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度10ng/mlのミアンセリンが計測された。
【0044】
実施例D
9.8mg/mlのミアンセリン溶液20ulを3匹のバッタ(トノサマバッタ、雄)に注入した。15分後、脳をMokri-Moayyed et al. (2008)に従ってリン酸緩衝生理食塩
水(PBS)中で切除した。脳をPBS中で1回洗浄した。試験チューブに3つの脳を入れ、100ulの蒸留HOおよび80ulの過塩素酸(PCA)を添加した。試験チューブを超音波処理器に入れ、脳をおよそ5秒間の超音波処理によって崩壊させた。崩壊した脳を含んだ試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって濃度97ng/mlのミアンセリンが計測された。
【0045】
実施例E
9.8mg/mlのミアンセリン溶液20ulを6匹のバッタ(トノサマバッタ、雄)に注入した。5分後、脳をMokri-Moayyed et al. (2008)に従ってリン酸緩衝生理食塩水
(PBS)中で切除した。脳をPBS中で2回洗浄した。試験チューブ毎に3つの脳を入れ、100ulの蒸留HOおよび80ulの過塩素酸(PCA)を添加した。試験チューブを超音波処理器に入れ、脳をおよそ5秒間の超音波処理によって崩壊させた。崩壊した脳を含んだ試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度32ng/mlのミアンセリンが計測された。
【0046】
実施例A〜Gの検討から、5分から15分までにミアンセリン脳内濃度が増大することが示されており、このことはより長時間の暴露によって説明される(実施例G〜I参照)。さらに、脳を洗浄しても脳内濃度の著しい低下をもたらさないと結論付けることができる。
【0047】
実施例F
9.8mg/mlのミアンセリン溶液20ulを9匹のバッタ(トノサマバッタ、雄)に注入した。5分後、触角、複眼、脳、ならびに脳と触角および眼との間のすべての神経
連絡を含む最も頭側の部分からなるバッタ頭部の前頭部分を切断した。その後、脳を、エバンスブルーを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で切除した。神経ラメラ(neural lamella)を除去し、試験チューブ毎に3つの脳を入れ、100ulの蒸留HOおよび80ulの過塩素酸(PCA)を添加した。試験チューブを超音波処理器に入れ、脳をおよそ5秒間の超音波処理によって崩壊させた。崩壊した脳を含んだ試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度9ng/mlのミアンセリンが計測された。
【0048】
実施例Fは、ミアンセリンがバッタにおいて血液脳関門(BBB)を透過することを示しており、このことは脊椎動物におけるBBB透過性を反映している。実施例A〜Fから、化合物の一部は神経ラメラに結合すると結論付けることができる。したがって、BBB透過性を結論付ける前に、計測された脳内濃度を上記の寄与に関して補正しなければならない。代替例として神経ラメラを除去してもよく、この場合脳内濃度はBBB透過に関する直接の計測値である。
【0049】
実施例G
5%DMSO中に8.8mg/mlのミアンセリン溶液40ulを18匹のバッタ(トノサマバッタ、雄)に注入した。5分後、20ulの血リンパを各バッタから抽出した。触角、複眼、脳、ならびに脳と触角および眼との間のすべての神経連絡を含む最も頭側の部分からなるバッタ頭部の前頭部分を切断した。その後、脳を、エバンスブルーを含有する生理食塩水中で切除した。
【0050】
2つの血リンパ試料を、60ulの蒸留HOおよび200ulのアセトニトリルが入っている試験チューブに入れた。各試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度38ug/mlのミアンセリンが計測された。
【0051】
脳をそれぞれ生理食塩水中で洗浄し、100ulの蒸留HOが入った試験チューブに入れた。神経ラメラを除去し、試験チューブ毎に6つの脳を入れ、200ulのアセトニトリルを添加した。試験チューブを超音波処理器に入れ、脳をおよそ5秒間の超音波処理によって崩壊させた。崩壊した脳を含んだ試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度152ng/mlのミアンセリンが計測された。
【0052】
実施例H
5%DMSO中に8.8mg/mlのミアンセリン溶液40ulを18匹のバッタ(トノサマバッタ、雄)に注入した。15分後、20ulの血リンパを各バッタから抽出した。触角、複眼、脳、ならびに脳と触角および眼との間のすべての神経連絡を含む最も頭側の部分からなるバッタ頭部の前頭部分を切断した。脳を、エバンスブルーを含有する生理食塩水中で切除した。
【0053】
2つの血リンパ試料を、60ulの蒸留HOおよび200ulのアセトニトリルが入っている試験チューブに入れた。各試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度17ug/mlのミアンセリンが計測された。
【0054】
脳をそれぞれ生理食塩水中で洗浄し、100ulの蒸留HOが入った試験チューブに入れた。神経ラメラを除去し、試験チューブ毎に6つの脳を入れ、200ulのアセトニトリルを添加した。試験チューブを超音波処理器に入れ、脳をおよそ5秒間の超音波処理によって崩壊させた。崩壊した脳を含んだ試料を5分間遠心分離処理した(10000g
、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度305ng/mlのミアンセリンが計測された。
【0055】
実施例I
5%DMSO中に8.8mg/mlのミアンセリン溶液40ulを18匹のバッタ(トノサマバッタ、雄)に注入した。45分後、20ulの血リンパを各バッタから抽出した。触角、複眼、脳、ならびに脳と触角および眼との間のすべての神経連絡を含む最も頭側の部分からなるバッタ頭部の前頭部分を切断した。脳を、エバンスブルーを含有する生理食塩水中で切除した。
【0056】
2つの血リンパ試料を、60ulの蒸留HOおよび200ulのアセトニトリルが入っている試験チューブに入れた。各試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度13ug/mlのミアンセリンが計測された。
【0057】
脳をそれぞれ生理食塩水中で洗浄し、100ulの蒸留HOが入った試験チューブに入れた。神経ラメラを除去し、試験チューブ毎に6つの脳を入れ、200ulのアセトニトリルを添加した。試験チューブを超音波処理器に入れ、脳をおよそ5秒間の超音波処理によって崩壊させた。崩壊した脳を含んだ試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度393ng/mlのミアンセリンが計測された。
【0058】
実施例G〜Iから、血リンパ中のミアンセリン濃度は時間とともに低下する一方、脳内濃度は5分から15分へと増大し、15分から45分までは横ばいになると結論付けることができる。これは、脳への曝露を長くするとある限界までは脳内レベルが増大する、脊椎動物における状態を反映している。さらに、脊椎動物の脳内における化合物のクリアランスは体液中よりも遅い、すなわちまさに実施例G〜Iにおいて見られる通りである。
【0059】
実施例J
630ug/mlのセロトニン溶液20ulを6匹のバッタ(トノサマバッタ、雄)に注入した。5分後、20ulの血リンパを各バッタから抽出した。触角、複眼、脳、ならびに脳と触角および眼との間のすべての神経連絡を含む最も頭側の部分からなるバッタ頭部の前頭部分を切断し、脳を生理食塩水中で切除した。各血リンパ試料を、80ulの蒸留HOおよび200ulのアセトニトリルが入っている試験チューブに入れた。各試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度4.7ug/mlのセロトニンが計測された。
【0060】
脳をそれぞれ生理食塩水中で洗浄し、100ulの蒸留HOが入った試験チューブに入れた。試験チューブ毎に3つの脳を入れ、200ulのアセトニトリルを添加した。試験チューブを超音波処理器に入れ、脳をおよそ5秒間の超音波処理によって崩壊させた。崩壊した脳を含んだ試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度86.5ng/mlのセロトニンが計測された。
【0061】
実施例K
バッタ(トノサマバッタ、雄)由来の3つの脳を使用して脳内の内在セロトニンレベルを計測した。触角、複眼、脳、ならびに脳と触角および眼との間のすべての神経連絡を含む最も頭側の部分からなるバッタ頭部の前頭部分を切断し、脳を生理食塩水中で切除した。脳をそれぞれ生理食塩水中で洗浄し、100ulの蒸留HOが入った試験チューブに入れた。1つの試験チューブに3つの脳を入れ、200ulのアセトニトリルを添加した
。試験チューブを超音波処理器に入れ、脳をおよそ5秒間の超音波処理によって崩壊させた。崩壊した脳を含んだ試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって濃度20ng/mlのセロトニンが計測された。
【0062】
実施例A〜Fは、脳内濃度の計測に神経ラメラが含まれている場合はミアンセリンの測定濃度が3倍に増大することを示した。神経ラメラに結合したセロトニンがミアンセリンでの検討と同様の寄与をなすものと仮定するのは合理的である。したがって、ミアンセリンの実験に基づいた補正係数を導入することにより、実施例Jで実際に計測されたセロトニン脳内濃度が実施例Kで計測された内在セロトニンレベルに近いことが示唆される。
【0063】
実施例JおよびKから、セロトニンはバッタのBBBを、仮に透過するとしても極めて低い程度に(to a very low extend)しか透過しないと結論付けることができる。セロトニンの極めて低いBBB透過性は脊椎動物においても見られる。
【0064】
実施例L
5%DMSO中8.4mg/mlのブスピロン溶液20ulを6匹のバッタ(トノサマバッタ、雄)に注入した。5分後、20ulの血リンパを各バッタから抽出した。触角、複眼、脳、ならびに脳と触角および眼との間のすべての神経連絡を含む最も頭側の部分からなるバッタ頭部の前頭部分を切断し、脳を生理食塩水中で切除した。各血リンパ試料を、80ulの蒸留HOおよび200ulのアセトニトリルが入っている試験チューブに入れた。各試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度4.5ug/mlのブスピロンが計測された。
【0065】
脳をそれぞれ生理食塩水中で洗浄し、100ulの蒸留HOが入った試験チューブに入れた。試験チューブ毎に3つの脳を入れ、200ulのアセトニトリルを添加した。試験チューブを超音波処理器に入れ、脳をおよそ5秒間の超音波処理によって崩壊させた。崩壊した脳を含んだ試料を5分間遠心分離処理した(10000g、4℃)。100ulの上清を新しい試験チューブに移した。LCMSによって平均濃度20ng/mlのブスピロンが計測された。
【0066】
ブスピロンがバッタのBBBを透過することは本実施例から明白であったが、ミアンセリンの場合よりはるかに低い割合である。この結果は、ブスピロンのBBB透過が対応するミアンセリンの透過よりもはるかに低い脊椎動物のBBB透過性を反映している。
【0067】
【表3】

【0068】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験物質が、脊椎動物、好ましくはヒトのような哺乳動物の血液脳関門(BBB)を横断して運ばれるかどうかを評価する方法であって、
試験物質を、BBBを有する昆虫に投与するステップと、
該昆虫をインキュベートするステップと、
該昆虫の脳を切除するステップと、
脳内の試験物質の濃度を計測するステップと
からなる方法。
【請求項2】
昆虫は、ゴキブリ亜目(Blattoidea)、双翅目(Diptera)、バッタ上科(Acridoidea
)、ナナフシ目(Cheleutoptera)、ハエ亜目(Brachycera)および鱗翅目(Lepidoptera)から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
昆虫は0.5時間〜5時間の期間にわたってインキュベートされ、その後脳内の投与された試験物質の濃度を定量する目的で昆虫の脳が切除される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
脳の切除は昆虫を屠殺した直後に実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
試験物質の濃度を計測するステップは、切除した脳をホモジナイズすることと、好ましくは該ホモジネートの遠心分離処理と、該ホモジネート中の試験物質の濃度を、液体クロマトグラフィーを用いて、恐らくは溶出化合物の質量分析検出と共に分析することとによって実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
試験物質は非経口投与または経口投与される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
BBB透過性を定量するために身体:脳の試験物質濃度勾配を測定するステップを含んでなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
試験物質の相対的な有効性を血液脳関門の存在下での中枢神経系における所望の活性と比較するステップを含んでなる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
試験物質が血液脳関門により代謝されるかどうかを測定するステップを含んでなる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
試験物質が、脊椎動物、好ましくはヒトのような哺乳動物の血液脳関門を横断して運ばれるかどうかを評価するための、ゴキブリ亜目(Blattoi dea)、双翅目(Diptera)、バッタ上科(Acridoidea)、ナナフシ目(Cheleutoptera)、ハエ亜目(Brachycera)およ
び鱗翅目(Lepidoptera)から成る群から選択される昆虫の使用。

【公表番号】特表2012−502293(P2012−502293A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526519(P2011−526519)
【出願日】平成21年9月16日(2009.9.16)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062023
【国際公開番号】WO2010/031794
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(511065370)
【氏名又は名称原語表記】ENTOMOPHARM APS
【Fターム(参考)】