説明

血管イベントの予測および急性冠動脈症候群の診断のための方法

本発明は、血管イベントまたは状態の危険性があると疑われる患者(該患者は、心電図で見たときのST分節の非上昇および/または正常レベルの少なくとも1つの壊死マーカーを示す)における血管イベントの予測またはACSの診断のための方法であって、少なくとも2種類の生化学的マーカーの存在および/またはレベルが患者の生物試料において測定され、これにより、患者が血管イベントまたは血管関連状態を経験する可能性がMPO、sCD40L、IL−6、PAPP−A、CRP、D−ダイマー、トロポニンおよびproBNPのような生化学的マーカーの測定された存在および/またはレベルから推定される、方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2006年8月8日に出願された米国仮出願番号第60/835,903号に基づく優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明は、血管イベントの危険性があると疑われる患者におけるかかる血管イベントの発生を予測する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
毎年数百万人の、急性冠動脈症候群(ACS)を示す胸痛のような症状を持つ患者が病院を訪れている。ACSは、急性心筋虚血によって引き起こされる様々な臨床症状をいう。ACS患者は心臓死または虚血性合併症になる危険性が高いために、該患者の同定は非常に重要なことである。
【0004】
ACSを疑われる患者の状態を評価するための現行プロトコールは、通常、心電図(ECG)を行うこと、および壊死マーカー、特に、心筋壊死マーカー、一般的には、心筋トロポニンIもしくはT(cTnIもしくはcTnT)、またはクレアチンキナーゼ(CK)の血中濃度を測定することを含む。
【0005】
すなわち、非特許文献1によって定義されているように、急性胸痛を示しており、上記試験を受けた患者は、以下のとおり分類される:
ST分節の非上昇および心筋壊死マーカーの非上昇: 不安定狭心症;
ST分節の非上昇および心筋壊死マーカーのレベル上昇: 非ST型心筋梗塞;
ST分節の上昇および心筋壊死マーカーのレベル上昇: ST型心筋梗塞。
【0006】
不安定狭心症、非ST型心筋梗塞、およびST型心筋梗塞はすべてACSを構成する。
【0007】
被験患者のうち、心電図記録でのST分節の非上昇および正常レベルの壊死マーカー(特に、心筋壊死マーカー)を示す患者は、取り扱いが特に困難である。一方では、これらの患者は、有害な血管イベントを持続する危険性が限られているために、ほとんどの場合には入院が不必要であり、不必要な入院は医療保障組織に高い費用負担をかける。他方では、これらの患者は、特にACSの呈示が非定型的であるために、全員が無リスクであるとは限らず、帰宅させられた患者の1〜2%がその後に心筋梗塞のような有害な血管イベントを持つと推定される(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Grech et al. (2003) BMJ 326:1259-1261
【非特許文献2】Apple et al. (2005) Clinical Chemistry 51:810-824
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
かくして、血管イベントの危険性があると疑われ、ST分節の非上昇および正常レベルの壊死マーカー(特に、心筋壊死マーカー)を示す患者の中の無リスク患者と事実上有害な血管イベントを経験する危険性がある患者との識別に役立つ方法が非常に必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明の目的は、ST分節の非上昇および正常レベルの壊死マーカー(特に、心筋壊死マーカー)を示す患者における血管イベントの予測のための方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、これらの患者においてACSを診断するための信頼できる方法を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、ACSを疑われる個体の状態を判定する方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、上記方法を実行するためのキットを提供することである。
【0014】
本発明は、本発明者らが、血管イベントの危険性があると疑われる患者における将来の血管イベントの可能性が
下記のクラスのマーカー:
アテローム性動脈硬化プラーク不安定性マーカー、
アテローム性動脈硬化プラーク破裂マーカー、
冠動脈炎症マーカー、
早期血栓状態マーカー、
血栓マーカー、
虚血マーカー、
壊死マーカー、および
心筋機能不全マーカー
からなる群から選択される少なくとも2種類の生化学的マーカーの存在および/またはレベルを測定すること、
この生化学的マーカーの測定された存在および/またはレベルから、患者が血管イベントを経験する可能性を推定すること
によって判定され得ることを立証したことによって得られる。
【0015】
(発明の概要)
本発明は、血管イベントの危険性があると疑われる患者(該患者は、特に、
心電図で見たときのST分節の非上昇、および/または
正常レベルの少なくとも1つの壊死マーカー、特に心筋壊死マーカー
を示す)における血管イベントの予測のための方法であって、
下記のクラスのマーカー:
アテローム性動脈硬化プラーク不安定性マーカー、
アテローム性動脈硬化プラーク破裂マーカー、
冠動脈炎症マーカー、
早期血栓状態マーカー、
血栓マーカー、
虚血マーカー、
壊死マーカー、および
心筋機能不全マーカー
からなる群から選択される少なくとも2種類の生化学的マーカー(特に、3、4、5、6、7または8種類の生化学的マーカー)の存在および/またはレベルが患者の生物試料において測定され、
これにより、患者が血管イベントを経験する可能性がこの生化学的マーカーの測定された存在および/またはレベルから推定される、方法に関する。
【0016】
本発明はまた、
心電図で見たときのST分節の非上昇、および/または
正常レベルの少なくとも1つの壊死マーカー(特に、心筋壊死マーカー)
を示す患者における急性冠動脈症候群(ACS)の診断方法であって、
該患者の生物試料における、下記のクラスのマーカー:
アテローム性動脈硬化プラーク不安定性マーカー、
アテローム性動脈硬化プラーク破裂マーカー、
冠動脈炎症マーカー、
早期血栓状態マーカー、
血栓マーカー、
虚血マーカー、
壊死マーカー(特に、心筋壊死マーカー)、および
心筋機能不全マーカー
からなる群から選択される少なくとも2種類の生化学的マーカー(特に、少なくとも3種類、特に、少なくとも4種類、特に、少なくとも5種類の生化学的マーカー)の存在および/またはレベルを測定することを含み、
これにより、該患者がACSに罹患しているかどうかが判定される、方法に関する。
【0017】
上記に定義した予測および診断方法の実施態様では、患者は、
心電図で見たときのST分節の非上昇、および
正常レベルの少なくとも1つの壊死マーカー(特に、心筋壊死マーカー)
を示す。
【0018】
上記に定義した予測および診断方法の別の実施態様では、患者はまた、胸痛を示す。
【0019】
上記に定義した予測および診断方法の別の実施態様では、患者が血管イベントを経験する可能性を推定するため、または患者がACSに罹患しているかどうかを判定するために、壊死マーカー(特に、心筋壊死マーカー)の存在またはレベル(該レベルは、該予測または診断方法を適用する患者において正常である)が用いられる。
【0020】
上記に定義した予測および診断方法の別の実施態様では、患者は、正常な心筋トロポニンレベル(特に、正常な心筋トロポニンI(cTnI)レベルまたは正常な心筋トロポニンT(cTnT)レベル)、および/または正常なCKレベルを示す。
【0021】
上記に定義した予測および診断方法のさらなる実施態様では、患者は、心筋壊死を示さない。
【0022】
本発明はまた、ACSを疑われる個体の状態を判定する方法であって、該患者の生物試料における、以下のマーカーの組合せ:
proBNPおよびPAPP−A、ならびに、任意に、CRP、IL−6、MPO、sCD40L、D−ダイマーおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNP、IL−6、ならびに、CRP、sCD40LおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNPおよびBNP、ならびに、任意に、CRP、sCD40LおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
BNPまたはproBNP(特に、BNP)およびCRP、ならびに、任意に、IL−6、MPO、PAPP−AおよびD−ダイマーからなる群から選択されるマーカー;
proBNPまたはBNP(特に、proBNP)およびsCD40L、ならびに、任意に、CRPおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
CRPおよびIL−6;
BNPまたはproBNP(特に、BNP)およびIL−6、ならびに、任意に、CRPおよびMPO;
proBNP、PAPP−A、CRP、BNP、D−ダイマー、IL−6、sCD40LおよびMPO
からなる群から選択される少なくとも2種類の生化学的マーカーの存在および/またはレベルを測定することを含み、
これにより、個体の状態が判定される、方法に関する。
【0023】
上記に定義した、ACSを疑われる個体の状態を判定する方法の実施態様では、状態は、
非ACS、および
不安定狭心症
からなる群から選択される。
【0024】
上記に定義した、ACSを疑われる個体の状態を判定する方法の別の実施態様では、(i)該個体の少なくとも1つの壊死マーカー(特に、心筋壊死マーカー)のレベルおよび(ii)患者の心電図で見たときのST分節の上昇の有無を判定する。
【0025】
上記に定義した、ACSを疑われる個体の状態を判定する方法の別の実施態様では、壊死マーカーは心筋トロポニンIまたは心筋トロポニンTであり得る。
【0026】
本発明はまた、患者においてACSを診断するため、または血管イベントの予測のためのキットであって、下記のクラスのマーカー:
アテローム性動脈硬化プラーク不安定性マーカー、
アテローム性動脈硬化プラーク破裂マーカー、
冠動脈炎症マーカー、
早期血栓状態マーカー、
血栓マーカー、
虚血マーカー、
壊死マーカー(特に、心筋壊死マーカー)、および
心筋機能不全マーカー
からなる群から選択される少なくとも3つ(特に、3、4、5、6、7または8つ)の生化学的マーカーに対してそれぞれ特異的な少なくとも3つ(特に、3、4、5、6、7または8つ)のリガンドを含む、キットに関する。
【0027】
一の実施態様では、上記に定義したキットは、心筋トロポニン(特に、心筋トロポニンIまたは心筋トロポニンT)に対して特異的な1つのリガンドを含む。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(発明の詳細な説明)
本明細書で意図される場合、「予測」は、病態の成行きを予測する方法または患者に有害なイベントが生じる可能性(probabilityまたはlikeliness)を予測する方法に関する。
【0029】
本明細書で意図される場合、「血管イベント」は、患者生命体における血管関連(特に、心血管関連)の、健康を脅かすまたは病理的なイベントに関する。本発明の血管イベントは、特に、血管関連死、心筋梗塞、うっ血性心不全および血管関連入院加療、血管再建手技からなる群から選択される。
【0030】
本明細書で意図される場合、「診断」は、患者が罹患している病態を判定する方法に関する。
【0031】
本明細書で意図される場合、急性冠動脈症候群(ACS)は、特に急性心筋虚血によって引き起こされる様々な臨床症状に関する。特に、Apple et al, (2005) Clinical Chem 51:810-824に定義されている。
【0032】
好ましくは、本明細書で意図される場合、個体は、健康である場合、および/または正常レベルの壊死マーカー(特に、心筋壊死因子)、ST分節の非上昇および非病的心電図を示す場合、ACSを示さないと言われるであろう。
【0033】
「心電図で見たときのST分節の非上昇」または「ST分節の非上昇」とは、患者の心電図がST分節の低下または正常なST分節を示すことを意味する。
【0034】
本明細書で意図される場合、マーカーの「正常レベル」とは、生物試料中のマーカーの濃度が該マーカーについての標準カットオフ値内であることを意味する。該標準は、生物試料の種類および生物試料中のマーカーの濃度を測定するために使用される方法に依存する。所定のマーカーの標準は、当業者に周知である。特に、所定のマーカーについての正常レベルとは、該マーカーが実質的に不在であること、すなわち、そのマーカーについて測定されたレベルが、有意に存在すると見なされるそのマーカーについての最小レベルを定義するカットオフ値以下であることを意味する。
【0035】
本明細書で意図される場合、「壊死マーカー」、特に「心筋壊死マーカー」は、特に心筋虚血後に、心筋壊死になりしだい心筋組織から放出される巨大分子に関する。例えば、壊死マーカーは、特に、心筋トロポニン、特に心筋トロポニンIおよびT(cTnIおよびcTnT)、ミオグロビン、およびクレアチンキナーゼ(CK)を包含する。CKに関しては、MBアイソフォームを測定するのが好ましい。
【0036】
好ましくは、正常とみなされるには、心筋トロポニンIについての測定レベルは、少なくとも24時間の間、参照グループについての値の99%を超えてはならない。
【0037】
好ましくは、また、正常とみなされるには、CKのMBアイソフォームについての測定レベルは、2つの連続した試料についてジェンダー特異的参照対照グループについての値の99%を超えてはならない。
【0038】
本明細書で意図される場合、マーカーのレベルは、生物試料におけるマーカーの濃度を与える方法を使用して測定される。かかる方法は、特に、質量分析法(特に、CK−MBレベルの測定のため)を包含するが、免疫学的方法のようなリガンドベースの方法も包含する。
【0039】
特に、生化学的マーカーのレベルは、該生化学的マーカーに対して特異的なリガンドを使用して測定される。
【0040】
「リガンド」は、マーカーに対して結合アフィニティーを有する分子に関する。特に、リガンドがマーカーと特異的に結合することが好ましく、すなわち、リガンドは、好ましくは、生物試料の他の成分と比べて特異的であるマーカーと結合する。
【0041】
特異的リガンドは、特に、
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体および組換え抗体、またはFab断片、F(ab')2断片およびscFv断片のようなそれらの断片、
ファージ抗体(PhAb)、
ラマおよびラクダ抗体、
アプタマー
からなる群から選択される。
【0042】
好ましくは、特異的リガンドは、モノクローナル抗体である。
【0043】
本明細書で意図される場合、「生物試料」なる用語は、組織生検または体液試料のような患者から採取できる試料の全てを包含する。しかしながら、本発明においては、試料は、全血試料、血清または血漿試料のような血液ベースの試料であるのが好ましい。血液ベースの試料の場合、EDTA、クエン酸塩またはヘパリンのような抗凝固剤を添加することができる。
【0044】
さらにまた、マーカーのレベルは、同一患者から採取した種々の試料または固有の試料から測定することができる。
【0045】
さらにまた、試料中のマーカーの存在またはレベルをシンプレックスアッセイにて個別に測定することができるか、または、任意ではあるが、いくつかのまたは全てのマーカーのレベルをマルチプレックスアッセイにて同時に測定することができる。
【0046】
マーカーの存在またはレベルは、1回、または、特に所定の時間的経過に従って繰り返し測定することができる。
【0047】
マーカーの存在またはレベルは、自動アッセイシステムを用いて測定するのが好ましい。
【0048】
本明細書で意図される場合、
アテローム性動脈硬化プラーク不安定性マーカーは、不安定なアテローム性動脈硬化プラークの場合に存在またはレベルが変化するマーカーに関する;特に、かかるマーカーは、不安定なアテローム性動脈硬化プラークの場合に存在するかまたはそれらのレベルが増加する;
アテローム性動脈硬化プラーク破裂マーカーは、アテローム性動脈硬化プラーク破裂の場合に存在またはレベルが変化するマーカーに関する;特に、かかるマーカーは、アテローム性動脈硬化プラーク破裂の場合に存在するかまたはそれらのレベルが増加する;
冠動脈炎症マーカーは、冠動脈炎症の場合に存在またはレベルが変化するマーカーに関する;特に、かかるマーカーは、冠動脈炎症の場合に存在するかまたはそれらのレベルが増加する;
早期血栓状態マーカーは、早期血栓の場合に存在またはレベルが変化するマーカーに関する;特に、かかるマーカーは、早期血栓の場合に存在するかまたはそれらのレベルが増加する;
血栓マーカーは、血栓の場合に存在またはレベルが変化するマーカーに関する;特に、かかるマーカーは、血栓の場合に存在するかまたはそれらのレベルが増加する;
虚血マーカーは、心筋虚血の場合に存在またはレベルが変化するマーカーに関する;特に、かかるマーカーは、心筋虚血の場合に存在するかまたはそれらのレベルが増加する;
壊死マーカー、特に、心筋壊死マーカーは、心筋壊死の場合に存在またはレベルが変化するマーカーに関する;特に、かかるマーカーは、心筋壊死の場合に存在するかまたはそれらのレベルが増加する;
心筋機能不全マーカーは、心筋機能不全の場合に存在またはレベルが変化するマーカーに関する;特に、かかるマーカーは、心筋機能不全の場合に存在するかまたはそれらのレベルが増加する。
【0049】
かかるマーカーは、特に、Apple et al, (2005) clin. Chem. 51:810-824に記載されている。
【0050】
本明細書で意図される場合、2種類またはそれ以上のマーカーが同一のマーカー群に属するものであり得る。しかしながら、上記に定義した予測および診断方法の好ましい実施態様では、生化学的マーカーは、同一のマーカー群に属しない。
【0051】
上記に定義した予測および診断方法の別の好ましい実施態様では、以下のマーカーの組合せが使用される:
【0052】
【表1−1】

【表1−2】

【0053】
上記に定義した予測および診断方法の特に好ましい実施態様によると、
アテローム性動脈硬化プラーク不安定性マーカーは、MPO、sCD40L、IL−6、PAPP−Aおよびコリン(特に、全血コリン)からなる群から選択される;
アテローム性動脈硬化プラーク破裂マーカーは、MPO、sCD40L、MMP、コリン(特に、全血コリン)およびPAPP−Aからなる群から選択される;
冠動脈炎症マーカーは、MPO、sCD40L、CRPおよびIL−6からなる群から選択される;
早期血栓状態マーカーは、sCD40Lおよびフィブリノゲンからなる群から選択される;
血栓マーカーは、D−ダイマーからなる群から選択される;
虚血マーカーは、IMA、cTnI、cTnTおよびFABPからなる群から選択される;
壊死マーカー、特に、心筋壊死マーカーは、cTnI、cTnT、CK、ミオグロビンおよびFABPからなる群から選択される;
心筋機能不全マーカーは、BNP、NT−proBNPおよびproBNPからなる群から選択される。
【0054】
MPO(ミエロペルオキシダーゼ)は、特に、Baldus et al., Circ. 2003; 108:1440-1445、Brennan et al., N Engl J Med 2003; 349:1595-604、Brennan et al., Current opinion in lipidology 2003; 14:353-359、Nambi et al., Curr Ather Reports 2005, 7:127-131、Nicholls et al., Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2005; 25:1-9およびZhang et al., JAMA 2001; 286:2136-2142に記載されている。
【0055】
MMP(マトリックスメタロプロテイナーゼ)、特に、MMP−9は、特に、Jones et al., Cardiovasc Res 2003; 59:812-23に記載されている。
【0056】
コリンは、Apple et al., Clin. Chem. 2005; 51:810-824に記載されている。
【0057】
sCD40L(CD40リガンドの可溶性形態)は、特に、Aukrust et al., Circ. 1999; 100:614-620;Heeschen et al., N Engl J Med 2003; 348:1104-11;Peng et al., Clin Chim Acta. 2002; 319:19-26;Tayebjee et al., Am J Cardiol 2005; 96:339-345;Varo et al., Circ. 2003; 108:1049-1052に記載されている。
【0058】
IL−6(インターロイキン6)は、特に、Aggarwal et al. Journal of Thrombosis and Thrombolysis 2003; 15: 25-31, 2003;Biasucci et al. Circ. 1999; 99:855-860;Ikeda et al. Clin. Cardiol. 2001; 24:701-704;Lubrano et al., J of Clin Lab Anal 2005; 19:110-114;Ridker et al., N Engl J Med. 2000; 342:836-43に記載されている。
【0059】
PAPP−A(妊娠関連血漿タンパク質A)は、特に、Bayes-Genis et al., N Engl J Med 2001; 345:1022-9;Heeschen et al., J Am Coll Cardiol 2005; 45:229-37;Khosravi et al., Clinical Biochemistry 2002; 35:531-538;Laterza et al., Clin Chim Acta 2004; 348:163-169;Liu et al., Chin med j. 2005; 118:1827-1829;Lund et al., Circulation 2003; 108:1924-1926;Qin et al., Scand Cardiovasc J 36; 358-361, 2002;Qin et al., Clin Chem. 2005; 51:75-83;Qin et al., Clin Chem 2006; 52:398-404に記載されている。
【0060】
D−ダイマーは、特に、Bayes-Genis et al., Am Heart J 2000; 140:379-84;Danesh et al., Circ. 2001; 103:2323-2327;Heim et al., Clinical Chemistry 2004; 50:1136-1147;Keeling et al. British Journal of Haematology, 2004; 124:15-25;Shitrit et al., American Journal of Hematology 2004; 77:147-150;Shitrit et al. American Journal of Hematology 2004; 76:121-125に記載されている。
【0061】
CRP(C反応性タンパク質)は、特に、Bermudez et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2002; 22:1668-1673;Body et al., International Journal of Cardiology 2005; 98:277-283;Ferreiro et al., Circ. 1999; 100:1958-1963;Haverkate et al., Lancet 1997; 349: 462-66;Lowe et al., Journal of Thrombosis and Hemostasis 2003; 1:2312-2316;Luc et al., Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2003; 23:1255-1261;Maier et al. Circ. 2005; 111:1355-1361;Pepys et al., J. Clin. Invest. 2003 111:1805-1812;Ridker et al., Am Heart J 2004; 148:S19-26;Roberts et al. Clin Chem 2001; 47:418-425;Tanaka et al., J Am Coll Cardiol 2005; 45:1594-9;Tzoulaki et al. Circ. 2005; 112:976-983に記載されている。
【0062】
フィブリノゲンは、特に、Saigo et al., Progress in Cardiovascular Diseases 2004; 46:524-538に記載されている。
【0063】
IMA(虚血修飾アルブミン)は、特に、Jaffe Cardiol Clin 2005 23:453-465に記載されている。
【0064】
FABP(脂肪酸結合タンパク質)は、特に、Suzuki et al. Int. Heart J 2005 46:601-606に記載されている。
【0065】
ミオグロビンは、特に、Jaffe Cardiol Clin 2005 23:453-465に記載されている。
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BNP(Bナトリウム利尿ペプチド)、proBNPおよびNT−proBNPは、特に、Alehagen et al. International Journal of Cardiology 2005; 100:125-133;Bassan et al., European Heart Journal 2005; 26:234-240;De lemos et al., N Engl J Med 2001; 345:1014-21;de Lemos et al., Rev Cardiovasc Med 2003; 4:S37-S46;Fonarow et al., Rev Cardiovasc Med 2003; 4:S20-S28;Galvani et al., The European Journal of Heart Failure 2004; 6:327-333;Gibler et al., Rev Cardiovasc Med 2003; 4:S47-S55;Jernberg et al., European Heart Journal 2004; 25:1486-1493;Mega et al., J Am Coll Cardiol 2004; 44:335-9;Na Hong et al., Circ J 2005; 69:1472-1476;Sabatine et al., J Am Coll Cardiol 2004; 44:1988-95;Sokoll et al. Clin Chem Lab Med 2004; 42:965-972;Wiviott et al., Clin Chim Acta 2004; 346:119-128;Giuliani et al., Clinical Chemistry 2006; 52:1054-1061;Seferian et al, Clinical Chemistry 2007; 53, 86673;Lam et al, JACC 2007; 49; 1193-202; Liang et al, JACC 2007; 49; 1071-8に記載されている。
【0069】
上記に定義した予測および診断方法の特に好ましい実施態様では、以下の生化学マーカーの組合せが使用される:
【0070】
【表2−1】

【表2−2】

【0071】
上記に定義した予測および診断方法の別の好ましい実施態様では、以下の生化学的マーカーの組合せが使用され、これにより、個体の状態が判定される:
proBNPおよびPAPP−A、ならびに、任意に、CRP、IL−6、MPO、sCD40L、D−ダイマーおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNP、IL−6、ならびに、CRP、sCD40LおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNPおよびBNP、ならびに、任意に、CRP、sCD40LおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
BNPまたはproBNP(特に、BNP)およびCRP、ならびに、任意に、IL−6、MPO、PAPP−AおよびD−ダイマーからなる群から選択されるマーカー;
proBNPまたはBNP(特に、proBNP)およびsCD40L、ならびに、任意に、CRPおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
CRPおよびIL−6;
BNPまたはproBNP(特に、BNP)およびIL−6、ならびに、任意に、CRPおよびMPO;
proBNP、PAPP−A、CRP、BNP、D−ダイマー、IL−6、sCD40LおよびMPO。
【0072】
特に、以下の組合せが好ましい:
【表3−1】

【表3−2】

BNP、IL−6、CRPおよびMPO;
proBNP、PAPP−A、CRP、BNP、D−ダイマー、IL−6、sCD40LおよびMPO。
【0073】
加えて、上記に定義した予測方法では、以下の組合せを使用するのが特に好ましい:
【表4】

【0074】
実際、これらの組合せは、無症候性集団(すなわち、正常なcTnIレベルおよび正常なECGをもつ集団)に適用した場合には、血管イベントを示唆する胸痛を示した個体を健康な個体と識別することを可能にする。血管イベントを示唆する胸痛を示した個体は、将来血管イベントを示し易いと考えられる。
【0075】
したがって、上記の組合せは、将来の血管イベントの可能性について無症候性集団を試験する際に高い予測値を有するものである。
【0076】
特に、組合せa1を用いた場合、無症候性個体は、以下の場合には健康な個体と比べて将来血管イベントを有する可能性が高いことを示すと言われるであろう:
1)0.109 BNP − 0.019 CRP − 0.022 proBNP ≧ 0.116。
【0077】
加えて、組合せb1〜m1には以下の式が当てはまる:
1)0.108 BNP − 0.022 proBNP ≧ 0.126
1)0.031 BNP + 0.079 CRP ≧ 0.37
1)0.109 BNP − 0.022 proBNP − 0.003 PAPP−A ≧ 0.007
1)0.031 BNP + 0.102 CRP − 0.004 MPO ≧ 0.016
1)0.107 BNP − 0.022 proBNP + 0.074 sCD40L ≧ 0.215
1)0.031 BNP + 0.041 IL−6 + 0.078 CRP − 0.004 MPO ≧ 0.112
1)0.115 BNP − 0.092 IL−6 − 0.023 proBNP ≧ 0.118
1)−0.002 MPO + 0.110 BNP − 0.023 proBNP ≧ 0.1
1)0.156 sCD40L + 0.112 CRP − 0.001 proBNP ≧ 0.151
1)0.12 sCD40L + 0.054 IL−6 + 0.001 proBNP ≧ 0.23
1)0.107 sCD40L + 0.001 MPO + 0.001 proBNP ≧ 0.216
1)0.105 sCD40L + 0.001 proBNP ≧ 0.107
ここで、各マーカーの濃度には以下の単位が適用される: BNP、pg/ml;proBNP、pg/ml;MPO、ng/ml;D−ダイマー、ng/ml;CRP、mg/l;IL−6、pg/ml;PAPP−A、ng/ml;sCD40L、ng/ml。
【0078】
上記に定義した診断方法では、正常なcTnIレベルおよびST分節の非上昇を有する集団において、ACSに罹患している個体(特に、不安定狭心症に罹患している個体)をACSに罹患していない個体と識別するために以下の組合せを使用するのが好ましい:
【表5】

および/または
【表6】

【0079】
特に、組合せa2〜k2は、不安定狭心症個体を健康な個体と識別するのに有用であり、組合せa3〜j3は、正常なcTnIレベルおよびST分節の非上昇を有するが血管イベントを示唆する胸痛を経験していない不安定狭心症個体を識別するのに有用である。
【0080】
かくして、正常なcTnIレベルおよびST分節の非上昇を有する個体は、以下の式が当てはまる場合には不安定狭心症に罹患していると見なされるであろう:
2)0.002 BNP + 0.078 CRP ≧ 0.219
2)0.001 proBNP + 0.133 CRP − 0.07 IL−6 ≧ 0.922
2)0.005 BNP + 0.137 CRP − 0.208 IL−6 ≧ 0.132
2)0.003 BNP + 0.077 CRP − 0.002 PAPP−A ≧ 0.162
2)−0.01 PAPP−A + 0.146 CRP + 0.001 proBNP ≧ 0.079
2)−0.01 PAPP−A + 0.003 MPO + 0.001 proBNP ≧ 0.308
2)−0.002 BNP + 0.130 CRP + 0.001 proBNP ≧ 0.504
2)−0.007 PAPP−A + 0.001 D−ダイマー + 0.001 proBNP ≧ 0.115
2)−0.008 PAPP−A + 0.111 IL−6 + 0.001 proBNP ≧ 0.111
2)−0.006 PAPP−A + 0.021 sCD40L + 0.001 proBNP ≧ 0.031
2)−0.006 PAPP−A + 0.001 proBNP ≧ 0.02
3)0.003 BNP − 0.001 D−ダイマー − 0.007 CRP ≧ 0
3)0.004 BNP + 0.041 CRP − 0.127 IL−6 ≧ 0
3)−0.027 PAPP−A + 0.005 MPO + 0.002 proBNP ≧ 0.296
3)−0.03 PAPP−A + 0.155 CRP + 0.002 proBNP ≧ −0.252
3)−0.016 PAPP−A − 0.156 sCD40L + 0.001 proBNP ≧ −0.061
3)−0.016 PAPP−A − 0.034 IL−6 + 0.001 proBNP ≧ −0.163
3)−0.016 PAPP−A − 0.001 BNP + 0.001 proBNP ≧ −0.313
3)−0.015 PAPP−A + 0.001 proBNP ≧ −0.31
3)−0.06 IL−6 + 0.057 CRP + 0.001 proBNP ≧ 0.342
3)0.016 MPO − 0.068 PAPP−A − 0.002 D−ダイマー + 0.011 BNP − 0.721 sCD40L − 0.131 IL−6 + 0.249 CRP + 0.002 proBNP ≧ 0.38
ここで、各マーカーの濃度には以下の単位が適用される: BNP、pg/ml;proBNP、pg/ml;MPO、ng/ml;D−ダイマー、ng/ml;CRP、mg/l;IL−6、pg/ml;PAPP−A、ng/ml;sCD40L、ng/ml。
【0081】
反対に、式が当てはまらない場合には、個体は、ACSに罹患していないと言われるであろう。
【0082】
本明細書で意図される場合、上に定義した予測、診断および判定方法について、マーカーの測定された存在またはレベルからの、患者が血管イベントを経験する可能性の推定、患者がACSに罹患しているかの判定、または患者の状態の判定は、コンピューターベースのシステムを使用して行われるのが好ましい。さらに好ましくは、コンピューターベースのシステムは、自動アッセイシステムに含まれる。
【0083】
推定された、患者が血管イベントを経験する可能性に依存して、入院加療または薬品治療のようないくつかの治療上の決定事項が本発明の方法を使用して開業医に提供されることは本発明の範囲内である。特に、推定された、患者が血管イベントを経験する可能性がごくわずかであると見なされた場合には、該患者に帰宅が提案される;逆に、推定された、患者が血管イベントを経験する可能性が高いと見なされた場合には、該患者に入院が提案される。
【0084】
患者が血管イベントを経験する可能性は、当業者に周知のスコアリングシステムを使用して評価することができる。
【0085】
かかるスコアリングシステムは、特に、Sabatine et al. (2002) Circ. 105:1760-1763に記載されている。例えば、0または1は、本発明の方法で使用されるマーカーの組合せにおける各マーカーについて、このマーカーがそれぞれ存在しないかもしくは存在するか、またはこのマーカーのレベルがそれぞれ正常性についての所定のカットオフ値以下であるかまたは以上であるかに依存して影響を受け、マーカーの組合せについて全体的な合計が算出される。
【0086】
別法として、WO 2004/059293に記載されるようないくつかのカットオフ値を使用して0〜1の値を用いることができる。加えて、計量ファクターは、特定の生理学的設定を反映するレベルのマーカーの特定の組合せに影響され得る。
【0087】
次いで、合計を、患者が血管イベントを経験する可能性と相関関係にある所定の値と比較する。これらの所定の値は、US2006/0105419(実施例3を参照)またはEP1666881([0126]〜[0143]を参照)に記載されるもののような、当業者に周知の統計手法に従って得ることができる。特に、これらの所定の値は、臨床試験を用いて得ることができる。ここで、所定の追跡調査期間内またはクリニカルエンドポイントでの患者における血管イベントの発生が追跡調査期間の初めの該患者における1種類またはそれ以上の生化学的マーカーのレベルと相関関係にある。
【0088】
本発明の方法で用いられる生化学的マーカーは、T−スチューデント検定、ANOVAまたはクラスカル・ワリス検定のような様々な差分解析方法に関するそれらの統計的有意性に従って選択される。該マーカーは、また、当業者に周知の受信者動作特性(ROC)曲線分析を介してそれらの特徴的な能力に従って選択され得る(Griner et al. Annals of Internal Medicine 1981; 94:555-600)。最後に、例えばKramar et al. Revue d'Epidemiologie et Sante Publique 1999; 47:376-383によって記載される一般的なmROC法に従って、または決定木、サポートベクターマシーン(SVM)もしくはニューラルネットワークのような教師なし学習アルゴリズムを用いて、最良のマーカーを、それらの感度(Se)およびそれらの特異度(Sp)を増大させるように組み合わせる。
【0089】
好ましくは、上記に定義したキットは、
proBNPおよびPAPP−A、ならびに、任意に、CRP、IL−6、MPO、sCD40L、D−ダイマーおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNP、IL−6、ならびに、CRP、sCD40LおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNPおよびBNP、ならびに、任意に、CRP、sCD40LおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
BNPまたはproBNP(特に、BNP)およびCRP、ならびに、任意に、IL−6、MPO、PAPP−AおよびD−ダイマーからなる群から選択されるマーカー;
proBNPまたはBNP(特に、proBNP)、sCD40L、ならびに、任意に、CRPおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
CRPおよびIL−6;
BNPまたはproBNP(特に、BNP)およびIL−6、ならびに、任意に、CRPおよびMPO;
proBNP、PAPP−A、CRP、BNP、D−ダイマー、IL−6、sCD40LおよびMPO
からなる群から選択されるマーカーの組合せのマーカーに対してそれぞれ特異的なリガンドを含む。
【実施例】
【0090】
実施例1 − 前向き臨床試験
目的
該臨床試験の目的は、各組合せの感度、特異度、陽性予測値および陰性予測値を決定することによってマーカーの様々な組合せの予測値の統計的評価を行うことである。結果の検証は、胸痛に関しての最初の入院から3〜6か月後、患者における血管イベントの発生(痛みの再発、不安定狭心症、非致死性心筋梗塞、致死性心筋梗塞への患者の状態の改悪)に従って行われる。
【0091】
単一患者試料におけるマーカーのこれらの組合せの自動同時決定は、医師が、胸痛を有し、心電図(ECG)変更もしくは心臓マーカー上昇を有しない患者についてのリスク層別化を確立するのを助けるのに特に有用である。
【0092】
患者
胸痛について相談しており、かつ、入院時にST分節および心筋トロポニンIレベルの上昇を伴わない、少なくとも300人の患者がこの試験に登録される。
【0093】
以下の試験対象患者基準を使用する:
18歳以上であり、胸痛を示すが入院時に行ったECGにてST分節の上昇を示さなかった患者;
入院時に行ったcTnIアッセイが陰性の患者。
【0094】
さらにまた、結果を検証するために、急性冠動脈症候群の特徴的な病態を有するかまたは有しない広範な患者が選択される;
典型的な長期の痛みおよびECG変更および/または生化学的マーカー(例えば、cTnI)の上昇を伴う心筋梗塞患者50人。
特定の心血管リスクを有しない健康な対象体100人;この集団は、年齢および性別に関しては不均一である。
【0095】
リスクファクターを示す患者には、
喫煙者、
動脈圧が高い患者、
糖尿病患者、
高齢患者、
トリグリセリド値が高い患者
が含まれる。
【0096】
しかしながら、上記の特徴を有するが12時間以上痛みがある入院患者は、この試験に含まれない。入院時に、心筋梗塞の有意なST分節の虚血性変化を可視化するために使用され得ない異常なECGを示す患者(ペースメーカーを装着している患者)もcTnI値の上昇を示す患者もこの試験に含まれない。
【0097】
さらにまた、炎症性疾患(CRP>15mg/l)および腫瘍に罹患している対象体ならびに前月に外科手術または大外傷を受けた対象体もこの試験に含まれない。さらにまた、既知の血栓障害もしくは心血管病態を持つ患者または入院前3週間以内に心筋梗塞を起こした患者もまたこの試験から排除される。
【0098】
肝臓障害または腎臓障害の患者は、健康な患者における腎クリアランスが迅速であるマーカーについてのレベルが有意に上昇する危険性のために、この試験に含まれない。
【0099】
妊婦もまたこの試験から排除される。
【0100】
含まれた患者についての以下の情報を集める: 年齢、性別、喫煙習慣、糖尿病状態、痛みの特徴(痛みの位置および強度、期間、再発)、入院時のECG特徴、入院期間、入院時のcTnIアッセイ結果、最終診断。閉経した女性についてのホルモン補充治療もまた記録する。
【0101】
サンプリング
各患者について、標準EDTAおよび乾燥管中に静脈血2mlを採取する。患者、サンプリングの日時、および入院からサンプリングまでの経過時間を同定するコードで各管を標識する。
【0102】
アッセイ
当該技術分野で公知の方法を用いて試料に対してcTnI、IL−6、hsCRP、MPO、PAPP−A、D−ダイマー、sCD40L、BNPおよびproBNPについてのアッセイを行う。
【0103】
各患者についての種々のマーカーのレベルは、分散分析(ANOVA)のような当業者に周知の統計手法によると、サンプリングから3〜6か月後の該患者における1つまたはいくつかの血管イベント(例えば、痛みの再発、不安定狭心症、非致死性心筋梗塞または致死性心筋梗塞への患者の状態の悪化)の推定発生と相関がある。このようにして、試験した変数(すなわち、試験した臨床マーカー)と血管イベントとの間に有意な関係が存在するかどうかを判定することができる。
【0104】
実施例2 − 臨床試験
材料および方法:
患者集団: 試験集団は、急性冠動脈症候群(ACS)の疑いがあるが救急診療部から退院した患者32人(非ACSの排除集団)、不安定狭心症と診断された患者22人、急性心筋梗塞患者38人および健常ボランティア47人からなっていた。健康ボランティアおよび患者関係者を含む全てにインフォームドコンセントを書面で与えた。
【0105】
Brabois Hospital(フランス国ナンシーのCentral University Hospital CHU)の施設内治験審査委員会によって承認された試験プロトコールを介して、急性冠動脈症候群の疑いがある急性胸痛のような症状を有する救急診療部に入院した患者が含まれた。入院後、心電図(12リードECG)および心筋トロポニンI血中濃度アッセイ(cTnI、Stratus CS troponin testing、米国のDade Behring)を行って、立証された不安定患者を非ACS患者(急性冠動脈症候群についての排除集団)と識別した。ST分節の上昇および正常な血漿トロポニンレベル(<0.04ng/ml)を伴わない患者が含まれ、不安定患者として分類された。胸痛および虚血型不快感を示すがACSについて診断されなかった(すなわち、正常な心電図を示す)患者は、排除集団として定義し、救急診療部から退院させた。ST部位の上昇および/または血漿心筋トロポニンIの上昇(>0.04ng/ml)をもって心筋梗塞について診断された患者からなる1つのグループもまた試験に含まれた(フランス国サンジェルマンアンレのHospital of Poissyから入手可能な38個の予備EDTA血漿試料)。比較のために、健康ボランティア(男性25人および女性22人)から得た対照EDTA血漿をTeragenix Corporation(米国)から入手した。全てのグループから得たEDTA血液試料を遠心分離し、マルチマーカー・パネル決定法のために−80℃で貯蔵した。
【0106】
排除集団、不安定グループおよび心筋梗塞グループについて、人口学的特性、ならびに喫煙状況、真性糖尿病、高血圧症、総コレステロール値および腎機能不全のような一連の心血管リスクファクターを記録した。全ての患者の人口学的特性を表1に概略記載する。
【0107】
分析法: バイオマーカー測定
心筋損傷および心筋機能不全、炎症ならびにプラーク破裂への関与に関して8個のバイオマーカーを選択し、対照、および心筋梗塞を含む示唆的なACSのために入院した患者からの血漿中で評価した。以下のとおり、全てのEDTA血漿において一連の8個の生化学的変数を測定した。救急入院時の予備的なトロポニンI試験および試験対象患者基準を検証するための心筋トロポニンI(cTnI、Access AccuTnI、Beckman Coulter)、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)(カリフォルニア州サンディエゴのBiosite Incorporated)、proBNP(Bio−Rad RUO ELISA assay、Clin Chem 2006; 52(6):1054-1061)、インターロイキン−6(IL−6、RD systems)、D−ダイマー(フランス国のHyphen Biomed)およびネフェロメトリーによるCRP(BNII、米国のDade Behring Inc.)を評価した。妊娠関連血漿タンパク質A(PAPP−A)およびミエロペルオキシダーゼ(MPO)を、それぞれマウス抗ヒトPAPP−AおよびMPOモノクローナル抗体(フィンランド国のHyTest Ltd.)を用いて二部位サンドイッチ免疫測定法によってヒト血漿において測定した。排除非ACS患者および不安定患者において、cTnIレベルが0.04ng/mlよりも高いEDTA血漿は全て分析から排除した。全ての試料分析は、盲検オペレーターによって臨床情報なしで行われた。各バイオマーカーについてのベースラインレベルは、全ての患者集団について表2に示される。
【0108】
統計分析
マーカー診断性能は、疾患集団を検出する能力を表す感度および対照集団を検出する能力を表す特異度によって特徴付けることができる。診断試験の評価の結果は、これら2つの詳細に明らかにされた集団を比較する2×2分割表に概略記載することができる。カットオフを形成することによって、2つの集団は、試験の結果に従ってカテゴリーに分類して陽性または陰性としてカテゴリー化することができた。そこで、特定のマーカーについて、「ケース」集団の中で陽性試験結果を有するa対象体(「真の陽性」:TP)および「対照」集団の中で陽性試験結果を有するb対象体(「真の陰性」:TN)が観察される。同様に、ケースの中で陰性試験結果を有するc対象体(「偽陽性」:FP)および対照の中で陰性試験結果を有するd対象体(「偽陰性」:FN)が観察される。
【0109】
感度は、TP/(TP+FN)であると定義され、本発明者らは「真の陽性率」と呼んでいる。それは、ケースの試料において算出される。特定のカットオフでの試験の感度(Se)は、かくして、該ケースの中の陽性結果の集団に対応する。
【0110】
特異度は、TN/(TN+FP)であると定義され、本発明者らは「真の陰性率」と呼んでいる。それは、対照の試料において算出される。特定のカットオフでの試験の特異度(Sp)は、かくして、対照の中の陰性結果の集団に対応する。
【0111】
感度および特異度は、所定のカットオフについて計算される。最も高い診断精度(最小限の偽陰性結果および偽陽性結果)を持つマーカー濃度が所定のカットオフまたは閾値として選択される。
【0112】
AUC(曲線下面積)は、個々の単一のマーカーまたはマーカーの組合せの診断性能についての総合指数を明らかにする。
【0113】
受信者動作特性(ROC)分析は、Kramar et al.(Comput. Methods Programs Biomed. 2001;66:199-207;Revue d'Epidemiologie et Sante Publique 1999;47:376-83)によって十分に記載されているmROCソフトウェアを用いて排除非ACS患者を不安定患者または心筋梗塞患者と比べて、単一のバイオマーカーについて、およびマルチマーカー組合せについて(マルチプルROC、mROC)行った。mROCは、一次結合を計算する専用プログラムであり(Su et al. Journal of the American Statistical Association 1993;88:1350-1355)、選択された全てマーカーについておよび選択されたマーカーのうち2つおよび3つのマーカー組合せについてのAUC(曲線下面積)ROCを最大にする(Staack et al. BMC Urology 2006;6:1-12)。個々の組合せについての方程式が提供され、新しい仮想マーカーとして使用することができる。マーカー組合せについて、および選択された試料について、カットオフは、下記一次方程式の結果値であり、mROCプログラムによって計算される:
マーカー組合せカットオフ=a×マーカー1+b×マーカー2+c×マーカー3
ここで、a、bおよびcは、算出係数であり、マーカー1、マーカー2、マーカー3は、個々のマーカーカットオフである。データは、平均±標準偏差(SD)である。データ分布は全て、各バイオマーカーについてのメジアンおよびボックスプロットとして例示される。人口学的特性および臨床特性についての患者グループ間の差異は、カイ二乗検定によって評価された。スピアマン相関検定が、全ての患者グループについてのバイオマーカー相関に適用された。バイオマーカーレベルはまた、適当な場合には、クラスカル・ワリス順位和検定を用いて異なるグループ間で比較された;有意な差異が得られた場合には、ウイルコクソン・ノンパラメトリック検定が、対グループ比較に適用された。
【0114】
全ての統計的検定は、「R」オープンソース・ソフトウェアを用いて行われた。0.05未満のp値が統計的に有意であると見なされた。
【0115】
結果
【表7】

【表8】

【0116】
人口学的特性および臨床特性についてのデータ解析
表1に示されるように、年齢、性別、喫煙状態、糖尿病および高コレステロール血症について、急性胸痛をもって入院したがACSについて診断されなかった患者と、立証された不安定患者とを統計学的に比較する。心筋梗塞グループと、ACSを疑われる集団とを比較した場合、年齢、性別、喫煙状態、代謝プロフィールについて有意な差異が報告された。しかしながら、糖尿病および高コレステロール血症プロフィールは、心筋梗塞グループとACSを疑われる集団との間では統計学的に類似している(表1)。
【0117】
正常グループおよび患者グループにおける単一マーカー評価についてのデータ解析
複数のグループ比較のためにクラスカル・ワリス解析法を使用して、cTnI(p=2.2-16)、D−ダイマー(p=5.04-14)、BNP(p=2.2-16)、proBNP(p=0.003)、IL−6(p=7.8-16)、CRP(p=2.2-16)およびMPO(p=0.009)のような一連のバイオマーカーについて非常に有意なグループ差異が観察された。しかしながら、単一マーカーとしてPAPP−A(p=0.12)およびsCD40L(0=0.89)については、全てのグループ間で有意な差異は見られなかった。血漿cTnI(ng/mlで表す)は、臨床試験について定義した試験対象患者基準に従って、全体に、対照、排除および不安定患者と比較して心筋梗塞において有意に高い(p=6.15-9〜2.2-16)。適用された0.04ng/mlのcTnIカットオフであっても、対照と排除集団との間の有意な差異(p=0.01)および対照と不安定患者との間の有意な差異(p=5.5-5)が記録された。
【0118】
表2に示されるように、CRPおよびBNPレベルは、退院した患者と比べて(それぞれ、p=7.8-11および4.8-12)、不安定患者と比べて(それぞれ、p=6.3-9および1.49-7)または対照グループと比べて(それぞれ、p=5.85-15および4.35-15)、心筋梗塞において有意に高かった。対照CRPおよびBNPレベルは、排除集団よりも有意に低かった(それぞれ、p=0.03および1.08-5)。マルチプルr平方によって評価すると、対照(r2=0.81、p=1.99-12)および患者グループ(r2=0.92、p=1.2-13)においてBNPとその前駆体proBNPとの間で明らかな直線関係が得られた。PAPP−A、MPOおよびsCD40Lの血漿中レベルは、対照、排除および不安定狭心症集団の間で似ていた(表2)。心筋梗塞グループでは、8個のバイオマーカー全てが、心筋損傷および心筋機能不全、炎症ならびにプラーク破裂の病態生理学的要素の明らかな活性化に対応して、対照およびACSを疑われる患者と比較すると有意に非常に上昇する(p<0.001、表2)。心臓有害イベントの高リスクは、CRP、IL−6、BNP、proBNP、D−ダイマー、PAPP−A、MPO、sCD40LおよびcTnIの血漿中レベルによって容易に追跡することができる(表2)。
【0119】
臨床状態についての受信者動作特性(ROC)分析に基づいて、そして、表3、4、5および6に概略記載するように、BNP、proBNP、IL−6およびCRPのような個々のマーカーについての曲線下面積(AUC)は、心筋梗塞について診断された患者、または排除集団(非ACS)または不安定狭心症を健康対象体と識別することに成功した。入院時のBNP、proBNP、sCD40LまたはIL−6のような単一マーカー評価は、ST非上昇の不安定狭心症患者を非ACSの退院患者と識別しなかったので(表4、5および6)、正常な血漿cTnIを有するACSを疑わせる胸痛患者におけるリスク層化を改善しなかった。
【0120】
ROC分析に基づいて、心筋損傷(cTnI)および心筋機能不全(BNPおよびproBNP)、炎症(IL−6、CRP、MPO、sCD40L)ならびにプラーク破裂(PAPP−AおよびD−ダイマー)を説明するマーカーを含む単一マーカー評価は、医者が救急診療部から安全かつ迅速に退院させるACSを疑われる患者を同定するのを助けるのに役立つ診断用および予測用ツールであることだけを証明しなかった。
【0121】
診断および予測のためのマルチマーカー評価についてのデータ分析
mROC(マルチプル受信者動作特性)を用いるマルチマーカー分析は、対照を心筋梗塞、排除および不安定狭心症患者と比べた場合にAUCを有意に改善する(表3、5および6)。IL−6、CRPおよびcTnI、またはIL−6およびCRP、またはIL−6およびBNPからなるマーカー組合せは、高い感度(それぞれ、94.7、100および97.4%)および特異度(それぞれ、100、86.4および86.4%)によって報告されるように(表4)、不安定患者における心血管イベントの高い危険性についての予測値を有する。同用途において、proBNP、CRPおよびPAPP−A、またはproBNP、MPOおよびPAPP−A、またはproBNP、IL−6およびPAPP−A、ならびにproBNP、D−ダイマーおよびPAPP−Aからなるマーカー組合せパネルもまた興味深いものである(それぞれ、100%、77.8%、88.9%、および77.8%の感度)(表6)。現在提案されているマルチマーカー評価は、不安定患者を心筋梗塞患者と安全かつ迅速に識別することによって、救急診療部への入院時のACS診断を改善する機会を与える。同様に、ACSを疑われる患者において、BNP、D−ダイマーおよびCRP(0.739のAUC)、BNP、IL−6およびCRP(0.736のAUC)、PAPP−A、MPOおよびproBNP(0.919のAUC)、PAPP−A、CRPおよびproBNP(0.879のAUC)のような他のマーカー組合せパネルもまた、医者が、正常な血漿cTnIレベルの患者を安全に診断するために、そして、非ACS患者および非ST上昇を有する不安定患者を識別するために役立てることができた(表7)。
【0122】
興味深いことに、急性冠動脈症候群を排除集団と識別する力は、正常な血漿cTnIレベルの患者においてBNP、proBNP、D−ダイマー、IL−6、CRP、PAPP−AおよびsCD40Lのような一連のマーカーを組み合わせた場合に改善された(表7)。マルチマーカー評価は、救急診療部入院時に胸部不快感および正常な血漿cTnIを有する患者におけるACS診断についての予測値の改善に対応する、0.98という高いAUCに加えて高い感度(100%)および特異度(90.9%)によって特徴付けられる(表7)。
【0123】
かくして、救急診療部から退院した非ACS患者を診断された不安定狭心症と識別するための心筋損傷(cTnI)および心筋機能不全(BNPおよびproBNP)、炎症(CRP、MPO、IL−6およびsCD40L)およびプラーク破裂(PAPP−AおよびD−ダイマー)のような病態生理学的状態を説明するマーカーの会合の感度および特異度は、それぞれ、100%および90.9%に非常に改善される(表7)。このマルチマーカー組合せは、入院時に胸痛を有する患者の有効なスクリーニングおよび非ACS患者の安全な退院の増加に対応する、0.98のAUCを有する。
【0124】
【表9】

AUCは、曲線下面積を意味する。曲線は、単一マーカーおよび組合せパネルについての感度(%)および特異度(%)の力を算出することによる心血管リスクの予測のモデルに基づく。mROCプログラムによって算出されたマーカー組合せについての等式は、a)Z = 0.001 BNP + 0.011 CRP、b)Z = 0.001 BNP + 0.014 IL−6、c)Z = 0.001 BNP + 0.01 IL−6 + 0.009 CRPであった。これらの等式を用いて、新しい仮想マーカー(Z)を算出した。
【0125】
【表10】

AUCは、曲線下面積を意味する。曲線は、単一マーカーおよび組合せパネルについての感度(%)および特異度(%)の力を算出することによる心血管リスクの予測のモデルに基づく。mROCプログラムによって算出されたマーカー組合せについての等式は、a)Z = 0.015 IL−6 + 0.008 CRP + 0.093 TnI、b)Z = 0.014 IL−6 + 0.01 CRP、c)Z = 0.015 IL−6 + 0.001 BNPであった。これらの等式を用いて、新しい仮想マーカー(Z)を算出した。
【0126】
【表11】

AUCは、曲線下面積を意味する。曲線は、単一マーカーおよび組合せパネルについての感度(%)および特異度(%)の力を算出することによる心血管リスクの予測のモデルに基づく。mROCプログラムによって算出されたマーカー組合せについての等式は、a)Z = 0.109 BNP − 0.019 CRP − 0.022 proBNP、b)Z = 0.108 BNP − 0.022 proBNP、c)Z = 0.031 BNP + 0.079 CRP、d)Z = 0.109 BNP − 0.022 proBNP − 0.003 PAPP−A、e)Z = 0.031 BNP + 0.102 CRP − 0.004 MPO、f)Z = 0.107 BNP − 0.022 proBNP + 0.074 sCD40L、g)Z = 0.031 BNP + 0.041 IL−6 + 0.078 CRP − 0.004 MPO、h)Z = 0.115 BNP − 0.092 IL−6 − 0.023 proBNP、i)Z = −0.002 MPO + 0.110 BNP − 0.023 proBNP、j)Z = 0.156 sCD40L + 0.112 CRP − 0.001 proBNP、k)Z = 0.12 sCD40L + 0.054 IL−6 + 0.001 proBNP、l)Z = 0.107 sCD40L + 0.001 MPO + 0.001 proBNP、m)Z = 0.105 sCD40L + 0.001 proBNPであった。これらの等式を用いて、新しい仮想マーカー(Z)を算出した。
【0127】
【表12】

AUCは、曲線下面積を意味する。曲線は、単一マーカーおよび組合せパネルについての感度(%)および特異度(%)の力を算出することによる心血管リスクの予測のモデルに基づく。mROCプログラムによって算出されたマーカー組合せについての等式は、a)Z = 0.002 BNP + 0.078 CRP、b)Z = 0.001 proBNP + 0.133 CRP − 0.07 IL−6、c)Z = 0.005 BNP + 0.137 CRP − 0.208 IL−6、d)Z = 0.003 BNP + 0.077 CRP − 0.002 PAPP−A、e)Z = −0.01 PAPP−A + 0.146 CRP + 0.001 proBNP、f)Z = −0.01 PAPP−A + 0.003 MPO + 0.001 proBNP、g)Z = −0.002 BNP + 0.130 CRP + 0.001 proBNP、h)Z = −0.007 PAPP−A + 0.001 D−ダイマー + 0.001 proBNP、i)Z = −0.008 PAPP−A + 0.111 IL−6 + 0.001 proBNP、j)Z = −0.006 PAPP−A + 0.021 sCD40L + 0.001 proBNP、k)Z = −0.006 PAPP−A + 0.001 proBNPであった。これらの等式を用いて、新しい仮想マーカー(Z)を算出した。
【0128】
【表13】

AUCは、曲線下面積を意味する。曲線は、単一マーカーおよび組合せパネルについての感度(%)および特異度(%)の力を算出することによる心血管リスクの予測のモデルに基づく。mROCプログラムによって算出されたマーカー組合せについての等式は、a)Z = 0.003 BNP − 0.001 D−ダイマー − 0.007 CRP、b)Z = 0.004 BNP + 0.041 CRP − 0.127 IL−6、c)Z = −0.027 PAPP−A + 0.005 MPO + 0.002 proBNP、d)Z = −0.03 PAPP−A + 0.155 CRP + 0.002 proBNP、e)Z = −0.016 PAPP−A − 0.156 sCD40L + 0.001 proBNP、f)Z = −0.016 PAPP−A − 0.034 IL−6 + 0.001 proBNP、g)Z = −0.016 PAPP−A − 0.001 BNP + 0.001 proBNP、h)Z = −0.015 PAPP−A + 0.001 proBNP、i)Z = −0.06 IL−6 + 0.057 CRP + 0.001 proBNP、j)Z = 0.016 MPO − 0.068 PAPP−A − 0.002 D−ダイマー + 0.011 BNP − 0.721 sCD40L − 0.131 IL−6 + 0.249 CRP + 0.002 proBNPであった。これらの等式を用いて、新しい仮想マーカー(Z)を算出した。
【0129】
本明細書において引用された全ての書誌参照は、出典明示により本明細書の一部を構成する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心電図で見たときのST分節の非上昇、および/または
正常レベルの少なくとも1つの壊死マーカー
を示す、血管イベントの危険性があると疑われる患者における血管イベントの予測のための方法であって、
下記のクラスのマーカー:
アテローム性動脈硬化プラーク不安定性マーカー、
アテローム性動脈硬化プラーク破裂マーカー、
冠動脈炎症マーカー、
早期血栓状態マーカー、
血栓マーカー、
虚血マーカー、
壊死マーカー、および
心筋機能不全マーカー
からなる群から選択される少なくとも2種類の生化学的マーカーの存在および/またはレベルが患者の生物試料において測定され、
これにより、患者が血管イベントを経験する可能性が生化学的マーカーの測定された存在および/またはレベルから推定される、方法。
【請求項2】
患者が胸痛を示す、請求項1記載の血管イベトの予測のための方法。
【請求項3】
患者が、正常な心筋トロポニンレベルおよび/または正常なCKレベルを示す、請求項1または2記載の血管イベントの予測のための方法。
【請求項4】
患者が、正常な心筋トロポニンIレベルまたは正常な心筋トロポニンTレベルおよびST分節の非上昇を示す、請求項1〜3いずれか1項記載の血管イベントの予測のための方法。
【請求項5】
アテローム性動脈硬化プラーク不安定性マーカーが、MPO、sCD40L、IL−6、PAPP−Aおよびコリンからなる群から選択され;
アテローム性動脈硬化プラーク破裂マーカーが、MPO、sCD40L、MMP、コリンおよびPAPP−Aからなる群から選択され;
冠動脈炎症マーカーが、MPO、sCD40L、CRPおよびIL−6からなる群から選択され;
早期血栓状態マーカーが、sCD40Lまたはフィブリノゲンであり;
血栓マーカーが、D−ダイマーからなる群から選択され;
虚血マーカーが、IMA、cTnI、cTnTおよびFABPからなる群から選択され;
壊死マーカーが、cTnI、cTnT、CK、ミオグロビンおよびFABPからなる群から選択され;
心筋機能不全マーカーが、BNP、NT−proBNPおよびproBNPからなる群から選択される
請求項1〜4いずれか1項記載の血管イベントの予測のための方法。
【請求項6】
生化学的マーカーが下記の組合せ:
proBNPおよびPAPP−A、ならびに、任意に、CRP、IL−6、MPO、sCD40L、D−ダイマーおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNP、IL−6、ならびに、CRP、sCD40LおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNPおよびBNP、ならびに、任意に、CRP、sCD40LおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
BNPまたはproBNP、およびCRP、ならびに、任意に、IL−6、MPO、PAPP−AおよびD−ダイマーからなる群から選択されるマーカー;
proBNPまたはBNP、およびsCD40L、ならびに、任意に、CRPおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
CRPおよびIL−6;
BNPまたはproBNP、およびIL−6、ならびに、任意に、CRPおよびMPO;
proBNP、PAPP−A、CRP、BNP、D−ダイマー、IL−6、sCD40LおよびMPO
からなる群から選択される、請求項1〜5いずれか1項記載の血管イベントの予測のための方法。
【請求項7】
血管イベントが、心筋血管関連死、心筋梗塞、うっ血性心不全、血管関連入院加療、および血行再建手技からなる群から選択される、請求項1〜6いずれか1項記載の血管イベントの予測のための方法。
【請求項8】
心電図で見たときのST分節の非上昇、および/または
正常レベルの少なくとも1つの壊死マーカー
を示す患者における急性冠動脈症候群(ACS)の診断方法であって、
該患者の生物試料における、下記のクラスのマーカー:
アテローム性動脈硬化プラーク不安定性マーカー、
アテローム性動脈硬化プラーク破裂マーカー、
冠動脈炎症マーカー、
早期血栓状態マーカー、
血栓マーカー、
虚血マーカー、
壊死マーカー、および
心筋機能不全マーカー
からなる群から選択される少なくとも2種類の生化学的マーカーの存在および/またはレベルを測定することを含み、
これにより、該患者がACSに罹患しているかどうかが判定される、方法。
【請求項9】
患者が胸痛を示す、請求項8記載のACSの診断方法。
【請求項10】
患者が、正常な心筋トロポニンレベルおよび/または正常なCKレベルを示す、請求項8または9記載のACSの診断方法。
【請求項11】
患者が、正常な心筋トロポニンIレベルまたは正常な心筋トロポニンTレベルおよびST分節の非上昇を示す、請求項8〜10いずれか1項記載のACSの診断方法。
【請求項12】
生化学的マーカーが、以下のマーカーの組合せ:
proBNPおよびPAPP−A、ならびに、任意に、CRP、IL−6、MPO、sCD40L、D−ダイマーおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNP、IL−6、ならびに、CRP、sCD40LおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNPおよびBNP、ならびに、任意に、CRP、sCD40LおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
BNPまたはproBNP、およびCRP、ならびに、任意に、IL−6、MPO、PAPP−AおよびD−ダイマーからなる群から選択されるマーカー;
proBNPまたはBNP、およびsCD40L、ならびに、任意に、CRPおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
CRPおよびIL−6;
BNPまたはproBNP、およびIL−6、ならびに、任意に、CRPおよびMPO;
proBNP、PAPP−A、CRP、BNP、D−ダイマー、IL−6、sCD40LおよびMPO
からなる群から選択される、請求項8〜11いずれか1項記載のACSの診断方法。
【請求項13】
ACSを疑われる個体の状態を判定する方法であって、患者の生物試料における、以下のマーカーの組合せ:
proBNPおよびPAPP−A、ならびに、任意に、CRP、IL−6、MPO、sCD40L、D−ダイマーおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNP、IL−6、ならびに、CRP、sCD40LおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNPおよびBNP、ならびに、任意に、CRP、sCD40LおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
BNPまたはproBNP、およびCRP、ならびに、任意に、IL−6、MPO、PAPP−AおよびD−ダイマーからなる群から選択されるマーカー;
proBNPまたはBNP、およびsCD40L、ならびに、任意に、CRPおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
CRPおよびIL−6;
BNPまたはproBNP、およびIL−6、ならびに、任意に、CRPおよびMPO;
proBNP、PAPP−A、CRP、BNP、D−ダイマー、IL−6、sCD40LおよびMPO
からなる群から選択される少なくとも2種類の生化学的マーカーの存在および/またはレベルを測定することを含み、
これにより、個体の状態が判定される、方法。
【請求項14】
状態が、
非ACS、および
不安定狭心症
からなる群から選択される、請求項13記載のACSを疑われる個体の状態を判定する方法。
【請求項15】
(i)個体の少なくとも1つの壊死マーカーのレベルおよび(ii)該患者の心電図で見たときのST分節の上昇の有無が判定される、請求項13または14記載のACSを疑われる個体の状態を判定する方法。
【請求項16】
壊死マーカーが心筋トロポニンIまたは心筋トロポニンTである、請求項15記載のACSを疑われる個体の状態を判定する方法。
【請求項17】
患者における血管イベントの予測のための、ACSを診断するための、または、ACSを疑われる個体の状態を判定するための、キットであって、該キットが、
proBNPおよびPAPP−A、ならびに、任意に、CRP、IL−6、MPO、sCD40L、D−ダイマーおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNP、IL−6、ならびに、CRP、sCD40LおよびBNPからなる群から選択されるマーカー;
proBNPおよびBNP、ならびに、任意に、CRP、sCD40LおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
BNPまたはproBNP、およびCRP、ならびに、任意に、IL−6、MPO、PAPP−AおよびD−ダイマーからなる群から選択されるマーカー;
proBNPまたはBNP、およびsCD40L、ならびに、任意に、CRPおよびMPOからなる群から選択されるマーカー;
CRPおよびIL−6;
BNPまたはproBNP、およびIL−6、ならびに、任意に、CRPおよびMPO;
proBNP、PAPP−A、CRP、BNP、D−ダイマー、IL−6、sCD40LおよびMPO
からなる群から選択されるマーカーの組合せのマーカーに対してそれぞれ特異的なリガンドを含む、キット。
【請求項18】
心筋トロポニンIまたは心筋トロポニンTに対して特異的な1つのリガンドを含む、請求項17記載のキット。
【請求項19】
特異的なリガンドが、
ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体および組換え抗体、またはそれらの断片、
ファージ抗体(PhAb)、
ラマおよびラクダ抗体
アプタマー
からなる群から選択される、請求項17または18記載のキット。

【公表番号】特表2010−500545(P2010−500545A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−523365(P2009−523365)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【国際出願番号】PCT/IB2007/002266
【国際公開番号】WO2008/017928
【国際公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(592096719)
【氏名又は名称原語表記】Bio−Rad Pasteur 
【出願人】(592236245)サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク (8)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】