説明

血管手術練習具

【課題】練習を効率良く行うことができると共に練習結果の記録や保存管理を容易に行うことができ、縫合の運針や吻合の様々な練習を十分に行うことのできる血管手術練習具を提供する。
【解決手段】本発明に係る血管手術練習具1は、台紙2上に複数のチューブ5が並設され、各チューブ5が台紙2に固定されていることを特徴とし、好ましくは、台紙2上において同一方向に並設された複数のチューブ5によりチューブセット3が構成され、チューブセット3は台紙2上に複数セット設けられ、各チューブセット3の並設方向はそれぞれ異なっているのがよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレーニングが必要な高度な外科手術において使用される血管手術練習具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、トレーニングが必要な高度な外科手術として、脳神経外科、形成外科、整形外科、心臓血管外科等において手術用顕微鏡下で行われる「マイクロサージャリー」と呼ばれるものがあり、バイパス手術、皮弁移植、切断指の再接着や臓器移植の栄養血管吻合等が知られている。
【0003】
このうち微小血管の手術では、手術用ルーペや手術用顕微鏡を用いて直径0.5〜2.0mmの微小血管を縫合や吻合する手技を必要とし、外科系医師は、実際に微小血管の手術を行う前に、これらの手技の練習を行っている。ここで、「縫合」とは、血管の切開部の向かい合う膜と膜とを手術用の糸と針で縫い合わせることを言う。また、その縫い合わせるための針糸の運びを運針と言い、この運針には、血管の走行によって、主に4つの方向の運針があり、それぞれの方向の運針の練習を手術用顕微鏡下で行う必要がある。さらに、「吻合」とは、血管同士をつなげて、血流を新たにつくることを言い、この吻合には、端々吻合、端側吻合、側々吻合の3つの様式があり、各様式についてそれぞれ手術用顕微鏡下で練習を行う必要がある。
【0004】
従来、これらの縫合の運針や3つの吻合様式を習得する手法の一つとして、微小血管を模した小口径のシリコンチューブを使用する手法が知られている(例えば、特許文献1参照)。この手法は、数mの長さのシリコンチューブを5cm程度に切断し、その両端をテーブルにテープで貼り付け固定して練習するものであり、練習後のシリコンチューブをテーブルから剥がして袋やビン等に入れて保存するようになっている。
【特許文献1】特開2005−10709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記した従来の手法では、細いシリコンチューブを切断し、テーブルにテープで張り付けたり、剥がしたりする必要があるため、練習の準備に手間が掛かると共に練習結果の保存管理がし難いといった問題があった。
【0006】
また、練習の課程や段階を細いチューブに記録することができないため、自分自身や第三者による技量の進展や評価ができないといった問題もあった。
【0007】
さらに、実際の顕微鏡下における手術は狭い深部で行われるため運針の自由度が制限され、また、吻合も各種異なった状況で行う必要があるが、1本のチューブではさまざまな方向の縫合の運針や吻合の練習を十分に行うことができないといった問題があった。
【0008】
本発明は、上記した課題を解決すべくなされたものであり、練習を効率良く行うことができると共に練習結果の記録や保存管理を容易に行うことができ、縫合の運針や吻合の様々な練習を十分に行うことのできる血管手術練習具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明に係る血管手術練習具は、台紙上に複数のチューブが並設され、該各チューブが前記台紙に固定されていることを特徴とする。
【0010】
そして、好ましくは、前記台紙上において同一方向に並設された複数のチューブによりチューブセットが構成され、該チューブセットは前記台紙上に複数セット設けられ、該各チューブセットの並設方向はそれぞれ異なっているのがよい。
【0011】
さらに、前記各チューブセットは、それぞれ6本のチューブにより構成され、45度ずつ異なる4つの並設方向に設けられているのがよい。
【0012】
さらにまた、前記台紙には、筆記により記録可能な記録部が設けられているのがよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、縫合の運針や吻合の様々な練習を十分に行うことのでき、また、練習を効率良く行うことができると共に練習結果の記録や保存管理を容易に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。ここで、図1は本発明の実施の形態に係る血管手術練習具を示す平面図、図2は同血管手術練習具の使用方法を示す図である。
【0015】
図1に示されているように、本実施の形態に係る血管手術練習具1は、台紙2と、台紙2の表面上に固定されるチューブセット3と、台紙2の表面上においてチューブセット3が固定される領域の図示下方に形成される記録部4とを備えて構成されている。
【0016】
台紙2は、例えば、厚紙製で、葉書或いは名刺程度の大きさの矩形カード形状を有している。そして、台紙2の裏面側には、合成樹脂や合成ゴム等により滑り止め加工が施されているのが好ましく、これにより、台紙2をテーブル等の作業台に載置して練習する時に、台紙2の位置がずれるのを防止することができ、練習を円滑且つ効率的に行うことができる。
【0017】
チューブセット3は、同一方向に並設された複数本のチューブ5から構成されており、該各チューブ5の両端部はバンド6等によりそれぞれ台紙2に固定されている。そして、チューブセット3を構成するチューブ5の本数は、縫合の運針と、端々吻合、端側吻合、側々吻合の3つの様式の吻合の練習を1つのチューブセット3ですべて行えるように6本であることが好ましい。また、各チューブ5は、例えば、シリコンゴム製であり、0.5〜2.0mm程度の小口径で5cm程度の長さを有している。
【0018】
チューブセット3は、複数セット設けられており、該各チューブセット3の並設方向はそれぞれ異なっている。この場合、各チューブセット3の並設方向は、少なくとも、図1における縦方向(3a)、横方向(3b)、左45度傾斜方向(3c)、右45度傾斜方向(3d)の45度ずつ異なる4つの方向に設定されているのが好ましい。
【0019】
記録部4は、練習日や練習内容、問題点等、自分自身や第三者による技量の進展や評価が筆記により記録可能な領域を備えているのが好ましく、また、筆記を効率良く行えるように、予め進展項目や評価項目を記載したチュックシート形式を採用する等、各種変更が可能である。
【0020】
そして、このような構成を備えた血管手術練習具において、例えば、縫合又は端々吻合の練習を行う場合、図2(a)及び(b)に示すように、1本のチューブ5を使用して行う。すなわち、縫合の練習の場合には、手術用顕微鏡下において、図2(a)の左図に示すようにチューブ5に沿って切開した後、該切開箇所を同右図に示すように縫合する。一方、端々吻合の練習を行う場合には、手術用顕微鏡下において、図2(b)の左図に示すように1本のチューブ5を中央部分で切断した後、該切断箇所を同右図に示すように端々吻合する。
【0021】
さらに、端側吻合又は側々吻合の練習を行う場合、図2(c)及び(d)に示すように、並設された2本のチューブ5a,5bを使用して行う。すなわち、端側吻合の練習の場合には、手術用顕微鏡下において、図2(c)の左図に示すように一方のチューブ5aに沿って切開すると共に他方のチューブ5bを中央部分で切断した後、同右図に示すように他方のチューブ5bの切断箇所を一方のチューブ5aの切開箇所に端側吻合する。一方、側々吻合の練習を行う場合には、手術用顕微鏡下において、図2(d)の左図に示すように両方のチューブ5a,5bに沿ってそれぞれ切開した後、同右図に示すように両方のチューブ5a,5bの各切開箇所同士を側々吻合する。
【0022】
そして、上記した練習を、各チューブセット3a,3b,3c,3dに対してそれぞれ行うことにより、縫合に必要な4つすべての方向の運針の練習を行うことができると共に、端々吻合、端側吻合、側々吻合のすべての様式についてそれぞれ異なった状況下で吻合の練習を行うことができる。
【0023】
このように上記した実施の形態に係る血管手術練習具によれば、1枚のカードですべての微小血管の手術手技の練習を行うことができ、様々な手術中のシミュレーションを設定した練習を行うことができる。また、練習過程の結果を経時的に記録することができるため、その記録の比較検討を行うことにより、微小血管の手術手技のフィードバックが可能となり、手術手技の上達を早めることができる。さらに、持ち運びや、記録の保存及び整理が容易となるため、第三者の評価を受けられ易くなり、これにより、新しい手技やトレーニング法の開発も見込まれるようになる。
【0024】
なお、上記した実施の形態では、各チューブセット3a,3b,3c,3dはそれぞれ6本のチューブ5により構成されているが、2本以上のチューブ5であれば他の本数であってもよく、また、各チューブセット3a,3b,3c,3dを構成するチューブ5の本数が異なっていてもよい。
【0025】
さらに、チューブセット3a,3b,3c,3dを構成するチューブ5の口径は、一部が又は全部が異なるように設定されてもよく、また、チューブセット3a,3b,3c,3dの並設方向は上記した4方向に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る血管手術練習具を示す平面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る血管手術練習具の使用方法を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 血管手術練習具
2 台紙
3 チューブセット
4 記録部
5 チューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台紙上に複数のチューブが並設され、該各チューブが前記台紙に固定されていることを特徴とする血管手術練習具。
【請求項2】
前記台紙上において同一方向に並設された複数のチューブによりチューブセットが構成され、該チューブセットは前記台紙上に複数セット設けられ、該各チューブセットの並設方向はそれぞれ異なっている請求項1に記載の血管手術練習具。
【請求項3】
前記各チューブセットは、それぞれ6本のチューブにより構成され、45度ずつ異なる4つの並設方向に設けられている請求項1又は2に記載の血管手術練習具。
【請求項4】
前記台紙には、筆記により記録可能な記録部が設けられている請求項1〜3のいずれか1の請求項に記載の血管手術練習具。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−129220(P2008−129220A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312402(P2006−312402)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【特許番号】特許第3919809号(P3919809)
【特許公報発行日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【出願人】(506388200)
【Fターム(参考)】