血行状態計測による美白効果の評価方法
【課題】血行促進による肌色変化がもたらす肌色の白さ感の上昇を美白効果の評価に適用する方法。
【解決手段】美白効果を高める処理を行なった皮膚に対し、該処理前後で測色機によって皮膚スペクトルを計測するステップと、該皮膚スペクトル計測により、該皮膚部位の処理前後での平均総ヘモグロビン含有量の増加率を算出するステップと、該平均総ヘモグロビン含有量の増加率により美白効果を判断するステップと、によって美白効果を評価する。美白効果を高める処理を行なった皮膚は、額、目の下及び頬であり、平均総ヘモグロビン含有量の増加率は、10%以上20%以下である場合に美白効果が有効であると評価できる。
【解決手段】美白効果を高める処理を行なった皮膚に対し、該処理前後で測色機によって皮膚スペクトルを計測するステップと、該皮膚スペクトル計測により、該皮膚部位の処理前後での平均総ヘモグロビン含有量の増加率を算出するステップと、該平均総ヘモグロビン含有量の増加率により美白効果を判断するステップと、によって美白効果を評価する。美白効果を高める処理を行なった皮膚は、額、目の下及び頬であり、平均総ヘモグロビン含有量の増加率は、10%以上20%以下である場合に美白効果が有効であると評価できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美白の評価方法に関し、より詳細には、血行状態を計測することによる肌の美白効果の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一般的な色の計測は、光を入射させ、その光の反射率を出発データとして論理展開されており、JISにも規定されて、幅広い分野で利用されている。例えば、肌の色もこの技術で計測されているので、皮膚表面に特定波長の光を入射させ、その反射光を受光して特定波長における皮膚の反射率を求め、これにより色素沈着など皮膚中の黒褐色〜黒色の色素であるメラニンの多寡に注目して美白効果の評価が行なわれてきた。
【0003】
肌色測定においては、光の反射率を高めることが白くなるという光学的要件であり、肌が持つ光の吸収体としての色素、例えば、メラニン色素は少ないことが条件となる。このことから、多くの美白化粧品は、メラニン色素の減少と、それに伴う肌の明度の増加、つまり、L*a*b*表色系の場合はL*値(白さ)の増加を美白効果の拠り所としており、それらの美白化粧品を使用した際の美白効果の評価においても、減少されるメラニン色素の減少によって光の反射率が高められ、増大した肌の明度、すなわちL*値(白さ)を判断基準として用いてきた。
【0004】
しかしながら、現在の色彩科学の技術は完全ではなく、視覚における感覚的な「見え」と必ずしも合致しないケースが報告されており、感覚的な「見え」が有効な評価基準として考慮される場合もある。特に、肌の測色では単なる光の反射と吸収から色彩が決定されるので、肌の「見え」の要素は正確に反映されていない問題があった。
【0005】
また、肌色に寄与する成分として、メラニン色素だけでなく、ヘモグロビン成分も挙げられており、皮膚の表面状態との関連性も研究されている。
【特許文献1】特開平10−127585号公報
【特許文献2】特開2005−34355号公報
【特許文献3】特開2003−275179号公報
【特許文献4】特開2002−200050号公報
【特許文献5】特開2004−283357号公報
【特許文献6】特開2004−216011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、上述に鑑みてなされたものであり、血行促進による肌色変化がもたらす肌色の白さ感の上昇を美白効果の評価に適用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、通常の肌色計測に加え、肌のメラニン量とヘモグロビン量を算出し、ヘモグロビン量の変化と肌色の見え方の関係を解析して、ヘモグロビンの増加が見た目の白さを増加させることを見出し、本発明を開発するに到った。
【0008】
すなわち、請求項1記載の発明は、美白効果を高める処理を行なった皮膚に対し、該処理前後で測色機によって皮膚スペクトルを計測するステップと、該皮膚スペクトル計測により、該皮膚部位の処理前後での平均総ヘモグロビン含有量の増加率を算出するステップと、該平均総ヘモグロビン含有量の増加率により美白効果を判断するステップとを有する美白効果を評価する方法によって達成される。
【0009】
上記発明によれば、例えば、美白剤を適用したり、美容マッサージを施した肌に対して、測色機によって皮膚スペクトルを解析して、計測部位の平均総ヘモグロビン含有量の増加率を判断することによって美白効果を評価できる。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の方法において、前記美白効果を高める処理を行なった皮膚は、額、目の下及び頬であることを特徴とする。
【0011】
上記発明によれば、例えば、美白剤を適用したり、美容マッサージを施す、額、目の下及び頬に対して、測色機によって皮膚スペクトルを解析して、計測部位の平均総ヘモグロビン含有量の増加率を判断することによって美白効果を評価できる。
【0012】
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載の方法において、前記平均総ヘモグロビン含有量の増加率は、10%以上20%以下であることを特徴とする。
【0013】
上記発明によれば、例えば、美白剤を適用したり、美容マッサージを施した肌に対して、測色機によって皮膚スペクトルを解析して、計測部位の平均総ヘモグロビン含有量の増加率が10%以上20%以下である場合、有効な美白効果として評価できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、美白効果の評価基準として、肌が持つ光の吸収体としてのメラニン色素の減少と、それに伴うL*a*b*表色系のL*値(白さ)の増加に依存することなく、血行促進による肌色変化がもたらす肌色の白さ感の上昇を美白効果の評価に適用することができる。つまり、肌色の白さ感の高まりを評価する際に、皮膚スペクトルの解析によって、額、目の下、頬の3部位における血中の平均総ヘモグロビン増加率が10%以上20%以下である場合に、良好な美白効果を達成できたものとして評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の美白効果の評価方法は、血行が改善した肌は健康的で白く好ましい肌色に見えるという仮説の下に、ヘモグロビン量の変化と肌色の見えに着目した研究を行い、適度に血行が改善した肌では色彩学的な測定上の肌色は黒く(L*a*b*表色系でL*は低く)計測されるが感覚的な見えとしての肌色は白く感じることを導き出し、新たな美白効果の評価方法として、通常の肌色計測でヘモグロビン量を算出し、ヘモグロビン量の変化と肌色の見え方の関係を解析することによる、新規な美白効果の評価を特徴とする。なお、L*a*b*表色系では、L*値は明度(白黒)を示し、値が小さいほど暗く(黒い)、値が大きいほど明るい(白い)、a*値とb*値で色相・彩度を表し、肌色が属する色領域である第一象限でa*は赤み、b*は黄みを示す。
【0017】
したがって、本発明の好ましい態様では、美白効果を高める処理を行なった皮膚に対し、処理前後で測色機によって皮膚スペクトルを計測するステップと、皮膚スペクトル計測により、皮膚部位の処理前後での平均総ヘモグロビン含有量の増加率を算出するステップと、平均総ヘモグロビン含有量の増加率により美白効果を判断するステップとによって、肌の美白効果を評価する。より詳細には、額、目の下、頬の3部位を市販の測色機(コニカ・ミノルタCM2600d)にて皮膚スペクトルを計測(特願平10−106517号公報)して、さらにそれら3部位における血中の酸化型ヘモグロビン量と還元型ヘモグロビン量を測定して、その和である総ヘモグロビン量を算出し、その平均総ヘモグロビン量の増加率によって、美白効果を評価することを特徴とする。
【0018】
このように、本発明によれば、額、目の下、頬の3部位における血中の平均総ヘモグロビン量を求めることができ、血中の平均総ヘモグロビン量の増加率が10%以上20%以下の場合に良好な美白効果となる。当該部位の血中の平均総ヘモグロビン量の増加率が10%よりも低い場合、皮膚スペクトル解析による明度値からも、視覚的な肌の見えにおいても明らかに肌色の白さ感はなく、当該部位の血中の平均総ヘモグロビン量の増加率が20%を超える場合、赤味を帯びた赤ら顔となり、美白効果の判断が困難になる。
【0019】
以下、実施例によって、本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
下記に、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0021】
図1は、シミそばかすの気になる被験者(女性30人)に対して、3ヵ月にわたって美白剤(資生堂ホワイトルーセントセラムエクセレント:株式会社資生堂)を連用し、連用前と連用後での皮膚計測(コニカ・ミノルタ社CM2600d)における肌色測色値(L*a*b*)、メラニン・ヘモグロビン量を示す図である。被験者本人の自己評価と専門美容技術者の評価による官能評価によって、肌色に関して5段階評価(1:黒くなった、2:やや黒くなった、3:変化なし、4:やや白くなった、5:白くなった)を行ない、効果あり(4:やや白くなった、5:白くなった)と判定された群、効果なし(1:黒くなった、2:やや黒くなった、3:変化なし)と判定された群を、図中の各グラフにおいて、それぞれ、右と左に示した。なお、肌色の効果あり群は、被験者30人のうち、20人である。同図に示すように、美白効果が認められた群において、一般的に、肌の明るさの指標となるL*値は美白効果とは関連しておらず、一方で、メラニン量の減少に加えて、血中のヘモグロビン量、特に、酸化型ヘモグロビン量の増加が認められる。
【0022】
そこで、美白剤の連用前と3ヵ月の連用後において、1)メラニン量のみが減少したパネル、2)ヘモグロビン量のみが増加したパネル、3)メラニン量が減少し、ヘモグロビン量が増加したパネルのデジタル顔画像と被験者本人の自己評価による肌色の官能評価をそれぞれ図2乃至4に示す。これらの図から、肌色変化は、1)が変化なし、2)ではやや白くなり、3)では白くなったことが確認された。
【0023】
したがって、被験者本人の自己評価による肌色の官能評価によって美白効果を感じる場合、メラニン量の減少に加えて、酸化ヘモグロビン量の増加が認識された。このことから、肌色の白さ感を高めるためには、美白剤によるメラニン生成抑制に加えて、血行促進による肌色変化が美白効果として有効であることが分かる。つまり、換言すると、肌の血行状態を計測することによって、美白効果を評価することができる。
【0024】
血流増加の肌改善が美白効果感に及ぼす影響を確認した。
【0025】
本実施例では、一般的に行なわれている、例えば、顔と首の皮膚や筋肉に対して、さする・揉む・押す・たたくなどの汎用的なマッサージなどの顔面マッサージと収斂化粧水(資生堂エリクシールコンディショニングウォーター)との施術による血流改善によって、血色の良い健康的な肌状態としたときの肌色の見えとシワの目立ち感を5名のパネルにおいて実験で確認した。
【0026】
施術前後の肌において、パネル本人の自己評価と専門技術者による視感評価を行ない、施術前後肌に測色機ヘッドを密着させて皮膚スペクトル(肌色、メラニン量、ヘモグロビン量)を計測し、通常の写真撮影に準じた方法でサーモグラフィーによる皮膚表面温度を計測し、さらにデジタル顔写真によって、評価を行なった。
【0027】
図5に、パネル本人の自己評価と専門技術者による視感評価の項目と評価尺度の段階を示した。
【0028】
図6に、5名のパネルに対する顔面マッサージと収斂化粧水による施術前後のメラニン量と酸化ヘモグロビン量の変化を示す。図6から明らかなように、顔面マッサージと収斂化粧水による施術によって、メラニン量に変化は見られなかったが、酸化ヘモグロビン量には有意な増加が認められ、血行促進効果が確認された。
【0029】
また、図7に、専門技術者の視感評価による顔面マッサージと収斂化粧水による5名のパネルの平均肌状態変化を示す。専門技術者の視感評価では、血行促進効果は、肌の血行改善効果とつや改善効果として認識され、肌の明るさ、透明感、毛穴抑制として若干の効果として認識された。また、図8に、パネル本人が自己評価した顔面マッサージと収斂化粧水による平均肌状態変化を示す。この場合も、血行促進効果は、肌の明るさ、透明感、毛穴、くま等の様々な肌効果実感として認識された。
【0030】
また、図9には、視感評価によって、肌の白さと肌の明るさにおいて、顕著な改善を確認し、皮膚スペクトルにより、酸化ヘモグロビンの増加が認識され、サーモグラフィーで皮膚表面温度が増加した1名のパネルの施術前と後のデジタル顔画像を比較した施術効果を示す。
【0031】
よって、顔面マッサージと収斂化粧水による施術により血行促進効果が確認され、美白効果においては、血行促進が有効であることを確認した。また、血行促進により、美白効果だけでなく、透明感、毛穴、くまなどの肌改善効果が認められた。
【0032】
したがって、美白剤を用いた場合には、メラニン量の低減に加えて、ヘモグロビン量の増加による血行促進によって美白効果が確認され、顔面マッサージと収斂化粧水による施術を用いた場合には、メラニン量の変化はないが、ヘモグロビン量の増加による血行促進によって顕著な美白効果が確認されるとともに、様々な肌改善効果が確認された。
【0033】
また、上記で顔面マッサージと収斂化粧水による施術を行なった5名のパネルにおいて、施術前後のパネル本人の自己評価と専門技術者2名による視感評価と、それらの結果から導かれる総合的な官能評価の結果を表1に示した。なお、表1における施術前後のパネル本人の自己評価と専門技術者2名による視感評価の項目と評価尺度の段階は、図5に示す評価項目と評価尺度の段階とは異なる。官能評価はパネル本人の自己評価は加味せず、専門技術者2名による視感評価から導き出された施術後数値から施術前数値を引いた差の値にマイナス数値がなければ○を、マイナス数値が一つあれば△を、マイナス数値が2つ以上あれば×とした。
【0034】
【表1】
また、施術後の各5名のパネルにおいて、額、目の下、頬ごとに、それぞれメラニン、血中の酸化型ヘモグロビン、還元型ヘモグロビン、総ヘモグロビン量の施術前数値に対する施術後数値の増加率を変化率とした結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
さらに、各パネルごと、表2の結果の額、目の下、頬の平均の血中の酸化型ヘモグロビン、還元型ヘモグロビン、総ヘモグロビン量の変化率を表3に示す。
【0036】
【表3】
この結果から、額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率が10%以上のパネルにおいては、表1の官能評価でも美白効果に対して、良好な結果が得られた。図12に、表3によるパネル1乃至5の額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率と表1による官能総合判定との関係を示す。
【0037】
また、比較例として、図10、11に額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率がそれぞれ22.3%、43.2%のデジタル顔写真を示すが、これらの図から分かるように、額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率が20%を超えると、赤味を帯びた赤ら顔となり、血行促進による美白効果の判断が困難になる。
【0038】
したがって、額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率が10%以上20%以下の場合に、良好な美白効果が認められた。
【0039】
これらの結果から、美白効果の評価基準として、肌が持つ光の吸収体としてのメラニン色素の減少と、それに伴うL*a*b*表色系のL*(白さ)の増加に依存することなく、血行促進による肌色変化がもたらす肌色の白さ感の上昇を美白効果の評価に適用することができる。
【0040】
したがって、本発明の美白効果の評価方法は、血行促進による有効性を加味したものであり、肌の白さ感を測定する部位の血中のヘモグロビン量の変化を測定することで肌の白さ感の高まりを評価することができる。
【0041】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】シミそばかすの気になる被験者に対して、3ヵ月にわたって美白剤を連用し、連用前と連用後での皮膚計測における肌色測色値(L*a*b*)、メラニン・ヘモグロビン量を示す図である。
【図2】美白剤の連用前と3ヵ月の連用後において、1)メラニン量のみが減少したパネルのデジタル顔画像と被験者本人の自己評価による肌色の官能評価を示す図である。
【図3】美白剤の連用前と3ヵ月の連用後において、2)ヘモグロビン量のみが増加したパネルのデジタル顔画像と被験者本人の自己評価による肌色の官能評価を示す図である。
【図4】美白剤の連用前と3ヵ月の連用後において、3)メラニン量が減少し、ヘモグロビン量が増加したパネルのデジタル顔画像と被験者本人の自己評価による肌色の官能評価を示す図である。
【図5】パネル本人の自己評価と専門技術者による視感評価の項目と評価尺度の段階を示す図である。
【図6】顔面マッサージと収斂化粧水による施術前後のメラニン量と酸化ヘモグロビン量の変化を示す図である。
【図7】専門技術者の視感評価による顔面マッサージと収斂化粧水による5名のパネルの平均肌状態変化を示す図である。
【図8】パネル本人が自己評価した顔面マッサージと収斂化粧水による平均肌状態変化を示す図である。
【図9】視感評価によって、肌の白さと肌の明るさにおいて、顕著な改善を確認し、皮膚スペクトルにより、酸化ヘモグロビンの増加が認識され、サーモグラフィーで皮膚表面温度が増加した1名のパネルの施術前と後のデジタル顔画像を比較した施術効果の一例を示す図である。
【図10】額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率が20%を超えた顔写真である。
【図11】額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率が20%を超えた顔写真である。
【図12】表3によるパネル1乃至5の額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率と表1による官能総合判定との関係を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、美白の評価方法に関し、より詳細には、血行状態を計測することによる肌の美白効果の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、一般的な色の計測は、光を入射させ、その光の反射率を出発データとして論理展開されており、JISにも規定されて、幅広い分野で利用されている。例えば、肌の色もこの技術で計測されているので、皮膚表面に特定波長の光を入射させ、その反射光を受光して特定波長における皮膚の反射率を求め、これにより色素沈着など皮膚中の黒褐色〜黒色の色素であるメラニンの多寡に注目して美白効果の評価が行なわれてきた。
【0003】
肌色測定においては、光の反射率を高めることが白くなるという光学的要件であり、肌が持つ光の吸収体としての色素、例えば、メラニン色素は少ないことが条件となる。このことから、多くの美白化粧品は、メラニン色素の減少と、それに伴う肌の明度の増加、つまり、L*a*b*表色系の場合はL*値(白さ)の増加を美白効果の拠り所としており、それらの美白化粧品を使用した際の美白効果の評価においても、減少されるメラニン色素の減少によって光の反射率が高められ、増大した肌の明度、すなわちL*値(白さ)を判断基準として用いてきた。
【0004】
しかしながら、現在の色彩科学の技術は完全ではなく、視覚における感覚的な「見え」と必ずしも合致しないケースが報告されており、感覚的な「見え」が有効な評価基準として考慮される場合もある。特に、肌の測色では単なる光の反射と吸収から色彩が決定されるので、肌の「見え」の要素は正確に反映されていない問題があった。
【0005】
また、肌色に寄与する成分として、メラニン色素だけでなく、ヘモグロビン成分も挙げられており、皮膚の表面状態との関連性も研究されている。
【特許文献1】特開平10−127585号公報
【特許文献2】特開2005−34355号公報
【特許文献3】特開2003−275179号公報
【特許文献4】特開2002−200050号公報
【特許文献5】特開2004−283357号公報
【特許文献6】特開2004−216011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、上述に鑑みてなされたものであり、血行促進による肌色変化がもたらす肌色の白さ感の上昇を美白効果の評価に適用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、通常の肌色計測に加え、肌のメラニン量とヘモグロビン量を算出し、ヘモグロビン量の変化と肌色の見え方の関係を解析して、ヘモグロビンの増加が見た目の白さを増加させることを見出し、本発明を開発するに到った。
【0008】
すなわち、請求項1記載の発明は、美白効果を高める処理を行なった皮膚に対し、該処理前後で測色機によって皮膚スペクトルを計測するステップと、該皮膚スペクトル計測により、該皮膚部位の処理前後での平均総ヘモグロビン含有量の増加率を算出するステップと、該平均総ヘモグロビン含有量の増加率により美白効果を判断するステップとを有する美白効果を評価する方法によって達成される。
【0009】
上記発明によれば、例えば、美白剤を適用したり、美容マッサージを施した肌に対して、測色機によって皮膚スペクトルを解析して、計測部位の平均総ヘモグロビン含有量の増加率を判断することによって美白効果を評価できる。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の方法において、前記美白効果を高める処理を行なった皮膚は、額、目の下及び頬であることを特徴とする。
【0011】
上記発明によれば、例えば、美白剤を適用したり、美容マッサージを施す、額、目の下及び頬に対して、測色機によって皮膚スペクトルを解析して、計測部位の平均総ヘモグロビン含有量の増加率を判断することによって美白効果を評価できる。
【0012】
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載の方法において、前記平均総ヘモグロビン含有量の増加率は、10%以上20%以下であることを特徴とする。
【0013】
上記発明によれば、例えば、美白剤を適用したり、美容マッサージを施した肌に対して、測色機によって皮膚スペクトルを解析して、計測部位の平均総ヘモグロビン含有量の増加率が10%以上20%以下である場合、有効な美白効果として評価できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、美白効果の評価基準として、肌が持つ光の吸収体としてのメラニン色素の減少と、それに伴うL*a*b*表色系のL*値(白さ)の増加に依存することなく、血行促進による肌色変化がもたらす肌色の白さ感の上昇を美白効果の評価に適用することができる。つまり、肌色の白さ感の高まりを評価する際に、皮膚スペクトルの解析によって、額、目の下、頬の3部位における血中の平均総ヘモグロビン増加率が10%以上20%以下である場合に、良好な美白効果を達成できたものとして評価できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の美白効果の評価方法は、血行が改善した肌は健康的で白く好ましい肌色に見えるという仮説の下に、ヘモグロビン量の変化と肌色の見えに着目した研究を行い、適度に血行が改善した肌では色彩学的な測定上の肌色は黒く(L*a*b*表色系でL*は低く)計測されるが感覚的な見えとしての肌色は白く感じることを導き出し、新たな美白効果の評価方法として、通常の肌色計測でヘモグロビン量を算出し、ヘモグロビン量の変化と肌色の見え方の関係を解析することによる、新規な美白効果の評価を特徴とする。なお、L*a*b*表色系では、L*値は明度(白黒)を示し、値が小さいほど暗く(黒い)、値が大きいほど明るい(白い)、a*値とb*値で色相・彩度を表し、肌色が属する色領域である第一象限でa*は赤み、b*は黄みを示す。
【0017】
したがって、本発明の好ましい態様では、美白効果を高める処理を行なった皮膚に対し、処理前後で測色機によって皮膚スペクトルを計測するステップと、皮膚スペクトル計測により、皮膚部位の処理前後での平均総ヘモグロビン含有量の増加率を算出するステップと、平均総ヘモグロビン含有量の増加率により美白効果を判断するステップとによって、肌の美白効果を評価する。より詳細には、額、目の下、頬の3部位を市販の測色機(コニカ・ミノルタCM2600d)にて皮膚スペクトルを計測(特願平10−106517号公報)して、さらにそれら3部位における血中の酸化型ヘモグロビン量と還元型ヘモグロビン量を測定して、その和である総ヘモグロビン量を算出し、その平均総ヘモグロビン量の増加率によって、美白効果を評価することを特徴とする。
【0018】
このように、本発明によれば、額、目の下、頬の3部位における血中の平均総ヘモグロビン量を求めることができ、血中の平均総ヘモグロビン量の増加率が10%以上20%以下の場合に良好な美白効果となる。当該部位の血中の平均総ヘモグロビン量の増加率が10%よりも低い場合、皮膚スペクトル解析による明度値からも、視覚的な肌の見えにおいても明らかに肌色の白さ感はなく、当該部位の血中の平均総ヘモグロビン量の増加率が20%を超える場合、赤味を帯びた赤ら顔となり、美白効果の判断が困難になる。
【0019】
以下、実施例によって、本発明を詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
下記に、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
【0021】
図1は、シミそばかすの気になる被験者(女性30人)に対して、3ヵ月にわたって美白剤(資生堂ホワイトルーセントセラムエクセレント:株式会社資生堂)を連用し、連用前と連用後での皮膚計測(コニカ・ミノルタ社CM2600d)における肌色測色値(L*a*b*)、メラニン・ヘモグロビン量を示す図である。被験者本人の自己評価と専門美容技術者の評価による官能評価によって、肌色に関して5段階評価(1:黒くなった、2:やや黒くなった、3:変化なし、4:やや白くなった、5:白くなった)を行ない、効果あり(4:やや白くなった、5:白くなった)と判定された群、効果なし(1:黒くなった、2:やや黒くなった、3:変化なし)と判定された群を、図中の各グラフにおいて、それぞれ、右と左に示した。なお、肌色の効果あり群は、被験者30人のうち、20人である。同図に示すように、美白効果が認められた群において、一般的に、肌の明るさの指標となるL*値は美白効果とは関連しておらず、一方で、メラニン量の減少に加えて、血中のヘモグロビン量、特に、酸化型ヘモグロビン量の増加が認められる。
【0022】
そこで、美白剤の連用前と3ヵ月の連用後において、1)メラニン量のみが減少したパネル、2)ヘモグロビン量のみが増加したパネル、3)メラニン量が減少し、ヘモグロビン量が増加したパネルのデジタル顔画像と被験者本人の自己評価による肌色の官能評価をそれぞれ図2乃至4に示す。これらの図から、肌色変化は、1)が変化なし、2)ではやや白くなり、3)では白くなったことが確認された。
【0023】
したがって、被験者本人の自己評価による肌色の官能評価によって美白効果を感じる場合、メラニン量の減少に加えて、酸化ヘモグロビン量の増加が認識された。このことから、肌色の白さ感を高めるためには、美白剤によるメラニン生成抑制に加えて、血行促進による肌色変化が美白効果として有効であることが分かる。つまり、換言すると、肌の血行状態を計測することによって、美白効果を評価することができる。
【0024】
血流増加の肌改善が美白効果感に及ぼす影響を確認した。
【0025】
本実施例では、一般的に行なわれている、例えば、顔と首の皮膚や筋肉に対して、さする・揉む・押す・たたくなどの汎用的なマッサージなどの顔面マッサージと収斂化粧水(資生堂エリクシールコンディショニングウォーター)との施術による血流改善によって、血色の良い健康的な肌状態としたときの肌色の見えとシワの目立ち感を5名のパネルにおいて実験で確認した。
【0026】
施術前後の肌において、パネル本人の自己評価と専門技術者による視感評価を行ない、施術前後肌に測色機ヘッドを密着させて皮膚スペクトル(肌色、メラニン量、ヘモグロビン量)を計測し、通常の写真撮影に準じた方法でサーモグラフィーによる皮膚表面温度を計測し、さらにデジタル顔写真によって、評価を行なった。
【0027】
図5に、パネル本人の自己評価と専門技術者による視感評価の項目と評価尺度の段階を示した。
【0028】
図6に、5名のパネルに対する顔面マッサージと収斂化粧水による施術前後のメラニン量と酸化ヘモグロビン量の変化を示す。図6から明らかなように、顔面マッサージと収斂化粧水による施術によって、メラニン量に変化は見られなかったが、酸化ヘモグロビン量には有意な増加が認められ、血行促進効果が確認された。
【0029】
また、図7に、専門技術者の視感評価による顔面マッサージと収斂化粧水による5名のパネルの平均肌状態変化を示す。専門技術者の視感評価では、血行促進効果は、肌の血行改善効果とつや改善効果として認識され、肌の明るさ、透明感、毛穴抑制として若干の効果として認識された。また、図8に、パネル本人が自己評価した顔面マッサージと収斂化粧水による平均肌状態変化を示す。この場合も、血行促進効果は、肌の明るさ、透明感、毛穴、くま等の様々な肌効果実感として認識された。
【0030】
また、図9には、視感評価によって、肌の白さと肌の明るさにおいて、顕著な改善を確認し、皮膚スペクトルにより、酸化ヘモグロビンの増加が認識され、サーモグラフィーで皮膚表面温度が増加した1名のパネルの施術前と後のデジタル顔画像を比較した施術効果を示す。
【0031】
よって、顔面マッサージと収斂化粧水による施術により血行促進効果が確認され、美白効果においては、血行促進が有効であることを確認した。また、血行促進により、美白効果だけでなく、透明感、毛穴、くまなどの肌改善効果が認められた。
【0032】
したがって、美白剤を用いた場合には、メラニン量の低減に加えて、ヘモグロビン量の増加による血行促進によって美白効果が確認され、顔面マッサージと収斂化粧水による施術を用いた場合には、メラニン量の変化はないが、ヘモグロビン量の増加による血行促進によって顕著な美白効果が確認されるとともに、様々な肌改善効果が確認された。
【0033】
また、上記で顔面マッサージと収斂化粧水による施術を行なった5名のパネルにおいて、施術前後のパネル本人の自己評価と専門技術者2名による視感評価と、それらの結果から導かれる総合的な官能評価の結果を表1に示した。なお、表1における施術前後のパネル本人の自己評価と専門技術者2名による視感評価の項目と評価尺度の段階は、図5に示す評価項目と評価尺度の段階とは異なる。官能評価はパネル本人の自己評価は加味せず、専門技術者2名による視感評価から導き出された施術後数値から施術前数値を引いた差の値にマイナス数値がなければ○を、マイナス数値が一つあれば△を、マイナス数値が2つ以上あれば×とした。
【0034】
【表1】
また、施術後の各5名のパネルにおいて、額、目の下、頬ごとに、それぞれメラニン、血中の酸化型ヘモグロビン、還元型ヘモグロビン、総ヘモグロビン量の施術前数値に対する施術後数値の増加率を変化率とした結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
さらに、各パネルごと、表2の結果の額、目の下、頬の平均の血中の酸化型ヘモグロビン、還元型ヘモグロビン、総ヘモグロビン量の変化率を表3に示す。
【0036】
【表3】
この結果から、額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率が10%以上のパネルにおいては、表1の官能評価でも美白効果に対して、良好な結果が得られた。図12に、表3によるパネル1乃至5の額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率と表1による官能総合判定との関係を示す。
【0037】
また、比較例として、図10、11に額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率がそれぞれ22.3%、43.2%のデジタル顔写真を示すが、これらの図から分かるように、額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率が20%を超えると、赤味を帯びた赤ら顔となり、血行促進による美白効果の判断が困難になる。
【0038】
したがって、額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率が10%以上20%以下の場合に、良好な美白効果が認められた。
【0039】
これらの結果から、美白効果の評価基準として、肌が持つ光の吸収体としてのメラニン色素の減少と、それに伴うL*a*b*表色系のL*(白さ)の増加に依存することなく、血行促進による肌色変化がもたらす肌色の白さ感の上昇を美白効果の評価に適用することができる。
【0040】
したがって、本発明の美白効果の評価方法は、血行促進による有効性を加味したものであり、肌の白さ感を測定する部位の血中のヘモグロビン量の変化を測定することで肌の白さ感の高まりを評価することができる。
【0041】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】シミそばかすの気になる被験者に対して、3ヵ月にわたって美白剤を連用し、連用前と連用後での皮膚計測における肌色測色値(L*a*b*)、メラニン・ヘモグロビン量を示す図である。
【図2】美白剤の連用前と3ヵ月の連用後において、1)メラニン量のみが減少したパネルのデジタル顔画像と被験者本人の自己評価による肌色の官能評価を示す図である。
【図3】美白剤の連用前と3ヵ月の連用後において、2)ヘモグロビン量のみが増加したパネルのデジタル顔画像と被験者本人の自己評価による肌色の官能評価を示す図である。
【図4】美白剤の連用前と3ヵ月の連用後において、3)メラニン量が減少し、ヘモグロビン量が増加したパネルのデジタル顔画像と被験者本人の自己評価による肌色の官能評価を示す図である。
【図5】パネル本人の自己評価と専門技術者による視感評価の項目と評価尺度の段階を示す図である。
【図6】顔面マッサージと収斂化粧水による施術前後のメラニン量と酸化ヘモグロビン量の変化を示す図である。
【図7】専門技術者の視感評価による顔面マッサージと収斂化粧水による5名のパネルの平均肌状態変化を示す図である。
【図8】パネル本人が自己評価した顔面マッサージと収斂化粧水による平均肌状態変化を示す図である。
【図9】視感評価によって、肌の白さと肌の明るさにおいて、顕著な改善を確認し、皮膚スペクトルにより、酸化ヘモグロビンの増加が認識され、サーモグラフィーで皮膚表面温度が増加した1名のパネルの施術前と後のデジタル顔画像を比較した施術効果の一例を示す図である。
【図10】額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率が20%を超えた顔写真である。
【図11】額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率が20%を超えた顔写真である。
【図12】表3によるパネル1乃至5の額、目の下、頬の3部位の平均総ヘモグロビン量の変化率と表1による官能総合判定との関係を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
美白効果を高める処理を行なった皮膚に対し、該処理前後で測色機によって皮膚スペクトルを計測するステップと、
該皮膚スペクトル計測により、該皮膚部位の処理前後での平均総ヘモグロビン含有量の増加率を算出するステップと、
該平均総ヘモグロビン含有量の増加率により美白効果を判断するステップと
を有する美白効果を評価する方法。
【請求項2】
前記美白効果を高める処理を行なった皮膚は、額、目の下及び頬であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記平均総ヘモグロビン含有量の増加率は、10%以上20%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項1】
美白効果を高める処理を行なった皮膚に対し、該処理前後で測色機によって皮膚スペクトルを計測するステップと、
該皮膚スペクトル計測により、該皮膚部位の処理前後での平均総ヘモグロビン含有量の増加率を算出するステップと、
該平均総ヘモグロビン含有量の増加率により美白効果を判断するステップと
を有する美白効果を評価する方法。
【請求項2】
前記美白効果を高める処理を行なった皮膚は、額、目の下及び頬であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記平均総ヘモグロビン含有量の増加率は、10%以上20%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【図1】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−307084(P2007−307084A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−138243(P2006−138243)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]