説明

衛生洗浄装置用温水タンクおよびこれを備える衛生洗浄装置

【課題】 衛生洗浄装置において、温水タンクの内部で洗浄水の良好な流れの形成を図り、洗浄水を所定の温度範囲で有効な時間で維持する。
【解決手段】 タンク本体21の下側に設けられた入水口部251の上側となり、温水ヒータ22の直下となる位置に、複数の孔231が形成されている多孔底板23が設けられている。この多孔底板23は、入水口部251からの洗浄水が実質的に孔231のみから上側に向かって流出するように、タンク本体21の底面215を覆った状態で当該タンク本体21に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄水を貯蔵して加温する温水タンクと、当該温水タンクを備える衛生洗浄装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
衛生洗浄装置において、使用者の局部を洗浄するために噴出される洗浄水は、少なくとも使用者が冷たいと感じない程度に加温されている。洗浄水を加温する具体的な構成は特に限定されないが、一般的な衛生洗浄装置では、温水タンクが用いられている。この温水タンクは、タンク本体の内部に温水ヒータが設けられる基本構成を有し、水道等の給水源から供給された洗浄水がタンク本体に貯蔵され、温水ヒータによって一定の温度範囲まで加温される。
【0003】
上記タンク本体には、給水源から供給される加温前の洗浄水(冷水)を内部に導入するための入水口と、加温された洗浄水(温水)を洗浄ノズルへ排出するための出水口とが設けられている。通常、入水口はタンク本体の下側に位置し、出水口はタンク本体の上側に位置する。これにより、タンク本体の下方から比重の大きい冷水が導入され、当該冷水は温水ヒータにより加温されて温水となり、タンク本体内を上昇する。それゆえ、タンク本体の下方で給水源から導入される冷水と、タンク本体の上方で洗浄ノズルへ排出される温水とがほとんど混合しないため、タンク本体に冷水が順次導入されても、所定の温度範囲の温水を洗浄ノズルから噴出させることができる。
【0004】
なお、タンク本体の形状は特に限定されず、温水タンクを収容する衛生洗浄装置の本体部の形状または内部のユニット等の配置等に応じて、さまざまな形状が知られているが、一般的には、略直方体の形状が採用される。例えば、本体部内で上下方向に長くなる柱状、あるいは、左右方向に長くなる平板状等が挙げられる。
【0005】
ところで、温水タンクの分野では、導入される洗浄水の流れを調整するために、入水口の近傍に整流板を設ける技術が知られている。整流板を設けることで、温水タンク内に導入された冷水が良好に加温されるとともに、加温後の温水を良好に上昇させることが可能になる。
【0006】
例えば、特許文献1には、略『Lの字形状』のタンク室を有する温水タンクが開示され、このタンク室は、所定容積のタンク大室の底部に連なってタンク小室が設けられる形状となっており、このタンク小室の下方に、給水源につながる横向きの給水口(入水口)が形成される一方、タンク大室の上部に温水取出口(出水口)が形成されている。
【0007】
上記タンク室内には棒状の発熱ヒータが配置され、この発熱ヒータは、タンク小室において縦方向にのびる縦発熱部と、タンク大室の底壁にそって横方向にのびる横発熱部と、タンク大室の高さ方向に配置された縦向きの非発熱部とを備えている。この構成では縦発熱部により、タンク室の洗浄水をできるだけ底付近で加熱することができる。また、タンク小室には、邪魔板として機能する整流板が配置され、洗浄水の流速を低下させ得る。それゆえ、給水口から供給された水温が低い洗浄水が勢いよく走ることを抑制できるとともに、縦発熱部との接触時間が確保され、加熱され易くなる。
【0008】
また、特許文献2には、縦横比がほぼ1:1〜3の横長の形状となっているタンク本体を備える温水タンクが開示されている。このタンク本体の下部には多数の入水口が形成された入水管の下流側が配置され、また、タンク本体の天板部で固定されている電熱ヒータの発熱部が、タンク本体の底壁部に平行に配置されている。なお、タンク本体の天板部には突出管部が装着され、その先端が取水口(出水口)となっている。
【0009】
さらに、上記入水管の上方には、当該入水管に対して所定の間隔を隔てて、多数の透孔を有する整流板が配置されている。この整流板は、上記透孔を介して入水口から噴出された水を整流して、タンク本体内の温水を全体にわたって層状に押し上げる。これにより、タンク本体内の温水は、給水圧により押し上げられて、出水管を通じてタンク本体外へ吐出されることになる。
【0010】
なお、特許文献2に開示される温水タンクにおいては、タンク本体の天板部に、出水管に連通しかつタンク本体内の上部のガスを逃がすバイパス通路が形成されている。このバイパス通路によって、タンク本体内に発生したガスは、バイパス通路から出水管を通じて外部へ逃がされる。それゆえ、タンク本体内が温水で満たされることになり、実質的なタンク容量が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2792830号公報
【特許文献2】特開平09−256443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここで、温水タンクの分野では、実用上、温水タンクに貯蔵されている洗浄水の温度を所定の温度範囲に維持できる時間が短くなりやすいという課題が生じている。
【0013】
前述したように、温水タンク内では、下側の入水口から冷水が導入され、この冷水が加温されて温水となり、上側の出水口から温水が排出されることになる。ところが、実際には、洗浄水は下から上に向かって一方向のみに流れるのではなく、温水タンク内の一部で洗浄水が滞留したり必要性の低い循環が生じたりする等の乱流が形成されやすくなる。それゆえ、出水口を介して洗浄ノズルから洗浄水(温水)が噴出されると、温水タンクに導入された直後の冷水が温水と混合し、結果として、洗浄ノズルから噴出される洗浄水の温度がほどなく低下してしまう。
【0014】
そこで、特許文献1または2に開示されるように、整流板を設けて乱流の発生の回避を図ることが想定されるが、本発明者らの検討によれば、単に整流板を設けただけでは、温水タンクの形状によっては、乱流の発生を十分に回避することができないことも明らかとなっている。
【0015】
例えば、特許文献1に開示される技術では、温水タンクが略Lの字形状という特殊な形状となっており、下側のタンク小室の底部に給水口および整流板が設けられている構成となっているため、この技術は、一般的な形状の温水タンクに適用することができない。また、特許文献2に開示される技術では、温水タンク内でガスが溜まる事態を回避することが主たる課題であって、整流板としては一般的な構成しか開示されていない。入水口の構成または温水タンクの形状等の諸条件にもよるが、特許文献2に開示される一般的な整流板では、乱流の発生を十分に回避できないおそれがある。
【0016】
なお、従来の温水および冷水が共存する一般的な構成の温水タンクであっても、もちろん、温水はなるべく出口付近へ移動させ、新たに導入された冷水は効率よく温水化されるよう配慮されている。しかしながら、従来の一般的な構成では、冷水の導入により滞留する温水との混合がどうしても生じてしまうことから、温水タンク内で理想的な層流を実現するためには、未だ検討すべき課題が存在している。
【0017】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであって、温水タンクの内部で洗浄水の良好な流れの形成を図り、洗浄ノズルから噴出される洗浄水が所定の温度範囲で維持できる時間を、より長くすることが可能な温水タンクとこれを備える衛生洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る衛生洗浄装置用の温水タンクは、前記の課題を解決するために、洗浄水を貯蔵する柱状のタンク本体と、前記タンク本体の内部に設けられている温水ヒータと、を備え、前記タンク本体には、その下側に洗浄水を導入する入水口が設けられているとともに、前記タンク本体の上側に洗浄水を排出する出水口が設けられており、さらに、前記タンク本体の前記入水口の上側となる位置であり、かつ、前記温水ヒータの直下となる位置に設けられ、複数の孔が形成されている多孔底板を備え、当該多孔底板は、前記入水口からの洗浄水が実質的に前記複数の孔のみから上側に向かって流出するように、前記タンク本体の底面を覆った状態で取り付けられている構成である。
【0019】
前記構成によれば、タンク本体の形状が、下方から上方に向かって略同一の断面を有する柱状であり、タンク本体の内部に洗浄水を導入する入水口は多孔底板より下側に設けられ、出水口はタンク本体の上側に設けられている。ここで、多孔底板は入水口から導入される洗浄水の流れを整える整流部材として機能するが、当該多孔底板が底面を覆うように取り付けられていることから、洗浄水の流れは、実質的に多孔底板に形成されている複数の孔のみを通過する。そのため、下から上に向かって略同形状の貯水空間(タンク本体の内部)で、下から上に向かって安定した洗浄水の層流が形成されることになる。しかも、多孔底板の直上には温水ヒータが設けられているので、多孔底板で形成された層流はすぐに加温されるため、層流は形成後まもなく所定の温度範囲に達して上昇する。
【0020】
その結果、タンク本体の内部では、洗浄水の安定した流れが形成されるため、乱流の発生が大幅に回避される。それゆえ、温水タンクに導入された直後の洗浄水が所定の温度範囲に加温された洗浄水と混合しにくくなり、出水口からは、所定の温度範囲に維持された洗浄水の送出を、従来よりも長時間継続することができる。
【0021】
前記温水タンクにおいては、前記タンク本体の下側には、貯蔵されている洗浄水を排出する水抜口が設けられ、前記タンク本体の前記底面の周囲には、少なくとも一部に、当該底面よりも上側に位置する段差面が設けられ、前記多孔底板は、その上面が前記段差面と連なる状態で前記タンク本体に取り付けられている構成であることが好ましい。
【0022】
前記構成によれば、タンク本体の下側に段差面が設けられているため、水抜口を開放したときには、段差面よりも下側となる底面に洗浄水を集めることができ、それゆえ洗浄水を水抜口から排出しやすくなる。しかも、段差面は、底面の周囲に設けられるので、段差面(および段差面が設けられていない部位はタンク本体の内壁)で囲まれた陥凹に、多孔底板が嵌合することになる。それゆえ、多孔底板はタンク本体の上げ底となるように取り付けられるため、多孔底板と段差面(および内壁)との間からは、洗浄水が有意に流出することが回避され、その結果、洗浄水を前記複数の孔のみから流出させ、多孔底板の整流部材としての機能をより良好なものとすることができる。
【0023】
前記温水タンクにおいては、前記入水口および前記出水口は、前記タンク本体の内部空間の中央を挟んで対向する位置に設けられている構成であることが好ましい。
【0024】
前記構成によれば、柱状のタンク本体において、上面および底面の対角線に近い位置に入水口および出水口を配置させることができるので、タンク本体の内部のほぼ全体に洗浄水の層状の流れを形成することが可能となる。
【0025】
前記温水タンクにおいては、前記入水口は、前記タンク本体が衛生洗浄装置の本体部に取り付けられたときに、当該衛生洗浄装置の前側となる位置に設けられているとともに、前記出水口は、前記衛生洗浄装置の後側となる位置に設けられている構成であることがより好ましい。
【0026】
前記構成によれば、タンク本体の対角線に近い位置に入水口および出水口を配置できるだけでなく、入水口が前側となることで、温水タンクを収容した衛生洗浄装置の前側に給水機構を接続することができるので、例えば、載置面が平坦ではなく後側に突出部が形成されているタイプの便器に対しても衛生洗浄装置を容易に設置することができる。また、衛生洗浄装置の本体部内では、温水タンクおよび人体洗浄部は隣接して配置されるが、出水口が後側であれば、当該出水口から洗浄ノズルにつながる配管の長さを短くすることができる。
【0027】
前記温水タンクにおいては、前記入水口は、前記タンク本体の下側の側面で、前記底面に近接する位置に設けられている構成であることがより好ましい。
【0028】
前記構成によれば、タンク本体の内部に向かって入水口から底面に広がるように洗浄水を導入することができるとともに、多孔底板および温水ヒータを介して上昇した洗浄水の層流を、タンク本体の側方に向かって排出することができる。したがって、タンク本体内で下から上に向かって形成される層流の乱れを有効に抑制し、層流の安定化を図ることができる。
【0029】
前記温水タンクにおいては、前記タンク本体の前記出水口に隣接して、前記タンク本体に貯蔵される洗浄水の異常温度上昇を検出する保安器を備えている構成であることがより好ましい。
【0030】
前記構成によれば、出水口から排出される直前の洗浄水の温度を検出することが可能となるので、温水タンク内の洗浄水が、異常温度上昇したことを保安器により検出して瞬時にヒータの通電を停止することができる。
【0031】
前記温水タンクにおいては、前記タンク本体は、前記衛生洗浄装置の本体部に取り付けられたときに、当該衛生洗浄装置の上下方向に対応する寸法が最も大きくなる縦長形状であることが好ましい。
【0032】
前記構成によれば、低温の洗浄水(冷水)がタンク本体の下側に導入され、加温後の洗浄水(温水)がタンク本体の上側に蓄積されるので、冷水および温水がより混合しにくくなり、所定の温度範囲に維持された洗浄水の送出を、より長時間維持することが可能となる。また、人体洗浄部に隣接するタンク本体が縦長形状であれば、温水タンクに隣接する人体洗浄部の高さに合わせることになるので、本体部内にタンク本体を収容したときに、温水タンクの容積を十分に確保することができる。
【0033】
前記温水タンクにおいては、前記多孔底板は、タンク本体に設けられた状態で、前記入水口の直上となる端部から前記温水ヒータの直下に至るまでの部位に、前記端部側の位置が高い傾斜部を含み、前記傾斜部にも複数の孔が設けられている構成であることが好ましい。
【0034】
前記構成によれば、入水口から洗浄水が導入される上流側となる部位に前記傾斜部が位置し、この傾斜部に複数の孔が設けられているので、この孔から低温の洗浄水(冷水)が上側に一部漏れ出すことになる。この冷水の漏れ出しによる流れは、入水口から出水口への層流を押し上げることに寄与するため、温水タンク内で形成される層流をより一層安定したものとすることができる。
【0035】
前記温水タンクにおいては、前記多孔底板の下面の周囲には、前記タンク本体の前記底面に向かって突出する枠部が設けられ、前記多孔底板は前記枠部が前記底面に当接した状態で、前記タンク本体に取り付けられている構成であることが好ましい。
【0036】
前記構成によれば、洗浄水が多孔底板とタンク本体の内壁または段差面との間から漏出する可能性をより低減することができ、それゆえ、タンク本体の内部で、下から上へ向かう層流をより安定して形成することができる。
【0037】
本発明には、前記温水タンクを備える衛生洗浄装置も含まれる。すなわち、本発明に係る衛生洗浄装置は、前記温水タンクを備え、当該温水タンクに洗浄水を貯蔵して加温する貯湯式である。
【発明の効果】
【0038】
以上のように、本発明では、衛生洗浄装置において、温水タンクの内部で洗浄水の良好な流れの形成を図り、洗浄ノズルから噴出される洗浄水が所定の温度範囲で維持できる時間を、より長くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態に係る温水タンクを備える衛生洗浄装置の構成の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す衛生洗浄装置の本体部の内部に収容されている温水タンクおよび人体洗浄部の構成の一例を示す分解斜視図である。
【図3】図2に示す温水タンクの具体的構成の一例を示す斜視図である。
【図4】(a)は、図3に示す温水タンクの上面図であり、(b)は、図3に示す温水タンクの底面図である。
【図5】図3に示す温水タンクを構成する下本体の内部を示す上面図である。
【図6】図3に示す温水タンクにおいて、図4(b)二点鎖線で示す断面を左側から見た構成に対応するXX線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0041】
[衛生洗浄装置の全体構成]
図1に示すように、本実施の形態に係る衛生洗浄装置50は、本体部51、操作部52、便座部53、便蓋54等を備えている。衛生洗浄装置50の本体部51、便座部53および便蓋54は、一体的に組み付けられて図示されない便器の上面に設置される。以下、衛生洗浄装置50の構成を説明するにあたっては、便座部53に着座した使用者から見て前方を前方向または前側、後方を後方向または後側、左側方を左方向または左側、右側方を右方向または右側として説明する。また、便座部53と便蓋54とは、それぞれ起立位置と倒伏位置との間で、それぞれ別個にかつ両者一緒に回動可能に設けられるが、以下では、便宜上、これらが倒伏位置から起立位置へ向かって回動することを「開く」といい、起立位置から倒伏位置へ向かって回動することを「閉じる」という。
【0042】
本体部51の具体的な構成は特に限定されず、例えば、本体部51は、本実施の形態では、横長の形状を有し、その長手方向が便器の後側で左右方向に横断するように当該便器に配置されている。本体部51には、操作部52が一体的に設けられているとともに、便座部53および便蓋54が開閉自在に取り付けられている。また、本体部51における便座部53の下側となる位置には、本体部51内に収容されている洗浄ノズル31が先端面のみ露出している。なお、本体部51の内部構成については、洗浄ノズル31等とともに後述する。
【0043】
操作部52は、本体部51の右側面から前側に延伸するように設けられ、その形状は例えば柱状であって、その上面が操作面となっている。操作面には、衛生洗浄装置50が有する各種機能を操作するためのメンブレンスイッチ52a、操作状況等を表示するLED表示部52b等が設けられている。操作部52の具体的構成については特に限定されず、公知の各種構成を好適に用いることができる。また、操作部52の外形も柱状に限定されず、本体部51の右側の部位に、本体部51と一体的に設けられる構成であってもよいし、リモートコントローラ等として本体部51から分離された構成であってもよい。
【0044】
便座部53および便蓋54の本体部51への支持構成も特に限定されない。本実施の形態では、図1に示すように、本体部51の左右の側面は便蓋支持側面51aとなっており、便蓋54の回動軸が回動可能に挿入されることで、便蓋54が開閉可能に支持されている。また、本体部51の左右の側面における前方は、便蓋支持側面51aから見て本体部51の左右方向の中央部に向かって落ち込んだような段差面である便座支持側面51bとなっており、便座部53の回動軸が回動可能に挿入されることで、便座部53が開閉可能に支持されている。
【0045】
便座部53は、本体部51に取り付けられた状態で、起立位置および倒伏位置の間で回動自在となっており、倒伏位置(閉じた状態)で使用者が着座する。便蓋54も、本体部51に取り付けられた状態で、起立位置および倒伏位置の間で回動自在となっており、使用時には起立位置(開いた状態)とし、未使用時には倒伏位置(閉じた状態)とする。便座部53および便蓋54は、いずれも手動で開閉される構成であってもよいし、本体部51内に設けられる便座・便蓋開閉ユニットにより自動的に開閉される構成であってもよい。
【0046】
便座部53は内部に図示されない便座ヒータを備え、当該便座部53を加温するよう構成されている。すなわち、本実施の形態に係る衛生洗浄装置50は、暖房便座機能を備えている。便座ヒータを含む便座部53の具体的構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。また、便蓋54の具体的構成も特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。
【0047】
本体部51は、図2に示すように、内部が中空の筐体511内に、温水タンク20、人体洗浄部30、図示されない乾燥ユニット、および制御部等が収容されている構成を有している。人体洗浄部30、乾燥ユニット、および制御部の具体的な構成は特に限定されず、本発明の技術分野で公知の構成を好適に用いることができる。また、本体部51内には、これら以外の機能ユニット(例えば、前記便座・便蓋開閉ユニット等)が内蔵されていてもよい。
【0048】
筐体511の具体的な構成は特に限定されない。本実施の形態では、図2に示すように、筐体511の下側となり、前記各機能ユニットを載置した状態で収容する下部筐体511aと、この下部筐体511aの上側を覆う状態で取り付けられる図示されない上部筐体とから構成されている。図2においては、温水タンク20および人体洗浄部30を説明する便宜上、本体部51を構成する筐体511については、下部筐体511aのみ図示し、他の機能ユニットおよび制御部等についても図示していない。なお、温水タンク20および人体洗浄部30は、まとめて一つの洗浄ユニットを構成してもよい。
【0049】
人体洗浄部30は、洗浄ノズル31およびノズル駆動部32から少なくとも構成されている。ノズル駆動部32は、操作部52の所定のメンブレンスイッチ52aを操作することで、図示されない制御部により制御され、洗浄ノズル31を進退させ、所定の洗浄動作を行う。
【0050】
温水タンク20は、本体部51の右下側に位置する給水接続部34から図2には図示されない入水口部を介して内部に洗浄水が導入され、当該洗浄水を貯蔵するとともに、内部に設けられている温水ヒータによって所定の温度範囲に加温する。また、給水接続部34と入水口部との間には、図示されない分岐した流路が設けられ、この分岐した流路には温水タンク20に一定の圧力以上の水圧がからないように、水圧を逃すための圧力逃し弁341が設けられている。給水源から一定以上の水圧で給水が行われると、この圧力逃し弁341が開き、余剰水を逃し配管342から出水する。また、温水タンク20の出水口部252は、配管331から洗浄ノズル31の流路と流量を調節する流量調節弁(図示せず)を介して配管332、配管333、配管334に接続され、各配管332,333,334がそれぞれ洗浄ノズル31に接続され、加温された洗浄水(温水)を洗浄ノズル31へ供給する。なお、温水タンク20の上面には、図2に示すように、真空破壊弁253が、洗浄ノズル31から汚水が入ったとき、逆流を防止するために設けられている。真空破壊弁253には配管254が接続され、洗浄水の加熱の際に、温水タンク20から膨張水が流出するような場合を想定して、配管254から下部筐体511aを介して膨張水を便器内に流すように構成されている。給水接続部34としては、ニップル、配管およびバルブ等からなる公知の構成が用いられる。また、配管33としても樹脂製チューブ等の公知の構成が好適に用いられる。
【0051】
なお、温水タンク20は、図示されない温水ヒータ調節部等とともに温水生成部を構成しており、人体洗浄部30と同様に前記制御部により制御されることで、内部の洗浄水の水温を所定の温度範囲に調節して保持する。また、温水タンク20に設けられている前記入水口部、出水口部252、真空破壊弁253等については、温水タンク20の全体構成とともに説明する。
【0052】
[温水タンクの全体構成]
次に、温水タンク20の全体構成の具体的な一例について、図3および図4(a),(b)を参照して説明する。なお、図3では、温水タンク20の各部位の位置関係を説明する便宜上、当該温水タンク20における本体部51に収容された状態の前後左右の各方向を、それぞれ矢印で示している。また、図4(a),(b)のいずれも、図3と同様に、温水タンク20における前後左右の各方向を具体的に表記している。
【0053】
図3に示すように、本実施の形態に係る温水タンク20は、タンク本体21、温水ヒータ22、図3には図示されない多孔底板、および図示されない水温センサ(後述)を備えている。タンク本体21は、本実施の形態では、略直方体の柱状の形状を有し、水平方向に沿って分割面が形成されるように上下に二分割される構成となっている。なお、タンク本体21の上側を上本体21aと称し、下側を下本体21bと称する。
【0054】
タンク本体21は、本実施の形態では、本体部51内に収容したときに、当該本体部51の内部形状、隣接する機能ユニット等に対する位置関係から、左右の両側面に陥没面が形成されている。具体的には、図4(a)の上面図にも示すように、タンク本体21の上本体21aは、上面211の形状は略長方形と見なすことができるが、左面212の後側には、図3にも示すように、当該左面212から内部側へ陥没した上左陥没面212aが形成されている。この上左陥没面212aには、左側(外側)に向かって突出する出水口部252が設けられているとともに、内側(タンク本体21の内部側、右側)に向かって挿入された形で取り付けられている保安器24が設けられている。なお、図4(b)の底面図に示すように、タンク本体21の下本体21bには、上左陥没面212aに対応するような陥没面は形成されていない。
【0055】
また、図4(a),(b)に示すように、タンク本体21の上本体21aおよび下本体21bのいずれにおいても、右面213には、前側に陥没面である右前陥没面213aが形成されている。この右前陥没面213aには、図3には図示されない入水口部251が設けられているとともに、図3および図4(b)に示すように、右前陥没面213aに隣接する底裏面214には、水抜口部254が設けられている。
【0056】
さらに、図3および図4(b)に示すように、温水ヒータ22は、タンク本体21の下本体21bにおける左側の前方から右側の後方に向かって傾斜した状態で、タンク本体21の下側に挿入されている。なお、図3および図4(a)に示すように、タンク本体21の上面211の前側で中央から右前陥没面213aよりの部位には、真空破壊弁253が設けられている。
【0057】
タンク本体21に設けられている入水口部251、出水口部252、真空破壊弁253および水抜口部254の具体的な構成は特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。例えば、入水口部251は、水道および給水接続部34から供給される洗浄水を温水タンク20内に導入できる構成であればよい。同様に、出水口部252は、温水タンク20内に貯蔵された洗浄水を、配管33を介して洗浄ノズル31に排出できる構成であればよい。また、真空破壊弁253は、洗浄ノズル31から汚水が逆流することを防止できる構成であればよい。また、水抜口部254は、温水タンク20に貯蔵されている洗浄水を十分に排水(水抜き)できる構成であればよい。
【0058】
加えて、タンク本体21に取り付けられている温水ヒータ22、図示されない水温センサおよび保安器24の具体的な構成も特に限定されず、公知の構成を好適に用いることができる。例えば、温水ヒータ22としては公知の電熱ヒータを用いることができ、水温センサとしては公知のサーミスタ等を用いることができる。また、保安器24としては、応答速度の速いサーモスタットなどを用いることができる。これは、異常温度になったことを瞬時に検知して温水ヒータ22を停止するためである。なお、本実施の形態において、温水ヒータ22および保安器24に関する特に好ましい構成の一例については、図3および図4(a),(b)には図示されない多孔底板とともに後述する。
【0059】
また、タンク本体21の具体的な構成については特に限定されないが、前述した略直方体形状のように少なくとも柱状であればよい。ここで言う「柱状」とは、本体部51に収容した状態で下方から上方に向かって略同一(同程度)の断面を有する形状を指す。タンク本体21が柱状であれば、本体部51内に収容されたときの占有容積をできる限り少なくした状態で、内部空間で十分な量の洗浄水を蓄積することができるとともに、後述する多孔底板による洗浄水の整流作用によってタンク本体21内で乱流の発生を十分に抑制することができる。
【0060】
また、タンク本体21における「柱状」の形状は、上下方向の断面が同程度であれば、上下方向(縦方向)の寸法が短く前後左右方向(横方向)の寸法が長い平板形状であってもよいが、上下方向の寸法が長い縦長形状であるとより好ましい。これにより、低温の洗浄水(冷水)が導入される部位がタンク本体21の下側となり、加温された後の洗浄水(温水)はタンク本体21の上側に蓄積されることになるので、冷水および温水がより混合しにくくなり、所定の温度範囲に維持された洗浄水の送出を、従来よりも長時間継続することができる。
【0061】
しかも、タンク本体21が縦長形状であれば、洗浄水の貯蔵容量の低下を回避することが可能となる。具体的には、本体部51の高さの設定は、当該本体部51の構成にもよるが、人体洗浄部30の高さに依存する場合が多い。洗浄ノズル31は、本体部51に傾斜して収容されるので、洗浄ノズル31を含む人体洗浄部30の高さも洗浄ノズル31の長さに依存する。そこで、人体洗浄部30に隣接するタンク本体21が縦長形状であれば、温水タンク20に隣接する人体洗浄部30の高さに合わせることになるので、本体部51内にタンク本体21を収容したときに、温水タンク20の容積を十分に確保することができる。
【0062】
また、タンク本体21の分割構成についても特に限定されず、前述した上本体21aおよび下本体21bのように、水平方向に上下二分割される構成であってもよいし、分割面が前下側から後上側に向かって傾斜する方向に二分割される構成であってもよいし、他の二分割構成であってもよいし、三片以上に分割される構成であってもよい。ただし、本実施の形態では、タンク本体21は、上下方向の長さ(高さ)が前後左右方向の長さと同等かそれ以上となっている形状、言い換えれば、立方体に近い形状となっていることが好ましい。これによって、タンク本体21の内部の容量に対する表面積をできるだけ小さくすることができる。
【0063】
タンク本体21の材質についても特に限定されず、温水ヒータ22の発熱に対応できる耐熱性を有し、かつ、内部に貯蔵されている洗浄水を適切に保温できるものであれば、公知のどのような材料でも用いることができる。代表的には、公知の繊維強化プラスチック(FRP)を用いることができ、本実施の形態では、ガラス繊維強化ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体)が用いられる。
【0064】
[温水タンク内部の構成]
次に、温水タンク20の内部構成の具体的な一例について、図1〜図4(a),(b)に加えて、図5および図6を参照して、前記全体構成との関係性とともに具体的に説明する。なお、図5および図6においても、図4(a),(b)と同様に、温水タンク20における前後左右の各方向(図5)または左右の各方向(図6)を具体的に表記している。
【0065】
タンク本体21の上側である上本体21aを取り外して下本体21bのみとすれば、図5に示すように、下本体21bの内部には、温水ヒータ22が底面全体にわたる状態で設けられている。ここで、温水ヒータ22の下側には、タンク本体21の底面全体を覆った状態で多孔底板23が設けられている。
【0066】
また、温水ヒータ22には、貯湯中の温度制御および温水ヒータ22の空焚き防止のための水温センサ221が、伝熱板222を介して温水ヒータ22に取り付けられている。伝熱板222は銅板を屈曲させて構成されており、水温センサ221を温水ヒータ22に熱的に接触させている。
【0067】
図6の断面図に示すように、タンク本体21の下方側(下本体21b)においては、底面215に隣接して、当該底面215よりも上側に位置する段差面216が設けられている。底面215は多孔底板23によって覆われているので、段差面216は、図5から明らかなように、底面215の周囲に設けられていることになり、また、底面215を覆う多孔底板23は、段差面216に囲まれた陥凹に嵌合した状態で取り付けられていることになる。なお、図5に示すように、段差面216は、底面215の周囲全てではなく、入水口部251に隣接する部位を除いて設けられているが、これに限定されるものではない。
【0068】
多孔底板23は、タンク本体21の底面215を覆っているため、当該タンク本体21の上げ底となっている。さらに、図6に示すように、多孔底板23の下側には入水口部251が位置し、また、多孔底板23には図5に示すように、複数の孔231が形成されている。しかも、入水口部251はタンク本体21の下側(本実施の形態では下本体21b)に設けられ、出水口部252はタンク本体21の上側(本実施の形態では上本体21a)に設けられていればよいが、本実施の形態では、図5に示すように、タンク本体21の側面である右面213の下側で、かつ、図6に示すように、底面215に近接する位置に設けられている。
【0069】
それゆえ、入水口部251からタンク本体21の内部に導入された洗浄水は、導入されてからまもなく多孔底板23に形成されている複数の孔231を透過し、多孔底板23の上側に流出することになる。したがって、多孔底板23は、タンク本体21内で洗浄水の流れを整える整流部材として機能する。
【0070】
ここで、多孔底板23は、従来の整流部材である整流板またはバッフル板とは異なり、実質的に複数の孔231のみから洗浄水が流出するように構成されている。これは、上述したように、多孔底板23は、段差面216(並びにタンク本体21の内壁の一部)で囲まれた陥凹に嵌合してタンク本体21の上げ底となっているため、多孔底板23と段差面216との間からは、洗浄水が有意に流出しないためである。
【0071】
従来の整流板は、多孔底板23と同様に複数の孔が形成されている。ただし、従来の整流板は、洗浄水の導入部の前段に設けられているだけで(例えば、特許文献2の図3参照)、整流板の周囲からも洗浄水が流出するため、温水タンクの内部で有意な乱流が生じやすくなっている。また、温水タンクの形状を、本実施の形態のように柱状ではなく、複数のタンク室をつなげたような分岐形状とすれば(例えば特許文献1の図1参照)、当該温水タンクの外形状が複雑となるので、洗浄水の流れも複雑となりやすく、乱流を有効に抑制できないおそれがある。また、衛生洗浄装置の本体部に収容する場合には、このような特殊な形状の温水タンクを基準として本体部内のレイアウトを設計しなければならない。さらには、温水タンクの容量に対して表面積が大きくなるので、温水タンクの材質として保温性に優れたものを用いたとしても省エネルギー性に欠ける場合がある。
【0072】
これに対して本実施の形態では、タンク本体21は、図6に示すように、上方に部分的な陥没面(上左陥没面212a)を有する以外は、下方から上方までほぼ同程度の断面積を有する柱状であるとともに、タンク本体21の内部には、多孔底板23が、入水口部251の上側で温水ヒータ22の直下となる位置で底面215を覆った状態で取り付けられている。また、タンク本体21の上側には、図6に点線で示すように、出水口部252が設けられている。
【0073】
この構成であれば、柱状のタンク本体21の底面215は、上げ底であり整流部材である多孔底板23で覆われているため、入水口部251から導入された洗浄水は、実質的に多孔底板23の複数の孔231のみから上側に向かって流出する。しかも、洗浄水を加温する温水ヒータ22は多孔底板23の直上に設けられているので、孔231から上側に流出した洗浄水は温水ヒータ22ですぐに加温される。それゆえ、タンク本体21の下方から上方に向かって、洗浄水の層状の流れが安定して形成されるため、乱流が生じにくい状態で加温された洗浄水がタンク本体21の上方まで到達する。そして、タンク本体21の上側に設けられる出水口部252から加温された洗浄水が洗浄ノズル31へ排出される。
【0074】
したがって、タンク本体21に導入された直後の低温の洗浄水(冷水)と、温水ヒータ22によって所定の温度範囲まで加温された洗浄水(温水)との混合が大幅に抑制され、出水口部252からの洗浄水の排出が継続している状態でも、洗浄水を所定の温度範囲に有効に維持することができ、急に洗浄水の温度が低下するような事態を回避することができる。
【0075】
ここで、多孔底板23の具体的な寸法、材質等は特に限定されず、例えば材質については、タンク本体21と同様にガラス繊維強化ABS樹脂等の繊維強化プラスチック等を用いることができる。また、形状、厚み等については、タンク本体21の底面215の大きさまたは形状に合わせて適宜設計することができる。さらに、多孔底板23に形成されている複数の孔231の大きさ、形状および配置等についても特に限定されず、タンク本体21の形状および想定される洗浄水の流れ、多孔底板23の形状および大きさ、多孔底板23の直上に位置する温水ヒータ22の形状等に応じて適宜設定することができる。
【0076】
また、本実施の形態では、図6に示すように、多孔底板23は入水口部251の直上となる端部から温水ヒータ22の直下に至るまでの部位に、前記端部側の位置が高く温水ヒータ22の直下となる部分の位置が低くなるような傾斜部233を有している。多孔底板23は、この傾斜部233近傍を除いては、基本的に、温水ヒータ22の広がり面の下側に位置しており、底面215と平行となっている。そして、図5にも示すように、この傾斜部233にも複数の孔234が設けられている。
【0077】
本発明者らの検討によれば、タンク本体21内で層流が形成される過程において、層流が上昇して出水口部252から円滑に洗浄水(温水)が排出される際に、入水口部251の直上に設けた多孔底板23の傾斜部233の構造が層流の上昇移動に影響することが明らかとなっている。
【0078】
図5および図6に示すように、傾斜部233に複数の孔234を設けることで、傾斜部233に設けられた孔234から低温の洗浄水(冷水)が一部漏れ出すことになるが、この冷水の漏れ出しによる流れは、タンク本体21内において、入水口部251から略対角線上の位置にある出水口部252へ層流を押し上げることに寄与する。それゆえ、多孔底板23に、複数の孔234が形成された傾斜部233を設けることで、温水タンク20内で形成される層流をより一層安定したものとすることができる。すなわち、層流が徐々に上方へ押し上げられながら出水口部252へ向かうので、上層の十分に加温された洗浄水が洗浄ノズル31へ向けて出水され、下層の冷水は上昇しながら温水ヒータ22により加熱される。このような作用により、従来の温水タンク20の構成よりも長い時間、洗浄水温度を安定保持して人体洗浄を行うことができる。
【0079】
さらに、本実施の形態では、図6に示すように、多孔底板23の下面の周囲には、タンク本体21の底面215に向かって突出する枠部232が設けられている。この枠部232は、図6の断面図に特に示すように、多孔底板23が取り付けられた状態では、枠部232が底面215に当接している。この構成を採用することにより、洗浄水が多孔底板23と段差面216との間から漏出する可能性をより低減することができ、それゆえ、タンク本体21の内部で、下から上へ向かう層流をより安定して形成することができる。
【0080】
なお、枠部232の形成位置は特に限定されず、多孔底板23の周囲全体に枠部232が設けられてもよいし、洗浄水の漏出の可能性が高いと判断される部位のみに設けてもよい。本実施の形態では、図5および図6に示すように、入水口部251の近傍には段差面216が形成されていないが、これは、タンク本体21の右面213に入水口部251が設けられているためである。すなわち、導入される洗浄水は、入水口部251の近傍では底面215に沿って流れることから、多孔底板23とタンク本体21の内壁面との間から洗浄水が有意に漏出することがないため、枠部232は入水口部251から離れた部位に設ければよい。なお、枠部232の突出の程度、枠部232の厚み等についても特に限定されず、多孔底板23の寸法等と同様に種々の条件によって適宜設定される。
【0081】
ここで、入水口部251および出水口部252の位置関係は特に限定されず、入水口部251がタンク本体21のより下側に位置し、出水口部252がタンク本体21のより上側に位置していればよいが、好ましくは、図6に示すように、入水口部251および出水口部252が、タンク本体21の内部空間の中央を挟んで対向する位置に設けられている。これにより、略直方体状のタンク本体21において、事実上の対角線上に入水口部251および出水口部252が位置することになるので、タンク本体21の内部のほぼ全体に洗浄水の層状の流れを形成することが可能となる。
【0082】
また、入水口部251および出水口部252を設ける位置も特に限定されないが、入水口部251は、図5および図6に示すように前側であると好ましく、出水口部252は、図6に示すように後側であると好ましい。
【0083】
この構成によれば、入水口部251および出水口部252を、タンク本体21の上面211の角の一つと、これに対向する底面215の角の一つとを結ぶ対角線に近い位置関係で配置できるだけでなく、例えば、図1に示すように、入水口部251につながる給水接続部34を本体部51の前側に位置させることができる。衛生洗浄装置50を設置する便器の中には、載置面が平坦ではなく後側に突出部が形成されているタイプが存在するが、給水接続部34を前側に位置させれば、このようなタイプの便器に対しても衛生洗浄装置50を容易に設置することができる。また、図2に示すように、温水タンク20および人体洗浄部30は隣接しているが、出水口部252が後側であれば、当該出水口部252から洗浄ノズル31につながる配管33の長さを短くすることができる。
【0084】
さらに、入水口部251および出水口部252のいずれも、図4(a),(b)に示すように、上面211または底裏面214に設けられるのではなく、右面213または左面212に設けられることが好ましい。この構成であれば、入水口部251および出水口部252はタンク本体21の左右の側面に設けられることになる。それゆえ、入水口部251から底面215に広がるように洗浄水を導入することができるとともに、多孔底板23および温水ヒータ22を介して上昇した洗浄水の層流を、タンク本体21の側方に向かって排出することができる。したがって、タンク本体21内で下から上に向かって形成される層流の乱れを有効に抑制し、層流の安定化を図ることができる。
【0085】
また、入水口部251については、図2に示すように、タンク本体21の右前陥没面213aによって形成される陥没空間に給水接続部34を配置できるので、本体部51内で温水タンク20および給水接続部34をコンパクトに収容することができる。また、出水口部252については、前述した洗浄ノズル31につながる配管33の長さを、より短くすることができる。
【0086】
加えて、図3、図4(a)および図6に示すように、出水口部252に隣接して保安器24が設けられているが、出水口部252が左面212に設けられていることで、保安器24を出水口部252に隣接して設けることもできる。本実施の形態における保安器24としてはサーモスタットが用いられているが、このサーモスタットは、温水タンク20の側面である左面212において、出水口部25よりも低く、その上端が温水タンクの天面よりも少し下方(例えば、本実施の形態では約10mm程度下方)となる位置に設けられている。この状態では、サーモスタットの感熱面は、銅板を介して温水タンク20内の洗浄水(温水)と熱的に接触するようになっている。これにより、出水口部252から排出される直前の洗浄水の温度を検出することが可能となり、かつ、洗浄水が加熱される際に気泡が発生したとしても気泡が上方に集まるため、感熱面は気泡の影響を受けにくい構成となっているので、温水ヒータ22の温度制御および安全制御をより良好に行うことができる。しかも、保安器24は、外部端子と配線とを接続する関係上、外部端子を露出した状態で水温検出部位をタンク本体21内に挿入するよう取り付ける必要があるが、図3および図4(a)に示すように、保安器24は、タンク本体21の左面212から内部に挿入された状態で、管状の出水口部252と平行状態で取り付けることができる。それゆえ、保安器24を出水口部252近傍の位置にコンパクトに設けることができる。
【0087】
なお、前述したように、タンク本体21の段差面216は、底面215の周囲全てではなく、入水口部251に隣接する部位を除いて設けられているが、この入水口部251の近傍には、水抜口部254も設けられている。水抜口部254は、図6に示すように、タンク本体21の下側の内面である底面215から下側の外面である底裏面214に向かって貫通した状態で形成され、タンク本体21から洗浄水を排出するときに用いられる。
【0088】
本実施の形態では、タンク本体21の下側に段差面216が設けられているため、水抜口部254を開放したときには、段差面216よりも下側となる底面215に洗浄水を集めることができ、それゆえ洗浄水を水抜口部254から排出しやすくなる。したがって、段差面216は、多孔底板23を嵌め込むための外枠として機能するだけでなく、タンク本体21から洗浄水を抜くときに、水抜口部254近傍に洗浄水を集める漏斗状部位としても機能する。
【0089】
なお、段差面216は、底面215の周囲の少なくとも一部に設けられればよく、漏斗状部位としての機能を鑑みれば、段差面216は、少なくとも水抜口部254から離れた位置に設けられていればよい。段差面216の外枠としての機能は、底面215の周囲全体に段差面216が設けられていなくても実現可能である。すなわち、段差面216が設けられていない部位はタンク本体21の内壁が外枠として機能するので、段差面216およびタンク本体21の内壁によって囲まれる陥凹に多孔底板23を嵌合させてばよい。もちろん、水抜口部254の近傍も含め、底面215の周囲全体に段差面216が設けられてもよい。
【0090】
[変形例]
本実施の形態では、前述したように、多孔底板23は、段差面216を外枠とする凹部である底面215に嵌合して取り付けられ、多孔底板23には枠部232が設けられているが、本発明はこれに限定されない。例えば、段差面216を有しないタンク本体21において、入水口部251の上側に、枠部232を有さない多孔底板23が設けられる構成であってもよい。
【0091】
また、本実施の形態では、図5に示すように、温水ヒータ22は、棒状の加熱部をU字状に折り曲げた形状となっているが、加熱部はU字に限定されず、二次元に広がって多孔底板23において孔231が形成された領域に重複できるような形状となっていればよい。たとえば、温水ヒータ22を、N字状、M字状等のように、棒状の加熱部を一筆書き形状(ユニカーサル(unicursal)形状)に形成し、この温水ヒータ22の二次元の広がりと多孔底板23の孔231の形成領域とが重複する位置関係で、当該温水ヒータ22をタンク本体21に設ければよい。
【0092】
なお、本発明は上記の実施形態の記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や複数の変形例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、洗浄水を温水タンクに貯蔵して加温する貯湯式の衛生洗浄装置の分野に広く好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0094】
20 温水タンク
21 タンク本体
22 温水ヒータ
23 多孔底板
24 保安器
50 衛生洗浄装置
51 本体部
212 左面(側面)
213 右面(側面)
215 底面
216 段差面
231 複数の孔
232 枠部
251 入水口部(入水口)
252 出水口部(出水口)
254 水抜口部(水抜口)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄水を貯蔵する柱状のタンク本体と、
前記タンク本体の内部に設けられている温水ヒータと、を備え、
前記タンク本体には、その下側に洗浄水を導入する入水口が設けられているとともに、前記タンク本体の上側に洗浄水を排出する出水口が設けられている衛生洗浄装置用の温水タンクであって、
さらに、前記タンク本体の前記入水口の上側となる位置であり、かつ、前記温水ヒータの直下となる位置に設けられ、複数の孔が形成されている多孔底板を備え、
当該多孔底板は、前記入水口からの洗浄水が実質的に前記複数の孔のみから上側に向かって流出するように、前記タンク本体の底面を覆った状態で取り付けられていることを特徴とする、温水タンク。
【請求項2】
前記タンク本体の下側には、貯蔵されている洗浄水を排出する水抜口が設けられ、
前記タンク本体の前記底面の周囲には、当該底面よりも上側に位置する段差面が設けられ、
前記多孔底板は、その上面が前記段差面と連なる状態で前記タンク本体に取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の温水タンク。
【請求項3】
前記入水口および前記出水口は、前記タンク本体の内部空間の中央を挟んで対向する位置に設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の温水タンク。
【請求項4】
前記入水口は、前記タンク本体が衛生洗浄装置の本体部に取り付けられたときに、当該衛生洗浄装置の前側となる位置に設けられているとともに、前記出水口は、前記衛生洗浄装置の後側となる位置に設けられていることを特徴とする、請求項3に記載の温水タンク。
【請求項5】
前記入水口は、前記タンク本体の下側の側面で、前記底面に近接する位置に設けられていることを特徴とする、請求項3または4に記載の温水タンク。
【請求項6】
前記タンク本体の前記出水口に隣接して、前記タンク本体に貯蔵される洗浄水の温度を検出する保安器を備えていることを特徴とする、請求項3または4に記載の温水タンク。
【請求項7】
前記タンク本体は、前記衛生洗浄装置の本体部に取り付けられたときに、当該衛生洗浄装置の上下方向に対応する寸法が最も大きくなる縦長形状であることを特徴とする、請求項3に記載の温水タンク。
【請求項8】
前記多孔底板は、タンク本体に設けられた状態で、前記入水口の直上となる端部から前記温水ヒータの直下に至るまでの部位に、前記端部側の位置が高い傾斜部を含み、
前記傾斜部にも複数の孔が設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の温水タンク。
【請求項9】
前記多孔底板の下面の周囲には、前記タンク本体の前記底面に向かって突出する枠部が設けられ、
前記多孔底板は前記枠部が前記底面に当接した状態で、前記タンク本体に取り付けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の温水タンク。
【請求項10】
請求項1から9いずれか1項に記載の温水タンクを備える衛生洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−122333(P2011−122333A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−280016(P2009−280016)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】