説明

衛生洗浄装置

【課題】従来のおしり洗浄よりも広範囲な洗浄エリアに均一に着水させて洗浄エリアを一度にさっとやさしく洗浄することができ、必要以上に中心部に強い刺激感やなぞられたような感覚の不快感を与えず、所望の洗浄エリア外への洗浄水の飛散を抑制することができる衛生洗浄装置を提供する。
【解決手段】おしり洗浄の際に使用されるノズルの吐水孔から人体局部へ向けて洗浄水を吐水する衛生洗浄装置であって、吐水孔から洗浄水を中空円錐状に吐水させる吐水手段と、人体局部に着水する前に、中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜を破砕することにより粒化された水流を生成し、中空円錐状の洗浄水の中空部分を粒化された水流により充填する破砕手段と、吐水手段よりも下流側で吐水孔よりも上流側に設けられ、吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さよりも吐水孔から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さを厚くする液膜厚さ拡大手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、衛生洗浄装置に関し、具体的には洋式腰掛便器に腰掛けた使用者の人体局部を水で洗浄する衛生洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
局部洗浄用のノズルを移動させることなく洗浄範囲(着水時の洗浄面積)を拡大する技術として、螺旋状に旋回させた洗浄水をノズルの吐水孔から吐水できる人体洗浄装置がある(特許文献1および2)。螺旋状の旋回吐水(中空円錐状吐水)を行う技術は、旋回の程度により洗浄範囲を調整できる有用な技術である。しかしながら、中空円錐状の吐水を行うと、中空円錐状の内部の中空部分、すなわち中抜け部分が着水時に生ずるため、その中抜け部分における洗浄性能については改善の余地がある。すなわち、例えば排便時の汚れは肛門を中心に、特に体調を崩した軟便時には前後左右の広い範囲に亘って付着するため、広い範囲をやさしく、一度にさっと洗浄したいという要望に応えるためには、更なる改良が求められている。
【0003】
これに対して、旋回噴流の内部の中空部分に直進流をさらに吐水することにより、旋回噴流で広い洗浄面積を確保しつつ直進流で強い洗浄感を得ることができる衛生洗浄装置がある(特許文献3)。しかしながら、特許文献3に記載された衛生洗浄装置では、旋回噴流の内部の中空部分に直進流をさらに吐水しているため、洗浄エリアの中心部における洗浄圧力が高く、肛門部に強い刺激が必要以上に加わるおそれがある。そのため、肛門部周辺に痔による裂傷や、過度の拭きあげによる擦過傷などが存在する使用者にとって、広い範囲をやさしく、一度にさっと洗浄したいという体調を崩した際のおしり洗浄に求められる洗浄感としては課題が残る。
【0004】
また、軸方向の噴出流と接線方向の噴出流との干渉状態を変えることにより噴出パターンの洗浄面積を変えることができる局部洗浄装置がある(特許文献4)。しかしながら、特許文献4に記載された局部洗浄装置では、軸方向の噴出流を使用しているため、洗浄エリアの中心部における洗浄圧力が高く、肛門部に強い刺激が必要以上に加わるおそれがある。そのため、肛門部周辺に痔による裂傷や、過度の拭きあげによる擦過傷などが存在する使用者にとって、広い範囲をやさしく、一度にさっと洗浄したいという体調を崩した際のおしり洗浄に求められる洗浄感としては課題が残る。
【0005】
また、一方で、細分化された洗浄水を旋回状態で吐水することができる吐水装置がある(特許文献5)。しかしながら、広い範囲をやさしく、一度にさっと洗浄したいという体調を崩した際のおしり洗浄に求められる程度の広い範囲に細分化された洗浄水を吐水すると、その細分化された洗浄水は、空気中を漂い、所望とする洗浄エリアの外部にまで飛散するおそれがある。そうすると、その飛散した洗浄水は、便座に着座した使用者の大腿部などに付着し、使用者は不快感を感ずるおそれがある。さらには細分化された洗浄水が着水するときの着水圧力は非常に低いため、使用者に対して過度に低い洗浄感しか与えることができず、おしりを洗う行為に求める満足感や達成感が得られないという課題が残る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−90155号公報
【特許文献2】特開2001−90151号公報
【特許文献3】特開2007−100370号公報
【特許文献4】特開2001−90154号公報
【特許文献5】特許第3848886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、従来のおしり洗浄よりも広範囲な洗浄エリアに均一に着水させて洗浄エリアを一度にさっと、やさしく洗浄することができ、体調を崩した際のおしりの洗浄において必要以上に中心部に強い刺激感やなぞられたような感覚などといった不快感を与えることなく、おしり洗浄行為に求められる高い水量感を実現し、さらに所望の洗浄エリア外への洗浄水の飛散を抑制することができる衛生洗浄装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、おしり洗浄の際に使用されるノズルの吐水孔から人体局部へ向けて洗浄水を吐水する衛生洗浄装置であって、前記吐水孔から洗浄水を中空円錐状に吐水させる吐水手段と、前記吐水孔から前記中空円錐状に吐水された洗浄水が前記人体局部に着水する前に、前記中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜を破砕することにより粒化された水流を生成し、前記中空円錐状に吐水された洗浄水の中空部分を前記粒化された水流により充填する破砕手段と、前記吐水手段よりも下流側であって前記吐水孔よりも上流側に設けられ、前記吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さよりも前記吐水孔から前記中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さを厚くする液膜厚さ拡大手段と、を備えたことを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0009】
この衛生洗浄装置によれば、ノズルから噴射された洗浄水は、まず中央部に中空部分を有する液膜として中空円錐状に吐水孔から吐水される。以下、説明の便宜上、このように中空円錐状に吐水された洗浄水を「中空円錐状吐水」と称する。そして、その中空円錐状吐水の中空部分は、人体局部に着水する前に、破砕手段により破砕されて粒化された水流(以下、説明の便宜上、「粒化水流」と称する)へ遷移する。そのため、中空円錐状吐水は、粒化水流により中空部分を充填された状態で便座に座った使用者の人体局部のより広い範囲に着水する。
【0010】
そのため、排便時の汚れは肛門を中心に、特に体調を崩した軟便時には前後左右の広い範囲に亘って付着する場合があるが、本発明の衛生洗浄装置は、その広い範囲をやさしく、一度にさっと洗浄したいという要望に応えることができる。つまり、中抜け部分が着水時に生ずることを抑制し、その中抜け部分における洗浄性能についての課題を解決することができる。
【0011】
ここで、洗浄水の洗浄範囲(着水時の洗浄面積)は、例えば約φ23〜33mm程度である。また、中空円錐状吐水は、液膜が破砕して粒化した状態で人体局部に着水する。このとき、液膜厚さ拡大手段は、中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜を拡大させることにより、吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さよりも吐水孔から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さを厚くする。
【0012】
また、洗浄エリアの中心付近には、中空円錐状吐水の中空部分を充填した粒化水流が着水するため、洗浄エリアの中心部における洗浄圧力は従来の直進流が着水した場合よりも低く、肛門部に強い刺激が必要以上に加わるおそれは少ない。そのため、本発明の衛生洗浄装置は、肛門部周辺に痔による裂傷や、過度の拭きあげによる擦過傷などが存在する使用者にとっても、広い範囲をやさしく、一度にさっと洗浄したいというおしり洗浄に求められる洗浄感の課題を解決することができ、非常に心地よい洗浄感のおしり洗浄を実現することができる。
【0013】
また、本発明の衛生洗浄装置は、従来のおしり洗浄よりも広い範囲に一度に着水させることができるため、ノズルを前後方向および左右方向に移動させることにより着水位置を移動させたり、便座に座った使用者自身が着座位置を移動することにより着水位置を移動させたりする必要はない。そのため、本発明の衛生洗浄装置は、人体局部を広い範囲で洗浄する際になぞられたような感覚を与えるおそれは少ない。これによっても、本発明の衛生洗浄装置は、体調を崩した際の刺激に敏感なおしりの洗浄においてなぞられたような感覚の不快感がなく、非常に心地よい洗浄感のおしり洗浄を実現することができる。
【0014】
また、本発明の衛生洗浄装置では、ノズルから吐水された洗浄水は、中空円錐状吐水として吐水されるが、ノズルからある程度離間した位置において破砕手段により破砕され、粒化水流へ遷移する。より具体的には、破砕手段は、中空円錐状に吐水された洗浄水の内部において液膜を横断する方向の水の流れを生成することにより、その液膜を破砕する。これによれば、中空円錐状吐水の中空部分に空気が入り込みやすいため、中空円錐状吐水の中空部分の圧力がより小さくなることを防止することができる。そのため、中空円錐状吐水において液膜波動が発生することを抑制することができる。
【0015】
ここで、「液膜波動」について説明すると、まず、中空円錐状吐水の中空部分の圧力は、中空円錐状に吐水された洗浄水の外側の圧力よりも小さい。このとき、中空円錐状吐水が破砕されることなく液膜のままで拡大し続けた場合には、その吐水径(円錐径)の拡大に伴って液膜の厚さは薄くなる。そうすると、中空円錐状吐水の液膜は、中空円錐状吐水の中空部分と、中空円錐状に吐水された洗浄水の外側の部分と、の間の圧力差の影響を受けやすくなる。そのため、中空円錐状吐水の中空部分と、中空円錐状吐水の外側の部分と、の間の圧力差により、吐水孔からある程度離間した位置における中空円錐状吐水では、液膜の状態が保持されつつ波を打つような現象が生ずる。本願明細書においては、このような現象を「液膜波動」と称する。
【0016】
液膜波動が発生した後に中空円錐状吐水の液膜が破砕されると、破砕された後の粒化された水流は、波動の影響により不規則な方向に飛散することになり、所望の洗浄エリアの外部にまで飛散しやすくなる。そうすると、その飛散した洗浄水は、便座に着座した使用者の大腿部などに付着し、使用者は不快感を感ずるおそれがある。
【0017】
また、液膜波動は、液膜の厚さが薄くなったところで発生し、さらに、波動が発生することで液膜の軌跡がさらに長くなるため、液膜の厚さはより薄くなっている。すなわち、液膜波動が中空円錐状吐水において発生すると、その中空円錐状吐水は、比較的小さな径を有する粒に破砕される。この破砕された粒の径および質量が小さいため、その小さな粒は空気中を漂い、所望の洗浄エリアの外部にまで飛散しやすくなる。そうすると、その飛散した洗浄水は、便座に着座した使用者の大腿部などに付着し、使用者は不快感を感ずるおそれがある。
【0018】
これに対して、本発明の衛生洗浄装置は、中空円錐状吐水において液膜波動が発生することを抑制することができる。そのため、波動の影響によって粒化された水流が不規則な方向に飛散し、洗浄水が所望の洗浄エリアの外部にまで飛散することを抑制することができ、所望の洗浄エリア外の部分が不必要に濡れることを抑制することができる。また、中空円錐状吐水がより小さな径を有する粒に破砕されることを抑制することができる。つまり、液膜波動が発生することを防止することで、粒化水流の径をより大きくすることができる。また、前述したように、液膜厚さ拡大手段は、中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜を拡大させることにより、吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さよりも吐水孔から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さを厚くする。そのため、粒化水流の径をより確実に大きくすることができる。
【0019】
そのため、粒化水流は、空気中を漂うおそれは少なく、所望の洗浄エリアの外部にまで飛散するおそれは少ない。つまり、洗浄水が所望の洗浄エリアの外部にまで飛散することを抑制することができ、所望の洗浄エリア外の部分が不必要に濡れることを抑制することができる。これにより、便座に座った使用者が、所望の洗浄エリア外の部分が不必要に濡れることで不快感を感ずるという課題をさらに解決することができる。
【0020】
また、液膜波動が発生することを防止し、中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜を拡大させることにより、粒化水流の径をより大きくすることができるため、着水部における着水圧力および着水水量をより高めることができる。なお、「着水圧力」とは、単位面積あたりの運動量であり、汚れを落としたり、剥いだり、浮かせたりする力をいう。一方、「着水水量」とは、単位時間あたりに着水する水量であり、汚れを洗い流す力をいう。これにより、排便時の汚れを、より短時間の間に落としたり浮かせたりすることができ、また、より短時間の間に洗い流すことができる。
【0021】
また、本発明の衛生洗浄装置によれば、洗浄水の着水部における着水圧力は、着水部の中心部と外周部とで略同じである。あるいは、洗浄水の着水部における着水圧力は、着水部の中心部よりも外周部で高い。
【0022】
ここで、所望の洗浄エリアのうちの外周部は、特に体調を崩した軟便時には前後左右の広い範囲に亘って付着するため、積極的に洗浄したいエリアである。そのため、外周部の着水圧力が中心部の着水圧力と略同じ、あるいは中心部の着水圧力よりも高いことにより、洗浄力の高い洗浄水が汚れを除去したいエリアに着水する。一方、肛門の中心には着水圧力の低い洗浄水が着水するので、必要以上に強い刺激感が加わることがない。そのため、本発明の衛生洗浄装置は、より短時間の間に、体調を崩した軟便時での前後左右の広い範囲に亘って付着した汚れを落としたり浮かせたりすることができ、なおかつ、非常に心地よい洗浄感のおしり洗浄を実現することができる。そのため、本発明の衛生洗浄装置は、体調を崩した軟便時に使用する装置としても好適である。
【0023】
また、本発明の衛生洗浄装置によれば、洗浄水の着水部における着水水量は、着水部の中心部と外周部とで略同じである。あるいは、洗浄水の着水部における着水水量は、着水部の中心部よりも外周部で多い。
【0024】
ここで、前述したように、所望の洗浄エリアのうちの外周部は、特に体調を崩した軟便時には前後左右の広い範囲に亘って付着するため、積極的に洗浄したいエリアである。そのため、外周部の着水水量が中心部の着水水量と略同じ、あるいは中心部の着水水量よりも多いことにより、十分な量の洗浄水が汚れを除去したいエリアに着水する。一方、肛門の中心には着水水量の少ない洗浄水が着水するので、必要以上に大水量で洗浄されることによる不快感を抑制することができる。そのため、広い範囲に亘って付着した汚れは、着水した洗浄水により確実に取り込まれ、より短時間の間に洗い流され、なおかつ、非常に心地よい洗浄感のおしり洗浄を実現することができる。そのため、本発明の衛生洗浄装置は、体調を崩した軟便時に使用する装置としても好適である。
【0025】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記液膜厚さ拡大手段は、前記液膜厚さ拡大手段に流入する際の前記洗浄水の流速よりも前記液膜厚さ拡大手段から流出する際の前記洗浄水の流速を遅くすることにより、前記吐水孔から前記中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜を厚くすることを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0026】
この衛生洗浄装置によれば、液膜厚さ拡大手段は、液膜厚さ拡大手段に流入する際の洗浄水の流速よりも液膜厚さ拡大手段から流出する際の洗浄水の流速を遅くすることにより、中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜を厚くする。そのため、液膜厚さ拡大手段は、液膜厚さ拡大手段の内部を流れる洗浄水の液膜の厚さを平均的に拡大させることができる。そのため、液膜厚さ拡大手段は、液膜の厚さのばらつきによってより小さい径を有する粒が生成されることをより確実に防止することができる。これにより、本発明の衛生洗浄装置は、非常に心地よい洗浄感のおしり洗浄を実現することができる。
【0027】
また、第3の発明は、第2の発明において、前記液膜厚さ拡大手段は、前記液膜厚さ拡大手段に流入する際に前記洗浄水へ与える抵抗よりも前記液膜厚さ拡大手段から流出する際に前記洗浄水へ与える抵抗を大きくすることにより、前記洗浄水の流速を遅くすることを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0028】
この衛生洗浄装置によれば、液膜厚さ拡大手段は、液膜厚さ拡大手段に流入する際に洗浄水へ与える抵抗よりも液膜厚さ拡大手段から流出する際に洗浄水へ与える抵抗を大きくすることにより、洗浄水の流速を遅くする。そのため、液膜厚さ拡大手段に流入した洗浄水は、液膜厚さ拡大手段の流入側において徐々に減速し、液膜厚さ拡大手段の流出側において一気に減速する。これにより、液膜厚さ拡大手段に流入した洗浄水が、速度がより速いときにより大きな抵抗を受けることで、あるいは衝撃を受けることで粒化することを抑制することができる。そのため、液膜厚さ拡大手段の内部を流れる洗浄水を液膜の状態で維持しつつ、より安定して減速させることができる。これにより、より確実に液膜の厚さを拡大することができる。
【0029】
また、第4の発明は、第2の発明において、前記液膜厚さ拡大手段は、筒状に形成され内部に流路を有するスロートであり、前記スロートは、前記吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水を前記流路の内壁で受け止め、前記洗浄水が前記流路の内壁に沿って通過する際に生ずる摩擦力により、前記洗浄水の流速を遅くすることを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0030】
この衛生洗浄装置によれば、液膜厚さ拡大手段は、筒状に形成され内部に流路を有するスロートであり、そのスロートは、吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水を流路の内壁で受け止め、洗浄水が流路の内壁に沿って通過する際に生ずる摩擦力により、洗浄水の流速を遅くする。そのため、スロートは、洗浄水の衝撃を周方向に均一して受け止めることができる。そのため、スロートは、洗浄水の周方向においてばらつきのより少ない状態で液膜の厚さを拡大して吐水孔から吐水することができる。これにより、スロートは、液膜の厚さのばらつきによってより小さい径を有する粒が生成されることをより確実に防止することができる。
【0031】
また、第5の発明は、第4の発明において、前記吐水手段と、前記スロートと、の間の部分は、大気に開放されていることを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0032】
この衛生洗浄装置によれば、吐水手段と、スロートと、の間の部分は、大気に開放されている。これによれば、吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の外周側と、スロートの流路の内壁と、の間において負圧が発生することを抑制することができる。そのため、吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜が、その負圧により引っ張られて不安定な状態となることでスロートの内部において粒化することを抑制することができる。つまり、スロートの内部において液膜の状態を維持することができ、より確実に液膜の厚さを拡大することができる。
【0033】
また、第6の発明は、第2の発明において、前記ノズルは、旋回流により形成された中空円錐状の洗浄水を吐水する吐水口と、前記吐水口から吐水された前記中空円錐状の洗浄水を受け止め、前記洗浄水を内壁に沿わせて通過させることにより液膜の状態を維持しつつ前記洗浄水を減速させ、前記洗浄水の液膜の厚さを厚くする環状部と、を有し、前記環状部における下流側には、前記環状部を通過した洗浄水を前記中空円錐状に吐水する前記吐水孔が設けられ、前記吐水孔から吐水された前記中空円錐状の洗浄水の液膜は、破砕されることを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0034】
この衛生洗浄装置によれば、吐水口と吐水孔との間において、吐水口から吐水された中空円錐状の洗浄水を受け止め、洗浄水を内壁に沿わせて通過させることにより液膜の状態を維持しつつ洗浄水を減速させ、洗浄水の液膜の厚さを厚くする環状部が設けられている。そのため、極めて簡単な構成により、液膜の厚さをより確実に厚くすることができる。
【0035】
また、第7の発明は、第1〜6のいずれか1つの発明において、前記吐水手段の上流側に、前記中空円錐状に吐水される洗浄水に脈動を与える脈動発生手段を備えたことを特徴とする衛生洗浄装置である。
【0036】
この衛生洗浄装置によれば、吐水手段の上流側に脈動手段を設け、洗浄水に時間的流速変動である脈動を与えることにより、中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の長さ、つまり中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜を破砕する箇所を前後に揺動を発生させることができる。液膜の厚さ・流速が異なる液膜の破砕箇所を脈動手段で制御することにより、粒化水流の速度・粒径・分布を制御することが可能となる。これにより、おしりの着水部において、先行した流速の遅い粒化水流に、後続の流速の早い粒化水流を追いつかせることで、粒化水流の空間密度を上昇させ、中空円錐状吐水でも、おしり洗浄に求められる高い水量感を実現することができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の態様によれば、従来のおしり洗浄よりも広範囲な洗浄エリアに均一に着水させて洗浄エリアを一度にさっと、やさしく洗浄することができ、体調を崩した際のおしりの洗浄において必要以上に中心部に強い刺激感やなぞられたような感覚などといった不快感を与えることなく、おしり洗浄行為に求められる高い水量感を実現し、さらに所望の洗浄エリア外への洗浄水の飛散を抑制することができる衛生洗浄装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかる衛生洗浄装置を備えたトイレ装置を表す斜視模式図である。
【図2】本実施形態にかかる衛生洗浄装置の要部構成を表す概念模式図である。
【図3】本実施形態のノズルから吐水された洗浄水の状態の概略を表す概念模式図である。
【図4】洗浄水の着水部における着水圧力および着水水量を表すグラフ図である。
【図5】洗浄水の着水部における他の着水圧力および着水水量を表すグラフ図である。
【図6】本実施形態の具体例にかかるノズルを表す断面模式図である。
【図7】比較例にかかるノズルを表す断面模式図である。
【図8】スロートの変形例を例示する断面模式図である。
【図9】本実施形態の具体例にかかるノズルを表す断面模式図である。
【図10】本具体例の脈動ポンプの駆動タイミングと液膜の速度を表わすグラフである。
【図11(a)】図10におけるa−b区間の粒化水流の状態を説明する模式断面図である。
【図11(b)】図10におけるa−b区間の粒化水流の状態を説明する模式断面図である。
【図12(a)】図10におけるc−d区間の粒化水流の状態を説明する模式断面図である。
【図12(b)】図10におけるc−d区間の粒化水流の状態を説明する模式断面図である。
【図13(a)】本具体例のおしり着水地点における粒化水流の状態を示す模式断面図である。
【図13(b)】本具体例のおしり着水地点における粒化水流の空間密度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる衛生洗浄装置を備えたトイレ装置を表す斜視模式図である。
【0040】
図1に表したトイレ装置は、洋式腰掛便器(以下説明の便宜上、単に「便器」と称する)800と、その上に設けられた衛生洗浄装置100と、を備える。衛生洗浄装置100は、ケーシング400と、便座200と、便蓋300と、を有する。便座200と便蓋300とは、ケーシング400に対して開閉自在にそれぞれ軸支されている。
【0041】
ケーシング400の内部には、便座200に座った使用者の人体局部の洗浄を実現する局部洗浄機能部などが内蔵されている。また、例えばケーシング400には、使用者が便座200に座ったことを検知する着座検知センサ404が設けられている。着座検知センサ404が便座200に座った使用者を検知している場合において、使用者が例えば図示しないリモコンなどの操作部を操作すると、ノズル410を便器800のボウル801内に進出させることができる。なお、図1に表した衛生洗浄装置100では、ノズル410がボウル801内に進出した状態を表している。
【0042】
ノズル410の先端部には、ひとつあるいは複数の吐水孔411が設けられている。そして、ノズル410は、その先端部に設けられた吐水孔411から水を噴射して、便座200に座った使用者の人体局部を洗浄することができる。例えば、図1に表したノズル410では、ふたつの吐水孔411のうちの一方の吐水孔411は、ビデ洗浄用の吐水孔であり、他方の吐水孔411は、おしり洗浄用の吐水孔である。なお、本願明細書において「水」という場合には、冷水のみならず、加熱されたお湯も含むものとする。
【0043】
図2は、本実施形態にかかる衛生洗浄装置の要部構成を表す概念模式図である。
図3は、本実施形態のノズルから吐水された洗浄水の状態の概略を表す概念模式図である。
また、図4は、洗浄水の着水部における着水圧力および着水水量を表すグラフ図である。
また、図5は、洗浄水の着水部における他の着水圧力および着水水量を表すグラフ図である。
【0044】
本実施形態のノズル410は、図1に関して前述したように、便座200に座った使用者の人体局部に向けて吐水孔411から洗浄水500を噴射することができる。このとき、洗浄水500は、図2および図3に表したように、中央部に中空部分を有する液膜として中空円錐状に吐水孔411から吐水される。つまり、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、ノズル410の吐水孔411から中空円錐状に洗浄水を吐水する吐水手段401を備える。以下、説明の便宜上、このように中空円錐状に吐水された洗浄水を「中空円錐状吐水」と称する。
【0045】
なお、中空円錐状吐水510の中空部分では、液膜の流れに追随して中空円錐状吐水510の中空部分から外側へ排出される空気量が多くなる。一方で、中空円錐状吐水510の中空部分に入る空気の通り道は、中空円錐状吐水510の液膜によって遮られるため、中空円錐状吐水510の中空部分から外側へ排出される空気の中央部に限られることになる。そのため、中空円錐状吐水510の中空部分に入ってくる空気量が少なくなり、中空円錐状吐水510の中空部分では、外気と比べて圧力が低くなった負圧状態が発生している。
【0046】
また、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、中空円錐状吐水510が人体局部に着水する前に、中空円錐状吐水510の中空部分を充填するように中空円錐状吐水510の液膜を破砕する破砕手段を備える。つまり、破砕手段は、詳細については後述するが、図3に表したように、中空円錐状吐水510の液膜を破砕することにより粒化された水流(以下、説明の便宜上、「粒化水流」と称する)を生成する。そして、液膜の進行方向に進行する粒化水流520の一部は、中空円錐状吐水510の中空部分に発生した負圧によって、その中空部分に引き込まれる。これにより、破砕手段は、その粒化水流520により中空円錐状吐水510の中空部分を充填することができる。
【0047】
すなわち、ノズル410から噴射された洗浄水500は、まず中空円錐状吐水510として吐水孔411から吐水され、粒化水流520により中空部分を充填された状態で便座200に座った使用者の人体局部のより広い範囲に着水する。
【0048】
ここで、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、図2に表したように、吐水手段401よりも下流側であってノズル410の吐水孔411よりも上流側に設けられた液膜厚さ拡大手段402を備える。この液膜厚さ拡大手段402は、中空円錐状吐水510の液膜の厚さを拡大させる。より具体的に説明すると、液膜厚さ拡大手段402は、ノズル410の吐水孔411から吐水された中空円錐状吐水510の液膜の厚さD2を、吐水手段401から吐水された中空円錐状吐水の液膜の厚さD1よりも厚くすることができる。そのため、中空円錐状吐水510の液膜を破砕することにより生成された粒化水流520の径は、例えば約1mm(ミリメートル)程度であり、径が例えば約10〜100μm(ミクロン)程度の霧と比較すると大きい。
【0049】
中空円錐状吐水510が、破砕手段により破砕され、粒化水流520により中空部分を充填された状態で人体局部に着水すると、洗浄水500の着水部における着水圧力および着水水量は、図4に表したように、着水部の中心部と外周部とで略同じ、あるいは、図5に表したように、着水部の中心部よりも外周部で大きくなる。
【0050】
ここで、本願明細書において、「着水圧力」とは、単位面積あたりの運動量であり、汚れを落としたり、剥いだり、浮かせたりする力をいう。
また、本願明細書において、「着水水量」とは、単位時間あたりに着水する水量であり、汚れを洗い流す力をいう。
【0051】
洗浄水500の洗浄範囲(着水時の洗浄面積)は、例えば約φ23〜33mm程度である。すなわち、図4および図5に表した立ち上がり部の幅は、例えば約23〜33mm程度に相当する。
【0052】
そのため、例えば体調を崩した軟便時には前後左右の広い範囲に亘って汚れが付着する場合があるが、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、その広い範囲を一度にさっと洗浄したいという要望に応えることができる。また、洗浄エリアの中心付近には、中空円錐状吐水510の中空部分を充填した粒化水流520が着水するため、洗浄エリアの中心部における洗浄圧力は従来の直進流が着水した場合よりも低く、肛門部に強い刺激が必要以上に加わるおそれは少ない。そのため、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、非常に心地よい洗浄感のおしり洗浄を実現することができる。
【0053】
また、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、従来のおしり洗浄よりも広い範囲に一度に着水させることができるため、ノズル410を前後方向および左右方向(図1に表した矢印を参照)に移動させることにより着水位置を移動させたり、便座200に座った使用者自身が着座位置を移動することにより着水位置を移動させたりする必要はない。そのため、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、人体局部を広い範囲で洗浄する際になぞられたような感覚を与えるおそれは少ない。これによっても、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、非常に心地よい洗浄感のおしり洗浄を実現することができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、洗浄水500の着水部における着水圧力は、図4に表したように、着水部の中心部と外周部とで略同じである。あるいは、洗浄水500の着水部における着水圧力は、図5に表したように、着水部の中心部よりも外周部で高い。ここで、所望の洗浄エリアのうちの外周部は、例えば体調を崩した軟便時での前後左右の広い範囲に亘って汚れが付着した場合には積極的に洗浄したいエリアである。そのため、外周部の着水圧力が中心部の着水圧力と略同じ、あるいは中心部の着水圧力よりも高いことにより、洗浄力の高い洗浄水500が汚れを除去したいエリアに着水する。肛門部には着水圧力の低い洗浄水が着水するため、必要以上に強い刺激感が加わることはない。そのため、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、より短時間の間に、広い範囲に亘って付着した汚れを落としたり浮かせたりすることができ、なおかつ、非常に心地よい洗浄感のおしり洗浄を実現することができる。そのため、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、体調を崩した軟便時に使用する装置としても好適である。
【0055】
また、本実施形態によれば、洗浄水500の着水部における着水水量は、図4に表したように、着水部の中心部と外周部とで略同じである。あるいは、洗浄水500の着水部における着水水量は、図5に表したように、着水部の中心部よりも外周部で多い。ここで、前述したように、所望の洗浄エリアのうちの外周部は、例えば体調を崩した軟便時での前後左右の広い範囲に亘って汚れが付着した場合には、積極的に洗浄したいエリアである。そのため、外周部の着水水量が中心部の着水水量と略同じ、あるいは中心部の着水水量よりも多いことにより、十分な量の洗浄水500が汚れを除去したいエリアに着水する。一方、肛門部には着水水量の少ない洗浄水が着水するため、必要以上に大水量で洗浄されることによる不快感を抑制することができる。そのため、広い範囲に亘って付着した汚れは、着水した洗浄水500により確実に取り込まれ、より短時間の間に洗い流され、なおかつ、非常に心地よい洗浄感のおしり洗浄を実現することができる。そのため、前述したように、本実施形態にかかる衛生洗浄装置100は、体調を崩した軟便時に使用する装置としても好適である。
【0056】
次に、本実施形態の具体例について図面を参照しつつ説明する。
図6は、本実施形態の具体例にかかるノズルを表す断面模式図である。
また、図7は、比較例にかかるノズルを表す断面模式図である。
また、図8は、スロートの変形例を例示する断面模式図である。
【0057】
本具体例のノズル410は、図6に表したように、ノズル本体(吐水手段)420と、スロート(液膜厚さ拡大手段および環状部)430と、を有する。ノズル本体420の内部には、図示しない水源から供給された洗浄水が通過するノズル本体流路421と、旋回流を生成可能な旋回室423と、旋回室423からの洗浄水をスロート430へ導く連通路425と、が設けられている。また、旋回室423の中央部には、より安定した旋回力の旋回流を生成する突設部424が設けられている。
【0058】
旋回室423は、底部においてより大きな径を有する大径部内周壁423eと、連通路425へ向かうにつれて収縮した径を有する傾斜内周壁423fと、により形成され、中空室とされている。そして、傾斜内周壁423fは、その一端において連通路425に接続されている。一方、ノズル本体流路421は、旋回室423に偏心して接続されている。より具体的には、ノズル本体流路421は、旋回室423の大径部内周壁423eの接線方向に接続されている。
【0059】
スロート430は、筒状に形成されている。そして、スロート430の内部には、ノズル本体420の連通路425から吐水された洗浄水が通過するスロート流路431が設けられている。そして、スロート流路431の一端には、スロート流路431を通過した洗浄水をスロート430の外部へ吐水する吐水孔433(吐水孔)が形成されている。吐水孔433の近傍のスロート流路431には、吐水孔433へ向かうにつれて流路が拡大するテーパ部432が形成されている。
【0060】
なお、本具体例のノズル410では、ノズル本体420とスロート430との間に隙間が設けられているが、この隙間は必ずしも設けられていなくともよい。すなわち、ノズル本体420とスロート430とが一体的に形成され、連通路425とスロート流路431とが接続されていてもよい。
【0061】
図示しない水源から洗浄水がノズル410へ供給されると、その洗浄水は、ノズル本体流路421を通過して旋回室423へ流入する。ここで、ノズル本体流路421は、旋回室423の大径部内周壁423eの接線方向に接続されているため、旋回室423へ流入した洗浄水は、大径部内周壁423eおよび傾斜内周壁423fに沿って旋回する。そして、旋回室423において旋回した洗浄水は、旋回力を維持しつつ連通路425を通過し、連通路425の一端(吐水口)からスロート430のスロート流路431内へ吐水される。このとき、ノズル本体420から吐水された洗浄水は、旋回力を維持しているため、中央部に中空部分を有する液膜として中空円錐状に吐水される。
【0062】
そして、ノズル本体420から中空円錐状に吐水された洗浄水は、スロート流路431の内壁で受け止められる。続いて、スロート流路431に流入した洗浄水は、旋回力を維持しつつスロート流路431の内壁に沿って流れ、吐水孔433へ導かれる。すなわち、スロート流路431を通過する洗浄水は、スロート流路431の内壁に付着するように流れる。そのため、スロート流路431を流れる洗浄水は、スロート流路431の内壁から摩擦力による抵抗を受け、その洗浄水の流速は、吐水孔433へ向かうにつれて遅くなる。これにより、図6に表したように、吐水孔433の近傍の液膜の厚さは、ノズル本体420から吐水されたときの液膜の厚さ、あるいはスロート流路431に流入した直後の液膜の厚さよりも厚い。あるいは、吐水孔433から吐水された中空円錐状吐水510の液膜の厚さD2は、ノズル本体420から吐水された中空円錐状吐水の液膜の厚さD1よりも厚い。つまり、本具体例では、ノズル本体420は、図2に関して前述した吐水手段401として機能する。
【0063】
さらに、スロート流路431を流れる洗浄水の流速は、スロート流路431の内壁の近傍すなわち境界層よりもスロート流路431の中心部の方が速い。つまり、スロート430は、スロート流路431の内壁の近傍を流れる洗浄水の流速と、スロート流路431の内壁の近傍よりも中心部の側を流れる洗浄水の流速と、を異ならせることができる。言い換えれば、スロート430は、洗浄水の液膜の外側(スロート流路431の内壁の側)の流れと、洗浄水の液膜の内側(スロート流路431の中心部の側)の流れと、の間において速度差をつけることができる。これは、液膜の外側(スロート流路431の内壁の側)の洗浄水が、液膜の内側(スロート流路431の中心部の側)の洗浄水よりも大きな摩擦力をスロート流路431の内壁から受けることにより、内側の洗浄水よりも減速するためである。
【0064】
そのため、スロート流路431を流れる洗浄水の内部には、図6に表した矢印A1のように、液膜を横断する方向に渦流が発生する。また、吐水孔433の近傍におけるスロート流路431には、吐水孔433へ向かうにつれて流路が拡大するテーパ部432が形成されているため、吐水孔433から吐水される洗浄水は、テーパ部432に沿って流れる。そのため、吐水孔433から吐水される洗浄水の内部には、液膜を横断する方向に渦流がより発生しやすい。
【0065】
そうすると、吐水孔433から吐水された洗浄水は、中央部に中空部分を有する液膜として、すなわち中空円錐状吐水510として吐水されるが、吐水孔433からある程度離間した位置において粒化水流520へ遷移する。より具体的には、吐水孔433から吐水された中空円錐状吐水510の内部には、液膜を横断する方向に渦流が発生しているため、吐水孔433からある程度離間した位置において、隣接する渦流同士の間に亀裂が生ずる。そうすると、吐水孔433から吐水された中空円錐状吐水510は、図6に表したように、吐水孔433からある程度離間した位置において破砕される。このようにして、吐水孔433から吐水された中空円錐状吐水510は、粒化水流520へ遷移する。つまり、本具体例のスロート430は、液膜厚さ拡大手段402として機能するとともに、破砕手段としても機能する。
【0066】
また、中空円錐状吐水510の中空部分の圧力は、中空円錐状吐水510の外側の圧力よりも小さい。これは、中空円錐状吐水510の中空部分には外部から空気が入りにくく、また、その中空部分の空気は中空円錐状吐水510の流れにより引き出されるためである。このようにして中空円錐状吐水510の中空部分の圧力が中空円錐状吐水510の外側の圧力よりも小さいことにより、中空円錐状吐水510は、吐水径(円錐径)が拡大することを抑制される。
【0067】
そのため、本具体例のノズル410によれば、粒化水流520が洗浄エリア外に着水することを抑制することができ、所望の洗浄エリア外の部分(例えば、大腿部)が不必要に濡れることを抑制することができる。これにより、便座200に座った使用者が、所望の洗浄エリア外の部分が不必要に濡れることで不快感を感ずることを抑制することができる。
【0068】
さらに、粒化水流520の径は、図2に関して前述したように、例えば約1mm程度であり、径が例えば約10〜100μm程度の霧と比較すると大きい。これは、前述したように、スロート流路431を流れる洗浄水の流速は、吐水孔433へ向かうにつれて遅くなり、吐水孔433の近傍の液膜の厚さは、より厚くなるためである。つまり、液膜の厚さがより厚い状態で吐水された中空円錐状吐水510を、スロート430の内部において発生した渦流により強制的に粒化するため、粒化水流520の径は、霧などと比較すると大きい。
【0069】
また、スロート流路431を流れる洗浄水の流速は、吐水孔433へ向かうにつれて遅くなるため、スロート430は、スロート流路431を流れる洗浄水の液膜の厚さを平均的に拡大させることができる。そのため、スロート430は、液膜の厚さのばらつきによってより小さい径を有する粒が生成されることをより確実に防止することができる。また、スロート430は、ノズル本体420から吐水された洗浄水をスロート流路431の内壁で受け止めるため、洗浄水の衝撃を周方向に均一して受け止めることができる。そのため、スロート430は、洗浄水の周方向においてばらつきのより少ない状態で液膜の厚さを拡大して吐水孔433から吐水することができる。これにより、スロート430は、液膜の厚さのばらつきによってより小さい径を有する粒が生成されることをより確実に防止することができる。
【0070】
これによれば、粒化水流520は、空気中を漂うおそれは少なく、所望の洗浄エリアの外部にまで飛散するおそれは少ない。つまり、本具体例のノズル410によれば、粒化水流520が洗浄エリア外に着水することを抑制することができ、所望の洗浄エリア外の部分が不必要に濡れることを抑制することができる。また、粒化水流520の径は、より大きいため、着水部における着水圧力および着水水量をより高めることができる。そのため、例えば体調を崩した軟便時での前後左右の広い範囲に亘って汚れが付着した場合における汚れなどを、より短時間の間に落としたり浮かせたりすることができ、また、より短時間の間に洗い流すことができる。
【0071】
また、中空円錐状吐水510の中空部分の圧力が中空円錐状吐水510の外側の圧力よりも小さいことに関して前述したが、この中空円錐状吐水510の中空部分の圧力は、中空円錐状吐水510が破砕されない場合の中空円錐状吐水510の中空部分の圧力よりも大きい。これは、図6に表した矢印A2のように、中空円錐状吐水510の中空部分の外部の空気が、隣接する渦流同士の間に生じた亀裂から中空部分に入り込むためである。これによれば、中空円錐状吐水510の中空部分の圧力が小さくなりすぎることにより十分な広さの洗浄範囲を確保することができないおそれを抑制することができる。また、中空円錐状吐水510の中空部分の圧力は、中空円錐状吐水510が破砕されない場合の中空円錐状吐水510の中空部分の圧力よりも大きいため、液膜波動が生ずることを抑制することができる。
【0072】
ここで、液膜波動について、図7に表した比較例を参照しつつ説明する。
図7に表した比較例のノズルは、スロートを有していない。そのため、旋回室423へ流入した洗浄水は、大径部内周壁423eおよび傾斜内周壁423fに沿って旋回し、連通路425を通過して中央部に中空部分を有する液膜として、すなわち中空円錐状吐水510として吐水される。つまり、本比較例のノズルでは、連通路425の一端が吐水孔426として機能する。
【0073】
このとき、本比較例の連通路425を通過する洗浄水の流速は、図6に表した具体例のスロート流路431を流れる洗浄水の流速ほどには遅くならない。そのため、本比較例の連通路425を通過する洗浄水の液膜の厚さは、図6に表した具体例のスロート流路431を流れる洗浄水の液膜の厚さよりも薄い。また、本比較例の連通路425を通過する洗浄水の液膜の厚さはより薄いため、その洗浄水の内部には、液膜を横断する方向に渦流が発生しにくい。そのため、本比較例の吐水孔426から吐水された中空円錐状吐水510は、図6に表した具体例よりも破砕されにくい。
【0074】
そうすると、中空円錐状吐水510は、破砕されることなく液膜のままで拡大し続け、中空円錐状吐水510の吐水径の拡大に伴って液膜の厚さはより薄くなる。これにより、中空円錐状吐水510の液膜は、中空円錐状吐水510の中空部分と、中空円錐状吐水510の外側の部分と、の間の圧力差の影響を受けやすくなる。
【0075】
そのため、図7に表したように、中空円錐状吐水510の中空部分と、中空円錐状吐水510の外側の部分と、の間の圧力差により、吐水孔426からある程度離間した位置における中空円錐状吐水510では、液膜の状態が保持されつつ波を打つような現象が生ずる。本願明細書においては、このような現象を「液膜波動」と称する。
【0076】
液膜波動が発生した後に中空円錐状吐水510の液膜が破砕されると、破砕された後の粒化された水流は、波動の影響により不規則な方向に飛散することになり、所望の洗浄エリアの外部にまで飛散しやすくなる。そうすると、その飛散した洗浄水は、便座200に着座した使用者の大腿部などに付着し、使用者は不快感を感ずるおそれがある。
【0077】
また、液膜波動は、液膜の厚さが薄くなったところで発生し、さらに、波動が発生することで液膜の軌跡がさらに長くなるため、液膜の厚さはより薄くなっている。すなわち、液膜波動が中空円錐状吐水510において発生すると、その中空円錐状吐水510は、図6に表した粒化水流520よりも小さな径を有する粒に破砕される。この破砕された粒の径および質量が小さいため、その小さな粒は空気中を漂い、所望の洗浄エリアの外部にまで飛散しやすくなる。そうすると、その飛散した洗浄水は、便座200に着座した使用者の大腿部などに付着し、使用者は不快感を感ずるおそれがある。
【0078】
これに対して、本具体例にかかるノズル410では、吐水孔433の近傍の液膜の厚さは、ノズル本体420から吐水されたときの液膜の厚さ、あるいはスロート流路431に流入した直後の液膜の厚さよりも大きい。あるいは、吐水孔433から吐水された中空円錐状吐水510の液膜の厚さD2は、ノズル本体420から吐水された中空円錐状吐水の液膜の厚さD1よりも厚い。そのため、吐水孔433から吐水される洗浄水の内部には、液膜を横断する方向に渦流がより発生しやすい。これによれば、中空円錐状吐水510は破砕されやすく、その中空部分に空気が入り込みやすいため、中空円錐状吐水510の中空部分の圧力がより小さくなることを防止することができる。そのため、中空円錐状吐水510において液膜波動が発生することを抑制することができる。
【0079】
これによれば、波動の影響によって粒化された水流が不規則な方向に飛散し、洗浄水が所望の洗浄エリアの外部にまで飛散することを抑制することができ、所望の洗浄エリア外の部分が不必要に濡れることを抑制することができる。また、中空円錐状吐水510がより小さな径を有する粒に破砕されることを抑制することができる。つまり、液膜波動が発生することを防止するため、あるいは液膜波動が発生する前に、液膜の厚さがより厚い状態で吐水された中空円錐状吐水510をスロート430の内部において発生した渦流により強制的に破砕し粒化するため、粒化水流520の径をより大きくすることができる。そのため、洗浄水が所望の洗浄エリアの外部にまで飛散することを抑制することができ、所望の洗浄エリア外の部分が不必要に濡れることを抑制することができる。したがって、便座200に座った使用者が、所望の洗浄エリア外の部分が不必要に濡れることで不快感を感ずることを抑制することができる。
【0080】
また、中空円錐状吐水510において液膜波動が発生することを抑制することができるため、中空円錐状吐水510の中空部分の圧力が小さくなりすぎることを抑制することができる。そのため、中空円錐状吐水510の中空部分を粒化水流520により充填した状態で、便座200に座った使用者の人体局部のより広い範囲に洗浄水を着水させることができ、所望の広い範囲を一度にさっと洗浄することができる。
【0081】
さらに、本具体例のノズル410では、ノズル本体420とスロート430との間に隙間が設けられている。つまり、ノズル本体(吐水手段)420と、スロート(液膜厚さ拡大手段)430と、の間の部分は、大気に開放されている。これによれば、ノズル本体420から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の外周側と、スロート流路431の内壁と、の間において負圧が発生することを抑制することができる。そのため、ノズル本体420から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜が、その負圧により引っ張られて不安定な状態となることでスロート430の内部において粒化することを抑制することができる。つまり、スロート430の内部において液膜の状態を維持することができ、より確実に液膜の厚さを拡大することができる。
【0082】
なお、図8に表した変形例のように、スロート流路の内壁に螺旋状溝部435が形成されている場合には、スロート流路を流れる洗浄水は、その螺旋状溝部435からより大きな抵抗を受ける。より具体的には、スロート流路を流れる洗浄水は、スロート流路の流入側(ノズル本体420の連通路425の側)よりもスロート流路の流出側(吐水孔433の側)においてより大きな抵抗を受ける。そして、スロート流路を流れる洗浄水は、スロート流路を流れる洗浄水の旋回成分の速度は維持され、その直進成分の速度は減速される。
【0083】
これによれば、スロート流路に流入した洗浄水は、スロート流路の流入側において徐々に減速し、スロート流路の流出側において一気に減速する。そのため、ノズル本体420から吐水されスロート流路に流入した洗浄水が、速度がより速いときにより大きな抵抗を受けることで、あるいは衝撃を受けることで粒化することを抑制することができる。そのため、本変形例では、スロート流路を流れる洗浄水を液膜の状態で維持しつつ、より安定して減速させることができる。これにより、より確実に液膜の厚さを拡大することができる。
【0084】
また、スロート流路を流れる洗浄水と、螺旋状溝部435と、の接触時間は、螺旋状溝部435が設けられていない場合よりも長い。そのため、本変形例では、スロート流路を流れる洗浄水は、螺旋状溝部435が設けられていない場合よりも長い時間に亘って螺旋状溝部435から摩擦力を受ける。これにより、洗浄水の液膜の外側(スロート流路の内壁の側)の流れと、洗浄水の液膜の内側(スロート流路の中心部の側)の流れと、の間における速度差は、螺旋状溝部435が設けられていない場合よりも大きい。
【0085】
そのため、本変形例のスロート流路を流れる洗浄水の液膜の厚さは、図6に表した具体例のスロート流路431を流れる洗浄水の液膜の厚さよりも厚い。つまり、スロート流路の内壁に螺旋状溝部435を形成することにより、吐水孔433の近傍の液膜の厚さ、あるいは吐水孔433から吐水された中空円錐状吐水510の液膜の厚さD2をより厚くすることができる。
【0086】
そのため、本変形例では、より小さい径を有する粒が生成されることをより確実に防止し、粒化水流520の径をより大きくすることができる。これにより、洗浄水が所望の洗浄エリアの外部にまで飛散することをより確実に抑制することができ、所望の洗浄エリア外の部分が不必要に濡れることを抑制することができる。したがって、便座200に座った使用者が、所望の洗浄エリア外の部分が不必要に濡れることで不快感を感ずることを抑制することができる。
【0087】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、ノズル410やノズル本体420やスロート430などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などやスロート430の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【0088】
図9は、本実施形態の具体例にかかるノズルを表す断面模式図である。
また、図10は、本具体例の脈動ポンプの駆動タイミングと液膜の速度を表わすグラフである。また、図11(a)、(b)は、図10におけるa−b区間の粒化水流の状態を説明する模式断面図である。また、図12(a)、(b)は、図10におけるc−d区間の粒化水流の状態を説明する模式断面図である。また、図13(a)は、本具体例のおしり着水地点における粒化水流の状態を示す模式断面図である。図13(b)は、本具体例のおしり着水地点における粒化水流の空間密度を表すグラフである。
【0089】
本具体例にかかるノズル410は、図6に関して前述した具体例のノズル410と同様
に、ノズル本体420を有する。また、旋回室423へ流入した洗浄水は、旋回室423
において旋回し、連通路425を通過して中央部に中空部分を有する液膜として、すなわ
ち中空円錐状吐水510として吐水孔426からノズル本体420の外部へ吐水される。
【0090】
また、本具体例にかかるノズル410を備える衛生洗浄装置100は、ノズル本体流路421の途中において、ノズル本体流路421内の水の圧力を変調可能な脈動ポンプ(脈動発生手段)470を備える。この脈動ポンプ470は、ノズル本体流路421内の水の流れに脈動を与え、吐水孔426から吐水される洗浄水に脈動を与えることができる。その他の構造は、図6に関して前述した具体例にかかるノズル410の構造と同様である。
【0091】
次に、本具体例の脈動ポンプと470の駆動タイミングを液膜の速度の関係を図10で説明する。
脈動ポンプで、図10のように、圧力変調力を高い状態と低い状態を交互に行った時、液膜速度は、a−b区間では、液膜速度は、減少傾向になり、c−d区間では、液膜速度は、増加傾向にある。さらに詳細に説明すると、a−b区間では、液膜速度が、減少傾向になるので、図9に示す中空円錐状吐水510を形成している液膜が吐水孔426から遠ざかるにつれて、液膜速度が速い状態になっている。逆に、c−d区間では、液膜速度が、増加傾向になるので、図9に示す中空円錐状吐水510を形成している液膜が吐水孔426から遠ざかるにつれて、液膜速度が遅い状態になっている。
【0092】
脈動ポンプの圧力変調力の変動に伴う粒化水流の説明を図11、図12で、説明を行う。図11(a)は、図10におけるa−b区間の初期の粒化水流の状態を説明する模式断面図である。図11(b)は、図10におけるa−b区間の終期の粒化水流の状態を説明する模式断面図である。また、図12(a)は、図10におけるc−d区間の初期の粒化水流の状態を説明する模式断面図である。図12(b)は、図10におけるc−d区間の終期の粒化水流の状態を説明する模式断面図である。
【0093】
図10の説明で上述したように、a−b区間では、液膜が吐水孔426から遠ざかるにつれて、液膜速度が速い状態、言いかえると、液膜で吐水孔に近い位置ほど、その位置での液膜を形成している水流の速度が遅い状態になっている。そのため、液膜の吐水孔が一番遠い先端と、吐水孔に一番近い根元で大きく流速差が生じているように、液膜の内部流速差が発生している。この液膜内の流速差により液膜が薄く引き伸ばされた状態になる。その結果、a−b区間の初期では、図11(a)で示すように脈動ポンプにより圧力変調がない状態である点線Aの位置よりも吐水孔426に遠く、吐水孔426から距離d離れた位置の実線Bの位置で、中空円錐状吐水510が、破砕手段により破砕される事になる。液膜厚さの薄い中空円錐状吐水510が、吐水孔426から遠い位置の液膜速度の速い状態で、粒化水流となるため、液滴の粒径は小さく、速度の速い粒化水流が形成される。
【0094】
図11(b)で示すように、a−b区間の終期、つまり、bに近い時間帯では、図11(a)で示す実線Bよりもよりも吐水孔426に近く、図11(a)の距離dより小さい距離dの位置である実線Cの位置で、中空円錐状吐水510が、破砕手段により破砕される事になる。液膜厚さが薄く、更に長さも減少した中空円錐状吐水510が、吐水孔426から近い位置の液膜速度の遅い状態で、粒化水流となるため、図11(a)のa−b区間の初期に形成される流化水流と同様に、液滴の粒径は小さく、一方速度の遅い粒化水流が形成される。
【0095】
次に、図10におけるc−d区間の粒化水流の状態を説明する。c−d区間では、液膜が吐水孔426から遠ざかるにつれて、液膜速度が遅い状態、言いかえると、液膜で吐水孔に近い位置ほど、その位置での液膜を形成している水流の速度が速い状態になっている。そのため、a−b区間とは全く逆の液膜の内部流速差が発生している。このa−b区間とは逆の内部流速差の発生により、液膜は吐水孔426側から厚さを増した状態となっている。このとき、破砕手段による中空円錐状吐水510の破砕に加えて、液膜の内部流速差による破砕の促進も加わることによって、図12(a)で示す吐水孔426より距離d離れた実線Dの位置で、液膜が引きちぎれることによる粒化水流が発生する。液膜厚さの厚い中空円錐状吐水510が、吐水孔426から近い位置の液膜速度の遅い状態で、粒化水流となるため、液滴の粒径は大きく、速度の速い粒化水流が形成される。
【0096】
この現象は、吐水孔426側から段階的に進行するが、c−d区間のdに近づくにつれて、つまり流速が上がるにつれて、粒化水流が発生する箇所は、吐水孔426から遠ざかってゆく。具体的には、c−d区間のdに近い時間帯では、図12(b)で示すように、脈動ポンプにより圧力変調がない状態である点線Aよりも、より吐水孔426より距離d離れた実線Eの位置で、流化水流が発生する。液膜厚さが厚く、更に長さも増加した中空円錐状吐水510が、吐水孔426から遠い位置の液膜速度の速い状態で、粒化水流となるため、図12(a)のc−d区間の初期に形成される流化水流と同様に、液滴の粒径は大きく、一方速度の速い粒化水流が形成される。
【0097】
その結果、脈動ポンプにより圧力変調を加えることにより形成される流化水流は、破砕手段による中空円錐状吐水510の破砕時における、中空円錐状吐水510の破砕位置の変化により、吐水範囲のうち、中央付近では、流速の遅い粒化水流、周辺付近では、流速の速い粒化水流が支配的となる。図13(a)で示すように、この速度差を制御し、おしりの着水時には、遅い粒化水流、流速の速い粒化水流が同時に着水するようにすれば、図13(b)で示すように、おしり着水地点における粒化水流の空間密度を高めることが可能となる。また、流化水流の速度差により、先に滴化した速度の遅い液滴に、後から滴化した速度の速い液滴が衝突すると、液滴の合体が生じ、より体積の大きい液滴が形成される。これにより、従来のおしり洗浄よりも広範囲な洗浄エリアに均一に着水させて洗浄エリアを一度にさっと、やさしく洗浄することができ、更に、おしり洗浄行為に求められる高い水量感を実現する事ができる。
【符号の説明】
【0098】
100 衛生洗浄装置、 200 便座、 300 便蓋、 400 ケーシング、 401 吐水手段、 402 液膜厚さ拡大手段、 404 着座検知センサ、 410 ノズル、 411 吐水孔、 420 ノズル本体(吐水手段)、 421 ノズル本体流路、 423 旋回室、 423e 大径部内周壁、 423f 傾斜内周壁、 424 突設部、 425 連通路、 426 吐水孔、 430 スロート、 431 スロート流路、 432 テーパ部、 433 吐水孔、 435 螺旋状溝部、470 脈動ポンプ、 500 洗浄水、 510 中空円錐状吐水、 520 粒化水流、 800 便器、 801 ボウル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
おしり洗浄の際に使用されるノズルの吐水孔から人体局部へ向けて洗浄水を吐水する衛生洗浄装置であって、
前記吐水孔から洗浄水を中空円錐状に吐水させる吐水手段と、
前記吐水孔から前記中空円錐状に吐水された洗浄水が前記人体局部に着水する前に、前記中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜を破砕することにより粒化された水流を生成し、前記中空円錐状に吐水された洗浄水の中空部分を前記粒化された水流により充填する破砕手段と、
前記吐水手段よりも下流側であって前記吐水孔よりも上流側に設けられ、前記吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さよりも前記吐水孔から前記中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜の厚さを厚くする液膜厚さ拡大手段と、
を備えたことを特徴とする衛生洗浄装置。
【請求項2】
前記液膜厚さ拡大手段は、前記液膜厚さ拡大手段に流入する際の前記洗浄水の流速よりも前記液膜厚さ拡大手段から流出する際の前記洗浄水の流速を遅くすることにより、前記吐水孔から前記中空円錐状に吐水された洗浄水の液膜を厚くすることを特徴とする請求項1記載の衛生洗浄装置。
【請求項3】
前記液膜厚さ拡大手段は、前記液膜厚さ拡大手段に流入する際に前記洗浄水へ与える抵抗よりも前記液膜厚さ拡大手段から流出する際に前記洗浄水へ与える抵抗を大きくすることにより、前記洗浄水の流速を遅くすることを特徴とする請求項2記載の衛生洗浄装置。
【請求項4】
前記液膜厚さ拡大手段は、筒状に形成され内部に流路を有するスロートであり、
前記スロートは、前記吐水手段から中空円錐状に吐水された洗浄水を前記流路の内壁で受け止め、前記洗浄水が前記流路の内壁に沿って通過する際に生ずる摩擦力により、前記洗浄水の流速を遅くすることを特徴とする請求項2記載の衛生洗浄装置。
【請求項5】
前記吐水手段と、前記スロートと、の間の部分は、大気に開放されていることを特徴とする請求項4記載の衛生洗浄装置。
【請求項6】
前記ノズルは、
旋回流により形成された中空円錐状の洗浄水を吐水する吐水口と、
前記吐水口から吐水された前記中空円錐状の洗浄水を受け止め、前記洗浄水を内壁に沿わせて通過させることにより液膜の状態を維持しつつ前記洗浄水を減速させ、前記洗浄水の液膜の厚さを厚くする環状部と、を有し、
前記環状部における下流側には、前記環状部を通過した洗浄水を前記中空円錐状に吐水する前記吐水孔が設けられ、前記吐水孔から吐水された前記中空円錐状の洗浄水の液膜は、破砕されることを特徴とする請求項2記載の衛生洗浄装置。
【請求項7】
前記吐水手段の上流側に、前記中空円錐状に吐水される洗浄水に脈動を与える脈動発生手段を備えたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の衛生洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11(a)】
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【図11(b)】
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【図12(a)】
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【図12(b)】
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【図13(a)】
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【図13(b)】
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【公開番号】特開2012−219477(P2012−219477A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84852(P2011−84852)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】