説明

衛生用薄葉紙

【課題】柔らかく、滑らかな感触の衛生用薄葉紙を提供する。
【解決手段】デキストリンにアルキル鎖を結合させた物質を含む柔軟剤を塗布した衛生用薄葉紙により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛生用薄葉紙に係り、特に、ティシュペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパーに好適な衛生用薄葉紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ティシュペーパー、トイレットペーパー又はキッチンペーパーのなど、主に拭き取り、清拭、体液吸収などを目的とした製品に用いられる衛生用薄葉紙では、柔らかく、表面の滑らかさが要求される。
従来、この要求を満たすべく、この主の衛生用薄葉紙においては、種々の柔軟剤(下記、特許文献1及び2等)が利用されている。
【特許文献1】特表2006−518014
【特許文献2】特開平7−109693
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
他方、この主の衛生用薄葉紙においては、肌に直接触れることから、常に人体への影響が少なく、より安全であることが求められ、さらに、近年では廃棄時やリサイクル時における環境への影響が小さいことも求められる。
そこで、本発明の主たる課題は、より人体への影響が少なく安全で、しかも自然環境への影響が少ない、柔軟性のある衛生用薄葉紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
<請求項1記載の発明>
デキストリンにアルキル鎖を結合させた物質を5〜65質量%含む柔軟剤を薄葉紙に塗布してなることを特徴とする衛生用薄葉紙。
【0005】
<請求項2記載の発明>
前記柔軟剤は、グリセリンを30〜90質量%含む請求項1記載の衛生用薄葉紙。
【発明の効果】
【0006】
以上の本発明によれば、人体への影響が少なく安全で、しかも自然環境への影響が少ない、柔軟性のある衛生用薄葉紙が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
次いで、本発明の実施の形態を以下に詳述する。
本発明の衛生用薄葉紙は、薄葉紙にデキストリンにアルキル鎖を結合させた物質を含む柔軟剤を塗布してなるものである。
柔軟剤塗布前の薄葉紙は、パルプを含む抄紙原料を抄紙して製造される。
抄紙には、抄紙原料を実質的に湿紙に形成するワイヤーパート、湿紙を脱水するプレスパート、脱水された湿紙を乾燥するドライヤーパートの少なくとも3つのパートから成る、公知種々の抄紙機を用いることができる。
【0008】
薄葉紙の坪量や厚さは、薄葉紙の用途、例えば、ティシュペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパー用途に応じて既知の技術に基づき適宜設計する。
ティシュペーパー、トイレットペーパー用途であれば、坪量10〜40g/m2(JIS P 8124)、紙厚50〜800μm、乾燥引張強度を縦方向;150〜800cN/幅15mm×長さ250mm、横方向;50〜400cN/幅15mm×長さ250mm(JIS P 8113)、ソフトネスを0.5〜6.0g(JIS L1096)、MMDを3〜18、伸びを5〜40%の範囲とする。
【0009】
薄葉紙の原料となるパルプとしては、グランドウッドパルプ(GP)、プレッシャーライズドグランドウッドパルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ;セミケミカルパルプ(CP)、針葉樹高歩留り未晒クラフトパルプ(HNKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)等の化学パルプ;デインキングパルプ(DIP)、ウェイストパルプ(WP)等の古紙パルプが挙げられる。
これらパルプは、一種または二種以上を選択して用いることができる。
【0010】
好適には填料や異物を含まない化学パルプが好ましく、特には、NBKP(N材あるいは針葉樹パルプともいわれる。)よりもLBKP(L材あるいは広葉樹パルプともいわれる。)を多く含むものが好ましい。すなわち、NBKPとLBKPとの比率(NBKP/LBKP)が0/100 〜 60/40である填料を含まない化学パルプが特に好適である。LBKPよりもNBKPのほうが、繊維太さが太いため、NBKPが多いほうが嵩高になる。
上記パルプとあわせて、藁パルプ、竹パルプ、ケナフパルプなどの木本類、草本類を配合することもできる。
【0011】
抄紙原料中には、パルプ以外の繊維として化学繊維を配合するができる。化学繊維を配合すると、特に湿潤引張り強度が高まる。
化学繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びこれらのコポリマー等のポリエステル系繊維、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系繊維、ポリアクリロニトリル等のアクリル繊維、モダクリル等のアクリル系繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12等のポリアミド系繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ウレタン繊維等の合成繊維、トリアセテート繊維、ジアセテート繊維等の半合成繊維、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン、ポリノジックレーヨン、リヨセル等の再生セルロース系繊維、コラーゲン、アルギン酸、キチン質などを溶液にしたものを紡糸した再生繊維などが挙げられる。化学繊維を構成するポリマーは、ホモポリマー、変性ポリマー、ブレンド、共重合体などの形であってもよい。
【0012】
薄葉紙に塗布する柔軟剤は、上述のとおりデキストリンにアルキル鎖を結合させた物質(以下、アルキル鎖結合デキストリン化合物ともいう)を含むものである。
アルキル鎖が結合されるデキストリンの種類は特に限定されないが、難消化等の特殊性や形状特性を有さない一般的な通常のデキストリン、シクロデキストリン、難消化デキストリン、マルトデキストリン、クラスターデキストリンが好適である。
柔軟剤中に含有される、アルキル鎖結合デキストリン化合物は一種類である必要はなく、種類の異なるデキストリンから得られたアルキル鎖結合デキストリン化合物が混合されて含まれていてもよい。
アルキル鎖結合デキストリン化合物の代表例としては、アルケニルコハク酸エステル化デキストリンが挙げられる。
ここで、デキストリンは、澱粉の加水分解により得られるグルコースポリマーであり、人体に対して安全性が高いとされている。また、水酸基を有し、水溶性である。
アルケニルコハク酸エステル化デキストリンは、そのデキストリンの人体への安全性を有しつつ、アルケニルコハク酸の導入により、デキストリンにはないアニオン性、気泡性、界面活性、乳化性を有するものである。
【0013】
かかるアルケニルコハク酸エステル化デキストリンは、例えば、馬鈴薯澱粉、トウモロコシ澱粉、モチトウモロコシ澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、米澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等の天然澱粉、アミロースやアミロペクチン分画物等を常法に従い乾式で焙焼デキストリン化するか、あるいは湿式で酸および/または酵素処理によりデキストリン化後、アルカリ触媒の存在下に無水アルケニルコハク酸と反応させて得ることができる。
また、上記澱粉に無水アルケニルコハク酸を反応させた後、デキストリン化して得ることもできる。
上記澱粉と反応させる無水アルケニルコハク酸は、炭素数6〜22のもの、例えば、オクテニル無水コハク酸、ドデセニル無水コハク酸、オクタデシル無水コハク酸等が適する。
アルケニルコハク酸エステルの置換度(無水グルコース残基1モル当りの置換基D.S.モル)は0.002〜0.3好ましくは0.005〜0.2のものが好適に用いられる。置換度の測定は中和滴定により求められる。
【0014】
柔軟剤中の当該物質の配合割合は5〜65質量%であるのが望ましい。好適には、10〜30質量%である。5質量%未満であると紙表面の滑らかさが十分に得られずにかさつき感が感じられる。また、65質量%より多いと紙表面のべとつき感が感じられ所望の滑らかさが発現し難くなる。
他方、前記柔軟剤は、さらにグリセリンが含まれているのがよい。
グリセリンの配合割合は、30〜90質量%、好適には65〜80質量%である。グリセリンが配合されていると、柔らかさ及び滑らかさがより向上する。
例えば、米坪16.5g/m2の薄葉紙に対する前記柔軟剤の塗布量は、1.65〜21.5g/m2、好適には3.3〜9.9g/m2である。1.65g/m2未満であると、柔軟剤の効果が発現し難く、21.5g/m2を超えても効果の向上が殆どなく、また、コシがなくなり使用しにくいものとなる。
柔軟剤を塗布する方法は、限定されない。薄葉紙に対して薬液を塗布する既知の方法を用い得る。例えば、塗工機による塗布やスプレー塗布により行うことができる。
【実施例】
【0015】
次いで、本発明に係る衛生用薄葉紙とその他の衛生用薄葉紙について行った評価試験について下記に詳述する。
<評価試験1>
アルキル鎖結合デキストリン化合物の有効性について試験した。
試験は、柔軟剤中に各種デキストリンにアルキル鎖を結合した物質を含む柔軟剤を塗布したティシュペーパー(実施例1〜4)と、分解していない澱粉を含む柔軟剤を塗布したティシュペーパー(比較例1)と、分解していない澱粉にアルキル鎖を結合した物質を含む柔軟剤を塗布したティシュペーパー(比較例2)と、アルキル鎖結合デキストリン化合物を含まない澱粉分解物を含む柔軟剤を塗布したティシュペーパー(比較例3)と、アルキル鎖結合デキストリン化合物を含まない澱粉分解物であってアルキル鎖を結合した物質を含む柔軟剤を塗布したティシュペーパー(比較例4)、アルキル鎖を結合していない各種デキストリンを含む柔軟剤を塗布したティシュペーパー(比較例5〜8)の「しっとり感」、「柔らかさ」、「滑らかさ」を官能評価することとした。
なお、各例の柔軟剤中の有効成分の割合は20質量%とし、柔軟剤の塗布量は20質量%とした。また、塗布する薄葉紙は、すべて米坪、20.0g/m2とした。
結果は表1に示す。表中、◎は非常に感じる、○は感じる、×は感じない、を示している。
【0016】
【表1】

【0017】
<試験結果・考察>
表1にも示されるとおり、アルキル鎖結合デキストリン化合物を含む柔軟剤を塗布した本発明の実施例は、「しっとり感」、「柔らかさ」、「滑らかさ」に優れるのに対して、比較例については劣るという結果となった。本発明の効果が、アルキル鎖結合デキストリン化合物によるものであるといえる。
【0018】
<評価試験2>
本発明に係る衛生用薄葉紙(実施例1〜2)とその他の衛生用薄葉紙(比較例1〜3)の「しっとり感」、「柔らかさ」、「滑らかさ」を評価した。
(実施例1)
米坪20.0g/m2の薄葉紙に対して、デキストリンとオクテニル無水コハク酸とを原料とするアルケニルコハク酸エステル化デキストリンを20質量%、グリセリンを80質量%含む柔軟剤を8.4g/m2塗布したものを実施例1とした。
(実施例2)
実施例1と同様の薄葉紙に対して、デキストリンとオクテニル無水コハク酸とを原料とするアルケニルコハク酸エステル化デキストリンを50質量%、グリセリンを50質量%含む柔軟剤を4.6g/m2塗布したものを実施例2とした。
(比較例1)
実施例1と同様の薄葉紙に対して、デキストリンとオクテニル無水コハク酸とを原料とするアルケニルコハク酸エステル化デキストリンを80質量%、グリセリンを20質量%含む柔軟剤を2.7g/m2塗布したものを比較例1とした。
(比較例2)
薄葉紙に対してグリセリンのみを9.2g/m2塗布したものを比較例2とした。
(比較例3)
薄葉紙に対して、グリセリンも塗布していないものを比較例3とした。
[評価方法等]
評価方法は、各例にかかる試料を手触りにより評価する官能評価とした。評価は、比較例2を基準値3点とし、それに対して他の例を「劣る:1点、若干劣る:2点、同様:3点、若干優れる:4点、優れる:5点」と相対評価することとした。10名の平均値を結果値とすることとした。
【0019】
<試験結果・考察>
評価試験2の結果を図1に示す。図示のとおり、実施例1〜2及び比較例1〜2における「しっとり感」について点差は小さい。
「柔らかさ」については、実施例1が高い点で最も優れ、次いで、実施例2、比較例2、比較例1の順となった。実施例1及び2との点差は小さく、それに対して実施例2と比較例2との点差は大きい。比較例2と比較例1との点差は小さい。
「滑らかさ」については、実施例1が高い点で最も優れ、点差をあけて実施例2と比較例2とが続き、さらに点差をあけて比較例1という順となった。
これらの結果より、柔軟剤にデキストリンにアルキル鎖を結合させた物質を配合させることで、「しっとり感」、「柔らかさ」、「滑らかさ」が向上する。
また、柔軟剤中のデキストリンにアルキル鎖を結合させた物質の配合量が増加するにつれて「滑らかさ」、「柔らかさ」の効果が減少していく傾向がある。
柔軟剤中のデキストリンにアルキル鎖を結合させた物質の配合率の範囲は5〜65質量%程度、特に10〜30質量%程度が効果的であるといえる。
【0020】
<評価試験3>
本発明に係る衛生用薄葉紙(実施例)とその他の衛生用薄葉紙(比較例、参考例)の「乾燥紙力」、「MMD」、「ソフトネス」、「伸率」を測定するとともに、「しっとり感」、「柔らかさ」、「滑らかさ」を官能評価した。
結果は、実施例、比較例の組成とともに表1に示す。なお、柔軟剤の塗布量は、20質量%である。基紙としては、すべて米坪20.0g/m2の薄葉紙とした。
[評価方法等]
乾燥紙力:JIS P 8113に準じた乾燥引張強度を、紙の縦横方向について測定した。表中の数値の単位はcNであり、試験片は幅15mm×長さ250mmである。
MMD:粗さ付摩擦感テスター(カトーテック株式会社製)を用い、物と物の触れ合う感触、感覚を平均摩擦係数の変動を示すMMDを測定した。
ソフトネス:JIS L1096 E法に準じたハンドルオメータ法に基づいて測定した。
伸率:引張り試験機(ミネベア株式会社製)を用い、縦方向の引張り始めから切れるまでの長さを計測し、伸率を算出。
次いで、評価試験3の結果を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
<試験結果・考察>
表2に示される評価試験3の結果より、ソフトネス、MMD、伸率については実施例は全ての項目で良好な結果となっているのに対して、比較例は一部の試験項目で劣る数値のものがある。乾燥紙力については、比較例よりも実施例のほうが高い結果となった。実施例は、柔軟剤を塗布していない参考例と比較して、柔軟剤塗布による紙力低下が10〜20%程度に抑制されている。
デキストリンにアルキル鎖を結合させた物質は、グリセリンより吸湿機能が低いことから、紙力低下が抑制されたと考えられる。
以上の試験の結果より、本発明にかかる実施例は、その他の例と比較して「しっとり感」、「柔らかさ」、「滑らかさ」に優れ、衛生用薄葉紙に必要な乾燥紙力やソフトネス、MMD、伸率も十分である。そのうえ、乾燥紙力も高いことが知見された。
【0023】
以上の各評価試験より、本発明の衛生薄葉紙は、清拭に耐えうる十分な強度を有し、「柔らかさ」、「滑らかさ」、「しっとり感」に優れ、しかも、人体・環境への影響が少ない衛生用薄葉紙である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、ティシュペーパー、トイレットペーパー、キッチンペーパーのほか肌に触れる用途に用いられる衛生用薄葉紙に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】官能評価の結果を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デキストリンにアルキル鎖を結合させた物質を5〜65質量%含む柔軟剤を薄葉紙に塗布してなることを特徴とする衛生用薄葉紙。
【請求項2】
前記柔軟剤は、グリセリンを30〜90質量%含む請求項1記載の衛生用薄葉紙。

【図1】
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【公開番号】特開2008−206918(P2008−206918A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48912(P2007−48912)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】