説明

衝撃吸収部材

【課題】自動車の乗員座席の足元周りに敷設される衝撃吸収部材であって、乗員の足裏位置において、衝撃荷重が作用したときの圧縮応力が予め定められた値以下で、予め定められた動的圧縮ひずみの間を推移することにより、高い衝撃吸収エネルギを確保する。
【解決手段】自動車の乗員座席の足元を形成する床面又は床面と足元前方傾斜面に敷設される硬質発泡プラスチック製の衝撃吸収部材であって、平板状の基部と、基部の一方の面に形成される複数列の主リブ12と、主リブ12と交わって、基部の一方の面に形成される複数列の副リブとを備え、副リブが、少なくとも乗員の足裏部分における、つま先141、土踏まず142及び/又はかかと143の各部位に対応して配置され、さらに、副リブの高さにより圧縮応力が調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃荷重が作用したときに、そのエネルギの一部を吸収して、衝撃を緩和する衝撃吸収部材に関し、特に、自動車の乗員座席の足元周りに敷設される衝撃吸収部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車においては、万一の衝突時に乗員を保護するために、客室へのダメージを最小限に抑えることを目的として、ボディーを構造的に変形しやすくしたり、バンパ、天井、床、ドア等の内部に衝撃吸収部材を設けて、衝突時の衝撃をできるだけ吸収することが一般に行われている。
【0003】
従来、衝撃吸収部材としては、熱硬化性の発泡ウレタンが多く用いられていた。
しかしながら、このような熱硬化性の発泡ウレタンは、リサイクルが困難である上、コスト的にも割高であるばかりでなく、耐水性、耐熱性の経時安定性に課題があり、初期衝撃吸収性能の維持が困難であった。
【0004】
そこで、近年、リサイクルが容易で、包装用の緩衝材として広く用いられている発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレンなどの発泡熱可塑性樹脂が、衝撃吸収部材として多く使用されるようになってきた。
【0005】
しかしながら、このような発泡熱可塑性樹脂も、衝撃吸収性能面で、次のような問題がある。
すなわち、発泡ポリスチレンや発泡ポリプロピレン等の発泡熱可塑性樹脂で形成された衝撃吸収部材においては、一度受けた衝撃荷重によって、圧縮ひずみが50%を超えると、内部に発生する圧縮応力が急激に上昇し、以後、衝撃吸収部材としての性能が著しく低下する。
なお、ここで、圧縮ひずみとは、衝撃吸収部材の元の厚みに対する圧縮変形の割合を意味し、以下の説明ではひずみ量(%)で表す。
【0006】
したがって、発泡熱可塑性樹脂の衝撃吸収部材を自動車などの用途に用いる場合は、圧縮ひずみ(ひずみ量)が許容される圧縮応力の範囲内で設計されなければならないため、最大許容圧縮応力に至るエネルギ量が十分でなくなるという問題がある。
【0007】
また、多様な衝撃荷重に対応し、要求される圧縮応力の範囲内で要求される衝撃吸収性能を発現するためには、衝撃吸収部材の肉厚を大きくする必要があり、バンパ、天井、床、ドアなどの各部の寸法を大きくせざるを得ないといった問題がある。
【0008】
一般に、自動車に用いられる衝撃吸収部材は設置スペースの関係から、衝撃吸収部材の潰れ代は限られており、およそ30〜100mm程度である。
他方、衝撃吸収部材は衝突時の乗員保護を目的とすることから、人に加わる圧縮応力を、数10N/cm以内に抑えなければならない。
【0009】
また、衝撃吸収部材の性能(すなわち、衝撃吸収エネルギ)は、衝突による衝撃吸収部材の潰れ代と、そのときの応力値の積分値で表されることから、許容できる圧縮応力値の範囲内で、より大きい潰れ代を確保することが必要とされる。
【0010】
本発明者らは、先に、発泡樹脂からなり、特定のリブ構造を有する発泡成形品が高い衝撃吸収性能を示すこと見出した(特許文献1参照)。
この発泡成形品は、比較的薄い潰れ代で設計される衝撃吸収部材としては有効であるが、大きい吸収エネルギを吸収するために大きな潰れ代を確保しなければならない衝撃吸収部材として用いるには、改善の余地があった。
【0011】
さらに、本発明者らは、発泡樹脂からなり、基部の一方面上に形成される主リブと、この主リブと交差して基部の同一面上に形成され、主リブと高さの異なる副リブとを組み合わせた構造の発泡成形品が、衝撃吸収性能に優れていることを見出した(特許文献2参照)。
しかしながら、この発泡成形品は、自動車の乗員座席の足元周りに敷設される衝撃吸収部材として使用する場合には、衝撃吸収性能の点で改良の余地があった。
【0012】
すなわち、自動車の乗員座席の足元周りに敷設される衝撃吸収部材では、乗員の足裏位置において衝撃荷重が作用したとき衝撃加重による圧縮応力が予め定められた値以下で、予め定められた動的圧縮ひずみの間を推移することにより、高い衝撃吸収エネルギを確保することが求められている。しかし、特許文献2に示される衝撃吸収部材では、乗員の足裏とリブの位置関係が特定されないため、乗員の足裏位置において、必要な衝撃吸収性能を得られない可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−341449号公報
【特許文献2】特開2004−98774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、乗員の足裏位置において、衝撃荷重が作用したときの圧縮応力が予め定められた値以下で、予め定められた動的圧縮ひずみの間を推移することにより、高い衝撃吸収エネルギが確保でき、その結果、自動車の乗員座席の足元周りに敷設される衝撃吸収部材として優れた衝撃吸収性能を発揮することができる衝撃吸収部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の衝撃吸収部材は、自動車の乗員座席の足元を形成する足元前方傾斜面、又は床面と足元前方傾斜面に敷設される硬質発泡プラスチック製の衝撃吸収部材であって、平板状の基部と、前記基部の一方の面に形成される複数列の主リブと、前記主リブと交差して前記基部の一方の面に形成され、前記主リブの高さの25〜100%の高さの副リブとを備え、前記主リブを乗員の足裏のつま先からかかとの方向に配置し、前記副リブを、少なくとも、前記足裏における、土踏まず及び/又はかかとの各部と対応する部分に配置し、さらに、前記各部位と対応する部分に配置した前記副リブの高さを異ならせて、圧縮応力を前記各部位と対応する部分ごとに調整した構成としてある。
【0016】
このようにすると、乗員の足裏位置において、衝撃荷重が作用したときの圧縮応力が予め定められた値以下で、予め定められた動的圧縮ひずみの間を推移することにより、高い衝撃吸収エネルギが確保できるので、自動車の乗員座席の足元周りに敷設される衝撃吸収部材として優れた衝撃吸収性能を発揮することができる。
【0017】
また、前記副リブの高さを、前記主リブの高さの100%未満としてあるので、乗員の足裏位置で衝撃荷重が作用したとき、初期における動的及び静的な圧縮応力の強さを主リブで決定しつつ、衝撃による主リブの倒れを副リブで抑制すると共に、ひずみ後半における圧縮応力を副リブの高さなどに応じて調整することができる。
【0018】
ここで、本発明の衝撃吸収部材は、副リブの高さ関係を、つま先と対応する部分<かかとと対応する部分<土踏まずと対応する部分とすることが好ましい。
このようにすると、足裏からの圧縮応力の強さを調節しやすいからである。
【0019】
また、本発明の衝撃吸収部材は、前記主リブの平均幅が、前記衝撃吸収部材の全厚の0.05倍〜0.3倍としてある。
このようにすると、衝撃吸収部材の発泡成形を困難にすることなく、衝撃吸収部材の内部に適度な圧縮応力を発生させることができる。
【0020】
また、本発明の衝撃吸収部材は、前記硬質発泡プラスチックの密度が、0.02g/ml〜0.2g/mlとしてある。
このようにすると、衝撃吸収部材の重量の低減を困難にすることなく、衝撃吸収部材の内部に適度な圧縮応力を発生させることができる。
【0021】
さらに、本発明の衝撃吸収部材は、前記硬質発泡プラスチックが、スチレン系共重合体としてある。
このようにすると、衝撃吸収部材の発泡成形を容易にして製造コストが削減できるだけでなく、衝撃吸収部材のリサイクル性を高めることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、乗員の足裏位置において、衝撃荷重が作用したときの圧縮応力が予め定められた値以下で、予め定められた動的圧縮ひずみの間を推移することにより、高い衝撃吸収エネルギが確保できるので、自動車の乗員座席の足元周りに敷設される衝撃吸収部材として優れた衝撃吸収性能を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の底面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の側面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材のA−A断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材のA−A部分拡大断面図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係る衝撃吸収部材の側面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の副リブの配置例を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の副リブの配置例を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の副リブの配置例を示す斜視図である。
【図9】本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の副リブの配置例を示す斜視図である。
【図10】実施例1〜3で製造した衝撃吸収部材における、動的圧縮応力に対する圧縮ひずみ量の関係を示すグラフである。
【図11】実施例2、実施例4及び実施例5で製造した衝撃吸収部材における、動的圧縮応力に対する圧縮ひずみ量の関係を示すグラフである。
【図12】実施例2及び実施例6で製造した衝撃吸収部材における、動的圧縮応力に対する圧縮ひずみ量の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の衝撃吸収部材について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の一部を示す底面図、図2は、本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の一部を示す側面図である。図2では、衝撃吸収部材を足元前方傾斜面に敷設した例を示している。
これらの図に示すように、本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材1は、自動車の乗員座席の足元周りを形成する足元前方傾斜面、又は足元前方傾斜面と床面に敷設される硬質発泡体からなる衝撃緩衝部材であって、基部11、主リブ12及び副リブ13を備えて構成されている。
ここで、硬質発砲体としては、スチレン系共重合体などを用いることが好ましい。
なお、図1及び図2に示される靴型形状負荷子14は、乗員の足裏を想定した実験用治具であり、つま先141、土踏まず142及びかかと143を備えている。
【0025】
基部11は、平板状であり、その一方の面(足元前方傾斜面及び床面とする対向面)に複数列の主リブ12及び副リブ13が交差した状態で形成されている。すなわち、主リブ12は、図1において縦方向へ平行に均等間隔で形成され、副リブ13は、主リブ12と直角に交差するように、横方向を向いて平行に形成されている。
乗員座席の足元周りに敷設される衝撃吸収部材1では、乗員の足裏位置において、衝撃荷重を効率良く吸収する必要があり、具体的には、衝撃荷重が作用したときの圧縮応力が予め定められた値以下で、予め定められた動的圧縮ひずみの間を推移することにより、高い衝撃吸収エネルギを確保することが求められる。
【0026】
本実施形態の衝撃吸収部材1では、このような要求を満たすために、副リブ13が、少なくとも乗員の足裏部分における、つま先、土踏まず及び/又はかかとの各部位に対応した部分に配置され、さらに、各部分に配置された副リブ13の高さを異ならせて形成することによって圧縮応力が異なるように調整されている。
これにより、乗員の足裏位置において衝撃荷重を効率良く吸収でき、その結果、自動車の乗員座席の足元周りに敷設される衝撃吸収部材として優れた衝撃吸収性能を発揮することができる。
【0027】
副リブ13の形成間隔は、一般的な乗員の足裏寸法を考慮して決定される。例えば、本実施形態のように、乗員の足裏における、つま先、土踏まず及びかかとの各部位に対応した部分に、それぞれ一本ずつの副リブ131,132,133を形成する場合、副リブ13の形成間隔は、5〜13cm程度とすることが好ましい。
また、衝撃吸収部材1に対する乗員の足裏位置が予め特定されていない場合は、副リブ13の形成間隔を上記の場合よりも小さくすることが好ましい。例えば、3〜5cm程度の間隔で副リブ13を形成する。このようにすると、乗員が衝撃吸収部材1上に適当に足を載せたときでも、乗員の足裏における、つま先、土踏まず及びかかとの各部位に対応し、副リブ13を配置させることができる。
【0028】
衝撃吸収部材1を足元前方傾斜面に敷設するときは、図2に示すように、かかとが床面に当接した状態で衝撃吸収部材1と当接することになるので、かかとに対応する部分の副リブ133の位置が特定しやすくなる。また、かかとに対応する部分の副リブ133の位置を基準にして土踏まずに対応する部分の副リブ132及びつま先に対応する部分の副リブ131の位置も特定しやすくなる。
具体的には、床面からかかとに対応する部分の副リブ133までの間隔(s1)を3〜8cmとし、かかとに対応する部分の副リブ133から土踏まずに対応する部分の副リブ132までの間隔(s2)を5〜13cmとし、土踏まずに対応する部分の副リブ132からつま先に対応する部分の副リブ131までの間隔(s3)を5〜13cmとする。
【0029】
副リブ13の高さは、主リブ12の高さより低くすることが好ましい。このようにすると、乗員の足裏位置で衝撃荷重が作用したとき、初期における動的及び静的な圧縮応力の強さを主リブ12で決定しつつ、衝撃による主リブ12の倒れを副リブ13で抑制すると共に、ひずみ後半における圧縮応力を副リブ13の高さなどに応じて調整することができる。
【0030】
また、副リブ131,132,133間の高低差については、つま先と対応する部分の副リブ131<かかとと対応する部分の副リブ132<土踏まずと対応する部分の副リブ133の関係とすることが好ましい。
このようにすると、足裏からの圧縮応力の強さを調節しやすいからである。
具体的には、つま先と対応する部分の副リブ131の高さを、主リブ12の高さの0〜50%の高さとし、かかとと対応する部分の副リブ133の高さを、主リブ12の高さの25〜100%の高さとし、土踏まずと対応する部分の副リブ132の高さを、主リブ12の高さの25〜100%の高さとすることが好ましい。
つま先と対応する部分の副リブ131の高さが主リブ12の高さの0〜50%の高さであると、足裏からの圧力応力の強さを調整しやすくなり好ましい。また、かかとと対応する部分の副リブ133の高さが主リブ12の高さの25〜100%の高さであると、圧縮応力が予め定められた値以下で、予め定められた動的圧縮ひずみの間を推移しやすくなり好ましい。さらに、土踏まずと対応する部分の副リブ132の高さが主リブ12の高さの25〜100%の高さであると、部材の剛性が向上し好ましい。
なお、つま先と対応する部分の副リブ131を省略すると多少剛性不足となり、かかとと対応する部分の副リブ133を省略すると多少圧縮応力が低下し、土踏まずと対応する部分の副リブ132を省略すると多少剛性不足となるが、実用上は問題ない。
【0031】
図3は、本発明の実施形態に係る衝撃吸収部材の図1におけるA−A断面図、図4は、同じくA−A部分拡大断面図である。
これらの図に示すように、主リブ12の断面形状は、台形であり、主リブ下底部122の幅w2が主リブ上底部(基材11との接続部)121の幅w1よりも小さくなっている。さらに、主リブ12の平均幅wa=(w1+w2)/2と衝撃吸収部材1の全厚t3との関係が0.05×t3≦wa≦0.3×t3となるように幅w1、w2及び全厚t3を選択することが好ましい。0.05倍未満では主リブ12の幅が小さくなり過ぎ、衝撃吸収部材1の発泡成形が困難になるだけでなく、衝撃荷重を加えたときに、衝撃吸収部材1の内部に十分な圧縮応力が発生しないおそれがあり、また、0.3倍を超えると、衝撃吸収部材1の内部に発生する圧縮衝撃荷重が大きくなり過ぎ、必要とする衝撃吸収性能が十分に得られないおそれがある。
【0032】
主リブ12の高さt2は、衝撃吸収部材の全厚t3に対し、0.5×t3≦t2≦1.0×t3に設定することが好ましい。0.5倍未満では、衝撃吸収域が狭く経済的ではない。上限は、一般には0.9倍を越えると発泡成形の作業上支障をきたし、生産性を阻害するため好ましくない。しかし、後加工等により基部11を除いてもよいし、基部11は部分的に欠けていてもよい。衝撃吸収性能と経済上の理由により、特に0.7×t3≦t2≦0.9×t3が好ましい。
【0033】
また、副リブ13の幅w3(図1)は、圧縮途中での主リブ12の倒れる位置を規定できる幅なら、特に制限はないが、通常、主リブ12の幅waの50〜100%程度に設定する。
また、主リブ12は基部11の垂線に対し、傾斜角度αで傾斜している。傾斜角度αが、0°〜7°の範囲となるようテーパ状の形態が好ましい。より好ましくは、3°〜5°の範囲である。傾斜角αが0°より小さいときは、発泡樹脂の成型工程において、離型が容易ではなく、7°より大きいと、圧縮ひずみに対する応力上昇が漸増するため好ましくない。
【0034】
本実施形態における衝撃吸収部材1は、足元前方傾斜面に敷設する形態について説明したが、足元前方傾斜面と床面に敷設することもできる。この場合、図5に示すように、足元前方傾斜面と床面に敷設される部分を一体成形してもよく、また、別個に成形して公知の接合手段で接合してもよい。
【0035】
次に、衝撃吸収部材1の作用について説明する。
衝撃吸収部材1は、図2の矢印に示されるように、乗員の足裏から主リブ12及び副リブ13に対して垂直の衝撃荷重が加わると、まず、主リブ12が圧縮される。ここで、主リブ12は、単に圧縮されるだけでなく、屈曲により倒れる可能性があるが、屈曲位置が副リブ13の高さt1よりも高い位置に制限されるので、圧縮初期における動的及び静的な圧縮応力の強さを主リブ12で決定しつつ、衝撃による主リブ12の倒れを副リブ13で抑制し、安定した圧縮応力を生じることができる。したがって、副リブ13を有しないもののように、主リブ12が不特定箇所で屈曲することにより生じる、ひずみ途中での急激な圧縮応力の低下を回避することができる。
【0036】
また、ひずみ後半においては、主リブ12及び副リブ13が圧縮される。この起点は、副リブ13の高さに応じて変わるので、副リブ13の高さを調整しておくことによって、圧縮応力を調整することができる。例えば、高さの一定な格子リブ構造の場合、圧縮ひずみが大きくなったとき圧縮応力が急激に上昇する可能性があるが、副リブ13の高さにより圧縮応力を調整することにより、急激な圧縮応力の上昇を回避できる。
その結果、乗員の足裏位置において、衝撃荷重が作用したときの圧縮応力が予め定められた値以下で、予め定められた動的圧縮ひずみの間を推移することにより、高い衝撃吸収エネルギを確保することができる。
【0037】
なお、本発明の実施形態を示す図は、衝撃吸収部材1の一部を示したものであり、主リブ12と副リブ13の数及び高さは、使用分野により要求される最大圧縮応力に応じて、適宜決定することができる。
また、衝撃吸収部材1の全体の形も用途に合わせて各形状に成形することができる。
【0038】
例えば、本実施形態の衝撃吸収部材1では、図6に示すように、すべての副リブ13の高さを同じにしているが、図7に示すように、高さが異なる二種類の副リブ13を交互に配置したり、図8に示すように、副リブ13を部分的に省いて歯抜け状に構成することもできる。また、図9に示すように、副リブ13の先端面を長さ方向に傾斜する傾斜面とし、複数の副リブ13に亘って連続的に高さを変化させるようにしてもよい。また、複数の副リブ13に亘って段階的に高さを変化させることもできる。
また、本実施形態の衝撃吸収部材1では、図6に示すように、副リブ13の向きが主リブ12に対して直交しているが、図9に示すように、副リブ13の向きを主リブ12に対して傾斜させてもよい。
【0039】
主リブ12及び副リブ13で形成される格子状の形状については、図1に示すように、主リブ12と副リブ13が直角に交差する四角形だけでなく、三角形、六角形等の多角形でもよい。これらは、主リブ12と副リブ13を明確に分けることで同様な効果を発揮することができる。但し、金型製作や最大圧縮応力値の設計等が煩雑になるため、四角形状が好ましい。
また、主リブ12と副リブ13の一部が欠けていてもよい。
【0040】
主リブ12の断面形状は、台形に限らず長方形、三角形や半円形状等であってもよい。
また、主リブ12は、幅が連続的に変化するものに限らず、衝撃荷重の作用方向に沿って段階的に幅が変化するものであってもよい。このようにすると、衝撃に対してリブ折れによる圧縮応力の低下を制御でき、圧縮ひずみが大きくなっても急激な圧縮応力の上昇を抑制することができるという利点がある。
【0041】
衝撃吸収部材1の基部11、主リブ12及び副リブ13を構成する材料としては、使用される用途により様々な材料を用いることができる。好ましくは、発泡熱可塑性樹脂から構成される。
【0042】
衝撃吸収部材1に使用される熱可塑性樹脂の材料としては、種々のものが使用可能である。例えば、ポリスチレンや、スチレンと、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−メチルスチレン、無水マレイン酸、フェニルマレイミドシクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体、アクリル酸、アクリル酸エステル等のアクリル酸系単量体、メタクリル酸、メタクリル酸エステル等のメタクリル酸系単量体を共重合させたスチレン系共重合体、又はメタクリル酸系単量体の単独重合体、メタクリル酸系単量体及びアクリル酸系単量体の2種類以上の組合せによる共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0043】
上記の中でも、製造コスト、リサイクル性、発泡成形性等の点から、スチレン系共重合体が好ましく、耐熱性、耐油性に優れるアクリロニトリル・スチレン共重合体が製造コストや性能の点から好適である。なお、発泡性アクリロニトリル・スチレン共重体の樹脂としては、例えば、日立化成工業(株)製の(商品名:HIBEADSGR)を用いることができる。もちろん、上記した本発明の要件を備えるものであって、自動車用の衝撃吸収部材として用いることができるのであれば、他の樹脂を用いてもよい。
【0044】
本発明の衝撃吸収部材に使用される熱可塑性樹脂の発泡剤としては、発泡性スチレン系樹脂等の製造に一般的に用いられている発泡剤を用いることができる。この発泡剤は、常温常圧下で気体又は液体であり、かつ上記熱可塑性樹脂を溶解しないような易揮発性有機化合物であるのが好ましい。例えば、ブタン、プロパン、ペンタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、シクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素などが挙げられる。
【0045】
本発明の衝撃吸収部材は、上記の熱可塑性樹脂及び発泡剤を含む発泡性熱可塑性樹脂粒子を一次発泡させて、所定の密度の発泡熱可塑性樹脂粒子を得た後、所定の形状を有する金型に充填、加熱して形成される。
【0046】
本発明の衝撃吸収部材を構成する発泡熱可塑性樹脂の密度は、0.02g/ml〜0.2g/mlであることが好ましい。密度が、0.02g/ml未満では、要求される圧縮応力を達成する物性を得ることが難しい場合があり、0.2g/mlより大きいと、圧縮応力値が高くなるばかりでなく、衝撃吸収部材の重量の低減が困難になるおそれがある。より好ましくは、0.04g/ml〜0.1g/mlである。
【0047】
本発明の衝撃吸収部材は、発泡樹脂がもつ衝撃吸収性能と特定のリブ構造が相乗的に働き、高い衝撃吸収性能を発現できる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらにより制限されるものではない。
【0049】
実施例1
(1)発泡性熱可塑性樹脂粒子の一次発泡
発泡性アクリロニトリル・スチレン共重合樹脂粒子(日立化成工業(株)製、商品名HIBEADS GR)を発泡スチロール用のバッチ発泡機(日立化成テクノプラント(株)製、商品名HBP−500LW)を用い、嵩密度0.056g/ml(発泡倍率:18倍)に一次発泡した後、成形までの18時間、通気性の良いサイロに保管した。
【0050】
(2)衝撃吸収部材の製造
発泡スチロール用成形機(日立化成工業(株)製、商品名モルデックス10VS)に、下記表1及び表2に示すスリット状リブ構造となる形状を有する金型をセットし、型締めした。
次に、上記(1)で一次発泡した樹脂粒子を金型に充填し、0.08MPaのゲージ圧の水蒸気で25秒間加熱し、金型ごと水冷し、真空冷却した後、成形品を金型から取り出した。このとき、成形品を構成する発泡熱可塑性樹脂の密度は0.056g/mlであった。
【0051】
(3)衝撃吸収部材の衝撃吸収性能の評価
上記(2)で得られた発泡樹脂成形品の衝撃荷重試験を行った。衝撃荷重試験は、試験体より広い平面を有する試験台に試験体を設置し、靴型形状負荷子を取り付けた質量可変のおもりを、試験体の基部側の表面に面直に規定速度で落下させ、おもりに生じた加速度(G値)と試験体の厚さ変化量(圧縮ひずみ量)とを測定し、衝撃吸収部材の衝撃吸収性能を評価した。なお、おもりは9kg、落下高さは1.1mとした。
【0052】
実施例2〜6
金型を交換した他は、実施例1と同様にして、下記の表1及び表2に示す形状を有する衝撃吸収部材を作製し、実施例1と同様にして衝撃吸収性能を評価した。
【0053】
実施例1〜6で製造した衝撃吸収部材の衝撃吸収性能を、動的圧縮応力に対する圧縮ひずみを示すグラフを図10〜図12に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
図10〜図12のグラフから、乗員の足裏部分における、つま先、土踏まず、かかとの各部位に配置された副リブの高さにより、圧縮ひずみ量に対する動的圧縮応力の変化が小さい衝撃吸収部材に調整できることがわかる。
【符号の説明】
【0057】
1 衝撃吸収部材
11 基部
12 主リブ
121 主リブ上底部
122 主リブ下底部
13 副リブ
14 靴型形状負荷子
141 つま先
142 土踏まず
143 かかと

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の乗員座席の足元を形成する足元前方傾斜面、又は足元前方傾斜面と床面に敷設される硬質発泡体からなる衝撃吸収部材であって、
平板状の基部と、
前記基部の一方の面に形成される複数列の主リブと、
前記主リブと交差して前記基部の一方の面に形成され、前記主リブの高さの25〜100%の高さの副リブとを備え、
前記主リブを乗員の足裏のつま先からかかとの方向に配置し、
前記副リブを、少なくとも、前記足裏における土踏まず及び/又はかかとの各部位と対応する部分に配置し、
さらに、前記各部位と対応する部分に配置した前記副リブの高さを異ならせて、圧縮応力を前記各部位と対応する部分ごとに調整したことを特徴とする衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記副リブの高さが、前記主リブの高さの100%以内である請求項1記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記主リブの平均幅が、前記衝撃吸収部材の全厚の0.05倍〜0.3倍である請求項1又は2に記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記硬質発泡プラスチックの密度が、0.02g/ml〜0.2g/mlである請求項1〜3のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記硬質発泡プラスチックが、スチレン系共重合体である請求項1〜4のいずれかに記載の衝撃吸収部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−197078(P2012−197078A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−126619(P2012−126619)
【出願日】平成24年6月1日(2012.6.1)
【分割の表示】特願2006−225810(P2006−225810)の分割
【原出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)