説明

衝撃波誘起蛍光体とそれを用いた衝撃波センサー並びに衝撃波測定装置。

【課題】
本発明は、衝撃波によって発光する新たな物質を提供するとともに、それを用いた衝撃波センサー並びに衝撃波測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の衝撃波誘起蛍光体は、含有される発光中心元素の電子準位が衝撃波により励起される無機化合物であることを特徴し、本発明の衝撃波センサーは、前記の衝撃波誘起蛍光体からなり、その蛍光体からの光により衝撃波を感知することを特徴とする。
本発明は、前記の衝撃波センサーにおいて、衝撃波誘起蛍光体からなる板状体の表裏面の片面を衝撃波受け面とし、その反対側の面に光透過性の基板が一体化されてなることを特徴とし、本発明の衝撃波測定装置は、衝撃波を感知してそれを計測する衝撃波測定装置であって、前記の衝撃波センサーと、当該センサーから発した光の強度を検出する光学測定器とからなることを特徴とする。
本発明は、前記の衝撃波測定装置において、前記光学測定器は、衝撃波センサーからの光の周波数と強度を計測するものであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝撃波誘起蛍光体とそれを用いた衝撃波センサー並びに衝撃波測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、圧力センサー(圧電素子)により、圧力の変化を電気的に感知するものが示され、特許文献2には、衝撃波を一旦音に変換して感知するセンサーが示されている。
前記圧電素子系のセンサーでは、素子自体が変形する衝撃波でなければならず、また音響を利用したものでは、衝撃波は音または空気の振動を伴う必要があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、衝撃波によって発光する新たな物質を提供するとともに、それを用いた衝撃波センサー並びに衝撃波測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明1の衝撃波誘起蛍光体は、含有される発光中心元素の電子準位が衝撃波により励起される無機化合物であることを特徴とする。
発明2の衝撃波センサーは、発明1の衝撃波誘起蛍光体からなり、その蛍光体からの光により衝撃波を感知することを特徴とする。
発明3は、発明2の衝撃波センサーにおいて、衝撃波誘起蛍光体からなる板状体の表裏面の片面を衝撃波受け面とし、その反対側の面に光透過性の基板が一体化されてなることを特徴とする。
発明4の衝撃波測定装置は、衝撃波を感知してそれを計測する衝撃波測定装置であって、発明2又は3の衝撃波センサーと、当該センサーから発した光の強度を検出する光学測定器とからなることを特徴とする。
発明5は、発明4の衝撃波測定装置において、前記光学測定器は、衝撃波センサーからの光の周波数と強度を計測するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
強い衝撃波が物質中を伝搬すると物質は瞬間的に高温高圧状態になり様々な現象が生じる。発光現象もその一つであり、例えば、高温の物質から強く発せられる熱的な発光(熱放射)、あるいは、衝撃波で固体物質が破壊される時に発せられる応力発光などが知られている。これらの発光のメカニズムは、いわゆる蛍光のメカニズムとは異なり、その物質固有の電子状態の間の光学遷移ではない。ユウロピウム(二価)等のいわゆる発光中心元素を含む無機化合物の粉末試料に衝撃波を伝搬させたところ、発光中心元素の蛍光が観測された。これは衝撃波の伝搬により、単に物質が高温高圧状態になっただけでなく、衝撃エネルギーが発光中心元素の電子準位を励起した結果、蛍光が発せられたもので、“衝撃波誘起蛍光(shock wave induced fluorescence)”と呼べる現象を観測した。
本発明はこの新たな知見に基づきなされたものである。
【0006】
衝撃波の強さにより誘起される蛍光の強さも変化することを知見するに至り、発明4,5のようにすることで、衝撃波の強度をも同時に測定しえる観測装置を提供することができた。
また、発光周波数を検知できるようにすることで、その要因は不明だが衝撃波により発光する光成分(周波数)に変化があることが分かっているので、衝撃波の未知の部分を解明する手掛かりを得ることも可能になった。
衝撃波は地球・惑星科学などで非常に重要な役割を果たしており、今回の発見は衝撃波の感知、また、衝撃波の強さの推定を可能にする有用な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】衝撃波センサーの実験No. 3での発光現象をとらえた写真。
【図2】衝撃波センサーの実験No. 5での発光現象をとらえた写真。
【図3】実験No. 3, 5の発光現象を蛍光スペクトルとして表したグラフ。
【図4】衝撃波センサーの図面。
【図5】衝撃波発生装置と光学測定器を示す図面。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の実施例において衝撃波と発光との関係を測定するために、図5に示す衝撃波発生装置を用いた。
筒状の発射管(5)の一端に燃焼室(4)を配置し、この燃焼室(4)側の発射管(5)内部に金属板からなる飛翔体を詰めておき、前記燃焼室(4)内での火薬の爆発力により、前記飛翔体(B)を発射管(5)の出口から発射し、この出口が開口させてあるチャンバー(6)内に配置したターゲット(7)に前記飛翔体(B)を衝突させて、衝撃波を発生させる構造としてある。
そして、前記ターゲット(7)自体がセンサー(S)となるように図4に示す構造とした。
具体的には、飛翔体(B)が衝突させられる部分を収納容器(1)の表面とし、その裏面に円形の凹入部(1a)を形成し、この凹入部(1a)内に、衝撃波誘起蛍光体(2)を充填する。
そして、凹入部(1a)の口を塞ぎ、前記衝撃波誘起蛍光体を押さえて形状を安定化させるようにして、透明で耐衝撃性の円柱状基板(3)を挿入する。円柱状基板(3)、前記収納容器(1)と試料面との間に隙間がないように密着させた状態で円柱状基板(3)の側面部分に接着剤を付けて結合する。
なお、この収納容器(1)は実施例に示すステンレス鋼の他、銅、一般的な機械構造用鋼などを用いることができる。
本発明の衝撃波誘起蛍光体(2)は、含有される発光中心元素の電子準位が衝撃波により励起される無機化合物である。
発光中心元素としては、従来電子または光を励起源とした蛍光体の発光中心元素として知られている各元素が、ユウロピウムと同様に用いられる可能性がある。また、発光材料として使われている酸化亜鉛(ZnO)の粉末試料についても衝撃波誘起の発光スペクトルを観測したので、他の粉末状蛍光材料でも衝撃波誘起蛍光を示すものは多いと考えられる。
また、下記実施例では、粒状の衝撃波誘起蛍光体(2)を圧密充填した例を示しているが、これに変わり、圧密充填状態の形状と同様な形状に焼結した焼結体を用いることも可能であると考えられる。
下記実施例では、衝撃波と発光との関係を出来るだけ正確に知るために、衝撃波の散逸による測定誤差を防ぐためにターゲット(7)を収納容器(1)に兼用したものであり、自然界の衝撃波を感知するセンサー(S)は、容器(1)にターゲット(7)の機能を兼務させるものではない。
収納容器(1)の材質としては密度の高ものが望ましい。密度が低すぎると伝播する衝撃波の強度も弱くなり、それに伴い衝撃波誘起蛍光体(2)の発光強度も弱くなるからである。一般の金属の中では、密度の低いアルミニウムよりは、銅、ステンレスなどの方が適当である。
また、基板(3)は、第一には衝撃波を受けても衝撃波誘起蛍光体(2)の発光を透過することができればよい。また、光透過性の窓としての役割は、基板全体で果たす必要はなく、その一部において達成されれば良いので、基板を貫通する窓を形成し、その箇所に光透明性材からなる窓材をはめ込むことも可能である。下記実施例では、衝撃に耐えうる透明材としてLiFを用いたが、衝撃波により透明性を失わない材質であればこれに限ることはない。
下記実施例において、独立したセンサー(S)を用いる場合には、別に作成したターゲット(7)用の金属板にセンサー(S)の容器表面を圧接して固定することで使用可能である。
前記センサー(S)の発光現象を検知する光学測定器(OM)は、前記チャンバー(6)外に配置されていて、前記基板(3)を透過した光は、光ファイバ(C)を介して分光器(8)に送るようにしてある。この分光器(8)において波長方向に分散した光信号はストリークカメラ(9)に導入され、光信号の時間変化を測定する。波長方向及び時間方向に分解された光信号がCCDカメラ(10)に記録され、データはPC(11)に取り込まれる。
このようにして、図1から3に示すデータを得た。
前記センサー(S)の衝撃波と発光との関係を調べるために人工的に衝撃波を発生する装置を用いた下記実施例に示す測定データは、自然界においては、発生した衝撃波の強さを分析する基礎データとなるものである。
衝撃波測定装置(MA)では、実施例では市販の光学測定器(OM)を用いたが、自然界における衝撃波測定においては、これらをその衝撃波から保護する手段が必要であるが、その様な手段は従来より周知であるから、それらから選択して適宜保護手段を施すこととする。光学測定器(OM)とセンサー(S)を結ぶ光ファイバ(C)の長さはいかようにも変えることができるので、光学測定器(OM)を衝撃波の影響が少ない隔離室等に配置することができる。
【実施例1】
【0009】
<衝撃波誘起蛍光体>
表1に示す無機物質を以下のようにして、図4に示す構造の円板状のセンサー(S)に成型した。
本実施例では、ターゲット(7)となる収納容器(1)をステンレス鋼で成型した。
その凹入部(1a)をΦ15mm x t2mmとして形成した。また、円柱状の透明基板(3)をΦ15mm x t4mmのLiFで形成した。
そして、表1に示す衝撃波誘起蛍光体(2)を、乳鉢等で擂り潰して、表1に示す粒子径にした。粒子径が大きすぎると粉末状の衝撃波誘起蛍光体(2)をうまく圧密充填できず、収納容器(1)及び透明基板(3)との境界面に隙間ができるので粒子径は10μm以下にするのがよい。8μm以下、より好ましくは5μm以下にするのがより望ましい。この粉末状蛍光体を、表1に示す充填圧力により、油圧ポンプ式の加圧成型機を用いて前記凹入部(1a)内に充填して、厚さ0.2mmの板状にした。次に前記透明基板(3)を前記凹入部(1a)内に押し込み、その内面を前記衝撃波誘起蛍光体(2)の表面に押し付けて固定した。表1の充填圧力は油圧ポンプの油圧の値を示した(ラム径64.8mm)。充填圧力が低すぎると粉末状蛍光体の密度が低くなり、その結果、衝撃波による温度上昇のため熱的な発光が強くなり衝撃波誘起蛍光感知の妨げとなる。また、充填圧力を上げすぎると蛍光体が着色し衝撃波誘起蛍光が弱くなる場合があるので、充填圧力としては1×10kg/cm〜5×10kg/cm、1.5×10kg/cm〜4×10kg/cmが、より好ましくは2×10kg/cm〜3×10kg/cmが望ましい。
【0010】
【表1】

【0011】
このようにして得られたターゲット兼用のセンサー(S)を衝撃波発生装置(SW)のチャンバー(6)に設けてあるターゲット固定部(図外)に固定して、表2に示す強度の衝撃波を発するように、火薬を調整し、衝撃波試験を行った。
その結果が以下の表2に示す通りである。衝撃波強度(GPa)は粉末試料の衝撃特性がわからないため近似的に予測した値を示した。発光強度はおおよその相対強度である。
【0012】
【表2】

【0013】
図1及び図2は縦軸が時間軸で下方向に時間が経過する。全時間幅は1マイクロ秒である。衝撃波が試料を通過した時の発光(蛍光)が横方向に白く線状に見える。発光時間(半値巾)はおよそ20nsである。横軸は波長であり左端が400nm、右端が490nmに相当する。図3は図1、2の蛍光の強度を波長に対してプロットしたスペクトルである。EuCl2の場合、蛍光スペクトルの中心波長は440〜450nmであるが、EuBr2の場合はより長波長側にピークがある。EuCl2の場合の方が強い衝撃に対する発光であるためスペクトル強度が高いが、同程度の衝撃に対してはEuBr2も同程度の蛍光強度を示すという測定結果が得られている。EuCl2、EuBr2いずれの場合も常圧での蛍光スペクトルは420nm付近を中心とした幅広なスペクトルであるが、高圧下では長波長にシフトすること及びスペクトル幅が広がることが知られている。他のハロゲン化ユウロピウムであるEuF2及びEuI2についても同様の実験を行い衝撃波誘起の蛍光を観測した。EuCl2とEuBr2が最も強い衝撃波誘起蛍光を示した。衝撃の強さが増すに従って衝撃波誘起蛍光の強度も増すことができる。
【符号の説明】
【0014】
(1)収納容器
(1a)凹入部
(2)衝撃波誘起蛍光体
(3)透明基板
(4)火薬室
(5)発射管
(6)チャンバー
(7)ターゲット
(8)分光器
(9)ストリークカメラ
(10)CCDカメラ
(11)PC
(B)飛翔体
(C)光ファイバ
(S)衝撃波センサー
(SW)衝撃波発生装置
(MA)衝撃波測定装置
(OM)光学測定器
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2006-153549
【特許文献2】特開平10-115566

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含有される発光中心元素の電子準位が衝撃波により励起される無機化合物であることを特徴とする衝撃波誘起蛍光体。
【請求項2】
衝撃波を感知して信号を発するセンサーであって、請求項1に記載の衝撃波誘起蛍光体からなり、その蛍光体からの光により衝撃波を感知することを特徴とする衝撃波センサー。
【請求項3】
請求項2に記載の衝撃波センサーにおいて、衝撃波誘起蛍光体からなる板状体の表裏面の片面を衝撃波受け面とし、その反対側の面に光透過性の基板が一体化されてなることを特徴とする衝撃波センサー。
【請求項4】
衝撃波を感知してそれを計測する衝撃波測定装置であって、請求項2又は3に記載の衝撃波センサーと、当該センサーから発した光の強度を検出する光学測定器とからなることを特徴とする衝撃波測定装置。
【請求項5】
請求項4の衝撃波測定装置において、前記光学測定器は、衝撃波センサーからの光の周波数と強度を計測するものであることを特徴とする衝撃波測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−210550(P2010−210550A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59148(P2009−59148)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】