説明

衝突判定方法および衝突判定プログラム

【課題】自車の回転成分を考慮して衝突判定を行うことができる衝突判定方法および衝突判定プログラムを提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る衝突判定方法は、車両に設けられたカメラが車両の周囲を撮像するステップと、カメラにより撮像された画像に含まれる対象物の動きベクトルを検出するステップと、自車の並進成分および回転成分を求めるステップと、並進成分による移動量と、現在の対象物の位置における回転成分による移動量および現在から所定の時間後の並進成分のみの移動を仮定した場合の対象物の位置における回転成分による移動量を所定の割合で合成し所定の条件で加工した移動量と、を合成した合成移動量を求めるステップと、合成移動量にもとづいて所定の時間内に車両と対象物とが衝突するか否かを判定するステップと、を有する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、衝突判定方法および衝突判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、自動車などの車両の運転を支援するための技術として、車両と対象物との衝突可能性を判定する技術の開発が望まれている。この種の技術には、たとえば、車両に搭載されたカメラにより撮像された画像にもとづいて車両と対象物との衝突可能性を判定する技術などがある。車両に搭載されたカメラにより撮像された画像を用いる場合、レーダを用いる場合に比べてデジタル化された画像データを利用することができることから、自車がカーブを走行中であっても対象物の接近角度などの複雑な判断が可能であり、対象物の接近を容易に検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−56763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、自車が回転成分を持つ場合、自車と対象物とは、自車の並進成分で近づきつつ、回転成分で近づく場合もあれば遠ざかる場合もある。このため、自車と対象物との位置関係の時間変化を予測することは難しい。
【0005】
したがって、自車が回転成分を持って移動している場合、車両に搭載されたカメラにより撮像された画像を用いても、対象物の接近を検出することはできるものの、衝突するか否かの判定や衝突までの時間を求めることは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態に係る衝突判定方法は、上述した課題を解決するために、車両に設けられたカメラが車両の周囲を撮像するステップと、カメラにより撮像された画像に含まれる対象物の動きベクトルを検出するステップと、自車の並進成分および回転成分を求めるステップと、並進成分による移動量と、現在の対象物の位置における回転成分による移動量および現在から所定の時間後の並進成分のみの移動を仮定した場合の対象物の位置における回転成分による移動量を所定の割合で合成し所定の条件で加工した移動量と、を合成した合成移動量を求めるステップと、合成移動量にもとづいて所定の時間内に車両と対象物とが衝突するか否かを判定するステップと、を有する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の一実施形態に係る衝突判定方法を実施するための衝突判定装置の一例を示すブロック図。
【図2】図1に示す主制御部のCPUにより自車の回転成分を考慮して衝突判定を行う際の手順を示すフローチャート。
【図3】座標系と回転方向の関係の一例を示す説明図。
【図4】図3のステップS5で衝突判定部により実行される衝突判定・衝突時間予測処理の手順の前半部を示すサブルーチンフローチャート。
【図5】図3のステップS5で衝突判定部により実行される衝突判定・衝突時間予測処理の手順の後半部を示すサブルーチンフローチャート。
【図6】平均回転移動量ABRと、この平均回転移動量ABRおよび並進成分Tとの合成移動量RTと、の関係の一例を示す説明図。
【図7】側面衝突を予測する様子の一例を示す説明図。
【図8】初期位置での回転成分のみの移動では衝突面に対して向かう方向に移動する場合における正しい軌道と近似計算軌道との関係の一例を示す説明図。
【図9】初期位置での回転成分のみの移動では衝突面に対して離れる方向に移動する場合における正しい軌道と近似計算軌道との関係の一例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に係る衝突判定方法および衝突判定プログラムの実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に係る衝突判定方法を実施するための衝突判定装置10の一例を示すブロック図である。
【0010】
衝突判定装置10は、カメラ11、主制御部12、車両情報取得部13、灯火装置16、クラクション17、スピーカ18および表示装置19を有する。
【0011】
カメラ11は、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサにより構成され、自家用自動車等の車両の周囲の映像を取り込んで画像データを生成して主制御部12に与える。
【0012】
たとえば後方を監視する場合、カメラ11は車両後部のナンバープレート付近に路面と平行な線からやや下向きに配設される。カメラ11には、より広範な車両外画像が取得可能なように広角レンズや魚眼レンズが取り付けられてもよい。また、車両の側方を監視する場合、カメラ11はサイドミラー付近に配設される。また、複数のカメラ11を用いることにより広範な車外周囲画像を取り込むようにしてもよい。
【0013】
主制御部12は、たとえばCPU、RAM、ROMを備えたマイクロコントローラにより構成される。主制御部12のCPUは、ROMなどの記憶媒体に記憶された衝突判定プログラムおよびこのプログラムの実行のために必要なデータをRAMへロードし、このプログラムに従って自車の回転成分を考慮して衝突判定を行う処理を実行する。主制御部12のRAMは、CPUが実行するプログラムおよびデータを一時的に格納するワークエリアを提供する。主制御部12のROMなどの記憶媒体は、衝突判定プログラムや、これらのプログラムを実行するために必要な各種データを記憶する。
【0014】
なお、ROMをはじめとする記憶媒体は、磁気的もしくは光学的記録媒体または半導体メモリなどの、CPUにより読み取り可能な記録媒体を含んだ構成を有し、これら記憶媒体内のプログラムおよびデータの一部または全部は図示しないネットワーク接続部を介して電子ネットワークを介してダウンロードされるように構成してもよい。
【0015】
なお、この場合、ネットワーク接続部は、ネットワークの形態に応じた種々の情報通信用プロトコルを実装し、この各種プロトコルに従って主制御部12と他の車両のECUなどの電気機器とを電子ネットワークを介して接続する。この接続には、電子ネットワークを介した電気的な接続などを適用することができる。ここで電子ネットワークとは、電気通信技術を利用した情報通信網全般を意味し、無線/有線LAN(Local Area Network)やインターネット網のほか、電話通信回線網、光ファイバ通信ネットワーク、ケーブル通信ネットワークおよび衛星通信ネットワークなどを含む。
【0016】
車両情報取得部13は、少なくとも自車の現在の加速度の情報を取得し、主制御部12に出力する。車両情報取得部13は、たとえば加速度センサにより構成してもよいし、CAN(Controller Area Network)において一般的に用いられる車両情報取得機能を有するものであってもよい。本実施形態において、車両情報取得部13は、自車の移動パラメータを利用するために用いられるものである。このため、主制御部12がカメラ11の撮影した画像にもとづいて自車の移動パラメータを算出可能である場合、この車両情報取得13は設けられずともよい。
【0017】
灯火装置16は、一般的なヘッドライトにより構成され、主制御部12により制御されて点滅(いわゆるパッシング)を行うことにより、たとえば自車両の外部に対して警告を行う。
【0018】
クラクション17は、主制御部12により制御されて自車両の外部に対して警告音を出力する。
【0019】
スピーカ18は、自車両の車内に設けられ、主制御部12により制御されて自車両の運転者に対してビープ音や危険が迫っていることを知らせるための情報などの各種情報に対応した音声を出力する。
【0020】
表示装置19は、運転者が視認可能な位置に設けられ、車載用の一般的なディスプレイやカーナビゲーションシステム、HUD(ヘッドアップディスプレイ)などの表示出力装置を用いることができ、主制御部12の制御に従って、カメラ11の撮像画像や危険が迫っていることを知らせるための情報などの各種情報を表示する。
【0021】
続いて、主制御部12のCPUによる機能実現部の構成について説明する。
【0022】
図1に示すように、主制御部12のCPUは、衝突判定プログラムによって、少なくとも平面画像生成部21、動きベクトル検出部22、自車移動算出部23、静止ベクトル検出部24、衝突判定部25および警報部26として機能する。この各部21−26は、RAMの所要のワークエリアを、データの一時的な格納場所として利用する。なお、これらの機能実現部は、CPUを用いることなく回路などのハードウエアロジックによって構成してもよい。
【0023】
平面画像生成部21は、カメラ11により撮像された画像にもとづいて平面画像を生成する。たとえばカメラ11に魚眼レンズが取り付けられている場合は、平面画像生成部21は、カメラ11により撮像された魚眼画像を通常の2次元画像に正規化するとともに、この正規化画像にもとづいて、あらかじめ定められた視点の平面画像を生成する。
【0024】
動きベクトル検出部22は、ブロックマッチング法や勾配法などを用いて、平面画像生成部21により生成された複数の平面画像から画素ごとに動きベクトルを検出する。
【0025】
自車移動算出部23は、動きベクトル検出部22より検出された動きベクトルにもとづいて自車の移動パラメータ(自車の並進成分Rおよび回転成分T)を求める。なお、衝突判定装置10が車両情報取得部13を備える場合は、自車移動算出部23は、車両情報取得部13から自車の移動パラメータを取得してもよい。また、自車移動算出部23は、自車の移動パラメータから自車の移動ベクトルを算出する。
【0026】
静止ベクトル検出部24は、対象物の動きベクトルと自車の移動ベクトルの角度を比較し、角度の差が所定の角度差以下であるとなり、また、動きベクトルの大きさの方が大きい対象物を静止物であるとして検出する。
【0027】
衝突判定部25は、並進成分による移動量と、現在の対象物の位置における回転成分による移動量および現在から所定の時間後の並進成分のみの移動を仮定した場合の対象物の位置における回転成分による移動量を平均した移動量と、を合成した合成移動量を求める。そして、衝突判定部25は、この合成移動量にもとづいて、自車と対象物とが衝突するまでの時間(以下、衝突時間という)を予測して、所定の時間内に自車と対象物とが衝突するか否かを判定する。
【0028】
警報部26は、衝突判定部25により所定の時間内に自車と対象物とが衝突すると判定されると、灯火装置16の点滅(パッシング)およびクラクション17を介した警告音出力の少なくとも一方により、車外の人間に危険を報知することができる。また、警報部26は、衝突判定部25より所定の時間内に自車と対象物とが衝突すると判定されると、自車両の運転者に対して、スピーカ18を介してビープ音や衝突の危険を知らせる音声を出力することができる。また、警報部26は、表示装置19に対して衝突の危険がある旨の情報(警告)を表示することができる。なお、警報部26は、自車両の運転者に対する危険報知として、ビープ音出力、音声出力および警告表示の少なくとも1つを行い、全てを同時に行ってもよい。また、車外の人間に対する危険報知および自車両の運転者に対する危険報知の両方を同時に行ってもよいし、いずれか一方のみを行ってもよい。
【0029】
次に、本実施形態に係る衝突判定装置10の動作の一例について説明する。
【0030】
図2は、図1に示す主制御部12のCPUにより自車の回転成分を考慮して衝突判定を行う際の手順を示すフローチャートである。図2において、Sに数字を付した符号は、フローチャートの各ステップを示す。
【0031】
まず、ステップS1において、平面画像生成部21は、カメラ11により撮像された画像にもとづいて平面画像を生成する。
【0032】
次に、ステップS2において、動きベクトル検出部22は、ブロックマッチング法や勾配法などを用いて、平面画像生成部21により生成された複数の平面画像から画素ごとに動きベクトルを検出する。
【0033】
次に、ステップS3において、自車移動算出部23は、動きベクトル検出部22より検出された動きベクトル、もしくは、車両情報取得部13からの情報にもとづいて自車の移動パラメータを求め、この自車の移動パラメータにもとづいて自車の移動ベクトルを算出する。
【0034】
ここで、自車移動算出部23による自車移動パラメータにもとづく自動移動ベクトルの算出方法について説明する。
【0035】
図3は、座標系と回転方向の関係の一例を示す説明図である。以下の説明では、図3に示すように、進行方向をz軸、路面法線方向をy軸、進行方向および路面法線方向に互いに直交する方向をx軸とする座標系を用いる場合の例について示す。また、図3においては、x軸、y軸、z軸周りの回転をそれぞれRx、Ry、Rzとして示した。
【0036】
図3に示すように、カメラ11により撮像された画像は、平面画像生成部21により、理想的にはy=fで表されるカメラ投影面31に展開されることになる。ここで、fはカメラ11の焦点距離であるものとする。
【0037】
自車移動での画面の回転方向および並進方向をそれぞれR(Rx、Ry、Rz)およびT(Tx、Ty、Tz)とする。このとき、自車移動の回転方向と並進方向は(−Rx、−Ry、−Rz)および(−Tx, −Ty, −Tz)となる。
【0038】
カメラ投影面31上の画像の位置を(x、y、f)すると、公知の式により、自車移動ベクトル(x、y、cu、cv)=(x座標位置、y座標位置、x方向ベクトル、y方向ベクトル)は、自車移動パラメータから次のように求めることができる。
wu = -(x・y / f)・Rx + ((f・f + x・x) / f)・Ry - y・Rz
wv = -((f・f + y・y) / f)・Rx + (x・y / f )・Ry + x・Rz
tu = (f・Tx - x・Tz) / z
tv = (f・Ty - y・Tz) / z
cu = tu + wu
cv = tv + wv
【0039】
wuは自車移動ベクトルの回転成分のx方向、wvは自車移動ベクトルの回転成分のy方向、tuは自車移動ベクトルの並進成分のx方向、tvは自車移動ベクトルの並進成分のy方向をそれぞれ表す。zは画面方向の奥行きであるが、ある遠い距離(例えば10m)を1として、それより必ず近い位置となる路面のみ、1より小さい値に奥行きを変えて設定すればよい。その設定した距離に比例して自車移動パラメータの並進成分(Tx、Ty、Tz)の大きさが変わることになる。
【0040】
次に、ステップS4において、静止ベクトル検出部24は、動きベクトル検出部22により検出された動きベクトルと自車の移動ベクトルの角度を比較し、この角度の差が所定の角度差以下となり、また、動きベクトルの大きさの方が大きい対象物を静止物であるとして検出する。たとえば、動きベクトル検出部22により検出された動きベクトルを(x、y、pu、pv)=(x座標位置、y座標位置、x方向ベクトル、y方向ベクトル)とすると、(pu − wu、pv − wv)と(tu、tv)との角度の差が所定の角度差以下であり、また、(pu − wu、pv − wv)の大きさが(tu、tv)の大きさより所定の割合以上大きいと、静止ベクトル検出部24は、この動きベクトルを静止物のベクトルであると判定する。
【0041】
次に、ステップS5において、衝突判定部25は、自車と対象物とが衝突するまでの時間(以下、衝突時間という)を予測して、所定の時間内に自車と対象物とが衝突するか否かを判定する処理を行う。
【0042】
以上の手順により、自車の回転成分を考慮して衝突判定を行うことができる。
【0043】
図4および図5は、図3のステップS5で衝突判定部25により実行される衝突判定・衝突時間予測処理の手順を示すサブルーチンフローチャートである。図4には手順の前半部を、図5には手順の後半部を、それぞれ示した。
【0044】
ステップS11において、衝突判定部25は、衝突面の向きを特定する。
【0045】
以下、より具体的に説明する。衝突面の向きをM(Mx、My、Mz)とする。衝突面は基本的には路面に対して垂直になっているため、向きMは収束点FOE(FOEx、FOEy)を用いて次のように書ける。
Mx = FOEx
My = FOEy
Mz = f
【0046】
衝突面の向きMを用い、衝突面の式は下記のようになる。
Mx・x + My・y + Mz・z = 0
【0047】
次に、ステップS12において、衝突判定部25は、静止物の位置を特定する。
【0048】
以下、より具体的に説明する。まず、静止物ベクトルを用いて静止物のzを計算する。
pu - wu = tu
pv - wv = tv
【0049】
のzを変数としてzを算出するが、zは2つ導かれるが、pu−wuとpv−wvで大きさが大きいほう、もしくはzを1としたときのtuとtvで大きさが大きいほう、もしくは平均を用いるとよい。
【0050】
得られたzと得られた動きベクトルの位置(x、y、f)より、静止物の位置A(Ax、Ay、Az)は下記のようになる。
Ax = z・x / f
Ay = z・y / f
Az = z
【0051】
次に、ステップS13において、衝突判定部25は、並進成分のみの移動における衝突時間t1を算出する。
【0052】
静止物の並進成分のみでの位置AT(ATx、ATy、ATz)は、下記のようになる(tは変数)。
ATx = Ax + t・Tx
ATy = Ay + t・Ty
ATz = Az + t・Tz
【0053】
上記の位置と衝突面との交点は、面の式にATの位置を代入したときのtでの値になる。また、そのときのtはその面までの衝突の時間(フレーム数)である。そのときの時間を仮衝突時間t1とすると、
Mx・(Ax + t1・Tx) + My・(Ay + t1・Ty) + Mz・(Az + t1・Tz) = 0
→t1 = (-Mx・Ax - My・Ay - Mz・Az) / (Mx・Tx + My・Ty + Mz・Tz)
【0054】
となる。警告したい時間(警告時間)をtaとすると、仮衝突時間t1が警告時間taより大きい場合、t1=taとする。また、t1がマイナスのときはt1=0とする。0≦t1≦taの場合は、t1のままとなる。
【0055】
次に、ステップS14において、衝突判定部25は、並進成分のみの移動における衝突位置を算出する。
【0056】
静止物の並進成分のみでのt1後の位置B(Bx、By、Bz)は、下記のようになる。
Bx = Ax + t1・Tx
By = Ay + t1・Ty
Bz = Az + t1・Tz
【0057】
次に、ステップS15において、衝突判定部25は、現在の対象物の位置Aにおける回転成分による移動量ARと、静止物の並進成分のみでのt1後の位置Bにおける回転成分による移動量BRと、の平均の回転移動量ABRを算出する。
【0058】
図6は、平均回転移動量ABRと、この平均回転移動量ABRおよび並進成分Tとの合成移動量RTと、の関係の一例を示す説明図である。なお、図6には、t1=ta・3/2>taでありt1がtaより大きいため、t1=taとされる場合の例について示した。
【0059】
まず、初期位置Aにおける1フレームでの回転移動量AR(ARx、ARy、ARz)は下記のようになる。
ARx = Az・Ry - Ay・Rz
ARy = Ax・Rz - Az・Rx
ARz = Ay・Rx - Ax・Ry
【0060】
また、静止物の並進成分のみでのt1後の位置Bでの1フレームでの回転移動量BR(BRx、BRy、BRz)は下記のようになる。
BRx = Bz・Ry - By・Rz
BRy = Bx・Rz - Bz・Rx
BRz = By・Rx - Bx・Ry
【0061】
以上のように、物体位置が近くになるにつれ、回転成分での移動量や方向は変化する。本実施形態では、物体を検出した位置A(t=0)での回転成分での移動量ARと、t1時間後の並進成分のみの移動を仮定した場合の位置Bでの回転成分での移動量BRとの平均ABRを、1フレームでの回転成分での移動量としてあつかう。衝突までの時間は短いため、平均化した回転移動量ABRを用いても誤差はほとんどない。
【0062】
なお、本実施形態においてはARとBRの平均をABRとする場合の例について説明するが、ABRは、ARとBRの平均に限られず、状況により平均ではなくどちらかよりにしてもよい。その場合、実測して決定すればよい。たとえば、ARとBRを所定の割合で重み付けして合成したものをABRとしてもよいし、所定の割合で合成した後にさらに所定の条件で加工したものをABRとしてもよい。この所定の条件で加工したものをABRとする場合としては、たとえば、次に示すように、回転成分のみでは衝突面に対して遠ざかる方向になるという条件を満たす場合の処理における加工(衝突面への成分を0にした回転成分との平均値ABR2を求める加工)をしたもの(ABR2)をABRとする場合などが挙げられる。
【0063】
回転成分での移動量の平均ABR(ABRx、ABRy、ABRz)は下記のようになる。
ABRx = (ARx + BRx) / 2
ABRy = (ARy + BRy) / 2
ABRz = (ARz + BRz) / 2
【0064】
なお、回転成分のみでは、衝突面に対して遠ざかる方向になることがある。遠ざかる方向となった場合は、通常、衝突面に対して平行方向は近づき、その分回転成分は小さくなる。このため、衝突面に対して逆側となった場合は、衝突面に対しての成分を0とした回転成分との平均を用いる。そうすることによって近い衝突位置、衝突時間になる。衝突時間は多少短くなることがあるので、警告したい時間taを少し短くして時間的に衝突するかを確認してもよい。
【0065】
回転成分の平均移動量ABRの衝突面に対して垂直なベクトルN(Nx,Ny,Nz)は下記のようになる。
Nx = ABRx + Mx・t
Ny = ABRy + My・t
Nz = ABRz + Mz・t
【0066】
上記のベクトルが衝突面の向きで(0,0,0)を通る面と交差すればよいので、交差した時のtは下記の式より導き出される。
Mx・Nx + My・Ny + Mz・Nz = 0
【0067】
導き出されたtをt2とすると、衝突面への成分を0にした回転成分との平均値ABR2(ABR2x、ABR2y、ABR2z)は下記のようになる。
ABR2x = ABRx + Mx・t2 / 2
ABR2y = ABRy + My・t2 / 2
ABR2z = ABRz + Mz・t2 / 2
【0068】
したがって、回転成分のみでは衝突面に対して遠ざかる方向に移動する場合は、このABR2をABRとして計算すればよい。また、ABRとその衝突面への成分を0にした回転成分の平均としたが、状況により平均ではなくどちらかよりにしてもよい。その場合、実測して決定すればよい。また、衝突面の平行方向位置や垂直方向位置によってその割合を変更してもよい。
【0069】
そこで、ステップS16において、衝突判定部25は、回転成分のみでは衝突面に対して遠ざかる方向か否かを判定する。近づく方向である場合は、図5のステップS21に進む。一方、遠ざかる方向である場合は、衝突面への成分を0にした回転成分との平均ABR2を算出してから(ステップS17)、図5のステップS21に進む。
【0070】
続いて、図5のステップS21において、衝突判定部25は、並進移動量と回転成分の平均移動量ABRとを合成した合成移動量RTを算出する。
【0071】
1フレームでの並進成分での移動量と回転成分の平均移動量との合成移動量を並進成分で表すとき、この合成移動量RT(RTx、RTy、RTz)は下記のようになる。
RTx = Tx + ABRx
RTy = Ty + ABRy
RTz = Tz + ABRz
【0072】
次に、ステップS22において、衝突判定部25は、合成移動量RTでの衝突時間t2を算出する。
【0073】
物体の回転成分を考慮した位置ART(ARTx、ARTy、ARTz)は、下記のようになる(tは変数)。
ARTx = Ax + t・RTx
ARTy = Ay + t・RTy
ARTz = Az + t・RTz
【0074】
この位置ARTと衝突面との交点は、面の式にARTの位置を代入したときのtでの値になる。また、そのときのtはその面までの衝突の時間(フレーム数)である。そのときの時間をt2とすると、
Mx・(Ax + t2・RTx) + My・(Ay + t2・RTy) + Mz・(Az + t2・RTz) = 0
→t2 = (-Mx・Ax - My・Ay - Mz・Az) / (Mx・RTx + My・RTy + Mz・RTz)
【0075】
となる。このとき、衝突までの時間(フレーム数)t2の極性がプラスで警告したい時間taより小さい場合、衝突候補とする。
【0076】
次に、ステップS23において、衝突判定部25は、合成移動量RTでの衝突位置Cを算出する。
【0077】
合成移動量RTで移動した場合のt=t2における静止物の位置C(Cx、Cy、Cz)は下記のようになる。
Cx = Ax + t2・RTx
Cy = Ay + t2・RTy
Cz = Az + t2・RTz
【0078】
次に、ステップS24において、衝突判定部25は、静止物が自車の正面に衝突するか否かを判定する。具体的には、たとえば衝突判定部25は、ステップS22で算出した時間t2がta以下であることから衝突候補となった静止物について、t=t2における位置Cが指定した範囲に収まっているか否かを判定する。衝突時間は多少短くなることがあるので、警告したい時間taを少し短くして時間的に衝突するかを確認してもよい。
【0079】
たとえば、例えばカメラからの高さをH、自車の正面の衝突面の左右の衝突範囲を±Wとすると、下記の条件が満たされた場合に衝突する。
-W <= Cx <= W
Cy >= -H
【0080】
衝突範囲は、収束点FOEの位置や、真上方向のずれによって変更してもよい。その場合、Cx、Cy、Czをその分原点を中心に回転計算させればよい。また、衝突範囲、形状を変更してもよい。
【0081】
ステップS24において正面衝突すると判定すると、ステップS25において、衝突判定部25は、警報部26にその旨の情報を与える。そして、警報部26は、たとえば表示装置19に静止物との正面衝突の危険性がある旨の情報を表示する。また、衝突までの時間t2や衝突位置の情報を表示してもよい。
【0082】
他方、ステップS24において正面衝突しないと判定すると、ステップS26において、衝突判定部25は、静止物が自車の側面に衝突するか否かを判定する。
【0083】
図7は、側面衝突を予測する様子の一例を示す説明図である。
【0084】
正面方向は基本的には前進するので、並進成分が静止物に向かわなかったら衝突しない。しかし、側面は並進成分で静止物に向かわなくても、回転成分で衝突する可能性がある。このため、図7に示すように、正面方向での計算(正面の衝突面までの計算、図7左側参照)と側面での計算(正面の衝突面以降の計算、図7右側参照)を分離して計算する。なお、図7には、正面の衝突面をz=0とする場合の例について示した。
【0085】
まず、正面の衝突面までの計算(正面方向での計算)は、ここまで説明した正面衝突を計算する方法と同様の方法を用い、合成移動量RTにもとづいて衝突位置C0(C0x、C0y、C0z)と衝突時間t0を測定する。このとき、正面の衝突面がカメラから離れすぎている場合、z=0を衝突面としてもよい。
【0086】
側面での警告したい時間tbは、正面での衝突時間t0より、
tb = ta-t0
【0087】
となる。正面での計算式と同様に、側面でのt1を計算する。t1がマイナスであった場合、警告したい時間と正面での時間よりtbにする。後は同様に計算を行う。
【0088】
たとえば、左側の衝突面の式は、Mupの割合分真上に対してx方向に傾いているとして正面の面方向より−90°y軸回転させて、下記のようになる。
-Mz・(x - Wl) + Mup・f・y + Mx・z = 0
【0089】
ここで、Wlはカメラからのx方向位置(左にあるのでマイナスになる)を表す。
【0090】
また、同様に右側の衝突面の式は、Mupの割合分真上に対してx方向に傾いているとして正面の面の方向より90°y軸回転させて、下記のようになる。
Mz・(x - Wr) - Mup・f・y - Mx・z = 0
【0091】
ここで、Wrはカメラからのx方向位置(右にあるのでプラスになる)を表す。
【0092】
以上のように側面を指定して、さらに衝突位置が自車の範囲になるか確認して、自車の範囲であれば側面衝突すると判定する。たとえば、側面の衝突位置がC(Cx、Cy、Cz)として、カメラからの高さをH、カメラから手前側の長さDまでを衝突範囲とすると、下記の条件が満たされた場合に側面衝突する。
Cy >= -H
-D <= Cz <= 0
【0093】
衝突範囲は、収束点FOEの位置や、真上方向のずれによって変更してもよい。その場合Cx、Cy、Czをその分原点を中心に回転計算させればよい。また、衝突範囲、形状を変更してもよい。
【0094】
本実施形態に係る衝突判定装置10は、自車の回転成分を考慮して衝突判定を行うことができる。このため、回転成分を無視する場合に比べ、非常に正確な衝突判定結果を得ることができるとともに、衝突時間を予測することができる。
【0095】
なお、衝突判定が点ではなく領域であった場合、領域の両端の点をn個選び(最低2点。たとえば水平線上の両端の2点。または左上、右上、左下、右下の4点など)、それぞれに対して衝突判定を行う。これらのいずれかが衝突するという判定であれば、一番衝突までの時間が短いものをこの領域の衝突判定結果とする。
【0096】
また、どれも衝突しないと判定された場合、正面の面での衝突時間t2がどれも衝突を警告したい時間taより大きいのであれば衝突しないとする。一方、少なくとも一点の衝突時間t2が衝突を警告したい時間taより小さい場合は、taとt2で小さい方の位置E(Ex、Ey、Ez)とtaでの位置F(Fx、Fy、Fz)をそれぞれ計算しておく。領域上の各点に対してEとFを作成すると(EとFが同じ場合はどちらかを削除)、最小の場合は領域上の点数であるn個の点、最大の場合は領域上の点の2倍の数である2・n個の点が得られる。得られた点から2点を選び線分とし、その線分が衝突領域とする自車の領域に交差していないかを判定する。すべての2点の組み合わせで試し、どれかの線分が自車の領域に交差している場合衝突すると判定する。衝突時間は、すべての自車の領域に交差した線分の中から、線分を作り出す2点の正面での衝突時間t2の中で一番短いものとすればよい。
(実施例)
【0097】
本実施形態に係る衝突予測計算の正しさを検証するためにシミュレーションを行った結果を以下に示す。
【0098】
図8は、初期位置での回転成分のみの移動では衝突面に対して向かう方向に移動する場合における正しい軌道と近似計算軌道との関係の一例を示す説明図である。また、図9は、初期位置での回転成分のみの移動では衝突面に対して離れる方向に移動する場合における正しい軌道と近似計算軌道との関係の一例を示す説明図である。なお、図8および図9は真上視点における軌道比較結果の一例であり、図中のマーカは1フレームごとの位置を表す。
【0099】
まず、計算を単純化するために、路面をy=0の面、衝突面をz=0とし、自車の並進成分はTzのみ、回転成分はRyのみとする。また、物体の奥行きzを0.3に固定し、衝突まで警告したい時間taを15フレームとする。
【0100】
衝突までの時間が長いほど計算結果に誤差が含まれる。このため、計算誤差があらわになるよう、並進成分Tzは−0.02(/フレーム)とする。
【0101】
また、本実施形態に係る衝突予測計算のうち回転成分を考慮した部分の効果を見るため、回転成分が車両の挙動上許される最大付近となるように、一番舵角をもった状態をTzの3倍とする。このとき、回転成分はRy=−0.06となる。なお、車両の挙動上、並進成分を伴わない回転成分の移動は起こらない。
【0102】
nフレーム後の位置をX(n)、Z(n)とすると、正しい軌道の計算式は下記のようになる。
X(n) = X(n-1) - Z(n-1)・Ry
Z(n) = Z(n-1) + Tz + X(n-1)・Ry
【0103】
一方、近似計算の軌道の計算式は下記のようになる。
X(n) = X(n-1) +(- z・Ry+0)/2
Z(n) = Z(n-1) + Tz + (x・Ry+ x・Ry)/α
以上の条件により、xをずらして検証する。
【0104】
変数αは、軌道比較結果から、回転成分が向かう方向では約2.0とするとよいことがわかった。図8には、α=2の場合の例について示した。一方、変数αは、軌道比較結果から、回転成分が向かう方向では約4.0とするとよいことがわかった。図9には、α=4の場合の例について示した。
【0105】
図8および図9から明らかなように、αを適切に選ぶことにより、近似計算での軌道と正しい軌道とで衝突位置、衝突時間がほぼ同じ状態にすることができることがわかる。
【0106】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0107】
また、本発明の実施形態では、フローチャートの各ステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理の例を示したが、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的あるいは個別実行される処理をも含むものである。
【符号の説明】
【0108】
10 衝突判定装置
11 カメラ
12 主制御部
21 平面画像生成部
22 動きベクトル検出部
23 自車移動算出部
24 静止ベクトル検出部
25 衝突判定部
26 警報部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられたカメラが前記車両の周囲を撮像するステップと、
前記カメラにより撮像された画像に含まれる対象物の動きベクトルを検出するステップと、
自車の並進成分および回転成分を求めるステップと、
前記並進成分による移動量と、現在の対象物の位置における前記回転成分による移動量および現在から所定の時間後の前記並進成分のみの移動を仮定した場合の対象物の位置における前記回転成分による移動量を所定の割合で合成し所定の条件で加工した移動量と、を合成した合成移動量を求めるステップと、
前記合成移動量にもとづいて前記所定の時間内に前記車両と前記対象物とが衝突するか否かを判定するステップと、
を有する衝突判定方法。
【請求項2】
前記並進成分のみの移動を仮定した場合に前記車両と前記対象物とが衝突するまでの仮衝突時間を求めるステップと、
前記仮衝突時間があらかじめ定められた警告時間よりも小さいと、前記仮衝突時間を前記所定の時間として設定し、前記仮衝突時間が前記警告時間以上であると、前記警告時間を前記所定の時間として設定するステップと、
をさらに有する請求項1記載の衝突判定方法。
【請求項3】
前記合成移動量にもとづいて前記車両と前記対象物とが衝突するか否かを判定するステップは、
前記合成移動量にもとづいて前記車両の正面と前記対象物とが衝突するか否かを判定するステップと、
前記車両の正面と前記対象物とが衝突しないと判定されると、前記車両の側面と前記対象物とが衝突するか否かを判定するステップと、
を有する、
請求項1または2に記載の衝突判定方法。
【請求項4】
前記合成移動量にもとづいて前記車両と前記対象物との衝突時刻を予測するステップ、
をさらに有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の衝突判定方法。
【請求項5】
前記合成移動量にもとづいて前記所定の時間内に前記車両と前記対象物とが衝突するか否かを判定するステップは、
前記対象物の端点を複数選択し、これらの端点のそれぞれについて前記合成移動量にもとづいて前記所定の時間内に前記車両と衝突するか否かを判定するステップである、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の衝突判定方法。
【請求項6】
前記所定の時間内に前記車両と前記対象物とが衝突すると判定されると、前記車両の運転者に対して、前記車両のスピーカを介した音声出力およびブザー出力ならびに前記車両の運転者が視認可能な位置に設けられた表示装置に対する警告表示の少なくとも1つにより危険を報知するステップ、
をさらに有する請求項1ないし5のいずれか1項に記載の衝突判定方法。
【請求項7】
コンピュータに、
車両に設けられたカメラが撮像した前記車両の周囲の画像を取得するステップと、
前記カメラにより撮像された画像に含まれる対象物の動きベクトルを検出するステップと、
自車の並進成分および回転成分を求めるステップと、
前記並進成分による移動量と、現在の対象物の位置における前記回転成分による移動量および現在から所定の時間後の前記並進成分のみの移動を仮定した場合の対象物の位置における前記回転成分による移動量を所定の割合で合成し所定の条件で加工した移動量と、を合成した合成移動量を求めるステップと、
前記合成移動量にもとづいて前記所定の時間内に前記車両と前記対象物とが衝突するか否かを判定するステップと、
を実行させるための衝突判定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−97391(P2013−97391A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236395(P2011−236395)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(504113008)東芝アルパイン・オートモティブテクノロジー株式会社 (110)
【Fターム(参考)】