説明

衣服

本発明は、着用者の身体を少なくとも部分的に覆いかつ後ろ身頃を有している衣服において、後ろ身頃(2)が、断熱エレメント(3)を有しており、該断熱エレメント(3)が、脊柱に沿って延びていて、少なくとも胸椎の領域を覆っている衣服に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着用者の身体を少なくとも部分的に覆いかつ後ろ身頃を有している衣服に関する。
【0002】
衣服は、人間を保護するために、特に天候に対して保護するために役立つ。それと同時に衣服は、人間の適切な体温を可能にする手段を提供するという役割を担っている。このことは一方では、身体運動の少ない時に衣服が身体の標準温度を保ち、したがって体温低下を防ぐことを意味している。さらに、身体の活動時に、体温の上昇を阻止する気候調整が可能であることが望ましい。
【0003】
しかし、実際の体温の他に、人間の能力にとっては、特に、体感温度が重要である。なぜならば、体感的な過熱または過冷却が感じられた場合に明らかな能力低下が認められ得るからである。この場合、身体全体にわたって分配されている体内温度センサが重要な役割を果たしている。これらの体内温度センサは、特定の部位がどのくらい暖かいのかまたは冷たいのかという情報を人間に与える。これらの情報は体内センサから脳に伝達されて、次いで脳は、相応する手段を導入し、たとえば物質代謝を励起させる。このことは、身体のエネルギ貯蓄を熱に変化させ、これにより体内センサが冷感を感知した場合に体温の上昇を生ぜしめる。これとは逆に、体感的に過熱が感じられた場合に体温を低下させるために物質代謝を減少させることもできる。
【0004】
人体の主要情報担体は脊柱である。体温および体調の検知と関連しても、人間の脊柱は重要な役割を担っている。簡単に言えば、脊柱は人間の主要温度センサである。それゆえに、脊柱の領域で検出された温度は、身体能力に関しても、体調に関しても、有機体全体にとって重要となる。この理由から、特定の作用を得るために、脊柱の領域で体温に影響を与えることが極めて重要となる。これまでは、衣服の脊柱の領域を、熱導出が可能となるように形成することが望ましいという理論を前提としていた。この理論は、特に身体の集中的な活動時に人間は発汗し始め、ひいては人間の体温が上昇するという推定に基づいている。脊柱の領域で熱を導出することによって、脊柱に位置している温度センサは、脊柱の領域での熱導出が行われない場合の温度上昇よりも少ない温度上昇を検知する。その結果、脳は身体の過熱ではなく、たんなる僅かな体温上昇しか検知しないので、物質代謝は、不変の一定高さのレベルで行われ得る。
【0005】
本発明は、従来とは変えられた理論を前提としている。すなわち人間の体調を決定する要因は大部分が体感温度に関連している。その結果、周辺温度がまだ極めて低い場合でも、人間を取り囲んでいる衣服が十分に暖かく保持している限りは、人間は体調が良いと感じる。人間の体内温度センサはたしかに全身にわたって分配されているが、しかし上述したように脊柱が主要温度センサを成しているので、脊柱の領域における変化によって、とりわけ体調に影響を与えることが可能となる。人間の能力は心理学的な要素にも関連していて、そのうち1つが温度に関する体調に関するものであるので、脊柱の領域における体感温度に影響を与えることは、人間の能力を高めるために好適である。このような影響付与は、従来の理論とは異なり、身体の脊柱の領域に、実際にそうであるよりも高い温度を提供することによっても得ることができる。特に寒い季節には、このような影響付与は、最大限の可動性および能力を生ぜしめる。なぜならば、身体が、低い体感温度における物質代謝の励起によって付加的に負荷されないからである。むしろ脊柱の領域における体感温度に対するこのような影響付与は、力の温存のために寄与する。なぜならば、身体が、体温を高めるために内部の物質代謝を励起させる必要がないからである。物質代謝はむしろ同じレベルに維持され得るので、さもなければ物質代謝の励起のために必要とされていたはずのエネルギが、身体的な能力のために身体に提供されている。
【0006】
したがって本発明の課題は、脊柱の領域における体感温度センサが身体の別の部位で検出される実際の体温に相当する温度よりも高い温度を検出するように脊柱の領域の温度に影響を与えることを可能にする衣服を提供することである。この課題は本発明によれば、後ろ身頃が断熱エレメントを有しており、該断熱エレメントが、脊柱に沿って延びており、少なくとも胸椎の領域を覆っていることにより解決される。
【0007】
本発明によれば、人間の脊柱の領域における温度に影響を与える衣服が提供されている。衣服の後ろ身頃に配置された断熱エレメントは、脊柱の領域に延びており、この領域における被服を通じた放熱を困難にしている。これによって、身体の、脊柱の領域に位置する熱センサは、より高い体温を脳に伝達する。このことは、特に寒い季節または冬期スポーツ活動時に、体調に対するポジティブな影響付与をもたらす。それというのは、情報を受け取る脳が、実際に存在する温度よりも高い温度を前提とするからであり、その結果、人間の心理へのポジティブな影響付与が生ぜしめられる。身体の体調は、人間の能力に対して著しい影響を与えるので、このことは能力向上を生ぜしめる。
【0008】
本発明の別の実施形態では、断熱エレメントが、その他の材料に比べて大きな厚さを有している。これによって良好な断熱効果を得ることが可能になる。同時に、このような大きな厚さは、衣服を形成する材料の複数の層を簡単に上下に重ね合わせて縫うことによって得ることができるので、付加的な材料の使用を回避することができ、これにより本発明による衣服のためにかかるコストは低くなる。
【0009】
本発明のさらに別の実施形態では、断熱エレメントが、その他の材料に比べて大きな密度を有している。このことによっても本発明によるポジティブな作用が得られると同時に、断熱エレメントの簡単な製造が得られる。大きな密度は、本発明による衣服の製造プロセスの枠内に容易に取り入れることのできる、たとえば目の詰んだ編み方によって得ることができる。
【0010】
断熱エレメントに隣接して、気候調整性(klimaregulierend.)の材料から成る領域が配置されていると有利である。断熱エレメントの領域に気候調整性の材料を設けることにより、身体の過熱を阻止することが可能である。このことは、体温が極めて著しく上昇している場合に、熱が断熱エレメントの領域を超えて拡散することにより生ぜしめられる。余分な熱の放出は、気候調整性の材料から成る領域への到達時に可能なので、能力を低下させる特定の程度を超えた温度の上昇が阻止されている。
【0011】
本発明の別の実施形態は、請求項2以下に記載されている。本発明の実施形態を、以下に図面につき詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明による衣服を背後から見た斜視図である。
【図2】本発明による、別の構成の衣服を背後から見た斜視図である。
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図2のX部分の細部を示す図である。
【0013】
実施例として選択された衣服は、半袖のTシャツである。シャツ1は、着用者の身体を部分的に覆っている。着用者の前腕および首は覆われていない。衣服は、断熱エレメント3を有する後ろ身頃2を有している。断熱エレメント3は、着用者の脊柱に沿って延びている。本実施例では、断熱エレメント3は垂直方向に向けられた帯状の構成を有している。断熱エレメント3は、本実施例では、衣服の襟刳りから、襟刳りとは反対側の端部にまで延びており、したがって頸椎を除いて脊柱全体にわたって延びている。本発明によれば、7つの頸椎と5つの腰椎との間に配置された少なくとも胸椎の領域に延在部(Ausdehnung)が設けられている。胸椎は脊柱の大部分を占めているので、本発明の有利な効果を得るためには、脊柱のこの領域を覆うだけで十分である。たとえば図1および図2に示した実施例においてそうであるように、この領域の拡張により効果の改善が得られる。
【0014】
断熱エレメント3は、衣服のその他の材料に比べて大きな厚さを有している。この大きな厚さは、図1に示した実施例では、図3から判るように材料の複数の層31が上下に重なって編まれていることにより得られており、本実施例では3つの層31が互いに上下に配置されている。したがって、これは断熱エレメント3の多層構造である。図2に示した実施例では、断熱エレメント3が、衣服のその他の部分の材料に比べて大きな密度を有している。この大きな密度は、断熱エレメント3の、衣服のその他の材料に比べて目の詰んだ編み方によって得られていてよい。図4から判るように、付加的な材料を使用することによって断熱エレメント3を製造することも可能である。このためには、図4に示した実施例では、ベース糸32に並んで、より大きな密度を生ぜしめる付加的な糸33,34が編み込まれている。さらに、たとえば金または銀のような貴金属で被覆された糸のような特別な性質を有する付加的な糸を使用することもできる。付加的な糸を使用することによって、同じく高い密度もしくは大きな厚さが得られていて、それと同時に貴金属の使用は身体から放出された熱の反射を生ぜしめる。
【0015】
図2に示した実施例では、断熱エレメント3に隣接して、気候調整性の材料から成る領域4が配置されている。気候調整性の材料から成る領域4は、たとえば網状布地もしくはメッシュ生地から製作されていてよい。メッシュ生地の使用時には、使用された糸によって皮膚の80%しか覆われていない。布地に設けられたメッシュにより、空気交換、ひいては熱調整を行うことができる。気候調整性の材料から成る領域4の別の構成も可能である。たとえば、布地が点状にしか皮膚に接触しない波形状の布地構造の配置も可能である。この形状は、皮膚に接触する点を介して、発汗が衣服の外側に搬出され得るという利点を有しており、これによって、本発明による衣服の着心地が付加的に改善されている。
【0016】
実施例の変化形では、衣服はシングレットまたは袖無しシャツもしくはタンクトップ(Tragershirt)であってよい。本発明による断熱エレメントをジャケットまたはオーバオールに使用することも可能である。重要となるのは、皮膚の温度センサに対するポジティブな影響付与を生ぜしめるために、断熱エレメントが少なくとも、着用者の背中の脊柱の胸椎の領域を覆っていることだけである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の身体を少なくとも部分的に覆いかつ後ろ身頃を有している衣服において、後ろ身頃(2)が、断熱エレメント(3)を有しており、該断熱エレメント(3)が、脊柱に沿って延びていて、少なくとも胸椎の領域を覆っていることを特徴とする、衣服。
【請求項2】
前記断熱エレメント(3)が、その他の材料に比べて大きな厚さを有している、請求項1記載の衣服。
【請求項3】
前記断熱エレメント(3)が、その他の材料に比べて大きな密度を有している、請求項1または2記載の衣服。
【請求項4】
断熱エレメント(3)に隣接して、気候調整性の材料から成る領域(4)が配置されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の衣服。
【請求項5】
当該衣服がシングレットである、請求項1から4までのいずれか1項記載の衣服。
【請求項6】
当該衣服がTシャツである、請求項1から5までのいずれか1項記載の衣服。
【請求項7】
当該衣服がジャケットである、請求項1から6までのいずれか1項記載の衣服。
【請求項8】
当該衣服がオーバオールである、請求項1から7までのいずれか1項記載の衣服。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−526946(P2010−526946A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507788(P2010−507788)
【出願日】平成20年5月9日(2008.5.9)
【国際出願番号】PCT/DE2008/000788
【国際公開番号】WO2008/138313
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(504303687)エクス−テクノロジー スイス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (23)
【氏名又は名称原語表記】X−Technology Swiss GmbH
【住所又は居所原語表記】Samstagernstrasse 45, CH−8832 Wollerau, Switzerland
【Fターム(参考)】