説明

表皮含有成分の産生促進装置

【課題】電気刺激によりフィラグリンおよびインボルクリンの産生を促進して表皮の保湿機能および角層バリア機能を維持または増強可能な表皮含有成分の産生促進装置を提供する。
【解決手段】皮膚に電気刺激を付与して表皮の保湿機能および角層バリア機能を維持または増強するための表皮含有成分の産生促進装置1であって、皮膚に接触させる一対の電極部3,4と、各電極部に対し、パルス状の信号を出力する産生促進周波数モードを有する信号出力部とを備え、パルス状の信号は、周波数が1200Hz〜15600Hzである。本発明によれば、電気刺激の付与によりフィラグリンおよびインボルクリンの産生を促進することができるので、表皮の保湿機能および角層バリア機能の維持または増強されることにより、肌荒れや肌のキメの改善が期待される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に電気刺激を付与する表皮含有成分の産生促進装置に関し、特に、電気刺激によりフィラグリン等の表皮含有成分の産生を促進して表皮の保湿機能および角層バリア機能を維持または増強することができる表皮含有成分の産生促進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の表皮組織に存在するタンパク質として、フィラグリンおよびインボルクリン(以下、これらをまとめて単にフィラグリン等と称す場合もある)が知られている。
【0003】
表皮組織は、基底層、有棘層、顆粒層、および角層から構成され、皮膚の最外部に位置する。角層には水分を保持する機能(保湿機能)のほか、体内の水分の蒸発を防止し、様々な物質の侵入を効果的に防止する機能を有している(角層バリア機能)。表皮組織を構成する細胞の大部分は表皮角化細胞(表皮ケラチノサイト)であり、当該表皮角化細胞は、表皮組織下部の基底層で増殖し、有棘層、顆粒層から角層に分化して最終的には表皮表面(角層最外部)から剥離する(これらの表皮組織における細胞の生まれ変わりをターンオーバーという)。
【0004】
フィラグリンは、顆粒層における細胞中に存在するケラトヒアリン顆粒において蓄積され、その後、角層へと移行し、ケラチンフィラメントの凝集効率を高め、角層の構築に関与する。また、近年、このフィラグリンが角層において代謝されることにより、皮膚の水分保持に必要不可欠である天然保湿因子(NMF)が産生されることが明らかとなっている。
【0005】
また、インボルクリンは、フィラグリンと同じく、顆粒層における細胞中に存在するタンパク質である。インボルクリンは、顆粒層の細胞中に存在する酵素であるトランスグルタミナーゼにより細胞膜中の膜タンパクに架橋されて、細胞膜を内張りするように支持するコーニファイドエンベロープ(CE)を形成する。このCEが、分化後の角層において細胞を強固な構造としており、角層バリア機能に大きな役割を果たしている。
【0006】
ところで、近年、加齢、紫外線、乾燥、刺激反応等の影響により、天然保湿因子の含有量が低下したり、ターンオーバーが乱れることが知られている。天然保湿因子の含有量が低下すると、それに伴い皮膚の保湿機能が低下する。また、ターンオーバーに乱れが生じると、インボルクリンの産生量が低下してCEが不完全な状態で形成された、いわゆる不全角化が誘発され、角層バリア機能が低下する。そして、水分保持機能の低下や角層バリア機能の低下は、肌荒れの原因となるほか、肌のキメが粗くなり、小皺が増える。
【0007】
これに対し、従来は、天然保湿因子等を含有する保湿剤を皮膚に塗布して皮膚の保湿性を高めてきた。しかしながら、保湿剤を投与してもフィラグリンの産生量は回復せず、したがってその効果は一過性のものに過ぎなかった。また、保湿剤を投与してもターンオーバーが正常化することはなく、よって、インボルクリンの産生量についても回復しないため、角層バリア機能についても改善は見られなかった。
【0008】
また、フィラグリン等について、これらの産生を促進させるための薬剤が公知となっている(特許文献1、2および3)。しかしながら、これら薬剤についても、その促進効果は実用上十分といえるものではない。
【0009】
ここで、表皮組織の下に位置する真皮組織に含まれるコラーゲン線維やエラスチン線維については、電気刺激により、その産生を促進させることが示唆されている(特許文献4)。しかしながら、電気刺激によりフィラグリンおよびインボルクリンのような表皮含有成分について産生量を増加させることについては、これまでにそのような知見は得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−241095号公報
【特許文献2】特開2007−217326号公報
【特許文献3】特開2004−115452号公報
【特許文献4】特開2005−334517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような事情に基づきなされたものであり、電気刺激により、フィラグリンおよびインボルクリンの産生を促進して表皮の保湿機能および角層バリア機能を維持または増強することができる表皮含有成分の産生促進装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様は、表皮含有成分の産生促進装置であって、皮膚に接触させる一対の電極部と、各電極部に対し、周波数が1200Hz〜15600Hzであるパルス状の信号を出力する産生促進周波数モードを有する信号出力部とを備え、前記電極部から皮膚に付与されるパルス状の信号により、皮膚においてフィラグリンおよびインボルクリンの産生を促進することを特徴とする。ここで、周波数は2400Hz〜13200Hzであることが好ましく、2400Hz〜9600Hzがより好ましく、4800Hzがさらにより好ましい。
【0013】
なお、本明細書において、表皮含有成分とは、表皮組織において元来含有されている成分をいう。具体的にはフィラグリンやインボルクリンなどのタンパク質や、トランスグルタミナーゼのような酵素が挙げられる。
【0014】
また、本明細書における産生が、例えば皮膚においてタンパク質等が生合成されることを意味しており、例えば薬剤の塗布やイオン導入により、水溶性の物質を皮膚表面から皮膚内部に浸透させていく技術とは全く異なる概念であることは、当業者は当然に理解できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、周波数が1200Hz〜15600Hzである電気刺激を皮膚に付与することにより、フィラグリンおよびインボルクリンの産生を促進することができる。よって、当該フィラグリン等の産生促進により、表皮の保湿機能および角層バリア機能を維持または増強効果が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の表皮含有成分の産生促進装置の外観斜視図である。
【図2】本実施形態の表皮含有成分の産生促進装置の内部に格納されたパルス生成回路を示すブロック図である。
【図3】本実施形態の表皮含有成分の産生促進装置の使用の一例を示す図である。
【図4】実施例の表皮含有成分の産生促進装置を用いた場合における、電気刺激とフィラグリン等の産生促進との関係を示すグラフである。
【図5】実施例の表皮含有成分の産生促進装置を用いた場合における、電気刺激とフィラグリンの産生促進との関係を示すグラフである。
【図6】実施例の表皮含有成分の産生促進装置を用いた場合における、電気刺激とインボルクリンの産生促進との関係を示すグラフである。
【図7】実施例の表皮含有成分の産生促進装置を用いた場合における、電気刺激による角層水分量の変化率を示すグラフである。
【図8】実施例の表皮含有成分の産生促進装置を用いた場合における、電気刺激による角層剥離量の変化率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を用いて本発明の好ましい実施形態について詳しく説明する。
【0018】
本実施形態の表皮含有成分の産生促進装置(以下、単に産生促進装置とも称す)は、皮膚に接触させる一対の電極部と、各電極部に対し、周波数が1200Hz〜15600Hzであるパルス信号を出力する信号出力部とを備える。当該構成を備えることにより、フィラグリン等の産生量を表皮組織において増加させることができるので、表皮の保湿機能および角層バリア機能を維持または増強することができる。
【0019】
上述のとおり、従来用いられていた天然保湿成分を含む保湿剤を投与しても、フィラグリン等の産生量を増加させることはできない。また、各タンパクの産生促進剤を皮膚に投与しても、その効果は実用上十分とはいえない。加えて、肌荒れや肌のキメの改善は、保湿機能および角層バリア機能の相互作用により達成される。すなわち、保湿機能と角層バリア機能、双方の機能を維持または増強できることが好ましい。言い換えれば、フィラグリン等について、一方の物質の産生量を単独で増加させたとしても、他方の物質の産生量が不足している状況が変らない限りは、肌荒れや肌のキメは必ずしも改善されるとはいえない。
【0020】
これに対し本発明者は、フィラグリンおよびインボルクリンの産生量を同時に増加させることより、表皮の保湿機能および角層バリア機能を維持または増強することを着想した。そして、鋭意研究の結果、周波数が1200Hz〜15600Hzである電気刺激を皮膚の表皮角化細胞に付与することにより、フィラグリン等の産生量を併せて増加させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。さらに、本発明者は、当該周波数で電気刺激を加えることによりインボルクリンを細胞膜中の膜タンパクに架橋させる酵素であるトランスグルタミナーゼについても併せて増加させることができることも見出した。
【0021】
すなわち、本実施形態によれば、周波数が1200Hz〜15600Hzである電気刺激を皮膚に付与してフィラグリンおよびインボルクリンの産生量を併せて増加させることより、表皮の保湿機能および角層バリア機能を維持または増強することができる。加えて、本実施形態によれば、トランスグルタミナーゼについても産生量を増加させることができるため、さらに表皮の保湿機能および角層バリア機能に対する維持または増強効果をさらに高めることができる。そして、これにより、肌荒れや肌のキメの改善が期待される。特に、本実施形態の産生促進装置は、後述するように、従来公知となっているフィラグリン等の産生量促進剤と比較して、非常に高いフィラグリン等の産生促進作用を有している。
【0022】
まず、本実施形態の産生促進装置の構成について、図1を参照して説明する。図1に示す産生促進装置1は、合成樹脂等の絶縁部材からなる筐体2と、筐体2の一方の主面に設けられた関電極部3と、筐体2の他方の主面に設けられた不関電極部4とを備える。筐体2の内部には、関電極部3および不関電極部4に対しパルス信号を出力するパルス生成回路が収納されている。また、筐体2における不関電極部4の近傍には、主電源のオンオフを切り替えるための電源オンボタン5aと電源オフボタン5bとが設けられる。
【0023】
関電極部3は、不図示の導電性部材と、当該導電性部材に対して装着された吸湿性部材3aとにより構成される。導電性部材は、例えばシリコンゴムおよびカーボンからなる材
料とすることができる。一方、吸湿性部材3aは、例えばコットンとすることができる。
また、不関電極部4については、例えばステンレスより構成することができる。
【0024】
また、筐体2長手方向における関電極3とは異なる側の端部には、開閉可能に設けられた電池収容部2aが設けられている。当該電池収容部2aを開けることで、容易に電池交換を行うことができる。
【0025】
次に、産生促進装置1の筐体2内に格納されたパルス生成回路について、図2のブロック図を参照して説明する。
【0026】
筐体2内のパルス生成回路は、図2に示すように、この回路全体の制御を行うマイクロコンピュータ11と、電源としての電池12と、電池12の電圧を所定値に調整し、マイクロコンピュータ11の制御信号に基づいてパルス信号を出力するパルス出力回路13(本発明の信号出力部に相当)と、所定周波数のクロック信号をマイクロコンピュータ11に供給する発振子14と、図1で説明した電源オンボタン5aおよび電源オフボタン5bに対して機械的に接続されたオンオフスイッチ5と、を備えている。
【0027】
電池12は、本実施形態において、ボタン型の電池(2個のCR2032による直流6ボルト電源)が使用される。
【0028】
マイクロコンピュータ11は、電池12によるDC6Vの電源及び発振子14で励起される例えば4MHzのクロック信号に基づいて駆動され、パルス出力回路13に対して制御信号を出力する。
【0029】
パルス出力回路13は、電池12から供給されるDC6Vの電源を例えばDC5Vの電圧に調整し、マイクロコンピュータ11からの制御信号に基づいて、後述する周波数を有するパルス信号を生成して関電極部3および不関電極部4に出力する。言い換えれば、本実施形態に係るパルス出力回路13は、後述する周波数のパルス信号を生成して関電極部3および不関電極部4に出力する周波数モード(産生促進周波数モード)を有する。
【0030】
オンオフスイッチ5は、主電源のオンオフ、すなわち各回路に対する電池12の電源供給のオンオフを切り替える電源スイッチとしての機能を有する。本実施形態の産生促進装置1では、図1の電源オンスイッチ5aまたは電源オフスイッチ5bのいずれかを押下げることにより、オンオフの状態が切り替わるようになっている。当該構成を備えることにより、使用者は、産生促進周波数モードを正しく選択することができる。
【0031】
このような構成とされたパルス生成回路13では、ユーザによる電源オンスイッチ5aの押下げ操作に基づいてオンオフスイッチ5がオンになると、電池12によるDC6Vの電源がパルス出力回路13とマイクロコンピュータ11にそれぞれ供給される。次に、マイクロコンピュータ11からパルス出力回路13に制御信号が出力される。この制御信号に基づいてパルス出力回路13から出力されたパルス信号が、関電極部3および不関電極部4に出力される。
【0032】
本実施の形態においては、関電極部3がマイナスで不関電極部4がプラスとなる極性のパルス信号が各電極部3、4に出力されるようになっている。なお、関電極部3に印加される電圧の極性については、プラス、マイナスのいずれでも良く、刺激感が若干異なることを除いては、同様の効果が得られる。
【0033】
ここで、本実施形態においては、マイクロコンピュータ11は、パルス出力回路13に対して、周波数が1200〜15600Hzのパルス信号を関電極部3および不関電極部4に対し出力するように、制御信号を出力する。言い換えれば、本実施形態に係るパルス出力回路13は、周波数が1200〜15600Hzのパルス信号を関電極部3および不関電極部4に対し出力する産生促進周波数モードを有する。
【0034】
ここで、出力されるパルス信号の周波数が1200Hzより小さい場合は、ユーザが自らの顔等に使用する際に感受する刺激が強い。そのため、ユーザが日常の使用を倦厭する場合があるため、その場合は保湿機能および角層バリア機能の維持または増強という効果を得ることができない。一方、15600Hzより周波数を大きくした場合、15600Hz以下である場合と比較してパルス波形が乱れるようになり、効率よく電流を流すことが困難となる。したがって、当該パルス波形の乱れを抑制するための構成を備える必要があり、コスト高となるため、好ましくない。
【0035】
また、電極部から付与される電気刺激により、皮膚の表皮角化細胞では電位依存性のイオンチャネル等が活性化されることにより、その結果フィラグリン等の産生量が増加している。ここで、電気刺激の電流量をより大きくすると、それに伴い電位依存性のイオンチャネル等の活性化も電気刺激前より変化量が大きくなり、その結果、フィラグリン、インボルクリン、およびトランスグルタミナーゼの産生量も増加する。よって、パルス出力回路13から関電極部3および不関電極部4に対して出力されるパルス信号の周波数は、より電流量が大きくなる2400Hz〜13200Hzがより好ましく、2400Hz〜9600Hzであることがより一層好ましく、4800Hzとすることがさらに一層好ましい。
【0036】
この産生促進装置1の使用に際しては、関電極部3における吸湿性部材3aに電解質溶液を含浸させた後、図3に示すように、フィラグリン等を増加させたい皮膚部分、例えば顔の頬等の所定部位に吸湿性部材3aを接触させ、かつ、筐体2を手で持って不関電極部4が指等に接触した状態において電源オンボタン5aを押下することにより動作が開始する。動作開始後は、パルス生成回路から関電極部3及び不関電極部4に対してパルス信号(群発パルス)が出力されることにより、皮膚に電気刺激が付与される。
【0037】
本実施形態の産生促進装置については、上述の構成とすることにより、表皮角化細胞においてフィラグリンおよびインボルクリンの産生量を増加させることができた。また、併せて、トランスグルタミナーゼの産生量も増加させることができた。さらに、個人差はあるが、使用したユーザについて、いずれも肌荒れ、および肌のキメの改善が確認された。
【0038】
以上、本発明の1つの実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の実施形態とすることも可能である。例えば、産生促進装置は、本実施形態に係る電気刺激の動作モード以外の動作モード、例えば化粧水等のイオン導入法に適した動作モードを備えるようにしてもよい。このとき、パルス生成回路13が産生促進モードでのパルス信号出力を行うことをユーザが直接的に入力できる構成、例えば、産生促進モードでの信号出力要求を直接的に入力できるボタン等の入力部を備えることが好ましい。これにより、ユーザは、産生促進モードで確実に皮膚に対し電気刺激を付与することができる。
【0039】
また、本実施形態に係る関電極部3は、導電性部材および吸湿性部材から構成しているがこれに限定されるものでなく、他の態様とすることもできる。例えば、関電極部3を導電性部材のみによって構成し、使用の際に、通電部にジェル状の電解質を塗布し、当該電解質を介して皮膚に電気刺激を付与するようにしてもよい。
【0040】
さらに、本実施形態においては、パルス信号の電圧をDC5Vとしているがこれに限定されるものではなく、例えば0.1〜10Vとすることができる。また、本発明に使用できる電源についても、設定されるパルス信号の電圧に合わせて、当業者が適宜選択可能である。電源として電池の他、ACアダプターを用いる場合もある、また電池の場合その種類について特に限定されず、一次電池のほか、二次電池が使用されるようにしてもよい。
【0041】
加えて、本実施形態の説明においては、装置の構成の一例を示したに過ぎず、装置における電極の配置位置やスイッチなどの操作部の機構等について種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0042】
以下、本発明をより詳細に説明するために、本発明の産生促進装置を用いることによる効果を明らかにする実施例を示す。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
(実施例1)
【0043】
まず、培養された皮膚角化細胞に対して本発明の産生促進装置の一態様を用いて電気刺激を行い、フィラグリン、インボルクリン、および表皮における主要なトランスグルタミナーゼであるトランスグルタミナーゼ1の遺伝子発現量について測定を行った。
【0044】
まず、正常ヒト表皮角化細胞(クラボウ)を、6 well 35mm dishに5×10cells/wellで播種し、Humedia-KG2培養液(クラボウ)中で3日間、37℃、CO5%の条件下で培養した。続いて、導電部材としてシリコンゴム及びカーボンからなる一対の電極を各培養皿の両端に配置し、培養細胞に対して5V、4800Hz、Duty比30%の群発パルス電気刺激を1日に5分間、5日間連続で処置しつつ、上記の条件で培養を続けた。また、対照の細胞には電気刺激を行わなかった。
【0045】
5日目の電気刺激処置の3時間後にTRIZOL(登録商標)Reagent(invitrogen)を用いて、プロトコルに従いRNAを抽出した。抽出されたRNAから、M-MLV Reverse Transcriptase(タカラバイオ)を用いて逆転写反応によりcDNAを合成し、リアルタイムPCR専用装置Thermal Cycler DiceTMReal Time System(タカラバイオ)と、リアルタイムPCR用試薬SYBR(登録商標、以下同じ) Premix Ex TaqTM(タカラバイオ)を用いて、インターカレーター法によるリアルタイムPCRにより、フィラグリン、インボルクリンおよびトランスグルタミナーゼ1の定量的遺伝子発現解析を行った。内部標準には18S ribosomal RNA(18S)を用いた。PCR反応液の組成を表1に示す。また、反応に用いたプライマーセットを表2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
PCRは、95℃で10秒間熱変性後、95℃:5秒間、60℃:30秒間の反応を40回繰り返すように条件を設定した。反応後、解析ソフトThermal Cycler Dice Real Time System TP800で遺伝子発現解析を行った。図4に、対照の結果を1としたときの相対定量結果を示す。
【0049】
図4に示すように、5V、4800Hzの群発パルス電気刺激により、通電していない0Vの対象の細胞に比べて、フィラグリン、インボルクリンおよびトランスグルタミナー
ゼ1の遺伝子発現は、全て有意に10〜15倍程度促進されていた。
【0050】
(実施例2)
実施例1で用いたものと同様の正常ヒト表皮角化細胞について、同様の条件で2日間培養を行った後、1200Hz(0.8mA±0.03)、2400 Hz(1.4mA±0.04)、4800Hz(2.6mA±0.02)、9600 Hz(4.5mA±0.06)、15600 Hz(5.7mA±0.08)の周波数でDuty比50%、電圧10Vの群発パルス電気刺激を1日に5分間、5日間連続で処置した。
【0051】
実施例1と同様に、5日目の産生促進装置の3時間後にRNAを抽出し、実施例1と同様の方法でフィラグリンおよびインボルクリンの定量的遺伝子発現解析を行った。
【0052】
結果を、対照を1として表した図5、図6に示す。図5、図6に示すように、実施例2の場合も実施例1の場合と同様に、対照と比較して、1200Hz、2400Hz、4800Hz、9600Hz、15600Hzのいずれの周波数を付与した場合でもフィラグリンおよびインボルクリンの遺伝子発現の促進を確認できた。特に、2400Hz、4800Hz、9600Hzにおいて大きな遺伝子発現の促進が確認でき、そのうち、4800Hzにおいて最も遺伝子発現が促進されていた。
【0053】
実施例1および2で示されたフィラグリン等の産生促進効果は、従来公知となっているフィラグリン等の産生促進剤で確認されているものと比較して、非常に高い。具体的には、公知の産生促進剤である特許文献1の産生促進剤を投与して遺伝子発現解析によって効果を測定した場合には、最大で2倍程度の促進効果しか得られていなかった。これに対し、実施例の産生促進装置によれば、対象や電圧条件等に応じて多少は異なるものの、2〜15倍もフィラグリン、インボルクリン、およびトランスグルタミナーゼ1の産生を促進することができた。実際に皮膚を対象とするときに産生促進剤が塗布されたうちの一部しか内部に浸透していないことも考慮すると、実施例1および2で得られた効果は、従来のフィラグリン等の産生促進剤と比較して、極めて顕著である。
【0054】
(実施例3)
続いて、健常人5名を被験者とし、本発明の産生促進装置を用いて皮膚に電気刺激を付与し、角層水分量および剥離角層面積の測定と、皮膚の状態の分析を行った。
【0055】
まず、被験者の前腕の皮膚に対し、接着テープを貼り付けた後に当該接着テープを剥がす処理を数回繰り返して、角層の一部が剥離した実験的肌荒れ状態を5箇所形成させた。当該実験的肌荒れ状態を形成させた5箇所の部位のうち、4を通電部位、1つを対照部位とした。次に、生理食塩液を浸した脱脂綿を関電極に装着し、当該脱脂面を4つの各通電部位に押し当て、Duty比50%、電圧5Vの群発パルスによる電気刺激を5分間付与した。このときの周波数は、それぞれ、1200Hz、4800Hz、9600Hz、15600Hzとした。当該電気刺激処理を、被験者の通電部位に対し、開始日より14日間連続して行った。また、対照部位には生理食塩液を5分間接触させるだけで通電は行わなかった。
【0056】
検査開始前(実験開始日)および13日後に静電容量式測定機器を用いて角層水分量を計測した結果を対照を1として表した図7に示す。図7は電気刺激処理を開始してから13日後の、通電部位および対照部位における角層水分量の変化率を示す。なお、当該変化率は(検討開始から13日後の通電部位(または対照部位)の角層水分量÷検討開始前の通電部位(または対照部位)の角層水分量)に当てはめて計算した。図7に示すように、群発パルスによる電気刺激により、対照部位に比べて角層水分量の有意な増加が認められ皮膚の状態が改善されることが実証された。具体的には周波数を1200Hz、9600Hz、または15600Hzとしたときにおいてはおよそ角層水分量が10%増加した。さらに、4800Hzにおいては、およそ20%も角層水分量が増加した。
【0057】
また、接着テープを装着したスライドグラスにより実験開始日および13日後の角層を剥離して1%ゲンチアナバイオレット水溶液で角層細胞を染色後、マイクロスコープで撮影した画像を解析することにより剥離角層面積を測定した。当該剥離角層面積の測定により、肌荒れに起因する重層化した角層の量を確認することができ、剥離角層面積が減少すると、皮膚の荒れ具合が改善したと評価することができる。結果を対照を1として表した図8に示す。図8に示す結果からからも、電気刺激による剥離角層面積の減少が認められ、具体的には1200Hz、9600Hz、15600Hzにおいてはおよそ20%の減少効果があった。さらに、4800Hzにおいては、およそ40%も剥離角層面積を減少させることができた。
【0058】
このような角層水分量あるいは角層の剥離量の改善は保湿剤等の塗布によっても認められるが、保湿剤等の消失によりその効果は失われてしまうため、一過性で持続性に欠ける場合が多かった。これに対し本発明の実施例では、群発パルス電気刺激により表皮組織においてフィラグリン等の保水機能や角層保護機能に寄与する成分の産生を促進されることにより角層水分量あるいは角層の剥離量が改善されている。すなわち、本発明の表皮含有成分の産生促進装置によれば、より持続的な保水機能や角層保護機能の維持または改善が可能となるため、本質的に健常な角層に改善できることが期待される。
【0059】
また、測定部位について、マイクロスコープを用いて皮膚表面画像を撮像して当該画像を分析したほか、シリコン樹脂によるレプリカ解析および角層細胞の解析を実施した。これらの分析および解析結果からも、群発パルス電気刺激による肌荒れおよび肌のキメの改善効果が認められた。
【符号の説明】
【0060】
1:産生促進装置
2:筐体
3:関電極
4:不関電極
5:オンオフスイッチ
5a:電源オンボタン
5b:電源オフボタン
11:マイクロコンピュータ
12:電池
13:パルス出力回路
14:発振子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に接触させる一対の電極部と、
各電極部に対し、周波数が1200Hz〜15600Hzであるパルス状の信号を出力する産生促進周波数モードを有する信号出力部とを備え、
前記電極部から皮膚に付与されるパルス状の信号により、皮膚におけるフィラグリンおよびインボルクリンの産生を促進することを特徴とする表皮含有成分の産生促進装置。
【請求項2】
前記周波数が2400Hz〜13200Hzであることを特徴とする請求項1に記載の表皮含有成分の産生促進装置。
【請求項3】
前記周波数が2400Hz〜9600Hzであることを特徴とする請求項1に記載の表皮含有成分の産生促進装置。
【請求項4】
前記周波数が4800Hzであることを特徴とする請求項1に記載の表皮含有成分の産生促進装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−214099(P2010−214099A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−32783(P2010−32783)
【出願日】平成22年2月17日(2010.2.17)
【出願人】(390018913)株式会社ホーマーイオン研究所 (10)
【Fターム(参考)】