説明

表示体及びその製造方法

【課題】
コレステリック液晶の一部分の色調を変化させ異なる文字・画像を有する表示体の製造方法とその方法を使用した表示体を提供することである。
【解決手段】
螺旋ピッチが異なる複数の領域を有するコレステリック液晶表示体の製造方法であって、コレステリック液晶は光硬化性材料からなり、そのコレステリック液晶の螺旋ピッチを固定化する際に、半硬化状態で光照射を中断し、続いて、そのコレステリック液晶と親和性を有する溶剤又はその溶剤を含む物質をそのコレステリック液晶表示体の一部領域に接触させた後、溶剤を乾燥させ、その一部領域のコレステリック液晶の螺旋ピッチを短くさせる工程を少なくとも含むことを特徴としたコレステリック液晶表示体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコレステリック液晶による画像・文字を表示する表示体に関し、特に一種類のコレステリック液晶を使用して、複数の発色領域を有する表示体を得る方法に関する。さらに詳しくはコレステリック液晶の螺旋ピッチ領域を短波長側にシフトさせることと長波長側にシフトさせることによって色味を変化させ、コントラストを明確にする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶にはネマチック液晶(分子が縦方向にのみ配列したもの)、スメクチック液晶(分子が縦横両方向に配列したもの)、及びコレステリック液晶(分子が面方向に配列して多数の薄層を成し、隣接薄層間の結晶の配列方向が少しずつずれているもの)の3種類が存在するが、本発明で使用する液晶はコレステリック液晶である。
【0003】
コレステリック液晶の発色は、コレステリック液晶分子の螺旋構造による選択反射によるものであり、反射光は円偏光である。コレステリック液晶を利用して所望の映像や画像や文字を表示する場合、鮮明かつ着色した像にするためには、コレステリック液晶の反射色を制御し、かつ、その螺旋構造を固定する必要がある。
【0004】
コレステリック液晶は、コレステロール化合物に多く見られるが、そのほかにもネマチック液晶にカイラル材料を添加することや不斉炭素を導入することでもコレステリック液晶状態を得ることができる。このタイプの液晶をカイラルネマチック液晶と呼ぶことがあり、本発明はこのタイプのコレステリック液晶についてであるが、単にコレステリック液晶と記す。
【0005】
コレステリック液晶を用いて、基材上の所望の位置に文字や画面を所望のパターンで表示するための従来の方法は、所望の文字や画面に対応する基材上の位置にコレステリック液晶の膜を形成する方法である。この方法は、一色だけで表示する場合には、たいした困難な作業なしに達成することができる。しかしながら、多色の表示は、色が異なる(螺旋ピッチが異なる)コレステリック液晶を色の種類に応じて準備し、所定の位置に配置することが必要である。これは、所望する文字・画像がごく単純である場合は可能であるが、文字・画像が多少複雑な場合には、かなり困難な作業になる。また、大掛かりな装置や多くの材料を用意する必要がある。しかも、色合いの微妙な制御も困難であり、往々にして目的の色からずれた色になってしまう場合が多い。
【0006】
コレステリック液晶は螺旋軸に沿って光の屈折率が周期的に変動するため、螺旋構造のピッチ(以下、螺旋ピッチと記載)に対応した波長の光を選択的に反射する。したがって、何らかの方法で螺旋ピッチを制御し、希望する紫外部、可視部ないし赤外部の光を反射する螺旋ピッチが得られたところで、その螺旋構造を固定化できれば、思い通りの反射色を作り出すことができる。
【0007】
螺旋ピッチを変化させるための公知技術はいくつかあり、例えば、この螺旋ピッチの高い温度依存性(サーモトロピック液晶)を利用して、温度により螺旋ピッチを制御する方法、溶媒コレステリック液晶(リオトロピック・コレステリック液晶)の螺旋ピッチを溶質の濃度変化などにより変化させる方法、コレステリック液晶の螺旋軸に垂直に電界を生じさせることによりピッチを変化させる方法、さらに該コレステリック液晶中に紫外線硬化物質を添加しておいて、コレステリック液晶の螺旋ピッチを固定化させるときの紫外線の照度により螺旋ピッチを変化させる方法(特許文献1)などがある。
【0008】
また、コレステリック液晶独特の美しい色を維持するためにはコレステリック螺旋構造を固定する必要がある。固定するための従来技術としては、サーモトロピック液晶では急速に冷却しガラス化する方法、リオトロピック液晶ではその溶液を乾燥、固化する方法、該コレステリック液晶中に紫外線硬化物質を添加しておいて、紫外線等のエネルギー照射により該紫外線硬化物質を重合・硬化させる方法(特許文献1)、などがある。
【0009】
特許文献1では、所望の画像が多少複雑な場合には、フォトマスクを使用して照射する紫外線の光量を画像の各々の場所で変えて色(螺旋ピッチ)を変えている。
【0010】
また、一種類のコレステリック液晶を使用して、螺旋ピッチが異なる領域を所望の形状で形成するためには、前記の方法で螺旋ピッチを所望値に制御した状態で、さらに特許文献1に記載されている重合・硬化させる方法によりその螺旋ピッチを固定させなければならない。
【0011】
従って、特許文献1の方法を用いて、螺旋ピッチが異なるコレステリック液晶を2種類以上製作し、2色以上の表示に使用する方法は、紫外線パターン露光装置等大掛かりな装置が必要であり、生産性も低い。
【0012】
また、別の方法として、螺旋ピッチが異なるコレステリック液晶を2種類以上用いて、それぞれ所望のパターンを形成し、重合させる方法がある。螺旋ピッチが異なるコレステリック液晶を所望の色数以上準備する方法としては、ネマチック液晶材料にカイラル材料を添加してコレステリック液晶にする方法を使用し、添加するカイラル材料の種類をかえたり、添加比率を変えたりする方法がある。
【0013】
しかし、この方法は多くの材料を用意する必要があり、容易ではない。しかも色合の微妙な制御も困難で、往々にして目的の色よりずれてしまう場合が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2000−226580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
コレステリック液晶を使用した部分的に色調が異なる文字・画像を有する物品を製造する方法とその方法を使用した物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、適当な強度の光をあて半硬化状態にしたコレステリック液晶に親和性のある物質を接触させたのち、溶剤を乾燥させコレステリック液晶の螺旋ピッチを短波長側にシフトさせ、結果として色調が変化することを見いだした。
【0017】
さらに、接触させる方法として塗布する方法、特に印刷法を使用することによって、背景や他の部分と色調が異なる文字や画層を簡便に形成できることを確認し、本発明に至った。
【0018】
本発明の請求項1に係わる発明は、光硬化性材料からなるコレステリック液晶を用いた表示体の製造方法であって、少なくとも基材に該コレステリック液晶を塗布する工程と、光照射する工程と、塗布した該コレステリック液晶層の一部領域に親和性を有する溶剤を浸透させる工程と、該溶剤を乾燥させる工程により、該コレステリック液晶に螺旋ピッチ
の異なる複数の領域を施すことを特徴とする表示体の製造方法である。
【0019】
本発明の請求項2に係わる発明は、前記溶剤の沸点が50℃以上200℃未満であることを特徴とする請求項1に記載の表示体の製造方法である。
【0020】
本発明の請求項3に係わる発明は、前記溶剤が少なくともカイラル剤を含むことを特徴とする請求項1又はに記載の表示体の製造方法である。
【0021】
本発明の請求項4に係わる発明は、前記コレステリック液晶に螺旋ピッチの異なる複数の領域を施した後に、再度、光照射をすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかにに記載の表示体の製造方法である。
【0022】
本発明の請求項5に係わる発明は、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法を用いることを特徴とするた表示体である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の方法を使用することによって、大掛かりな装置や複数のコレステリック液晶を用いることなく、1種類のコレステリック液晶を用い、所望の領域に対して、コレステリック液晶の螺旋ピッチを、印刷法などの方法によって、簡便に変化させることができる。また、その方法を使用したコレステリックの表示体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態の断面説明図を示す。
【図2】本発明の一実施形態の平面説明図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、図1に示すように、基材(1)にコレステリック液晶層(2)を設け、次に、適度な光照射により該コレステリック液晶層を半硬化状態にし、その後、コレステリック液晶層と親和性を有する溶剤又はその溶剤を含む物質と接触させることで螺旋ピッチを変化させて、コレステリック液晶層中に第1領域(2a)や第2領域(2b)などの螺旋ピッチの異なる複数の領域を設け、再度、光照射により完全硬化させて表示体を得る製造方法である。
【0026】
本発明で用いることができるコレステリック液晶は、コレステリック構造を有する、あるいは温度条件等でコレステリック構造となる化合物である。特に限定されるものではなく公知のコレステリック液晶材料が使用可能である。
【0027】
例えば、コレステリック液晶形成性化合物として、従来公知のヒドロキシアルキルセルロースのアシル誘導体類、コレステリック液晶形成性ポリペプチド類、コレステリック液晶形成性の芳香族ポリエステル類、ポリカーボネート類、芳香族ポリエステルイミド類、芳香族ポリアミド類などの主鎖型高分子液晶形成性化合物、さらにポリ(メタ)アクリレート系、ポリマロネート系、ポリシロキサン系等の側鎖型高分子液晶形成性化合物などを使用し、それらにカイラル材料を混合してコレステリック液晶としたものを使用することができる。
【0028】
ヒドロキシアルキルセルロースのアシル誘導体製造に使用されるヒドロキシアルキルセルロースとしては、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチル化ヒドロキシプロピルセルロースのアシル誘導体等がある。
【0029】
剛直なセルロース分子主鎖部分に対し側鎖にフレキシブルな分子鎖を導入することが必
要であり、側鎖の長さ、フレキシビリティや剛直性等を制御するために種々のアシル誘導体が使用される。例えば、炭素数凡そ1〜30の脂肪族、脂環族、芳香族カルボン酸のエステル類が好ましい。例を挙げると、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、2−メチル酪酸、トリメチル酢酸、カプロン酸、ヘプタン酸、カプリル酸、ノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸等の飽和カルボン酸のエステル類、シクロヘキサンカルボン酸、シクロヘキシル酢酸、シクロヘキサンプロピオン酸、シクロヘキサン酪酸等の脂環族カルボン酸のエステル類、安息香酸、フェニル酢酸、3−フェニルプロピオン酸、5−フェニル吉草酸、4−フェニル酪酸等の芳香族カルボン酸のエステル類、及びアクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸のエステル類が好ましい。
【0030】
また、エステル化の程度により性質、挙動が異なり、従って化合物の設計として完全エステル化物及び部分エステル化物が使用される。また、不飽和カルボン酸のエステル類は液晶化合物と併用されるエネルギー線硬化性化合物と共に硬化(重合)反応を起こすことができる。従って架橋を目的として飽和カルボン酸の一部、例えば0.1〜20%を不飽和カルボン酸に置き換えて使用することも有効な方法である。
【0031】
好ましいコレステリック液晶形成性化合物としては、ヒドロキシプロピルセルロースの酢酸エステル、ヒドロキシプロピルセルロースのプロピオン酸エステル、ヒドロキシブチル化ヒドロキシプロピルセルロースの酢酸エステル、ヒドロキシブチル化ヒドロキシプロピルセルロースのプロピオン酸エステル、ヒドロキシブチルセルロースの酢酸エステル、ヒドロキシブチルセルロースのプロピオン酸エステル等、ヒドロキシプロピルセルロースのアクリル酸エステル、ヒドロキシプロピルセルロースのメタクリル酸エステル、ヒドロキシブチル化ヒドロキシプロピルセルロースのアクリル酸エステル、ヒドロキシブチル化ヒドロキシプロピルセルロースのメタクリル酸エステル、ヒドロキシブチルセルロースのアクリル酸エステル、ヒドロキシブチルセルロースのメタクリル酸エステル等の完全エステル化物及び部分エステル化物、ヒドロキシプロピルセルロースの酢酸エステル−メタクリル酸エステル、ヒドロキシプロピルセルロースのプロピオン酸エステル−メタクリル酸エステル、ヒドロキシブチル化ヒドロキシプロピルセルロースのプロピオン酸エステル−メタクリル酸エステル、ヒドロキシブチルセルロースのプロピオン酸エステル−メタクリル酸エステル等が挙げられる。
【0032】
本発明に使用することができるコレステリック液晶形成性化合物としては、さらに従来公知の低分子量及び中分子量のコレステリック液晶形成性化合物も、単独または上記した高分子量のコレステリック液晶形成性化合物と併用して使用することができる。これらのコレステリック液晶形成性化合物にカイラル材料を混合することによって、カイラル性のあるコレステリック液晶となる。
【0033】
本発明に使用するカイラル材料は、ネマチック液晶に溶解してコレステリック液晶相を発現させるものであり、従来公知のものを適宜選択して使用することができる。
【0034】
また、コレステリック液晶材料の螺旋ピッチ、すなわち色調、を固定させるためには、基材上に塗布した後に、急速に冷却しガラス化する方法、溶液を乾燥し固化する方法、エネルギー照射することにより固定化する方法などがある。本発明においては、コレステリック液晶の配向方法や螺旋ピッチの固定方法は、公知の手段を適宜選択して使用することができる。
【0035】
本発明の螺旋ピッチが異なる複数の領域を有するコレステリック液晶表示体とは、コレステリック液晶の膜を基材上に形成し、正面から表示体を見たとき、赤色から緑色へ色味が変化する領域や緑色から青色に変化する領域などが具備された表示体である。例えば、
反射波長が610−750nmの赤色から500−560nmの緑色に色味がシフトする領域と反射波長500−560nmの緑色から435nm−480nmの青色に色味がシフトする領域が具備された表示体である。
【0036】
本発明のコレステリック液晶と親和性を有する溶剤をそのコレステリック液晶表示体の一部領域に接触させた場合、例えば、赤色から緑色、緑色から青色に色味をシフトさせることができる。
【0037】
また、コレステリック液晶と親和性を有する溶剤を含む物質が、そのコレステリック液晶表示体の一部領域に接触させた場合、親和性を有する溶剤のみを接触させたときに比べ、接触させ色味を変化させた部分と変化させていない部分との境目を明確にさせることができる。
【0038】
本発明に使用するコレステリック液晶と親和性を有する溶剤の沸点は、例えばグラビア印刷で塗工した場合、50℃未満の沸点領域だと、乾燥炉内で溶剤が早く乾燥し過ぎてしまう。200℃以上だと、溶剤が乾燥炉内で、乾燥しないため、使用する溶剤の沸点を50℃以上200℃未満にするのが好ましい。
【0039】
また、コレステリック液晶と親和性を有する溶剤として、例えばメチルエチルケトン、トルエン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジメチルアセトアミドを用いてもよい。
【0040】
一方、コレステリック液晶と親和性を有する溶剤として、水やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールといった、水溶性の溶剤は、コレステリック液晶と親和性が乏し傾向があるため、用いることができない。
【0041】
また、コレステリック液晶と親和性を有する溶剤を含む物質は、塩化ビニル、アクリル、塩化酢酸ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体をコレステリック液晶と親和性を有する溶剤に溶解させインキ化したものを用いてもよい。
【0042】
本発明の請求項3に係るカイラル剤とは、該コレステリック液晶を構成しているカイラル剤と同一のものを使用する。この場合コレステリック液晶の分子内にカイラル剤が介入し螺旋ピッチを短くさせる効果に関する。
【0043】
溶剤等が揮発してなくなった段階において、所望の色調がえられるようにするためには、螺旋ピッチをいったん固定する工程を、溶剤等が揮発して色調が変化する分を考慮して固定する必要がある。いったん色調を固定した後に、コレステリック液晶に接触したときに親和性のある物質と接触させ、コレステリック液晶の螺旋ピッチをさらに変化させて、所望の色調とする。
【0044】
複数の色を表示したい場合、本発明の方法を使用すれば、用意するコレステリック液晶は、1種類でよく、複数用意する必要はない。また、そのコレステリック液晶の厚さは、0.5μm〜20μmが好ましい。
【0045】
また、コレステリック液晶層に浸透させることによって、螺旋ピッチを長くさせる物質としては、モノマーでもよいしオリゴマーまたはポリマーでもよい。
【0046】
実際に本発明において使用して好適なモノマーとしては、オレフィン、ハロゲン化オレフィン、ジエン、アセチレン、ビニル化合物、スチレン、アクリル酸類等の炭素多重結合系モノマーや、環状エーテル、ラクトン、ラクタム、環状アミン、環状スルフィド、環状
カーボナート、環状酸無水物、環状イミノエーテル、アミノ酸−N−カルボン酸無水物、環状イミド、環状含リン化合物、環状含シリコン化合物、環状オレフィン等の環状モノマー、フェノール、メラミン、尿素、ジアミン、ジカルボン酸、オキシカルボン酸、アミノカルボン酸、ジオール、ジイソシアナート、含硫黄化合物、含リン化合物芳香族エーテル、ジハロゲン化合物、アルデヒド、ジケトン化合物等の2官能性モノマー等が挙げられる。
【0047】
実際に本発明において使用することができるポリマーとしては、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリアクリル、ポリハロオレフィン、ポリジエン、ポリエーテル、ポリスルフィド、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素、ポリイミド、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリイミン、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリスルホン、ポリフェニレン等が挙げられ、さらに前記のモノマーを複数重合させたものや、2種類以上のモノマーからなる共重合体を用いてもよい。
【0048】
モノマー、オリゴマー、ポリマーのいずれにおいても、浸透させたいコレステリック液晶との溶解度パラメーターが近いものほど浸透させやすい傾向がある。
【0049】
コレステリック液晶に浸透させる物質として、カイラル性がある物質を使用する場合には、コレステリック液晶状態を保持することができるかどうかを、あらかじめ検討する必要がある。
【0050】
上記の浸透性のある物質がコレステリック液晶に浸透していくにつれて、色調が変化していく。所望の色調になった段階で、その色調を固定する必要がある。その方法には、上記コレステリック液晶にエネルギー線硬化性化合物を添加しておき、所望の色調になった時点で、エネルギー線を照射して硬化する方法が好ましい。エネルギー線として、通常は紫外線を使用することが簡便である。
【0051】
コレステリック液晶に添加するエネルギー線硬化性化合物には特に制限は無く、従来公知のエネルギー線硬化性化合物が使用できる。特に、分子中に2個ないしそれ以上のエネルギー線硬化性基を有する単量体、オリゴマー及び/又はポリマーを含有することが好ましい。
【0052】
例えば、ラジカル系光重合性単量体として従来公知の、例えば、トリメチロールプパントリ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能性単量体、ポリウレタンポリ(メタ)アクリレート、ポリエーテルポリ(メタ)アクリレート、エポキシ樹脂ポリ(メタ)アクリレート、アクリルポリオールポリ(メタ)アクリレート等の多官能性オリゴマー類が好ましい。
【0053】
また、一官能性の単量体としては、アルキル(C1〜C18)(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アルキレン(C2〜C4)グリコール(メタ)アクリレート、アルコキシ(C1〜C10)アルキル(C2〜C4)(メタ)アクリレート、ポリアルキレン(C2〜C4)グリコール(メタ)アクリレート、アルコキシ(C1〜C10)ポリアルキレン(C2〜C4)グリコール(メタ)アクリレート等である。カチオン系光重合性単量体として従来公知の芳香族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、グリシジルエステル系化合物が好ましい。
【0054】
一方、本発明で使用するエネルギー線硬化用の重合開始剤等は照射するエネルギー線により適切な特性の公知の重合開始剤が必要に応じて使用される。例えば、光重合開始剤と
しては従来公知のものを使用することができる。例えば、ラジカル光重合開始剤として、α−ヒドロキシアセトフェノン系、α−アミノアセトフェノン系等のアセトフェノン系、ベンゾインエーテル系、ベンジルケタール系、α−ジカルボニル系、α−アシルオキシムエステル系等公知のものが使用できる。具体的にはα−アミノアセトフェノン、アセトフェノンジエチルケタール、ベンジルジメチルケタール、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチルフェニルプロパノン、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、イソプロピルチオキサントン、ベンゾフェノンとN−メチルジエタノールアミンとの併用等が挙げられる。
【0055】
カチオン系光重合開始剤としては従来公知のもの単独のほか、増感剤や過酸化物との併用も好ましい。例えば、アリルヨードニウム塩−α−ヒドロキシアセトフェノン系、トリアリルスルホニウム塩系、メタロセン化合物−パーオキサイド併用系、メタロセン化合物−チオキサントン併用系、メタロセン化合物−アントラセン併用系等である。
【0056】
コレステリック液晶形成性化合物とエネルギー線重合性化合物との組成物の調製に際して、配合量は特に限定されないが、例えば、コレステリック液晶形成性化合物40〜98質量部、エネルギー線重合性化合物2〜60質量部、重合開始剤0〜10質量部の配合比であり、好ましくは、コレステリック液晶形成性化合物55〜95質量部、エネルギー線重合性化合物5〜45質量部、重合開始剤0〜5質量部の配合比である。必要に応じて溶解助剤として両者の良溶媒を使用することができる。さらに必要に応じて従来公知の種々の添加剤を含むことができる。
【0057】
また、エネルギー線照射により螺旋ピッチを固定化するためにコレステリック液晶材料に添加するエネルギー線硬化性材料及び光重合開始剤は特に制限はなく、従来公知の材料を用いることができる。また、その場合添加量は特に限定されない。
【0058】
本発明では、コレステリック液晶を配向させることによって、コレステリック液晶層を形成する。コレステリック液晶を配向させるためには、配向膜として、ラビング処理した基材、公知の光配向膜、または、延伸加工したフィルムなどを使用できる。
【0059】
本発明に用いることのできる基材は、不透明なものでも透明なものでもよい。透明材の場合には、基板面からも表示を見ることができる。実際には例えば、延伸加工により作製されたプラスチックフィルムを用いることができる。延伸フィルムには伸ばし方により、1軸延伸、2軸延伸フィルムがある。これらには、セロハン、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリオレフィン(PO)、エチレンビニールアルコール(EVOH)、ポリビニールアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムなどが挙げられる。中でも光を吸収する色素を含む基材は、コレステリック液晶の着色をより効果的に表示することが出来る。また、透明な基材を選択した場合は、基材に色の吸収層を設けてもよい。
【0060】
コレステリック液晶の螺旋ピッチを、一部分のみ変化させる方法としては、第一に、基材にコレステリック液晶層にレステリック液晶と親和性を有する溶剤又はその溶剤を含む物質をコレステリック液晶に接触させる。次に溶剤を乾燥させ、その他の一部のコレステリック液晶に浸透性のある物質を浸透させ、コレステリック液晶の螺旋ピッチを長波長側にシフトさせる。色調が変化した時点で、上記したエネルギー線照射法によって螺旋ピッチを固定する方法がある。
【0061】
この方法によって、一部のコレステリック液晶層にコレステリック液晶と親和性を有する溶剤又はその溶剤を含む物質が接触することによって、コレステリック液晶分子を構成
している特定の成分をコレステリック液晶の表層に遊離させることで、分子内の螺旋構造を構築している成分が、取り除かれ、螺旋ピッチが短くなると考えられる。また、一部のコレステリック液晶層に浸透性のある物質が浸透した部分は、浸透性物質がコレステリック液晶中に入り込み、コレステリック液晶の螺旋ピッチが長くなると考えられる。
【0062】
コレステリック液晶を基材全面に塗布し、その上にコレステリック液晶と親和性を有する溶剤又はその溶剤を含む物質Aとコレステリック液晶層に浸透性のある物質Bの2種類を使用して、所望のパターンで形成することによって、3色の色調を得ることができる。すなわち、コレステリック液晶だけの色調、Aが接触することによってできた部分の色調、コレステリック液晶にBが浸透してできた部分の色調である。
【0063】
なお、コレステリック液晶を基材全面に塗布し、その上に上記AとB以外に、前記溶剤を含む物質にカイラル剤を使用したCを所望のパターンで形成することによって、3種類以上の多色化を出現させることができる。
【0064】
本発明の方法を使用することによって、コレステリック液晶の螺旋ピッチを短くした第一領域とは異なる第二領域にコレステリック液晶に浸透性のある物質を浸透させ、コレステリック液晶の螺旋ピッチを長くさせる工程を含むことによって、本発明の該コレステリック液晶を二つの方法により、螺旋ピッチを変化させている方法は、どちらか一方の方法で、螺旋ピッチを変化させ、色味を変える方法に比べ色味のコントラストが明確になる効果がある。
【0065】
本発明は、適度な光照射により該コレステリック液晶層を半硬化状態にし、その後、コレステリック液晶層と親和性を有する溶剤又はその溶剤を含む物質と接触させることで螺旋ピッチを変化させて、コレステリック液晶層中に第1領域(2a)や第2領域(2b)などの螺旋ピッチの異なる複数の領域を設け、再度、光照射により完全硬化させて表示体を得る製造方法である。
【0066】
前記半硬化状態とは、光硬化性材料からなるコレステリック液晶層の組成にもよるが、コレステリック液晶が基材に配向し、UV光によって硬化し、固定化された分子と固定化されないままの分子が共存している状態である。
【0067】
前記完全硬化とは、上述の溶剤又はその溶剤を含む物質と接触させることで螺旋ピッチを変化させて所望のパターン形成を終了した後に、前記親和性を有する溶剤などから再度浸透を受けない耐性を付与するために施す工程であり、通常、半硬化状態で照射した量の2倍から20倍照射することによって得られる。
【0068】
コレステリック液晶層、浸透性物質を所望のパターンで塗布する方法としては、一番簡便には筆書きする方法がある。また、インクジェット法は有効な方法である。さらに、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷等の公知のコーティング方法が挙げられる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例をあげて本発明の具体的な説明をする。
基材(1)として、2軸延伸ポリエステルフィルム(東レ社製:商品名「ルミラー25T60」)上に、コレステリック液晶(BASF社製:商品名「Paliocolor LC242」)を、マイクログラビアを用いて膜厚2.5μmになるように塗布してコレステリック液晶層(2)を得た。次に、紫外線を100mJ/cm2照射し、螺旋ピッチを半硬化状態に固定した。このときのコレステリック液晶層の色味は、正面から基材を見たとき、反射波長が590nmの黄色から、上下左右に傾けると反射波長が530nmの緑
色にシフトする色味を示した。
【0070】
図1のように螺旋ピッチを半硬化状態に固定化したコレステリック液晶層(2)の上に、印刷法を用いて、MEK/トルエンに溶解させた日信化学社製(商品名「ソルバイン CL」)の塩酢ビ樹脂層(3)を厚さ1μmで塗布し形成した。
【0071】
次に、上記塩酢ビ樹脂層(3)を含めたコレステリック液晶層(2)全面に、印刷法を用いてBASF社製(商品名「Paliocolor LC756」)のネマチック液晶層(4)を、厚さ1μmで塗布し形成した。
【0072】
次に、紫外線を800mJ/cm2照射し、螺旋ピッチの異なる領域を有するコレステリック液晶層を完全硬化状態に固定した。
【0073】
その後、光吸収層(5)の上に粘着層(6)を設け、型抜きを行い、シール化し、コレステリック液晶の表示体を得た。
【0074】
上述のコレステリック液晶の表示体を液晶側から観察すると、図2に示すA領域(7)では、正面から見ると緑色であり、上下左右に傾けると青色に変化した。一方、B領域(8)では、反射波長が長波長側にシフトし、正面から見ると赤色であり、上下左右に傾けると緑色に変化して見え、螺旋ピッチの異なる二つの領域を有する表示体が得られた。
【符号の説明】
【0075】
1・・・・・基材
2・・・・・コレステリック液晶層
2a・・・第1領域(ネマチック液晶が浸透した螺旋ピッチ領域)
2b・・・第2領域(塩酢ビ樹脂が浸透した螺旋ピッチ領域)
3・・・・・塩酢ビ樹脂層
4・・・・・ネマチック液晶層
5・・・・・光吸収層
6・・・・・粘着層
7・・・・・A領域(正面から見ると緑色領域)
8・・・・・B領域(正面から見ると赤色領域)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性材料からなるコレステリック液晶を用いた表示体の製造方法であって、少なくとも基材に該コレステリック液晶を塗布する工程と、光照射する工程と、塗布した該コレステリック液晶層の一部領域に親和性を有する溶剤を浸透させる工程と、該溶剤を乾燥させる工程により、該コレステリック液晶に螺旋ピッチの異なる複数の領域を施すことを特徴とする表示体の製造方法。
【請求項2】
前記溶剤の沸点が50℃以上200℃未満であることを特徴とする請求項1に記載の表示体の製造方法。
【請求項3】
前記溶剤が少なくともカイラル剤を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の表示体の製造方法。
【請求項4】
前記コレステリック液晶に螺旋ピッチの異なる複数の領域を施した後に、再度、光照射することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の表示体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製造方法で得られたことを特徴とする表示体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate