説明

表示素子及び表示装置

【課題】一つの素子で3階調以上を表示することができると共に、白表示や着色表示時の反射率が高く、かつ、白表示や着色表示と黒表示とのコントラストが高い表示素子を提供する。
【解決手段】金属層4と、透明層本体3と、第1の透明導電層5と、電解質層6と、第2の透明導電層7を備え、金属層4の屈折率の実部をn1、虚部をk1とし、透明層本体3の屈折率の実部の平均をn、虚部の平均をkとし、電解質層の屈折率の実部をn2、虚部をk2とし、第1の透明導電層5に所定の電圧を印加することで析出する半透明金属層8の屈折率の実部をn3、虚部をk3としたとき、(r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2)≧0.45、(r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2)/(r12+r32+2r1r3)/(1+(r1r3)2+2r1r3)≧2、k<0.04を満たす様に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示素子及び表示装置に関する。詳しくは、異なる電気信号の印加によって着色状態と消色状態を可逆的に表示できる表示素子及び表示装置に係るものである。
【背景技術】
【0002】
電気信号の印加によって書き換えが可能であり、かつ、その表示が電力を用いることなく保持される様な表示素子は、主として電子ペーパー用途での開発が行われている。
なお、こうした表示素子では、高い反射率が求められると共に、高い反射率を保ちつつ、できるだけ多階調での表示が求められている。
【0003】
ところで、従来の表示素子としては、例えば、白黒のツイストボールの反転を利用するもの(例えば、非特許文献1参照)、白色と黒色の帯電粒子の移動を利用するもの(例えば、非特許文献2、非特許文献3及び非特許文献4参照)、メモリー性を有する液晶の配向状態を制御するもの(例えば、非特許文献5及び非特許文献6参照)、電極上に金属を析出させたり、析出した金属を溶解させたりするもの(例えば、非特許文献7及び特許文献1参照)等が報告されている。
【0004】
しかし、こうした技術では、一つの素子で白表示と黒表示、若しくは、カラーフィルタを用いた着色表示と白表示、若しくは、着色表示と黒表示等の2階調表示しかできない。また、カラーフィルタを用いた表示の場合、屋外等ではカラーフィルタに用いる色素が太陽光の照射と共に分解し、色が薄くなってしまう。更には、カラーフィルタを介装する工程が必要となることから、高コストとなってしまう。
【0005】
なお、上記した2階調表示しかできないという点に加えて、以下の点も懸念される。
即ち、ツイストボール方式を用いる技術(例えば、上述の非特許文献1)は、白黒表示では高反射率と高コントラストが実現できるものの、書き換えに高電圧が必要となってしまう。また、白色と黒色の帯電粒子を電気的に制御する技術(例えば、上述の非特許文献2)では、白黒表示であっても低コントラストとなってしまったり、書き換えに高電圧を必要としたりする等の問題がある。更に、高分子中に低分子液晶を分散させる技術(例えば、上述の非特許文献5及び非特許文献6)では、白黒表示の保持時間が短く、表示コントラストが低い。また、電極上に金属を析出させたり、析出した金属を溶解させたりする技術(例えば、上述の非特許文献7及び特許文献1)では、書き換え時間が長く、繰り返し耐久性に乏しいといった問題がある。
【0006】
一方で、カラーフィルタを用いることなく着色状態と消色状態が制御可能な従来の可逆性表示素子の一例として、メモリー性を有するコレステリック液晶を用いた表示素子(例えば、特許文献2参照)が報告され、カラー電子ペーパーとして実用化されている。
【0007】
特許文献2に記載された表示素子は、一つの素子でフルカラー表示が可能であるために3階調以上の表示が可能である。しかし、白色表示や着色表示時の反射率が概ね32%以下であり、表示の明るさという点が懸念される。更に、コレステリック液晶材料は高額であると共に、素子構造が複雑であることから製造コストが高くなってしまう。また、フレキシブル化させた場合には液晶の配向状態に影響が出て、視認性が損なわれる恐れがある。
【0008】
また、カラーフィルタを用いることなく着色状態と消色状態を制御可能な従来の可逆性表示素子の別の例として、材料の酸化状態と還元状態に伴う着色状態と消色状態の違いを利用した表示素子(例えば、非特許文献8及び非特許文献9)が報告されている。
【0009】
しかし、非特許文献8や非特許文献9に記載された表示素子は、一つの素子で着色状態と白表示、若しくは、着色表示と黒表示等の2階調表示しかできない。更に、書き換え時間が長く、繰り返し耐久性に乏しく、外部の光照射に対して弱い等が懸念される。
【0010】
更に、カラーフィルタを用いることなく着色状態と消色状態を制御可能な従来の可逆性表示素子の更に別の例として、油性着色インクを電気的に移動させることで、フルカラー表示を試みた表示素子(例えば、非特許文献10)が報告されている。
【0011】
しかし、非特許文献10に記載された表示素子は、一つの素子で着色表示か白表示、若しくは、黒表示か白表示等の2階調表示しかできない。更に、非着色表示時に油性着色インクの排除が不十分であるために、モノクロ表示時の反射率が40%以下、フルカラー表示時の反射率が14%以下となり、明るいフルカラー表示が困難である。
【0012】
また、カラーフィルタを用いることなく着色状態と消色状態を制御可能な従来の可逆性表示素子のまた更に別の例として、酸化物ナノ粒子上に金属ナノ粒子を析出させたり、析出した金属ナノ粒子を溶解させたりする表示素子(例えば、特許文献3参照)が報告されている。
【0013】
しかし、特許文献3に記載された表示素子は、一つの表示素子で着色表示と白表示、若しくは、着色表示と黒表示等の2階調表示しかできない。また、色が薄い、色純度が悪い等の、様々な色を表現し難いといった問題を抱えている。
【0014】
上述した様な点に鑑みて、カラーフィルタを用いることなく着色状態を制御する可逆性表示素子として、ポーラスアルミナ層の両端に2つの金属層を設けた構造体において、ポーラス構造内の充填物の屈折率を機械的または電気的に変化させることで、構造体の色を変化させる技術が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0015】
特許文献4に記載された表示素子では、ポーラス構造内に液晶物質を充填し、電圧で液晶の配向を可逆的に制御することによって、表示色を変化させることができると報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−92183
【特許文献2】特開2008−3629
【特許文献3】特開2007−279609
【特許文献4】特開2007−25642
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】R.C.Lean、Journal of Imaging Science and Technology、Vol. 46、No. 6、2002、562-574.
【非特許文献2】T. Kitamura、G. -Jo、K. Hoshino、Proceeding of IS&Ts NIP 16: 2000 International Conference on Digital Printing Technology、110−112。
【非特許文献3】藤沢宣、丸山和則、林正直、小野義之、米原祥友、鈴木保之著、電子情報通信学会技術研究報告、2、2003、21−23。J. D. Albert、H. Yoshizawa、J. Jacobson、Nature 394、1998、253−255。
【非特許文献4】R. Hattori、S. Yamada、Y. Masuda、Norio Nihei、Ryo Sakurai、SID '04 DIGEST、2004、136−139。
【非特許文献5】植田秀昭、O plus E Vol. 25 No. 3、2003、296−300。K. Ochi、E. Yamakawa、K. Hashimoto、K. Kohriyama、IDW '00、2000、281−284。
【非特許文献6】藤沢宣、丸山和則、林正直、小野義之、米原祥友、鈴木保之、電子情報通信学会技術研究報告 2、2003、21−23。
【非特許文献7】K. Shinozaki、SID DIGEST 2002、39−41。篠崎研二、印刷・情報記録・表示研究会講座講演要旨集 Vol. 2002、2003、27−31。
【非特許文献8】S. Gottesfeld、J.D.E.McIntyre、J. Electrochem. Soc. Vol. 126 No. 5、1979、742−750。
【非特許文献9】T. Masumi、K. Nomura、K. Nishioka、H. Deguchi、H. Ono、SID '82 DIGEST、1982、100−101。P. Bonhote、E. Gogniat、F. Campus、L. Walder、M. Graetzel、Display Vol. 20、1999、137−144。
【非特許文献10】R. A. Haynes、B. J. Feenstra、Nature Vol. 425、2003、383−385。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、特許文献4に記載された表示素子では、ポーラス構造内に充填された液晶物質の屈折率変化が小さく、色の変化が著しく小さい。また、特許文献4に記載された表示素子では、電圧を印加することで表示色を微小に変動させることは可能であるものの、着色と消色を制御することは不可能である。
【0019】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであって、一つの素子で3階調以上を表示することができると共に、白表示や着色表示時の反射率が高く、かつ、白表示や着色表示と黒表示とのコントラストが高い表示素子及び表示装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の目的を達成するために、本発明の表示素子では、金属層と、該金属層の上層に配置されると共に、少なくとも前記金属層とは反対側領域に透明導電層を有して構成された透明層と、該透明層の前記金属層とは反対側に配置されると共に、金属イオンを含有して構成された電解質層とを備え、前記金属層の屈折率の実部をn1、虚部をk1とし、前記透明層の屈折率の実部の平均をn、虚部の平均をkとし、前記電解質層の屈折率の実部をn2、虚部をk2とし、前記透明層の透明導電層に所定の電圧を印加することで前記透明層の透明導電層上に析出する半透明金属層の屈折率の実部をn3、虚部をk3としたとき、
(r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2) ≧ 0.45
(r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2) / (r12+r32+2r1r3)/(1+(r1r3)2+2r1r3) ≧ 2
k < 0.04
ただし r1 = |(n1+k1i-n-ki)/(n1+k1i+n+ki)|
r2 = |(n2+k2i-n-ki)/(n2+k2i+n+ki)|
r3 = |(n3+k3i-n-ki)/(n3+k3i+n+ki)|である
を満たしている。
【0021】
また、上記の目的を達成するために、本発明の表示装置では、金属層と、該金属層の上層に配置されると共に、少なくとも前記金属層とは反対側領域に第1の透明導電層を有して構成された透明層と、該透明層の前記金属層とは反対側に配置されると共に、金属イオンを含有して構成された電解質層と、該電解質層の前記透明層とは反対側に配置された第2の透明導電層と、前記透明層の第1の透明導電層に所定の電圧を印加する電圧印加部とを備え、前記金属層の屈折率の実部をn1、虚部をk1とし、前記透明層の屈折率の実部の平均をn、虚部の平均をkとし、前記電解質層の屈折率の実部をn2、虚部をk2とし、前記透明層の第1の透明導電層に所定の電圧を印加することで前記透明層の第1の透明導電層上に析出する半透明金属層の屈折率の実部をn3、虚部をk3としたとき、
(r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2) ≧ 0.45
(r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2) / (r12+r32+2r1r3)/(1+(r1r3)2+2r1r3) ≧ 2
k < 0.04
ただし r1 = |(n1+k1i-n-ki)/(n1+k1i+n+ki)|
r2 = |(n2+k2i-n-ki)/(n2+k2i+n+ki)|
r3 = |(n3+k3i-n-ki)/(n3+k3i+n+ki)|である
を満たしている。
【0022】
ここで、透明層の金属層とは反対側に、金属イオンを含有して構成された電解質層が配置されたことによって、透明導電層や第1の透明導電層に負電圧を印加することで透明層上に金属を電気的に析出させることができると共に、透明導電層や第1の透明導電層に正電圧を印加することで透明層上に析出した金属を溶解させることができる。
【0023】
また、金属層の上層に透明層が配置され、透明層の金属層とは反対側に電解質層が配置されたことによって、透明層が金属層と透明層上に析出した金属とで挟まれた構造からなる共振器が形成されることとなる。そのため、所定の波長の光が干渉により弱められることとなる。
【0024】
ところで、これまでのフルカラー表示の電子ペーパーの無色状態の反射率は少なくとも45%以下であることを考慮し、着色や黒色として充分認識可能なコントラストは2以上であることから、表示素子に対しても、消色時の反射率が45%以上であり、無色状態と着色や黒色表示時のコントラストが2以上であることが求められる。
【0025】
そして、「(r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2) ≧ 0.45」の条件と、「k < 0.04」の条件を満たすことによって、消色時の反射率が45%以上となる。
また、「(r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2) / (r12+r32+2r1r3)/(1+(r1r3)2+2r1r3) ≧ 2」の条件と、「k < 0.04」の条件を満たすことで、無色時と着色時のコントラストが2以上となる。
【0026】
また、透明層の膜厚が30nm以上480nm以下に構成された場合には、明瞭な発色を実現することが可能となる。更に、透明層がポーラス構造に構成された場合には、着色状態の色純度が向上することとなる。
【0027】
また、電解質層の電解質がイオン性液体で構成された場合には、良好な書き換え安定性が実現することとなる。更に、電解質層の電解質がイオン性液体を含有するゲルで構成された場合には、良好な書き換え安定性が実現すると共に、取り扱い安全性が向上することとなる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の表示素子及び表示装置では、一つの素子で3階調以上を表示することができると共に、白表示や着色表示時の反射率が高く、かつ、白表示や着色表示と黒表示とのコントラストが高い。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明を適用した表示素子の一例を説明するための模式図である。
【図2】波長と反射率との関係を説明するためのグラフ(1)である。
【図3】入射光の軌跡を説明するための模式図である。
【図4】金属膜が析出した状態の表示素子を説明するための模式図である。
【図5】波長と反射率との関係を説明するためのグラフ(2)である。
【図6】膜厚と反射率との関係を説明するための図である。
【図7】反射率が減少する波長帯の数を説明するための図である。
【図8】反射率が減少する波長帯の幅を説明するための図である。
【図9】実施例1の表示素子の波長と反射率との関係を示すグラフ(1)である。
【図10】実施例1の表示素子の波長と反射率との関係を示すグラフ(2)である。
【図11】実施例2の表示素子の波長と反射率との関係を示すグラフ(1)である。
【図12】実施例2の表示素子の波長と反射率との関係を示すグラフ(2)である。
【図13】実施例3の表示素子の波長と反射率との関係を示すグラフ(1)である。
【図14】実施例3の表示素子の波長と反射率との関係を示すグラフ(2)である。
【図15】実施例4の表示素子の波長と反射率との関係を示すグラフ(1)である。
【図16】実施例4の表示素子の波長と反射率との関係を示すグラフ(2)である。
【図17】実施例5の表示素子の波長と反射率との関係を示すグラフ(1)である。
【図18】実施例5の表示素子の波長と反射率との関係を示すグラフ(2)である。
【図19】比較例1の表示素子の波長と反射率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」と称する)について、図面を参酌しながら説明を行う。
【0031】
図1は本発明を適用した表示素子の一例を説明するための模式図であり、本実施の形態の表示素子1は、金属層4の上層に透明層本体3が設けられ、透明層本体3の上層に第1の透明導電層5が設けられている。また、第1の透明導電層5の上層には電解質層6が設けられ、電解質層6の上層に第2の透明導電層7が設けられている。なお、透明層本体3及び第1の透明導電層5が金属層の上層に配置された透明層の一例であり、透明層本体3と第1の透明導電層5の膜厚の和が30nm〜480nmとなる様に構成されている。
【0032】
また、本実施の形態に係る表示素子1は、金属層4の屈折率の実部をn1、虚部をk1とし、透明層本体3と第1の透明導電層5の平均屈折率の実部をn、虚部をkとし、電解質層6の屈折率の実部をn2、虚部をk2とし、透明層の透明導電層上に析出した半透明金属層の屈折率の実部をn3、虚部をk3とした場合に、以下の式1〜式3を満足している。
【0033】
[式1](r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2) ≧ 0.45
[式2](r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2) / (r12+r32+2r1r3)/(1+(r1r3)2+2r1r3) ≧ 2
[式3]k < 0.04
ただし r1 = |(n1+k1i-n-ki)/(n1+k1i+n+ki)|
r2 = |(n2+k2i-n-ki)/(n2+k2i+n+ki)|
r3 = |(n3+k3i-n-ki)/(n3+k3i+n+ki)|である。
【0034】
ここで、本実施の形態に係る表示素子1に第2の透明導電層7側から入射した可視光領域の波長を有する光(λ1、λ2、λ3)は、第2の透明導電層7、電解質層6、第1の透明導電層5、透明層本体3の順に透過する。
【0035】
透過した光(λ1、λ2、λ3)は金属層4で反射し、再び透明層本体3、第1の透明導電層5、電解質層6、第2の透明導電層7の順に透過する。そのため、表示素子1では光はほとんど吸収されず着色しない(図1(a)参照)。
【0036】
なお、図1(a)に示す状態での反射率を図2中符号Aで示すが、可視光領域の光に対して、大きな反射率が達成できていることが分かる。
【0037】
ところで、図示しない電圧印加部によって、第1の透明導電層5に、第2の透明導電層7に対して負の電圧V1(V1<0)を数秒程度印加すると、電解質層6内に溶解した金属イオンが第1の透明導電層5の表面で還元され、第1の透明導電層5上に半透明金属層8が析出することとなる(図1(b)参照)。
【0038】
そして、図1(b)の状態では、透明層本体3と第1の透明導電層5が金属層4と半透明金属層8とで挟まれた構造からなる共振器が形成されたことと等しい。なお、透明層本体3と第1の透明導電層5の膜厚の和をLとした場合に、金属層4、透明層本体3、第1の透明導電層5及び半透明金属層8から構成される共振器は、以下の式4に示すブラックの回折条件を満たす波長の光(λ)が干渉により弱められることとなる。
【0039】
[式4]λ = 4nL/[cosΦ(2m+1)] (ただしm = 0、1、2、3・・・・)
【0040】
なお、nは透明層本体3と第1の透明導電層5からなる層の屈折率の実部の平均である。そのため、材料が固定され、nやLがある値に固定されている場合、ある角度Φにおける式4を満たすλの値は固定されることとなる。本実施の形態では、λ2の波長が式4の条件を満たしているものとして説明を行う。
【0041】
図1(b)の状態の表示素子1に第2の透明導電層7側から入射した可視光領域の波長を有する光(λ1、λ2、λ3)は、第2の透明導電層7、電解質層6を透過し、半透明金属層8で一部わずかな光は反射するが、ほとんどの光は透過し、第1の透明導電層5に入射する。
【0042】
その後、λ1とλ3の波長を有する光は、第1の透明導電層5、透明層本体3を透過し、金属層4で反射し、再び透明層本体3、第1の透明導電層5、半透明金属層8、電解質層6、第2の透明導電層7の順に透過し、ほとんど損失なく外部に取り出される。
【0043】
一方、λ2の波長を有する光は、一部が電解質層6と半透明金属層8の界面で反射されるが、電解質層6の屈折率よりも半透明金属層8の屈折率が大きいため、固定端反射となり、位相ズレがなく図3中符号Cで示す様な軌跡を取る。また、一部の光は半透明金属層8を透過後、図3中符号Dで示す軌跡を取りながら第1の透明導電層5と透明層本体3を透過し、金属層4で反射される。金属層4の反射は固定端反射になり、反射波は位相ズレがなく図3中符号Eで示す軌跡を取る。その後位相を変えず、再び透明層本体3、第1の透明導電層5、半透明金属層8を透過し、図3中符号Fで示す軌跡を取りながら電解質層6、第2の透明導電層7の順に透過する。
ここで、図3中符号Cで示す反射波の軌跡と、図3中符号Fで示す反射波の軌跡の重ね合わせを考慮すると、互いに逆の位相を持った波となるために相殺されることとなる。
【0044】
なお、図1(b)に示す状態での反射率を図2中符号Bで示すが、λ1及びλ3の波長を有する光は大きな反射率が達成できている一方で、λ2の波長を有する光の反射率は低下していることが分かる。
【0045】
ところで、図1(b)に示す状態の表示素子1の第1の透明導電層5に、第2の透明導電層7に対して正の電圧V2(V2>0)を100ミリ秒程度印加すると、半透明金属層8は電解質層6中に溶解し、図1(a)に示す状態となる。なお、図1(a)の状態に戻ることで、表示素子1では光はほとんど吸収されず着色もしない状態に戻ることとなる(図2中符号A参照)。
【0046】
また、図1(a)に示す状態の表示素子1の第1の透明導電層5に、第2の透明導電層7に対して負の電圧V3(V3<V1<0)を長時間印加すると、電解質層6内に溶解した金属イオンが第1の透明導電層5の表面で還元され、第1の透明導電層5上に金属膜10が析出することとなる(図4参照)。
【0047】
ここで、電圧V1を数秒間印加して析出した半透明金属膜8と比較すると、電圧V3を長時間印加して析出した金属膜10は膜厚が充分に大きく、可視光領域の光を吸収する特性を有している。なお、図4に示す状態での反射率を図5中符号Gで示すが、反射率が著しく低下しており、表示素子は黒色表示となる。
【0048】
ところで、図4に示す状態の表示素子1の第1の透明電極層5に、第2の透明電極層7に対して正の電圧V4(V4>V2>0)を長時間印加すると、金属膜10は電解質6中に溶解し、図1(a)で示す状態となる。なお、図1(a)の状態に戻ることで、表示素子1では光はほとんど吸収されず着色もしない状態に戻ることとなる(図5中符号H参照)。
【0049】
上記の通り、本実施の形態の表示素子1では、第1の透明電極層5に負の電圧V1を数秒程度印加する工程と、正の電圧V2を100ミリ秒程度印加する工程とを繰り返すことによって、着色状態と消色状態を可逆的に表示可能である。
【0050】
また、本実施の形態の表示素子1では、第1の透明電極層5に負の電圧V3を長時間印加する工程と、正の電圧V4を長時間印加する工程とを繰り返すことによって、黒色状態と消色状態をも可逆的に表示可能である。
【0051】
ところで、本実施の形態の表示素子1の着色状態の色については、表示素子1を製造する際に透明層本体3と第1の透明導電層5の膜厚の合計(L)を変化させることで制御できる。
【0052】
即ち、式4から、Φが同じ条件では、m=0、1の条件を成立させる場合、Lが増加するとλも増加することが必要条件であることが分かる。ここで、λはブラックの回折条件を満たす波長であることから、反射率が減少する波長のことを意味しており、Lの長さを増加することで、反射率が減少する波長を長波長側にシフトすることが可能である。なお、図6(a)〜(c)は、Lの長さを異ならせた場合における反射率を示しているが、Lの長さが増加することで、反射率が減少する波長が長波長側にシフトしていることが分かる。
このことから、表示素子1の製造時にLの長さを変化させることで、種々の色を実現することが可能であり、イエロー、マゼンダ、シアンといった減色法である光の3原色の着色状態を実現することが可能となる。
【0053】
また、本実施の形態の表示素子1は、上述した式1〜式3の条件を満足しているため、一つの素子で45%を超える反射率、2を超えるコントラストを有する無色、着色、黒色の3階調表示が実現する。以下、この点について説明を行う。
【0054】
先ず、表示素子1の無色時の反射率Rは、以下の式5〜式7で表される。
【0055】
[式5]R = (r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2)
[式6]r1 = |(n1+k1i-n-ki)/(n1+k1i+n+ki)|
[式7]r2 = |(n2+k2i-n-ki)/(n2+k2i+n+ki)|
【0056】
そして、式5と式7から、表示素子1の消色時の反射率(R)が45%を超えるためには、式1と式3を満たすことが必要となることが分かる。
【0057】
なお、式1を満たさない場合には、消色時の反射率が45%以下となり、明るいカラー表示が損なわれることとなる。
【0058】
また、表示素子1の発色時の反射率R'は、以下の式8〜式10で表される。
[式8]R' = (r12+r32+2r1r3)/(1+(r1r3)2+2r1r3)
[式9]r1 = |(n1+k1i-n-ki)/(n1+k1i+n+ki)|
[式10]r2 = |(n3+k3i-n-ki)/(n3+k3i+n+ki)|
【0059】
また、式5と式8から、表示素子1の着色時に、少なくとも可視光領域の任意の波長で無色時の反射率(R)と発色時の反射率のコントラスト(R')の比2以上となる波長が存在するためには、少なくとも式2と式3を満たす関係が必要となることが分かる。
【0060】
なお、式2と式3を満たさない場合には、無色時と発色時のコントラストが2以上となる波長が可視光領域に存在しないため、明るい着色状態を得ることができないこととなる。
【0061】
なお、式1〜式3を満たす第1の透明導電層5や透明層本体3の材料としては、金属酸化物や有機化合物等が挙げられ、具体的には、SiO2、TiO2、Al2O3、ZnO、ZrO、ITO、AZO、GZO、ポリメチレンメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。
【0062】
こうした材料を用いた場合には、式3の条件において、k < 0.04を満たすため、非着色表示時の明るい表示と、着色表示時の強く明るい色が達成できる。一方で、金属材料は式3の条件においてk < 0.04を満たさないため、非着色表示時の明るい表示や着色表示時の強く明るい色を得ることができず適さない。
【0063】
また、式1〜式3を満たす金属層4の材料としては、Ag、Al、Au、Cuなどが挙げられる。これら以外の材料の場合、着色時の反射率が著しく低くなる結果、明るい表示が損なわれる。
【0064】
また、式1〜式3の条件を満たす半透明金属層8の材料としては、Ag、Al、Au、Cu、Zn、Ni、Cr、Coなどが挙げられる。こうした材料の中で室温で電気化学的に析出と溶解を繰り返すことが可能な材料は、Ag、Zn、Ni、Au、Cuに限られる。ここで、AuやCuは可視光領域の一部では上記屈折率の条件を満たさないといった欠点がある。また、AgはZnやNiに対して高価格な希少元素であるため、ZnやNiなどの金属がより好ましい。
【0065】
この様に、本実施の形態の表示素子1は、式1〜式3を満足しているために、上述の通り、一つの素子で45%を超える反射率、2を超えるコントラストを有する無色、着色、黒色の3階調表示が実現することとなる。
【0066】
また、本実施の形態の表示素子1は、透明層本体3と第1の透明導電層5の膜厚の和(L)が30nm〜480nmに構成されているために、明瞭な発色が実現することとなる。以下、この点について説明を行う。
【0067】
先ず、式4の条件を満たすためには、例えLの値が大きくても、mの値を大きくすれば、λの波長が可視光領域(380nm〜750nm)になる条件が存在する。しかし、現実的には、mが2以上となる条件では、可視光領域に複数の光を弱め合う干渉波長が存在するようになる(図7参照)。そして、複数の光を弱め合う干渉波長が存在すると、反射率の高い箇所と低い箇所のコントラストが低下してしまい、明瞭な発色を得ることが困難になる。
つまり、mが2以上となる条件では、反射率が減少する波長帯の幅(ΔλWR)が大きくなると共に、反射率の減少度合いも小さくなってしまう。一方でmが0若しくは1となる条件では、λの波長が可視光領域に一つだけ存在する様な条件が数多く存在する。この場合、反射率の高い箇所と低い箇所のコントラストが高く、明瞭な発色を得やすい。
そして、可視光域で光学的に透明である材料の屈折率が1.0〜3.2であることを考慮すると、式4からmが0と1の条件下で、λの波長が可視光領域に一つだけ入るような条件を考慮すると、Lの長さは30nm〜480nmの限定されることとなる。
【0068】
この様に、本実施の形態の表示素子1は、Lの長さが30nm〜480nmとなる様に構成されているために、上述の通り、明瞭な発色が実現することとなる。
【0069】
なお、本実施の形態に係る表示素子1では、金属層4と第1の透明導電層5との間に透明層本体3が形成された場合を例に挙げて説明を行っているが、透明層本体3は必ずしも形成される必要は無く、金属層4の上層に透明層本体3を介することなく第1の透明導電層5を配置しても良い。
【0070】
以下、本実施の形態の変形例について説明を行う。
【0071】
[変形例1]
本実施の形態の表示素子1の着色状態の色純度は、透明層本体3をポーラス構造にすることで改善することができる。
即ち、λ2の光に対しての反射率が減少する波長帯の幅(ΔλWR)は、式6と式7を用いて、以下の式8で表すことができる。
【0072】
[式8]ΔλWR ∝ (1-r1r2)/(r1r2)1/2
【0073】
そして、式6〜式8より、透明層本体3と第1の透明導電層5から構成される層の平均屈折率(n)が小さくなる場合に、図8で示す様に、ΔλWRが小さくなり、結果的にλ2の波長付近の反射率の減少ピークの形状が鋭くなり、色純度が向上するのである。なお、図8中符号Iは透明層本体3がポーラス構造でない場合の反射率を示しており、図8中符号Jは透明層本体3がポーラス構造である場合の反射率を示している。
【0074】
[変形例2]
また、本実施の形態の表示素子1において、電解質層6にイオン性液体を用いることで、良好な書き換え安定性が得られる。通常、水や有機溶媒に電解質を溶解させた場合、水や有機溶媒が揮発しやすく、この様な現象が生じると書き換え安定性が損なわれる。一方、イオン性液体を電解質に用いると、イオン性液体は不揮発性であるために、良好な書き換え安定性が得られるのである。
【0075】
[変形例3]
更に、本実施の形態の表示素子1において、電解質層6をゲル状態にすることで、表示素子1の取り扱い安全性が向上する。即ち、非ゲル状の溶液状態の電解質を用いた場合には、液漏れの懸念があり、液漏れが生じると安全性の問題のみならず、書き換え機能が損なわれてしまう。一方、電解質層6をゲル状態にすることで、書き換え安定性と安全性の両方を確保することができる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明の実施例について説明を行う。
【0077】
(実施例1)
実施例1では、Alシート(純度99.99%、フルウチ化学社製)を陽極として、過塩素酸:エタノール=1:4 体積%の溶液中で10Vの条件で、室温で5分間電解研磨を施すことで、Alの表面酸化膜を除去した。この基板上にAl2O3をRFスパッタ法で1.0Å/sの速度で1260nm成膜した。次に、このAl2O3が成膜されたAl基板上に、ITOを1.2Å/sの速度で60nm成膜した。次に、この基板とITOが成膜されたガラス基板対向電極として、熱硬化性樹脂シート(ハイミラン、三井化学社製)により、お互いのITO基板が対向する形で50μmのギャップをとり貼り合わせた。最後にこのギャップ内に、0.2M過塩素酸リチウムの炭酸プロピレン溶液に硫酸亜鉛七水和物が飽和するまで溶解させた溶液を電解質として注入することで表示素子を作製した。
【0078】
上記の様にして作製された表示素子は消色状態であり、表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図9の白抜きプロットに示すように380nmから850nmの波長域で68%以上の値であった。
【0079】
次に、Al基板側の電極に−4.5Vの電圧を1秒印加したところ、オレンジ色の着色状態が得られた。電圧を切った後もその着色状態は維持された。この状態の表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図9の黒塗りプロットに示すように、380nmから850nm波長領域に反射率が22%以下を示す波長領域を有した。
【0080】
次に、Al基板側の電極に3.5Vの電圧を100ミリ秒印加したところ、着色状態は消え消色状態に戻った。この消色状態は、電圧印加後も維持された。この状態で表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、380nmから850nmの波長域で68%以上の値であった。
【0081】
次に、Al基板側の電極に+10Vの電圧を5秒印加したところ黒色を呈した。表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図10の黒塗りプロットに示すように380nmから850nmの波長域で27%以下であった。
【0082】
次に、Al基板側の電極に10Vの電圧を5秒印加したところ黒色状態は消え消色状態に戻った。表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図10の白抜きプロットに示すように380nmから850nmの波長域で68%以上の値であった。
【0083】
(実施例2)
実施例2では、Al2O3層の膜厚を150nmとする以外は、実施例1と同様に表示素子を作製した。
【0084】
作製された表示素子は消色状態であり、表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図11の白抜きプロットに示すように380nmから850nmの波長域で64%以上値であった。
【0085】
次に、Al基板側の電極に−4.5Vの電圧を1秒印加したところ、紫色の着色状態が得られた。電圧を切った後もその着色状態は維持された。この状態の表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図11の黒塗りプロットに示すように、520nm付近の反射率が15%であった。
【0086】
なお、図11からも明らかな様に、実施例2では、反射率が下がる領域が可視光域の中に1つのみ現れることとなる。そのため、反射率が下がる領域が可視光域の中に多数現れる実施例1の場合(図9参照)よりも、明瞭な色が実現することとなる。
【0087】
次に、Al基板側の電極に3.5Vの電圧を100ミリ秒印加したところ、着色状態は消え消色状態に戻った。この消色状態は、電圧印加後も維持された。この状態で表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、380nmから850nmの波長域で64%以上の値であった。
【0088】
次に、Al基板側の電極に+10Vの電圧を5秒印加したところ黒色を呈した。表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図12の黒塗りプロットに示すように380nmから850nmの波長域で27%以下であった。
【0089】
次に、Al基板側の電極に10Vの電圧を5秒印加したところ黒色状態は消え消色状態に戻った。表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図12の白抜きプロットに示すように380nmから850nmの波長域で64%以上の値であった。
【0090】
(実施例3)
実施例3では、Alシート(純度99.99%)を陽極として、過塩素酸:エタノール=1:4体積%の溶液中で10Vの条件で5分間、室温で電解研磨を施すことで、Alの表面酸化膜を除去した。次に、この電界研磨されたAlシートを陽極として1wt%H2SO4の水溶液中で18Vの条件で室温で6分間電圧を印加することで、アルミニウムの表面に厚み120nmのナノポーラスの構造を有するAl2O3を作製した。次に、このナノポーラス構造を有するAl2O3が成膜されたAl基板上に、ITOを1.2Å/sの速度で60nm成膜した。次に、この基板とITOが成膜されたガラス基板対向電極として、熱硬化性樹脂シート(ハイミラン、三井化学社製)により、お互いのITO基板が対向する形で50μmのギャップをとり貼り合わせた。最後にこのギャップ内に、0.2M過塩素酸リチウムの炭酸プロピレン溶液に、硫酸亜鉛七水和物が飽和するまで溶解させた溶液を電解質として注入することで表示素子を作製した。
【0091】
上記の様にして作製された表示素子は消色状態であり、表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図13の白抜きプロットに示すように380nmから850nmの波長域で48%以上であった。
【0092】
次に、Al基板側の電極に−4.5Vの電圧を約1秒印加したところ、黄色の着色状態が得られた。電圧を切った後もその着色状態は維持された。この状態の表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図13の黒塗りプロットに示すように、482nm付近の反射率が7%であった。
【0093】
なお、図13と図11の黒塗りプロットを比較すると、実施例3では実施例2よりも発色状態の反射スペクトルが減少する幅が狭いことが分かる。そのため、ポーラス構造を採用している実施例3では、ポーラス構造を採用していない実施例2よりも色の鮮やかさが増していることが分かる。即ち、実施例3では実施例2よりも色純度が改善されていることが分かる。
【0094】
次に、Al基板側の電極に3.5Vの電圧を100ミリ秒印加したところ、着色状態は消え消色状態に戻った。この消色状態は、電圧印加後も維持された。この状態で表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、380nmから850nnの波長域で48%以上の値であった。
【0095】
次に、Al基板側の電極に+10Vの電圧を5秒印加したところ黒色を呈した。表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図14の黒塗りプロットに示すように380nmから850nmの波長域で21%以下であった。
【0096】
次に、Al基板側の電極に10Vの電圧を5秒印加したところ黒色状態は消え消色状態に戻った。表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図14の白抜きプロットに示すように380nmから850nmの波長域で48%以上であった。
【0097】
(実施例4)
実施例4では、陽極酸化の時間を9分として、作製されたナノポーラスアルミナ層の膜厚を170nmとする以外は、実施例3と同様に表示素子を作製した。
【0098】
作製された表示素子は消色状態であり、表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図15の白抜きプロットに示すように380nmから850nmの波長域で46%以上の値であった。
【0099】
次に、Al基板側の電極に−4.5Vの電圧を1秒印加したところ、マゼンタ色の着色状態が得られた。電圧を切った後もその着色状態は維持された。この状態の表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図15の黒塗りプロットに示すように、543nm付近の反射率が8%であった。
【0100】
なお、図15と図11の黒塗りプロットを比較すると、実施例4では実施例2よりも発色状態の反射スペクトルが減少する幅が狭いことが分かる。そのため、ポーラス構造を採用している実施例4では、ポーラス構造を採用していない実施例2よりも色の鮮やかさが増していることが分かる。即ち、実施例4では実施例2よりも色純度が改善されていることが分かる。
【0101】
次に、Al基板側の電極に3.5Vの電圧を100ミリ秒印加したところ、着色状態は消え消色状態に戻った。この消色状態は、電圧印加後も維持された。この状態で表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、380nmから850nmの波長域で46%以上の値であった。
【0102】
次に、Al基板側の電極に+10Vの電圧を5秒印加したところ黒色を呈した。表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図16の黒塗りプロットに示すように380nmから850nmの波長域で24%以下であった。
【0103】
次に、Al基板側の電極に10Vの電圧を5秒印加したところ黒色状態は消え消色状態に戻った。表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図16の白抜きプロットに示すように380nmから850nmの波長域で46%以上の値であった。
【0104】
(実施例5)
実施例5では、陽極酸化の時間を13分として、作製されたナノポーラスアルミナ層の膜厚を270nmとする以外は、実施例3と同様に表示素子を作製した。
【0105】
作製された表示素子は消色状態であり、表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図17の白抜きプロットに示すように380nmから850nmの波長域で64%以上の値であった。
【0106】
次に、Al基板側の電極に−4.5Vの電圧を1秒印加したところ、青色の着色状態が得られた。電圧を切った後もその着色状態は維持された。この状態の表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図17の黒塗りプロットに示すように、660nm付近の反射率が10%であった。
【0107】
なお、図17と図11の黒塗りプロットを比較すると、実施例5では実施例2よりも発色状態の反射スペクトルが減少する幅が狭いことが分かる。そのため、ポーラス構造を採用している実施例5では、ポーラス構造を採用していない実施例2よりも色の鮮やかさが増していることが分かる。即ち、実施例5では実施例2よりも色純度が改善されていることが分かる。
【0108】
次に、Al基板側の電極に3.5Vの電圧を100ミリ秒印加したところ、着色状態は消え消色状態に戻った。この消色状態は、電圧印加後も維持された。この状態で表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、380nmから850nmの波長域で64%以上の値であった。
【0109】
次に、Al基板側の電極に+10Vの電圧を5秒印加したところ黒色を呈した。表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図18の黒塗りプロットに示すように380nmから850nmの波長域で14%以下であった。
【0110】
次に、Al基板側の電極に10Vの電圧を5秒印加したところ黒色状態は消え消色状態に戻った。表示素子の対向電極側から反射率を測定したところ、図18の白抜きプロットに示すように380nmから850nmの波長域で64%以上の値であった。
【0111】
(比較例1)
比較例1では、Alシート(純度99.99%、フルウチ化学社製)を陽極として、過塩素酸:エタノール=1:4体積%の溶液中で10Vの条件で5分間電解研磨を施すことで、Alの表面酸化膜を除去した。この基板上にAl2O3をRFスパッタ法で1.0Å/sの速度で100nm成膜した。次にこのAl2O3が成膜されたAl基板上に、ITOを1.2Å/sの速度で60nm成膜した。
【0112】
この状態で、ITO側から目視では消色状態であり、ITO側からの反射率を測定したところ、図19の白抜きプロットに示すように380nmから750nmの波長域で50%以上の値であった。次に、この基板のITO電極上に、N,N'-di(1-naphthyl)-N,N'-diphenyl-(1,1'-biphenyl)-4,4'-diamineを有機物として10nm真空蒸着法で成膜したところ、ITO側から目視では消色状態であり、図19の黒塗りプロットに示すように380nmから750nmの波長域で50%以上の値であった。
【0113】
なお、図19からも明らかな様に、比較例1では、発色状態(即ち、半透明金属層を析出させた状態)で反射率がほとんど変化しておらず、発色が得られていないことが分かる。
【符号の説明】
【0114】
1表示素子
3透明層本体
4金属層
5第1の透明導電層
6電解質層
7第2の透明導電層
8半透明金属層
10金属膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層と、
該金属層の上層に配置されると共に、少なくとも前記金属層とは反対側領域に透明導電層を有して構成された透明層と、
該透明層の前記金属層とは反対側に配置されると共に、金属イオンを含有して構成された電解質層とを備え、
前記金属層の屈折率の実部をn1、虚部をk1とし、前記透明層の屈折率の実部の平均をn、虚部の平均をkとし、前記電解質層の屈折率の実部をn2、虚部をk2とし、前記透明層の透明導電層に所定の電圧を印加することで前記透明層の透明導電層上に析出する半透明金属層の屈折率の実部をn3、虚部をk3としたとき、
(r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2) ≧ 0.45
(r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2) / (r12+r32+2r1r3)/(1+(r1r3)2+2r1r3) ≧ 2
k < 0.04
ただし r1 = |(n1+k1i-n-ki)/(n1+k1i+n+ki)|
r2 = |(n2+k2i-n-ki)/(n2+k2i+n+ki)|
r3 = |(n3+k3i-n-ki)/(n3+k3i+n+ki)|である
を満たしている表示素子。
【請求項2】
前記透明層の膜厚が30nm以上480nm以下である
請求項1に記載の表示素子。
【請求項3】
前記透明層はポーラス構造である
請求項1または請求項2に記載の表示素子。
【請求項4】
前記電解質層の電解質はイオン性液体である
請求項1、請求項2または請求項3に記載の表示素子。
【請求項5】
前記電解質層の電解質はイオン性液体を含有するゲルである
請求項1、請求項2、請求項3または請求項4に記載の表示素子。
【請求項6】
金属層と、
該金属層の上層に配置されると共に、少なくとも前記金属層とは反対側領域に第1の透明導電層を有して構成された透明層と、
該透明層の前記金属層とは反対側に配置されると共に、金属イオンを含有して構成された電解質層と、
該電解質層の前記透明層とは反対側に配置された第2の透明導電層と、
前記透明層の第1の透明導電層に所定の電圧を印加する電圧印加部とを備え、
前記金属層の屈折率の実部をn1、虚部をk1とし、前記透明層の屈折率の実部の平均をn、虚部の平均をkとし、前記電解質層の屈折率の実部をn2、虚部をk2とし、前記透明層の第1の透明導電層に所定の電圧を印加することで前記透明層の第1の透明導電層上に析出する半透明金属層の屈折率の実部をn3、虚部をk3としたとき、
(r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2) ≧ 0.45
(r12+r22+2r1r2)/(1+(r1r2)2+2r1r2) / (r12+r32+2r1r3)/(1+(r1r3)2+2r1r3) ≧ 2
k < 0.04
ただし r1 = |(n1+k1i-n-ki)/(n1+k1i+n+ki)|
r2 = |(n2+k2i-n-ki)/(n2+k2i+n+ki)|
r3 = |(n3+k3i-n-ki)/(n3+k3i+n+ki)|である
を満たしている表示装置。
【請求項7】
前記電圧印加部が前記第1の透明導電層に対して前記第2の透明導電層よりも負電圧を印加することで前記第1の透明導電層上に金属が析出し、前記電圧印加部が前記第1の透明導電層に対して前記第2の透明導電層よりも正電圧を印加することで前記第1の透明導電層上の金属が溶解する
請求項6に記載の表示装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図2】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−185443(P2012−185443A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50140(P2011−50140)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】