説明

表示素子

【課題】繰り返し駆動での色調変動が少ないエレクトロデポジション型の表示素子を提供する。
【解決手段】一対の対向する電極間に、銀、または銀を化学構造中に含む化合物を含有する電解質層を有し、銀の溶解析出を生じさせるように該対向する電極の駆動操作を行う表示素子において、該電解質層が、下記一般式(1)で代表される化合物を含有することを特徴とする表示素子。


〔式中、A1からA4は、それぞれ水素原子、水酸基、アシル基、メルカプト基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキル基、アルキルチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、スルファモイル基、−OCOR、−COOR、−ORまたはカルバモイル基を表す。Rはアルキル基を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学的な表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューターの動作速度の向上、ネットワークインフラの普及、データストレージの大容量化と低価格化に伴い、従来紙への印刷物で提供されたドキュメントや画像等の情報を、より簡便な電子情報として入手、電子情報を閲覧する機会が益々増大している。
【0003】
この様な電子情報の閲覧手段として、従来の液晶ディスプレイやCRT、また近年では、有機ELディスプレイ等の発光型が主として用いられているが、特に、電子情報がドキュメント情報の場合、比較的長時間にわたってこの閲覧手段を注視する必要があり、これらの行為は人間に優しい手段とは言い難く、一般に発光型のディスプレイの欠点として、フリッカーで目が疲労する、持ち運びに不便、読む姿勢が制限され、静止画面に視線を合わせる必要が生じる、長時間読むと消費電力が嵩む等が知られている。
【0004】
これらの欠点を補う表示手段として、外光を利用し、像保持の為に電力を消費しない(メモリー性)反射型ディスプレイが知られているが、下記の理由で十分な性能を有しているとは言い難い。
【0005】
すなわち、反射型液晶等の偏光板を用いる方式は、反射率が約40%と低く白表示に難があり、また構成部材の作製に用いる製法の多くは簡便とは言い難い。また、ポリマー分散型液晶は高い電圧を必要とし、また有機物同士の屈折率差を利用しているため、得られる画像のコントラストが十分でない。また、ポリマーネットワーク型液晶は電圧高いことと、メモリー性を向上させるために複雑なTFT回路が必要である等の課題を抱えている。また、電気泳動法による表示素子は、10V以上の高い電圧が必要となり、電気泳動性粒子凝集による耐久性に懸念がある。
【0006】
これら上述の各方式の欠点を解消する表示方式として、金属または金属塩の溶解析出を利用するエレクトロデポジション(以下、EDと略す)方式が知られている。ED方式は、3V以下の低電圧で駆動が可能で、簡便なセル構成、黒と白のコントラストや黒品質に優れる等の利点があり、米国特許第4,240,716号明細書、特許第3428603号公報、特開2003−241227号公報等で、様々な方法が開示されている。また電気化学的に色が変化するエレクトロクロミック(EC)方式の素子が、コントラストが高く、明瞭な表示を得ることができるとして提案されている。
【0007】
ED方式で電解質層中に銀または銀化合物を含む表示素子は、電極上での黒化銀析出時に、銀化合物が電極からスムーズに電子を受け取り、還元される必要がある。特許文献1には、電解質中に析出促進剤を含む電気化学表示装置の記載が見られるが、特許文献1に記載の析出促進剤では、多数回の繰り返し駆動時に、反応が不安定となり、色調の変動が起こりやすい欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−338515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、繰り返し駆動での色調変動が少ないエレクトロデポジション型の表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0011】
1.一対の対向する電極間に、銀、または銀を化学構造中に含む化合物を含有する電解質層を有し、銀の溶解析出を生じさせるように該対向電極の駆動操作を行う表示素子において、該電解質層が、下記一般式(1)または一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする表示素子。
【0012】
【化1】

【0013】
〔式中、AからAは、それぞれ水素原子、水酸基、アシル基、メルカプト基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキル基、アルキルチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、スルファモイル基、−OCOR、−COOR、−ORまたはカルバモイル基を表す。Rはアルキル基を表す。〕
【0014】
【化2】

【0015】
〔式中、A、Aは、それぞれ水素原子、水酸基、アシル基、メルカプト基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキル基、アルキルチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、スルファモイル基、−OCOR、−COOR、−ORまたはカルバモイル基を表す。Rはアルキル基を表す。B、D、Eは、それぞれ窒素原子Nまたは炭素原子C−Aを表す。Aは、A、Aで表される基と同義である。〕
2.前記一般式(1)におけるAからAの少なくとも1つが、アルキルチオ基、−OCOR(R:分岐型アルキル基)、−COOR(R:分岐型アルキル基)または−OR(R:分岐型アルキル基)であることを特徴とする前記1に記載の表示素子。
【0016】
3.前記一般式(2)におけるA、A、Aの少なくとも1つが、アルキルチオ基、−OCOR(R:分岐型アルキル基)、−COOR(R:分岐型アルキル基)または−OR(R:分岐型アルキル基)であることを特徴とする前記1に記載の表示素子。
【0017】
4.前記電解質層が、下記一般式(G−1)または(G−2)で表される化合物を含有することを特徴とする前記1から3のいずれか1項に記載の表示素子。
【0018】
一般式(G−1)
Rg11−S−Rg12
〔式中、Rg11、Rg12は各々置換または無置換の炭化水素基を表す。また、これらの炭化水素基は、1個以上の窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子またはハロゲン原子を含んでも良く、Rg11とRg12が互いに連結し、環状構造を取っても良い。〕
【0019】
【化3】

【0020】
〔式中、Mは水素原子、金属原子または4級アンモニウムを表す。Zは含窒素複素環を構成するのに必要な原子群表す。nは0〜5の整数を表し、Rg21は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルキルカルボンアミド基、アリールカルボンアミド基、アルキルスルホンアミド基、アリールスルホンアミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、カルバモイル基、アルキルスルファモイル基、アリールスルファモイル基、スルファモイル基、シアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、アミノ基、ヒドロキシ基または複素環基を表し、nが2以上の場合、それぞれのRg21は同じであってもよく、異なってもよく、お互いに連結して縮合環を形成してもよい。〕
5.前記電解質層が、下記一般式(S1)または一般式(S2)で表される化合物を含有することを特徴とする前記1から4のいずれか1項に記載の表示素子。
【0021】
【化4】

【0022】
〔式中、Lは酸素原子またはアルキレン基を表し、Rs11からRs14は各々水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基またはアルコキシ基を表す。〕
【0023】
【化5】

【0024】
〔式中、Rs21,Rs22は各々アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基またはアルコキシ基を表す。〕
6.前記電解質層におけるハロゲンイオン濃度は、前記電解質層における銀または銀を化学構造中に含む化合物の銀原子のモル濃度を[Ag](モル/kg)とし、ハロゲンイオンまたはハロゲン分子のハロゲン原子の総モル濃度を[X](モル/kg)とした時、下式(1)で規定する条件を満たすことを特徴とする前記1から5のいずれか1項に記載の表示素子。
【0025】
式(1)
0<[X]/[Ag]≦0.01
【発明の効果】
【0026】
本発明の表示素子の黒化速度はA4サイズで数秒以内と速いため、通常は繰り返し駆動時の色調が不安定になりやすいが、一般式(1)または(2)の化合物を電解質層中に含有することで、銀化合物の還元反応が安定となり、繰り返し駆動時の色調変動が低減することができたエレクトロデポジション型の表示素子を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の表示素子の原理を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0029】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、一対の対向する電極間に、銀、または銀を化学構造中に含む化合物を含有する電解質層を有し、銀の溶解析出を生じさせるように該対向電極の駆動操作を行う表示素子において、該電解質層が、前記一般式(1)または一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする表示素子により、繰り返し駆動での色調変動が少ないエレクトロデポジション型の表示素子を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0030】
すなわち、本発明の表示素子においては、電解質層中に、本発明に係る一般式(1)または(2)で表される化合物を含有することにより、電極上における黒化銀の析出時に、銀化合物が電極からスムーズに電子を受け取ることができ、安定な還元反応が行われ、繰り返し駆動時の色調変動が低減することができたものである。
【0031】
以下、本発明の表示素子の各構成要素について、その詳細を説明する。
【0032】
〔表示素子の基本構成〕
図1は、本発明の表示素子の原理を説明する概念図である。
【0033】
図1の(a)は、本発明の表示素子1において、可視化の駆動を行った時に起こる反応を示している。可視化の駆動を行った場合、閲覧側の透明電極2では、電解質5中に溶解している、例えば、銀イオン(Ag)に透明電極2から電子(e)が与えられて、銀(Ag)が透明電極2上に析出し、通常、黒色画像4を生じさせる。この時、対向電極3上では、銀(この銀は、表示素子作製当初には存在しないが、可視化→無色化を一度行った時点で少なからず生じるものである)から電子が対向電極3に移動し、銀イオン(Ag)となって電解質5中に放出される。
【0034】
図1の(b)は、無色化の反応を示している。閲覧側の透明電極2では、銀から電子を受け取り、銀は銀イオンとなって電解質5中に放出される。対向電極3上では、銀イオンに電子が与えられ、銀となって析出する。
【0035】
本発明の表示素子においては、上記の課題に対し、一対の対向する電極間に存在させる電解質として、本発明に係る一般式(1)または(2)で表される化合物を含有することにより、銀化合物が電極からスムーズに電子を受け取ることができ、繰り返し駆動時の色調変動が低減することができることを特徴とするものである。
【0036】
〔一般式(1)、一般式(2)で表される化合物〕
はじめに、前記一般式(1)で表される化合物について説明する。
【0037】
前記一般式(1)において、AからAは、それぞれ水素原子、水酸基、アシル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタネート基、ヘキサネート基等)、メルカプト基、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリフルオロメチル基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等)、スルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド、ドデシルスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド等)、スルファモイル基、−OCOR、−COOR、−ORまたはカルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ブチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)を表す。Rはアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリフルオロメチル基等)を表す。
【0038】
一般式(1)においては、更には、AからAの少なくとも1つが、アルキルチオ基、−OCOR(R:分岐型アルキル基)、−COOR(R:分岐型アルキル基)または−OR(R:分岐型アルキル基)であることが好ましく、特には、Rで表される分岐型アルキル基が、−(CR−(CH−(CR)、または−(CH−(CR−(CR)で表される構造であることが好ましい。式中、j、kは各々0〜10までの整数を表し、j、kの少なくとも1つは1以上の整数である。R〜Rは炭素数1〜8のアルキル基を表す。
【0039】
本発明において、一般式(1)で表される化合物の電解質層中への添加量は、電解質層の総質量に対し、0.1質量%以上、20質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは1.0質量%以上、5.0質量%以下である。
【0040】
以下に、一般式(1)で表される化合物の具体的化合物例を示すが、以下に例示する化合物にのみ限定されるものではない。
【0041】
【化6】

【0042】
【化7】

【0043】
次いで、前記一般式(2)で表される化合物について説明する。
【0044】
前記一般式(2)において、A、Aは、それぞれ水素原子、水酸基、アシル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタネート基、ヘキサネート基等)、メルカプト基、アミノ基(例えば、アミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基等)、アシルアミノ基(例えば、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリフルオロメチル基等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基等)、スルホニル基(例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等)、スルフィニル基(例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等)、スルホンアミド基(例えば、メタンスルホンアミド、ドデシルスルホンアミド、p−トルエンスルホンアミド等)、スルファモイル基、−OCOR、−COOR、−ORまたはカルバモイル基(例えば、アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、ブチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等)を表す。Rはアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリフルオロメチル基等)を表す。
【0045】
B、D、Eは、それぞれ窒素原子Nまたは炭素原子C−A7を表す。A7は、A、Aで表される基と同義である。
【0046】
一般式(2)においては、更には、A、A、Aの少なくとも1つが、アルキルチオ基、−OCOR(R:分岐型アルキル基)、−COOR(R:分岐型アルキル基)または−OR(R:分岐型アルキル基)であることが好ましく、特には、Rで表される分岐型アルキル基が、−(CR−(CH−(CR)、または−(CH−(CR−(CR)で表される構造であることが好ましい。式中、j、kは各々0〜10までの整数を表し、j、kの少なくとも1つは1以上の整数である。R〜Rは炭素数1〜8のアルキル基を表す。
【0047】
本発明において、一般式(2)で表される化合物の電解質層中への添加量は、電解質層の総質量に対し、0.1質量%以上、20質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは1.0質量%以上、5.0質量%以下である。
【0048】
以下に、一般式(2)で表される化合物の具体的化合物例を示すが、以下に例示する化合物にのみ限定されるものではない。
【0049】
【化8】

【0050】
【化9】

【0051】
【化10】

【0052】
本発明に係る一般式(1)、(2)で表される化合物は、従来公知の合成方法に従って得ることができる。
【0053】
〔一般式(G−1)、(G−2)で表される化合物〕
本発明の表示素子においては、電解質層が、下記一般式(G−1)または(G−2)で表される化合物を含有することが好ましい。
【0054】
本発明に係る前記一般式(G−1)で表されるチオエーテル化合物及び前記一般式(G−2)で表されるメルカプト化合物は、本発明において銀の溶解析出を生じさせるため、電解質中での銀の可溶化を促進する化合物であり、銀化合物と一般式(G−1)で表されるチオエーテル系化合物または一般式(G−2)で表されるメルカプト系化合物、および一般式(1)または(2)で表される化合物との相互作用で、銀化合物が電極からさらにスムーズに電子を受け取ることができ、安定な還元反応が行われ、さらに繰り返し駆動時の色調変動が低減する。
【0055】
一般に、銀の溶解析出を生じさせるためには、電解質中で銀を可溶化することが必要であり、例えば、銀と配位結合を生じさせ、銀と弱い共有結合を生じさせるような、銀と相互作用を示す化学構造種を含む化合物が有用である。前記化学構造種として、ハロゲン原子、メルカプト基、カルボキシル基、イミノ基等が知られているが、本発明においては、チオエーテル基を含有する化合物及びメルカプトアゾール類は、銀溶剤として有用に作用しかつ、共存化合物への影響が少なく溶媒への溶解度が高い特徴がある。
【0056】
前記一般式(G−1)において、Rg11、Rg12は各々置換または無置換の炭化水素基を表す。また、これらの炭化水素基では、1個以上の窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、ハロゲン原子を含んでも良く、Rg11とRg12が互いに連結し、環状構造を取っても良い。
【0057】
前記一般式(G−2)において、Mは水素原子、金属原子または4級アンモニウムを表す。Zは含窒素複素環を構成するのに必要な原子群表す。nは0〜5の整数を表し、Rg21は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルキルカルボンアミド基、アリールカルボンアミド基、アルキルスルホンアミド基、アリールスルホンアミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、カルバモイル基、アルキルスルファモイル基、アリールスルファモイル基、スルファモイル基、シアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、アミノ基、ヒドロキシ基または複素環基を表し、nが2以上の場合、それぞれのRg21は同じであってもよく、異なってもよく、お互いに連結して縮合環を形成してもよい。
【0058】
前記一般式(G−1)において、Rg11、Rg12は各々置換または無置換の炭化水素基を表すが、これらの炭化水素基では、1個以上の窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子を含んでも良く、Rg11とRg12が互いに連結し、環状構造を取っても良い。
【0059】
炭化水素基に置換可能な基としては、例えば、アミノ基、グアニジノ基、4級アンモニウム基、ヒドロキシル基、ハロゲン化合物、カルボン酸基、カルボキシレート基、アミド基、スルフィン酸基、スルホン酸基、スルフェート基、ホスホン酸基、ホスフェート基、ニトロ基、シアノ基等を挙げることができる。
【0060】
以下、本発明において適用可能な一般式(G−1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明ではこれら例示する化合物にのみ限定されるものではない。
【0061】
G1−1:CHSCHCHOH
G1−2:HOCHCHSCHCHOH
G1−3:HOCHCHSCHCHSCHCHOH
G1−4:HOCHCHSCHCHSCHCHSCHCHOH
G1−5:HOCHCHSCHCHOCHCHOCHCHSCHCHOH
G1−6:HOCHCHOCHCHSCHCHSCHCHOCHCHOH
G1−7:HCSCHCHCOOH
G1−8:HOOCCHSCHCOOH
G1−9:HOOCCHCHSCHCHCOOH
G1−10:HOOCCHSCHCHSCHCOOH
G1−11:HOOCCHSCHCHSCHCHSCHCHSCHCOOH
G1−12:HOOCCHCHSCHCHSCHCH(OH)CHSCHCHSCHCHCOOH
G1−13:HOOCCHCHSCHCHSCHCH(OH)CH(OH)CHSCHCHSCHCHCOOH
G1−14:HCSCHCHCHNH
G1−15:HNCHCHSCHCHNH
G1−16:HNCHCHSCHCHSCHCHNH
G1−17:HCSCHCHCH(NH)COOH
G1−18:HNCHCHOCHCHSCHCHSCHCHOCHCHNH
G1−19:HNCHCHSCHCHOCHCHOCHCHSCHCHNH
G1−20:HNCHCHSCHCHSCHCHSCHCHSCHCHNH
G1−21:HOOC(NH)CHCHCHSCHCHSCHCHCH(NH)COOH
G1−22:HOOC(NH)CHCHSCHCHOCHCHOCHCHSCHCH(NH)COOH
G1−23:HOOC(NH)CHCHOCHCHSCHCHSCHCHOCHCH(NH)COOH
G1−24:HN(O=)CCHSCHCHOCHCHOCHCHSCHC(=O)NH
G1−25:HN(O=)CCHSCHCHSCHC(=O)NH
G1−26:HNHN(O=)CCHSCHCHSCHC(=O)NHNH
G1−27:HC(O=)CNHCHCHSCHCHSCHCHNHC(=O)CH
G1−28:HNOSCHCHSCHCHSCHCHSONH
G1−29:NaOSCHCHCHSCHCHSCHCHCHSONa
G1−30:HCSONHCHCHSCHCHSCHCHNHOSCH
G1−31:HN(NH)CSCHCHSC(NH)NH・2HBr
G1−32:HN(NH)CSCHCHOCHCHOCHCHSC(NH)NH・2HCl
G1−33:HN(NH)CNHCHCHSCHCHSCHCHNHC(NH)NH・2HBr
G1−34:〔(CHNCHCHSCHCHSCHCHN(CH2+・2Cl
【0062】
【化11】

【0063】
【化12】

【0064】
上記例示した各化合物の中でも、本発明の目的効果をいかんなく発揮できる観点から、特に、例示化合物G1−2、G1−3が好ましい。
【0065】
次いで、本発明に係る一般式(G−2)で表される化合物について説明する。
【0066】
前記一般式(G−2)において、Mは水素原子、金属原子または4級アンモニウムを表す。Zは含窒素複素環を構成するのに必要な原子群表す。nは0〜5の整数を表し、Rg21は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルキルカルボンアミド基、アリールカルボンアミド基、アルキルスルホンアミド基、アリールスルホンアミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、カルバモイル基、アルキルスルファモイル基、アリールスルファモイル基、スルファモイル基、シアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、アミノ基、ヒドロキシ基または複素環基を表し、nが2以上の場合、それぞれのRg21は同じであってもよく、異なってもよく、お互いに連結して縮合環を形成してもよい。
【0067】
一般式(G−2)において、Mで表される金属原子としては、例えば、Li、Na、K、Mg、Ca、Zn、Ag等が挙げられ、4級アンモニウムとしては、例えば、NH、N(CH、N(C、N(CH1225、N(CH1633、N(CHCH等が挙げられる。
【0068】
一般式(G−2)のZを構成成分とする含窒素複素環としては、例えば、テトラゾール環、トリアゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、インドール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾセレナゾール環、ナフトオキサゾール環等が挙げられる。
【0069】
一般式(G−2)において、Rg21で表される具体的な基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)アルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、ドデシル、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、トリフルオロメチル、ベンジル等)、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル等)、アルキルカルボンアミド基(例えば、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ブチロイルアミノ等)、アリールカルボンアミド基(例えば、ベンゾイルアミノ等)、アルキルスルホンアミド基(例えば、メタンスルホニルアミノ基、エタンスルホニルアミノ基等)、アリールスルホンアミド基(例えば、ベンゼンスルホニルアミノ基、トルエンスルホニルアミノ基等)、アリールオキシ基(例えば、フェノキシ等)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ、エチルチオ、ブチルチオ等)、アリールチオ基(例えば、フェニルチオ基、トリルチオ基等)、アルキルカルバモイル基(例えばメチルカルバモイル、ジメチルカルバモイル、エチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、ジブチルカルバモイル、ピペリジルカルバモイル、モルホリルカルバモイル等)、アリールカルバモイル基(例えば、フェニルカルバモイル、メチルフェニルカルバモイル、エチルフェニルカルバモイル、ベンジルフェニルカルバモイル等)、アルキルスルファモイル基(例えば、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、エチルスルファモイル、ジエチルスルファモイル、ジブチルスルファモイル、ピペリジルスルファモイル、モルホリルスルファモイル等)、アリールスルファモイル基(例えば、フェニルスルファモイル、メチルフェニルスルファモイル、エチルフェニルスルファモイル、ベンジルフェニルスルファモイル等)、アルキルスルホニル基(例えば、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基等)、アリールスルホニル基(例えば、フェニルスルホニル、4−クロロフェニルスルホニル、p−トルエンスルホニル等)アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ブトキシカルボニル等)、アリールオキシカルボニル基(例えばフェノキシカルボニル等)、アルキルカルボニル基(例えば、アセチル、プロピオニル、ブチロイル等)、アリールカルボニル基(例えば、ベンゾイル基、アルキルベンゾイル基等)、アシルオキシ基(例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチロイルオキシ等)、複素環基(例えば、オキサゾール環、チアゾール環、トリアゾール環、セレナゾール環、テトラゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、チアジン環、トリアジン環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、インドレニン環、ベンズセレナゾール環、ナフトチアゾール環、トリアザインドリジン環、ジアザインドリジン環、テトラアザインドリジン環基等)が挙げられる。これらの置換基はさらに置換基を有するものを含む。
【0070】
次に、一般式(G−2)で表される化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0071】
【化13】

【0072】
【化14】

【0073】
上記例示した各化合物の中でも、本発明の目的効果をいかんなく発揮できる観点から、特に、例示化合物G2−12、G2−18、G2−19が好ましい。
【0074】
〔電解質層の溶媒〕
〔溶媒〕
本発明に係る電解質層には、溶媒としては、一般に電気化学セルや電池に用いられ、電気化学的な酸化還元反応により可逆的に溶解析出する金属塩化合物、プロモーター等各種添加剤を溶解できる溶媒を使用することができる。
【0075】
具体的には、無水酢酸、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、アセトニトリル、アセチルアセトン、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、ジメトキシエタン、ジエトキシフラン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、プロピオニトリル、ブチロニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、メチルピロリジノン、2−(N−メチル)−2−ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、エチルジメチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トリヘキシルホスフェート、トリヘプチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリノニルホスフェート、トリデシルホスフェート、トリス(トリフフロロメチル)ホスフェート、トリス(ペンタフロロエチル)ホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、2−エチルヘキシルホスフェート、テトラメチル尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホルトリアミド、4−メチル−2−ペンタノン、ジオクチルフタレート、ジオクチルセバケート、及びエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル等のポリエチレングリコール類などが使用可能である。
【0076】
さらに、常温溶融塩も溶媒として使用可能である。前記常温溶融塩とは、溶媒成分が含まれないイオン対のみからなる常温において溶融している(即ち液状の)イオン対からなる塩であり、通常、融点が20℃以下であり、20℃を越える温度で液状であるイオン対からなる塩を示す。常温溶融塩はその1種を単独で使用することができ、また2種以上を混合しても使用することもできる。
【0077】
本発明においては、電解質層で特に好ましく用いられる溶媒は、前記一般式(S1)または(S2)で表される化合物である。
【0078】
〈一般式(S1)、(S2)で表される化合物〉
前記一般式(S1)において、Lは酸素原子またはアルキレン基を表し、Rs11からRs14は各々水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基またはアルコキシ基を表す。
【0079】
前記一般式(S2)において、Rs21,Rs22は各々アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基またはアルコキシ基を表す。
【0080】
はじめに、一般式(S1)で表される化合物の詳細について説明する。
【0081】
前記一般式(S1)において、Lは酸素原子またはCHを表し、Rs11からRs14は各々水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基またはアルコキシ基を表し、これらの置換基は更に任意の置換基で置換されていても良い。
【0082】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等、アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等、シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等、アルコキシアルキル基として、例えば、β−メトキシエチル基、γ−メトキシプロピル基等、アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等を挙げることができる。
【0083】
以下、一般式(S1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明ではこれら例示する化合物にのみ限定されるものではない。
【0084】
【化15】

【0085】
次いで、本発明に係る一般式(S2)で表される化合物の詳細について説明する。
【0086】
前記一般式(S2)において、Rs21,Rs22は各々水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基またはアルコキシ基を表す。
【0087】
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基等、アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等、シクロアルキル基としては、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等、アルコキシアルキル基として、例えば、β−メトキシエチル基、γ−メトキシプロピル基等、アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等を挙げることができる。
【0088】
以下、一般式(S2)で表される化合物の具体例を示すが、本発明ではこれら例示する化合物にのみ限定されるものではない。
【0089】
【化16】

【0090】
上記例示した一般式(S1)及び一般式(S2)で表される化合物の中でも、特に、例示化合物(S1−1)、(S1−2)、(S2−3)が好ましい。
【0091】
本発明に係る一般式(S1)、(S2)で表される化合物は電解質溶媒の1種であるが、本発明の表示素子においては、本発明の目的効果を損なわない範囲でさらに別の溶媒を併せて用いることができる。具体的には、テトラメチル尿素、スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−(N−メチル)−2−ピロリジノン、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,Nジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、ブチロニトリル、プロピオニトリル、アセトニトリル、アセチルアセトン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ブタノール、1−ブタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、エタノール、メタノール、無水酢酸、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ジメトキシエタン、ジエトキシフラン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、水等が挙げられる。これらの溶媒の内、凝固点が−20℃以下、かつ沸点が120℃以上の溶媒を少なくとも1種含むことが好ましい。
【0092】
さらに本発明で用いることのできる溶媒としては、J.A.Riddick,W.B.Bunger,T.K.Sakano,“Organic Solvents”,4th ed.,John Wiley & Sons(1986)、Y.Marcus,“Ion Solvation”,John Wiley & Sons(1985)、C.Reichardt,“Solvents and Solvent Effects in Chemistry”,2nd ed.,VCH(1988)、G.J.Janz,R.P.T.Tomkins,“Nonaqueous Electrolytes Handbook”,Vol.1,Academic Press(1972)に記載の化合物を挙げることができる。
【0093】
本発明において、電解質溶媒は単一種であっても、溶媒の混合物であってもよい。
【0094】
以下、本発明の表示素子のその他の構成要素について説明する。
【0095】
〔銀塩化合物〕
本発明に係る銀塩化合物である銀または、銀を化学構造中に含む化合物としては、例えば、酸化銀、硫化銀、金属銀、銀コロイド粒子、ハロゲン化銀、銀錯体化合物、銀イオン等の化合物の総称であり、固体状態や液体への可溶化状態や気体状態等の相の状態種、中性、アニオン性、カチオン性等の荷電状態種は、特に問わない。
【0096】
本発明の表示素子においては、ヨウ化銀、塩化銀、臭化銀、酸化銀、硫化銀、クエン酸銀、酢酸銀、ベヘン酸銀、p−トルエンスルホン酸銀、トリフルオロメタンスルホン酸銀、メルカプト類との銀塩、イミノジ酢酸類との銀錯体、等の公知の銀塩化合物を用いることができる。これらの中でハロゲンやカルボン酸や銀との配位性を有する窒素原子を有しない化合物を銀塩として用いるのが好ましく、例えば、p−トルエンスルホン酸銀が好ましい。
【0097】
本発明に係る電解質液に含まれる銀イオン濃度は、0.2モル/kg≦[Ag]≦2.0モル/kgが好ましい。銀イオン濃度が0.2モル/kg以上であれば、十分な濃度の銀溶液となり所望の駆動速度を得ることができ、2モル/kg以下であれば析出を防止し、低温保存時での電解質液の安定性が向上する。
【0098】
〔ハロゲンイオン、金属イオン濃度比〕
本発明の表示素子においては、電解質層におけるハロゲンイオン濃度は、電解質層における銀または銀を化学構造中に含む化合物の銀原子のモル濃度を[Ag](モル/kg)とし、ハロゲンイオンまたはハロゲン分子のハロゲン原子の総モル濃度を[X](モル/kg)とした時、下式(1)で規定する条件を満たすことが好ましい。
【0099】
式(1)
0<[X]/[Ag]≦0.01
本発明でいうハロゲン原子とは、ヨウ素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子のことをいう。[X]/[Metal]が0.01よりも大きい場合は、金属の酸化還元反応時に、X→Xが生じ、Xは析出した金属と容易にクロス酸化して析出した金属を溶解させ、メモリー性を低下させる要因の1つになるので、ハロゲン原子のモル濃度は金属銀のモル濃度に対してできるだけ低い方が好ましい。本発明においては、0≦[X]/[Ag]≦0.001がより好ましい。ハロゲンイオンを添加する場合、ハロゲン種については、メモリー性向上の観点から、各ハロゲン種モル濃度総和が[I]<[Br]<[Cl]<[F]であることが好ましい。
【0100】
〔金属酸化物を含む多孔質層〕
本発明の表示素子においては、金属酸化物を含む多孔質層を設けることが好ましい。
【0101】
本発明に係る多孔質層を構成する金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化スズ、Snドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛等、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0102】
多孔質層は、上記金属酸化物の複数個の微粒子を結着または接触させることにより形成される。金属酸化物微粒子の平均粒子径は5nm〜10μmが好ましく、より好ましくは20nm〜1μmである。また、金属酸化物微粒子の比表面積は、簡易BET法で1×10−3〜1×10/gであることが好ましく、より好ましくは1×10−2〜10m/gである。また、金属酸化物微粒子の形状は、不定形、針状、球形など任意の形状のものが用いられる。
【0103】
金属酸化物微粒子の形成または結着法としては、公知のゾルゲル法や焼結法を採用することができ、例えば、1)Journal of the Ceramic Society of Japan,102,2,p200(1994)、2)窯業協会誌90,4,p157、3)J.of Non−Cryst.Solids,82,400(1986)等に記載の方法が挙げられる。また、気相法により作製した酸化チタンデンドリマー粒子を溶液上に分散して基体上に塗布し、120〜150℃程度の温度範囲で乾燥して溶媒を除去して多孔質層を得る方法を用いることもできる。金属酸化物微粒子は結着させた状態が好ましく、連続加重式表面性測定機(例えば、スクラッチ試験器)で0.1g以上、好ましくは1g以上の耐性を有する状態が好ましい。
【0104】
本発明でいう多孔質とは、多孔質層を配置し、一対の対向する電極間に電位差を与え、エレクトロクロミック化合物の酸化還元反応や金属の溶解析出反応を生じさせることが可能で、イオン種が多孔質電極内を移動可能な貫通状態を言う。
【0105】
〔白色散乱層〕
本発明においては、表示コントラスト及び白表示反射率をより高める観点から多孔質白色散乱層を有することができる。
【0106】
本発明に適用可能な多孔質白色散乱層は、電解質溶媒に実質的に溶解しない水系高分子と白色顔料との水混和物を塗布乾燥して形成することができる。
【0107】
本発明でいう電解質溶媒に実質的に溶解しないとは、−20℃から120℃の温度において、電解質溶媒1kgあたりの溶解量が0g以上、10g以下である状態と定義し、重量測定法、液体クロマトグラムやガスクロマトグラムによる成分定量法等の公知の方法により溶解量を求めることができる。
【0108】
本発明において、電解質溶媒に実質的に溶解しない水系高分子としては、水溶性高分子、水系溶媒に分散した高分子を挙げることができる。
【0109】
水溶性化合物としては、ゼラチン、ゼラチン誘導体等の蛋白質またはセルロース誘導体、澱粉、アラビアゴム、デキストラン、プルラン、カラギーナン等の多糖類のような天然化合物や、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、アクリルアミド重合体やそれらの誘導体等の合成高分子化合物が挙げられる。ゼラチン誘導体としては、アセチル化ゼラチン、フタル化ゼラチン、ポリビニルアルコール誘導体としては、末端アルキル基変性ポリビニルアルコール、末端メルカプト基変性ポリビニルアルコール、セルロース誘導体としては、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。更に、リサーチ・ディスクロージャー及び特開昭64−13546号の(71)頁〜(75)頁に記載されたもの、また、米国特許第4,960,681号、特開昭62−245260号等に記載の高吸水性ポリマー、すなわち−COOMまたは−SOM(Mは水素原子またはアルカリ金属)を有するビニルモノマーの単独重合体またはこのビニルモノマー同士もしくは他のビニルモノマー(例えばメタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸アンモニウム、アクリル酸カリウム等)との共重合体も使用される。これらのバインダは2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0110】
本発明においては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン系化合物を好ましく用いることができる。
【0111】
水系溶媒に分散した高分子としては、天然ゴムラテックス、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム等のラテックス類、ポリイソシアネート系、エポキシ系、アクリル系、シリコーン系、ポリウレタン系、尿素系、フェノール系、ホルムアルデヒド系、エポキシ−ポリアミド系、メラミン系、アルキド系樹脂、ビニル系樹脂等を水系溶媒に分散した熱硬化性樹脂を挙げることができる。これらの高分子のうち、特開平10−76621号に記載の水系ポリウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0112】
本発明の水系高分子の平均分子量は、重量平均で10,000〜2,000,000の範囲が好ましく、より好ましくは30,000〜500,000の範囲である。
【0113】
本発明に係る白色散乱層に適用可能な白色顔料としては、例えば、二酸化チタン(アナターゼ型あるいはルチル型)、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウムおよび水酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、アルカリ土類金属塩、タルク、カオリン、ゼオライト、酸性白土、ガラス、有機化合物としてポリエチレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、ポリアミド樹脂などが単体または複合混合で、または粒子中に屈折率を変化させるボイドを有する状態で使用されてもよい。
【0114】
本発明では、上記白色粒子の中でも、二酸化チタンが好ましく用いられ、特に無機酸化物(Al、AlO(OH)、SiO等)で表面処理した二酸化チタン、これらの表面処理に加えてトリメチロールエタン、トリエタノールアミン酢酸塩、トリメチルシクロシラン等の有機物処理を施した二酸化チタンがより好ましく用いられる。
【0115】
これらの白色粒子のうち、高温時の着色防止、屈折率に起因する素子の反射率の観点から、二酸化チタンまたは酸化亜鉛を用いることがより好ましい。
【0116】
本発明において、水系化合物と白色顔料との水混和物は、公知の分散方法に従って白色顔料が水中分散された形態が好ましい。水系化合物/白色顔料の混合比は、容積比で1〜0.01が好ましく、より好ましくは、0.3〜0.05の範囲である。
【0117】
多孔質白色散乱層の膜厚は、5〜50μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜30μmの範囲である。
【0118】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の水との溶解性が高い化合物が好ましく用いられ、水/アルコール系溶媒との混合比は、質量比で0.5〜20の範囲が好ましく、より好ましくは2〜10の範囲である。
【0119】
本発明において、水系化合物と白色顔料との水混和物を塗布する媒体は、表示素子の一対の対向する電極間の構成要素上であればいずれの位置でもよいが、対向電極の少なくとも1方の電極面上に付与することが好ましい。
【0120】
電極への付与の方法としては、例えば、塗布方式、液噴霧方式、気相を介する噴霧方式として、圧電素子の振動を利用して液滴を飛翔させる方式、例えば、ピエゾ方式のインクジェットヘッドや、突沸を利用したサーマルヘッドを用いて液滴を飛翔させるバブルジェット(登録商標)方式のインクジェットヘッド、また空気圧や液圧により液を噴霧するスプレー方式等が挙げられる。
【0121】
塗布方式としては、公知の塗布方式より適宜選択することができる。例えば、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、リバースローラーコーター、トランスファーローラーコーター、カーテンコーター、ダブルローラーコーター、スライドホッパーコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ビードコーター、キャストコーター、スプレイコーター、カレンダーコーター、押し出しコーター等が挙げられる。
【0122】
電極等の基材上に付与した水系化合物と白色顔料との水混和物の乾燥は、水を蒸発できる方法であればいかなる方法であってもよい。例えば、熱源からの加熱、赤外光を用いた加熱法、電磁誘導による加熱法等が挙げられる。また、水蒸発は減圧下で行ってもよい。
【0123】
本発明でいう多孔質とは、前記水系化合物と白色顔料との水混和物を電極上に塗布乾燥して多孔質の白色散乱物を形成した後、該散乱物上に、電解質液を与えた後に対向電極で挟み込み、一対の対向する電極間に電位差を与え、銀の溶解析出反応を生じさせることが可能で、イオン種が電極間で移動可能な貫通状態のことを言う。
【0124】
また、白色散乱物と水系化合物との混和物を塗布乾燥して作製する白色散乱層の他に、電解質層中に白色散乱物を混和させてもよい。
【0125】
〔電解質添加の増粘剤〕
本発明の表示素子においては、電解質に増粘剤を使用することができ、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、ポリ(ビニルアルコール)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アルキレングリコール)、カゼイン、デンプン、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メチルメタクリル酸)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(メタクリル酸)、コポリ(スチレン−無水マレイン酸)、コポリ(スチレン−アクリロニトリル)、コポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(ビニルアセタール)類(例えば、ポリ(ビニルホルマール)及びポリ(ビニルブチラール))、ポリ(エステル)類、ポリ(ウレタン)類、フェノキシ樹脂、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(エポキシド)類、ポリ(カーボネート)類、ポリ(ビニルアセテート)、セルロースエステル類、ポリ(アミド)類、疎水性透明バインダとして、ポリビニルブチラール、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリウレタン等が挙げられる。
【0126】
これらの増粘剤は2種以上を併用して用いてもよい。また、特開昭64−13546号公報の71〜75頁に記載の化合物を挙げることができる。これらの中で好ましく用いられる化合物は、各種添加剤との相溶性と白色粒子の分散安定性向上の観点から、ポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、ヒドロキシプロピルセルロース類、ポリアルキレングリコール類である。
【0127】
〔増粘剤〕
本発明の表示素子においては、電解質層に増粘剤を用いることができ、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、ポリ(ビニルアルコール)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(ビニルピロリドン)、カゼイン、デンプン、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メチルメタクリル酸)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(メタクリル酸)、コポリ(スチレン−無水マレイン酸)、コポリ(スチレン−アクリロニトリル)、コポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(ビニルアセタール)類(例えば、ポリ(ビニルホルマール)及びポリ(ビニルブチラール))、ポリ(エステル)類、ポリ(ウレタン)類、フェノキシ樹脂、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(エポキシド)類、ポリ(カーボネート)類、ポリ(ビニルアセテート)、セルロースエステル類、ポリ(アミド)類、疎水性透明バインダとして、ポリビニルブチラール、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリウレタン等が挙げられる。本発明に用いられるPAOは増粘剤の役目も果たす。
【0128】
これらの増粘剤は2種以上を併用して用いてもよい。また、特開昭64−13546号公報の71〜75頁に記載の化合物を挙げることができる。
【0129】
〔その他の添加剤〕
本発明の製造方法で形成される表示素子の電解質層には、その他各種性能を向上させる目的の添加剤を使用することができる。それらは目的に応じて選択され、特に制限されるものではない。
【0130】
各種の化学増感剤、貴金属増感剤、感光色素、強色増感剤、カプラー、高沸点溶剤、カブリ防止剤、安定剤、現像抑制剤、漂白促進剤、定着促進剤、混色防止剤、ホルマリンスカベンジャー、色調剤、硬膜剤、界面活性剤、増粘剤、可塑剤、スベリ剤、紫外線吸収剤、イラジエーション防止染料、フィルター光吸収染料、防ばい剤、ポリマーラテックス、重金属、帯電防止剤、マット剤等を、必要に応じて含有させることができる。
【0131】
上述したこれらの添加剤は、より詳しくは、リサーチ・ディスクロージャー(以下、RDと略す)第176巻Item/17643(1978年12月)、同184巻Item/18431(1979年8月)、同187巻Item/18716(1979年11月)及び同308巻Item/308119(1989年12月)に記載されている。
【0132】
これら三つのリサーチ・ディスクロージャーに示されている化合物種類と記載箇所を、下記表1に示す。
【0133】
【表1】

【0134】
上記の添加剤は、保護層、フィルター層、ハレーション防止層、クロスオーバー光カット層、バッキング層等の補助層を設け、それら補助層中に含有させることも可能である。
【0135】
〔基板〕
本発明で用いることのできる基板としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリカーボネート類、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンジナフタレンジカルボキシラート、ポリエチレンナフタレート類、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアセタール類、ポリスチレン等の合成プラスチックフィルムも好ましく使用できる。また、シンジオタクチック構造ポリスチレン類も好ましい。これらは、例えば、特開昭62−117708号、特開平1−46912、同1−178505号の各公報に記載されている方法により得ることができる。更に、ステンレス等の金属製基盤や、バライタ紙、及びレジンコート紙等の紙支持体ならびに上記プラスチックフィルムに反射層を設けた支持体、特開昭62−253195号(29〜31頁)に支持体として記載されたものが挙げられる。RDNo.17643の28頁、同No.18716の647頁右欄から648頁左欄及び同No.307105の879頁に記載されたものも好ましく使用できる。これらの支持体には、米国特許第4,141,735号のようにTg以下の熱処理を施すことで、巻き癖をつきにくくしたものを用いることができる。また、これらの支持体表面を支持体と他の構成層との接着の向上を目的に表面処理を行っても良い。本発明では、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理を表面処理として用いることができる。更に公知技術第5号(1991年3月22日アズテック有限会社発行)の44〜149頁に記載の支持体を用いることもできる。更にRDNo.308119の1009頁やプロダクト・ライセシング・インデックス、第92巻P108の「Supports」の項に記載されているものが挙げられる。その他に、ガラス基板や、ガラスを練りこんだエポキシ樹脂を用いることができる。
【0136】
〔透明電極〕
本発明の表示素子では、対向電極の少なくとも1種が透明電極であることが好ましい。透明電極としては、透明で電気を通じるものであれば特に制限はない。例えば、Indium Tin Oxide(ITO:インジウム錫酸化物)、Indium Zinc Oxide(IZO:インジウム亜鉛酸化物)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0137】
電極をこのように形成するには、例えば、基板上にITO膜をスパッタリング法等でマスク蒸着するか、ITO膜を全面形成した後、フォトリソグラフィ法でパターニングすればよい。表面抵抗値としては、100Ω/□以下が好ましく、10Ω/□以下がより好ましい。透明電極の厚みは特に制限はないが、0.1〜20μmであるのが一般的である。
【0138】
〔対向側画素電極〕
対向側画素電極は、電気が通じるものであれば、特に制限されず用いることができる。前記透明電極と同じ材料に加え、白金、金、銀、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、チタン、ビスマスなどの金属およびそれらの合金、カーボン等、透明性を有しない材料でも好ましく用いることができる。
【0139】
電極の作製方法は、電解メッキ法、無電解メッキ法、置換メッキ法、蒸着法、印刷法、インクジェット法、スピンコート法、CVD法等の既存の方法を用いることができる。
【0140】
〔表示素子のその他の構成要素〕
本発明の表示素子では、必要に応じて、シール剤、柱状構造物、スペーサー粒子を用いることができる。
【0141】
(シール剤)
シール剤は、外に漏れないように封入するためのものであり封止剤とも呼ばれ、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、エン−チオール系樹脂、シリコーン系樹脂、変性ポリマー樹脂等の、熱硬化型、光硬化型、湿気硬化型、嫌気硬化型等の硬化タイプを用いることができる。
【0142】
(柱状構造物)
柱状構造物は、基板間の強い自己保持性(強度)を付与し、例えば、格子配列等の所定のパターンに一定の間隔で配列された、円柱状体、四角柱状体、楕円柱状体、台形柱状体等の柱状構造物を挙げることができる。また、所定間隔で配置されたストライプ状のものでもよい。この柱状構造物はランダムな配列ではなく、等間隔な配列、間隔が徐々に変化する配列、所定の配置パターンが一定の周期で繰り返される配列等、基板の間隔を適切に保持でき、且つ、画像表示を妨げないように考慮された配列であることが好ましい。柱状構造物は表示素子の表示領域に占める面積の割合が1〜40%であれば、表示素子として実用上十分な強度が得られる。
【0143】
(スペーサー)
一対の基板間には、該基板間のギャップを均一に保持するためのスペーサーが設けられていてもよい。このスペーサーとしては、樹脂製または無機酸化物製の球体を例示できる。また、表面に熱可塑性の樹脂がコーティングしてある固着スペーサーも好適に用いられる。基板間のギャップを均一に保持するために柱状構造物のみを設けてもよいが、スペーサー及び柱状構造物をいずれも設けてもよいし、柱状構造物に代えて、スペーサーのみをスペース保持部材として使用してもよい。スペーサーの直径は柱状構造物を形成する場合はその高さ以下、好ましくは当該高さに等しい。柱状構造物を形成しない場合はスペーサーの直径がセルギャップの厚みに相当する。
【0144】
〔スクリーン印刷、表示素子作製方法〕
本発明においては、シール剤、柱状構造物、電極パターン等をスクリーン印刷法で形成することもできる。スクリーン印刷法は、所定のパターンが形成されたスクリーンを基板の電極面上に被せ、スクリーン上に印刷材料(柱状構造物形成のための組成物、例えば、光硬化性樹脂など)を載せる。そして、スキージを所定の圧力、角度、速度で移動させる。これによって、印刷材料がスクリーンのパターンを介して該基板上に転写される。次に、転写された材料を加熱硬化、乾燥させる。スクリーン印刷法で柱状構造物を形成する場合、樹脂材料は光硬化性樹脂に限られず、例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂も使用できる。熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリビニルケトン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩素化ポリエーテル樹脂等が挙げられる。樹脂材料は樹脂を適当な溶媒に溶解するなどしてペースト状にして用いることが望ましい。
【0145】
以上のようにして柱状構造物等を基板上に形成した後は、所望によりスペーサーを少なくとも一方の基板上に付与し、一対の基板を電極形成面を対向させて重ね合わせ、空セルを形成する。重ね合わせた一対の基板を両側から加圧しながら加熱することにより、貼り合わせて、表示セルが得られる。表示素子とするには、基板間に電解質組成物を真空注入法等によって注入すればよい。あるいは、基板を貼り合わせる際に、一方の基板に電解質組成物を滴下しておき、基板の貼り合わせと同時に液晶組成物を封入するようにしてもよい。
【0146】
〔表示素子駆動方法〕
本発明の表示素子において、析出過電圧以上の電圧印加で黒化銀等を析出させ、析出過電圧以下の電圧印加で黒化銀の析出を継続させる駆動操作を行うことが好ましい。この駆動操作を行うことにより、書き込みエネルギーの低下や、駆動回路負荷の低減や、画面としての書き込み速度を向上させることができる。一般に電気化学分野の電極反応において過電圧が存在することは公知である。例えば、過電圧については「電子移動の化学−電気化学入門」(1996年 朝倉書店刊)の121ページに詳しい解説がある。本発明の表示素子も電極と電解質中の銀等との電極反応と見なすことができるので、銀等の溶解析出においても過電圧が存在することは容易に理解できる。
【0147】
本発明の表示素子の駆動操作は、単純マトリックス駆動(パッシブ駆動)であっても、アクティブマトリック駆動であってもよい。本発明でいう単純マトリックス駆動とは、複数の正極を含む正極ラインと複数の負極を含む負極ラインとが対向する形で互いのラインが垂直方向に交差した回路に、順次電流を印加する駆動方法のことを言う。単純マトリックス駆動を用いることにより、回路構成や駆動ICを簡略化でき安価に製造できるメリットがある。アクティブマトリックス駆動は、走査線、データライン、電流供給ラインが碁盤目状に形成され、各碁盤目に設けられたTFT回路により駆動させる方式である。画素毎にスイッチングが行えるので、階調やメモリー機能等にメリットがあり、また、高精細化、大画面化に向くため、好ましい。例えば、特開2004−29327号の図5に記載されている回路を用いることができる。
【0148】
〔画素数〕
本発明の表示素子の画素数は、特に限定されないが、100dpi以上500dpi以下が好ましい。100dpiより少ないと表示画像が粗くなり、500dpiより多いと、画素と画素間でクロストークが発生しやすくなり、好ましくない。
【0149】
〔商品適用〕
本発明の表示素子の製造方法で作製される表示素子は、電子書籍分野、IDカード関連分野、公共関連分野、交通関連分野、放送関連分野、決済関連分野、流通物流関連分野等の用いることができる。具体的には、ドア用のキー、学生証、社員証、各種会員カード、コンビニストアー用カード、デパート用カード、自動販売機用カード、ガソリンステーション用カード、地下鉄や鉄道用のカード、バスカード、キャッシュカード、クレジットカード、ハイウェイカード、運転免許証、病院の診察カード、電子カルテ、健康保険証、住民基本台帳、パスポート、ワンタイムパスワード、電子ブック、携帯電話のカバー等各種機器の筐体装飾、キーボード表示、電子棚札、電子POP、電子広告等が挙げられる。特に大画面の表示が求められる電子ブック、電子広告、電子POP等の製造に有効である。
【実施例】
【0150】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0151】
《電極の作製》
〔非表示側(対向側画素)電極の作製〕
4cm×5cmサイズの駆動回路基板表面に、公知の方法でITOをピッチ145μm、電極幅130μmのパターンで、厚み800nmになるように形成し、そのパターン化されたITO上に、厚み1000nmになるように、公知の方法で銀−パラジウム薄膜を形成した。必要電極開口部以外の部分は、アクリル樹脂系の絶縁膜を厚み500nmになるように形成して、非表示側電極を得た。
【0152】
〔表示側電極の作製〕
公知の方法で4cm×5cmサイズの無アルカリガラス(厚み1.5mm)表面に、ITO薄膜を厚み800nmとなるように形成して、表示側電極を得た。
【0153】
《電解液の調製》
〔電解液1の調製〕
溶媒としてジメチルスルホキシド(表2には、DMSOと略記)1.0g中に、銀塩化合物としてヨウ化銀を0.1g添加し、更に、一般式(1)で表される化合物として例示化合物(1−19)を0.23g、銀錯化剤(支持塩)としてヨウ化ナトリウムを0.1gを加えて、溶解、混合した後、二酸化チタンを1.5g添加、分散して、電解液1を調製した。電解液1において、式(1)で表される[X]/[Ag]は、1.460である。
【0154】
〔電解液2〜29の調製〕
上記電解液1の調製において、一般式(1)または一般式(2)で表される化合物の種類、銀塩化合物の種類、銀錯化剤(支持塩)の種類及び溶剤の種類を、表2に記載のように変更した以外は同様にして、電解液2〜29を調製した。また、各電解液における式(1)で表される[X]/[Ag]を、合わせて表2に示す。
【0155】
なお、表2に略称で記載した各電解液添加剤の詳細は、以下の通りである。
【0156】
〈溶媒〉
DMSO:ジメチルスルホキシド
PC:プロピレンカーボネート
NMP:N−メチル−2−ピロリジノン
γ−BL:γ−ブチロラクトン
《表示素子の作製》
〔表示素子1の作製〕
上記作製した非表示側電極の周辺部上に、平均粒径が40μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを体積分率として10%含むオレフィン系シール剤を印刷した後、上記電解液1を非表示側電極の中央部に滴下した。その後、真空貼り合わせ装置内を真空状態にして、上記表示側電極のITOガラス面と非表示側電極1と重ねて、端部をシール材で貼り合わせた後、10mW/cmのUV光を1分間照射してシール材を硬化して、表示素子1を作製した。
【0157】
〔表示素子2〜29の作製〕
上記表示素子1の作製において、電解液1に代えて、それぞれ上記調製した電解液2〜29を用いた以外は同様にして、表示素子2〜29を作製した。
【0158】
《表示素子の評価》
上記作製した表示素子1〜29について、下記の評価を行った。
【0159】
(耐久性の評価)
上記作製した各表示素子について、+1.5Vの電圧を1.5秒間印加して白色を表示させた後に、コニカミノルタセンシング社製の分光測色計CM−3700dでL値、a値、b値を測定し、それぞれL、a、bとした。その後、−1.5Vの電圧を0.5秒間印加して黒色を表示させ、その条件で白化−黒化を1000回繰り返し、その後再度白化させたときのL値、a値、b値を測定し、それぞれL、a、bとした。
【0160】
得られた各測定値から色調変動の評価値として、ΔE=〔(L−L+(a−a+(b−b1/2を計算した。表示素子25のΔEの値を1.0とした時の各表示素子のΔEの相対値ΔEを求め、これを耐久性の指標とした。ΔEの値が小さいほど、繰り返し駆動において色調変動が小さく優れていることを示す。
【0161】
得られた結果を、表2に示す。
【0162】
【表2】

【0163】
表2に記載の結果より明らかなように、一対の対向する電極間に、銀、または銀を化学構造中に含む化合物を含有する電解質層を有し、銀の溶解析出を生じさせるように該対向電極の駆動操作を行う表示素子であって、電解液中に、一般式(1)または一般式(2)で表される化合物を含む本発明の表示素子は、比較例に対し、繰り返し駆動後の色調変動が少ない表示素子であることがわかる。
【符号の説明】
【0164】
1 表示素子
2 透明電極
3 対向電極
4 黒色画像(銀画像)
5 電解質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の対向する電極間に、銀、または銀を化学構造中に含む化合物を含有する電解質層を有し、銀の溶解析出を生じさせるように該対向電極の駆動操作を行う表示素子において、該電解質層が、下記一般式(1)または一般式(2)で表される化合物を含有することを特徴とする表示素子。
【化1】

〔式中、AからAは、それぞれ水素原子、水酸基、アシル基、メルカプト基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキル基、アルキルチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、スルファモイル基、−OCOR、−COOR、−ORまたはカルバモイル基を表す。Rはアルキル基を表す。〕
【化2】

〔式中、A、Aは、それぞれ水素原子、水酸基、アシル基、メルカプト基、アミノ基、アシルアミノ基、アルキル基、アルキルチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、スルファモイル基、−OCOR、−COOR、−ORまたはカルバモイル基を表す。Rはアルキル基を表す。B、D、Eは、それぞれ窒素原子Nまたは炭素原子C−Aを表す。Aは、A、Aで表される基と同義である。〕
【請求項2】
前記一般式(1)におけるAからAの少なくとも1つが、アルキルチオ基、−OCOR(R:分岐型アルキル基)、−COOR(R:分岐型アルキル基)または−OR(R:分岐型アルキル基)であることを特徴とする請求項1に記載の表示素子。
【請求項3】
前記一般式(2)におけるA、A、Aの少なくとも1つが、アルキルチオ基、−OCOR(R:分岐型アルキル基)、−COOR(R:分岐型アルキル基)または−OR(R:分岐型アルキル基)であることを特徴とする請求項1に記載の表示素子。
【請求項4】
前記電解質層が、下記一般式(G−1)または(G−2)で表される化合物を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の表示素子。
一般式(G−1)
Rg11−S−Rg12
〔式中、Rg11、Rg12は各々置換または無置換の炭化水素基を表す。また、これらの炭化水素基は、1個以上の窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子またはハロゲン原子を含んでも良く、Rg11とRg12が互いに連結し、環状構造を取っても良い。〕
【化3】

〔式中、Mは水素原子、金属原子または4級アンモニウムを表す。Zは含窒素複素環を構成するのに必要な原子群表す。nは0〜5の整数を表し、Rg21は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルキルカルボンアミド基、アリールカルボンアミド基、アルキルスルホンアミド基、アリールスルホンアミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、カルバモイル基、アルキルスルファモイル基、アリールスルファモイル基、スルファモイル基、シアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、アミノ基、ヒドロキシ基または複素環基を表し、nが2以上の場合、それぞれのRg21は同じであってもよく、異なってもよく、お互いに連結して縮合環を形成してもよい。〕
【請求項5】
前記電解質層が、下記一般式(S1)または一般式(S2)で表される化合物を含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の表示素子。
【化4】

〔式中、Lは酸素原子またはアルキレン基を表し、Rs11からRs14は各々水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基またはアルコキシ基を表す。〕
【化5】

〔式中、Rs21,Rs22は各々アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基、アルコキシアルキル基またはアルコキシ基を表す。〕
【請求項6】
前記電解質層におけるハロゲンイオン濃度は、前記電解質層における銀または銀を化学構造中に含む化合物の銀原子のモル濃度を[Ag](モル/kg)とし、ハロゲンイオンまたはハロゲン分子のハロゲン原子の総モル濃度を[X](モル/kg)とした時、下式(1)で規定する条件を満たすことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の表示素子。
式(1)
0<[X]/[Ag]≦0.01

【図1】
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