説明

表示部材およびその製造方法

【課題】 クラックや剥離、不規則配列部の発生が十分に抑制され、その結果、白濁化が抑制されると共に構造色の発現の程度が高く、その結果、極めて高い発色性の構造色を視認することができる表示部材およびその製造方法の提供。
【解決手段】 表示部材は、球体およびマトリックスよりなり構造色を発現する表示層を有するものであって、球体は、カルボキシル基を有する樹脂からなり、電気伝導度滴定により得られる表面カルボキシル基の量Aが1.5×10-5モル/g≦A≦9.5×10-4モル/gであることを特徴とする。その製造方法は、球体を水系媒体に分散させた球体分散液によるウェット球体層を形成し、これを静置または乾燥させる工程を経る方法において、球体は、カルボキシル基を有する樹脂からなり、電気伝導度滴定により得られる表面カルボキシル基の量Aが1.5×10-5モル/g≦A≦9.5×10-4モル/gであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサー、ディスプレイ、パネル、シート、ラベルなどとして利用できる、構造色を発現する表示部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、球体により形成された周期構造体により構造色を発現する表示部材が各種提案されている。
このような表示部材を構成する周期構造体は、単分散の球体を希薄〜高分散濃度範囲に分散させた水性懸濁液を用いてこれを平坦な基板上に塗布してウェット球体層を形成し、このウェット球体層を静置または乾燥・脱水させることによって、球体を毛管現象による自己配列作用によって面方向および厚み方向の3次元的に規則的に配列させることにより、薄片状の結晶として得ることができることが知られている。球体同士は、マトリックスによって固定化されるところ、このマトリックスは、球体を規則的に配列させた後、球体間にマトリックス形成材料を充填させることなどにより、形成することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、このような水性懸濁液を用いて毛細管力によって配列させ、球体間にマトリックス形成材料を充填して得られる周期構造体は、分散媒の種類によっては、クラックや薄片状の剥離、または球体が不規則的に配置された不規則配列部が発生したものとなるという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平4−213334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、クラックや剥離、不規則配列部の発生が十分に抑制され、その結果、白濁化が抑制されると共に構造色の発現の程度が高く、その結果、極めて高い発色性の構造色を視認することができる表示部材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の表示部材は、球体およびマトリックスよりなり構造色を発現する表示層を有する表示部材であって、
前記球体は、少なくともカルボキシル基を有する樹脂からなり、電気伝導度滴定により得られる表面カルボキシル基の量Aが1.5×10-5モル/g≦A≦9.5×10-4モル/gであることを特徴とする。
【0007】
本発明の表示部材において、前記表示層は、0.5〜2.0質量%の水分を含むものであることが好ましい。
【0008】
本発明の表示部材の製造方法は、上記の表示部材を製造する方法であって、
球体を水系媒体に分散させた球体分散液によるウェット球体層を形成し、当該ウェット球体層を静置または乾燥させる工程を経る表示部材の製造方法において、
前記球体は、少なくともカルボキシル基を有する樹脂からなり、電気伝導度滴定により得られる表面カルボキシル基の量Aが1.5×10-5モル/g≦A≦9.5×10-4モル/gであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表示部材によれば、クラックや剥離、不規則配列部の発生が抑制されたものであるために、白濁化が抑制されると共に構造色の発現の程度が高く、その結果、極めて高い発色性の構造色を視認することができる。
【0010】
本発明の表示部材の製造方法によれば、球体について電気伝導度滴定により得られる表面カルボキシル基の量が特定の範囲にあるので、すなわち球体の表面にカルボキシル基が特定量存在するので、水系媒体中においてカルボキシル基の解離により球体の表面に、当該球体を面方向および厚み方向の3次元的に規則的に配列させるための静電斥力として適当な大きさの静電斥力が生じて静電斥力による自己配列作用が促進されるため、クラックや剥離、不規則配列部の発生が抑制された表示部材を得ることができる。
さらに、マトリックスを充填させる際にも、静電斥力による自己配列作用が発揮されるために配列が乱れることが抑制されることが期待できる。
【0011】
なお、その表面に例えばスルホン酸エステル基などの他の極性基を存在させた球体を用いた場合は、極性基の解離によって静電斥力は生じるものの、ウェット球体層を静置または乾燥させる工程において、ウェット球体層からの水分の蒸発などに伴う電気伝導度の変動、すなわち系内の塩濃度の変動が生じた場合に、当該塩濃度の変動が静電斥力に影響を与えるため、安定した静電斥力を得にくい。
然るに、本発明の表示部材の製造方法によれば、カルボキシル基が弱酸であるために、塩濃度の変動による静電斥力への影響が小さく抑制され、その結果、安定した静電斥力が得られると推測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0013】
本発明の表示部材は、例えば、図1に示されるように、構造色を発現する、球体12およびマトリックスMよりなる表示層10を有し、この球体12が、少なくともカルボキシル基を有する樹脂からなり、電気伝導度滴定により得られる表面カルボキシル基の量Aが特定の範囲にあるものである。
【0014】
〔構造色〕
本発明の表示部材において得られる構造色とは、色素などの光の吸収による色ではなく、周期構造などによる選択的な光の反射により発現される色のことである。
表示層10は、当該表示層10によって光を反射することのできる構造を有しており、観察角に基づいて規定される波長の光が選択的に反射されることにより、構造色の発現が視認される。
【0015】
表示層10において選択的に反射される光は、ブラッグの法則、スネルの法則より、下記式(1)で表される波長の光とされる。
なお、下記式(1)および下記式(2)は近似式であり、実際上はこれらの計算値に完全には合致しない場合もある。
式(1):λ=2nD(cosθ)
この式(1)において、λは構造色のピーク波長、nは下記式(2)で表される表示層10の屈折率、Dは球体層15の層間隔(球体12の表示部材の垂線方向における間隔)、θは表示部材の垂線との観察角である。
式(2):n={na・c}+{nb・(1−c)}
この式(2)において、naは球体12の屈折率、nbはマトリックスMの屈折率、cは表示層10における球体12の体積率である。
ここに、構造色のピーク波長λは、ファイバーを用いて反射光源と観察角度との関係を確認できる「MCPD−3700」(大塚電子社製)を用いて測定されるものとすることができる。
【0016】
表示層10の厚みは、用途によって異なるが、例えば0.1〜100μmとすることができる。球体層の厚みが0.1μm未満である場合は、構造色が発色しにくくなる。
【0017】
表示層10における球体層15の周期数は、少なくとも1以上である必要があり、好ましくは5〜500である。
周期数が1未満である場合は、表示層が構造色を発現するものとならない。
【0018】
本発明の表示部材において、構造色による表示色は、可視域にピーク波長を有する色に限らず、紫外域または赤外域にピーク波長を有する色であってもよい。
【0019】
表示層10における層間隔Dは、50〜500nmであることが好ましい。
層間隔Dが上記の範囲にあることにより、得られる表示層10において発現される構造色が近紫外〜可視〜近赤外域にピーク波長を有する表示色となる。一方、層間隔Dが500nmよりも大きい場合は、得られる表示層10が構造色を発現するものとならないおそれがある。
【0020】
〔球体〕
本発明において、球体とは、3次元において球体形状を有する固体の物質のことであり、真球に限定されるものではなく、おおよそ球体形状を有すればよい。
表示層10を構成する球体12を形成すべき材料としては、球体12の表面カルボキシル基量Aが下記の範囲となるものであれば、その屈折率がマトリックスMの屈折率と異なるものであり、さらにマトリックスMを形成する充填剤と非相溶性であるものを、適宜に選択することができる。
また、表示層10を構成する球体12は、マトリックスMを形成すべき充填剤との親和性の高い材料よりなることが好ましい。
【0021】
〔表面カルボキシル基の量〕
球体12の表面カルボキシル基量Aは1.5×10-5モル/g≦A≦9.5×10-4モル/gであり、好ましくは2.5×10-5モル/g≦A≦2.3×10-4モル/gである。
球体12の表面カルボキシル基量が上記の範囲にあることにより、得られる表示層10において、球体12が、その表面のカルボキシル基が解離した状態とされ、従って球体12間において静電斥力が働いて高い配列性が得られ、水による影響を過大に受けずに温湿度などの環境による変動を抑制することができる。その結果、得られる表示層10が、クラックや剥離、不規則配列部の発生が抑制され、白濁化が抑制された発色性の高い構造色を発現するものとなる。
【0022】
球体12の表面カルボキシル基の量Aは、球体12の水分散液を電気伝導度滴定装置を用いて強アルカリ溶液である水酸化ナトリウム水溶液によって滴定した滴定曲線より算出されるものである。
具体的には、表示媒体より分離した球体12を、スルホン酸塩の界面活性剤を添加したイオン交換水に分散させ、固形分濃度5%(固形分1.25g)の水分散液25gを調製し、これに前処理として透析処理を行い、遊離塩類などを取り除く。
そして、電気伝導度滴定装置「ABU91 Autoburet t and CDM 80 Conductivity meter」(Radiometer社製)を用いて上記の希釈した試料を0.05Nの水酸化ナトリウム(関東化学社製)によって滴定し、滴定曲線を得、当該滴定曲線より、表面カルボキシル基を中和した水酸化ナトリウムの量B(L)を算出し、この値を用いることにより、下記式(3)より単位質量当たりの表面カルボキシル基の量Aが導出される。
式(3):A(モル/g)=〔0.05(N)×B(L)〕/1.25(g)
【0023】
このような表面カルボキシル基量Aを有する球体12の製造方法は、特に限定されるものではなく、懸濁重合法、乳化重合法、溶解懸濁法、ソープフリー重合法およびその他の一般的な造粒法によって得ることができる。特に、単分散粒子が得られるという観点から、乳化重合法、ソープフリー重合法を採用することが好ましい。
【0024】
球体12を重合するための単量体としては、必須のカルボキシル基を含有する重合性単量体として、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、マレイン酸モノブチルエステル、マレイン酸モノオクチルエステルなどが挙げられる。
カルボキシル基を含有する重合性単量体は、全重合性単量体中の割合(共重合体比)が2〜20質量%であることが好ましい。
カルボキシル基を含有しないその他の重合性単量体としては、スチレン類、アクリル酸エステル類などのビニル系単量体が挙げられる。
具体的には、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンなどのスチレンまたはスチレン誘導体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチルなどのメタクリル酸エステル誘導体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸フェニルなどのアクリル酸エステル誘導体;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類;プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニルなどのビニルエステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテルなどのビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトンなどのビニルケトン類;N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンなどのN−ビニル化合物;ビニルナフタレン、ビニルピリジンなどのビニル化合物類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドなどのアクリル酸またはメタクリル酸誘導体が挙げられる。これらのビニル系単量体は1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
〔表面カルボキシル基量Aの調整方法〕
球体12の表面カルボキシル基量Aは、カルボキシル基を含有する重合性単量体の種類や量によって調整することができる。また、後述する球体分散液に塩酸や水酸化ナトリウムなどの酸/アルカリ物質を添加してpHを制御することにより、表面カルボキシル基の解離度合いを制御して表面カルボキシル基量Aを調整することができる。
【0026】
球体12の平均粒径は、当該球体12の屈折率およびマトリックスMの屈折率との関係において設定する必要があり、さらに少なくとも球体分散液が安定したコロイド溶液となる大きさであることが好ましいところ、例えば50〜500nmであることが好ましい。
球体12の平均粒径が上記の範囲にあることにより、その分散液を安定したコロイド溶液とすることができ、また、得られる表示部材において発現する構造色が近紫外〜可視〜近赤外域にピーク波長を有する色となる。
一方、球体の平均粒径が50nm未満である場合は、視認される構造色が色濃度の小さいものとなるおそれがあり、球体の平均粒径が500nmよりも大きい場合は、光の散乱が大きく生じることによって視認される構造色が白濁化してその表示色が認識されにくいものとなることがある。
【0027】
また、表示層10を構成する球体12は、表示層10を形成させる際に規則配列させやすいことから、単分散性の高いものであることが好ましい。
球体12について、粒径分布を表すCV値は20以下であることが好ましく、より好ましくは10以下、特に好ましくは5以下である。
CV値が20より大きい場合は、規則的に配列されるべき球体層が大きな乱れが生じたものとなって得られる周期構造体層が白濁化してその構造色が認識されにくいものとなることがある。
平均粒径は、球体12について走査型電子顕微鏡「JSM−7410」(日本電子社製)を用いて50,000倍の写真を撮影し、この写真画像における球体12の200個について、それぞれ最大長を測定し、その個数平均値を算出することにより、得られるものである。ここに、「最大長」とは、球体12の周上の任意の2点による2点間距離のうち、最大のものをいう。
なお、球体12が凝集体として撮影される場合には、凝集体を形成する一次粒子(球体)の最大長を測定するものとする。
CV値は、個数基準の粒度分布における標準偏差および上記の平均粒径の値を用いて下記式(CV)より算出されるものである。
式(CV):CV値=((標準偏差)/(平均粒径))×100
【0028】
球体12の屈折率は公知の種々の方法で測定することができるところ、本発明における球体12の屈折率は、液浸法によって測定した値とする。
【0029】
〔マトリックス〕
表示層10を構成するマトリックスMとしては、気体状、液体状などのものであってもよいが、得られる表示部材が高い強度、球体剥離抑制能および可撓性を有するものとなることから、固体状またはゲル状のものを用いることが好ましい。
表示層10を構成するマトリックスMを形成すべき材料としては、その屈折率が球体12の屈折率と異なるものであり、球体12を構成する材料と非相溶性であるものを、適宜に選択することができる。
また、マトリックスMを形成すべき材料としては、球体12との親和性の高い材料が好ましい。
【0030】
マトリックスMの屈折率は、公知の種々の方法で測定することができるところ、本発明におけるマトリックスMの屈折率は、別個にマトリックスMのみよりなる薄膜を作成し、この薄膜をアッベ屈折率計にて測定した値とされる。
マトリックスの屈折率の具体的な例としては、例えばシリコーンゲルが1.41、ゼラチン/アラビアゴムが1.53、ポリビニルアルコールが1.51、ポリアクリル酸ナトリウムが1.51、フッ素変性アクリル樹脂が1.34、ポリN−イソプロピルアクリルアミドが1.51、発泡アクリル樹脂が1.43である。
【0031】
マトリックスMを形成すべき材料としては、例えば有機溶剤に可溶である樹脂や水に可溶である樹脂、ヒドロゲル、オイルゲル、光硬化剤、熱硬化剤および湿気硬化剤などが挙げられる。
有機溶剤に可溶である樹脂としては、具体的には、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、水に可溶である樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。
ヒドロゲルとしては、具体的にはゼラチン、カラギナン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどのゲル化剤と水とを混合して得られるゲルが挙げられ、オイルゲルとしては、シリコーンゲル、フッ素変性シリコーンゲルなどや、アミノ酸系誘導体、シクロヘキサン系誘導体、ポリシロキサン系誘導体などのゲル化剤とシリコーンオイル、有機溶剤とを混合して得られるゲルが挙げられる。
【0032】
〔表示層〕
本発明の表示部材の表示層10は、具体的には、マトリックスM中に固体の粒子よりなる球体12による周期構造体16が形成されてなるものであり、より詳細には、マトリックスM中に球体12同士が面方向に接触して規則的に形成される球体層15が、厚み方向においても球体12同士が接触する状態で規則的に配された構成を有するものである。
また例えば、図2に示されるように、マトリックスM中に球体12同士が面方向に非接触状態で規則的に配されて形成される球体層15が、厚み方向においても球体12同士が非接触状態で規則的に配された構成を有していてもよい。
この球体層15は、光が入射する方向に対して一方向に規則的に球体12が配列された構成を有しており、特に、周期構造体が面心立方構造などの立方最密構造や、六方最密構造などの最密充填構造を呈するよう球体12が配列された構成を有することが好ましい。
【0033】
また、表示層10は、0.5〜2.0質量%の水分を含むものであることが好ましい。表示層10の水分量が0.5〜2.0質量%であることにより、球体12の表面の解離したカルボキシル基による静電反発効果が有効に作用して球体12間の距離が一定に保たれることにより規則的に配され、これにより、得られる表示層10が、クラックや剥離、不規則配列部の発生が抑制されたものとなるので構造色の表示状態が良好なものとなる。
一方、表示層10における水分量が0.5質量%未満である場合は、球体12の表面の解離したカルボキシル基による静電反発効果が不十分となりやすく、このため、得られる表示層が、クラックや剥離、不規則配列部を生じやすくなり、構造色の表示状態が低いものとなるおそれがある。
また、表示層10における水分量が2.0質量%を超える場合は、水による影響を受けやすくなることにより、温度や湿度の変動による構造色による表示色の変動が起こりやすくなるおそれがある。
【0034】
表示層10の水分量は、カール・フィッシャー電量滴定法(Karl Fischer Coulometric titration method)によって測定されるものである。
具体的には、表示層10の一部切り取った小片0.5gを精評したものを試料として、水分計(AQUACOUNTER)AQ−6、AQI−601(AQ−6用インターフェイス)、加熱気化装置(AUTOMATED SOLID EVAPORATOR)「LE−24Sからなる自動熱気化水分測定システム「AQS−724」(平沼産業社製)を用い、温度20℃、湿度50%RHの環境下において24時間放置した試料を、ガラス製の20mLのサンプル管に入れ、次いで、テフロン(登録商標)コートのシリコーンゴムパッキングを用いて密栓し、この試料サンプル管と密栓した環境中に存在する水分を補正するため、空のサンプル管とを同時に下記の測定条件で測定し、下記式(4)によって水分量が算出される。
式(4):表示層の水分量(質量%)={(試料サンプル管のH2 O量〔μg〕−空のサンプル管のH2 O量〔μg〕)/試料の質量(μg)}×100
−測定条件−
キャリアガス:窒素ガス
入力圧:9.8×104 Pa(1.0kgf/cm2
流量:150mL/分
乾燥剤:シリカゲルカラム1本とゼオライトカラム1本
電解液 発生液(陽極液):ハイドラナールアクアライトRS
対極液(陰極液):アクアライトCN
設定加熱温度:110℃
試料容器:装置付属のものを使用(容量20mL、パッキンおよびネジ蓋付き)
【0035】
表示層10を上記のような水分量のものとするために、球体12およびマトリックスMを形成する材料によっても異なるが、マトリックスMの量は、球体12の20〜60体積%であることが好ましく、より好ましくは30〜45体積%である。
【0036】
表示層10においては、球体12の屈折率とマトリックスMの屈折率との差の絶対値(以下、「屈折率差」という。)が、0.02〜2.0であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.6である。
この屈折率差が0.02未満である場合は、構造色が発色しにくくなり、この屈折率差が2.0より大きい場合は、光の散乱が大きく生じることによって視認される構造色が白濁化してその表示色が認識されにくいものとなるおそれがある。
【0037】
〔表示層の製造方法〕
本発明の表示部材を構成する表示層10は、球体12を水系媒体に分散させた球体分散液によるウェット球体層を形成し、当該ウェット球体層を静置または乾燥させる工程を経ることによって得られる。ウェット球体層は、例えば球体分散液を基板上に塗布することによって得られる。
マトリックスMは、これを形成すべき材料を球体分散液に溶存させておき、周期構造体の形成と同時に当該材料が球体12間に充填された状態を得、これを固化して得てもよく、球体12による周期構造体を形成させた後、前記材料を別工程において周期構造体に塗布して球体12間に隙間なく充填させた後固化させて得てもよい。
【0038】
〔球体分散液〕
ウェット球体層を形成するための球体分散液は、球体を水系媒体に分散させたものである。
球体分散液を得るための水系媒体とは、少なくともカルボキシル基を解離させた状態とすることのできる液体をいい、具体的には、例えば水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランおよびこれらの混合液などが挙げられる。これらのうち、主成分(50質量%以上)が水からなり、その他の成分として樹脂を溶解しない有機溶媒であるメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールのようなアルコール系有機溶媒が混合されたものが特に好ましい。
【0039】
球体分散液における水系媒体の量は、水系媒体を蒸発させて得られる周期構造体における水系媒体が後述の範囲となる量であればよく、例えば、球体分散液における球体12の濃度が20〜65体積%であることが好ましく、より好ましくは40〜60体積%である。球体分散液における球体12の濃度が上記の範囲にあることにより、球体12について十分な分散安定性が得られると共に高い取り扱いハンドリング性が得られる。一方、球体分散液における球体12の濃度が20体積%未満である場合は、蒸発させるべき分散媒の量が過多となるために、個々の球体12について、規則的な周期構造状態を形成するための位置まで移動すべき距離が長いものとなり、得られる周期構造体が、不規則的に配置された不規則配列部が発生したものとなるおそれがある。また、球体分散液における球体の濃度が65体積%を超える場合は、球体分散液中の球体12がランダムに部分凝集する球体群を生じさせやすくなり、球体の凝集が著しく阻害されるために、得られる周期構造体が、不規則的に配置された不規則配列部が発生したものとなるおそれがある。
【0040】
球体12の球体分散液の塗布方法としては、バーコート法、スクリーン塗布法、ディップ塗布法、スピンコート塗布法、カーテン塗布法、LB(Langmuir−Blodgett)膜作成法などを利用することができる。
また、基板の材料としては、下記の基板13の材料として挙げられたものを挙げることができる。
【0041】
球体12による周期構造体を形成させた後、マトリックスMを形成すべき材料を別工程において周期構造体に塗布して球体12間に隙間なく充填させた後固化させる表示層の形成方法においては、球体分散液によるウェット球体層を乾燥させた周期構造体における水系媒体の量は、0.5〜3.0質量%であることが好ましい。
ウェット球体層の水系媒体の量が0.5〜3.0質量%であることにより、マトリックスMが周期構造体を形成させた後に充填させる場合においても、球体12のカルボキシル基の解離が確実に生じ、これにより球体の表面に当該球体を面方向および厚み方向の3次元的に規則的に配列させるための静電斥力として適当な大きさの静電斥力を生じさせることができるため、その静電斥力が作用された状態においてマトリックスMを形成すべき材料を充填させることができ、その結果、得られる表示層がクラックや剥離、不規則配列部の発生が抑制されたものとなる。
一方、ウェット球体層を乾燥させた周期構造体における水系媒体の量が0.5質量%未満である場合は、マトリックスMが周期構造体を形成させた後に充填させる場合に、球体12のカルボキシル基の解離が十分に生じず、球体の表面において適当な大きさの静電斥力を得ることができないため、得られる周期構造体が、規則的な周期構造状態を形成するための位置からの変位の程度が大きい、配列性の低いものとなるおそれがある。また、ウェット球体層を乾燥させた周期構造体における水系媒体の量が3.0質量%を超える場合は、得られる表示部材が温湿度などの環境に対する変動が大きいものとなる。
【0042】
〔表示部材〕
本発明の表示部材は、色表示の効果をより得るために、以上のような表示層10が黒色、灰色など所望に応じた光を吸収する色の層や基板上に積層された構成とされていることが好ましい。具体的には、例えば、図1に示されるように、基板13上に表示層10が積層されたシート状のものとして構成することができる。この基板13は、ウェット球体層を形成させる基板をそのまま表示部材における基板として用いてもよい。
【0043】
基板13としては、例えばゴム、ガラス、セラミックスやポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のフィルムやシートなどを使用することができる。
また、表示層10は球体12の球体分散液を用いて作製するために、基板13としては、表面の水に対する接触角はある程度低いものが好ましい。また、表面平滑性は高いものが好ましいことから、基板13について適宜の表面処理を行ってもよい。また、ブラスト処理などを行って球体が付着しやすい状態にして使用することもできる。
【0044】
また、表示部材は、基板13上に表示層10が形成され、この表示層10上に粘着層を介して表面被覆層が設けられたものとして構成することもできる。
このような表示部材において、基板13、粘着層および表面被覆層は、用途などに応じて必要に応じて設けられるものであり、また、基板13の裏面に、ラベル用粘着層を設けた構成としてもよい。
表面被覆層を設ける場合は、当該表面被覆層として、透明性が高く、表示層10において発現される構造色の視認を阻害しないポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などよりなるフィルム、UV硬化樹脂よりなるフィルムなどを用いることができる。
また、ラベルとして使用する場合は、ラベル用粘着層として、例えばアクリル系粘着剤、アクリル・オレフィン共重合粘着剤などの接着性の粘着材を用いることができる。
【0045】
以上のような表示部材の製造方法によれば、球体について電気伝導度滴定により得られる表面カルボキシル基の量が特定の範囲にあるので、すなわち球体の表面にカルボキシル基が特定量存在するので、水系媒体中においてカルボキシル基の解離により球体の表面に、当該球体を面方向および厚み方向の3次元的に規則的に配列させるための静電斥力として適当な大きさの静電斥力が生じて静電斥力による自己配列作用が促進されるため、クラックや剥離、不規則配列部の発生が抑制された表示部材を得ることができる。
さらに、マトリックスを充填させる際にも、静電斥力による自己配列作用が発揮されるために配列が乱れることが抑制されるため、クラックや剥離、不規則配列部の発生が抑制された表示部材を得ることができることが期待できる。
そして、以上の表示部材によれば、クラックや剥離、不規則配列部の発生が抑制されたものであるために、白濁化が抑制されると共に構造色の発現の程度が高く、その結果、極めて高い発色性の構造色を視認することができる。
【0046】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明の実施の形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において、平均粒径、CV値および屈折率の測定は、上述の方法と同様の方法によって行った。
【0048】
〔粒子合成例1〕
スチレン72質量部、n−ブチルアクリレート20質量部およびアクリル酸8質量部を80℃に加温して単量体溶液を調製した。一方、ドデシルスルホン酸ナトリウム0.2質量部をイオン交換水263質量部に溶解させた界面活性剤溶液を80℃に加熱し、この界面活性剤溶液と上記の単量体混合液とを混合した後、機械式分散機「クレアミックス(CLEARMIX)」(エム・テクニック社製)によって30分間分散処理することにより、乳化分散液を調製した。
撹拌装置、加熱冷却装置、窒素導入装置、および原料・助剤仕込み装置を備えた反応容器に、上記乳化分散液とドデシルスルホン酸ナトリウム0.1質量部をイオン交換水142質量部に溶解させた界面活性剤溶液を仕込み、窒素気流下200rpmの撹拌速度で撹拌しながら、内温を80℃に昇温させた。この溶液に過硫酸カリウム1.4質量部、水54質量部を投入し、3時間重合を行うことによって微粒子の分散液を得、これを遠心分離機により大径粒子/小径粒子を分離し、単分散性の高い真球微粒子の分散液(以下、「球体分散液」という。)〔1〕を得た。この球体分散液〔1〕中の球体〔1〕は平均粒径が250nm、CV値が10、屈折率が1.55であった。
【0049】
〔粒子合成例2〜9〕
粒子合成例1において、アクリル酸8質量部の代わりに、カルボキシル基含有単量体の種類およびその添加量を表1に従って使用したことの他は同様にして、球体〔2〕〜〔9〕による球体分散液〔2〕〜〔9〕を得た。
【0050】
〔粒子合成例10〜11〕
粒子合成例1において、アクリル酸8質量部の代わりに、カルボキシル基含有単量体の種類およびその添加量を表1に従って使用したことの他は同様にして、球体〔10〕〜〔11〕による球体分散液〔10〕〜〔11〕を得た。
【0051】
〔粒子合成例12〕
粒子合成例1において、アクリル酸8質量部を用いなかったことの他は同様にして、球体〔12〕による球体分散液〔12〕を得た。
【0052】
<実施例1〜7,比較例1〜3>
洗浄したガラス板に、球体分散液〔1〕〜〔7〕、〔10〕〜〔12〕をバーコート法によって塗布し、温度20℃、湿度50%RHの環境下において20分間乾燥させて厚み20μm、面積5cm×2cmの周期構造体を形成させた。次いで、シリコーンゲルを周期構造体の上から塗布し、球体間に塗布液を浸透させた後、60℃で1時間加熱して固形化することにより、表示部材〔1〕〜〔7〕、〔10〕〜〔12〕を得た。
【0053】
<実施例8>
洗浄したガラス板に、球体分散液〔8〕をバーコート法によって塗布し、温度20℃、湿度50%RHの環境下において10分間乾燥させて厚み20μm、面積5cm×2cmの周期構造体を形成させた。次いで、シリコーンゲルを周期構造体の上から塗布し、球体間に塗布液を浸透させた後、60℃で1時間加熱して固形化することにより、表示部材〔8〕を得た。
【0054】
<実施例9>
洗浄したガラス板に、球体分散液〔9〕をバーコート法によって塗布し、温度20℃、湿度50%RHの環境下において60分間乾燥させて厚み20μm、面積5cm×2cmの周期構造体を形成させた。次いで、シリコーンゲルを周期構造体の上から塗布し、球体間に塗布液を浸透させた後、60℃で1時間加熱して固形化することにより、表示部材〔9〕を得た。
【0055】
この表示部材〔1〕〜〔12〕について、表示層において発現される構造色の白濁化および発色性の指標として、以下のように球体の配列状態を評価した。
【0056】
(配列性の評価)
スキャナ「GT−9800F」(エプソン社製)を用いて、5cm×2cmの表示部材を1cm×1cmの大きさの測定範囲10箇所(測定範囲1〜10)について、ポジフィルム撮像モード、24bitカラー、解像度96dpiの撮像条件でそれぞれの測定範囲の透過画像を撮像し、TIFF形式で保存した。得られた画像から、「Photoshop Elements 2.0」(Adobe社製)を用いてB(ブルー)/G(グリーン)/R(レッド)毎の平均輝度(m)および輝度の標準偏差(σ)をそれぞれ算出し、下記式(5)に基づいてSN比(η)を算出した。なお、ηが15以上であれば合格、15未満であれば不合格と判断される。結果を表1に示す。
【0057】
式(5):η=(ηB +ηG +ηR )/3
ただし、上記式(5)中、ηB は、下記式(5−1)および式(5−2)より得られる式(5−3)であり、ηG は、下記式(5−4)および式(5−5)より得られる式(5−6)であり、ηR は、下記式(5−7)および式(5−8)より得られる式(5−9)である。
式(5−1):SmB =[m1,1 +m1,2 +・・・+m1,10]^2/20
式(5−2):VeB =[σ1,1 +σ1,2 +・・・+σ1,10]^2/20
式(5−3):ηB =10Log{1/20・(SmB −VeB )/VeB
式(5−4):SmG =[m2,1 +m2,2 +・・・+m2,10]^2/20
式(5−5):VeG =[σ2,1 +σ2,2 +・・・+σ2,10]^2/20
式(5−6):ηG =10Log{1/20・(SmG −VeG )/VeG
式(5−7):SmR =[m3,1 +m3,2 +・・・+m3,10]^2/20
式(5−8):VeR =[σ3,1 +σ3,2 +・・・+σ3,10]^2/20
式(5−9):ηR =10Log{1/20・(SmR −VeR )/VeR
ただし、上記式中、
1,1 ,m1,2 ,・・・,m1,10は、B(ブルー)についての測定範囲1〜10の輝度、
σ1,1 ,σ1,2 ,・・・,σ1,10は、B(ブルー)についての測定範囲1〜10の輝度の標準偏差、
2,1 ,m2,2 ,・・・,m2,10は、G(グリーン)についての測定範囲1〜10の輝度、
σ2,1 ,σ2,2 ,・・・,σ2,10は、G(グリーン)についての測定範囲1〜10の輝度の標準偏差、
3,1 ,m3,2 ,・・・,m3,10は、R(レッド)についての測定範囲1〜10の輝度、
σ3,1 ,σ3,2 ,・・・,σ3,10は、R(レッド)についての測定範囲1〜10の輝度の標準偏差、
である。
【0058】
【表1】

【0059】
表1の結果より、実施例1〜9に係る表示部材〔1〕〜〔9〕は表示層の配列性が高いことが確認され、従って、これらにおいて発現される構造色は、白濁化が抑制されると共に高い発色性が得られるものとなった。一方、比較例1〜3に係る表示部材〔10〕〜〔12〕は、表示層の配列性が低く、従って、これらにおいて発現される構造色は、白濁化しており、発色性も低いものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の表示部材は、センサー、ディスプレイ、パネル、シート、ラベルなどとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の表示部材の構成の一例を模式的に示す説明用断面図である。
【図2】本発明の表示部材に係る表示層における球体の別の配列状態を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0062】
10 表示層
12 球体
13 基板
15 球体層
16 周期構造体
D 層間隔
M マトリックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球体およびマトリックスよりなり構造色を発現する表示層を有する表示部材であって、
前記球体は、少なくともカルボキシル基を有する樹脂からなり、電気伝導度滴定により得られる表面カルボキシル基の量Aが1.5×10-5モル/g≦A≦9.5×10-4モル/gであることを特徴とする表示部材。
【請求項2】
前記表示層は、0.5〜2.0質量%の水分を含むものであることを特徴とする請求項1に記載の表示部材。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の表示部材を製造する方法であって、
球体を水系媒体に分散させた球体分散液によるウェット球体層を形成し、当該ウェット球体層を静置または乾燥させる工程を経る表示部材の製造方法において、
前記球体は、少なくともカルボキシル基を有する樹脂からなり、電気伝導度滴定により得られる表面カルボキシル基の量Aが1.5×10-5モル/g≦A≦9.5×10-4モル/gであることを特徴とする表示部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−70664(P2010−70664A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−240352(P2008−240352)
【出願日】平成20年9月19日(2008.9.19)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】