説明

表面の改質方法

【目的】 基材表面に形成された有機珪素系薄膜に対し、真空設備等を必要とせずして大面積にわたるプラズマ処理を可能にし、これにより、基材中や薄膜中に揮発成分が含まれていても薄膜の諸特性を向上させることのできる方法を提供する。
【構成】 基材4a表面に形成された有機珪素系薄膜4bを、上下電極1、2を用いて大気圧またはその付近の圧力下でグロー放電することにより励起させたプラズマ中で処理するようにする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、材料のプラズマ処理による、その表面状態、すなわち高度耐摩耗性、耐久性、耐汚染性等の特性の改質のための改良された処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、有機珪素系薄膜としては、下記■、■のものが一般的である。
■ 有機珪素モノマーの加水分解・重縮合によって得られる薄膜。
■ 有機珪素をモノマーとして得られたプラズマ重合薄膜。
上記有機珪素系薄膜■の主成分となる珪素としては、 一般式;R1n SiX4-n (n=0〜3) ・・・・・(1)
で表される珪素化合物の単独または混合物および/またはその部分加水分解生成物を主成分とするものである。ここで、R1 は同一または異種の置換もしくは非置換の炭素数1〜8の1価炭化水素基、Xは加水分解性基を示す。nは0、1、2または3で表されるものである。特にn=0、1、2のものが、膜質の安定性、レベリング性等の特性に優れ、好ましく用いられる。Xとしては、アルコキシ基、アセトキシ基、オキシム基、エノキシ基、アミノ基、アミノキシ基、アミド基、水酸基等が挙げられるが、入手の容易さおよび調製の容易さからアルコキシ基が好ましい。その場合、アルコキシ基を形成する有機官能基としては、特に限定はされないが、たとえば、炭素数1〜4のアルキル基および/またはフェニル基、アミノ基、アクリル基等を含んでいるものが好ましく用いられる。
【0003】(1)式で表されるオルガノシランとして、具体的には、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0004】この有機珪素系薄膜■として珪素アルコキシド系コーティング材は、たとえば、以下のようにして得られる。上記の組成よりなる珪素化合物成分の単独もしくは混合物を適当な溶剤で希釈し、そこに硬化剤としての水および触媒を必要量添加して、加水分解および重縮合反応を行わせる。これによって珪素化合物成分はシロキサン結合を生成してポリマー化し、同時に硬化して、珪素アルコキシド系コーティング材が得られる。また、その際、コロイド状シリカを適当量添加することもできる。コロイド状シリカは微粒子シリカ成分が水またはメタノール等の有機溶剤に分散されたもので、その粒径や溶剤の種類は特に限定はされない。硬化剤としては水が用いられるが、その添加量はコーティング剤に対して45重量%以下、より好ましくは25重量%以下で使用する。希釈溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル等が用いられる。これらの希釈溶剤は単独もしくは複数種混合して使用される。
【0005】次に、珪素アルコキシド系コーティング材は、pH3.8〜6.0の範囲に調製して使用することが望ましい。pHが上記範囲外になると、コーティング材の安定性が悪いために、コーティング材を調製してからの使用可能期間が短くなる。このpH調製法としては、特に限定はされないが、たとえば、コーティング液調製後にpHが3.8以下になった場合、アンモニア等の塩基性試薬を用いてpHを上げるように、pHが6.0以上になった場合、塩酸等の酸性試薬を用いてpHを下げるように調製すればよい。このように調製したコーティング材を基材にコーティングし、乾燥を行う。乾燥条件は200℃以下の温度が望ましい。
【0006】上記有機珪素系薄膜■は、重合性珪素化合物モノマーの単独または混合物をプラズマ中で重合させたプラズマ重合膜である。一般的には、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、トリエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、フルオロアルキルシラン等が使用される。プラズマ重合のプラズマ発生方法は、従来から知られている減圧プラズマによる方法、もしくは後述する特公平2−48262、特開平2−15171に述べられるような大気圧プラズマによる方法のどちらでもよい。
【0007】このように調製された有機珪素系薄膜は、1000℃近くまでの加熱処理を施さないと完全な無機質にはならない。また、このような加熱処理の過程で内部の揮発成分が飛散するため、クラックが生じたり、多孔質になったりする。したがって、実用的には、その構造中に有機質を含む珪素系薄膜が使用される。たとえば、メンジス・ジー(MENGES G.)著、プレイン・プクンスツット・ゲル・プラスト (PLEIN PKunstst Ger Plast) 第78巻第10号第1015〜1018頁には、ヘキサメチルジシロキサンを原料とした場合のプラズマ重合膜が、下式化1の右辺で表されるような化学構造を有するものになることが示されている。
【0008】
【化1】


【0009】このように、有機珪素系薄膜は、炭素を主骨格とする通常の有機高分子薄膜に比べて、珪素を主骨格とし、有機質と無機質の両方の特性を兼ね備えているため、硬度、耐熱性、耐久性等に格段に優れている。また、有機珪素系薄膜中には、多数の有機分や水酸基等の官能基が残存した状態になっており、そのため、基材に対し、その種類によらず高い密着力を示す。たとえば、基材としては、ガラス、セラミックス等の無機質材料や金属材料の他に、プラスチック等の有機質材料へも密着性良くコーティングできる。そのため、有機珪素系薄膜は、たとえば、電子材料の高絶縁・高耐湿性薄膜、プラスチック部材の高耐摩耗性薄膜、建築材料の高耐候性コーティング材等として幅広い分野にわたり応用されている。
【0010】しかし、有機珪素系薄膜は、完全な無機珪素系の薄膜と比べると、上に挙げた諸特性が劣ることは否めない。たとえば、表面硬度は無機珪素系薄膜に比べると低い。また、他の化合物と反応して表面が劣化しやすいという欠点もある。たとえば、表面保護膜として使用する場合、有機珪素系薄膜中に残存する有機官能基が汚染物質(たとえば、毛染め剤等)と反応し、表面が汚染される。
【0011】そこで、前述した有機珪素系薄膜の優れた特徴を維持しつつ、その諸特性を無機質のレベルに近づける試みが多数なされている。その一つとして、プラズマの高い反応性を利用して表面を改質する方法がある。たとえば、有機珪素系薄膜の表面をプラズマ処理することによりその表面層を硬化させて耐摩耗性を向上させる方法が開発されている(米国特許第4,435,476号公報等参照)。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】ところが、プラズマ処理として有用なグロー放電は、一般に、10-2Torr以下の高真空下での処理であり、前述の方法においても高真空下で処理を行う。これは、従来、安定したグロー放電を行うためには、高真空が必要であったためである。
【0013】しかし、高真空下では、揮発成分を含む材料の処理は困難である。たとえば、前述の有機珪素系薄膜■のように、膜形成のために用いた水分やアルコール等の溶媒が膜内部に残存することがあり、その場合、高真空下では、たとえ少量でもこれらが揮発して膜質が低下する。また、基材が有機材料や含水材料(たとえば、建築材料等は不可避的に水を含む。)の場合、高真空下では、基材からの揮発成分の発生のため、膜質が低下したり、膜の剥離が生じたりする。
【0014】たとえば、前述の有機珪素系薄膜■は、シロキサン結合内に存在する有機分や水酸基以外に、未硬化の有機珪素モノマーや一部反応したダイマー、トリマー、水分、溶剤等、高い蒸気圧を含む成分がかなりの量で残存している。また、有機珪素薄膜■内にも前述した有機官能基が多数残存する。ところが、従来の減圧プラズマによる処理では、これらの成分が減圧過程で飛散するため、薄膜がポーラスになったり密着力が低下したりするといった問題点が生じる。従って、減圧下でこのような処理を施す場合、コーティング膜厚を非常に薄くすることが必要になり、その場合、コーティングの効果も非常に小さい。また、膜中にピンホールが多くなり、耐食性が悪くなる。また、3ミクロン以上の膜厚を得ることは難しく、応用分野が限定される。
【0015】また、高真空下でのプラズマ処理は、高真空を得るための装置や設備を必要とするためコストがかかったり、大面積の材料の処理は困難であったりするという問題もあった。そこで、この発明は、基材表面に形成された有機珪素系薄膜に対し、真空設備等を必要とせずして大面積にわたるプラズマ処理を可能にし、これにより、基材中や薄膜中に揮発成分が含まれていても薄膜の諸特性を向上させることのできる方法を提供することを課題とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため、発明者らは、種々検討を重ねた。その結果、以下のことを実験で確認して、この発明を完成した。すなわち、発明者らは、先に、高安定の大気圧下グロー放電プラズマにより各種材料の表面を大面積にわたり均質に処理することのできる方法を開発している(特公平2−48626号、特開平2−15171号の各公報等参照)。発明者らは、この方法を有機珪素系薄膜に対しても適用することが可能であれば、常圧でプラズマ処理を施すことができるため前記従来法の欠点を解消することができると予想した。そこで、この大気圧下プラズマ処理を有機珪素系薄膜に対して行ったところ、有機珪素系薄膜の諸特性が向上することがわかったということである。
【0017】したがって、この発明にかかる表面の改質方法は、基材表面に形成された、有機質をその構造中に含む珪素系薄膜(この明細書中、これを単に「有機珪素系薄膜」と称する。)を、大気圧またはその付近の圧力下でグロー放電することにより励起させたプラズマ中で処理するようにするものである。この発明で用いられる基材としては、たとえば、ガラス、セラミックス等の無機質材料、金属材料、プラスチック等の有機質材料、あるいは、建築材料のような有機・無機複合材料等、様々な材料が挙げられ、特に限定されない。また、基材の形状についても、特に限定はされず、板状、リボン状、細線状等、多様の形状のものを用いることができる。
【0018】この発明において、有機珪素系薄膜をプラズマ処理する際に使用するガスの種類については、所望の表面処理の内容に応じて選定され、特に限定はされないが、たとえば、He、Ne、Ar等の不活性ガス、O2 、N2 、NH3 、CF4 、H2O、N2O等の反応性ガス等が挙げられる。これらのガスは、1種のみ用いてもよいし、あるいは、複数種を併用してもよい。複数種のガスを併用する場合、これらガスの混合割合については、特に限定はされない。なお、薄膜に対するスパッタリングを最小にするとともに、グロー放電をより高安定に行うためには、不活性ガスとしては、質量の軽いHeを用いることが好ましい。
【0019】この発明では、グロー放電プラズマの生成圧力は、大気圧(常圧:760mmHg)またはその付近の圧力であることが必要である。具体的な圧力の範囲としては、500〜1500mmHgが好ましい。この範囲内であれば、プラズマが安定して生成するとともに、膜中や基材中からのガスの発生のために膜性能が劣化することがなく安定した膜質のものが得られるからである。
【0020】プラズマを発生させるためのグロー放電条件、たとえば、印加電力およびその周波数や処理時間等については、所望の処理程度に応じて適宜設定され、特に限定されない。
【0021】
【作用】基材表面に形成された有機珪素系薄膜を、大気圧またはその付近の圧力下でグロー放電することにより励起されたプラズマ中で処理するようにすると、大気圧付近の圧力下で処理を行うため、真空設備等を必要としなくなり、大面積にわたる均質なプラズマ処理が可能になるとともに、基材中や薄膜中に含まれる成分の揮発による膜質低下を伴うことなく有機珪素系薄膜の諸特性を向上させることが可能となる。
【0022】有機珪素系薄膜をプラズマ処理することにより、その諸特性が改善されるメカニズムは、次のように考えられる。有機珪素系薄膜の表面がプラズマの作用を受けると、表面近傍層では、残存する有機官能基が脱離し、見かけ上、有機珪素の重合が進んだ、ほぼ完全な無機質になる。したがって、この部分では密度の高い緻密な層が得られる。反応性ガスを使用した場合、このような作用に加えて表面の官能基がO、N、F等の元素に置き換えられる結果、特性は大幅に向上する。たとえば、O2 プラズマで処理した場合、表面の硬度と、毛染め剤等に対する耐汚染性とが大きく向上する。N2 やNH3 のプラズマで処理した場合は、表面が窒化され、O2 プラズマで処理した場合以上に表面硬度が向上するとともに、耐水性に優れた表面が得られる。また、CF4 等のフッ素系ガスを使用した場合、表面にフッ化層が形成され、プラズマによる前記の効果に加えて耐汚染性が向上する。
【0023】
【実施例】以下に、図面を参照しながら、この発明の実施例を説明する。図1は、この発明にかかる表面の改質方法を実施するにあたり使用される装置の一例を表す。反応槽5内には、上下の平行平板型電極1、2が設置されており、下部電極2上には、固体誘電体3が置かれている。まず、これら上下電極1、2の間隙に、基材4a表面に有機珪素系薄膜4bを形成させてなる試料4を置く。なお、固体誘電体3は、下部電極2に代えて上部電極1の下部に設けられていてもよく、あるいは、これら上下電極1、2の双方に設けられていてもよいのであるが、特に、基材4aが金属の場合は、固体誘電体3は、上下電極1、2の双方に設置することが好ましい。次に、ガスを流通させ、反応槽5内の圧力を大気圧またはその付近の圧力に保ちながら、上部電極1に高電圧の交流電界を印加すると、上下電極1、2間でプラズマが発生し、試料4は、このプラズマの作用を受けて、有機珪素系薄膜4b表面が改質される。図中、7は、上記高電圧の交流電界を得るための高周波電源を示す。反応槽5の高電圧導入部と設置導出部には、絶縁体6が設けられている。印加する交流電界の周波数としては、前に述べた通りであるが、周波数の高い領域では試料4が加熱されるため、この場合には、加熱による悪影響が出ないような冷却の方法もしくは処理時間の短縮が必要になることがある。
【0024】以下に、より具体的な実施例によって、処理の条件および得られた特性について詳しく説明するが、この発明は、下記実施例およびすでに述べた実施例に限定されない。各実施例、比較例および参考例では、以下のような特性試験を行った。
■ 鉛筆硬度試験 JIS−K5400に準ずる。
【0025】■ 耐摩耗性試験 スチールウールにより表面を摩耗。
×:容易に摩耗する。
○:容易に摩耗しない。
■ 耐汚染性試験 市販の毛染め剤を基板に塗布し、1時間後に染色性を目視で評価。
【0026】×:染色面が着色。
○:染色面が無着色。
■ 薄膜の比抵抗 4探針子法による比抵抗測定。
■ 耐湿試験 MIL−STD202E−106Dに準ずる試験。10サイクル。
【0027】×:外観変化、密着不良が生じる。
○:外観変化、密着不良が生じない。
−実施例1−塩酸を触媒とし、イソプロパノールを溶媒とする下記式化2で示されるトリメチルアルコキシシランの加水分解組成液をガラス基板に塗布し、200℃で1時間加熱硬化処理を行って、膜厚5μの有機珪素系薄膜を形成させた。なお、加水分解組成液のpHは4.8であった。
【0028】
【化2】


【0029】次いで、有機珪素系薄膜を表面に形成させたガラス基板を試料とし、これを図1の上下電極間に設置し、下記の条件下で有機珪素系薄膜の大気圧プラズマ処理を行った。
条 件(1) 使用ガスおよびその流量 ヘリウム(He) 2000sccm 酸素(O2 ) 50sccmここに、「sccm」は、25℃、1atmにおける単位時間(分)当たりの流量(ml)を表す。
(2) プラズマ条件 周波数 15KHz 電力 50W 処理時間 60分 処理圧力 1atm(760mmHg) プラズマ処理後の薄膜について、特性試験を行った。なお、参考としてプラズマ処理前の薄膜についても特性試験を行った。その結果を表3に示した。
【0030】−実施例2〜14−実施例1において、基板材料、有機珪素系薄膜の原料、その膜形成法および膜厚、ならびに、薄膜をプラズマ処理する際に使用したガスの種類、その流量およびプラズマ処理圧力を後記表1および2に示した通りとした以外は実施例1と同様にして、基板表面に有機珪素系薄膜を形成させた後、これをプラズマ処理した。ただし、実施例11では、薄膜形成の際の硬化温度を100℃に変更した。また、プラズマ処理後の薄膜について、特性試験を行った。なお、参考としてプラズマ処理前の薄膜についても特性試験を行った。その結果を表3に示した。
【0031】
【表1】


【0032】
【表2】


【0033】
【表3】


【0034】表3にみるように、大気圧またはその付近の圧力下で有機珪素系薄膜をプラズマ処理することにより、その諸特性が向上することが確認された。
−比較例1−プラズマ処理圧力を1800mmHgとした以外は実施例1と同様にして、基板表面に有機珪素系薄膜を形成させた後、これをプラズマ処理した。プラズマ処理後の薄膜について、特性試験を行った。なお、参考としてプラズマ処理前の薄膜についても特性試験を行った。その結果を表5に示した。1500mmHgより高い圧力領域ではプラズマの生成が不安定になり、その結果としてプラズマの効果が小さく、膜質の改善が見られない。
【0035】−比較例2〜5−比較例2、3、4、5は、それぞれ実施例1、2、11、13と同様にして基板に有機珪素系薄膜を形成させた。なお、比較例4では、実施例11と同様に100℃−1時間で加熱硬化を行った。次に、試料を(株)サムコインターナショナル製プラズマ処理装置(PD10型)内に設置し、0.005Torrまで真空脱気した。次に所定のガスを流入し、表4に示した条件で減圧プラズマ処理を行った。プラズマ周波数は13.56MHzであった。減圧プラズマ処理後の薄膜について、特性試験を行った。なお、参考としてプラズマ処理前の薄膜についても特性試験を行った。その結果を表5に示した。この場合、鉛筆硬度が向上し、基材がポリカーボネート以外のものでは耐摩耗性、比抵抗の改善が見られる。しかし、基材との密着性が悪く、耐湿試験、耐汚染性試験での性能の向上は認められない。
【0036】
【表4】


【0037】
【表5】


【0038】−実施例15〜17−珪素アルコキシドコーティング材として、メチルトリメトキシシラン100重量部、イソプロパノール100重量部を混合し、微量の塩酸を触媒として、H2Oを90重量部添加して攪拌した。pHは4.5であった。このように調製した溶液を表6に示す基板にそれぞれ塗布した。塗布量は硬化後に膜厚が5μmになるように設定した。塗布後、200℃で1時間硬化させた。次いで、実施例1と同様に大気圧プラズマ処理を行った。プラズマ処理後の薄膜について、特性試験を行った。なお、参考としてプラズマ処理前の薄膜についても特性試験を行った。その結果を表8に示した。
【0039】−実施例18〜20−実施例15と同じ珪素アルコキシドコーティングを、それぞれガラス、ポリカーボネート、ステンレス基板に塗布し、大気圧プラズマ処理を行った。処理条件は以下の通りである。
条 件(1) 使用ガスおよびその流量 ヘリウム(He) 1000sccm 酸素(O2 ) 10sccm(2) プラズマ条件 周波数 13.56MHz 電力 50W 処理時間 20分 処理圧力 1atm(760mmHg) プラズマ処理後の薄膜について、特性試験を行った。なお、参考としてプラズマ処理前の薄膜についても特性試験を行った。その結果を表8に示した。
【0040】実施例15〜20のメチルトリメトキシシランからなる膜は、実施例1、3、5、7、8、9、11、13のトリメチルアルコキシシランからなる膜よりも、膜質の安定性、レベリング性等の特性は優れていた。
−比較例6〜8−実施例15と同じ珪素アルコキシドコーティングを、それぞれガラス、ポリカーボネート、ステンレス基板に塗布し、減圧プラズマ処理を行った。処理条件は比較例2と同様である。プラズマ処理後の薄膜について、特性試験を行った。なお、参考としてプラズマ処理前の薄膜についても特性試験を行った。その結果を表8に示した。この場合、鉛筆硬度が向上し、基材がポリカーボネート以外のものでは耐摩耗性、比抵抗の改善が見られる。しかし、基材との密着性が悪く、耐湿試験、耐汚染性試験での性能の向上は認められない。
【0041】−比較例9−実施例15と同じ珪素アルコキシドコーティングを、硬化後の膜厚が1μmになるようにガラス基板に塗布し、減圧プラズマ処理を行った。処理条件は比較例2と同じであった。プラズマ処理後の薄膜について、特性試験を行った。なお、参考としてプラズマ処理前の薄膜についても特性試験を行った。その結果を表8に示した。この場合、鉛筆硬度、耐汚染性、比抵抗の改善は見られるものの、膜厚が薄いため、耐湿試験、耐摩耗性試験での性能の向上は認められない。
【0042】
【表6】


【0043】
【表7】


【0044】
【表8】


【0045】
【発明の効果】この発明にかかる表面の改質方法によれば、基材表面に形成された有機珪素系薄膜に対し、真空設備等を必要とせずして大面積にわたるプラズマ処理を可能にし、これにより、基材中や薄膜中に揮発成分が含まれていても薄膜の諸特性を向上させることができる。
【0046】この方法により処理された有機珪素系薄膜は、基材との界面では、有機質と無機質の両方の構造を有するため、有機、無機を問わず、様々な材料でできた基材に対する密着性に優れている。この有機珪素系薄膜は、また、表面付近では、ほぼ完全な無機構造を有するため、通常の有機物に比べて諸特性が格段に優れる傾斜機能的な薄膜となっている。しかも、この有機珪素系薄膜は、誘電体としての性質にも優れるため、この発明の方法は、各種材料への誘電体薄膜の合成法としても優れた方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明にかかる表面の改質方法を実施するにあたり使用される装置の一例を表す断面図である。
【符号の説明】
1 上部電極
2 下部電極
4a 基材
4b 有機珪素系薄膜
5 反応槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】 基材表面に形成された、有機質をその構造中に含む珪素系薄膜を、大気圧またはその付近の圧力下でグロー放電することにより励起させたプラズマ中で処理するようにする表面の改質方法。
【請求項2】 大気圧またはその付近の圧力が、500〜1500mmHgの範囲内である請求項1記載の表面の改質方法。
【請求項3】 珪素系薄膜が、一般式;R1n SiX4-n (ただし、式中R1は同一または異種の置換もしくは非置換の炭素数1〜8の1価炭化水素基を示し、Xは加水分解性基、水素を示す。n=0〜3)で表される珪素化合物の単独または混合物および/またはその部分加水分解生成物を主成分とするコーティング材の硬化体からなるものである請求項1または2記載の表面の改質方法。
【請求項4】 珪素系薄膜が、重合性珪素化合物モノマーの単独または混合物を、プラズマ中で重合させたプラズマ重合膜である請求項1または2記載の表面の改質方法。
【請求項5】 珪素系薄膜の膜厚が、3ミクロン以上である請求項1から4までのいずれかに記載の表面の改質方法。

【図1】
image rotate