説明

表面処理された澱粉系発泡体

【目的】 実用上問題とされている耐水・耐湿性を著しく改良した、澱粉を主体とした発泡体。
【構成】 表面に、ポリカプロラクトン等からなるコート層を10μmの厚みで形成した、澱粉を主体とした発泡体。
【効果】 高湿条件下でも使用可能になる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、包装材用途、緩衝材用途に使用される発泡体に関するものであり、さらに詳しくは、耐水性、耐湿性を改良した、生分解性を有する澱粉系の発泡体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、環境問題としてのプラスチックの廃棄物処理問題が大きく注目を集めている。それらを解決するための一つの有効な手段として、土中や水中の微生物により分解されうる生分解性プラスチックの開発が進められている。生分解性プラスチックを大きく分類すると、微生物により生産されるもの、澱粉系やセルロース系の天然高分子系のもの、さらには特殊な構造を持つ合成高分子系のもの等があげられる。
【0003】それらの中でも、特に天然高分子系、さらには、澱分系のプラスチックは、天然物由来であるが故に、環境への適合性が良く、低コストという点から、特に広く実用に向けての開発がなされている。これらは、その生分解性能、実用物性および生産性等に関して種々検討が続けられており、その用途としては、フィルム、シート、発泡体等のプラスチック加工品への応用が展開されている。
【0004】中でも特に、発泡体は単位重量当たりの体積が大きくなるため、生分解性プラスチックの発泡体の開発が、廃棄物問題解決のための有効な手段となり得る分野として注目されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、澱分系のプラスチック加工品は、それ自体が親水性であるため、実用時における耐水・耐湿性が悪く、高温高湿下では水分の可塑化効果により、収縮変形するという本質的な問題点を有していた。特に発泡体では、他のプラスチック成形品に比べ、表面層となるセル膜が薄くならざるをえないため、その耐水・耐湿性が著しく悪くなることは避けられず、その使用にあたっては、使用時の環境条件が著しく制限されていた。
【0006】加えて、水との接触は、発泡体の収縮変形にとどまらず、接触期間が長くなればかびが発生するという大きな問題が発生することになる。
【0007】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、生分解性を大きく阻害しない程度に耐水・耐湿性のコート層を表面に形成した澱分系の発泡体を開発するに至った。すなわち、本発明は、吸水率が10%以下である物質からなる、厚み0.5〜30μmのコート層を少なくとも片面に形成した、密度0.03〜0.45g/cm3 の澱粉系の発泡体である。
【0008】以下に本発明を詳細に述べる。まず、吸水率(ASTM−D570法準拠)が、10%を越えるものは本発明で目的とする耐水・耐湿性改良の効果が低下する傾向にある。また、コート層の厚みが0.5μm未満のものは、コート層が薄いため、また、コート層内にピンホールの生成が避けられず、その改良効果が低下する傾向にある。コート層の厚みが30μmを越えるものは、耐水・耐湿効果はあるが、基材発泡体の生分解性を著しく妨げるため制限される。
【0009】コート層をなす物質としては、前記の吸水率を満足すれば、有機物、無機物いずれでも使用可能であり、その用途に応じて適宜選択されうる。好ましくは、コート層が薄くてもより効果のある、天然高分子、合成高分子やワックス類である。それらのうち、本発明の目的に最も好ましいのは、コート層自体も生分解性を有する物質である。
【0010】天然高分子で好ましいものは、セルロース系の高分子であり、具体的には、エチルセルロース、硝酸セルロース、酢酸セルロース、3酢酸セルロース、2酢酸セルロース、プロピオン化酢酸セルロース、ブチル化酢酸セルロース等である。セルロース系のコート層は、基材となる澱分系の発泡体との密着性が良く、好適に用いられる。
【0011】また、合成高分子で好ましいものは、重縮合系、ビニル系、オレフィン系の各高分子であり、より具体的には、ポリエステル系、ポリスチレン系、ポリアミド系、ポリエチレン系、ポリプロピレン系高分子である。また、ワックス類としては、天然ワックス、石油ワックス、合成ワックス等が適宜用いられ、融点の高いワックスほど実使用時の温度が広がり好適である。天然ワックスとしては、植物系のキャンデリラワックス、カルナバロウワックス、ライスワックス、木ろう等であり、また、動物系のみつろう、ラノリン、鯨ろう等であり、さらには、鉱物系のモンタンワックス、オゾケライト、セレシン等である。また、石油ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロワックス、ペトロラタム等である。また、合成ワックスとしては、モンタンワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス、油脂系合成ワックス等である。
【0012】さらに、生分解性を考慮した場合、合成高分子系のポリカプロラクトン、エチレンビニルアルコール共重合体、微生物が生産するポリヒドロキシアルカノエート、及びそれらの共重合体である。これらのコート層は、一般に公知のコーティング方法で、澱粉系の発泡体にコーティングすることにより形成される。コーティング方法は、溶液状コーティング、エマルジョン型コーティング、ホットメルト型コーティング等、用いるコート層材料により適宜選択して良い。なお、溶剤を用いる場合、基材の澱粉系発泡体を実質的に侵さない溶剤を適宜選択する必要がある。
【0013】本発明でいう、澱粉系プラスチックの発泡体とは、澱粉を主体とした発泡体であり、その密度が0.03〜0.45g/cm3 のものをいう。密度が0.03g/cm3 未満のものは、発泡体の強度が低下し実用上問題が発生しやすい傾向にあり、密度が0.45g/cm3 を越えるものは、発泡倍率が低く本発明の目的とする発泡体としての用途には使用出来ない。ここでいう澱粉とは、とうもろこしやじゃがいも等に含まれるものであり、これらが熱及び圧力等により、一部あるいは全て変性されていても良い。さらにこれらの澱粉に、澱粉本来の生分解性を阻害しない範囲で、かつ、澱粉の加工性、物性を向上させる目的で、その他の天然高分子、合成高分子や各種添加剤を混合させても良い。また、発泡体の製法としては、化学発泡剤、物理発泡剤を用いた公知の発泡方法が適宜選択されうる。特に、澱粉に含まれる水分を発泡剤とした押し出し発泡法が好ましい。
【0014】
【実施例】以下、実施例にて本発明を詳細に説明する。
【0015】
【実施例1】澱分を主体とした発泡体である、バラ状緩衝材用のサンプル(“RENATUR”STOROPACK社製)を、ポリカプロラクトン(以下PCLと略す。“プラクセルH”ダイセル化学工業(株)製、吸水率:3%)をテトラヒドロフラン(以下THF)に溶解させた溶液に1分間浸漬した。その後発泡体を引き上げ、溶剤であるTHFを気散させ、発泡体表面にPCLのコーティング層を形成した。 コーティング層の厚み(重量変化と表面積から算出)は、THF溶液のPCL固形分濃度を変えることにより制御し、0.3、2、5、10μmのコート層を形成したサンプルを得た。
【0016】該サンプルを、下記の条件に設定した恒温恒湿槽に30分間放置し、サンプルの形状変化を測定した。形状変化率(%)は、サンプルの高さと幅の各々の収縮寸法変化率を掛け合わした値を採用し、100%は寸法変化無しで、100%に近い値ほど形状変化が少なくて耐湿良好と判断した。表1に示した如く、コート層が0.3μmのもの以外、耐湿性の改良効果がみられた。
【0017】
【実施例2】実施例1と同様な方法にて、ポリスチレン(゛スタイロン680゛旭化成工業(株)製:吸水率0.05%)、ブチル化酢酸セルロース(関東化学(株)製:吸水率0.1%)、カルナウバワックス((株)野田ワックス製:吸水率0.05%)、ポリアミド(ナイロン6、旭化成工業(株)製:吸水率9.2%)、ポリビニルアルコール(関東化学(株)製:吸水率83%)をコート層として、適宜溶剤を選択し、各々10μmコート厚みのサンプルを作成した。このサンプルを用いて、実施例1と同様な方法にて、形状変化率を求めた。表2に示した如く、ポリビニルアルコールは、吸水率が大きいためコート層としての効果がなかったが、これ以外のコート層を形成したサンプルは、いずれも形状変化率は小さかった。
【0018】
【表1】


【0019】
【表2】


【0020】
【発明の効果】本発明の澱粉系発泡体は、表面を耐水性の物質にてコートされているため、耐水性、耐湿性が改良され、高温高湿下での実使用に耐え得るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 吸水率が10%以下である物質からなる、厚み0.5〜30μmのコート層を少なくとも片面に形成した、密度0.03〜0.45g/cm3 の澱粉系の発泡体。