説明

表面処理チタン酸顔料の製造方法および表面処理チタン酸顔料

【課題】鱗片状のチタン酸顔料の表面にシリカ被膜が形成され、光触媒能が抑制された鱗片状の顔料を提供する。
【解決手段】ゾル状の鱗片状チタン酸顔料に、界面活性剤とシリカ粒子との混合物を添加し混合したのち、凍結乾燥を行い粉末化する工程を有する表面処理チタン酸顔料の製造方法であって、得られた表面処理チタン酸顔料は、鱗片状チタン酸顔料基材の表面に、シリカ粒子が付着してなるシリカ被膜が形成された顔料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理チタン酸顔料の製造方法および表面処理チタン酸顔料、特に、光触媒能を抑制した表面処理鱗片状のチタン酸顔料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無機顔料の表面を改質するためのアルミナやシリカにより被覆する技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ルチル型またはアナタース型二酸化チタン表面に、70℃加熱してpHを4に維持しながらケイ酸ナトリウム水溶液に作用させSiO2の被膜を形成した後、pHを7.5に調整し、水酸化アルミニウム溶液を作用させて、さらにAl23から成る被膜を形成し、さらに有機金属化合物を塗布して表面処理二酸化チタン顔料を製造する方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、二酸化チタン含有スラリーを75℃に保ちながら水ガラス水溶液を添加して撹拌した後、90℃に昇温して撹拌混合した後、pH5まで硫酸水溶液にてpH5に中和し、70℃で撹拌したながら高密度シリカの第一被覆層を形成し、次いで、この第1被覆層が形成された二酸化チタンスラリーをpH2に調整したのち、水ガラス水溶液を添加し、次にpHを8にしてから70℃でpH7に保持して熟成させ多孔質シリカの第二被覆層を形成させた表面処理二酸化チタン顔料が提案されている。
【0005】
特許文献3には、水媒体中でシリカゾルと無機顔料粒子とを接触させ、系のpHを中性乃至アルカリ性に調整し、100〜120℃で乾燥させ乾式粉砕して、無機顔料表面にシリカが沈着した顔料の製造方法が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−25429号公報
【特許文献2】特開平10−130527号公報
【特許文献3】特開2003−213154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、上記二酸化チタン顔料より薄片である鱗片状のチタン酸顔料が注目されてきており、本願発明者らは、例えば、同じ膜厚の塗膜内にそれぞれ上記二酸化チタン顔料とチタン酸顔料とを含有された場合、鱗片状のチタン酸顔料の方が二酸化チタン顔料に比べ高配向に緻密に並ぶため、得られる塗膜の耐光性や意匠性が優れることを見出している。
【0008】
しかしながら、後述するように、チタン酸顔料は、中性〜アルカリ性雰囲気の溶媒中では鱗片状で安定に存在するが、中性未満〜酸性雰囲気の溶媒中では鱗片状チタン酸顔料同士が凝集してしまい、さらに70℃以上に加熱することによって凝集することから、分散溶媒および温度を適切に制御しないと、チタン酸顔料のアスペクト比の高い極薄鱗片状の特性が発現しなくなる。一方、上述した二酸化チタン顔料に対するシリカ表面処理は、いずれも酸性溶媒中でなされており、さらに70℃以上で加熱する方法が採用されており、したがって、上記二酸化チタン顔料に対するシリカ表面処理方法を、鱗片状チタン酸顔料の表面疎水化処理に転用しても、鱗片状のチタン酸顔料の表面に疎水性表面処理を施すことはできなかった。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、鱗片状のチタン酸顔料の表面にシリカ被膜が形成し、光触媒能を抑制した表面処理チタン酸顔料およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の表面処理チタン酸顔料の製造方法および表面処理チタン酸顔料は、以下の特徴を有する。
【0011】
(1)ゾル状の鱗片状チタン酸顔料に、界面活性剤とシリカ粒子とを添加し混合したのち、凍結乾燥を行い粉末化する工程を有する表面処理チタン酸顔料の製造方法である。
【0012】
上記界面活性剤は、ゾル状のチタン酸顔料を鱗片状で均一分散されながら、さらに、シリカ粒子が鱗片状のチタン酸顔料表面へ吸着する作用を促進している。これにより、鱗片状のチタン酸顔料表面にシリカ粒子が必要量吸着し、のちの凍結乾燥処理によって、鱗片状のチタン酸顔料表面にシリカ粒子が物理吸着される。その結果、チタン酸顔料の表面にシリカ被膜が形成された表面処理チタン酸顔料を得ることができる。
【0013】
(2)上記(1)に記載の表面処理チタン酸顔料の製造方法において、前記シリカ粒子は、20nmから100nmのシリカ粒子である。
【0014】
上記チタン酸顔料の厚みは通常1〜100nmであり、またチタン酸顔料の長手方向の長さ(粒径)が10〜30μmであることから、このチタン酸顔料の表面に付着させるシリカ粒子の大きさを20〜100nmとすることにより、シリカ表面処理された場合でもその表面処理チタン酸顔料は依然としてアスペクト比の高い鱗片状顔料とすることができる。
【0015】
(3)上記(1)または(2)に記載の表面処理チタン酸顔料の製造方法において、前記界面活性剤が、ノニオン系界面活性剤、チタネート系界面活性剤よりなる群から選択された少なくとも1種である。
【0016】
後述するように、チタン酸顔料は、中性〜アルカリ性雰囲気の溶媒中で鱗片状に安定して存在する。一方、シリカ粒子は、中性〜酸性雰囲気の溶媒中にて顔料に付着する。したがって、界面活性剤としてノニオン系界面活性剤を用いることにより、チタン酸顔料を溶媒中でゾル状に保ちつつ、鱗片状のチタン酸顔料と溶媒との界面部分のみ中性域にすることができ、その結果、この中性域にて鱗片状のチタン酸顔料表面への疎水性付与剤の吸着を促進させることができる。
【0017】
また、チタネート系界面活性剤は、ゾル状のチタン酸顔料を鱗片状に保ちながら、また、シリカ粒子を高分散させることができるため、チタン酸顔料と溶媒との界面部分にシリカ粒子を均一に存在させ易い状態に保つことができる。これにより、鱗片状チタン酸顔料表面へのシリカ粒子の吸着を促進させることができる。
【0018】
(4)上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の表面処理チタン酸顔料の製造方法を用いて製造された表面処理チタン酸顔料である。
【0019】
(5)鱗片状チタン酸顔料基材の表面がシリカ粒子により被覆された表面処理チタン酸顔料である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、シリカ表面処理がなされた光触媒能が抑制された鱗片状の表面処理チタン酸顔料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0022】
[表面処理チタン酸顔料の製造方法]
本発明の好適な実施の形態の表面処理チタン酸顔料は、以下の製造方法により製造される。
【0023】
まず、極薄鱗片状チタン酸のゾル状顔料は、次のように製造される。すなわち、層状チタン酸塩を酸で処理して層状チタン酸とし、次いで図1に示すように、有機塩基性化合物を作用させて層間を剥離することによって得られる。
【0024】
層状チタン酸塩K0.8Li0.27Ti1.734を酸処理し、交換可能な金属カチオンを水素イオンまたはヒドロニウムイオンで置換することにより層状チタン酸(例えば、H1.07Ti1.734・nH2O)が得られる。この層状チタン酸に有機塩基性化合物を作用させ、層間を剥離することにより、薄片状チタン酸の水性媒体分散液(剥離ゾル)が得られる。有機塩基性化合物としては、ジメチルエタノールアミン(DMEA)が望ましい。
【0025】
好ましくは、次いで、上記剥離ゾルに炭酸セシウムを添加して有機塩基性化合物をセシウムイオンで置換し、遠心洗浄で過剰炭酸セシウムおよび生成アミン炭酸塩を除去し、さらに炭酸ガスのバブリングにより、チタン酸の中和ゾルを形成する。得られた薄片状チタン酸の水性媒体分散液(剥離ゾル)は、耐光性が向上する。
【0026】
得られた水性媒体分散液(剥離ゾル)の薄片状チタン酸は、図1に示すように、1枚約1nmのチタン酸が、単層あるいは複数枚積層された鱗片状チタン酸として得られる。
【0027】
<薄片状チタン酸分散液の合成>
(合成例1)
酸化チタン67.01g、炭酸カリウム26.78g、塩化カリウム12.04gおよび水酸化リチウム5.08gを乾式で粉砕混合した原料を1020℃にて4時間焼成した。得られた粉末の10.9%水スラリー7.9kgを調製し、10%硫酸水溶液470gを加えて2時間撹拌し、スラリーのpHを7.0に調製した。分離、水洗したものを110℃で乾燥した後、600℃で12時間焼成した。得られた白色粉末は層状チタン酸塩K0.6Li0.27Ti1.733.9であり、平均長径15μmであった。
【0028】
この層状チタン酸塩65gを3.5%塩酸5kgに分散撹拌し、40℃で2時間反応させた後、吸引濾過で分離し、水洗した。得られた層状チタン酸のK2O残量は2.0%であり、金属イオン交換率は94%であった。
【0029】
得られた層状チタン酸全量を脱イオン水1.6kgに分散して撹拌しながら、ジメチルエタノールアミン34.5gを脱イオン水0.4kgに溶解した液を添加し、40℃で12時間撹拌してpH9.9の薄片状チタン酸分散液を得た。10000rpmで10分間遠心することにより濃度5.0重量%に調製した。得られた薄片状チタン酸分散液は長時間静置しても固形分の沈降は見られず、それを110℃で12時間乾燥した固形分は、TG/DTA分析により200℃以上の重量減少が14.7重量%、XRD分析により層間距離が10.3Åであった。
【0030】
(合成例2)
合成例1の薄片状チタン酸分散液200gを脱イオン水で濃度1.7重量%に調製し、撹拌しながら5重量%炭酸セシウム水溶液120gを添加し、室温で1時間撹拌して、薄片状チタン酸の層間イオンをジメチルエタノールアンモニウムからセシウムイオンに置換した。10000rpmで10分間遠心して上澄みを分取後、沈降した濃縮薄片状チタン酸分散液を脱イオン水で再希釈する操作を3回繰り返すことにより、過剰の炭酸セシウムおよび脱離ジメチルエタノールアミンを上澄みとともに除去した。その後、炭酸ガスをバブリングすることによりpHを7.9に調製し、再遠心することにより濃度を5.0重量%に調製した。得られた薄片状チタン酸分散液を長時間静置して固形分の沈降は見られず、110℃で12時間乾燥した固形分は、TG/DTA分析により200℃以上の重量減少が1.8重量%、XRD分析により層間距離が9.3Å、蛍光X線分析によりCs2Oの含有量が20.2重量%であった。
【0031】
上述のようにして得られた鱗片状チタン酸は、鱗片状の長手方向の長さ(粒径)が10〜30μmであり、この鱗片状チタン酸のアスペクト比(厚みと長手方向の長さとの比)は、鱗片状チタン酸の厚みが1〜100nmであることから、100〜30000であり、好ましくは100〜600である。
【0032】
なお、図3に示すように、層状チタン酸は、DMEAのようなアミンによってインターカレーション(層間剥離)され、アミン剥離ゾル(すなわち、DMEA剥離チタン酸ゾル)となるが、このアミン剥離ゾルは、pHの変動、特に中性未満〜酸性になった場合、および加熱、特に70℃以上に加熱されると凝集が発生し、特にpH変動の場合には層状チタン酸に戻る。したがって、図2に示すような、鱗片状のチタン酸顔料の表面にシリカ被膜を形成させることができなくなる。そこで、本願発明では、特に、鱗片状のチタン酸顔料の表面にシリカ被膜を形成可能とするため、アミン剥離ゾルまたはセシウム(Cs)置換/中和チタン酸ゾルのpHをアルカリ性から中性雰囲気に保ちつつ、チタン酸顔料の表面付近のみpHを中性域またはやや酸性域とし、かつ凝集が生じない温度にて処理を行うこととした。
【0033】
なお、上記薄片状チタン酸分散液は、ゾル状のチタン酸が極薄鱗片状で分散した分散液であり、以下「Cs置換/中和チタン酸ゾル」を例にとって、表面処理チタン酸顔料の製造方法について説明することとする。
【0034】
本実施の形態の表面処理チタン酸顔料の製造方法は、図2に示すように、Cs置換/中和チタン酸ゾルに、界面活性剤とシリカ粒子とを添加し混合する(S100)。その後、凍結乾燥を行い粉末化してシリカ表面処理チタン酸顔料を得る(S102)。上記S100において、好ましくは、シリカ粒子を界面活性剤中に分散させた混合物を予め作製し、この混合物をCs置換/中和チタン酸ゾルに添加して混合することが好ましい。これにより、界面活性剤によって均一に分散されたシリカ粒子がチタン酸顔料の表面に供給されるため、より均一にシリカ被膜が形成された表面処理チタン酸顔料を得ることができる。
【0035】
上記界面活性剤は、Cs置換/中和チタン酸ゾル中のチタン酸顔料を鱗片状で均一分散されながら、シリカ粒子が鱗片状のチタン酸顔料表面へ吸着する作用を促進している。これにより、鱗片状のチタン酸顔料表面にシリカ粒子が必要量吸着し、のちの凍結乾燥処理によって、鱗片状のチタン酸顔料表面にシリカ粒子が物理吸着される。その結果、チタン酸顔料の表面にシリカ被膜が形成された表面処理チタン酸顔料を得ることができる。
【0036】
上記界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、チタネート系界面活性剤よりなる群から選択された少なくとも1種であり、ノニオン系界面活性剤としては、例えば、しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリ(オキシエチレン)=オクチルフェニルエーテル(別名「トリトン X−100」、Cas No.9002−93−1)などが挙げられるが、好ましくは、ポリ(オキシエチレン)=オクチルフェニルエーテル(別名「トリトン X−100」、Cas No.9002−93−1)である。また、チタネート系界面活性剤としては、例えば「プレンアクト」シリーズの「KR ET」(味の素ファインテクノ製)が好ましい。
【0037】
上述したCs置換/中和チタン酸ゾルは、中性よりややアルカリ性雰囲気の分散液であって、チタン酸顔料は、中性〜アルカリ性雰囲気の溶媒中で鱗片状に安定して存在している。一方、シリカ粒子は、中性〜酸性雰囲気の溶媒中にて顔料に付着する。したがって、界面活性剤としてノニオン系界面活性剤を用いることにより、チタン酸顔料を溶媒中でゾル状に保ちつつ、鱗片状のチタン酸顔料と溶媒との界面部分のみ中性域にすることができ、その結果、この中性域にて鱗片状のチタン酸顔料表面へのシリカ粒子の吸着を促進させることができる。
【0038】
また、チタネート系界面活性剤は、ゾル状のチタン酸顔料を鱗片状に保ちながら、また、シリカ粒子を高分散させることができるため、チタン酸顔料と溶媒との界面部分にシリカ粒子を均一に存在させ易い状態に保つことができる。これにより、鱗片状チタン酸顔料表面へのシリカ粒子の吸着を促進させることができる。
【0039】
また、上記シリカ粒子の粒子径は、20〜100nmであり、好ましくは20〜50nmである。上記チタン酸顔料の厚みは通常1〜100nmであり、またチタン酸顔料の長手方向の長さ(粒径)が10〜30μmであることから、このチタン酸顔料の表面に付着させるシリカ粒子の大きさを20〜100nmとすることにより、シリカ表面処理された場合でもその表面処理チタン酸顔料は依然としてアスペクト比の高い鱗片状顔料とすることができる。
【0040】
上記薄片状チタン酸分散液におけるゾル状のチタン酸顔料の濃度は、1〜5重量%であり、好ましくは3〜5重量%である。上記濃度が5重量%を超えると、薄片状チタン酸分散液の粘度が高くなりすぎて、上記界面活性剤を添加しても上記シリカ粒子が鱗片状チタン酸顔料表面に十分に吸着することができないおそれがある。
【0041】
上記チタン酸顔料と界面活性剤との重量比は、チタン酸顔料固形分に対して界面活性剤が1〜50重量%であることが好ましく、より好ましくは3〜30重量%である。上記重量比の範囲外で界面活性剤の量が少なすぎる場合には、チタン酸顔料と分散液との界面が十分に中性域とならないため、チタン酸顔料に十分な量のシリカ粒子が物理吸着されず、所望のシリカ被膜が形成された顔料を得ることができず、その結果、得られた顔料は光触媒能を十分に抑制することができない。一方、上記重量比の範囲外であって界面活性剤の量が多すぎる場合には、次工程でチタン酸顔料を粉末化させるために、凍結乾燥時間が長時間化するおそれがある。
【0042】
また、上記シリカ粒子と界面活性剤との重量比は、9:1〜9:5であることが好ましい。上記重量比の範囲外であって界面活性剤の量が多すぎる場合、次工程でチタン酸顔料を粉末化させるために、凍結乾燥時間が長時間化するおそれがある。一方、上記重量比の範囲外であって、シリカ粒子の量が多すぎる場合、チタン酸顔料表面に対する必要量以上のシリカ粒子が添加されることとなるため、表面処理チタン酸顔料の厚みが増大するおそれがある。
【0043】
上記薄片状チタン酸分散液(例えば、Cs置換/中和チタン酸ゾルまたはDMEA剥離チタン酸ゾル)に、上記界面活性剤とシリカ粒子とを添加して撹拌する撹拌装置としては、例えば、羽根型攪拌機、ディスパー、ホモミキサーなどを用いることができ、疎水性付与剤が鱗片状のチタン酸顔料の表面に物理吸着したのち、撹拌の剪断応力によって離脱しない程度の撹拌力を有するものであれば、いかなる撹拌装置も用いることができる。
【0044】
次に、上記分散液中にて上記シリカ粒子を鱗片状チタン酸顔料の表面に物理吸着させたのち、上記分散液を4〜5Paの減圧下で室温(25℃)にて5〜20時間凍結乾燥を行う。上記凍結乾燥を行う装置としては、例えば、凍結乾燥機「FDU−2000」(東京理化機械株式会社製)を用いることができる。
【0045】
上記凍結乾燥処理後の表面処理チタン酸顔料の水分量は、0.1ppm以下であることが好ましい。上記水分量は、カールフィッシャー法を用い、例えば、水分自動測定装置「AQV−7」(平沼産業(株)社製)を用いて測定した。
【0046】
以上、薄片状チタン酸分散液として、Cs置換/中和チタン酸ゾルを例に取って説明したが、これに限るものではなく、薄片状チタン酸分散液として「DMEA剥離チタン酸ゾル」を用いてもよい。かかる場合、pHがアルカリ性雰囲気であるため、鱗片状チタン酸顔料はより安定してゾル状に分散しているが、シリカ粒子の吸着を促進するために、上述した界面活性剤の添加量を制御することが望ましい。具体的には、DMEA剥離チタン酸ゾルの場合、ゾル状のチタン酸顔料の濃度に対してCs置換/中和チタン酸ゾルの場合に比べ、やや多めに上述の界面活性剤を添加することが好ましい。
【0047】
[表面処理チタン酸顔料]
本発明の好適な実施の形態の表面処理チタン酸顔料は、上述した製造方法により製造される。また、本実施の形態のシリカ表面処理チタン酸顔料10は、図4に示すように、鱗片状チタン酸顔料12の表面に、シリカ粒子14が付着してなるシリカ被膜が形成された顔料である。
【実施例】
【0048】
以下に、本発明の表面処理チタン酸顔料について、実施例を用いて説明する。尚、界面活性剤および微粒子シリカゾルのチタン酸ゾルへの添加量はチタン酸固形分に対する重量%である。
【0049】
実施例1.
図2に示すように、鱗片状チタン酸顔料濃度が5重量%のCs置換/中和チタン酸ゾルに、界面活性剤としてポリ(オキシエチレン)=オクチルフェニルエーテル(別名「トリトン X−100」、Cas No.9002−93−1)を4重量%、平均粒50nmの微粒子シリカゾル(「スノーテックスXL」(日産化学工業(株)社製))をチタン酸ゾル固形分に対してシリカ固形分36重量%添加し、コンディショニングミキサー(「泡取り練太郎AR250」((株)シンキー製))を用いて、撹拌(自転:800rpm、公転:2000rpm)を5分間行ったのち、脱泡(自転:60rpm、公転:2200rpm)で2分間行った。
【0050】
撹拌吸着反応後のゾルを、凍結乾燥機「FDU−2000」(東京理化機械株式会社製)を用い、室温(25℃)で圧力4〜5Paとし、外部に設けた揮発溶液トラップを−80℃に保ちながら、18時間凍結乾燥を行い、ゾル中の溶液(主に水)を除去して、上記使用の界面活性剤および微粒子シリカがその表面に吸着してなる表面処理乾燥チタン酸粉末顔料(A)を得た。
【0051】
実施例2.
実施例1において使用した界面活性剤としてポリ(オキシエチレン)=オクチルフェニルエーテルの添加量を4重量%から20重量%に変えた以外は、実施例1に準拠し、それぞれ表面処理乾燥チタン酸粉末顔料(B)を得た。
【0052】
実施例3.
実施例2で用いた界面活性剤を、ポリ(オキシエチレン)=オクチルフェニルエーテルからチタネート系界面活性剤である「プレンアクト」シリーズの「KR ET」(味の素ファインテクノ製)に変えた以外は、実施例2に準拠し、それぞれ表面処理乾燥チタン酸粉末顔料(C)を得た。
【0053】
実施例4.
実施例1において使用した界面活性剤としてポリ(オキシエチレン)=オクチルフェニルエーテルの添加量を4重量%から10重量%に変えた以外は、実施例1に準拠し、それぞれ表面処理乾燥チタン酸粉末顔料(D)を得た。
【0054】
実施例5.
平均粒径50nmの微粒子シリカゾル(「スノーテックスXL」(日産化学工業(株)社製))を、平均粒径100nmの微粒子シリカゾル(「スノーテックスMP」(日産化学工業(株)社製))に変えた以外は、実施例2に準拠し、それぞれ表面処理乾燥チタン酸粉末顔料(E)を得た。
【0055】
実施例6.
平均粒径50nmの微粒子シリカゾル(「スノーテックスXL」(日産化学工業(株)社製))を、平均粒径20nmの微粒子シリカゾル(「スノーテックスN」(日産化学工業(株)社製))に変えた以外は、実施例2に準拠し、それぞれ表面処理乾燥チタン酸粉末顔料(E)を得た。
【0056】
比較例1.
鱗片状チタン酸顔料濃度が5重量%のCs置換/中和チタン酸ゾルを80℃に過熱し、pH4に調節し、次いでチタン酸ゾル固形分に対して水溶性ケイ酸塩を36重量%添加し、コンディショニングミキサー(「泡取り練太郎AR250」((株)シンキー製))を用いて、撹拌(自転:800rpm、公転:2000rpm)を5分間行った。その後、チタン酸顔料表面に珪酸塩が反応して得られたものを金属水酸化物または金属酸化物水和物として凝集沈降した顔料を濾過して分離し、分離した顔料を80℃で乾燥して粉末化させてチタン酸顔料(F)を得る。
【0057】
比較例2.
鱗片状チタン酸顔料濃度が5重量%のCs置換/中和チタン酸ゾルに、平均粒50nmの微粒子シリカゾル(「スノーテックスXL」(日産化学工業(株)社製))をチタン酸ゾル固形分に対してシリカ固形分36重量%添加し、コンディショニングミキサー(「泡取り練太郎AR250」((株)シンキー製))を用いて、室温(25℃)で撹拌(自転:800rpm、公転:2000rpm)を5分間行い、チタン酸顔料(G)を得た。
【0058】
比較例3.
鱗片状チタン酸顔料濃度が5重量%のCs置換/中和チタン酸ゾルに、エポキシシランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(「KBM403」(信越化学工業(株)社製))を36重量%添加し、コンディショニングミキサー(「泡取り練太郎AR250」((株)シンキー製))を用いて、撹拌(自転:800rpm、公転:2000rpm)を5分間行った。その後、ゾル液をそのまま80℃で終夜乾燥して、チタン酸顔料(H)を得た。
【0059】
参考例1.
上記合成例1により製造されたDMEA剥離チタン酸ゾルをチタン酸顔料(I)とする。
【0060】
参考例2.
上記合成例2により製造されたCs置換/中和チタン酸ゾルをチタン酸顔料(J)とする。
【0061】
参考例3.
上記合成例2により製造されたCs置換/中和チタン酸ゾルを、凍結乾燥機「FDU−2000」(東京理化機械株式会社製)を用い、室温(25℃)で圧力4〜5Paとし、外部に設けた揮発溶液トラップを−80℃に保ちながら、18時間凍結乾燥を行い、ゾル中の溶液(主に水)を除去して、チタン酸顔料(K)を得た。
【0062】
参考例4.
ルチル型二酸化チタンとして、和光純薬(株)社製の特級試薬のルチル型二酸化チタンを用いた。
【0063】
光触媒能の測定基準として、和光純薬(株)社製の特級試薬のアナターゼ型二酸化チタンを用いた。また、本実施例の表面処理チタン酸顔料の光触媒能は、現在、車両塗装用に使用されている『号口パール顔料』(「シラリックT60−10WNT」(メルク社製))の光触媒能と同等であることが好ましい。
【0064】
[顔料の光触媒能の相対評価方法]
(1)各顔料0.3g(固形分)にイソプロピルアルコール(IPA)を3g加え、この混合物を脱イオン水で30gに希釈する。
(2)マグネティックスターラー入りの50gスクリュー瓶に、上記(1)にて作製した混合溶液を入れ、気相部に酸素を充満させ、ビニールテープでスクリュー瓶を密閉する。
(3)マグネティックスターラーを撹拌させながら、ブラックライトを24時間スクリュー瓶に照射する。
(4)ブラックライト照射後、遠心分離器にてフィラーを沈降させ、上澄み液をガスクロマトグラフィー(GC)を用いて測定し、アセトンの生成量を測定する。ここで、アセトンは、上記ブラックライト照射により顔料から電子が放出された場合、この放出された電子と充填した酸素によって上記イソプロプルアルコールが酸化されることによって生成する。
(5)上記試薬アナターゼ型二酸化チタンを顔料として添加し、上記条件にて生成したアセトン生成量を『100』とし、各顔料サンプルの光触媒能を相対評価した。その結果を表1,表2,表3に示す。
【0065】
【表1】

註)
*1:ノニオン系界面活性剤:ポリ(オキシエチレン)=オクチルフェニルエーテル(別名「トリトン X−100」、Cas No.9002−93−1)
*2:チタネート系界面活性剤:「プレンアクト」シリーズの「KR ET」(味の素ファインテクノ製)
【0066】
【表2】

【0067】
【表3】

【0068】
表1,2,3に示すように、本発明によってシリカ被膜により表面処理されたチタン酸顔料は、光触媒能が十分に抑制された鱗片状顔料であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の表面処理チタン酸顔料の製造方法および表面処理チタン酸顔料は、耐光性を有する塗膜を形成する用途であれば、いかなる用途でも有効であるが、例えば車両用塗膜の形成に供することができ、特に車両用塗膜としては、車両外装の塗膜形成に供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の表面処理チタン酸顔料の製造方法に用いるゾルの作製方法の一態様を説明する図である。
【図2】本発明の表面処理チタン酸顔料の製造方法の一態様の工程のフロー図である。
【図3】鱗片状チタン酸のゾルであるアミン剥離ゾルが層状チタン酸塩に戻る状態を説明する図である。
【図4】本発明の表面処理チタン酸顔料の表面処理状態の模式図である。
【図5】本発明の表面処理チタン酸顔料および他の顔料の光触媒能を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
10 シリカ表面処理チタン酸顔料、12 鱗片状チタン酸顔料、14 シリカ粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゾル状の鱗片状チタン酸顔料に、界面活性剤とシリカ粒子とを添加し混合したのち、凍結乾燥を行い粉末化する工程を有することを特徴とする表面処理チタン酸顔料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の表面処理チタン酸顔料の製造方法において、
前記シリカ粒子は、20nmから100nmのシリカ粒子であることを特徴とする表面処理チタン酸顔料の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の表面処理チタン酸顔料の製造方法において、
前記界面活性剤が、ノニオン系界面活性剤、チタネート系界面活性剤よりなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする表面処理チタン酸顔料の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の表面処理チタン酸顔料の製造方法を用いて製造された表面処理チタン酸顔料。
【請求項5】
鱗片状チタン酸顔料基材の表面がシリカ粒子により被覆されたことを特徴とする表面処理チタン酸顔料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−153923(P2007−153923A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346836(P2005−346836)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】