説明

表面加工方法

【課題】大面積な被加工物の表面に周期的なパターンの微細な交差溝を生成する。
【解決手段】工具刃物4をスピンドルの回転中心軸CLSから所定の距離d1の位置に工具固定ジグ5を介して保持し、回転させることで被加工物2に対して切り込み、被加工物2の最短幅と垂直な方向に回転工具(工具刃物4,工具固定ジグ5等)を駆動して、この駆動方向(工具の送り9)の入口側で形成される第1の円弧溝形状7と出口側で形成される第2の円弧溝形状8を作製する。この2つの円弧溝形状の最下点が同じ高さになるように駆動方向に対してピッチング方向の位置調整を行い、これを維持して被加工物2の表面加工を行うことにより、被加工物2の表面に交差溝を一定周期で切削加工する。この方法により、交差する第1および第2の円弧溝形状7,8を加工する際の時間軸の差を小さくして、切削加工により周期的なパターンの微細な交差溝を高精度かつ容易に生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細溝を加工する装置および加工方法に係り、特に被加工物に直交する微細溝を形成する表面加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な工業製品に対し、表面の微細な凹凸によって、表面機能を制御する研究や開発が進められている。部品の表面に周期的なパターンの微細な溝を形成し部品同士の摩擦力を低減し、また、潤滑剤の保持力を向上させる試みがなされている。
【0003】
また、例えば、金型の表面に周期的なパターンの微細な溝を形成し、撥水性、浸水性などの機能を備えた部品を生成する試みがなされている。
【0004】
また、例えば、周期的なパターンの微細な溝を形成し、マイクロチップを生成することも考えられる。なお、マイクロ分析チップ(マイクロチップ)は、半導体分野等の微細加工技術を利用して所定の機能を小型のチップに集積したものをいい、例えば、化学反応等の複雑な化学システムを集積したものである。マイクロチップを使用することによって、化学反応等の試験を行う場合における試薬、試料の少量化を図る等をすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−320022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した周期的なパターンの微細な溝を部品に形成する方法として、化学的処理や薄膜技術による方法が知られているが、その一方で、様々なパターンの溝を効率よく生成すべく、切削加工により周期的なパターンの微細な溝を生成する方法を考えることができる。
【0007】
本発明は、切削加工によって周期的なパターンの微細溝を生成する加工方法に関するものであり、交差する円弧溝形状の微細溝を加工する際の時間軸の差を小さくして、加工装置の熱変形や工具摩耗などの影響を軽減し、切削加工によって被加工物の表面に周期的なパターンの微細溝を高精度かつ容易に生成できる表面加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る表面加工方法は、平面に板状の被加工物を保持し、平面に直交する回転軸から半径R離れた位置に被加工物を切削加工するための工具を保持し、工具を回転させながら、かつ回転軸と直交する方向に駆動させて、被加工物の表面を切削して規則的な配列の凹パターンを加工する表面加工方法であって、被加工物の第1面に対して工具を回転させながら回転軸方向に切り込ませて、被加工物の第1面の最短幅の直線と垂直な第1の方向に工具を駆動することにより、工具の駆動方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状と、駆動方向の出口側で形成される第2の円弧溝形状を作製し、被加工物の第1面に第1の円弧溝形状と第2の円弧溝形状が交差する溝形状を一定の周期で切削形成する第1切削工程を有することを特徴とする。
【0009】
このような方法により、交差する第1および第2の円弧溝形状を加工する際の時間軸の差を従来よりも小さくすることによって、加工装置の熱変形や工具摩耗などの影響を小さくでき、よって切削加工によって被加工物の表面に周期的なパターンの微細溝が交差する形状を高精度かつ容易に生成することができる。
【0010】
また、請求項2に係る発明は、請求項1の表面加工方法において、回転軸から被加工物の最短幅の中心までの距離が、半径Rの0.5倍から0.85倍までの距離であり、半径Rが被加工物の最短幅の長さの3倍以上であることを特徴とする。
【0011】
この範囲で使用することにより、被加工物の表面に形成される交差する周期的な微細溝パターンが直交する形状に近くなり、所望の形状を高精度かつ容易に生成することができる。
【0012】
また、請求項3に係る発明は、請求項1,2の表面加工方法における、被加工物を切削する駆動方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状において、第1の円弧溝形状の溝加工した終了端側の切削方向が、重力方向であることを特徴とする。
【0013】
このように、交差する微細パターンを切削加工により形成する場合に、切りくずが排出される方向を制御することにより、サブミクロンサイズ以下の交差する微細溝形状をさらに高精度かつ容易に生成することができる。
【0014】
また、請求項4に係る発明は、請求項1〜3の表面加工方法において、第1切削工程の後に、被加工物の第1面に交差する溝形状を形成する工具の回転軸を傾け、被加工物の第1面と端部が繋がる第2面に対して工具を回転させながら回転軸方向に切り込ませて、被加工物の第2面の最短幅の直線と垂直な第2の方向に工具を駆動することにより、工具の駆動方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状と、駆動方向の出口側で形成される第2の円弧溝形状を作製し、被加工物の第2面に第1の円弧溝形状と第2の円弧溝形状が交差する溝形状を一定の周期で切削形成することを特徴とする。
【0015】
このように、被加工物の連続する各面を加工する場合に、工具の回転軸に各面で異なる傾きを与えることにより、複雑な形状の被加工物表面においても、被加工物表面に周期的なパターンの微細溝が交差する形状を高精度かつ容易に生成することができる。
【0016】
また、請求項5に係る発明は、請求項1〜3の表面加工方法において、被加工物が、第1面と、この第1面と対向する第3面と、両端が第1面と第3面とに繋がる第2面と、両端が第1面と第3面とに繋がり第2面と対向する第4面と、で構成した矩形枠形状であり、第1切削工程では、被加工物の第1面と第3面を同時に加工して、第1面と第3面に第1の円弧溝形状と第2の円弧溝形状が交差する溝形状を一定の周期で切削形成し、第2切削工程として、第1切削工程とは異なる角度に工具の回転軸を傾け、被加工物の第2面に対して工具を回転させながら回転軸方向に切り込ませて、被加工物の第2面の最短幅の直線と垂直な第2の方向に工具を駆動することにより、工具の駆動方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状と、駆動方向の出口側で形成される第2の円弧溝形状を作製し、被加工物の第2面に第1の円弧溝形状と第2の円弧溝形状が交差する溝形状を一定の周期で切削形成し、第3切削工程として、第1切削工程とは異なる角度に工具の回転軸を傾け、被加工物の第4面に対して工具を回転させながら回転軸方向に切り込ませて、被加工物の第4面の最短幅の直線と垂直な第3の方向に工具を駆動することにより、工具の駆動方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状と駆動方向の出口側で形成される第2の円弧溝形状を作製し、被加工物の第4面に第1の円弧溝形状と第2の円弧溝形状が交差する溝形状を一定の周期で切削形成することを特徴とする。
【0017】
このような方法により、矩形枠形状の被加工物の各面においても周期的なパターンの微細溝が交差する形状を高精度かつ容易に短時間で生成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、切削加工によって被加工物の表面に周期的なパターンの微細溝を高精度かつ容易に生成することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る加工装置の概要を示す図
【図2】本第1の実施形態における(a)は加工装置で被加工物に形成される微細溝、(b)は加工装置の概要を示す図
【図3】本第1の実施形態における被加工物表面に微細溝パターン形成の模式図
【図4】本第1の実施形態における加工装置で加工した被加工物の表面拡大図
【図5】本実施形態におけるオフセット量と円弧溝形状が交差する角度の関係を示すグラフ
【図6】本発明の第2の実施形態に係る加工装置の概要を示す図
【図7】本発明の第3の実施形態に係る加工装置の概要を示す図
【図8】本発明の第4の実施形態に係る(a)は被加工物に形成される微細溝、(b)は加工装置の概要を示す図
【図9】本第4の実施形態における加工装置の概要を示す図
【図10】従来の切削加工した微細溝の交差パターンの表面拡大図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
(第1の実施形態)
図1は本発明の第1の実施形態に係る加工装置の概要を示す図である。本加工装置は、ベース部材(図示せず)を備えている。このベース部材には、直交方向3軸に駆動することのできる直線軸ステージ1が設けられている。
【0022】
直線軸ステージ1上の平面に矩形な板状の被加工物2を、保持することができるようになっているとともに、図示しない制御装置の制御の下、駆動するようになっている。
【0023】
また、ベース部材には、傾きを調整する2軸の回転ステージ(図示せず)が設置され、その上にスピンドル3が設けられている。このスピンドル3は、被加工物2を切削加工するための工具刃物4を保持することができるようになっている。また、スピンドル3は、被加工物2から離れた位置で、図示しない制御装置の制御の下、図示しないスピンドル用アクチュエータで回転するようになっている。
【0024】
工具刃物4は、スピンドル3の回転軸(回転中心軸CLS)から所定の距離d1(半径R)だけ離れた位置で、工具固定ジグ5を介してスピンドル3に保持されており回転工具となっている。また、スピンドル3の回転軸(回転中心軸CLS)と被加工物2のオフセット距離d2を距離d1以下になるように設定して加工を行う。
【0025】
なお、制御装置の制御の下、スピンドル3の回転速度ω1および直線軸ステージ1の送り速度,回転ステージの位置を適宜変更・維持することができるようになっている。
【0026】
本加工装置により被加工物2に形成される微細溝の形態について説明する。図2(a)は本加工装置で被加工物に形成される微細溝の形態、(b)は加工装置の概要を示す図である。スピンドル3により工具刃物4を回転させながら被加工物2に対して回転軸方向に工具刃物4を切り込ませ、被加工物2の表面(第1面)における最短幅(短辺)と垂直な第1の方向(工具の送り9)に回転工具を駆動する。これにより、被加工物2の第1面における第1切削工程として、回転工具(工具刃物4,工具固定ジグ5等)の駆動方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状7と、駆動方向の出口側で形成される第2の円弧溝形状8を作製する。この2つの円弧溝形状の最下点が同じ高さになるように工具駆動方向に対するピッチング方向の角度調整を行い、その関係を維持するように被加工物2の表面加工を行う。
【0027】
このような、被加工物2の表面に交差する円弧溝形状を一定の周期のピッチにより切削形成を行う回転工具による表面加工方法である。これにより、切削加工によって被加工物2の表面に周期的なパターンの微細溝が交差する形状を高精度かつ容易に生成することができる。なお、微細溝のピッチや深さに関しては、図3に示すように工具刃物4の回転数(回転速度ω1)および送り速度(工具の送り9)、工具形状によって微細ピッチp、微細溝深さdが決定される。
【0028】
例として、工具回転数1000rpm、旋回半径の距離d1=20mm、工具位置オフセット量(距離)d2=14mm、工具送り速度1mm/minで表面加工を実施した被加工物2の表面の拡大写真を図4に示す。従来の方法では、交差する溝の深さが異なってしまいサブミクロンの直交溝を形成できなかったが、本発明を適用することにより、加工時間の短縮を実現したことによりサブミクロンの直交溝を実現できた。
【0029】
また、回転軸(回転中心軸CLS)と被加工物2の中心距離(オフセット距離d2)に関して、好適には工具刃物4の旋回半径の距離d1が0.5から0.85倍までの範囲、かつ工具刃物4の旋回半径の距離d1は、被加工物2の最短幅の長さの3倍以上であることが望ましい。
【0030】
例として、幾何学的に計算されたオフセット距離(旋回半径の距離d1との相対値)と第1の円弧溝形状7および第2の円弧溝形状8が交差する角度の関係を図5に示す。2つの円弧溝形状が交差する角度は、工具刃物4の旋回半径の距離d1の0.7倍前後のオフセット距離が、直交溝になることが確認できる。前述した範囲であれば、2つの円弧溝形状が交差する角度は60度から120度の間での交差する角度を実現することができる。
【0031】
(第2の実施形態)
図6は本発明の第2の実施形態に係る加工装置の概要を示す図である。第1の実施形態との装置構成に大きな差はないが、特に被加工物の表面が鉛直方向と平行に近い状態で被加工物(枠形状)10が固定されている。このような状況下では、回転工具(工具刃物4,工具固定ジグ5等)の駆動方向(工具の送り9’)の入口側で形成される第1の円弧溝形状7の切削時に発生した切りくずが、その後に駆動方向の出口側で形成される第2の円弧溝形状8の切削時に噛みこむという問題が発生する。切りくずが噛みこんだ場合、通常とは異なる微細溝パターンしか形成されず高精度に安定した加工が実現できない。
【0032】
つまり、第1の円弧溝形状7の切削時に発生した切りくずと、第2の円弧溝形状8の切削時に発生した切りくずでは、第1の円弧溝形状7の切削時は連続切削であるのに対して、第2の円弧溝形状8の切削時は先に形成した第1の円弧溝形状7の上を切削するため断続切削となる。このため、第1の円弧溝形状7の切りくずのほうが大きくなることから、第1の円弧溝形状7の切りくずが第2の円弧溝形状8の切削加工中に噛みこまないようにする必要がある。
【0033】
例として図6の場合で考えると、被加工物(枠形状)10の上側を加工している工具の送り9’では、送り方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状7の切削方向が上向きであるので被加工物(枠形状)10上に切りくずが堆積するので最適ではない。被加工物(枠形状)10の下側を加工している工具の送り9では、送り方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状7の切削方向が下向きであるので被加工物(枠形状)10上に切りくずが堆積しないので切りくずの噛みこみの可能性を低減できる。
【0034】
そこで、第1の円弧溝形状7の形成において、工具刃物4が溝加工した終了端側の切削する方向が重力方向になるように回転工具の経路、回転工具の回転方向を設計することにより、切りくずの噛みこまない高精度な微細パターンを実現することが可能となる。
【0035】
(第3の実施形態)
図7は本発明の第3の実施形態に係る加工装置の概要を示す図である。第1の実施形態の図1で説明したように、本加工装置においても、ベース部材(図示せず)を備えている。このベース部材には、直交方向3軸に駆動することのできる直線軸ステージ1が設けられている。そして、直線軸ステージ1上に被加工物10を、保持することができるようになっているとともに、図示しない制御装置の制御の下、駆動するようになっている。なお、本第3の実施形態では被加工物10として枠形状を例とする。
【0036】
また、ベース部材には、スピンドル3が設けられている。このスピンドル3は、傾きを調整する2軸の回転ステージ(図示せず)上に設置され、被加工物10を切削加工するための工具刃物4を保持することができるようになっている。また、スピンドル3は、被加工物10から離れた位置で、図示しない制御装置の制御の下、図示しないスピンドル用アクチュエータで回転するようになっている。
【0037】
工具刃物4は、スピンドル3の回転中心軸CLSから所定の距離d1だけ離れた位置で、工具固定ジグ5を介してスピンドル3に保持されるようになっている。また、スピンドル3の回転中心軸CLSと被加工物10のオフセット距離d2を距離d1以下になるように設定して加工を行う。なお、制御装置の制御の下、スピンドル3の回転速度ω1および直線軸ステージ1の送り速度,回転ステージの位置を適宜変更・維持することができるようになっている。
【0038】
本第3の実施形態については、スピンドル3下に設置されている2軸の回転ステージ上を用いて、回転工具(工具刃物4,工具固定ジグ5等)の駆動方向に対してローリング方向に僅かに傾きを与えて、被加工物(枠形状)10の表面加工を試みたところ、被加工物10の枠形状の辺と辺が重なる角部分においてパターン同士の重なりがなくなり、従来例と比べて飛躍的な改善がみられた。
【0039】
以下、これについて詳しく説明する。前述の第1,第2の実施形態では、被加工物は直方体形状の一面を加工することを例としている。枠形状の被加工物に対する加工の場合、次の2通りの方法が考えることができる。
【0040】
1つは一度に枠形状の全面を加工すると考えた場合である。ただし、この場合では第1の実施形態でも述べたように、最適な表面加工を実施するためには、回転工具の回転半径が被加工物の最短幅の長さの3倍以上であることが望ましく。このため、非常に大きな旋回半径の距離d1を持つ工具を準備しなければならなく現実的ではない。
【0041】
もう1つの方法は、前記枠形状の一辺をそれぞれ加工すると考えた場合である。ただし、この場合では辺と辺が重なる角の部分で、それぞれの辺を加工した際の微細パターンの重なりが生じて、所望のパターンを作製できないという問題が生じる。
【0042】
本第3の実施形態では、微細溝の加工において、回転工具の駆動方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状7と駆動方向の出口側で形成される第2の円弧溝形状8の溝高さが同じ高さになるように回転工具の駆動方向に対するピッチング方向の位置調整を行い、その関係を維持するように表面加工を行うことが必要であるが、特に回転工具の駆動方向に対するローリング方向には調整の必要はない。
【0043】
そこで、回転工具の駆動により生成される複数(駆動方向ごと)の加工面が同一面上に存在しないように、回転工具の駆動方向に対するローリング方向に僅かに傾きを与える。図7に示す例では、前述した第1の実施形態の第1切削工程で駆動される回転工具に、回転工具を駆動する第1の方向に対するローリング方向に傾きを与えて、被加工物10の第1面に円弧溝形状を形成する表面加工を行っている。
【0044】
次に、被加工物10の第1面に端部が繋がった第2面に円弧溝形状を形成するため、この第2面の最短幅の直線と垂直な第2の方向に回転工具を駆動し、被加工物10の第2面の表面加工を行う。この第2の方向へ駆動する回転工具の回転軸の傾きは第1面の表面加工時の傾きと同じであってもよい。また、被加工物10の隣接する各面において加工面が異なればよいため、第1面の加工時においては、回転軸に傾きを与えなくてもよい。そして、枠形状の被加工物10に微細溝の加工を行う場合には、同様に、被加工物10の各面での加工面が異なるように、被加工物10の第3面,第4面の表面加工を行う。
【0045】
これにより、1つ以上の方向に回転工具を駆動する必要のある形状加工の場合に、本第3の実施形態の表面加工手法を活用することにより、被加工物(枠形状)10の表面に周期的なパターンの微細溝が交差する形状を高精度かつ容易に形成することができる。
【0046】
(第4の実施形態)
図8(a)は本発明の第4の実施形態に係る被加工物に形成される微細溝の形態、(b)は加工装置の概要を示す図である。第1の実施形態の図1で説明したように、本加工装置においても、ベース部材(図示せず)を備えている。このベース部材には、直交方向3軸に駆動することのできる直線軸ステージ1が設けられている。そして、直線軸ステージ1上に被加工物2を、保持することができるようになっているとともに、図示しない制御装置の制御の下、駆動するようになっている。
【0047】
また、ベース部材には、スピンドル3が設けられている。このスピンドル3は、傾きを調整する2軸の回転ステージ(図示せず)上に設置され、被加工物10を切削加工するための工具刃物4を保持することができるようになっている。また、スピンドル3は、被加工物10から離れた位置で、図示しない制御装置の制御の下、図示しないスピンドル用アクチュエータで回転するようになっている。
【0048】
工具刃物4は、スピンドル3の回転中心軸CLSから所定の距離d1だけ離れた位置で、工具固定ジグ5を介してスピンドル3に保持されるようになっている。また、スピンドル3の回転中心軸CLSと被加工物10のオフセット距離d2を距離d1以下になるように設定して加工を行う。なお、制御装置の制御の下、スピンドル3の回転速度ω1および直線軸ステージ1の送り速度,回転ステージの位置を適宜変更・維持することができるようになっている。
【0049】
本第4の実施形態については、枠形状(被加工物10)の加工において、回転工具の駆動方向に対し、被加工物10の枠形状の左右両方の表面加工を試みたところ、加工段取り時間および加工時間の短縮を図ることができ、従来例と比べて飛躍的な改善がみられた。
【0050】
以下、これについて詳しく説明する。前述の第3の実施形態では、円弧溝形状を形成するための回転工具の駆動により生成され、その駆動方向ごとに複数ある加工面が、同一面上に存在しないように、回転工具の駆動方向に対するローリング方向に僅かに傾きを与える。図7に示すように、矩形枠形状の被加工物10の第1〜第4面を回転工具の駆動方向により、回転工具の回転軸を僅かに傾けて1つの辺ごとに加工している。つまり、4つの辺(面)が存在すれば4回の加工を実施しなければならなかった。しかし、実際には被加工物10と回転工具の大きさにもよるが、図8(a)に示す工具刃先の軌跡6から回転工具の駆動方向(工具の送り9)に対して、図8(b)に示すように左右両側(第1面と第3面)で同時かつ同じ表面加工をすることができる。
【0051】
このようなことから、被加工物10に対する加工において、枠形状の場合に平行する2辺(第1面、第3面)を第1の方向で同時に加工する第1切削工程による加工と、それ以外の辺(第2面、第4面)のそれぞれを第2、第3の方向に加工する際、回転工具の駆動方向に対してローリング方向で、回転工具の回転軸に左右の傾きを与えて第2,第3切削工程による加工をすることができる(図9参照)。
【0052】
このように、被加工物10が矩形枠形状の4つの辺の加工においても3回の切削工程による加工で表面加工が完了する。そして、段取り時間および加工時間の短縮が実現されて、被加工物10の表面に周期的なパターンの微細溝が交差する形状を高精度かつ容易に生成することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係る表面加工方法は、切削加工によって被加工物の表面に大面積に交差する周期的なパターンの微細溝を高精度かつ容易に生成することができ、
ガラスや単結晶材料等の硬い材料の加工にも適用できる。
【符号の説明】
【0054】
1 直線軸ステージ
2 被加工物
3 スピンドル
4 工具刃物
5 工具固定ジグ
6 工具刃先の軌跡
7 第1の円弧溝形状
8 第2の円弧溝形状
9,9’ 工具の送り
10 被加工物(枠形状)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面に板状の被加工物を保持し、前記平面に直交する回転軸から半径R離れた位置に前記被加工物を切削加工するための工具を保持し、前記工具を回転させながら、かつ前記回転軸と直交する方向に駆動させて、前記被加工物の表面を切削して規則的な配列の凹パターンを加工する表面加工方法であって、
前記被加工物の第1面に対して前記工具を回転させながら回転軸方向に切り込ませて、前記被加工物の第1面の最短幅の直線と垂直な第1の方向に前記工具を駆動することにより、前記工具の駆動方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状と、前記駆動方向の出口側で形成される第2の円弧溝形状を作製し、前記被加工物の第1面に前記第1の円弧溝形状と前記第2の円弧溝形状が交差する溝形状を一定の周期で切削形成する第1切削工程を有することを特徴とする表面加工方法。
【請求項2】
前記回転軸から前記被加工物の最短幅の中心までの距離が、前記半径Rの0.5倍から0.85倍までの距離であり、前記半径Rが前記被加工物の最短幅の長さの3倍以上であることを特徴とする請求項1記載の表面加工方法。
【請求項3】
前記被加工物を切削する駆動方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状において、前記第1の円弧溝形状の溝加工した終了端側の切削方向が、重力方向であることを特徴とする請求項1または2記載の表面加工方法。
【請求項4】
前記第1切削工程の後に、前記被加工物の第1面に交差する溝形状を形成する工具の回転軸を傾け、前記被加工物の第1面と端部が繋がる第2面に対して前記工具を回転させながら回転軸方向に切り込ませて、前記被加工物の第2面の最短幅の直線と垂直な第2の方向に前記工具を駆動することにより、前記工具の駆動方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状と、前記駆動方向の出口側で形成される第2の円弧溝形状を作製し、前記被加工物の第2面に前記第1の円弧溝形状と前記第2の円弧溝形状が交差する溝形状を一定の周期で切削形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面加工方法。
【請求項5】
前記被加工物が、第1面と、前記第1面と対向する第3面と、両端が前記第1面と前記第3面とに繋がる第2面と、両端が前記第1面と前記第3面とに繋がり前記第2面と対向する第4面と、で構成した矩形枠形状であり、
前記第1切削工程では、前記被加工物の第1面と第3面を同時に加工して、前記第1面と第3面に第1の円弧溝形状と第2の円弧溝形状が交差する溝形状を一定の周期で切削形成し、
第2切削工程として、前記第1切削工程とは異なる角度に前記工具の回転軸を傾け、前記被加工物の第2面に対して前記工具を回転させながら回転軸方向に切り込ませて、前記被加工物の第2面の最短幅の直線と垂直な第2の方向に前記工具を駆動することにより、前記工具の駆動方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状と、前記駆動方向の出口側で形成される第2の円弧溝形状を作製し、前記被加工物の第2面に前記第1の円弧溝形状と前記第2の円弧溝形状が交差する溝形状を一定の周期で切削形成し、
第3切削工程として、前記第1切削工程とは異なる角度に前記工具の回転軸を傾け、前記被加工物の第4面に対して前記工具を回転させながら回転軸方向に切り込ませて、前記被加工物の第4面の最短幅の直線と垂直な第3の方向に前記工具を駆動することにより、前記工具の駆動方向の入口側で形成される第1の円弧溝形状と駆動方向の出口側で形成される第2の円弧溝形状を作製し、前記被加工物の第4面に前記第1の円弧溝形状と前記第2の円弧溝形状が交差する溝形状を一定の周期で切削形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−110632(P2011−110632A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267300(P2009−267300)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】