説明

表面反射鏡

【構成】 樹脂基板の表面上に形成された二酸化ケイ素からなる下地層と、前記下地層上に形成されたアルミニウムからなる反射層と、前記反射層上に形成された二酸化ケイ素からなる第1保護層と、前記第1保護層上に形成された、酸化チタン、酸化タンタルおよび酸化ジルコニウムから選択される少なくとも一種の材料からなる第2保護層と、前記第2保護層上に形成された酸化アルミニウムからなる第3保護層とを有する表面反射鏡。
【効果】 基板に対して圧縮応力を及ぼす二酸化ケイ素からなる下地層を用いているため、高温高湿雰囲気下に放置した場合でも樹脂基板と膜構造との間に点状欠陥が発生することがない。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、カメラ、望遠鏡、顕微鏡等の光学製品に使用される表面反射多層膜を有する表面反射鏡に関する。
【0002】
【従来の技術】カメラ、望遠鏡、顕微鏡等の光学製品に使用される表面反射鏡では、反射材料としてアルミニウムが最も良く用いられている。しかしながら、アルミニウムの反射層を基板上に形成しただけでは、耐擦傷性、耐湿性等の点で不十分であり、この反射層上にケイ素の酸化物やフッ化マグネシウム等の保護層を形成して上記問題点を克服していた。また、これらのアルミニウム表面反射鏡は、単層保護膜であると、アルミニウムの反射率(可視域で約91%)以下の反射率しか得られない。そこで、より高い反射率を得るために、基板上に形成されたアルミニウム反射層の表面に光学的膜厚0.25λ0 (λ0 は設計主波長)の低屈折率材料からなる第1保護層を形成し、この低屈折率層上に光学的膜厚0.25λ0 の高屈折率材料からなる第2保護層を設けて反射率を増加させていた。このような三層の反射膜構造では、第1保護層の材料として二酸化ケイ素、フッ化マグネシウム等が用いられ、第2保護層材料として酸化チタン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム等が用いられてきた。
【0003】また、近年超精密金型加工機の出現および射出成形技術の向上に伴い、樹脂製光学部品が利用されるようになってきている。特に、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等のエンジニアリングプラスチックの開発によって、より高温で使用できる樹脂製光学部品が製造されつつある。ところが、このような樹脂を表面反射鏡の基板として用い上述の反射膜構造を形成した場合、熱膨張および吸湿膨張によって基板表面に形成した反射膜構造の耐久性が不十分となるという問題があった。また、第2保護層を構成する高屈折率材料である酸化チタン、酸化タンタルおよび酸化ジルコニウムは、300℃以上の高温で成膜すれば密度の高い膜となり高い耐久性が得られるが、基板として樹脂を用いた場合、基板上に形成される膜は100℃以下の温度で成膜しなければならず、十分に密度の高い保護膜が得られない。
【0004】そこで従来では、低温でも高密度かつ高強度の膜を成膜できる酸化アルミニウムを用いて第2保護層の上に第3保護層を成膜し、例えば図2に示すような4層の反射膜構造を樹脂基板上に形成していた。即ち、図2に示されるように、従来の表面反射鏡11では、樹脂基板12上に、アルミニウムからなる反射層13と、二酸化ケイ素からなる第1保護層14と、酸化チタンからなる第2保護層15と、酸化アルミニウムからなる第3保護層16とが順次積層されていた。ところが、上記膜構造では、樹脂基板12とアルミニウム反射層13との付着力が十分ではなく、粘着テープを用いたテープテストにおいて、基板12から膜構造が剥離し易いという問題があった。そこで、このような問題を解決した反射膜構造を有する表面反射鏡として、例えば図3に示すような5層の反射膜構造を有する表面反射鏡が提案されている。図示されるように、この表面反射鏡21では、樹脂基板22上に、酸化クロムからなる下地層23と、アルミニウムからなる反射層24と、二酸化ケイ素からなる第1保護層25と、酸化チタンからなる第2保護層26と、酸化アルミニウムからなる第3保護層27とが順次積層されていた。このような膜構造では、樹脂基板22とアルミニウム反射層24との付着力は下地層23によって向上し、テープテストにおいても膜構造が剥離することがない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところが、このような表面反射鏡21にあっても、温度60℃、湿度90%RHの高温高湿雰囲気下に表面反射鏡21を長時間放置すると、樹脂の熱膨張あるいは吸湿膨張によって、樹脂と膜構造が局部的に剥離する点状欠陥が発生するという問題があった。この点状欠陥は、表面反射鏡21を通常雰囲気に戻すことによって徐々に消滅するが、反射膜構造の樹脂基板22への付着性を劣化させる原因となる。
【0006】本発明者は、このような点状欠陥の原因を鋭意、追求した結果、以下の現象を判明するに至った。表面反射鏡、例えば図4に示されるように、樹脂基板31に反射膜構造32を形成した表面反射鏡33を高温高湿雰囲気下に放置すると、樹脂基板31が大きく熱膨張あるいは吸湿膨張するが、反射膜構造32はさほど膨張しない。したがって、表面反射鏡33は、図5に示すように、反射膜構造32方向に凹状に湾曲する。この基板31の膨張に起因する湾曲が主な点状欠陥の原因である。また、図6、図7に示すように、樹脂基板31上に反射膜、保護膜等の単位膜35を形成した場合、単位膜35には、引張応力あるいは圧縮応力が残留する。そして、引張応力が残留すると、図6に示すように、表面反射鏡33を単位膜35側に凹状に湾曲させようとし、圧縮応力が残留すると、図7に示すように表面反射鏡33を基板31側に凹状に湾曲させようとする。
【0007】基板上に単位膜を成膜した前後の表面形状変化測定により、図3に示すような従来の表面反射鏡21では、樹脂基板22上に形成される膜23〜27の内、酸化クロムからなる下地層23、アルミニウムからなる反射層24、酸化チタン、酸化タンタル或は酸化ジルコニウムからなる第2保護層26および酸化アルミニウムからなる第3保護層27には引張応力が残留し、二酸化ケイ素からなる第1保護層25には圧縮応力が残留する。したがって、従来の表面反射鏡21では、反射膜構造全体が樹脂基板22に引張応力を及ぼしているのであり、この表面反射鏡21は、高温高湿雰囲気下に放置することによって、基板22の熱膨張あるいは吸湿膨張によって容易に反射膜構造方向に凹状に湾曲することとなる。本発明は、このような現象を把握した上でなされたものであり、高温高湿雰囲気下においても樹脂基板と反射膜構造との間に点状欠陥が発生することがない表面反射鏡を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】このような目的を達成するために、本発明に係る表面反射鏡は、樹脂基板の表面上に形成された二酸化ケイ素からなる下地層と、前記下地層上に形成されたアルミニウムからなる反射層と、前記反射層上に形成された二酸化ケイ素からなる第1保護層と、前記第1保護層上に形成され、酸化チタン、酸化タンタルおよび酸化ジルコニウムから選択される少なくとも一種の材料からなる第2保護層と、前記第2保護層上に形成された酸化アルミニウムからなる第3保護層とを有することを特徴とする。
【0009】本発明では、下地層の材料として、二酸化クロムの代わりに、二酸化ケイ素を用いている。この二酸化ケイ素からなる下地層は、樹脂基板に圧縮応力を発生するのであり、かつ光学反射鏡の光学特性に影響を与えることなく膜厚を変更することができる。このような本発明の表面反射鏡では、その光学特性を考慮することなく下地層の膜厚を自在に調節することによって、反射膜構造全体が基板に及ぼす引張応力を低減し、あるいは圧縮応力に変化させることができ、したがって、高温高湿雰囲気下でも基板の膨張による影響が緩和されて湾曲し難く、樹脂基板と反射膜構造との間に点状欠陥が発生することがない表面反射鏡を提供することができる。
【0010】
【実施例】以下、本発明の好ましい一態様を、図1を参照して具体的に説明する。図1は、本発明に係る表面反射鏡の一実施例を示す側面図であり、図示されるように、本実施例の表面反射鏡1は、樹脂基板2の表面上に形成された下地層3と、前記下地層3上に形成された反射層4と、前記反射層4上に形成された第1保護層5と、前記第1保護層5上に形成された第2保護層6と、前記第2保護層6上に形成された第3保護層7とを有している。
【0011】このような表面反射鏡1の樹脂基板2の材料としては、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ABS樹脂等の樹脂材料が特に制限されることなく用いられる。下地層3は、二酸化ケイ素からなり、樹脂基板2と反射層4との付着性を向上させるとともに、成膜した場合の圧縮応力によって、樹脂基板2の熱膨張あるいは吸湿膨張の影響を緩和する。このような下地層3の膜厚は、選択される樹脂基板2の熱膨張率および吸湿膨張率、反射膜3および保護層4〜6が基板2に及ぼす引張応力等に起因する表面反射鏡1を湾曲させようとする力に応じて適宜選択されるが、通常50〜350nm、好ましくは50〜300nmである。反射層4は、アルミニウムからなり、その膜厚は、通常50〜250nm、好ましくは100〜200nmである。膜厚が50nm未満であると、表面反射鏡1がハーフミラー化するため好ましくない。
【0012】第1保護層5は、二酸化ケイ素からなり、可視域での反射増加効果を発揮するための低屈折率層として作用し、その膜厚は、通常42〜133nm、好ましくは、70〜105nmである。第2保護層6は、酸化チタン、酸化タンタルおよび酸化ジルコニウムから選択される少なくとも一種の材料からなり、可視域での反射増加効果を発揮するための高屈折率層として作用し、その膜厚は、通常24〜89nm、好ましくは45〜70nmである。また、第3保護層7は、酸化アルミニウムからなり、耐久性の劣る第2保護層6を保護するために形成され、その膜厚は、通常10〜110nm、好ましくは10〜80nmである。膜厚が10nm未満であると、十分な耐久性を得ることができず、110nmを越えると、第1および第2保護層5,6の組合せによる反射増加効果を損なうため好ましくない。
【0013】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係る表面反射鏡によれば、最も外側の第3保護層として酸化アルミニウムを用いているため耐擦傷性に優れているばかりでなく、二酸化ケイ素からなる下地層を用いているため、高温高湿雰囲気下に放置した場合に樹脂基板と膜構造との間に発生する点状欠陥を有効に防止でき、したがってカメラ、望遠鏡、顕微鏡、レーザプリンタ、バーコードリーダなどに好適に使用できる表面反射鏡を提供することが可能である。以下、本発明に係る表面反射鏡を製造実施例によって更に具体的に説明するが、本発明は、これらの製造実施例によって限定して解釈されるものではない。
【0014】
【製造実施例1〜3】真空蒸着法によって、図1に示すように、ポリカーボネート樹脂からなる厚さ2mmの基板2上に、膜厚50nm(製造実施例1)、200nm(製造実施例2)または350nm(製造実施例3)の二酸化ケイ素からなる下地層3と、膜厚100nmのアルミニウムからなる反射層4と、膜厚52nmの二酸化ケイ素からなる第1保護層5と、膜厚33nmの酸化チタンからなる第2保護層6と、膜厚45nmの酸化アルミニウムからなる第3保護層7とを形成して表面反射鏡1を製造した。
【0015】
【製造実施例4〜6】真空蒸着法によって、図1に示すように、ポリカーボネート樹脂からなる厚さ2mmの基板2上に、膜厚50nm(製造実施例4)、200nm(製造実施例5)または350nm(製造実施例6)の二酸化ケイ素からなる下地層3と、膜厚100nmのアルミニウムからなる反射層4と、膜厚52nmの二酸化ケイ素からなる第1保護層5と、膜厚36nmの酸化タンタルからなる第2保護層6と、膜厚45nmの酸化アルミニウムからなる第3保護層7とを形成して表面反射鏡1を製造した。
【0016】
【製造実施例7〜9】真空蒸着法によって、図1に示すように、ポリカーボネート樹脂からなる厚さ2mmの基板2上に、膜厚50nm(製造実施例7)、200nm(製造実施例8)または350nm(製造実施例9)の二酸化ケイ素からなる下地層3と、膜厚100nmのアルミニウムからなる反射層4と、膜厚52nmの二酸化ケイ素からなる第1保護層5と、膜厚40nmの酸化ジルコニウムからなる第2保護層6と、膜厚45nmの酸化アルミニウムからなる第3保護層7とを形成して表面反射鏡1を製造した。
【0017】
【製造比較例1】真空蒸着法によって、図2に示すように、ポリカーボネート樹脂からなる厚さ2mmの基板12上に、膜厚100nmのアルミニウムからなる反射層13と、膜厚52nmの二酸化ケイ素からなる第1保護層14と、膜厚33nmの酸化チタンからなる第2保護層15と、膜厚45nmの酸化アルミニウムからなる第3保護層16とを形成して表面反射鏡11を製造した。
【0018】
【製造比較例2】真空蒸着法によって、図3に示すように、ポリカーボネート樹脂からなる厚さ2mmの基板22上に、膜厚15nmの酸化クロムからなる下地層23と、膜厚100nmのアルミニウムからなる反射層24と、膜厚52nmの二酸化ケイ素からなる第1保護層25と、膜厚33nmの酸化チタンからなる第2保護層26と、膜厚45nmの酸化アルミニウムからなる第3保護層27とを形成して表面反射鏡21を製造した。
【0019】
【製造比較例3〜5】真空蒸着法によって、図8に示すように、ポリカーボネート樹脂からなる厚さ2mmの基板42上に、膜厚200nmの二酸化ケイ素からなる下地層43と、膜厚100nmのアルミニウムからなる反射層44と、膜厚95nmの二酸化ケイ素からなる第1保護層45と、膜厚65nmの酸化チタン(製造比較例3)、酸化タンタル(製造比較例4)または酸化ジルコニウム(製造比較例5)からなる第2保護層46とを形成して表面反射鏡41を製造した。上記製造実施例1〜9と、製造比較例1〜5の表面反射鏡について以下の試験を実施した。
【0020】A)耐擦傷試験エーテルとメタノールの混合溶剤を浸したシルボン紙を用い、約0.5kg/cm2 の圧力で表面反射鏡表面を20往復こすり、傷等の異常がないか観察した。
B)膜付着試験セロハンテープを表面反射鏡に貼着した後、強く引き剥して表面反射鏡表面に剥離等の異常がないか観察した。
C)耐湿試験温度60℃、湿度90%RHの高温槽内に、48時間放置して表面反射鏡表面にクラックや点状欠陥等の異常がないか観察した。上記試験A)〜C)の結果を、表1に示した。なお、表中○は異常が認められなかったことを示す。
【0021】
【表1】


【図面の簡単な説明】
【図1】実施例に係る表面反射鏡の一実施例を示す側面図である。
【図2】従来の表面反射鏡の反射層構造を示す側面図である。
【図3】従来の表面反射鏡の他の反射層構造を示す側面図である。
【図4】表面反射鏡の平常状態を示す側面図である。
【図5】表面反射鏡の高温高湿雰囲気下での湾曲状態を示す側面図である。
【図6】表面反射鏡の引張応力の説明図である。
【図7】表面反射鏡の圧縮応力の説明図である。
【図8】比較例3〜5で製造された表面反射鏡の反射層構造を示す側面図である。
【符号の説明】
1 表面反射鏡
2 樹脂基板
3 下地層
4 反射層
5 第1保護層
6 第2保護層
7 第3保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 樹脂基板の表面上に形成された二酸化ケイ素からなる下地層と、前記下地層上に形成されたアルミニウムからなる反射層と、前記反射層上に形成された二酸化ケイ素からなる第1保護層と、前記第1保護層上に形成され、酸化チタン、酸化タンタルおよび酸化ジルコニウムから選択される少なくとも一種の材料からなる第2保護層と、前記第2保護層上に形成された酸化アルミニウムからなる第3保護層と、を有することを特徴とする表面反射鏡。
【請求項2】 前記下地層の膜厚が50〜350nmであり、前記反射層の膜厚が50〜250nmであり、前記第1保護層の膜厚が42〜133nmであり、前記第2保護層の膜厚が24〜89nmであり、前記第3保護層の膜厚が10〜110nmであることを特徴とする請求項1記載の表面反射鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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