説明

表面改質無機顔料、着色表面改質無機顔料、記録媒体、及びこれらの製造方法、並びに画像形成方法、記録画像

【課題】優れた染着効果を得ることができ、耐ガス性に優れた無機顔料及び記録媒体を提供する。
【解決手段】本発明の表面処理無機顔料は、酸機能を有する無機顔料と、前記酸機能を有する無機顔料の表面に化学結合していない状態で接触している、少なくとも2価以上の金属とアニオン成分とにより形成された非晶質体とを有し、酸機能を示さない。本発明の記録媒体は、基材上に形成された色材受容層が、本発明の表面処理無機顔料を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面の活性能を改質した無機顔料、及び表面改質無機顔料の製造方法に関する。また、インクジェット記録方式、オフセット印刷方式、昇華型熱転写方式等の各種情報画像記録分野に応用可能な表面改質無機顔料を用いた記録媒体、該記録媒体の製造方法、該記録媒体を用いた画像形成方法、及び記録画像に関する。
【0002】
さらに詳しくは、酸機能を有する無機顔料の表面活性能を変化させ、有機化合物の分解能に優れた酸機能を実質的に示さないようにした表面改質無機顔料、及びその製造方法に関する。さらに、前記表面改質無機顔料を記録媒体の色材受容層に用いることで、インクジェット記録方式、オフセット印刷方式、昇華型熱転写方式等で着色した際、着色剤の堅牢性を良好にする記録媒体及び該記録媒体の製造方法に関する。そして、該記録媒体を用いた画像形成方法、及び記録画像に関する。
【背景技術】
【0003】
特に近年、市場に多く普及しているインクジェット記録においては、銀塩写真と同等以上の発色性、及び画像堅牢性を目的として、記録媒体において多くの技術的アプローチ、及び提案が開示されている。その中で、記録画像の堅牢性を向上させる目的で、インク受容層中にインク受容材の他に金属イオンや金属塩を共存させる提案が数多くある。
【0004】
例えば、金属イオンや金属塩が溶解した液媒体をインク受容層上からオーバーコートして得られる記録媒体の提案は、特許文献1から特許文献6がある。特許文献1では、記録画像の耐水性を向上する目的で、記録媒体の記録面上に、後から金属の水溶性塩溶液を塗布した被記録紙が開示されている。特許文献2では、記録媒体の記録面上に、染料とレーキを形成する耐水化剤を後塗布している記録紙が開示されている。特許文献3では、記録画像の耐水性を向上する目的で、記録媒体の顔料を有するインク受容層上に、後からインク受容層の改良剤として2価以上のイオン価数を有する金属の水溶性塩化合物を塗布した記録媒体が開示されている。特許文献4では、記録画像の色再現性、高い色濃度を目的として、アルミナ水和物含有層を有する記録媒体のアルミナ水和物含有層上に、後から2価金属イオン溶液を塗布した記録用シートが開示されている。特許文献5では、記録画像のブリードやマイグレーションを抑制する目的で、アルミナ水和物含有インク受容層を有する記録媒体のインク受容層上に、後から染料分子と錯体を形成する遷移金属塩溶液を塗布したインクジェット記録媒体が開示されている。特許文献6では、記録画像品位と耐洗濯性の向上を目的として、シリカを含むインク受容層を有する記録媒体の受容層上に、後から有機金属多価金属塩溶液を塗布したインクジェット記録媒体が開示されている。
【0005】
特許文献7から特許文献12には、塗工液中に分散した無機顔料と溶解した金属塩化合物を併有する塗工液を支持体上に塗布したインク受容層を用いた記録媒体の提案がある。特許文献7では、耐色材変退色性向上を目的で、合成シリカと2価金属の弱酸塩あるいは酸化物化合物とを含んだインクジェット記録用シートが開示されている。特許文献8では、触媒及びセラミックス用担体として用いられていた多孔質酸化アルミニウムと原子番号57から71をもつ周期系の希土類金属系列元素を有する化合物の混合物をインク受容層中に含有したインクジェット記録媒体が開示されている。特許文献9では、多孔性無機顔料と硫酸マグネシウム及び又はその複塩を含んだ塗工液を塗布したインクジェット記録媒体が開示されている。特許文献10では、多孔性無機顔料と難溶性マグネシウムを含んだインクジェット記録媒体が開示されている。特許文献11では、多孔性無機顔料と水溶性アルミニウム塩を含んだインクジェット記録媒体が開示されている。特許文献12では、耐光性、耐水性、色濃度の向上を目的で、インク受容層中に、多孔質無機顔料と、酸化マグネシウムや炭酸マグネシウム化合物などの難溶性マグネシウム化合物を併有させたインクジェット記録媒体が開示されている。
【0006】
また、ある特定のカチオン化処理された無機顔料、及びそれを用いたインクジェット記録媒体が知られている。具体的には、特許文献13では、耐水性及び耐光性の向上を目的として、金属の金属石鹸、水酸化物、塩又は酸化物により表面処理されたシリカを含有する被記録材が開示されている。本文献は、シリカの表面処理法としてシリカ合成時の90℃の加熱条件下での20分間の熟成と、表面処理のための金属化合物の添加タイミングのみを開示している。特許文献14では、記録画像の保存性向上を目的として、アルミニウム化合物又は珪素化合物で90℃加熱により表面処理されたマグネシウム含有無機顔料を含有するインクジェット記録媒体が開示されている。特許文献15では、記録画像の保存性向上を目的として、シランカップリング部位を有する有機カチオンポリマーや、金属酸化物で表面をカチオン化処理された顔料を用いる被記録材が開示されている。特許文献16では、耐光性の向上を目的として、90℃で20分間加熱することによりカルシウムやマグネシウム、バリウムで表面処理したシリカを用いたインクジェット記録シートが開示されている。
【0007】
また、特許文献17では、粒子特性変性剤の表面を金属イオン活性化処理して、前記表面上に反応性金属部位を形成する手法が開示されている。特許文献18では、水溶性酸溶液及び/又は水性中性溶液に部分的に溶解する未処理触媒担体の水酸基に、金属原子が酸素原子を介してアルキル基又はアシル基を有する改質成分を用いて、未処理触媒表面を金属で化学的結合させて改質する方法が開示されている。
【特許文献1】特開昭55−53591号公報
【特許文献2】特開昭55−150396号公報
【特許文献3】特開昭59−96988号公報
【特許文献4】特開平4−323075号公報
【特許文献5】特開平8−112964号公報
【特許文献6】特表2003−514699号公報
【特許文献7】特開昭58−94491号公報
【特許文献8】特開平10−329404号公報
【特許文献9】特開昭61−43593号公報
【特許文献10】特開昭61−57380号公報
【特許文献11】特開昭61−57379号公報
【特許文献12】特開昭61−63477号公報
【特許文献13】特開昭63−166586号公報
【特許文献14】特開平3−218887号公報
【特許文献15】特開平1−258980号公報
【特許文献16】特開平1−259982号公報
【特許文献17】特開平6−220251号公報
【特許文献18】特表2004−504136号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、従来の技術水準について検討したところ、堅牢性全般についていずれも十分な効果を得ることができなかった。そこで、上記特許文献に開示されている技術について詳細に検討した。
【0009】
まず、上述した特許文献1から特許文献6に示された、インク受容層上に、この受容層を構成する無機顔料と「共存」状態になるように、記録媒体上から金属塩化合物を含有した溶液をオーバーコートして得られた記録媒体について検討した。この場合、溶液中に溶解した金属塩は、インク受容層表面にとどまらず、溶液と供にインク受容層内に浸透することが分かった。また、耐水性の向上には、色材と錯体を形成し易くするために、濃厚な金属塩溶液をオーバーコートする必要があることも分かった。インク受容層成分をXRD、XPSを用いてインク受容層成分を調べた処、XRDでは、耐水性効果は、金属塩由来の結晶の有無に関係があることが分かった。また、XPS測定では、耐水性効果によらず、無機顔料及び金属塩の金属の電位移動が確認できなかった。即ち、耐水性向上のためには、無機顔料と金属塩が独立して存在し、且つ金属塩が結晶で存在している必要があることが分かった。しかし、耐水性を向上させた場合でも耐光性向上や耐オゾン性向上については十分な効果は認められなかった。
【0010】
次に、特許文献7から特許文献12に示された、塗工液中に、分散した無機顔料と溶解した金属塩化合物を併有する塗工液を支持体上に塗布して得られたインク受容層を用いた記録媒体について検討した。この系も、上記金属塩溶液をオーバーコートした場合と同様に、耐水性効果を得るには、金属塩由来の結晶を存在させる必要があった。さらに、XRD及びXPS測定を行った処、耐水性向上のためには、無機顔料と金属塩が独立して存在し、且つ金属塩が結晶で存在する必要があった。また、耐オゾン性や耐光性については、金属塩溶液をオーバーコートした場合と同様に向上効果を確認できるまでは至らなかった。
【0011】
また、上述した特許文献13に示された、インク受容層中に、この受容層を構成する無機顔料表面にn価の金属イオンを有する記録媒体について検討した。これら「共存」型は、無機顔料とn価の金属イオンとの混合体を室温乃至100℃程度の水分乾燥後にシート化されるものであった。この受容層中に含有されて共存状態にあるn価の金属イオンは、受容層中で無機顔料とは独立してフリーな状態にある。そのため、アニオンとしての色材が水或は溶剤と共に受容層に付与されると、共に流れてしまい、染着効果は低下してしまうことが判明した。ここでフリーな状態のn価の金属イオン自体に、耐ガス、耐光性を向上する機能は、もとより存在していない。
【0012】
さらに、上述した従来のある特定のカチオン化処理された無機顔料、及びそれを用いたインクジェット記録媒体について検討した。シリカ表面の活性サイトの不活性化を目的として、金属化合物を用いた特許文献13、特許文献14、特許文献16は、見かけ上吸着しているかのようである。しかし、実態はカチオン性物質が表面に存在しているだけであり、XPS測定によれば、用いられた金属及び向き顔料表面にある酸素の電位移動が確認できなかった。また無機顔料表面の酸基強度を測定すると、酸基が存在しており、酸点は不活性化していなかった。これらをXRD測定すると、無機顔料表面に結晶状態で存在していることが確認でき、結晶化した金属化合物と色材の相互作用によるものと予想された。特許文献15はシランカップリング剤のように水酸基の水素に対して有機物の長鎖スペーサー基を介して、有機カチオン性部位を付加するものであった。これらはいずれも、分子が無機顔料の自由体積中を運動できる構成であるために、周囲の水分によって受容層中での存在分布(存在位置)が変化し、目的とする効果を確実かつ安定に得ることができないことが判明した。これは、上記無機顔料や記録媒体を水にさらした後では、さらに染着効果が激減していることから理解できた。
【0013】
さらに、金属イオンで表面処理された無機顔料、及びそれを用いたインクジェット記録媒体について検討した。特許文献17は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、バリウムイオンで微粒子シリカ表面の活性部位を保護するものである。また、特許文献18は、Me(OR)X(Meは金属、Rはアルキル基、アシル基、Xは1から5の整数)を用いて、酸・塩基の特性によらない未処理触媒担体(顔料)表面の酸点や塩基点を該金属Meと反応させるものであった。酸・塩基の特性によらない未処理触媒担体としては、アルミナ、マグネシア、チタニア、酸化亜鉛等が用いられている。しかしながら、これらの方法では、未処理触媒担体の水酸基にMeは反応し改質することはできるが、改質に用いたMeが新たな活性点になってしまい、色材等の有機物を分解してしまうことが分かった。
【0014】
依って、本発明は、従来の技術水準に対して格段に優れた染着効果を得ることができ、耐ガス性に優れた無機顔料及び記録媒体を提供するための技術課題を解決した発明で、新たな観点から追及し、提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は上記課題を解決するものである。
【0016】
本発明の第1発明は、酸機能を有する無機顔料と、前記酸機能を有する無機顔料の表面に化学結合していない状態で接触している、少なくとも2価以上の金属とアニオン成分とにより形成された非晶質体とを有し、酸機能を示さないことを特徴とする表面改質無機顔料である。
【0017】
本発明の第2発明は、本発明の第1発明である表面改質無機顔料の製造方法であって、酸機能を有する無機顔料に2価以上の金属塩水和物を付着させる工程と、付着した2価以上の金属塩水和物を非晶質状態で存在させる工程とを有することを特徴とする表面改質無機顔料の製造方法である。
【0018】
本発明の第3発明は、本発明の第1発明である表面改質無機顔料が、さらに着色剤で着色されていることを特徴とする着色表面改質無機顔料である。
【0019】
本発明の第4発明は、本発明の第1発明である表面改質無機顔料のうち、前記非晶質体が、2価以上の金属と、アニオン成分と、水分子とにより形成された非晶質体である表面改質無機顔料が、さらに着色剤で着色されている着色表面改質無機顔料の製造方法であって、前記表面改質無機顔料に対して着色剤含有溶液を付与する工程と、着色剤含有溶液が付与された表面改質無機顔料を、前記表面改質無機顔料が含有する非晶質体が結晶に転移しない熱エネルギーで乾燥する工程を有することを特徴とする着色表面改質無機顔料の製造方法である。
【0020】
本発明の第5発明は、基材上に形成された色材受容層に無機顔料を含有する記録媒体において、前記無機顔料が、本発明の第1発明である表面改質無機顔料であることを特徴とする記録媒体である。
【0021】
本発明の第6発明は、基材上に形成された色材受容層が本発明の第1発明である表面改質無機顔料を含有する記録媒体の製造方法であって、基材上に、前記表面改質無機顔料を含有する色材受容層を形成する工程と、前記色材受容層中に存在する前記表面改質無機顔料が含有する非晶質体が結晶に転移しない熱エネルギーで色材受容層を乾燥する工程とを有することを特徴とする記録媒体の製造方法である。
【0022】
本発明の第7発明は、基材上に本発明の第1発明である表面改質無機顔料を含有する色材受容層を形成している記録媒体に、記録用の液体を付与することにより画像を形成することを特徴とする画像形成方法である。
【0023】
本発明の第8発明は、基材上に形成された色材受容層が本発明の第1発明である表面改質無機顔料を含有する記録媒体に、着色剤で画像が形成されていることを特徴とする記録画像である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の第1発明は、無機顔料の酸点を上記非晶体により無機能化しているので、酸点の影響をなくし、付着物を適正に集合せしめることができる。例えば、付着物が染料の場合、染料の密着性が良くなり、集合体である結晶も適正化される。本発明の第2発明は本発明第1発明を安定して製造できる方法である。
【0025】
本発明の第3発明は、本発明の第1発明に加えて着色剤で着色されている表面改質無機顔料であるので、着色剤を従来に比較して格段に優れた付着状態を形成できる。特に着色剤が染料の場合、染料の密着性が良くなる。又その集合体である結晶も適正化され、染料の分解能に影響を及ぼす酸機能性を実質的に示さない。したがって、染料の良好な発色性と堅牢性を得ることができる。本発明の第4発明は本発明第の3発明を安定して製造できる方法である。
【0026】
本発明の第5発明は、基材上に形成された色材受容層に、本発明の第1発明である表面改質無機顔料を用いた記録媒体であり、堅牢性の優れた記録媒体を得ることができる。
【0027】
本発明の第6発明は、本発明の記録媒体の製造方法であり、本発明の製造方法において、本発明の記録媒体を製造することができる。
【0028】
本発明の第7発明は、基材上に本発明の第1発明である表面改質無機顔料を含有する色材受容層を形成している記録媒体に、記録用の液体を付与する画像形成方法である。
【0029】
本発明の第8発明は、基材上に形成された色材受容層が本発明の第1発明である表面改質無機顔料を含有する記録媒体に、着色剤で画像が形成されていることを特徴とする記録画像である。両者とも、記録画像において、堅牢性の優れた記録画像を得ることができる。
【0030】
具体的には、本発明の表面改質無機顔料を、有機化合物吸着用材料として用いることで、吸着有機化合物の良好な耐ガス性を付与することができる。また、本発明の表面改質無機顔料を、有機物の表面等に存在させて、有機物保護の目的で使用すると、有機物の良好な堅牢性を得ることもできる。さらに、酸機能を有する無機顔料として二元機能無機顔料を用いることで、二元機能無機顔料が有する極性作用によって極性を有する有機化合物(例えば色材)をより強く吸着させることもできる。そして、耐ガス性及び耐光性に加えて、耐水性や良好な発色性を得ることができる。ここで、二元機能無機顔料とは、無機顔料表面に酸点と塩基点の両方の活性点を有するものを示す。本発明では、耐堅牢性を低下させる原因の一つの、無機顔料の表層及び内部に存在する水分子を包摂乃至捕捉することで、前述した課題を達成するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に、本発明を詳しく説明する。
【0032】
本発明者らは、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料を色材の受容材として用いられた記録媒体上に記録された色材のガス劣化度合いが、市販のコピー用紙等の普通紙に記録された色材のガス劣化性より格段に劣ることに注目した。そして、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料の表面特性について多方面から検討した。その結果、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料は、セルロース等の普通紙の受容材と異なり、表面に活性点を有することに着眼した。そこで、数多くの無機顔料に色材を染着させ、ガス劣化試験を行ったところ、活性点の中でも、酸点の有無がガス劣化性に大きな影響を与えていることを突き止めた。さらに、酸点を有している無機顔料においても、染料を染着した無機顔料のガス劣化試験の高湿環境が、ガス劣化性に大きな影響を与えることを突き止めた。そこで、酸点を有している無機顔料が、酸点に水分子を付着する特性に着目し、無機顔料に色材を染着させた後、結晶構造が壊れない範囲で温度をかけ、付着水分子量を変化させたものにオゾンガスを照射して色材の退色劣化度合いの検討を行った。そして、付着水が少なくなると、色材の退色割合が減少する結果を得た。
【0033】
そこで、本発明者らは、無機顔料に染着した色材のガス劣化について、以下に述べる推論を立てた。まず、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面の酸点に存在する付着水分子が、大気中に存在するオゾン等のガスの酸化作用によりヒドロキシラジカルを生成させる。そして、このラジカルの強い酸化作用をアルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面に存在する色材が受けることで、色材劣化が生じる。そして、前記推論より、色材の分解抑制のために、オゾンガス等の作用で、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料の表面や結晶層間に存在する付着水分子や結晶水分子の活性酸素やヒドロキシラジカルへの変化抑制法について鋭意検討を行った。
【0034】
まず、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料の表面や結晶層間に存在する付着水分子や結晶水分子を加熱等の手段で除去する方法を考えた。しかし、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面に付着している水分子を除去するためにアルミナ水和物やシリカ等の無機顔料を加熱すると、付着水は除去できてもアルミナ水和物やシリカ等の無機顔料結晶構造が変化する問題が生じた。また、加熱により酸点が活性化してしまう問題が生じた。また、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料結晶構造が変化しない加熱温度で付着水を除去できたとしても、得られたアルミナ水和物やシリカ等の無機顔料を大気中に放置しておくと、大気中の水分が再付着してしまうという問題が生じた。又は、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料を着色する目的で色材溶液を用いて染着すると、その色材溶液中に含有される水分子が再付着してしまうという問題が生じた。
【0035】
そこで本発明者らは、無機顔料表面の酸点に吸着している水分子を除去するのではなく、無機顔料表面の酸点に吸着している水分子とオゾンガスの相互作用によるラジカル発生反応をいかに抑えるかがポイントと考えた。すなわち、インクジェット記録等の写真印刷用記録媒体の色材受容材として用いられ、高い発色性を示すアルミナ水和物やシリカ等の無機顔料に吸着した色材の耐ガス性向上のために、無機顔料表面の反応点を遮蔽させる手段を鋭意検討した。具体的には、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面の付着水を包摂乃至捕捉し得る化合物をアルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面に存在させることを検討した。
【0036】
その結果、アルミナ水和物やシリカ等の酸機能を有する無機顔料の表面に、少なくとも2価以上の金属とアニオン成分とで非晶質体を形成する方法を見出した。そして、無機顔料と非晶質体とを互いに化学結合していない状態で接触させ、酸機能を示さない表面改質無機顔料とすることにより、耐ガス性が向上することを見出し、本発明の完成に至った。
【0037】
なお、本発明におけるアルミナ水和物やシリカ等の無機顔料の表面とは、無機顔料の表面の他、多孔質化した無機顔料の空孔の内壁面も含むものである。
【0038】
本発明において、少なくとも2価以上の金属とアニオン成分とで形成された非晶質体とは、規則的な層間隔を有する結晶とは異なり、複数の層間隔、格子間距離を有した金属塩の集合体を指す。この集合体をX線回折(XRD)で観察すると、金属塩化合物に起因する明確なピークが存在せず、2価以上の金属とアニオン成分との組み合わせに由来するブロードな2θピークを観察することができる。特に本発明では、2θに対する回折強度のX線回折チャートの非晶質体に起因するブロードなピークの半価幅が、2°以上であることが好ましい。
【0039】
例えば、図1に、無機顔料としてベーマイト、2価以上の金属とアニオン成分との組み合わせとして酢酸マグネシウム水和物を用いた場合のX線回折測定結果の一例を示す。図1中で、2θが5°近辺から10°近辺の間に酢酸マグネシウム水和物由来の非晶質体を示すブロードなピーク(破線で囲まれた部分)が示されている。また、このサンプルを高い温度で焼成すると、ブロードなピークがシャープなピークに変化するため、このシャープなピークを解析することでブロードなピークが何に由来したものであるかを確認することができる。例えば、図1に示すチャートが得られたサンプルを約250℃に加焼したサンプルのXRD測定を行うと、図2のようなチャートが得られる。そして、このチャートを解析することで、図1で見られたブロードなピークが、マグネシウムと酢酸イオンに由来することを確認できる。
【0040】
本発明において、無機顔料と非晶質体とは接触しているが、この接触は、化学結合による接触ではない。化学結合でない接触とは、無機顔料を構成する原子の電子が有する結合エネルギーの変化を伴わない状態を示すものを指す。無機顔料と非晶質体とが互いに化学結合していないことは、X線光電子分光測定(XPS測定)で表面改質前の無機顔料と表面改質無機顔料を比較することで判断することができる。すなわち、無機顔料と非晶質体とが互いに化学結合していない場合、表面改質前後で、無機顔料を構成している金属の2Pや酸素の1S等に起因するピークの位置やプロファイルの形に違いがなく、表面状態に違いがない。
【0041】
例えば、無機顔料にアルミナ水和物を用いた場合、アルミナ水和物単独のものと表面改質を行ったアルミナ水和物をXPS測定し、アルミナ水和物の2pや酸素Oの1sに起因するピークの位置やプロファイルの形を比較する。即ち、ピーク位置やプロファイルの形が表面改質の前後で違いがない場合には、2価以上の金属と該金属の塩を形成し得るアニオン成分の組み合わせに由来する非晶質体と結合していないと考えられる。一方、ピークの位置やプロファイルの形に変化があり、ピーク位置やプロファイルの形がシフトしている場合は、無機顔料と非晶質体が化学結合していると考えられる。
【0042】
具体例として、べーマイト単独とベーマイトに酢酸マグネシウム4水和物を用いて非晶質体を形成した場合の、表面改質の前後でのAl元素のAl2pやO1sに起因するピークの比較を示す。X線光電子分光法(XPS)で測定したAl元素のAl2pに起因するピーク比較を図9に示す。9−aはベーマイトに酢酸マグネシウム4水和物を用いて非晶質体を形成した場合、9−bはべーマイト単独である。X線光電子分光法(XPS)で測定したO元素のO1sに起因するピーク比較を図10に示す。10−aはベーマイトに酢酸マグネシウム4水和物を用いて非晶質体を形成した場合、10−bはべーマイト単独である。X線光電子分光法(XPS)で測定したC元素のC1sに起因するピーク比較を図11に示す。11−aはベーマイトに酢酸マグネシウム4水和物を用いて非晶質体を形成した場合、11−bはべーマイト単独である。図9、図10、及び図11において、各エネルギーのシフトが認められず、べーマイトと非晶質体間で化学結合を確認することができない。
【0043】
また、本発明において、無機顔料の酸機能を示さない状態とは、酸点の活性度合いが低い状態を示す。例えば、無機顔料の活性酸点に所望の化合物を反応させて、X線光電子分光法(XPS)で確認できるような化学結合を生じさせて、酸点の活性度を低下させた物を指す。また、本発明のように、X線光電子分光法(XPS)で確認できないレベルの無機顔料と非晶質体の付着により、無機顔料酸点が見かけ上なくなり、酸機能を失ったかのような特性を示すものを指す。
【0044】
酸点の活性度を測定する方法としては、具体的には、昇温脱離試験(TPD測定)等のガス吸着法による表面の酸点の活性度を測定する方法がある。例えば、アンモニアを用いた昇温脱離試験(TPD)の測定結果を図15と図16に示す。
【0045】
図15はアンモニアに由来する質量スペクトル(m/z=16)の測定データである。
図中のaは、ベーマイトのチャートであり、bは酢酸マグネシウム4水和物を付着したベーマイトである。t=約200℃弱でaとbに違いが見られる。t=約200℃弱のピークは、物理吸着したアンモニアを示すものと考えられる。本発明のbは物理吸着したアンモニアが確認できないことから、アンモニア分子の物理吸着の元になる化学吸着点である酸点(酸機能部)が低減したことを推測できる。これより、酢酸マグネシウム水和物を付着したベーマイトは、ベーマイト表面に付着した酢酸マグネシウム(水和物)により、ベーマイトの酸点が潰れて、ベーマイト表面の酸機能が低下したと考えられる。
【0046】
また、t=約400℃強で、aとb共にピークが観察された。しかし、このピークは、水に由来する質量スペクトル(m/z=18)の挙動を示す図16のピークと対応していることより、ベーマイトの結晶構造変化に伴う結晶水の脱離に因るものと考えられる。
【0047】
以上のように、本発明では、酸機能を有する無機顔料に対して所定の状態で非晶質体を存在させる。こうすることで、前記無機顔料表面等に存在する水分子、例えば酸機能を示す酸点に吸着している水分子を、非晶質体が自身の結晶水又は付着水等で表現される水分子として包摂乃至捕捉して取り込むことができる。また、非晶質体の状態で存在させることで自由度が高くなり、酸機能を有する無機顔料表面に存在する水分子を包摂乃至捕捉しやすくなる。結晶状態になると、水分子を包摂乃至捕捉し難くなる。
【0048】
これに対し、非晶質体でないもの(例えば結晶状態で存在している)、無機顔料と直接反応しているもの(例えば無機顔料表面で2価の金属が共有結合等している)、無機顔料表面と相互作用しない状態で分子若しくはイオンの状態存在するものは、好ましくない。例えば、特許文献17や18等に示した無機顔料表面の活性点に金属イオンが結合する場合が該当する。この場合、X線光電子分光測定機XPS測定を行うと、無機顔料を構成している金属の2Pや酸素の1S等に起因するピークの位置やプロファイルの形に違いが見られ、表面改質のよる表面形状変化を捕らえることができる。これは、無機顔料表面の活性点に金属イオンが結合する場合であるが、先にも述べたように結合した金属が新たな活性点になるため好ましくない。
【0049】
2価以上の金属とアニオン成分との組み合わせが結晶化した金属塩の場合は、上記と同様にXRD測定を行うと、金属塩結晶に由来のシャープな回折強度ピークが示される。具体的なXRD測定チャートを図3に示す。図3は酸機能を有する無機顔料であるべーマイトに非晶質体成分として酢酸マグネシウム4水和物を用いて、これを加熱しながらX線回折測定を行えるリガク社製のCuKαを用いたX線回折法(XRD)を用いて得られたデータである。横軸が2θを表し、2°から50°まで測定した。縦軸は強度を示すと共に各測定結果を測定温度順に表し、2θが2から50°の1回の測定で約6℃上昇する。図3より、温度が約40℃弱から約250℃の範囲で、2θが約5°から約10°の範囲に、マグネシウムと酢酸イオンの組み合わせに由来する非晶質体の存在を表すブロードなピーク(304)が確認できた。なお、温度が約40℃近辺から約140℃近辺の範囲では、酢酸マグネシウム1水和物の結晶の存在を示すピーク(301)と非晶質体を示すブロードなピーク(304)を確認できる。温度が約140℃近辺から約230℃近辺の範囲(302)では、非晶質体の存在を示すブロードなピーク(304)のみが確認できる。温度が約230℃から約250℃の範囲では、酢酸マグネシウム無水物の結晶の存在を示すピーク(303)と非晶質体を示すブロードなピーク(304)が確認できる。そして、約250℃以上で酢酸マグネシウム無水物の結晶の存在を示すピーク(303)のみを確認でき、約320℃以上で酢酸マグネシウム由来のピークはすべて消失する。
【0050】
以上より、本発明で規定する、好ましい2価以上の金属とアニオン成分との組み合わせの状態は、図3中の(304)のブロードなピークが見られる状態のものである。この中で特に好ましくは、ブロードなピーク(304)のみが見られる(302)の範囲における状態のものである。ブロードなピーク(304)の他に(301)や(303)のピークが共存すると、場合によっては非晶質体を形成するものが結晶を形成してしまい、本発明の非晶質体形成効果が十分に得にくくなる。故に、ブロードなピーク(304)のみが見られると、安定した効果が得られる。一方、好ましくない状態は、ブロードなピーク(304)が見られない状態である。
【0051】
また金属塩が結晶でも非晶質状態でもない分子若しくは金属イオン状態で存在している場合は、XRD測定を行うと、2θに対する回折強度ピークを観察することができない。即ち、この状態でのXRD測定チャートを図4に示すように、酸機能を有する無機顔料単独のX線回折測定チャートと同様の測定データが得られる。このような場合、酢酸マグネシウム4水和物は非晶質体でも結晶体でもない状態で存在している。なお、蛍光X線測定を行うと、金属イオンを測定することはできる。
【0052】
このように、酸機能を有する無機顔料の表面に、2価以上の金属とアニオン成分とにより非晶質体を形成することで、色材を攻撃する活性ラジカルの発生を抑制することができるために、耐オゾン性や耐光性を向上させることができると考えている。
【0053】
上記本発明のメカニズムを、図を用いて、以下にさらに詳しく説明する。
【0054】
本発明者らは、前記、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面に染着いた色材のガス劣化メカニズムを以下のように予測した。
【0055】
アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料は、表面に付着水が存在しない場合、例えばアルミナ水和物の状態を図5に示すように、ルイス酸点(501)及び塩基点(502)が存在している。しかしながら、大気中の水分や染色するための色材溶液等を付与すると、図5中のルイス酸点(501)に水分子が吸着して、図6に示すようにブレンステッド酸点(601)に変化する。このブレンステッド酸点に吸着している水分子がオゾン等のガスの影響を受けると、オゾンと付着水との相互作用によりラジラルが発生する。そして、該ラジカルがアルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面に染着している色材に対し、強い酸化作用を行い、色材が分解、即ち色材劣化が生じると予想した。
【0056】
上記仮説は、実験でも確認されており、色材劣化の速度は、アルミナ水和物表面の付着水量と相関的関係があることが検証されている。表1に染料を染着させたアルミナ水和物のオゾン暴露による染料劣化実験の結果を示す。実験方法は、加熱処理温度条件を変えて付着水量を変化させたアルミナ水和物に、C.I.Direct BLue 199色材を染着させ、オゾン濃度が10ppmの容器内に4時間放置して前記色材を劣化させた。そして、UV−visスペクトル測定を用いて、該色材のQバンド帯の610nmと670nmでのUV−visスペクトル強度残存率を表したものである。表1より、加熱温度を高くすることで、610nm、及び670nm共に、スペクトル強度残存率が高くなることが分かる。また、加熱温度と前記アルミナ水和物の結晶水乃至付着水量の関係は、アルミナ水和物のTG−MASS測定により確認することができる。図7は、アルミナ水和物のTG−MASS測定を用いて、アルミナ水和物が有する水分子(7−a)と酸素分子(7−b)の量を加熱温度を変化させて測定した結果である。横軸は、加熱温度、縦軸は量を表す。アルミナ水和物の加熱処理温度を常温から約450℃に上げていくと、アルミナ水和物が有する結晶水乃至付着水を表す(7−a)の蒸発量が多くなっていくことが分かる。即ち、常温から450℃の範囲では、加熱温度を高くしていくと、アルミナ水和物が有する結晶水乃至付着水等の水分子量が少なくなることとが分かる。
【0057】
【表1】

【0058】
そこで、本発明者らは、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料が有する結晶水乃至付着水をオゾンガスの酸化作用から保護するについて各種検討を行った。その結果、水分子は、結晶よりも非晶質体の構造体に取り込まれると、外的要因、例えば、熱やガス、及び光等の作用による影響を受け難くなるという事実を突き止めた。その事実を元に、2価以上の金属とアニオン成分とで形成される非晶質体が存在する、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料を用いる技術手段にたどり着き、本発明を完成した。本発明の表面改質無機顔料は、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面上に存在する水分子が該非晶質体に包摂乃至捕捉により水分子が安定な状態で存在できるために、オゾンガスによる酸化作用から保護され、活性ラジカルが発生しないと考えている。
【0059】
図8は、本発明のメカニズムのイメージを示したものである。(8−1)は、表面改質をしていない無機顔料を用いた場合で、無機顔料(801)の表面に存在する酸点には、水分子(802)が付着乃至吸着している。この水分子(802)とオゾンガス(803)が作用する(R−A)と、ラジカル(804)が発生(R−B)し、該ラジカル(804)が有機物(805)にアタックして有機物(805)を分解(R−C)する。これに対し、(8−2)は、本発明の表面改質無機顔料を用いた場合である。無機顔料(801)の表面に存在する酸点には、水分子(802)が付着乃至吸着しているが、その水分子(802)を2価の金属とアニオン成分とで形成された非晶質体(806)が包摂乃至捕捉(R−D)により水和物(807)を形成する。このように、無機顔料(801)の表面に存在する水分子(802)を安定状態にするために、オゾンガス(803)が来ても作用しない(R−E)のでラジカル(804)は発生せず、有機物が分解されないと考えている。
【0060】
本発明に用いられる、酸機能を有する無機顔料とは、酸点を表面に有するものである。例えば、SiO2、ZnO、Al23、ZrO2、SnO、TiO2、SiO2−Al23、SiO2−TiO2、SiO2−MgO、ZrO2/nH2O、TiO2/nH2O、Al23/nH2O等が挙げられる。ここで、「酸機能」とは、活性な酸点を有するもので、ルイス酸点やブレンステッド酸点として表現される。無機顔料表面に酸機能を有する酸点が存在すると、色材等の有機化合物が、該酸点近傍に凝集や会合等の状態で集まり易くなる特性が見出されている。故に、色材等の有機化合物があたかも顔料のような状態で無機顔料に対して吸着するため、色材等の有機化合物の吸着性が向上しやすくなる。
【0061】
この中で、色材の吸着材として用いる場合は二元機能無機顔料を用いるのが好ましい。ここで、二元機能無機顔料とは、酸点と塩基点の両方を有する無機顔料である。例えば、Al23、Al23/nH2O、ZrO2、SiO2−MgO、TiO2等が挙げられる。塩基点を有することで、色材の吸着性が向上し、堅牢性が向上するばかりか、色材が孤立分子状態で吸着するため、色材の発色性を向上させる効果がある。
【0062】
表2に、本発明に使用される酸機能を有する無機顔料として、酸機能を有する酸点のみを有するシリカと、二元機能を有するアルミナ水和物(べーマイト)を用い、銅フタロシアニン染料を染着させた場合の比較結果を示す。なお、表中「Ini」は、オゾン暴露前の状態を示す。シリカの表面改質サンプルよりも二元機能を有するアルミナ水和物の表面改質サンプルの方が、オゾン暴露前の染着濃度が高く且つオゾン暴露後の残存染着濃度も高い。また、未表面改質のべーマイトとシリカを比較しても表面改質の場合と同様の結果であった。また、べーマイト、シリカ共に表面改質することで、オゾン暴露前の染着濃度及びオゾン暴露後の残存染着濃度が高いことも分かる。即ち、明らかに二元機能を有するアルミナ水和物の方が良好であることが分かる。
【0063】
【表2】

【0064】
上記二元機能無機顔料の中で特に好ましいのは、アルミナ水和物である。アルミナ水和物は、表面活性度が高いばかりでなく、微粒子化し易いために表面積が高くなり、色材等の有機化合物を吸着させる場合、高い吸着量を得ることができる。アルミナ水和物としては、水酸基を有しているものであれば、気相法や液相法で製造した製造条件の異なるもの、あるいは粉末状、コロイド状のような分散状態が異なるものの中でも、特に限定されることはない。
【0065】
アルミナ水和物は、下記一般式(X)により表すことができる。
【0066】
Al23-n(OH)2n・mH2O ・・・・(X)
上記式(X)中、nは0、1、2又は3のいずれかを表し、mは0〜10、好ましくは0〜5の範囲にある値を表す。但し、mとnは同時に0にはならない。mH2Oは、多くの場合、結晶格子の形成に関与しない脱離可能な水相を表すものであるため、mは整数又は整数でない値をとることができる。又、この種の材料を加熱するとmは0の値に達することがあり得る。
【0067】
アルミナ水和物の結晶構造としては、熱処理する温度に応じて非晶質、キブサイト型、擬ベーマイト型、ベーマイト型の水酸化アルミニウムから、γ、σ、η、θ、α型のアルミニウム酸化物に転移していくことが知られている。本発明においては、これらいずれの結晶構造のものも使用可能である。本発明において好適なアルミナ水和物としては、X線回折法による分析でベーマイト構造若しくは非晶質構造を有するアルミナ水和物である。例えば、擬ベーマイト構造であって、特に、特開平7−232473号公報、特開平8−132731号公報、特開平9−66664号公報、特開平9−76628号公報等に記載されているアルミナ水和物が挙げられる。
【0068】
アルミナ水和物は、製造過程において細孔物性の調整がなされる。例えば、アルミナ水和物を色材吸着材として固体形態又は固体形態を含有した色材受容層で用いた場合は、細孔容積が0.3〜1.0mL/gであるアルミナ水和物を用いることが好ましく、より好ましくは0.35〜0.9mL/gである。また、BET法で求められるBET比表面積については、50〜350m2/gであるアルミナ水和物を用いることが好ましく、より好ましくは100〜250m2/gである。前記BET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料のもつ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧、又は容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、TeLLerの式であってBET式と呼ばれ比表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積をかけて、比表面積が得られる。
【0069】
また、アルミナ水和物の形状としては、平板状で、平均アスペクト比が3〜10、平板面の縦横比0.6〜1.0であるものが好ましい。アスペクト比の定義は、特公平5−16015号公報に記載されている方法で求めることができる。アスペクト比とは、粒子の「厚さ」に対する「直径」の比で示されたものである。ここで「直径」とは、アルミナ水和物を顕微鏡又は電子顕微鏡で観察した時の粒子の投影面積と等しい面積を有する円の直径を示すものとする。上記平板面の縦横比は、アスペクト比と同様に、粒子を顕微鏡で観察して平板面の最小値を示す直径と最大値を示す直径の比である。平均アスペクト比が上記範囲を満たさないアルミナ水和物を使用した場合は、形成した色材受容層の細孔分布範囲が狭くなる恐れがある。又、上記範囲を超えるものを使用する場合は、アルミナ水和物の粒子径を揃えて製造するのが困難になる恐れがある。縦横比が上記範囲を満たさないものを使用する場合も、同様に色材受容層の細孔径分布が狭くなる。
【0070】
文献(Rocek J.,et aL.、AppLied CataLysis、74巻、p29〜36、1991年)にも記載されているように、アルミナ水和物の中には、繊毛状とそうでない形状のものがあることが一般に知られている。本発明者らの知見によれば、同じアルミナ水和物であっても、平板状のアルミナ水和物の方が、繊毛状のものよりも分散性がよい。又、繊毛状のアルミナ水和物の場合は、塗工時に下塗り層表面に対して平行に配向する傾向が見られ、形成される細孔が小さくなる場合があり、このために色材受容層のインク吸収性が小さくなることがある。これに対して、平板状のアルミナ水和物を用いた場合は、塗工により配向する傾向は小さく、このため形成される色材受容層の細孔の大きさや、インク吸収性への影響は少ない。
【0071】
次に、本発明に使用される好ましい2価以上の金属とアニオン成分について説明する。
【0072】
2価以上の金属としては、周期表内の2価以上の金属をすべて選択することができるが、好ましくは、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム)から選択される。アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面に存在する水分子と相互作用を有するためには、アルミナ水和物やシリカ等の無機顔料表面に存在する水分子中の酸素原子との結合状態を形成するのが好ましい。故に、酸素原子に対し電気陰性度の低い金属であるアルカリ土類金属が挙げられるためである。
【0073】
アニオン成分としては、2価以上の金属と塩を形成し得るアニオンであって、且つ結晶水又は付着水等で表現される水和物を形成するものが好ましい。水和物を形成しないと、アルミナ水和物粒子乃至多孔質アルミナ水和物の有する水分子を包摂乃至捕捉することできない場合があるためである。例えば、酢酸イオンやシュウ酸イオンなどの有機酸イオン;硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、ハロゲンイオン、水酸化イオンなどの無機酸イオンが好適に使用できる。この中で特に好ましくは有機酸イオンである。
【0074】
本発明の表面改質無機顔料が含有する非晶質体を構成する上記の2価以上の金属とアニオン成分とのモル比は、非晶質体が形成可能である限り任意である。通常は、化学量論比である。したがって、例えば、2価以上の金属とアニオン成分で形成される塩を原料として用いて非晶質体を形成することができる。
【0075】
本発明の表面改質無機顔料が含有する非晶質体は、少なくとも上記の2価以上の金属とアニオン成分とにより形成されたものであるが、さらに水分子を組み合わせて形成されたものであることが好ましい。水分子のモル比は、非晶質体が形成可能である限り任意である。したがって、例えば、2価以上の金属とアニオン成分で形成される塩の1乃至6水和物を原料として用いて非晶質体を形成することができる。
【0076】
本発明の表面改質無機顔料が含有する酸機能を有する無機顔料と非晶質体との質量比は、酸機能を示さない状態である限り任意である。
【0077】
本発明の表面改質無機顔料は、酸機能を有する無機顔料に2価以上の金属塩水和物を付着させる工程と、付着した2価以上の金属塩水和物を非晶質体で存在させる工程を有することを特徴とする方法により製造できる。
【0078】
酸機能を有する無機顔料に2価以上の金属塩水和物を付着させる方法としては、例えば、酸機能を有する無機顔料と2価以上の金属塩水和物とを、固体状態で混合する方法や、分散媒体中のスラリーの状態で攪拌器を用いて混合する方法が挙げられる。また、必要に応じて、各種の酸、アルカリ等のpH調整剤、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤等の分散安定化剤等を添加してもよい。混合した後、必要に応じて乾燥することもできる。乾燥は、スプレードライ装置を用いることが好ましい。
【0079】
付着した2価以上の金属塩水和物を非晶質体で存在させる方法は特に制限されないが、好ましくは、酸機能を有する無機顔料と2価以上の金属塩水和物とを混合した混合物を、2価以上の金属塩水和物が非晶質状態で存在する温度で焼成する方法が好ましい。
【0080】
混合物の焼成方法としては、炉を用いる方法やスプレードライ法等があるが、酸機能を有する無機顔料に2価以上の金属塩水和物の非晶質体を均一に近い状態に存在させるためには、スプレードライ法が好ましい。スプレードライの加熱温度即ち環境温度(気相温度)は、2価以上の金属塩水和物が結晶から非晶質体に変化する焼成温度、即ち使用する2価の金属塩水和物が非晶質状態で存在できる温度である。この加熱条件は、X線回折を用いて、加熱温度条件を変えた2価以上の金属塩水和物が、非晶質状態に変化している状態の焼成温度を調べることで決めることができる。例えば、環境温度を変えて作製した酸機能を有する無機顔料をXRD測定して、焼成温度を決めることができる。また、あらかじめ使用する2価の金属の塩水和物における温度と結晶状態との関係をXRDで調べ、2価の金属塩水和物が非晶質乃至無水塩結晶前駆体で存在できる温度で行う方が効率的である。
【0081】
2価以上の金属塩水和物を焼成し、好ましい非晶質状態に変化させる温度は、1水和物から無水物化する間の温度が好ましい。すなわち、付着した2価以上の金属塩水和物が1水和物から無水物に結晶転移する間に存在する非晶質状態になる温度領域の熱エネルギーを作用させて非晶質状態を形成することが好ましい。例えば、図3に示した(302)の範囲の温度領域である。
【0082】
図12に、酸機能を有する無機顔料がべーマイトで、2価以上の金属塩水和物として酢酸マグネシウム水和物を用いた場合で、スプレードライ装置を用いた乾燥後に、温度を変えて焼成した時のX線回折結果を示す。図12中で、(a)〜(c)は、それぞれ210℃、170℃、130℃の炉で2時間焼成したサンプルのチャートであり、(d)は未焼成のサンプルのチャートである。スプレードライ装置を用いて乾燥することで、未焼成でも、図3で示したような焼成温度が低い時に見られた(301)のシャープなピークが表れなかった。この方法によれば、本発明の表面改質無機顔料を製造する工程が簡略さされるばかりか、焼成を図3の場合に比べて低温側でブロードなピークを存在させることが可能になる。
【0083】
本発明の着色表面改質無機顔料は、前述の表面改質無機顔料の表面が着色剤で着色されている。この着色表面改質無機顔料は、着色剤を分解するためのラジカルを発生させにくいため、従来の酸機能を有する無機顔料に着色したものに比べ、格段に堅牢性が良好になる。
【0084】
着色剤としては、直接性染料、酸性染料、塩基性染料、バット染料、フタロシアニン等の金属錯体を含有した染料等の染料や各種顔料を用いることとができる。この中で、染料を用いた場合が本発明の効果を有効に得るばかりか、良好な発色を得ることができて好ましい。表面改質無機顔料に付与される着色剤の量は、表面改質無機顔料の表面積や表面改質性等により色材等の着色剤の着色状態が異なるため一概に言えない。例えば、多くても15質量%以下の範囲が好適で、より好適には10質量%以下であり、さらにに好適に10質量%以下である。着色剤の使用量を少なくする分には、着色濃度が薄くなるだけで、本発明の効果には何ら影響はない。
【0085】
上記着色表面改質無機顔料は、前述の表面改質無機顔料に対して着色剤含有溶液を付与する工程と、着色剤含有溶液が付与された表面改質無機顔料が含有する非晶質体が結晶に転移しない熱エネルギーで乾燥する工程を有する製造方法で製造することができる。
【0086】
着色剤含有溶液を調製するための溶媒としては、色材が溶解又は分散し、かつ、表面改質無機顔料が分散するものであれば良い。例えば、水を用いるのが好適である。着色剤含有溶液を表面改質無機顔料に対して付与する方法としては、着色剤含有溶液と表面改質無機顔料を混合する方法や、着色剤含有溶液をスプレー等で表面改質顔料に付与する方法などがある。乾燥する方法としては、対流、伝導、輻射熱などを用いることができる。乾燥温度は、前述のようなX線回折法による分析をあらかじめ行い、表面改質無機顔料が含有する非晶質体が結晶に転移しない温度領域から選択することができる。そして、着色剤含有溶液が付与された表面改質無機顔料に、上記の温度領域の熱エネルギーを与えることで乾燥すればよい。
【0087】
本発明の記録媒体は、基材上に形成された色材受容層に無機顔料を有している記録媒体であり、該無機顔料が、前述の表面改質無機顔料であることを特徴とする記録媒体である。
【0088】
前記基材としては、吸水性繊維状物質(例えば、木材パルプ)、適度のサイジングを施した紙、無サイズ紙、ポリエチレンなどを用いたレジンコート紙などの紙類、熱可塑性フィルムのようなシート状物質及び布が使用でき、特に制限はない。
【0089】
前記色材受容層は基材の片面に設けられていても良いし、基材の両面に設けられていても良い。色材受容層は、乾燥固形分換算で0.5〜60g/m2、より好ましくは5〜45g/m2であることが好ましい。
【0090】
前記色材受容層は、色材受容層として、前述の表面改質無機顔料を含有していればよい。全色材受容層に対する表面改質無機顔料の好ましい含有量としては、固形分基準で50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上であり、99質量%以下であることが最も好適である。通常、色材受容層は、前述の表面改質無機顔料の他にバインダーを含有しており、また架橋剤を含有していることが好ましい。
【0091】
特に、表面改質無機顔料が含有する酸機能を有する無機顔料が、多孔質アルミナ水和物であることが好ましい。このような表面改質無機顔料を色材受容層に含有する記録媒体は、耐オゾン性を格段に向上させることができる。即ち、色材受容層中で、色材を分解する活性ラジカルの発生が抑えられるため、色材の耐オゾン性を向上することができる。
【0092】
バインダーとして、ポリビニルアルコールを用いることが好ましい。それ以外に、ポリビニルアルコールの変性体、澱粉又はその変性体、ゼラチン又はその変性体、カゼイン又はその変性体、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどのセルロース誘導体、SBRラテックス、NBRラテックス、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス、官能基変性重合体ラテックス、エチレン酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸又はその共重合体、アクリル酸エステル共重合体等の従来公知のバインダーを使用することも可能である。これらのバインダーは単独で、又は複数種を組み合わせて用いることができる。また、ポリビニルアルコールと従来公知のバインダーとを併用することも好ましい。
【0093】
色材受容層における表面改質無機顔料とバインダーの混合比は、質量比で1:1〜100:1の範囲にあることが好ましい。バインダーの量を上記範囲とすることで、色材受容層への画像退色防止剤の塗布に好適な細孔容積の維持が可能となる。
【0094】
架橋剤としては、アルデヒド系化合物、メラミン系化合物、イソシアネート系化合物、ジルコニウム系化合物、アミド系化合物、アルミニウム系化合物、ホウ酸、及びホウ酸塩からなる群から選択される少なくとも1種類であることが好ましい。色材受容層における架橋剤の含有量は、公知文献等に記載された一般的な範囲で良い。
【0095】
色材受容層は、さらに、必要に応じて、上記発明の効果を低下しない限り、pH調整剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、耐水化剤、離型剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などを含有していてもよい。
【0096】
本発明の記録媒体は、基材上に、前述の表面改質無機顔料を含有する色材受容層を形成する工程と、その表面改質無機顔料が含有する非晶質体が結晶に転移しない熱エネルギーで色材受容層を乾燥する工程とを有することを特徴とする方法により製造できる。
【0097】
色材受容層の形成は、上記のような色材受容層を形成する成分を含有する塗工液を塗工機を用いて基材上に塗布、乾燥することで行うことができる。塗工方法としては、一般に用いられている、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ブラッシュコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、スプレー装置等による塗工技術を採用することができる。必要に応じて塗工後にカレンダーロールなどを用いて色材受容層の表面平滑性を良くすることも可能である。
【0098】
色材受容層を乾燥する乾燥温度は、前述のようなX線回折法による分析をあらかじめ行い、表面改質無機顔料が含有する非晶質体が結晶に転移しない温度領域から選択することができる。そして、着色剤含有溶液が付与された表面改質無機顔料に、上記の温度領域の熱エネルギーを与えることで乾燥すればよい。
【0099】
本発明の記録媒体は、必要に応じて、表面光沢処理を行っても良い。色材受容層面側への光沢処理としては、湿潤状態にある被処理物を、表面を加熱した鏡面ドラムに圧接し乾燥させるキャスト法が好適に用いられる。キャスト法としては、直接法、ゲル化法及びリウェット法がある。本発明で特に好ましいものはリウェット法である。
【0100】
直接法は、色材受容層形成時に支持体上に塗布した色材受容層が未だ湿潤状態にあるうちにその層の表面を加熱された鏡面ドラムに圧着して乾燥処理するものである。またゲル化法は、色材受容層形成時に支持体上にある色材受容層が未だ湿潤状態にあるうちにこの層をゲル化剤浴に接触させ、ゲル状態にした後、この層の表面を加熱した鏡面ドラムに圧着して乾燥処理するものである。リウェット法は、塗工液を基材上に塗布、常法により乾燥させ、色材受容層を一度形成させた後に、再度、熱湯等により処理して色材受容層を湿潤状態に戻し膨潤させ、膨潤状態にある色材受容層の表面を加熱した鏡面ドラムに圧着して乾燥処理するものである。膨潤状態で熱ドラムに圧着処理させることによって、色材受容層の多孔質構造を維持したまま表面に強光沢を付与することができる。又、色材受容層を一度乾燥した後に再膨潤させるために、鏡面ドラムによる圧着乾燥時、裏面からの水分の蒸発量が少量で済む。したがって、この方法は、使用する基材に制限が少なく、緻密な基材上に色材受容層を設けた場合においても光沢処理が可能である。
【0101】
こうして得られる記録媒体の色材受容層側の面における光沢度は、20度測定において、20%以上を有するように調整することができ、このように調整することは、インクジェット記録において高品質な画像形成を可能とするため好ましい。本発明で言う光沢度とは、JIS−Z−8741において規定される方法に準じて測定される値である。
【0102】
本発明の画像形成方法は、基材上に前述の表面改質無機顔料を有する色材受容層を形成している記録媒体に、記録用の液体を付与することにより画像を形成することを特徴とする。この記録用の液体を付与する方法としては、記録媒体に非接触で液体を付与する非接触記録方式が好ましい。例えば、インクジェット記録方法等が挙げられる。記録媒体に接触して記録を行う接触記録方式、例えばボールペン等を用いた方法の場合、本発明の記録媒体中に存在する非晶質体が壊れてしまう可能性が高いためである。
【0103】
本発明の記録画像は、基材上に形成された色材受容層が前述の表面改質無機顔料を含有する記録媒体に、着色剤で画像が形成されていることを特徴とする。好ましい着色剤は、非結晶色材である。着色剤が結晶状態であると、本発明中の非晶質体が、着色剤の結晶表面に移動してしまう可能性があり、その場合、記録媒体中の無機顔料の表面改質状態が変化し、本発明の効果が低減し易くなるためである。なお、非結晶色材とは、無機や有機の顔料ではなく、一般に染料に分類されるものである。また水溶性でも非水溶性のどちらでも良い。
【0104】
なお、本発明の表面改質無機顔料は、分散媒中に分散させた顔料分散液として使用することができる。この顔料分散液は、例えば、インクジェット記録用などの記録媒体の色材受容層を形成するための塗工液として用いることとができる。前記の顔料分散液を用いることで耐ガス性や耐光性の優れた記録媒体を得ることができる。
【0105】
前記顔料分散液は、本発明の表面改質無機顔料の他に、水等の分散媒や前記に記載したバインダーを含むのが好ましい。また、必要に応じて無機顔料を分散させるための分散剤や、その他の添加剤を添加することもできる。分散剤を用いることで無機顔料を容易に解膠させて、均一な分散体を得ることができる。分散剤としては、一般に酸を用いることができ、その中で、酢酸、蟻酸、シュウ酸などの有機酸や、硝酸、塩酸、硫酸といった無機酸が好ましい。また、その他の添加剤として、架橋剤、増粘剤、pH調整剤、潤滑剤、流動性変性剤、界面活性剤、消泡剤、耐水化剤、離型剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【実施例】
【0106】
以下、実施例、比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0107】
アルミナ水和物と酢酸マグネシウム水和物の混合物(A)の検討
〔混合物作製工程A:表面改質無機顔料サンプル前駆体の作製〕
酸機能を有する無機顔料として、市販の無機顔料であるアルミナ水和物(商品名:DisperaL HP−14、SasoL社製)を用いて、該アルミナ水和物水溶液に非晶質体を形成するための成分として酢酸マグネシウム4水和物を添加した。酢酸マグネシウム4水和物の添加量は、アルミナ水和物中のAl元素に対してMg元素が20質量%とした。その後、十分に攪拌及び混合した後、スプレードライ装置を用いて混合物(A)を得た。乾燥温度(気相温度)は、170℃とした。
【0108】
〔混合物の表面観察A:表面改質無機顔料サンプル前駆体の表面状態観察〕
上記で得られた混合物(A)の表面状態を調べるために、焼成温度を変化させた時の非晶質体の存在をリガク社製のCuKαを用いたX線回折法(XRD)を用いて調べた。測定条件としては、測定2θ(A)範囲は2°から50°とした。結果を図13に示した。図13中で、(a)〜(h)は、それぞれ330℃、290℃、250℃、210℃、170℃、130℃、105℃、97℃の炉で2時間焼成したサンプルのチャートであり、(i)は未焼成のサンプルのチャートである。
【0109】
図13より、未焼成のサンプル並びに焼成温度が97℃、105℃、130℃及び170℃のサンプルで、2θが約5°から約10°の範囲に、酢酸マグネシウム(2価以上の金属とアニオン成分)に由来する非晶質体の存在を表すブロードなピークが確認できた。また、焼成温度が210℃のサンプルでは、2θが約5°から約10°の範囲に、上記酢酸マグネシウムの結晶を示すシャープなピークと酢酸マグネシウムに由来のブロードなピークが重なって検出された。焼成温度が250℃及び290℃のサンプルでは、2θが約5°から約10°の範囲に、上記酢酸マグネシウムの結晶を示すシャープなピークが確認できた。焼成温度が330℃のサンプルでは、2θが約5°から約10°の範囲に、上記酢酸マグネシウムの結晶を示すシャープなピーク及び酢酸マグネシウムに由来のブロードなピークは確認できず、且つべーマイトのピークがなくなった。すなわち、べーマイトの結晶構造が壊れたことを確認した。
【0110】
また、上記XRD測定で、非晶質体の存在が確認できた、未焼成のサンプル及び焼成温度が97℃、105℃、130℃、170℃、210℃の各サンプルをX線光電子分光測定機XPS測定した。その結果、いずれのサンプルにおいても、表面改質無機顔料を構成しているAlの2P、酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、非晶質体の存在が確認できた上記サンプルは、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0111】
上記混合物作製工程A及び混合物の表面観察Aの結果から、下記実施例A−1からA−6の表面改質無機顔料、及び比較例A−1からA−3の無機顔料を作製した。
【0112】
(実施例A−1)
混合物(A)の未焼成品を、実施例A−1の表面改質無機顔料サンプルとした。
【0113】
(実施例A−2)
混合物(A)をルツボに入れ、97℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、実施例A−2のサンプルとした。
【0114】
(実施例A−3)
混合物(A)をルツボに入れ、105℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、実施例A−3のサンプルとした。
【0115】
(実施例A−4)
混合物(A)をルツボに入れ、130℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、実施例A−4のサンプルとした。
【0116】
(実施例A−5)
混合物(A)をルツボに入れ、170℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、実施例A−5のサンプルとした。
【0117】
(実施例A−6)
混合物(A)をルツボに入れ、210℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、実施例A−6のサンプルとした。
【0118】
(比較例A−1)
混合物(A)をルツボに入れ、250℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、比較例A−1のサンプルとした。
【0119】
(比較例A−2)
混合物(A)をルツボに入れ、290℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、比較例A−2のサンプルとした。
【0120】
(比較例A−3)
混合物(A)をルツボに入れ、330℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、比較例A−3のサンプルとした。
【0121】
(比較例A−4)
上記混合物作製工程Aにおいて酢酸マグネシウム4水和物を添加しなかった以外は、上記混合物作製工程Aと同じ作業を行い、アルミナ水和物の粉体(J)を得て、これを比較例A−4のサンプルとした。
【0122】
得られたアルミナ水和物の粉体(J)を、上記混合物表面観察Aと同様にX線回折観察を行った。図14にX線回折法(XRD)測定チャートを示す。図14中で、(a)〜(f)は、それぞれ330℃、290℃、250℃、210℃、170℃、130℃の炉で2時間焼成したサンプルのチャートであり、(g)は未焼成のサンプルのチャートである。上記330℃、290℃、250℃、210℃、170℃、130℃の炉で2時間焼成した各サンプルは、非晶質体の確認はできなかった。
【0123】
上記結果から、下記比較例A−5及びA−6の無機顔料を作製した。
【0124】
(比較例A−5)
アルミナ水和物の粉体(J)をルツボに入れ、130℃の炉に2時間入れて焼成を行い、比較例A−5のサンプルとした。
【0125】
(比較例A−6)
アルミナ水和物の粉体(J)をルツボに入れ、170℃の炉に2時間入れて焼成を行い、比較例A−6のサンプルとした。
【0126】
(比較例A−7)
上記混合物作製工程Aにおいて酢酸マグネシウム4水和物の代わりに酢酸を用いた以外は、上記混合物作製工程Aと同じ作業を行い、アルミナ水和物の粉体(K)を得て、これを比較例A−7のサンプルとした。
【0127】
得られたアルミナ水和物の粉体(K)を、上記混合物表面観察Aと同様にX線回折観察を行った。図14のX線回折法(XRD)測定チャートと同様の結果になった。図14より、非晶質体は確認できなかった。
【0128】
上記結果から、下記比較例A−8及びA−9の無機顔料を作製した。
【0129】
(比較例A−8)
アルミナ水和物の粉体(K)をルツボに入れ、130℃の炉に2時間入れて焼成を行い、比較例A−8のサンプルとした。
【0130】
(比較例A−9)
アルミナ水和物の粉体(K)をルツボに入れ、170℃の炉に2時間入れて焼成を行い、比較例A−9のサンプルとした。
【0131】
上記、実施例A−1からA−6、及び比較例A−1からA−9のサンプルを用いて、下記評価を行った。
【0132】
(酸機能の評価)
得られたサンプルを、アンモニアガスを用いて表面活性能を調べる昇温脱離試験(TPD法)により酸点強度を調べた。その結果、実施例A−1からA−6のサンプルでは、図15、16に示されたbと同様の結果を得られ、酸点を確認できなかった。比較例A−1からA−9のサンプルでは、図15、16に示されたaと同様の結果が得られ、酸点を確認できた。
【0133】
(色材染着性の評価)
得られたサンプル1.5gを、染料成分としてC.I.Direct BLue 199の0.0001質量%溶解した水溶液中に添加し、常温で12時間混合攪拌した。その後、12000回転/分の条件で遠心分離を行い、染料染着無機顔料を分離採取後、80℃環境下に12時間放置して水分を除去後、乳鉢で粉末にした。得られた染料染着粉末0.1gを拡散反射スペクトル測定装置(製品名:U−4000、日立製)を用いて、吸収波長610nmの時のスペクトル強度を求め、色材吸着性の評価を行った。その結果を表3に示した。
【0134】
(耐オゾン性の評価)
色材染着性の評価で作製した色材染着サンプル0.05gを、オゾンガス濃度が10ppmの容器内に4時間放置した。その後、拡散反射スペクトル測定装置(製品名:U−4000、日立製)を用いて色材着色濃度を測定し、吸収波長610nmの時のスペクトル強度から染着色剤残存率を求めた。その結果を表3に示した。表3より、実施例は、比較例に対し、色材着色性の評価及び耐オゾン性の評価で良好な結果が得られた。
【0135】
【表3】

【0136】
アルミナ水和物と酢酸マグネシウム4水和物の混合物(B)の検討
〔混合物作製工程B:表面改質無機顔料サンプル前駆体の作製〕
酸機能を有する無機顔料として、市販の無機顔料であるアルミナ水和物(商品名:DisperaL HP−14、SasoL社製)を用いて、該アルミナ水和物水溶液に非晶質体を形成するための成分として酢酸マグネシウム4水和物を添加した。酢酸マグネシウム4水和物の添加量は、アルミナ水和物中のAl元素に対してMg元素が20質量%とした。その後、十分に攪拌及び混合後、約80℃の温度環境の乾燥器に入れて水分を蒸発の後、乳鉢で粉体にして、混合物(B)を得た。
【0137】
〔混合物の表面観察B:表面改質無機顔料サンプル前駆体の表面状態観察〕
上記で得られた混合物(B)の表面状態を調べるために、連続して加熱を行いながら結晶状態を観察できるリガク社製のCuKαを用いたX線回折法(XRD)を用いて非晶質体の存在を調べた。測定条件としては、測定2θの範囲は2°から50°、加熱速度は2℃/分とした。結果を図3に示した。
【0138】
図3より、焼成温度が約40℃弱から約250℃の範囲で、2θが約5°から約10°の範囲に、酢酸マグネシウム(2価以上の金属とアニオン成分)に由来する非晶質体の存在を表すブロードなピークが確認できた。なお、焼成温度が約40℃近辺から約140℃近辺の範囲では、酢酸マグネシウム1水和物の結晶の存在を示すピークと酢酸マグネシウムに由来の非晶質体を示すブロードなピークを確認できた。約140℃近辺から約230℃近辺の範囲では、酢酸マグネシウムに由来の非晶質体のブロードなピークのみが確認できる。焼成温度が約230℃から約250℃の範囲では、酢酸マグネシウム無水物の結晶の存在を示すピークと酢酸マグネシウムに由来の非晶質体を示すブロードなピークが確認できた。また、約250℃以上で酢酸マグネシウム無水物の結晶の存在を示すピークのみが確認でき、約320℃以上で酢酸マグネシウムに由来のピークはすべて消失した。
【0139】
また、上記XRD測定で、酢酸マグネシウム(2価以上の金属とアニオン成分)に由来する非晶質体が確認できた焼成温度のサンプルをX線光電子分光測定機XPS測定した。その結果、表面改質無機顔料を構成しているAlの2P、酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、非晶質体が確認できた焼成温度のサンプルは、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0140】
上記混合物作製工程B及び混合物の表面観察Bの結果から、下記実施例B−1からB−3の表面改質無機顔料、及び比較例B−1の無機顔料を作製した。
【0141】
(実施例B−1)
混合物(B)をルツボに入れ、100℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、実施例B−1のサンプルとした。
【0142】
(実施例B−2)
混合物(B)をルツボに入れ、150℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、実施例B−2のサンプルとした。
【0143】
(実施例B−3)
混合物(B)をルツボに入れ、200℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、実施例B−3のサンプルとした。
【0144】
(比較例B−1)
混合物(B)をルツボに入れ、400℃の炉に2時間入れて焼成を行い、比較例B−1のサンプルとした。
【0145】
(比較例B−2)
上記混合物作製工程Bにおいて酢酸マグネシウム4水和物を添加しなかった以外は、上記混合物作製工程Bと同じ作業を行い、アルミナ水和物の粉体(L)を得て、これを比較例B−2のサンプルとした。
【0146】
得られたアルミナ水和物の粉体(L)を、上記混合物表面観察Aと同様にX線回折観察を行ったが、焼成温度にかかわらず、非晶質体は確認できなかった。
【0147】
次に、上記(比較例B−2)の結果から、下記比較例B−3及びB−4の無機顔料を作製した。
【0148】
(比較例B−3)
上記、アルミナ水和物の粉体(L)を入れたるつぼを、150℃の炉に2時間入れて焼成を行い、比較例B−3のサンプルとした。
【0149】
(比較例B−4)
上記、アルミナ水和物の粉体(L)を入れたるつぼを、200℃の炉に2時間入れて焼成を行い、比較例B−4のサンプルとした。
【0150】
(酸機能の評価)
得られたサンプルを、アンモニアガスを用いて表面活性能を調べる昇温脱離試験(TPD法)により酸点強度を調べた。その結果、実施例B−1からB−3のサンプルでは、図15、16に示されたbと同様の結果を得られ、酸点を確認できなかった。比較例B−1からB−4のサンプルでは、図15、16に示されたaと同様の結果が得られ、酸点を確認できた。
【0151】
(耐オゾン性の評価)
上記実施例B−1からB−3、及び比較例B−1からB−4で得られたサンプル1.5gを、染料成分としてC.I.Direct BLue 199の0.0001質量%溶解した水溶液中に添加し、常温で12時間混合攪拌した。その後、12000回転/分の条件で遠心分離を行い、染料染着無機顔料を分離採取後、80℃環境下に12時間放置して水分を除去後、乳鉢で粉末にした。得られた染料染着粉末サンプル0.1gをオゾンガス濃度が10ppmの容器内に4時間放置し、着色染料のオゾン暴露による変化を目視で評価した。その状態を表4にまとめて示した。
【0152】
【表4】

【0153】
表4より、実施例B−1からB−3の表面改質無機顔料は、比較例B−1からB−4に対し格段に耐オゾン性が向上していることが分かる。また、焼成温度100℃の実施例B−1より、焼成温度が150℃の実施例B−2及び焼成温度が200℃の実施例B−3の方が、オゾン暴露後のシアン色のくすみが少なくさらに良好である。即ち、1水和物結晶が共存していない非晶質体のみの場合の方が特に良好な効果を得ることができる。
【0154】
アルミナ水和物と酢酸マグネシウム4水和物の混合物(C)の検討
〔混合物作製工程C:表面改質無機顔料サンプルの前駆体作製〕
上記混合物作製工程Aにおいて酢酸マグネシウム4水和物の添加量をアルミナ水和物中のAl元素に対してMg元素が5質量%とした以外は、上記混合物作製工程Aと同じ作業を行い、混合物(C)を得た。
【0155】
〔混合物表面観察C:表面改質無機顔料サンプル前駆体の表面状態観察〕
上記で得られた混合物(C)の表面状態を調べるために、焼成温度を変化させた時の非晶質体の存在をリガク社製のCuKαを用いたX線回折法(XRD)を用いて調べた。測定条件としては、測定2θの範囲は2°から50°とした。結果を図12に示した。図12中で、(a)〜(c)は、それぞれ210℃、170℃、130℃の炉で2時間焼成したサンプルのチャートであり、(d)は未焼成のサンプルのチャートである。図12より、未焼成のサンプル、並びに焼成温度が130℃及び170℃のサンプルで、2θが10°弱の所に酢酸マグネシウム(2価以上の金属とアニオン成分)に由来する非晶質体の存在を表すブロードなピークを観察することができた。
【0156】
また、上記XRD測定で非晶質体の存在が確認できた、未焼成サンプル及び焼成温度210℃、170℃、130℃の各サンプルをX線光電子分光測定機XPS測定した。その結果、いずれのサンプルにおいても、表面改質無機顔料を構成しているAlの2P、酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、非晶質体の存在が確認できた上記サンプルは、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0157】
上記混合物作製工程C及び混合物の表面観察Cの結果から、下記実施例C−1及びC−2の表面改質無機顔料を作製した。
【0158】
(実施例C−1)
混合物(C)の未焼成品を、実施例C−1の表面改質無機顔料サンプルとした。
【0159】
(実施例C−2)
混合物(C)をルツボに入れ、170℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、実施例C−2のサンプルとした。
【0160】
上記、実施例C−1及びC−2、並びに前述した比較例A−1からA−9のサンプルを用いて、下記評価を行った。
【0161】
(酸機能の評価)
得られたサンプルを、アンモニアガスを用いて表面活性能を調べる昇温脱離試験(TPD法)により酸点強度を調べた。その結果、実施例C−1及びC−2のサンプルは、図15、16に示されたbと同様の結果を得られ、酸点を確認できなかった。
【0162】
(色材染着性の評価)
得られたサンプル1.5gを、染料成分としてC.I.Direct BLue 199の0.0001質量%溶解した水溶液中に添加し、常温で12時間混合攪拌した。その後、12000回転/分の条件で遠心分離を行い、染料染着無機顔料を分離採取後、80℃環境下に12時間放置して水分を除去後、乳鉢で粉末にした。得られた染料染着粉末0.1gを拡散反射スペクトル測定装置(製品名:U−4000、日立製)を用いて、吸収波長610nmの時のスペクトル強度を求め、色材吸着性の評価を行った。その結果を表5に示した。
【0163】
(耐オゾン性の評価)
色材染着性の評価で作製した色材染着サンプル0.05gをオゾンガス濃度が10ppmの容器内に4時間放置した。その後、拡散反射スペクトル測定装置(製品名:U−4000、日立製)を用いて色材着色濃度を測定し、吸収波長610nmの時のスペクトル強度から染着色剤残存率を求めた。その結果を表5に示した。
【0164】
【表5】

【0165】
次に、実施例C−1の表面改質無機顔料を洗浄したサンプルを作製した。洗浄は、固形分濃度が10%となるように純水に分散させ、1時間攪拌した後、この分散液を12000回転/分の条件で遠心分離により固液分離して固体を回収する方法で行った。なお、洗浄はこの操作を合計3回行った。
【0166】
上記で得られたサンプルの表面状態を調べるために、非晶質体の存在をリガク社製のCuKαを用いたX線回折法(XRD)を用いて調べた。測定条件としては、測定2θの範囲は2°から50°とした。洗浄したサンプルにおいても2θが10°弱の所に酢酸マグネシウム(2価以上の金属とアニオン成分)に由来する結晶性のピークは観察されなかった。また、X線光電子分光測定機XPS測定を行った結果、表面改質無機顔料を構成しているAlの2P、酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いはなかった。したがって、非晶質体の存在が確認できた上記サンプルは、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。得られたサンプルを、アンモニアガスを用いて表面活性能を調べる昇温脱離試験(TPD法)により酸点強度を調べた。その結果、図15、16に示されたbと同様の結果を得られ、酸点を確認できなかった。つまり、このサンプルも本発明の表面改質無機顔料である。
【0167】
次に、色材染着性の評価を行った。色材染着性の評価は下記の通りである。上記のように得られたサンプル1.5gを、染料成分としてWO2004−/087815公報開示のシアン染料が0.0001質量%溶解している水溶液中に添加し、常温で12時間混合攪拌した。その後、12000回転/分の条件で遠心分離を行い、染料染着無機顔料を分離採取後、80℃環境下に12時間放置して水分を除去後、乳鉢で粉末にした。得られた染料染着粉末0.1gを拡散反射スペクトル測定装置(製品名:U−4000、日立製)を用いて、吸収波長610nmの時のスペクトル強度を求め、色材吸着性の評価を行い、比較例A−4の表面改質していない無機顔料と比較した。その結果、実施例C−1の表面改質無機顔料を洗浄したサンプルは、λ=610nmのスペクトル強度が高くなっていることが確認できた。即ち、実施例C−1の表面改質無機顔料を洗浄したサンプルにおいても、表面改質していない無機顔料(比較例A−4)よりも染料の吸着性が高いことが分かった。
【0168】
次に、耐オゾン性の評価を行った。耐オゾン性の評価は、色材染着性の評価で作製した色材染着サンプル0.05gをオゾンガス濃度が10ppmの容器内に12時間放置した。その後、拡散反射スペクトル測定装置(製品名:U−4000、日立製)を用いて色材着色濃度を測定し、吸収波長610nmの時のスペクトル強度から染着色剤残存率を求めた。その結果、表面改質していない無機顔料(比較例A−4)の残存率は90%であったのに対し、実施例C−1の表面改質無機顔料を洗浄したサンプルは103%であり、殆ど退色しないことが分かった。
【0169】
これらの結果から、上記サンプルを製造する前の表面改質無機顔料(実施例C−1)は、次のことが判明した。すなわち、この表面改質無機顔料は、酸機能を有する無機顔料と、その表面に接触している、少なくとも2価以上の金属とアニオン成分とにより形成された非晶質体とを有している。酸機能を有する無機顔料と非晶質体とは、互いに化学結合していない状態である。非晶質体は、水に溶解する非晶質体と、水に溶解せずに酸機能を有する無機顔料表面に残っている非晶質体を含んでいる。そして、この表面改質無機顔料は、酸機能を示さない。
【0170】
(実施例D−1)
上記混合物作製工程Bにおいて酢酸マグネシウム4水和物の代わりに酢酸カルシウムを用いた以外は、上記(実施例B−3)と同じ作業を行い、混合物(D)を得て、これを実施例D−1のサンプルとした。
【0171】
得られた混合物(D)のX線回折観察を行った結果、低角に非晶質体の存在を示すブロードなピークを確認した。また、X線光電子分光測定機XPS測定を行った結果、表面改質無機顔料を構成しているAlの2P、酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置やプロファイルの形に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、非晶質体の存在が確認できた上記サンプルは、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0172】
(実施例E−1)
上記混合物作製工程Bにおいて酢酸マグネシウム4水和物の代わりに硫酸マグネシウム水和物を用いた以外は、(実施例B−3)と同じ作業を行い、混合物(E)を得て、これを実施例E−1のサンプルとした。
【0173】
得られた混合物(E)のX線回折観察を行った結果、低角に非晶質体の存在を示すブロードなピークを確認した。また、X線光電子分光測定機XPS測定を行った結果、表面改質無機顔料を構成しているAlの2P、酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、非晶質体の存在が確認できた上記サンプルは、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0174】
(実施例F−1)
上記混合物作製工程Bにおいて酢酸マグネシウム4水和物の代わりに硝酸マグネシウム6水和物を用いた以外は、(実施例B−3)と同じ作業を行い、混合物(F)を得て、これを実施例F−1のサンプルとした。
【0175】
得られた混合物(F)を、上記混合物表面観察Aと同様にX線回折観察を行った結果、低角に非晶質体の存在を示すブロードなピークを確認した。また、X線光電子分光測定機XPS測定を行った結果、表面改質無機顔料を構成しているAlの2P、酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、非晶質体の存在が確認できた上記サンプルは、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0176】
(実施例G−1)
上記混合物作製工程Bにおいて酢酸マグネシウム4水和物の代わりに酢酸ランタン水和物を用いた以外は、(実施例B−3)と同じ作業を行い、混合物(G)を得て、実施例G−1のサンプルとした。
【0177】
得られた混合物(G)のX線回折観察を行った結果、低角に非晶質体の存在を示すブロードなピークを確認した。また、X線光電子分光測定機XPS測定を行った結果、表面改質無機顔料を構成しているAlの2P、酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、非晶質体の存在が確認できた上記サンプルは、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0178】
(実施例H−1)
上記混合物作製工程Bにおいて酢酸マグネシウム4水和物の代わりに酢酸ストロンチウム0.5水和物を用いた以外は、(実施例B−3)と同じ作業を行い、混合物(H)を得て、実施例H−1のサンプルとした。
【0179】
得られた混合物(H)のX線回折観察を行った結果、低角に非晶質体の存在を示すブロードなピークを確認した。また、X線光電子分光測定機XPS測定を行った結果、表面改質無機顔料を構成しているAlの2P、酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、非晶質体の存在が確認できた上記サンプルは、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0180】
(耐オゾン性の評価)
上記実施例B−3、D−1、E−1、F−1及びH−1、並びに比較例B−4で得られたサンプル1.5gを、染料成分としてC.I.Direct BLue 199の0.0001質量%溶解した水溶液中に添加し、常温で12時間混合攪拌した。その後、12000回転/分の条件で遠心分離を行い、染料染着無機顔料を分離採取後、80℃環境下に12時間放置して水分を除去後、乳鉢で粉末にした。得られた染料染着粉末サンプル0.1gをオゾンガス濃度が10ppmの容器内に4時間放置し、着色染料のオゾン暴露による変化を目視で評価した。その状態を表6にまとめて示した。
【0181】
【表6】

【0182】
表6より、実施例B−3、D−1、E−1、F−1及びH−1の表面改質無機顔料は、比較例B−1及びD−1の未表面改質のものに比べ、オゾン暴露前後での色材濃度変化が少ない。また、実施例G−1も表6の実施例のように、比較例D−1に比べ、オゾン暴露前後での色材濃度変化が少なかった。その中で、特に実施例B−3は色材濃度変化が少ない。
【0183】
シリカと酢酸マグネシウム4水和物の混合物(M)の検討
〔混合物作製工程J:表面改質無機顔料サンプルの前駆体作製〕
上記混合物作製工程Aにおいてアルミナ水和物の代わりに、市販の無定形シリカ(商品名:アエロジル200、日本アエロジル社製)を用いた以外は、上記混合物作製工程Aと同じ作業を行い、混合物(M)を得た。
【0184】
〔混合物表面観察J:表面改質無機顔料サンプル前駆体の表面状態観察〕
(実施例M−1)
混合物(M)をルツボに入れ、200℃の炉に2時間入れて焼成を行い、表面改質無機顔料を得て、実施例M−1のサンプルとした。X線回折観察を行った結果、低角に非晶質体の存在を示すブロードなピークを確認した。
【0185】
また、X線光電子分光測定機XPS測定を行った結果、表面改質無機顔料を構成しているSiの2P、酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、非晶質体の存在が確認できた上記サンプルは、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0186】
(比較例M−1)
実施例M−1において、酢酸マグネシウム4水和物を添加しなかった以外は、実施例M−1と同様の方法で、シリカの粉体(M)を得て、これを比較例M−1とした。X線回折観察を行った結果、低角に非晶質体の存在を示すブロードなピークを確認できなかった。
【0187】
(耐オゾン性の評価)
上記実施例M−1、及び比較例M−1で得られたサンプル1.5gを、染料成分としてC.I.Direct BLue 199の0.0001質量%溶解した水溶液中に添加し、常温で12時間混合攪拌した。その後、12000回転/分の条件で遠心分離を行い、染料染着無機顔料を分離採取後、80℃環境下に12時間放置して水分を除去後、乳鉢で粉末にした。得られた染料染着粉末サンプル0.1gをオゾンガス濃度が10ppmの容器内に4時間放置し、着色染料のオゾン暴露による変化を目視で評価した。その結果を表7にまとめて示した。実施例M−1のサンプルは、オゾン暴露後の残存濃度が格段に高い。
【0188】
【表7】

【0189】
次に、記録媒体の評価を行う。
【0190】
(実施例1)
まず、前記実施例C−1で得られた表面改質無機顔料を、固形分濃度6質量%で含有する表面改質無機顔料分散液を調製した。次に、ポリビニルアルコールPVA117(商品名、クラレ社製)を純水に溶解して9質量%の溶液を得た。次に、表面改質無機顔料分散液中に3質量%ホウ酸水溶液を、表面改質無機顔料に対してホウ酸固形分換算で0.50質量%になるように添加した。その後、得られたホウ酸含有表面改質無機顔料分散液と、先に調製したポリビニルアルコール水溶液を、スタティックミキサで表面改質無機顔料と、ポリビニルアルコールが固形分質量比100:8になるように混合した。そして、得られた混合分散液を、厚さ100μmの白色ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に、乾燥塗工量が30g/m2になるようにダイコートした。混合分散液が塗布されたPETフィルムを100℃で乾燥して、実施例1の記録媒体Nを作製した。
【0191】
(実施例2)
実施例1において、酢酸マグネシウム4水和物を硝酸マグネシウム6水和物に変更した以外は、実施例C−1と同様にして、実施例2の表面改質無機顔料を作製した。作製した表面改質無機顔料を、X線回折装置を用いて観察したところ、硝酸マグネシウムに由来する非晶質体の存在を示すブロードなピークを確認した。また、X線光電子分光測定機XPS測定を行った結果、無機顔料を構成しているAlの2Pや酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0192】
続いて、得られた表面改質無機顔料を用いて、実施例1と同様にして、実施例2の記録媒体Pを作製した。
【0193】
(実施例3)
実施例1において、酢酸マグネシウム4水和物を塩化マグネシウム6水和物水和物に変更した以外は、実施例C−1と同様にして、実施例3の表面改質無機顔料を作製した。作製した表面改質無機顔料を、X線回折装置を用いて観察したところ、塩化マグネシウムに由来する非晶質体の存在を示すブロードなピークを確認した。また、X線光電子分光測定機XPS測定を行った結果、無機顔料を構成しているAlの2Pや酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0194】
続いて、得られた表面改質無機顔料を用いて、実施例1と同様にして、実施例3の記録媒体Qを作製した。
【0195】
(実施例4)
実施例1において、酢酸マグネシウム4水和物を酢酸バリウムに変更した以外は、実施例C−1と同様にして、実施例4の表面改質無機顔料を作製した。作製した表面改質無機顔料を、X線回折装置を用いて観察したところ、酢酸バリウムに由来する非晶質体の存在を示すブロードなピークを確認した。また、X線光電子分光測定機XPS測定を行った結果、無機顔料を構成しているAlの2Pや酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0196】
続いて、得られた表面改質無機顔料を用いて、実施例1と同様にして、実施例4の記録媒体Rを作製した。
【0197】
(実施例5)
混合物(C)の作製で使用した酢酸マグネシウム4水和物を酢酸ランタン1.5水和物に変更した以外は、実施例C−1と同様にして、実施例5の表面改質無機顔料を作製した。作製した表面改質無機顔料を、X線回折装置を用いて観察したところ、酢酸ランタンに由来する非晶質体の存在を示すブロードなピークを確認した。また、X線光電子分光測定機XPS測定を行った結果、無機顔料を構成しているAlの2Pや酸素の1S、炭素の1Sで結合に起因するピークの位置に違いがなく、表面状態に違いはなかった。したがって、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0198】
続いて、得られた表面改質無機顔料を用いて、実施例1と同様にして、実施例5の記録媒体Sを作製した。
【0199】
(実施例6)
実施例1で使用した実施例C−1の表面改質無機顔料を実施例C−2の表面改質無機顔料に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例6の記録媒体Xを作製した。
【0200】
(比較例1)
実施例1で使用した実施例C−1の表面改質無機顔料を比較例A−4のアルミナ水和物の粉体に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例1の記録媒体Tを作製した。
【0201】
(比較例2)
まず、前記比較例A−4で得られたアルミナ水和物の粉体を、固形分濃度6質量%で含有するアルミナ水和物の粉体分散液を調製した。次に、ポリビニルアルコールPVA117(商品名:クラレ社製)を純水に溶解して9質量%の溶液を得た。次に、アルミナ水和物の粉体分散液中に3質量%ホウ酸水溶液を、アルミナ水和物の粉体に対してホウ酸固形分換算で0.50質量%になるように添加した。その後、得られたホウ酸含有アルミナ水和物の粉体分散液と、先に調製したポリビニルアルコール水溶液を、スタティックミキサでアルミナ水和物の粉体と、ポリビニルアルコールが固形分質量比100:8になるように混合した。そして、得られた混合分散液を、厚さ100μmの白色ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に乾燥塗工量が30g/m2になるようにダイコートした。混合分散液が塗布されたPETフィルムを100℃で乾燥して、記録媒体Uを作製した。
【0202】
次に、混合物液が塗布された面に、酢酸マグネシウム4水和物の5質量%水溶液を、先の記録媒体U上から、塗布された混合分散液中のアルミナ水和物のAlに対するMgのモル比が、Mg/Al=0.017になるようにダイコートした。その後、約60℃で乾燥して、比較例2の記録媒体Vを作製した。
【0203】
(比較例3)
実施例1で使用した実施例C−1の表面改質無機顔料の代わりに混合物(C)をルツボに入れ210℃の炉に2時間入れて焼成を行うことで得られた表面改質無機顔料に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例3の記録媒体Tを作製した。図12より、使用された表面改質無機顔料は、酢酸マグネシウムに由来のブロードなピークを確認できなかった。
【0204】
(比較例4)
まず、アルミナ水和物の固形分濃度6質量%及びアルミナ水和物に対して5質量%になるように酢酸マグネシウム4水和物を含有した分散液を調製した。次に、ポリビニルアルコールPVA117(商品名:クラレ社製)を純水に溶解して9質量%の溶液を得た。次に、前記分散液中に3質量%ホウ酸水溶液を、アルミナ水和物に対してホウ酸固形分換算で0.50質量%になるように添加した。その後、得られたホウ酸含有分散液と、先に調製したポリビニルアルコール水溶液を、スタティックミキサでアルミナ水和物と、ポリビニルアルコールが固形分質量比100:8になるように混合した。そして、得られた混合分散液を、厚さ100μmの白色ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に乾燥塗工量が30g/m2になるようにダイコートした。混合分散液が塗布されたPETフィルムを100℃で乾燥して、比較例4の記録媒体Wを作製した。
【0205】
上記、実施例1から6、及び比較例1から4について下記検証を行った。
【0206】
〔非晶質体の状態〕
得られた記録媒体を、線源にCuKαを用いたX線回折法(XRD)を用いて、非晶質体の存在の確認を行った。実施例1は酢酸マグネシウムに由来の非晶質体が確認できた。また実施例2から6においても、各実施例で使用された2価以上の金属とアニオン成分に由来の非晶質体が確認できた。一方比較例の記録媒体は、非晶質体を確認することはできなかった。
【0207】
〔結合状態の解析〕
得られた記録媒体における記録媒体表面の結合状態の解析を、Al元素の状態をX線光電子分光法(XPS)で測定したAl2pピーク位置の変化より解析した。実施例1から6は、結合エネルギーのシフトは確認されなかった。したがって、非晶質体の存在が確認できた上記サンプルは、表面改質無機顔料が含有する無機顔料と非晶質体とは化学結合していないと言える。
【0208】
実施例1から6、及び比較例1から4の記録媒体について、各評価を行い、表8及び9に結果を示す。
【0209】
A)記録物の画像保存性
<記録物の作製について>
インクジェット方式を用いたフォト用プリンタ(商品名:PIXUS iP8600、インク:BCI−7、キヤノン製)を用いて、上記の実施例1〜6及び比較例1〜4で作製した記録媒体の記録面に、画像を印字した記録物を作製した。印字した画像は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー各色の単色パッチで、画像濃度(OD)がそれぞれほぼ1.0になるような画像とした。そして、作製した記録物を以下の試験に用いることとした。
【0210】
<耐ガス性試験>
オゾン試験装置(スガ試験機社製、商品名:オゾンウエザオメーター)を用いて、オゾン暴露試験を行った。
【0211】
(試験条件)
暴露ガス組成:オゾン3ppm
試験時間:16時間
試験層内温湿度条件:40℃、60%RH
(耐ガス性評価方法)
上記の記録物の耐ガス試験前後の画像濃度を、分光光度計・スペクトリノ(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、次の式より濃度残存率を求め、以下に記述する判定基準に基づき判定した。結果を表8に示した。
【0212】
濃度残存率(%)=試験後の画像濃度/試験前の画像濃度×100
(判定基準)
○:濃度残存率75%以上のもの。
△:濃度残存率55%以上75%未満のもの。
×:濃度残存率55%未満のもの。
【0213】
【表8】

【0214】
表8の結果より、実施例の記録媒体は、比較例の記録媒体に対し耐ガス性が良好であること分かった。
【0215】
<耐光性試験>
上記の記録物に対して、低温サイクルキセノンウェザーメーターXL−75C(商品名、スガ試験機製)を用いて、暴露試験を行った。
【0216】
(試験条件)
照射強度:100kLux
試験期間:1週間
試験層内温湿度条件:23℃、55%RH
(耐光性評価方法)
上記の記録物の耐光性試験前後の画像濃度を分光光度計・スペクトリノ(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、次の式より濃度残存率を求め、以下に記述する判定基準に基づき判定した。結果を表9に示した。
【0217】
濃度残存率(%)=(試験後の画像濃度/試験前の画像濃度)×100
判定基準
○:濃度残存率75%以上のもの。
△:濃度残存率55%以上75%未満のもの。
×:濃度残存率55%未満のもの。
【0218】
【表9】

【0219】
表9の結果より、実施例の記録媒体は、比較例の記録媒体に比べ、耐光性が良好であること分かった。
【図面の簡単な説明】
【0220】
【図1】無機顔料としてべーマイト、2価以上の金属とアニオン成分との組み合わせとして酢酸マグネシウム水和物を用いたサンプルのX線回折測定結果である。
【図2】図1の結果が得られたサンプルを約250℃に加焼したサンプルのX線回折測定結果である。
【図3】混合物(B)を加熱しながらX線回折測定を行ったプロファイル示す図である。
【図4】金属塩が結晶でも非晶質状態でもない状態で存在している場合にX線回折測定を行ったプロファイル示す図である。
【図5】アルミナ水和物の表面に付着水が存在しない場合の状態を示す模式図である。
【図6】アルミナ水和物の表面に付着水が存在する場合の状態を示す模式図である。
【図7】アルミナ水和物のTG−MASS測定を行ったプロファイル示す図である。7−aは水分子を示し、7−bは酸素分子を示す。
【図8】本発明のメカニズムのイメージを示す模式図である。(8−1)はオゾンガスが作用した時の表面改質していない無機顔料の表面状態をイメージした図であり、(8−2)はオゾンガスが作用した時の表面改質無機顔料の表面状態をイメージした図である。
【図9】X線光電子分光法(XPS)で測定したAl2pピークを示す図である。9−aはベーマイトに酢酸マグネシウム4水和物を用いて非晶質体を形成したサンプルのチャートであり、9−bはべーマイト単独のチャートである。
【図10】X線光電子分光法(XPS)で測定したO1sピークを示す図である。9−aはベーマイトに酢酸マグネシウム4水和物を用いて非晶質体を形成したサンプルのチャートであり、9−bはべーマイト単独のチャートである。
【図11】X線光電子分光法(XPS)で測定したC1sピークを示す図である。9−aはベーマイトに酢酸マグネシウム4水和物を用いて非晶質体を形成したサンプルのチャートであり、9−bはべーマイト単独のチャートである。
【図12】混合物(C)についてX線回折測定を行ったプロファイルである。(a)〜(c)は、それぞれ210℃、170℃、130℃の炉で2時間焼成したサンプルのチャートであり、(d)は未焼成のサンプルのチャートである。
【図13】混合物(A)についてX線回折測定を行ったプロファイルである。(a)〜(h)は、それぞれ330℃、290℃、250℃、210℃、170℃、130℃、105℃、97℃の炉で2時間焼成したサンプルのチャートであり、(i)は未焼成のサンプルのチャートである。
【図14】アルミナ水和物の粉体(J)についてX線回折測定を行ったプロファイルである。(a)〜(f)は、それぞれ330℃、290℃、250℃、210℃、170℃、130℃の炉で2時間焼成したサンプルのチャートであり、(g)は未焼成のサンプルのチャートである。
【図15】アンモニアを用いた昇温脱離試験(TPD)におけるアンモニアに由来する質量スペクトル(m/z=16)の測定結果である。aはベーマイトのチャートであり、bは酢酸マグネシウム4水和物を付着したベーマイトのチャートである。
【図16】アンモニアを用いた昇温脱離試験(TPD)における水に由来する質量スペクトル(m/z=18)の測定結果である。aはベーマイトのチャートであり、bは酢酸マグネシウム4水和物を付着したベーマイトのチャートである。
【符号の説明】
【0221】
301 酢酸マグネシウム1水和物の結晶の存在を示すピーク
302 非晶質体の存在を示すブロードなピークのみが確認できる温度範囲
303 酢酸マグネシウム無水物の結晶の存在を示すピーク
304 非晶質体の存在を示すブロードなピーク
501 ルイス酸点
502 塩基点
601 ブレンステッド酸点
801 無機顔料
802 水分子
803 オゾンガス
804 ラジカル
805 有機物
806 非晶質体
807 水和物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸機能を有する無機顔料と、前記酸機能を有する無機顔料の表面に化学結合していない状態で接触している、少なくとも2価以上の金属とアニオン成分とにより形成された非晶質体とを有し、酸機能を示さないことを特徴とする表面改質無機顔料。
【請求項2】
前記酸機能を有する無機顔料が、二元機能無機顔料である請求項1に記載の表面改質無機顔料。
【請求項3】
前記酸機能を有する無機顔料が、アルミナ水和物である請求項1に記載の表面改質無機顔料。
【請求項4】
前記2価以上の金属が、アルカリ土類金属である請求項1乃至3のいずれかに記載の表面改質無機顔料。
【請求項5】
前記非晶質体が、2価以上の金属と、アニオン成分と、水分子とにより形成された非晶質体である請求項1乃至4のいずれかに記載の表面改質無機顔料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の表面改質無機顔料の製造方法であって、酸機能を有する無機顔料に2価以上の金属塩水和物を付着させる工程と、付着した2価以上の金属塩水和物を非晶質状態で存在させる工程とを有することを特徴とする表面改質無機顔料の製造方法。
【請求項7】
前記酸機能を有する無機顔料に2価以上の金属塩水和物を付着させる工程において、スプレードライ装置を用いる請求項6に記載の表面改質無機顔料の製造方法。
【請求項8】
前記付着した2価以上の金属塩水和物を非晶質状態で存在させる工程において、付着した2価以上の金属塩水和物が、1水和物から無水物に結晶転移する間に存在する、非晶質状態になる温度領域の熱エネルギーを作用させて非晶質状態を形成する請求項6又は7に記載の表面改質無機顔料の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載の表面改質無機顔料が、さらに着色剤で着色されていることを特徴とする着色表面改質無機顔料。
【請求項10】
請求項5に記載の表面改質無機顔料が、さらに着色剤で着色されている着色表面改質無機顔料の製造方法であって、
前記表面改質無機顔料に対して着色剤含有溶液を付与する工程と、
着色剤含有溶液が付与された表面改質無機顔料を、前記表面改質無機顔料が含有する非晶質体が結晶に転移しない熱エネルギーで乾燥する工程と
を有することを特徴とする着色表面改質無機顔料の製造方法。
【請求項11】
基材上に形成された色材受容層が無機顔料を含有する記録媒体において、前記無機顔料が、請求項1乃至5のいずれかに記載の表面改質無機顔料であることを特徴とする記録媒体。
【請求項12】
前記表面改質無機顔料が含有する酸機能を有する無機顔料が、多孔質アルミナ水和物である請求項11に記載の記録媒体。
【請求項13】
基材上に形成された色材受容層が請求項1乃至5のいずれかに記載の表面改質無機顔料を含有する記録媒体の製造方法であって、
基材上に、前記表面改質無機顔料を含有する色材受容層を形成する工程と、
前記色材受容層中に存在する前記表面改質無機顔料が含有する非晶質体が結晶に転移しない熱エネルギーで色材受容層を乾燥する工程と
を有することを特徴とする記録媒体の製造方法。
【請求項14】
基材上に請求項1乃至5のいずれかに記載の表面改質無機顔料を含有する色材受容層を形成している記録媒体に、記録用の液体を付与することにより画像を形成することを特徴とする画像形成方法。
【請求項15】
前記記録用の液体の付与が、インクジェット方式を用いた非接触記録方式により行われる請求項14に記載の画像形成方法。
【請求項16】
基材上に形成された色材受容層が請求項1乃至5のいずれかに記載の表面改質無機顔料を含有する記録媒体に、着色剤で画像が形成されていることを特徴とする記録画像。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−173913(P2009−173913A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−330718(P2008−330718)
【出願日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】