説明

表面硬化用高硬度の耐熱Cr基合金

【課題】優れた耐食性、耐熱性を有すると共に、さらに耐摩耗性を向上させるべく硬さを上昇させた、表面硬化用高硬度の耐熱Cr基合金を提供する。
【解決手段】重量%で(以後、%と記す。)、Niを20〜40%、Siを2.5〜7.0%、Wを0.5〜8.0%または/およびMoを1.0〜6.0%、Bを0.1〜1.5%含み、不可避不純物を含む残部のCr量が55〜65%からなり、WおよびMoの合計が8.0%以下であることを特徴とする表面硬化用高硬度の耐熱Cr基合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種肉盛溶接、溶射、粉末冶金などの各種施工プロセスに用いられる、優れた耐摩耗性、耐食性、耐熱性を兼備した表面硬化材料に関するものであり、特に耐摩耗性を要求される部品に対して有効な、表面硬化用高硬度の耐熱Cr基合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、耐摩耗性、耐食性を有する表面硬化材料としては、Co-Cr-W系合金やNi-Cr-B-Si系自溶合金が広く用いられているが、耐摩耗性、耐食性、耐熱性を全て兼備しているとは言い難い。
【0003】
また、ハードフェーシング用高靭性クロム基合金は、靭性、耐食性、耐摩耗性に優れた合金であるが、耐摩耗性即ち硬さの点で十分でなく、顧客の要求を満足しない場合がある(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3148340号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題点に着目し、優れた耐食性、耐熱性を有すると共に、さらに耐摩耗性を向上させるべく硬さを上昇させた合金組成を見出すことを目的として、上記(特許文献1)の成分を見直し、そのバランスを再構築することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(特許文献1)の成分を見直し本発明合金を開発するため、下記の目標値を設定し、これらを全て満足することを条件とした。
【0007】
(目標値)
・ 硬さ(高硬度の指針) ; 55HRC以上
・ 固相線温度(高温対応の指針) ; 1100℃以上
・ 液相線温度(合金粉末製造可否の指針) ; 1500℃以下
即ち、本発明は、重量%で(以後、%と記す。)Niを20〜40%、Siを2.5〜7.0%、Wを0.5〜8.0%または/およびMoを1.0〜6.0%、Bを0.1〜1.5%含み、不可避不純物を含む残部のCr量が55〜65%からなり、WおよびMoの合計が8.0%以下であることを特徴とする表面硬化用高硬度の耐熱Cr基合金。
【0008】
また、前記不可避不純物はFeを3%以下、Coを1%以下、Cuを1%以下、Mnを1%以下、Cを0.1%以下含むことを特徴とする前記記載の表面硬化用高硬度の耐熱Cr基合金。
【0009】
次に、本発明合金の各成分範囲を限定した理由を述べる。
【0010】
本発明合金は、基本的には「Cr固溶体」と「Ni固溶体」で形成され、Crリッチ側に設計したことにより、優れた耐食性を保ちながら硬さと耐熱性を向上させたものである。
【0011】
Niは、Crと同様に本発明合金のベースとなる成分であると共に、Siと結合してNiSi等の金属間化合物を形成して硬さを上昇させるが、20%未満では合金の液相線温度が好ましくない温度まで上昇してしまい、40%を超えると必然的にCr量が減少し硬さが低下する。このためNiは、20〜40%の範囲に限定した。
【0012】
本発明合金においてSiが、硬さの上昇及び融点(液相線及び固相線温度)を調整する上で特に重要な作用を発揮する成分であり、その添加量の限定が重要である。
【0013】
Siは、主にNi固溶体中に含まれ、Ni3Siなどの金属間化合物を形成すると共に、Crとも結合してCr3Siなどの金属間化合物を形成することにより合金の硬さ上昇に効果を発揮するが、2.5%未満では目標の硬さが得られず、7.0%を超えると合金が脆くなり使用できなくなる。このためSiは2.5〜7.0%に限定した。
【0014】
WおよびMoは、Cr中及びNi中に固溶することにより合金の硬さを上昇させると共に、耐食性や高温特性の向上にも効果があり、各々の単独及び複合で添加することができる。Wが0.5%未満、Moが1%未満ではその効果がなく、Wが8.0%超え、Moが6.0%超え、両者の合計が8.0%を超えると合金の液相線温度が好ましくない温度まで上昇してしまうと共に合金が脆化する。このためWは0.5〜8.0%または/およびMoは1.0〜6.0%の範囲に、また両者の合計を8.0%以下に限定した。
【0015】
Bは、Crと結合してCr2B等の金属間化合物を形成し、合金の硬さを上昇させると共に融点を調整する効果があるが、0.1%未満ではこの効果が発揮されず、1.5%を超えると合金が脆くなる。このためBは、0.1〜1.5%の範囲に限定した。
【0016】
Crは、本発明合金の耐熱性、耐食性、硬さを上昇させる効果を発揮する基本成分であるが、上述の各成分とのバランスにより、不可避不純物を含めたCr量は55〜65%の範囲に限定される。
【0017】
また、本発明合金の特性に悪影響をおよぼさない不純物の範囲は、Feが3%以下、Coが1%以下、Cuが1%以下、Mnが1%以下、Cが0.1%以下と限定した。
【発明の効果】
【0018】
本発明の表面硬化用高硬度の耐熱Cr基合金は、以下の特徴を有しているので広範な用途への適用が可能となる。
・ 硬さが55HRC以上と高く、特に耐摩耗性に優れる。
・ 固相線温度が1100℃以上と高く、耐熱性が良好である。
・ 優れた耐食性を維持している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
ベースのCr及び添加成分としてのNi、Si、W、Mo、Bの夫々が所定の重量%になるよう調整・配合した地金を、溶解炉中ルツボ内で加熱・溶融し、液状の合金とした後、アトマイズ法により粉末とするか、所定の型に鋳造して棒状や板状として本発明合金を得ることができる。
【0020】
特にアトマイズ法で製造した合金粉末は、目的の施工方法に適した粒度に調整することにより、肉盛溶接や溶射などの表面硬化材料、粉末冶金材料等に適用することができるので有効である。
【実施例】
【0021】
上記のように調整・配合した本発明の実施例合金及び比較例合金を溶製し、以下に示す方法で、硬さと融点(液相線温度、固相線温度)を測定した。
【0022】
(1)硬さ ;各合金の配合組成を有する100gの地金を、通常の電気炉を用いアルゴン気流中で約1600℃に加熱、溶解し、シェル鋳型に鋳造して直方体の試験片を作製し、その両平行面を研磨した後、ロックウェル硬さ計で合金の硬さ(HRC)を測定した。
【0023】
(2)液相線温度、固相線温度 ;上記と同じ方法で溶解した合金溶湯の中に熱電対を装入して、記録計に冷却曲線を描かせ、その曲線を解析して合金の液相線温度及び固相線温度を測定した。
【0024】
表1に本発明の実施例を示す。また、表2に比較例を示す。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
比較例1〜6は、本発明の請求範囲外の合金で、比較例7は従来のCo-Cr-W合金、比較例8はNi-Cr-B-Si自溶合金である。比較例1、2、3は、主にSiが請求範囲の下限を下回ったもので、いずれも硬さが目標値を満足していない。比較例4はSiが請求範囲の上限を超えたもの、比較例5はWが請求範囲の上限を超えたもの、比較例6はW+MoとBが請求範囲の上限を超え、Niが請求範囲の下限を下回ったものであるが、いずれも合金が脆く割れが発生し、硬さを測定できないばかりか、固相線あるいは/および液相線温度が目標値を満足していない。従来合金の比較例7、8は硬さが不十分である。
【0028】
これに対し、本発明合金である実施例1〜15は表1からも明らかなように、硬さ、固相線温度、液相線温度のいずれも目標値を満足している。また、本発明合金は、各種酸中での耐食性が良好であることを確認しており、表面硬化用材料として高硬度、耐熱性、耐食性を兼ね備えている。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上、述べたように、本発明による表面硬化用高硬度の耐熱Cr基合金は、特に硬さが高い特徴を有しているので、より耐摩耗性を要求される部品への適用が有効で、あわせて優れた耐食性、耐熱性も兼備していることから、広範な用途に適用できる。
【0030】
本発明合金は、肉盛溶接、溶射等の各種表面硬化プロセスに組み合わせることにより、さらに幅広い用途に活用できるものである。
【0031】
また、本発明合金は、表面硬化用に限定されることなく、粉末冶金法による焼結部品、例えば、本発明合金の粉末を硬質粒子としてマトリクス粉末に混合・分散させ、成形、焼結して耐食・耐熱・耐摩耗性を有する機械部品を形成することにも適用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で(以後、%と記す。)、Niを20〜40%、Siを2.5〜7.0%、Wを0.5〜8.0%または/およびMoを1.0〜6.0%、Bを0.1〜1.5%含み、不可避不純物を含む残部のCr量が55〜65%からなり、WおよびMoの合計が8.0%以下であることを特徴とする表面硬化用高硬度の耐熱Cr基合金。
【請求項2】
前記不可避不純物はFeを3%以下、Coを1%以下、Cuを1%以下、Mnを1%以下、Cを0.1%以下含むことを特徴とする請求項1記載の表面硬化用高硬度の耐熱Cr基合金。

【公開番号】特開2008−115444(P2008−115444A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301241(P2006−301241)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(000239426)福田金属箔粉工業株式会社 (83)