説明

袋入り膜束又は膜カートリッジ

【課題】 保存性及び取り扱い性の良い膜束又は膜カートリッジの提供。
【解決手段】 プラスチック製の袋内に膜カートリッジ及び保存液が入っている、袋入り膜カートリッジであって、保存液の量が、膜の絶乾重量に対して5.1〜5.6倍であり、プラスチック製の袋の容積が、膜体積に対して2.5〜3.5倍である、袋入り膜カートリッジ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空糸膜モジュールの保存に適した袋入り膜カートリッジ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種水処理に用いられる中空糸膜モジュールは、ハウジング内に所要本数の中空糸膜(中空糸膜束)を装入してなるものであるが、膜メーカーからの出荷の際には、ハウジングのない中空糸膜束〔又は複数の穴の開いたケースに装入された中空糸膜束(膜カートリッジ))の状態で出荷されることが多い。
【0003】
しかし、中空糸膜束は、乾燥状態のままでは膜が劣化したり、細菌が繁殖したりすることがあるため、通常は、予め保存液を入れた容器内に所定時間浸漬して膜を湿潤状態にした後、膜をプラスチック袋の中に収容された状態で保存、出荷される。
【特許文献1】特許第3098282号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、膜の質量と保存液質量との関係及び袋の容積と膜体積の関係を関連づけることにより、膜の保存性能が良く、取り扱い性も良い袋入り膜カートリッジ及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、課題の解決手段として、プラスチック製の袋内に膜カートリッジ及び保存液が入っている、袋入り膜カートリッジであって、
保存液の量が、膜の絶乾重量に対して5.1〜5.6倍であり、
プラスチック製の袋の容積が、膜体積に対して2.5〜3.5倍である、袋入り膜カートリッジを提供する。
【0006】
本発明は、課題の他の解決手段として、プラスチック製の袋の平面形状が長方形で、前記袋の長辺方向長さが膜カートリッジの縦方向長さの1.2〜1.5倍であり、かつ前記袋の短辺方向の長さが膜カートリッジの直径の1.6〜1.8倍である、請求項1又は2記載の袋入り膜カートリッジを提供する。
【0007】
本発明は、課題の他の解決手段として、膜が中空糸膜である、請求項1又は2記載の袋入り膜カートリッジを提供する。
【0008】
本発明は、他の課題の解決手段として、膜カートリッジを予め保存液に浸漬させることなく、カートリッジ及び保存液を袋内に封入することからなる、袋入り膜カートリッジの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の袋入り膜カートリッジは、保存時の取り扱いが容易であり、長期保存後であっても製造当初の膜の分離性能を維持することができる。また、製造工程において、別途保存液に膜束を浸漬して膜を湿潤する工程を省き、製造工程を簡略化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、保存対象として、公知の中空糸膜束を用いた場合について説明する。
【0011】
プラスチック製の袋の材料は特に制限されるものはなく、保管及び運搬時を経過しても破れたりすることのない程度の強度を有しており、内部を視認できるように透明乃至半透明なものであればよい。プラスチック製の袋の大きさや平面形状は、中空糸膜束や保存液量との関連で決定することが好ましい。
【0012】
膜カートリッジは、中空糸膜束がケースに収容されたものであり、中空糸膜束は、1本の外径が1mm程度の中空糸膜が数百〜数千本束ねられたものである。
【0013】
中空糸膜には、親水性のものと疎水性のものがあるが、本発明は特に疎水性の中空糸膜に適している。疎水性の中空糸膜としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリふっ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等を挙げることができる。
【0014】
保存液は、水道水、イオン交換水、純水、熱水、ホルマリン水溶液、次亜塩素酸ナトリウムを含む水溶液、希硝酸、水酸化ナトリウム水溶液、及びそれらの混合液から選ばれるものを挙げることができる。
【0015】
保存液の量は、袋内の中空糸膜の絶乾質量に対して、5.1〜5.6倍であり、好ましくは5.1〜5.3倍である。保存液と中空糸膜の質量が前記関係を有していると、袋内に膜束が封入されている間に膜が十分に湿潤状態となり、長期間保存後であっても中空糸膜の分離性能が低下することはない。
【0016】
ここでいう「絶乾重量」とは、中空糸膜を恒温乾燥機内で恒量になるまで乾燥させたときの重量である。
【0017】
プラスチック製の袋の容積は、袋内の中空糸膜体積〔(中空糸膜の外径÷2)×π×中空糸膜の長さ×本数、で求められる値〕に対して2.5〜3.5倍であり、好ましくは2.8〜3.2倍である。袋の溶液と中空糸膜体積が前記関係を有していると、運搬時等における取り扱い作業性が向上されるほか、袋内部における保存液と中空糸膜の接触状態が良く、部分的に中空糸膜と保存液との接触不良が生じたりすることがないので、保存性能も高められる。
【0018】
プラスチック製の袋は、平面形状が長方形のものが好ましく、袋の長辺方向長さが中空糸膜カートリッジの縦方向長さの1.2〜1.5倍が好ましく、より好ましくは1.2〜1.4倍、更に好ましくは1.25〜1.35倍である。
【0019】
プラスチック製の袋は、平面形状が長方形のものが好ましく、袋の短辺方向の長さが中空糸膜カートリッジの直径の1.6〜1.8倍が好ましく、より好ましくは1.6〜1.75倍、更に好ましくは1.6〜1.65倍である。
【0020】
このようにプラスチック製の袋形状を特定し、その長辺及び短辺方向の長さと、中空糸膜カートリッジの縦及び直径方向の長さを関連づけることにより、運搬時等における取り扱い作業性が向上されるほか、袋内部における保存液と中空糸膜の接触状態が良く、部分的に中空糸膜と保存液との接触不良が生じたりすることがないので、保存性能も高められる。
【0021】
本発明の袋入り膜カートリッジの製造に際しては、
(I)プラスチック製の袋内に所定量の保存液を入れた後、中空糸膜カートリッジを入れて袋口を密封する方法、
(II)プラスチック製の袋内に中空糸膜カートリッジを入れた後、所定量の保存液を入れて袋口を密封する方法、
(III)プラスチック製の袋内に、中空糸膜カートリッジと所定量の保存液を同時に入れて袋口を密封する方法、
(IV)別容器内にて保存液に浸漬していた中空糸膜カートリッジをプラスチック製の袋内に入れた後、保存液が所定量になるように入れ、袋口を密封する方法、
のいずれの方法も適用することができる。
【0022】
なお、(IV)の方法は、製造現場の状況により、中空糸膜カートリッジを得た後、次の工程にて袋入り膜カートリッジを製造するまでに時間的な間隔が生じるような場合、品質維持の観点から、一時的に保存液に中空糸膜カートリッジを浸漬しておく場合に適している。本発明では(I)、(II)又は(III)の製造方法が好ましい。
【実施例】
【0023】
実施例1
プラスチック製の袋:ポリエチレン製の袋(長辺1400mm、短辺270mm、容積0.03m
中空糸膜カートリッジ:ポリエーテルスルホン製の中空糸膜(直径1.3mm、長さ1066mm)の7350本(絶乾重量1800g)、直径165mm、長さ1066mmのポリスルホン製の円筒に入れ、両端をエポキシ樹脂で封止したもの(保存液として水を4500g含んでいる)
保存液:ホルマリン水溶液
ポリエチレン製の袋の中に中空糸膜カートリッジを入れ、保存液5000gを入れた後、ヒートシールして袋口を密封した。その後、90日後に開封してカートリッジを点検して、エアリーク検査でカートリッジにリークがないこと及び透水性能に低下がないことを確認した。
【0024】
更にカートリッジを破壊して、内部から取り出した中空糸膜の引張試験を実施した結果、中空糸膜の強度及び伸度は、製造直後のものと比較して低下は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製の袋内に膜カートリッジ及び保存液が入っている、袋入り膜カートリッジであって、
保存液の量が、膜の絶乾重量に対して5.1〜5.6倍であり、
プラスチック製の袋の容積が、膜体積に対して2.5〜3.5倍である、袋入り膜カートリッジ。
【請求項2】
プラスチック製の袋の平面形状が長方形で、前記袋の長辺方向長さが膜カートリッジの縦方向長さの1.2〜1.5倍であり、かつ前記袋の短辺方向の長さが膜カートリッジの直径の1.6〜1.8倍である、請求項1又は2記載の袋入り膜カートリッジ。
【請求項3】
膜が中空糸膜である、請求項1又は2記載の袋入り膜カートリッジ。
【請求項4】
膜カートリッジを予め保存液に浸漬させることなく、カートリッジ及び保存液を袋内に封入することからなる、袋入り膜カートリッジの製造方法。





【公開番号】特開2006−167607(P2006−167607A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364152(P2004−364152)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(594152620)ダイセン・メンブレン・システムズ株式会社 (104)
【Fターム(参考)】