説明

袋状物の内面処理方法

【課題】血液バッグ等の軟質プラスチック製の袋状物の内面を大気圧グロー放電プラズマ処理により、親水化、疎水化処理、重合性単量体によるコーティングを簡便に実施すること。
【解決手段】被処理基材内の空気を、ヘリウム又はアルゴンの単独、又はヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスに置換した後、または、置換した後にこの被処理基材内に、ヘリウム又はアルゴンの単独、又はヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスを連続的に導入しつつ、大気圧近傍の圧力下に、交流電圧を印加し、大気グロー放電プラズマを励起し、袋状物内面を処理する方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、血液バッグ等の軟質プラスチック製の袋状物の内面を大気圧グロー放電プラズマ処理により、親水化、疎水化処理、重合性単量体によるコーティングを簡便に実施することができる袋状物の内面処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】軟質プラスチック製袋状物の内面処理する方法として、シランカップリング剤等の溶液を塗布し乾燥する方法があるが、溶液を用いる場合は、溶液、水の乾燥によるコストアップ、塗布のみであるため常に剥離の危険性を伴っている。また、プラスチックの表面処理の方法として減圧下における低圧グロー放電プラズマ処理が知られている。これらによるとピンホールのない薄膜が形成することができ、また基材と結合させることができるため、強固なコーティング膜を形成させることができる。
【0003】しかしながら、減圧下グロー放電によるプラズマCVD、プラズマ重合法等は、被処理物を真空チャンバー等の処理容器内に入れ、減圧された処理容器内で被処理物にグロー放電プラズマ処理を行う方法であるため、真空度の変動による処理結果への影響が大きく真空系の管理が非常に重要で、大量に処理するためには処理容器が大きくなりそれだけ真空系の保持が困難となり、真空条件の保持のために処理コストが高くなる問題がある。また、本発明のように、軟質プラスチック製の袋状物の内面処理は、袋内部を真空状態にできないため、処理は不可能であった。
【0004】したがって、本発明は、近年開発された大気圧グロープラズマ処理法を応用することにより、軟質プラスチック製袋状物内面を選択的に、親水化、疎水化等の表面処理を行う袋状物の内面処理方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
[1]本発明は袋状物内に充填又は連続的に導入される気体を大気圧近傍の圧力下、交流電圧を印加しグロー放電プラズマ励起して袋内面を処理する袋状物の内面処理方法を提供する。
【0006】[2]本発明は充填又は連続的に導入される気体がヘリウム又はアルゴンの単独、又はヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスである[1]記載の袋状物の内面処理方法を提供する。
【0007】[3]本発明は被処理基材内の空気を、ヘリウム又はアルゴンの単独、又はヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスに置換した後、または、置換した後にこの被処理基材内に、ヘリウム又はアルゴンの単独、又はヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスを連続的に導入しつつ、大気圧近傍の圧力下に、交流電圧を印加し、大気圧グロープラズマ放電を励起し、袋状物内面を処理する袋状物の内面処理方法を提供する。
【0008】[4]本発明は充填又は連続的に導入されるヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスが、ヘリウム又はアルゴン全量当たり、0.01〜10容量%のプラズマ重合性単量体等の処理ガスとの混合組成である[2]または[3]記載の袋状物の内面処理方法を提供する。
【0009】本発明に使用される袋状物は軟質プラスチック製であり、例えば可塑化塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、その他各種エラストマー等があげられるがこれらに限定されるものではない。
【0010】また、プラズマ励起時における大気圧近傍の圧力とは、低圧プラズマ処理時のように、プラズマを形成する領域において、真空装置を使用し、減圧(真空)状態とすることなく、後述するように袋状物内の空気をヘリウム又はアルゴンの単独、又はヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスにて置換するかまたは置換するために前記ガス等を連続的に導入する場合に、これらのガス等を大気に連通したガス排出口より連続的に排出し、袋状物内の圧力を大気圧と同等の圧力にすることによりプラズマ領域が大気圧近傍の圧力となっている状態である。
【0011】被処理基材に、大気圧グロープラズマ処理されるプラズマ重合性単量体等の処理ガスとは、エチレン、プロピレン、弗化プロピレン、テトラフルオロエチレン、弗化ビニリデン等のビニル重合成化合物のみならず、メタン、エタン等飽和炭化水素類、モノシラン、ジシラン、四塩化ケイ素等のシラン化合物、四弗化メタン、六弗化エタン等のハロゲン化炭化水素類、酸化エチレン、ジメチルエーテル、アセトン等の含酸素化合物類等の本来重合性ではない化合物もあげられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】ここで、本大気圧グロー放電プラズマ処理においては交流電圧を印化することが重要であり、処理速度(製膜速度等)の制御、導入するプラズマ重合性単量体の種類、被処理基材の種類等の条件に応じて適宜に設定するもので、ある特定の周波数に限定されるものではないが、本発明のプラスチック基材への処理においては、13.56MHz以下の周波数が望ましく、さらに望ましくは100kHz以下である。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明は例えば、図1の処理装置1を用いて行うことができる(図2は図1のA−A断面図)。処理装置1は内側に電極2(3)を配置した二つの絶縁性ハウジング6、6を被処理基材の収納室Cを隔てて対向して配置し、絶縁性ハウジング6の側部に、途中に熱交換器10a(10b)を配置した循環パイプ9を接続し、被処理基材の収納室C内にガス導入管固定具12を配置しこれにガス導入管8を介してヘリウムガス等の導入ライン5a、5bを接続したガス混合槽11を連結することにより構成されている。ガス導入管固定具12には大気と連通する排気管18が接続されている。絶縁性ハウジング6の空間内には例えばシリコンオイル等の絶縁油7が充填され、これらは循環パイプ9、熱交換器10a、10bを循環しながら冷却、又は加温されることにより処理温度の設定、管理を行うことができる。被処理基材4は前記被処理基材の収納室Cに配置され、被処理基材4の開口部にガス導入管8と排気管18の開口端部を連通し、ガス導入管固定具12により残りの被処理基材4の開口部を閉じる。このとき電極板2(3)は、絶縁性ハウジング6の収納室C側に配置しても処理は可能であるが、電極板2(3)と被処理基材4が直接接することもあり、電極板2(3)が発する熱により、被処理基材4が影響を受けることもあり、絶縁性ハウジング6の内側とした方が好ましい。
【0014】被処理基材4を被処理基材の収納室Cにセットした後、ガス導入管8よりヘリウム又はアルゴンの単独、又はヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスを被処理基材4内に連続的に導入し、大気圧近傍の圧力下で、交流電圧を印加してグロープラズマを励起し処理を行う。このとき、大気圧グロー放電プラズマが励起され得るのは、処理装置において混合ガスの存在する被処理基材4の袋内のみであり、当然処理され得るのは被処理基材4の内表面で、外表面は基材の性状を保つため、本発明により処理部位を選択的に行うことが可能である。
【0015】[実験例1]軟質塩化ビニル製の袋を洗浄乾燥後に試料(被処理基材4)とし図1の処理装置1の被処理基材の収納室Cにセット後、袋内に、ヘリウム99.9部/四弗化メタン0.1部の混合ガスを連続的に導入し、大気圧近傍の圧力下10kHz、5kVの交流電圧を印加すると、袋内にグロー放電プラズマが励起された。放電を5分間維持し、表面処理を行った。この袋内面の水に対する接触角を測定すると平均108°を示した。これにより袋内面を疎水化処理できることが確認できた。
【0016】[実験例2]軟質ポリオレフィン製の袋を洗浄乾燥後に試料(被処理基材4)とし図1の処理装置1の被処理基材の収納室Cにセット後、袋内に、ヘリウム99.5部/酸化エチレン0.5部の混合ガスを連続的に導入し、大気圧近傍の圧力下10kHz、5kVの交流電圧を印加すると、袋内にグロー放電プラズマが励起された。放電を5分間維持し、表面処理を行った。この袋内面の水に対する接触角を測定すると平均25°を示した。これにより袋内面を親水化処理できることが確認できた。
【0017】[実験例3]軟質塩化ビニル製の袋を洗浄乾燥後に試料(被処理基材4)とし図1の処理装置1にセット後、袋内に、ヘリウム99.9部/六弗化プロピレン0.1部の混合ガスを連続的に導入し、大気圧近傍の圧力下10kHz、5kVの交流電圧を印加すると、袋内にグロー放電プラズマが励起された。放電を5分間維持し、表面処理を行った。さらに、処理シートを新鮮家兎多血小板血漿と37℃にて1時間接触させ、抗血栓性を評価した。
【0018】ATR−IR法により本実験例3のプラズマ処理シートは図3に示すようにC−F結合を示す1200cm-1付近の吸収が増加し表面にポリ六弗化プロピレンがコーティングされていることが確認できた。また、処理シートは、未処理のシートと比べ血小板の粘着が抑制されていた。これにより袋内面を抗血栓性処理できることが確認できた。
【0019】また本発明によれば、例えば軟質塩化ビニル製血液バッグをプラズマ処理装置1の収納室C内にセットし、テトラフルオロエチレンを10〜0.01容量%含むヘリウムガスを充填後、交流電圧を印加し大気圧グロー放電プラズマを励起して、血液バッグ内面に抗血栓性、生体適合性に優れたポリテトラフルオロエチレンをコーティングすることも可能で、軟質塩化ビニル製血液バッグの生体適合性を向上することができる。
【0020】
【発明の効果】以上述べたように、本発明は、軟質プラスチック製袋状物の内面を選択的に、親水化、疎水化等の表面処理を行うことができ、工業製品のみならず、血液バッグ等の医療用具への応用も可能である。また、プラズマ処理時において、プラズマ領域、及び袋内を高真空下に保つことなく、ヘリウム又はアルゴンの単独、又はヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスで、大気圧近傍の圧力下に、交流電圧を印加し、グロープラズマ領域を形成し、プラズマ開始重合等の処理を行うことができた。本発明は、従来の低温グロープラズマ法に比べ、真空系の形成のための装置、設備が不要でコスト的に有利に、表面処理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の処理装置の一例を示す概略図。
【図2】図1のA−A断面図。
【図3】実験例3で得た大気圧グロープラズマ処理された、袋状物内面のATR−IRの測定図。
【符号の説明】
1 処理装置
1A 高周波電源
2、3 電極板
4 被処理基材
5a、5b ヘリウムガス等の導入ライン
6 絶縁性ハウジング
7 絶縁油(シリコンオイル等)
8 ガス導入管
9 循環パイプ
10a、10b 熱交換器
11 ガス混合槽
12 ガス導入管固定具
18 排気管
C 被処理基材の収納室

【特許請求の範囲】
【請求項1】 袋状物内に充填又は連続的に導入される気体を大気圧近傍の圧力下、交流電圧を印加しグロー放電プラズマ励起して袋内面を処理することを特徴とする袋状物の内面処理方法。
【請求項2】 充填又は連続的に導入される気体がヘリウム又はアルゴンの単独、又はヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスであることを特徴とする請求項1記載の袋状物の内面処理方法。
【請求項3】 被処理基材内の空気を、ヘリウム又はアルゴンの単独、又はヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスに置換した後、または、置換した後にこの被処理基材内に、ヘリウム又はアルゴンの単独、又はヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスを連続的に導入しつつ、大気圧近傍の圧力下に、交流電圧を印加し、大気グロー放電プラズマを励起し、袋状物内面を処理することを特徴とする袋状物の内面処理方法。
【請求項4】 充填又は連続的に導入されるヘリウム又はアルゴンを主成分とする混合ガスが、ヘリウム又はアルゴン全量当たり、0.01〜10容量%のプラズマ重合性単量体等の処理ガスとの混合組成であることを特徴とする請求項2ないし3記載の袋状物の内面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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