説明

被処理体における筆跡消失方法及びその装置

【課題】少量の溶媒の使用により、インクにより筆跡が直接記載されている被処理体における筆跡の消失を行う方法、及びその装置を提供する。
【解決手段】d−リモネンを主成分とする溶媒を有する吸着材4を処理容器11に収容し、インクにより筆跡2が直接記載されている被処理体1を処理容器11に供給して回転又は振動させ、前記被処理体1に吸着材4を動的に接触させてインクの筆跡2を溶媒の化学的作用により消失させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、複数のプラスチック容器等の被処理体にインクなどにより直接記載された筆跡の消失方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特開2008−80638号公報に記載の筆跡消失方法、及び筆跡消失装置は、基材と、基材の少なくとも一方の表面に形成された記録媒体の表面に、インキにより筆記した筆跡を、沿面放電またはコロナ放電により発生させた酸化性ガスに曝して、筆跡を消去するようにした構成である。
【特許文献1】2008−80638公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、特許文献1に記載の筆跡消失方法、及び筆跡消失装置は、筆記済み媒体を導電性エンドレスベルトに載せて放電電極との間でコロナ放電により発生させた酸化性ガスに曝して、筆跡を消去するようにしており、放電電極と筆記済み媒体との間の距離が30mm以下であるため、それ以上の高さを有するペットボトル、点滴ボトルのような液体容器にインキにより直接記載した筆跡の消去には適しておらず、改善が望まれていた。
【0004】
本発明は、液体容器のような高さを有する容器にインクなどによる筆跡が直接記載されている被処理体における筆跡の消失を行う方法、及びその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、d−リモネンを主成分とする溶媒を有する吸着材を、インクにより筆跡が直接記載されている被処理体に動的に接触させ、前記筆跡を溶媒の化学的作用により消失させるようにしたことを特徴とする被処理体における筆跡消失方法である。
【0006】
また、請求項2に係る発明は、d−リモネンを主成分とする溶媒を有する吸着材と、回転又は振動する処理容器とを有し、前記処理容器に、前記吸着材とインクにより筆跡が直接記載されている被処理体を収納して揺動し、前記吸着材を被着体に動的に接触させて筆跡が消失された被処理体を回収するようにしたことを特徴とする被処理体における筆跡消失装置である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、吸着材の溶媒を、インクなどにより筆跡が直接記載されている被処理体に動的に接触させて、被処理体における筆跡の消失を行うことができる。
【0008】
筆跡が消失された被処理体の本体は、リサイクルのために次の工程、例えば破砕工程に進めることができる。この被処理体の本体は、インクの筆跡が消失されているため、環境保全に役立つと認められた商品向け原料に、全量向けることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0010】
図1は、筆跡消失装置の実施例1を示す側面図、図2は、吸着材を例示するスポンジ状部材、不織布、用具の斜視図、また、図3は、図2に示した用具の一部欠截断面図、図4は、インクにより筆跡が直接記載されている被処理体を例示する斜視図である。以下の説明において、被処理体の例として使用済みの点滴ボトルを採用した。
【0011】
点滴ボトル1は、油性又は水性のインクを使用したペンで患者の氏名や使用法その他情報が表面に直接書き込まれたもので、インクにより筆跡2が直接記載されている。使用済みの点滴ボトル1は、純度が高く回収して再利用するため、及び看護婦などが使用済みになったら切断することがあるので、点滴ボトル単体の他に、点滴ボトルの切断材、或いは、ボトルを微細に粉砕する粉砕機から出る微細(例えば1mm程度)な破砕粒も含むものである。
【0012】
一方、溶媒Sには、d−リモネンを主成分とする溶媒、所謂オレンジオイルを用いる。このオレンジオイルは、柑橘類の果皮に含まれる天然成分であるため、人体に対して安全性がきわめて高いし、独特の芳香によって、作業時の環境を良好にすることができる。
【0013】
従って、d−リモネンを主成分とするオレンジオイルは、化学的作用により筆跡2を消失させるものであり、溶媒Sとして適したものである。
【0014】
図1は、筆跡消失装置10の側面図である。図1において、筆跡消失装置10は、上部に開口11a及び蓋11bを有するつぼ形の処理容器11と、この処理容器11の支持台12とにより構成されている。蓋11bは、柔軟なシート材を開口11aに紐で取付けて代用することができる。
【0015】
前記処理容器11は、下部近傍の外周にフランジ13が設けられ、このフランジ13の下面にギア14が形成され、また、底部中心に位置して図示しない軸部が外部に突出して設けられている。
【0016】
前記支持台12は、矩形枠状の底部15aの対向する側辺に2本の支柱の上部を連結材15bで接合した1対のコ字形枠15,15が立設されている。また、底部15aは、下部の前後左右に4つの車輪21が取付けられていて、筆跡消失装置10を移動できるようになっている。
【0017】
前記連結材15bは、中央に後述する円弧状の支持部材16の両端を取付けるための係合部15cが設けられている。支持部材16は、処理容器11の底面に沿うように取付けられ、中央部に設けられた軸受け部に処理容器11の軸部が装着されて、処理容器11を回転可能に支持している。また、一方の係合部15cは、従動プーリ18とともに従動プーリ18の軸18bに固定された軸部歯車18aが回転可能に取付けられている。
【0018】
底部15aには、モータM及び中間プーリ17が離間して設けられている。中間プーリ17は、モータMの駆動軸に装着されたモータプーリ19とベルト20aで連結されている。また、中間プーリ17に同軸に固定されている軸部プーリ17aは、従動プーリ18とベルト20bで連結されている。従動プーリ18は、その軸18bに固定された軸部歯車18aが処理容器11のフランジ13の下面に設けられたギア14に噛合わされているので、従動プーリ18が回転すると、処理容器11が低速で回転駆動される。
【0019】
次に、筆跡消失装置10の動作について説明する。溶媒Sを有する多数の吸着材4,4,・・を処理容器11内に収納しておく。そして、インクにより筆跡2が直接記載されている被処理体1を処理容器11に供給して上部の蓋11bを閉じて開口11aを塞ぐ。
【0020】
吸着材4は、d−リモネン溶媒を含ませたり、付着させたりして使用するので、d−リモネン溶媒に溶けない素材のスポンジ状部材4a、或いは不織布4bを使用する。また、吸着材4は、d−リモネンを極少量だけ浸み出させる用具4cを使用してもよい。
【0021】
用具4cの例としては、一端に開口50aを有する有底な筒状の容器50の壁部51に細孔52を複数設け、d−リモネン溶媒に溶けない素材からなる複数の浸み出し部材53を埋設し、容器50内にd−リモネン溶媒を充填し、蓋材54にて開口50aを閉塞してなる。
【0022】
処理容器11は、図1に示すような所定立体角度となるように設置され、モータMを駆動することによりモータプーリ19が回転する。モータプーリ19は、回転するとベルト20aを駆動して中間プーリ17及び中間プーリ17に同軸に固定されている軸部プーリ17aを回転させる。また、軸部プーリ17aは、回転するとベルト20bを駆動して従動プーリ18及び従動プーリ18に同軸に固定されている軸部歯車18aを回転させる。軸部歯車18aは、回転すると軸部歯車18aと噛合っているフランジ13の下面に設けられたギア14を駆動して、処理容器11を周方向に回転させる。
【0023】
処理容器11の回転により、溶媒Sを有する多数の吸着材4,4,・・は、インクにより筆跡2が記載されている被処理体1と混ぜ合わされて動的に接触する。これにより、処理容器11において、回転中に吸着材4が被処理体1の表面を擦るので、吸着材4に含浸された溶媒Sが被処理体1に動的に接触し、インクの筆跡2を溶媒の化学的作用により消失させる。その後、各被処理体1の筆跡2が消失したら、被処理体1を回収する。
【実施例2】
【0024】
図5は、筆跡消失装置の実施例2を示す斜視図である。筆跡消失装置30は、軸体31の両端を所定高さに固定して水平に保持する支持台32と処理容器33と、駆動用のモータ34とにより構成されている。そして、処理容器33は、前板33a、後板33b、側板33c,33dを有する四角い箱形である。この処理容器33は、前板33aが軸体31に並行配置されるとともに、前板33aの両端近傍が軸体31に回転可能に固定されている。処理容器33は、片方の側板33cの外部に回転プーリー35が取り付けられていて、その軸35aは、側板33cの外面に垂直に突出して設けられている。
【0025】
また、モータ34の回転軸には、回転プーリー35と当接して上下動させるカム36が固定されている。カム36は、半径の長さが最小から最大に長くなる同形部分が等角度間隔で複数形成され、モータ34の回転により回転プーリー35との当接部(上部)における半径の長さが最小から最大になる状態を繰り返す。
【0026】
以上の構成において、筆跡消失装置30は、モータ34を駆動すると、カム36が回転して回転プーリー35との当接部における半径の長さが最小から最大になる状態を繰り返し、回転プーリー35を上下動させる。これにより、処理容器33は、前板33a側を支点として後板33b側が上下動して、溶媒Sを有する多数の吸着材4及びインクにより筆跡2が直接記載されている被処理体1を振動させる。筆跡消失装置30は、処理容器33が振動することにより、吸着材4,4,・・が被処理体1と混ぜ合わせされて動的に接触し、インクの筆跡2を溶媒の化学的作用により消失させる。
【実施例3】
【0027】
図6は、筆跡消失装置の実施例3を示す斜視図である。筆跡消失装置40は、クランク機構41と、処理容器42と、駆動用のモータ43とにより構成されている。
【0028】
クランク機構41は、モータ43により回転し、上部に突起44bが設けられている円盤カム44aと、突起44bが遊嵌される長孔44cが一端近傍に設けられたクランク軸44dと、一端近傍がクランク軸44dの他端と回動可能に接続された連結ロッド44eとから構成されている。
【0029】
処理容器42は、前板42a、後板42b、側板42c,42dを有する四角い箱形であり、前板42aの中央部に連結ロッド44eの他端が回動可能に接続されて、連結ロッド44eを前方に突出して固定されている。処理容器42の下部には複数のローラ45,45・・・が、前板42a及び後板42bと平行に配置され、また、処理容器42の側板42c,42dに沿う外側には、ガイドレール46,46が設けられている。
【0030】
以上の構成において、筆跡消失装置40は、モータ43を駆動すると、円盤カム44aの上部に設けられている突起44bが円運動する。クランク軸44dは、突起44bが遊嵌されている長孔44cが突起44bとともに円運動することで、連結ロッド44eが長手方向に引かれ、又は、押されることが繰り返される。
【0031】
これにより、処理容器33は、前後移動を繰り返して、溶媒Sを有する多数の吸着材4及びインクにより筆跡2が直接記載されている被処理体1を振動させる。筆跡消失装置40は、処理容器42が振動することにより、吸着材4,4,・・が被処理体1と混ぜ合わせされて動的に接触し、インクの筆跡2を溶媒の化学的作用により消失させる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】筆跡消失装置の実施例1の一部欠截側面図である。
【図2】は吸着材を例示するスポンジ状部材、不織布、用具の斜視図である。
【図3】は、図2に示した用具の一部欠截断面図である。
【図4】インクにより筆跡が直接記載されている被処理体を例示する斜視図である。
【図5】筆跡消失装置の実施例2の斜視図である。
【図6】筆跡消失装置の実施例3の斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
1 点滴ボトル
2 筆跡
4 吸着材
4a スポンジ状部材
4b 不織布
4c 用具
10,30,40 筆跡消失装置
11,33,42 処理容器
11a 開口
11b 蓋
12 支持台
13 フランジ
14 ギア
15 コ字形枠
15a 底部
15b 連結材
15c 係合部
16 支持部材
17 中間プーリ
17a 軸部プーリ
18 従動プーリ
18a 軸部歯車
18b 従動プーリの軸
19 モータプーリ
20a,20b ベルト
21 車輪
31 軸体
32 支持台
33a,42a 前板
33b,42b 後板
33c 33d,42c,42d側板
34,43,M モータ
35 回転プーリー
36 カム
41 クランク機構
44a 円盤カム
44b 突起
44c 長孔
44d クランク軸
44e 連結ロッド
45 ローラ
46 ガイドレール
51 ボトル
51b 開口部
52 中蓋
52a 中軸穴
53 浸み出し部材
54 キャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
d−リモネンを主成分とする溶媒を有する吸着材を、インクにより筆跡が直接記載されている被処理体に動的に接触させ、前記筆跡を溶媒の化学的作用により消失させるようにしたことを特徴とする被処理体における筆跡消失方法。
【請求項2】
d−リモネンを主成分とする溶媒を有する吸着材と、回転又は振動する処理容器とを有し、前記処理容器に、前記吸着材とインクにより筆跡が直接記載されている被処理体を収納して揺動し、前記吸着材を被着体に動的に接触させて筆跡が消失された被処理体を回収するようにしたことを特徴とする被処理体における筆跡消失装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−95677(P2010−95677A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−269754(P2008−269754)
【出願日】平成20年10月20日(2008.10.20)
【出願人】(506310991)株式会社タカヤナギ (5)
【出願人】(508313781)有限会社リフレジャパン (2)
【Fターム(参考)】