説明

被処理物ラッキング装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】アルミニウム形材等長尺被処理物の表面処理工場における縦吊り搬送において、搬送用キャリアバーに多数の被処理物を枠吊りするための機構に関する。
【0002】
【従来の技術】アルミニウムサッシ材のような長尺の形材の表面処理においては、通常、形材はその長手方向の一端を吊り治具を介して銅被キャリアバーに取り付け、縦吊り状態で表面処理工程を搬送するようにしている。
【0003】例えば、図5(a)に示すように、この形材31を取り付ける吊り治具32は、キャリアバー33に保持部材34を介して取り付けられ且つ屈折端35aを有する銅板フック35とこの銅板フック35側にバネ付勢された押さえ具36とからなり、予め形材31の一端の一側面に形成した切り溝37に前記銅板フック35の屈折端35aを係合させ、この銅板フック35と押さえ具36とで、形材31を把持できるようにされている。
【0004】より具体的には、このキャリアバー33への形材31の取付けは、形材載置台38上に懸架載置された形材31に対してキャリアバー33を直交方向に移動させるか、または、架台に横置されたキャリアバー33に対して形材載置台38ごと形材31を直交方向に移動させて、形材31の切り溝37にキャリアバー33の銅板フック35を係合させ、バネ付勢された押さえ具36で形材31の他側面を押さえることにより形材31の一端を把持させるようにして行っている。また、形材載置台38の上表面には、平板状にゴム板等摩擦板39を貼り付けておき、図5(b)の矢印のように、キャリアバー33を移動させて係合する際、形材31もまた形材載置台38上を滑って移動し位置ずれを生じるのを抑えるようにしている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、この場合、例えばキャリアバーの吊り治具と形材載置台上の形材との水平レベル精度が十分にとれていないと、形材載置台の摩擦板と形材との接触が面接触にならず、線または点接触となって不十分接触となり、また、場合によっては形材と接触しない形材載置台もあるなど、各形材載置台表面に摩擦係数の大きい摩擦材を接合したとしても、この形材載置台と形材との滑りを抑えるには十分でなく、自動操業において、形材の位置ずれにより吊り治具の銅板フックが形材の切り溝に係合しない場合がしばしばあった。
【0006】また、自動操業において、このように吊り治具の銅板フックが形材の切り溝に係合しない場合には、作業員が直接その場所へいって、手作業による形材の位置修正等手直しを行う必要があるため、その間は、自動係合作業およびそれに連係する枠吊り作業即ちキャリアバーによる形材の吊り上げ作業等を停止させなければならず、生産性を阻害する要因となっていた。
【0007】さらにまた、この場合、作業員は狭いキャリアバーの上に乗り、しゃがむような不安定な姿勢で形材の位置修正等手直し作業を行うため、作業員の作業場所からの転落や手指の切傷等事故を招来し易く、作業の安全性の点からも問題があった。
【0008】従って、本発明は、このような問題に鑑み、キャリアバーの吊り治具即ち引掛部と形材載置台の水平レベル精度等が十分でなくても、形材載置台と形材との接触が十分に行われて摺動摩擦力が高く、形材載置台による形材の移動に際して位置ずれがなく、引掛部と形材との係合が容易に且つ確実に行えるようにし、従って、係合作業や枠吊り作業が停止することによる生産性の阻害要因を排除し、また係合作業における作業員の介入を不要として作業の安全性を向上させることを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、本発明は、被処理物に形成した係合部に係合する引掛部を有し長尺の被処理物を縦吊りにして搬送するキャリアバーと、倒伏状態の被処理物を載置する被処理物載置台と、前記キャリアバーと前記被処理物載置台の少なくとも一方を被処理物の長手方向に移動する駆動装置を備え、被処理物の係合部形成面と前記キャリアバーの引掛部を相対向して配置すると共に、前記被処理物載置台の上面に可撓性を有する摩擦材を上方に弯曲して設けた被処理物ラッキング装置を、また、前記摩擦材は、並列した多数の短冊状摩擦材の集合体からなるところの被処理物ラッキング装置を、そして、前記短冊状摩擦材は一定幅に形成されているところの被処理物ラッキング装置を、あるいは、前記摩擦材は、幅方向の多数の溝を並列的に形設した長方形摩擦材からなるところの被処理物ラッキング装置を、そして、前記溝は一定ピッチで形設されているところの被処理物ラッキング装置を、さらに、前記摩擦材は、ゴム板であるところの被処理物ラッキング装置を提案する。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、図面により本発明の実施の形態について説明する。
【0011】図1に示した形材を被処理物とする形材ラッキング装置Aは、2条の長尺の形材載置台1を備え、図示しない形材搬送手段によって搬入された形材2を形材載置台1上に受け入れ、水平状態でキャリアバー3への取付け作業および縦吊り作業を行うものであり、表面処理工程におけるキャリアバー3による複数の形材2の搬送を可能とするものである。
【0012】形材載置台1は搬入される形材2の長手方向に直角に並列され、それぞれ空圧シリンダ5により架台上に支えられ、各形材載置台1は一体的に上下動できるようにされている。また、各形材載置台1はその上表面を摩擦板4で弯曲状に被覆されている。即ち、この摩擦板4は、可撓性が大で、且つ、摩擦力の大きい材質の合成ゴム等による弾性ゴム板を用い、図2(a)に示すように、形材載置台1と略同長で、形材載置台1より広幅の長方形摩擦板4Aによっており、この摩擦板4Aは、幅方向の縁部4Aaを形材載置台1の両側面に接合することによって形材載置台1の上表面を弯曲状に被覆させることができ、載置する形材2をその重量に応じて変形して受けることにより十分な面接触を保ち、従って形材載置台1上における形材2の位置ずれを防止できるものである。
【0013】また、摩擦板4は、図2(b)に示すように、多数の同幅の短冊状摩擦板6の集合体による摩擦板4Bとして形成することができる。即ち、短冊状摩擦板6を並列して端部6aを形材載置台1の両側面に接合し、弯曲状に形材載置台1の上表面を被覆させることができる。摩擦板4Bは、短冊状摩擦板6,6間の段差を利用すると共に板面の変形度を高めて形材表面に対する密接度をより高いものにすることができる。
【0014】さらにまた、図3に示すように、摩擦板4は、四周に縁部を残し、略全面に渡って等ピッチで多数の幅方向の溝7を並列的に形設させた長方形摩擦板4Cによって形成することができ、この場合、図2(c)に示すように、摩擦板4Cは、幅方向の縁部4Caを形材載置台1の両側面に接合することによって、形材載置台1の上表面を、上記の短冊状摩擦板6による摩擦板4Bの場合と同様に、多数の細幅の摩擦板部4Cbで弯曲状に被覆する形となり、摩擦板部4Cb,4Cb間の段差が利用でき、且つ、板面の変形度を高めて形材1との密接度を高めることができる。
【0015】さらに、図1の形材ラッキング装置Aは、形材載置台1の前後端を挟んだ形に位置させた左右一対のビーム8を備え、このビーム8は、架台9に対し片持ち梁状にその基部を枢支し、また、基部に近接した箇所において油圧シリンダ10のピストンロッドに枢支させ、図示矢印のように水平位置と垂直位置との間を90°の旋回移動できるようにしてある。そして、ビーム8の先端部にはスライダ11を嵌設し、ビーム8に付設した空圧シリンダ12の作動によりビーム8の先端部に沿って往復移動できるようにしてある。また、このスライダ11には、キャリアバー3の両端部を拘持できる受け具13を付設してある。
【0016】このキャリアバー3は、銅被鋼棒で形成され、図4に示すように、予めこのキャリアバー3の側面に沿って固定された銅製の保持板14を介して吊り治具15が取り付けられている。この吊り治具15は、銅板フック16と押さえ具17とからなり、引掛部としての銅板フック16は保持板14に接して固定され、一端を屈折させて係合端16aとしてある。また、押さえ具17は保持板16に取り付けた支柱18に枢支的に支持され、後端部をハンドル部17aとし、先端部を屈曲して押さえ部17bとし、この押さえ部17bをバネ19で銅板フック16側に付勢させた状態にしてある。さらに、図1のように、ビーム8の先端部を受けて支える架台にはハンドル押さえ用の空圧シリンダ20を前後移動可能に設けてあり、この空圧シリンダ20の作動で押さえ具17のハンドル部17aを押すことにより、図4(b)のように、押さえ具17の押さえ部17bと銅板フック16の係合端16a間を強制拡口し、形材2を挿入できるようにしてある。
【0017】この形材ラッキング装置Aにあっては、形材2は、図示しないスタック域から、ローラーコンベア等搬送手段により形材2の長手方向に対して直角方向の移動即ち横方向移動により搬入される。また、この形材2は、搬送途中において、一端部を揃え、その一端部の側面に鋸歯切断機等により吊り治具係合用の係合部として切り溝21を形設された上で、上記した形材ラッキング装置Aの形材載置台1上に載置され、所定レベルに保持される。
【0018】一方、形材ラッキング装置Aのビーム8は垂直状態において、ビーム8のスライダ11を上下動させてその受け具13により、図示しない供給手段からキャリアバー3を受け取り、ビーム8の旋回移動によりキャリアバー3を水平位置に配置し、図4(a)に示す待機状態のようにする。
【0019】次いで、図4(b)のように、形材2のレベルを上げ、ハンドル押さえ用の空圧シリンダ20のピストンロッド20aにより吊り治具15の銅板フック16と押さえ具17間を拡口しながら、図示矢印のように、キャリアバー3を形材2側に前進移動させ、銅板フック16と押さえ具17間に形材2を十分に挿入する。引き続き、図4(c)のように、形材2のレベルを引下げて摺動状態でキャリアバー3を、図示矢印のように、後退移動させることにより、銅板フック16の係合端16aを形材2の切り溝21に挿入し係合させることができ、前記空圧シリンダ20のピストンロッド20aによる押さえ具17の拘束を解くことにより、形材2の一端を吊り治具15により把持させることができる。
【0020】このキャリアバー3を拘持した前記スライダ11の後退移動の際には、銅板フック16の係合端16aは、係合度を高めるために形材2の下面に対して摺動しながら移動するようにさせるが、形材2は形材載置台1の上表面に弯曲状に取り付けた高摩擦力のゴム板による摩擦板4に面接触状態で密接するので、銅板フック16に引きずられて移動することなく、所定位置での係合端16aと切り溝21との係合が順調に行われるものである。
【0021】上記の係合後、ビーム8を垂直位置に旋回移動させることによりキャリアバー3により形材2を倒伏状態から縦吊り状態に移行させることができ、このビーム8の垂直状態でスライダ11を上下動させることにより、この形材2を縦吊りしたキャリアバー3を前後移動するキャリアバー搬送手段に受渡しすることができる。
【0022】
【実施例】従来の形材載置台における摩擦板を改善し、本発明の溝を形設した長方形摩擦板、即ち、図2(c)の摩擦板4Cを実操業に適用したところ、従来の形材の縦吊り作業における銅板フックと形材の切り溝との係合不良のための手直し作業が皆無となる結果を得た。即ち、従来、512回/日あった延手直し回数がゼロとなり、平均20秒/回の手直し時間による延べ約171分というロスタイムがゼロとなった。このロスタイムの稼働時間(7.5時間×3直/日)に占める割合は約12.6%であったので、この摩擦板の改善により生産性が顕著に向上した。また、係合不良による手直しのための不安全作業がゼロとなり、作業の安全性が顕著に向上した。
【0023】なお、上記では、形材側を固定し、キャリアバー側を移動させる装置について説明したが、本発明においては、キャリアバー側を固定し、形材側を形材載置台と共に移動させる装置であってもよい。
【0024】また、形材載置台は2条に限らず3条以上でもよく、従来の平板状に摩擦板を接合した形材載置台の場合に比べ、各形材載置台と形材との接触が確実に行われるので十分な摩擦力が確保できる。
【0025】
【発明の効果】この発明によれば、長尺の被処理物を載置する被処理物載置台上に被処理物の重量に応じて変形しながら被処理物表面に密接して面接触を維持できる弯曲状の摩擦板を被覆するようにしたので、キャリアバーへの取付けの際、被処理物と被処理物載置台との摩擦力が確保され、被処理物の位置ずれがなく引掛部と被処理物の係合部との係合を確実且つ容易に行うことができる。従って、また、手直し係合作業によるロスタイムが削減され生産性が顕著に向上するという効果が得られる。さらにまた、手直し係合作業のための不安定な作業がなくなり、作業の安全性が顕著に向上するという効果が得られる。
【0026】摩擦板を多数の短冊状摩擦板を並列した集合体として構成したもの、あるいは、溝を形設して細幅摩擦板部を並列させた長方形摩擦板に構成したものにおいては、摩擦板または摩擦板部における板面の段差の形成及び変形性がよく、載置する形材によりよく密接して摩擦力を向上させるという効果を奏し、短冊状摩擦板または溝による細幅摩擦板部の幅寸法を一定寸法となるように形成するようにしたものにおいては、載置する被処理物の形状種類に問わず適合性があり、また、該摩擦板の製作性がよいという効果を奏する。
【0027】さらに、ゴム質材で形成した摩擦板は、摩擦係数が大で可撓性があり、且つ、入手が容易で経済性があるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の形材ラッキング装置の側面図である。
【図2】図1の形材ラッキング装置における形材載置台の斜視図で、(a)は長方形摩擦板の被覆状況、(b)は短冊状摩擦板の被覆状況、(c)は溝を形設した長方形摩擦板の被覆状況をそれぞれ示す斜視図である。
【図3】図2(c)の長方形摩擦板の展開平面図である。
【図4】図1の形材ラッキング装置におけるキャリアバーと形材の取付け状況を示す側面図で、(a)は待機時、(b)は形材の受け入れ時、(c)は形材の係合時をそれぞれ示す側面図である。
【図5】従来の形材ラッキング装置におけるキャリアバーへの取付け状況を示す側面図で、(a)は取付け終了時、(b)は取付け時をそれぞれ示す側面図である。
【符号の説明】
A 形材ラッキング装置
1 形材載置台
2 形材
3 キャリアバー
4,4A,4B,4C 摩擦板
4Cb 細幅摩擦板部
5 空圧シリンダ
6 短冊状摩擦板
7 溝
8 ビーム
9 架台
10 油圧シリンダ
11 スライダ
12 空圧シリンダ
13 受け具
14 保持板
15 吊り治具
16 銅板フック
17 押さえ具
18 支柱
19 バネ
20 空圧シリンダ
21 切り溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】 被処理物に形成した係合部に係合する引掛部を有し、長尺の被処理物を縦吊りにして搬送するキャリアバーと、倒伏状態の被処理物を載置する被処理物載置台と、キャリアバーと被処理物載置台の少なくとも一方を被処理物の長手方向に移動する駆動装置を備え、被処理物の係合部形成面とキャリアバーの引掛部を相対向して配置すると共に、被処理物載置台の上面に可撓性を有する摩擦材を上方に弯曲して設けたことを特徴とする被処理物ラッキング装置。
【請求項2】 前記摩擦材は、倒伏状態の被処理物の長手方向と平行に並列した複数の短冊状摩擦材の集合体であることを特徴とする請求項1記載の被処理物ラッキング装置。
【請求項3】 前記短冊状摩擦材が一定幅に形成されていることを特徴とする請求項2記載の被処理物ラッキング装置。
【請求項4】 前記摩擦材は、倒伏状態の被処理物の長手方向と平行な複数の溝を設けたことを特徴とする請求項1記載の被処理物ラッキング装置。
【請求項5】 溝を一定ピッチで設けたことを特徴とする請求項4記載の被処理物ラッキング装置。
【請求項6】 前記摩擦板は、ゴム板であることを特徴とする請求項2または4記載の被処理物ラッキング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3436105号(P3436105)
【登録日】平成15年6月6日(2003.6.6)
【発行日】平成15年8月11日(2003.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平9−319035
【出願日】平成9年11月5日(1997.11.5)
【公開番号】特開平11−140693
【公開日】平成11年5月25日(1999.5.25)
【審査請求日】平成13年12月26日(2001.12.26)
【出願人】(000175560)三協アルミニウム工業株式会社 (529)
【参考文献】
【文献】特開 平9−157894(JP,A)