説明

被膜の除去方法

【目的】樹脂基体の被膜が充分に剥離され、しかもこの基体を再度工業的用途にリサイクル使用できる被膜の除去方法を提供する。
【構成】表面に被膜を有する樹脂基体を、濃度0.1wt%以上のアルカリ水溶液中で、温度110℃以上で該基体が溶融する温度より低い温度で処理し、さらに該基体を溶融状態でスクリーンメッシュを通過させる樹脂基体表面の被膜の除去方法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、塗膜の除去方法に関し、特に、塗膜をアルカリ処理によって易剥離化しさらに必要に応じ水洗等を行い剥離した塗膜を除去した後溶融状態でスクリーンメッシュを通過させることにより被膜を表面に有している基体の被膜を除去し、基体を再度同一用途を含む工業的用途にリサイクル使用できる樹脂材料とするための被膜の除去方法に関する。
【0002】
【従来の技術】一般に、樹脂成形品は、金属製品、ガラス製品などに比較し、軽量で耐衝撃性に優れているばかりでなく、安価で成形加工が容易であるなどの利点を有しており、自動車、家庭電化製品、日用雑貨品、その他の多くの分野で使用されている。特に自動車業界においては車体重量の軽量化を図るため、年々車体に占める樹脂製部品の点数が増加の傾向にある。これら樹脂製品の多くは、耐傷つき・耐候性能の向上、製品美観向上の手段として塗装が施される。この塗装塗料に用いられる塗料には、樹脂成形品との接着性、塗膜自身の性能の面から三次元架橋構造を形成する材料が多く用いられる。しかし、この優れた塗膜性能が故に、なんらかの理由で塗装により形成された被膜を剥離させる必要が生じた場合、強固な架橋構造を持つ被膜は容易には剥離されない。
【0003】一方、被膜の剥離は、塗装工程に不良が発生した場合や、性能の劣化した旧塗膜を新塗膜に置き換える場合、被塗装樹脂成形品の樹脂基材のみを再利用する場合など多くの場面で必要とされ、産業上重要な技術である。従来行われてきた被膜の剥離、除去方法は、物理的剥離、化学的剥離に大別される。この内、物理的剥離はサンドペーパーなどで被膜を削る方法である。化学的剥離は大略次に揚げる3つに分けられる。
1)塩素系溶剤を主成分とする剥離剤による除去(特公昭51−34238号公報、同57−76065号公報、同59−117567号公報)。
2)有機物質を主成分とする剥離剤による除去(特開昭50−109925号公報、特開平1−289878号公報、同2−274775号公報)。
3)無機物質を主成分とする剥離剤による除去(特開昭50−109925号公報、同59−131674号公報、同61−162568号公報)。
また、その他、上記3種の剥離剤の主成分を任意に混合してなる剥離剤、また、これらに他の成分を任意に混合してなる剥離剤を使用する除去方法もある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような従来の被膜の除去法にあっては、除去しようとする被膜の種類、厚み等により被膜の除去が不完全になることがある。被膜を除去した樹脂製品を再度同一用途にリサイクル使用する場合、被膜の除去が不完全であると製品の物性等が低下してしまう。
【0005】本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決し、樹脂製品等の基体表面に形成された被膜を十分に除去して樹脂物性の低下を防ぎ、リサイクル使用可能な再生樹脂とすることができる被膜の除去方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は、表面に被膜を有する樹脂基体を、濃度0.1wt%以上のアルカリ水溶液中で、温度110℃以上で該基体が溶融する温度より低い温度で処理し、さらに該基体を溶融状態でスクリーンメッシュを通過させる樹脂基体表面の被膜の除去方法を提供する。
【0007】ここで、アルカリ水溶液が、NaOHまたはKOHであり、アルカリ水溶液の濃度が0.2〜4wt%であり、アルカリ水溶液中での処理が、基体が溶融する温度より低温で、かつ140℃より高い温度、例えば温度150〜170℃の浸漬処理である被膜の除去方法が好ましい。
【0008】さらに、前記基体を溶融状態でスクリーンメッシュを通過させる方法が、開口度40〜18μmのスクリーンメッシュを吐出口に有する押出機を用いて行うものである被膜の除去方法被膜の除去方法が好ましい。
【0009】また、前記基体を溶融状態でスクリーンメッシュを通過させる時のスクリーンメッシュ目詰まりによる圧力上昇が10kg/cm2以下であり、被膜が、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を主成分とする被膜であり更にこれら樹脂の混合被膜および積層被膜であり、熱硬化性樹脂がアルキド系、アクリル系、ポリエステル系樹脂を主成分とする樹脂である被膜の除去方法が良い。
【0010】以下、本発明の被膜の除去方法(以下、「本発明の方法」と省略することがある。)について詳細に説明する。
【0011】本発明の方法は、樹脂基体の表面に形成された被膜を除去する方法である。被膜を除去される樹脂基体は、特に制限されず、いずれの材質であってもよい。またガラス繊維やカーボン繊維、無機粉体により充填補強された樹脂基体も含まれる。特に、本発明の方法は、ポリオレフィンからなる基体の表面の被膜を除去する際に有効である。ポリオレフィンからなる基体の中でも、特にプロピレンからなる成形品が基体である場合に、ポリプロピレンはポリオレフィンの中でも融点が高く、より高温で有効なアルカリ処理が可能なため、本発明の方法が有効である。
【0012】本発明方法を適用する際の基体の形状は、特に制限されないが、アルカリ水溶液である水性剥離液と被膜との接触面積が増大し、複雑形状の樹脂製品に表面研磨等の処理を行うことが容易となるので粉砕体、粒状体等であるのが好ましい。その大きさは、およそ粒径0.5〜20mmであるのが好ましい。
【0013】本発明の方法は、樹脂基体の表面に形成された被膜、特に硬化性塗膜を除去する方法として有効である。本発明の方法によって剥離される硬化塗膜は、フェノール系塗料、ポリエステル系塗料、アルキッド系塗料、アクリル系塗料、ポリウレタン系塗料、エポキシ系塗料などの塗料を塗布し、硬化して形成された被膜が挙げられる。特に、自動車の塗装に用いられるポリエステルウレタン、ポリエステルメラミン、アクリルウレタン、アクリルメラミンなどからなる硬化塗膜を剥離するのに、本発明の方法は好適である。
【0014】さらに、この硬化塗膜は、樹脂基体の表面に直接形成されているものでもよいし、プライマー層を介して樹脂基体の表面に形成されているものでもよい。このプライマーは特に限定されず、この種の樹脂基体の表面に硬化塗膜を形成するために用いられる、いずれのプライマーでもよい。また、樹脂基体表面は硬化塗膜との密着性改良のため、プラズマ処理、フレーム処理、ウォーターブラストなどの表面処理がなされていてもよい。
【0015】本発明の方法は、種々の塗料により形成された多層被膜の除去に有効である。除去される被膜の厚みは、特に限定されるものではないが、硬化塗膜として200μm厚以下が好ましく、10〜100μm、さらに30〜40μmがより好ましい。
【0016】本発明の方法で用いられる水性剥離液は、アルカリ性物質を含む水溶液である。このアルカリ物質としては、特に限定されないが、例えば、LiOH,NaOH,KOH,Mg(OH)2 ,Ca(OH)2 などの無機アルカリ性物質などが挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせてもよい。好ましくはNaOH、KOH、より好ましくはNaOHが用いられる。
【0017】水性剥離液中のアルカリ性物質の濃度は、0.1wt%以上であり、好ましくは0.1〜5wt%、さらに0.2〜4wt%であるのがより好ましい。この濃度とするのは、被膜が充分に剥離され、一方低アルカリ濃度なので取り扱い時の危険が少なく、廃水の処理が容易であるからである。
【0018】また、この水性剥離液は、前記アルカリ性物質以外に、必要に応じて、他の配合剤を含んでいても良い。例えば、界面活性剤、アンモニア、アミン類、有機溶媒などを処理促進剤として、少量、特に50wt%以下含んでいてもよい。界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルなどがあげられ、アミン類としては、例えば、トリエチルアミンなどのアミン、モノエタノールアミンなどのアルカノールアミンなどが挙げられる。また、有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、1−プロピルアルコール、2−プロピルアルコール、t−ブチルアルコールなど水との相溶性が良好であるものが挙げられる。
【0019】本発明の方法において、上述の水性剥離液によって樹脂基体を処理する方法は、特に限定されず、基体を水性剥離液を満たした槽中に浸漬する方法、オートクレーブ中で加圧下に水性剥離液中に基体を浸漬する方法、基体を水性剥離液に連続的に接触する方法など、いかなる処理方法でもよい。特に高温で基体を処理する場合には、加圧状態となるため、オートクレーブ中で水性剥離液中に浸漬する方法がよい。加圧状態で処理する場合、圧力は、温度160℃で5kg/cm2程度である。
【0020】本発明の方法において、上述の水性剥離液で硬化塗膜を表面に有する基体を処理する際の温度は、110℃以上、好ましくは140℃以上で基体が溶解する温度よりも低い温度であり、例えば、ポリオレフィンからなる基体を処理する温度は、110〜170℃であり、150〜170℃、より好ましくは150〜160℃である。さらに、処理時間は、硬化塗膜の種類、膜厚、基体の形状、寸法、あるいは処理温度などに応じて適宜選択すればよく、通常、5分〜1時間程度、好ましくは10分〜40分程度である。
【0021】本発明の方法において、水性剥離液によって樹脂基体を処理して硬化被膜を剥離または易剥離化させた後、洗浄装置にて基体表面に付着している塗膜残さを除去してもよい。
【0022】本発明の方法においては、基体を水性剥離液で処理した後、水性剥離液から基体を分離し、基体を溶融状態でスクリーンメッシュを通過させる。樹脂基体は、溶融状態でスクリーンメッシュを通過し、溶融濾過されて、その表面に残存する被膜が濾別除去される。用いるスクリーンメッシュの開口は、開口度が、好ましくは60〜18μm、より好ましくは40〜30μmとする。
【0023】樹脂基体を加圧および/または加温し溶融状態としてスクリーンメッシュを通過させる方法は、好ましくは、所望の開口度を有するスクリーンメッシュを吐出口に有する押出機中で基体を溶融押出処理する。押出機は、樹脂の溶融押し出しを行うものと類似の構造とし、その吐出口付近にスクリーンメッシュを設ければよい。さらに、このような溶融濾過装置に自動スクリーンチェンジャーを設ければ必要な時にスクリーンメッシュを交換し、濾別された被膜を除去排出することができるので長期連続運転が可能である。運転操作条件は、溶融濾過装置運転時のスクリーンメッシュ目詰まりによる圧力上昇が好ましくは、10kg/cm2以下、より好ましくは5kg/cm2以下となる運転操作条件とする。
【0024】
【実施例】以下、本発明の実施例及び比較例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例になんら限定されるものではない。
【0025】(実施例1〜9、比較例1〜7)
「塗装試料の準備」各例において、カーボンブラックを0.5%含有するポリプロピレン(三井石油化学工業(株)製、商品名:ハイポール X440,以下、PPと略称する)を射出成形に供して、厚さ3mmの角板を作製した。この角板を1,1,1−トリクロルエタン蒸気に30秒曝して処理した後、室温下、30分間放置して乾燥した。次に、角板の1,1,1−トリクロルエタンで処理された表面に、プライマー(三井石油化学(株)製、ユニストールP−801)を、エアースプレーガンを用いて、乾燥後のプライマー膜厚が約10μm程度になる様に塗布した後、常温で10分間セッティングを行った。その後、角板のプライマー膜の上に熱硬化性塗料である一液型アクリルメラミン塗料(関西ペイント(株)製、ソフレックス#1200)を、エアースプレーガン(吐出圧1kg/cm2)を用いて、硬化性塗膜の膜厚が30〜40μmになるように塗布し、10分間セッティングを行った。次いで、120℃、30分間で塗膜を硬化させ、PP製の角板の表面にプライマーを介して硬化塗膜を形成した塗装試料を得た。
【0026】「塗装試料の塗膜除去」得られた試験片を約3mm角のチップに粉砕し、得られたチップを表1に示す濃度の水性剥離液に、表1に示す温度、時間で、浸漬処理した後、室温まで冷却した。この試料チップを表1に示す開口度のスクリーンメッシュを吐出口に有する押し出し機型溶融濾過装置中に投入し、温度240℃、圧力20kg/cm2で溶融押出し濾過を行った。また、この溶融濾過装置には、オートスクリーンチェンジャーを設けて、スクリーン目詰まりによる圧力上昇が表1に示す条件となるようにスクリーンメッシュの交換を行った。
【0027】「塗膜除去効果の評価」本発明を用いて上記の試験片の被膜を除去し、その処理後の試料チップを自動車用バンパに使用することを想定して下記の各種試験を実施した。
(試験片の作製)上記処理後の試料チップを成形温度200℃の条件で射出成形に供して1.6mm厚板および円板など必要な試験片を作製した。
(1)引張試験(引張降伏点強度、引張破断伸度)
JIS K7113に準じ、23℃において測定した。
(2)高速面衝撃強度射出成形により1.6mm厚×100mm直径の円板を成形する。この円板を下穴直径60mmを有する台上に設置した後、この円板を2.5m/秒の速度で25mm(1インチ)直径の落錘にて打ち抜き、破壊エネルギー(J,ジュール)を求める。試験機としてオリエンテック(株)製高速衝撃試験機を用いた。衝撃強度が不足すると、軽衝突時にバンパが破損し、車体を損傷させたり飛散した樹脂片で二次災害を引き起こすのでこれを防止するためには破壊エネルギーが15(J)ジュール以上、破壊状態が延性であることが必要である。
なお、破壊状態は表1で以下の符号で示した。
5D :試験片5枚中5枚が延性破壊4D1B:試験片5枚中4枚が延性破壊、1枚が脆性破壊3D2B:試験片5枚中3枚が延性破壊、2枚が脆性破壊5B :試験片5枚中5枚が脆性破壊(自動車用バンパの作製)上記処理後の試料チップを用いて2000トン射出成形機により樹脂温度250℃にて図1に斜視図で示す形状のバンパを成形した。
(3)バンパ成形品の外観評価成形したバンパの外観を目視にて観察した。
評価判定基準○ バンパ表面で残存塗料などによる粗ブツの他、凹凸、ウネリ、変形、ソリ、ひけ、艶ムラ、シルバーマークなど外観不良が目立たず、光沢も良好であり、塗装後も同様の外観不良が目立たない。
× バンパ表面で外観不良が目立ったり、光沢がない。
(4)バンパ成形品の衝突実験(試験方法)台車あるいは実車にバンパを取り付け、常温および−30℃の雰囲気中で、振り子型の衝撃物(車重相当)でバンパを打撃する。
(評価方法)
常温バンパ変形量:衝撃物によるへこみ量として60mm未満を○、60mm以上を×とする。
−30℃耐衝撃性:破壊しないものを○、破壊するものを×とする。
(5)バンパ成形品の総合評価外観評価または衝撃試験において、×が1コ以上のものを×(不可)とした。
【0028】
【表1】


【0029】
【表2】


【0030】
【発明の効果】本発明の方法によれば、取り扱い時の危険が少なく廃水の処理が容易である低濃度アルカリ水溶液を用いて、被膜を剥離または剥離し易くし、さらに基体をスクリーンメッシュを用いて溶融濾過処理することにより樹脂基体の被膜が充分に剥離され、しかもこの基体を再度工業的用途にリサイクル使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の評価に用いたバンパの斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】表面に被膜を有する樹脂基体を、濃度0.1wt%以上のアルカリ水溶液中で、温度110℃以上で該基体が溶融する温度より低い温度で処理し、さらに該基体を溶融状態でスクリーンメッシュを通過させることを特徴とする樹脂基体表面の被膜の除去方法。
【請求項2】前記アルカリ水溶液が、NaOHまたはKOHである請求項1記載の被膜の除去方法。
【請求項3】前記アルカリ水溶液の濃度が0.2〜4wt%である請求項1または2に記載の被膜の除去方法。
【請求項4】前記アルカリ水溶液中での処理が、基体が溶融する温度より低温で、かつ140℃より高い温度での浸漬処理である請求項1ないし3のいずれかに記載の被膜の除去方法。
【請求項5】前記基体を溶融状態でスクリーンメッシュを通過させる方法が、開口度40〜18μmのスクリーンメッシュを吐出口に有する押出機を用いて行うものである請求項1ないし4のいずれかに記載の被膜の除去方法。
【請求項6】前記基体を溶融状態でスクリーンメッシュを通過させる時のスクリーンメッシュ目詰まりによる圧力上昇が10kg/cm2以下である請求項1ないし5のいずれかに記載の被膜の除去方法。
【請求項7】前記被膜が、熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂を主成分とする被膜であり更にこれら樹脂の混合被膜および積層被膜である請求項1ないし6のいずれかに記載の被膜の除去方法。
【請求項8】前記熱硬化性樹脂がアルキド系、アクリル系、ポリエステル系樹脂を主成分とする樹脂である請求項7に記載の被膜の除去方法。

【図1】
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