説明

被覆マグネタイト粒子の製造方法

【課題】疎水性が高く、有機溶媒中への分散性に優れ、かつ有機溶媒中での分散処理後も高い疎水性を維持し得る被覆マグネタイト粒子を製造する方法を提供すること。
【解決手段】マグネタイトのコア粒子と、その表面を被覆するシリカ層と、該シリカ層の表面を被覆するシラン化合物層とを有する被覆マグネタイト粒子の製造方法である。カチオン交換樹脂を用いたイオン交換によって、シリカ層が形成されたコア粒子における該シリカ層中に含まれるアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンの量を低減させ;次いでシリカ層が形成された前記コア粒子の表面をアルコキシシラン化合物で被覆し、引き続き熱処理を行ってシラン化合物層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シラン化合物の被覆層を有する被覆マグネタイト粒子の製造方法に関する。本発明の製造方法によって得られた被覆マグネタイト粒子は、例えばプリンターや電子複写機のトナー用材料として特に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
静電複写磁性トナーの製造方法として、トナーの原料となる磁性粉やバインダ等を混合して溶融混練した後に、粉砕・分級する、いわゆる粉砕法が知られている。また、懸濁重合法等の重合法も知られている。これらの製造方法のうち、懸濁重合法によってトナーを製造する場合、表面が親水性である磁性粉を用いると、トナーの帯電特性及び画像特性が低下する傾向にある。この理由は、磁性粉の表面が親水性であることに起因して、磁性粉が非水系溶媒中で十分に分散できず、その結果、トナー中での磁性粉の分散性が低下して、トナー中において磁性粉が偏在する等の不都合が生じるからである。
【0003】
そこで、重合法トナーの原料となる磁性粉の表面を疎水化することで、非水系溶媒中での磁性粉の分散性や流動性を高める試みが提案されている。例えば、磁性粉の表面を疎水性にするためにシラン化合物を用いる技術(特許文献1参照)や、磁性粉の表面をSi及びTiを含む化合物で被覆し、更にその上をシラン化合物で処理する技術(特許文献2参照)などが知られている。
【0004】
このほか、特許文献3には、マグネタイト粒子の表面を、アルミナの水和物等で被覆し、その表面をシリカ粒子で被覆し、更にその上をシランカップリング剤で被覆した表面改質マグネタイト粒子が記載されている。このマグネタイト粒子は流動性が良好で、かつ水分吸着量が少なくものであると、同文献には記載されている。
【0005】
特許文献4には、Pを含むマグネタイト粒子の表面をシラン化合物で被覆した疎水性マグネタイト粒子が記載されている。このマグネタイト粒子は、シラン化合物の有機溶剤への溶出量が少なく、かつ分散性に優れたものであると、同文献には記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−72654号公報
【特許文献2】特開平6−230603号公報
【特許文献3】特開平11−314919号公報
【特許文献4】特開2005−263619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述の各特許文献に記載の技術を始めとする従来行われてきた処理では、シラン化合物はマグネタイト粒子の表面に主として物理吸着していたので、懸濁工程で生じる剪断力や重合工程で加わる熱によって、シラン化合物がマグネタイト粒子の表面から脱離しやすい傾向があった。また、シラン化合物がマグネタイト粒子の表面に化学結合している場合であっても、その結合力が弱い場合には、加熱等の外因によってシラン化合物の脱離が起こりやすいこともある。
【0008】
また、特許文献1に記載の技術では、マグネタイト粒子の表面積が過度に大きくなり、吸湿性が高くなってしまい、分散性も悪化してしまう。しかも、分散処理後の水蒸気吸着量も高くなってしまう。特許文献2及び3に記載の技術でも、特許文献1と同様に、マグネタイト粒子の表面積が過度に大きくなってしまう。また、特許文献2及び3に記載の技術でも、分散処理後の水蒸気吸着量が高くなってしまう。分散処理後の水蒸気吸着量が高くなることは、特許文献4に記載の技術でも生じる課題である。
【0009】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得る被覆マグネタイト粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討した結果、シリカ層におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量を低減することで、シリカ層とシラン化合物層との結合を強固にすることができることを知見した。
【0011】
本発明は前記の知見に基づきなされたものであり、 マグネタイトのコア粒子と、その表面を被覆するシリカ層と、該シリカ層の表面を被覆するシラン化合物層とを有する被覆マグネタイト粒子の製造方法であって、
カチオン交換樹脂を用いたイオン交換によって、シリカ層が形成されたコア粒子における該シリカ層中に含まれるアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンの量を低減させ、次いで
シリカ層が形成された前記コア粒子の表面をアルコキシシラン化合物で被覆し、引き続き熱処理を行ってシラン化合物層を形成することを特徴とする被覆マグネタイト粒子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、疎水性が高く、有機溶媒中への分散性に優れ、かつ有機溶媒中での分散処理後も高い疎水性を維持し得る被覆マグネタイト粒子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の製造方法に従い得られる被覆マグネタイト粒子は、マグネタイトのコア粒子の表面が複数の層によって被覆されている。コア粒子の表面を被覆する複数の層は、(イ)コア粒子の表面を直接被覆するシリカ層と、(ロ)該シリカ層の表面を直接被覆するシラン化合物層である。
【0014】
前記の(ロ)の被覆層であるシラン化合物層は、主として、被覆マグネタイト粒子に疎水性及び有機溶媒中への分散性の向上に寄与する。一方、(イ)の被覆層であるシリカ層は、マグネタイトのコア粒子とシラン化合物層との間に介在し、両者間の結合を向上させることに寄与する。その結果、被覆マグネタイト粒子を有機溶媒とともに分散処理した場合に生じる剪断力が該被覆マグネタイト粒子に加わっても、シラン化合物層が剥離して被覆マグネタイト粒子の疎水性が低下してしまうという不都合が生じにくくなる。
【0015】
上述の構造を有する被覆マグネタイト粒子は、(1)マグネタイトのコア粒子の製造工程、(2)シリカ層によるコア粒子の表面の被覆工程及び(3)シラン化合物層によるシリカ層表面の被覆工程の3つに大別される製造方法によって得ることができる。以下、それぞれの工程について説明する。
【0016】
まず(1)の工程について説明する。マグネタイトのコア粒子は、当該技術分野で公知の方法に従い製造することができる。例えば、第一鉄塩の中和反応によって生じた水酸化第一鉄コロイド溶液に酸化性ガスを吹き込む湿式酸化法によってマグネタイトのコア粒子を製造できる。この場合、必要に応じ、Si、Ti、Al、Zr、Mn、Zn、Mg等の元素の1種又は2種以上を含む水溶性化合物を、反応用溶液に投入してもよく(反応前、反応開始時、又は反応途中のいずれでも可)、あるいはコア粒子の生成完了後に投入してもよい。これらの元素の水溶性化合物の添加量を調整することで、コア粒子中に含有されるこれらの元素の量をコントロールできる。また、本工程でケイ素の含有分布(粒子の半径方向の分布)を調整することによって、コア粒子の表面にシリカを偏析させて、以下に述べる(2)の工程を経ることなく、シリカ層を形成することも可能である。
【0017】
(1)の工程においては、湿式酸化法を行うときの液のpHを適切に調節することで、コア粒子の形状をコントロールできる。具体的には液のpHを好ましくは7以下、更に好ましくは5.5〜7.0、一層好ましくは5.5〜6.0に保ちつつ、該液に空気等の酸化性ガスを吹き込み、湿式酸化を行う。このpHの調節によって、得られるコア粒子を球状のものとすることができる。液のpHがアルカリ側、例えばpHを9以上にして湿式酸化を行うと、球状ではなく、多面体状のコア粒子が生成する。コア粒子の形状について本発明者らが検討したところ、コア粒子が球状であると、シリカ層及びシラン化合物層による被覆が極めて良好に行えることが判明した。したがってコア粒子として、多面体状のものよりも、球状のものを用いることが好ましい。
【0018】
なお、湿式酸化における空気等の酸化性ガスの吹き込み条件は、本製造方法において特に臨界的でなく、公知の条件を適宜採用することができる。
【0019】
(1)の工程によって得られるマグネタイトのコア粒子は、XRD測定したときに主ピークがマグネタイトのピークと一致するものが用いられる。この場合、マグネタイトのピークのみが観察されてもよく、あるいはマグネタイトの主ピークのほかに、マグヘマイト等のピークが観察されてもよい。
【0020】
(1)の工程において、Si、Ti、Al、Zr、Mn、Zn、Mg等の元素の1種又は2種以上を含む水溶性化合物が投入された場合には、これらの元素は酸化物やFeとの複合酸化物等の状態で粒子内に存在する。これらの元素は、コア粒子の半径方向にわたって連続的に分布していてもよく、あるいは中心部又は表面及びその近傍に偏在していてもよい。これらの元素がコア粒子の半径方向にわたって連続的に分布している場合、その分布は均一でもよく、あるいは中心に向けて又は表面に向けて連続的又は段階的に増減していてもよい。
【0021】
上述の元素のうち、Siを用いる場合、その量が被覆マグネタイト粒子の質量に対して0.05〜0.8質量%、特に0.1〜0.7質量%となるように添加されることが、平滑な表面のコア粒子が得られる点から好ましい。コア粒子に含まれるSiの量はICPによって測定することができる。
【0022】
(1)の工程においては、平均粒径が0.1〜0.3μm、特に0.15〜0.25μmとなるようにコア粒子を生成させることが好ましい。この範囲の平均粒径を有するコア粒子を用いて得られた被覆マグネタイト粒子は、トナー中での着色力や色味が良好となるからである。コア粒子の平均粒径は、次の方法で測定される。
【0023】
〔コア粒子の平均粒径の測定方法〕
コア粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して撮影された像から測定する。具体的には、SEM写真(倍率40,000倍)を用い、写真上の粒径を同軸方向に200個以上計測し、その個数平均から求める。
【0024】
このようにして得られたコア粒子は、次いで(2)の工程において、その表面にシリカ層が形成される。この形成のために、本工程においては、水溶性ケイ酸塩、例えばケイ酸ナトリウム等のケイ酸のアルカリ金属塩や、ケイ酸のアルカリ土類金属塩等のシリカ源を用いる。詳細には、(1)の工程において得られたコア粒子を、水洗した後に水を添加してスラリー化する。このスラリーにケイ酸塩等のシリカ源を添加して攪拌する。攪拌を所定時間行うことによって、コア粒子の表面にシリカ層を形成する。シリカ源の添加量は、マグネタイトのコア粒子の質量に対して、Si換算で0.05〜0.5質量%、特に0.10〜0.4質量%とすることが、平滑な粒子表面を得る点及びシリカ層の上にシラン化合物を均一に被覆する点から好ましい。
【0025】
コア粒子の表面に形成されたシリカ層は、主としてSiO2の三次元網目構造から構成されている。シリカ層は、上述のとおり、コア粒子とシラン化合物層との結合を高めることに寄与する。この観点から、シリカ層におけるケイ素の含有量は、被覆マグネタイト粒子の質量に対して0.02〜0.5質量%、特に0.05〜0.4質量%の範囲であることが好ましい。
【0026】
シリカ層におけるケイ素の含有量は次の方法で測定される。まず、シリカ層が形成されたコア粒子を酸の水溶液に全溶解させてその溶液に含まれるケイ素の量をICPで測定する。そして、測定されたケイ素の量から、先に測定しておいてコア粒子中に含まれるケイ素の量を減じることで、シリカ層におけるケイ素の含有量が算出される。
【0027】
このようにして形成されたシリカ層中には、ケイ酸塩等のシリカ源やその他の原料に由来するアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属(以下、これらの元素を総称して「アルカリ金属等」ともいう。)が含まれている。先に述べたとおり、シリカ層中におけるアルカリ金属等の存在は、該シリカ層の表面にシラン化合物層を強固に結合させることの妨げとなることが本発明者らによって見いだされた。シリカ層とシラン化合物層との結合を強固にすることができない場合には、被覆マグネタイト粒子を有機溶剤に分散させるときに該被覆マグネタイト粒子に剪断力が加わると、シラン化合物層の剥離が起こりやすくなる。そこでシリカ層中におけるアルカリ金属等を極力除去することが望ましい。この観点から、本製造方法においてはカチオン交換樹脂を用いたイオン交換を行い、シリカ層に含まれるアルカリ金属等を低減させている。カチオン交換樹脂としては、従来公知のものを特に制限なく用いることができる。また、イオン交換の条件にも特に制限はなく、シリカ層が形成された後のコア粒子をカチオン交換樹脂と水相中で攪拌したり、カチオン交換樹脂が充填されたカラム中に、シリカ層が形成された後のコア粒子のスラリーを通過させたりすればよい。イオン交換は、スラリーのpHが4〜6程度になるまで行えばよい。
【0028】
本工程においては、カチオン交換樹脂を用いて、シリカ層におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量の合計を、最終的に得られる被覆マグネタイト粒子の質量に対して50ppm以下に低減することが好ましく、更に好ましくは40ppm以下、一層好ましくは30ppm以下に低減する。
【0029】
シリカ層に含まれるアルカリ金属等の量は、次のようにして測定される。シリカ層が形成されたコア粒子25gを正確に秤量し、純水250ml中に分散させた後、5分間沸騰させ、常温(25℃)まで冷却する。蒸発によって減じた液量を、純水を加えて再び250mlとする。次いで、JIS P3801に準ずる5種Cの濾紙にて濾過を行う。濾過を開始して最初の50mlを捨て、残りの濾液を採取する。採取した濾液について、ICPを用い、濾液中のアルカリ金属等のイオンの濃度を測定する。なお、コア粒子にアルカリ金属等が含まれていることがあるが、上述の測定方法を用いる限り、コア粒子からのアルカリ金属等の溶出は認められないことを、本発明者らは確認している。
【0030】
シリカ層の形成においては、ケイ酸ソーダ(JIS3号)を水で好ましくは3〜10質量%に希釈した後、このケイ酸ソーダ水溶液2000〜5000mlを、30分程度かけて5〜12kgのコア粒子に添加し、その後室温で30分以上エージングした後に、30分以上かけてpH6〜7に中和する方法を採用することが好ましい。中和には硫酸、塩酸、硝酸、酢酸等を用いることができる。また、コア粒子を生成させるときに、該コア粒子中におけるケイ素の含有分布を調整し、コア粒子の表面にケイ素を偏在させてシリカ層を形成する場合においては、コア粒子の生成反応後半の酸化速度を抑えること、すなわち、酸化性気体の吹き込み量を緩やかにすることが好ましい。このような形成方法を採用することで、形成されたシリカ層の表面を平滑にすることができる。シリカ層の表面が平滑であると、該シリカ層の上に形成されるシラン化合物層の剥離が効果的に防止されるからである。詳細には、表面平滑性の高いシリカ層を用いることによって、シラン化合物層による被覆を首尾良く行うことができる。その結果、被覆マグネタイト粒子を有機溶剤に分散させるときに該被覆マグネタイト粒子に剪断力が加わっても、シラン化合物層の剥離が起こりづらくなる。
【0031】
このようにして表面にシリカ層が形成されたコア粒子は、次いで(3)の工程において、その表面にシラン化合物層が形成される。この形成のために、本工程においては、疎水基を有するアルコキシシランを用い、該アルコキシシランからシラン化合物層を生成させる。このアルコキシシランは、被覆マグネタイト粒子の表面に疎水性を付与するために用いられる。このアルコキシシランを原料としてシラン化合物(有機シラン化合物)が生成する。このアルコキシシランは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このアルコキシシランは一般式R1xSi(OR24-xで表される。式中、R1は疎水基を表し、R2はアルコキシ基を表す。xは1〜3の整数を表す。xが2又は3である場合、複数のR1は同一でもよく、あるいは異なっていてもよい。同様に、xが1又は2である場合、複数のR2は同一でもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0032】
1で表される疎水基の例としては、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基などが挙げられる。アルキル基における炭素数は、1〜18、特に3〜10であることが好ましく、アルケニル基における炭素数は、2〜18、特に3〜10であることが、被覆マグネタイト粒子に十分な疎水性を付与する観点から好ましい。アルキル基及びアルケニル基は直鎖のものでもよく、あるいは分岐鎖のものでもよい。一般には、直鎖よりも分岐鎖タイプのものの方が、疎水基による疎水性結合が起こりにくく、シラン化合物の活性基の部分であるアルコキシ基が外側に向きにくくなるので、疎水性の向上の観点から好ましい。R1がアルケニル基である場合、アルケニル鎖中のC=C結合の位置に特に制限はないが、疎水性を高める観点から、末端側よりも、むしろSi原子寄りの位置にC=C結合が存在していることが好ましい。R1がフルオロアルキル基又はフルオロアルケニル基である場合、アルキル基又はアルケニル基におけるフッ素の結合数に特に制限はなく、1個以上のフッ素が結合していればよい。一般にフッ素の結合数が増えるほど疎水性が高まる。また、アルキル基又はアルケニル基におけるフッ素の結合位置に特に制限はなく、疎水性が一層高くなる位置にフッ素が結合していればよい。
【0033】
OR2で表されるアルコキシ基におけるアルキル基は、例えば炭素数が1〜6、特に1〜3であることが好ましい。このアルキル基は直鎖でもよく、あるいは分岐鎖でもよい。また、R2におけるアルキル基は、R1として用いられるアルキル基又はアルケニル基の炭素数よりも少ない炭素数のものであることが好ましい。
【0034】
アルコキシシランの具体例としては、R1がアルキル基である場合、すなわちアルキルアルコキシシランである場合、n−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、iso−ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、iso−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、iso−オクチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、iso−デシルトリメトキシシラン、tert−デシルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、iso−ブチルトリエトキシシラン、tert−ブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、iso−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、iso−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、iso−デシルトリエトキシシラン等が挙げられる。R1がアルコキシ基である場合には、上述したアルキルアルコキシシランにおけるアルキル基をアルケニル基で置換した化合物が挙げられる。R1がフルオロアルキル基及びフルオロアルケニル基である場合には、上述したアルキルアルコキシシラン及びアルケニルアルコキシシランにおけるアルキル基及びアルコキシ基中の水素が1又は2以上のフッ素で置換された化合物が挙げられる。
【0035】
上述したアルコキシシランを、シリカ層の表面で加水分解させて、その加水分解物や脱水縮合物等からなる種々の有機シラン化合物を生成させ、これによってシリカ層の表面を被覆する。あるいはアルコキシシランを予め加水分解させ、生成した有機シラン化合物をシリカ層の表面に被覆してもよい。生成したシラン化合物層の構造は、該アルコキシシランどうしが反応して生成した三次元ネットワーク構造から構成されていると考えられる。そのような三次元ネットワーク構造には、前記のアルコキシシランの加水分解生成物や脱水縮合生成物等が包含されると、本発明者らは考えている。
【0036】
アルコキシシランをシリカ層の表面に被覆する方法には、湿式法と乾式法がある。湿式法では、水を媒体とし、表面にシリカ層が形成されたコア粒子を含み、pHが所定の範囲に設定されたスラリーにアルコキシシランを添加してコア粒子の表面を被覆する。乾式法では、表面にシリカ層が形成されたコア粒子とアルコキシシランとを、液媒体の実質的な非存在下に混合して該シリカ層の表面を被覆する。これら2つの方法のうち、乾式法を用いることが、シラン化合物層によるシリカ層の表面の被覆を首尾良く行い得る点から好ましい。
【0037】
表面にシリカ層が形成されたコア粒子とアルコキシシランとの乾式法による混合には、公知の混合攪拌装置を用いることができる。例えば、ヘンシェルミキサ、ハイスピードミキサ、エッジランナー、リボンブレンダー等を用いることができる。これらの装置の運転条件としては、混合攪拌時の温度を10〜50℃、特に10〜40℃に設定することが好ましい。これによって、混合が十分に行われる前に、アルコキシシランが意図せず縮合反応してしまうことや、揮発してしまうことを効果的に防止できる。表面にシリカ層が形成されたコア粒子とアルコキシシランとの配合の割合は、コア粒子100質量部に対して、アルコキシシランを0.5〜10質量部、特に0.8〜5質量部とすることが、得られる被覆マグネタイト粒子に含まれるシラン化合物の量が適切になり、被覆マグネタイト粒子の疎水性が十分に高くなる点から好ましい。
【0038】
乾式混合が完了したら、アルコキシシランの脱水縮合が生じる温度にまで混合物を加熱してアルコキシシランの脱水縮合を生じさせる。アルコキシシランの種類にもよるが、加熱温度は100〜250℃、特に105〜240℃とすることが好ましい。加熱をこの温度範囲で行うことで、コア粒子の過度の凝集を防止しつつ、アルコキシシランの脱水縮合を行うことができる。加熱時の雰囲気に特に制限はない。一般的には大気下で加熱を行えばよい。
【0039】
シラン化合物層は、該シラン化合物層中に含まれるシラン化合物の量が、Si換算で、被覆マグネタイト粒子の質量に対して0.08〜0.7質量%、特に0.15〜0.5質量%となるように形成されることが好ましい。シラン化合物の量がこの範囲内であることによって、被覆マグネタイト粒子において、シラン化合物層からのシラン化合物の有機溶媒への溶出量を抑制しつつ、表面の疎水性が高い被覆マグネタイト粒子となすことができる。シラン化合物層中に含まれるシラン化合物の量(質量%)測定は、例えばシラン化合物層中に含まれるカーボンの量を測定し、その量に基づきSiの量を算出することで求められる。
【0040】
シラン化合物層中に含まれるカーボンの量は以下の方法で測定することができる。シラン化合物層に含まれるシラン化合物が、該シラン化合物1分子に対して1個のアルキル基を有している場合には、このアルキル基のカーボン数を測定することで、シラン化合物の量を求めることができる。アルキル基のカーボン数の特定には、以下の装置及び方法を用いた。
【0041】
<シランカップリング剤アルキル基特定方法>
装置名:HEWLETT PACKARD社製 6890GC/5973MSD
アジレント社製 7694ヘッドスペースサンプラー
測定方法:
20mL HS用バイヤル中試料50mgをヘッドスペースサンプラーにて加熱(140℃×30min)し、発生ガスのGC−MS分析を行った。
測定条件:
〔ヘッドスペースサンプラー条件〕
オーブン(試料加熱) 140℃×30min
ループ 150℃
トランスファーライン 160℃
〔GC−MS条件〕
(1)C6、C8検出
スキャンモード
カラム:DB−5(HP社製)
温度条件:
注入口 250℃
オーブン 初期温度40℃ 10min、10℃/min 40〜200℃、200℃ 5min
スプリット比: 50:1
(2)iso−C4検出
スキャンモード
カラム:Pola Plot Q(VARIAN社製)
温度条件:
注入口 250℃
オーブン 初期温度100℃、20℃/min 100〜250℃
スプリット比:20:1
解析方法:
アルキル基を含むシラン化合物は、これを100℃程度以上に加熱することでアルキル基が分解し、対応するアルケン及びアルキルアルデヒドを生成する。例えばアルキル基がC8の場合は1−オクテン及びオクタナールが生成し、C6の場合は1−ヘキセン及びヘキサナールが生成する。iso−C4の場合はイソブテン及び1−メチルプロピナールが生成する。そこで、測定によって得られたマススペクトルのピークの中からアルケン及びアルデヒドのピークを確認することで、シラン化合物中のアルキル基のカーボン数を特定できる。例えば、条件(1)では、C8に由来する1−オクテンは4.2分(m/z=112、83、70、55、43)付近にピークが観察され、C6に由来する1−ヘキセンは1.5分(m/z=84、56、41)付近にピークが観察される。条件(2)では、iso−C4に由来するイソブテンは、4.7分(m/z=56、41、28)付近にピークが観察される。
【0042】
以上の(1)〜(3)の工程を経て、目的とする被覆マグネタイト粒子が得られる。この粒子においては、その最表面が上述のシラン化合物層で被覆されているので、疎水性が高く、また有機溶媒中へのアルコキシシランの溶出が防止されたものになっている。しかも、シラン化合物層が、シリカ層を介してマグネタイトのコア粒子に強固に結合しているので、被覆マグネタイト粒子に剪断力を加えてもシラン化合物層の剥離が起こりづらくなっている。得られた被覆マグネタイト粒子は、重合法トナーの原料として特に有用である。例えば懸濁重合法を行う場合、本発明の被覆マグネタイト粒子を、バインダのモノマー成分や電荷制御剤、ワックス等とともに混合し、次いでこれを、懸濁安定化剤を含む水と混合して懸濁させ、得られた懸濁液を加熱してモノマーを重合させることでトナーが得られる。この方法によれば粒径のそろったトナーを一段階で得ることができる。また、本発明の製造方法に従い得られた被覆マグネタイト粒子を、粉砕法トナーの原料として用いても何ら差し支えない。
【0043】
得られた被覆マグネタイト粒子においては、上述のシリカ層及びシラン化合物層は、コア粒子の表面を薄く被覆している。したがって、被覆マグネタイト粒子の形状はコア粒子の形状を引き継いだものとなる。上述したとおり、コア粒子は球状であることが好ましいので、被覆マグネタイト粒子も球状であることが好ましい。また、上述のシリカ層及びシラン化合物による被覆が薄いことに起因して、被覆マグネタイト粒子の平均粒径は、コア粒子の平均粒径と実質的に大差はない。したがって、被覆マグネタイト粒子の平均粒径については、コア粒子の平均粒径に関して詳述した説明が適宜適用される。被覆マグネタイト粒子の平均粒径の測定方法についても同様である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0045】
〔実施例1〜7並びに比較例1及び2〕
(1)マグネタイトのコア粒子A及びBの製造
Fe2+を2.0mol/L含有する硫酸第一鉄水溶液50リットルと、ケイ酸ナトリウムをSi換算で0.0157mol/L含む、4.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液55リットルとを混合撹拌し、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この液の温度を85℃に保ちながら20L/minで空気を通気し、水酸化第一鉄の湿式酸化を行った。これによってマグネタイトのコア粒子Aを生成させた。得られたコア粒子Aを通常の洗浄、濾過、乾燥、粉砕工程により処理した。このコア粒子Aは球状であった。このコア粒子Aの詳細を以下の表1に示す。これとは別に、ケイ酸ナトリウムをSi換算で0.0314mol/L含む、4.0mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を用いる以外は、前記と同様にして、マグネタイトのコア粒子Bを生成させた。得られたコア粒子Bを通常の洗浄、濾過、乾燥、粉砕工程により処理した。このコア粒子Bは球状であった。このコア粒子Bの詳細を以下の表1に示す。コア粒子Bは、その製造時に多量のケイ酸ナトリウムを用いたので、粒子の表面にシリカが偏析してシリカ層が形成されていた。
【0046】
【表1】

【0047】
(2)シリカ層が形成されたコア粒子の製造
〔製造例I〕
前記の(1)で得られたコア粒子Bのスラリーをフィルタープレスで濾過、洗浄した後に、再度水でリスラリーを行った。このスラリー100L(固形分50g/L)に、500g(コア粒子Bに対して10%)のイオン交換樹脂SK110(三菱化学製)を投入した。そして、スラリーを2時間攪拌してイオン交換を行った。イオン交換後のスラリーのpHは5.5であった。その後、イオン交換樹脂をメッシュで濾過して除去し、通常の濾過、洗浄を行い、乾燥、解砕をしてシリカ層が形成されたコア粒子Iを得た。なお、上述したとおり、シリカ層が形成されたコア粒子Iの原料として用いたコア粒子Bは、既にその表面に、シリカの偏析によってシリカ層が形成されているものである。コア粒子Iを得た。コア粒子Iの詳細を以下の表2に示す。
【0048】
〔製造例II〕
コア粒子Bを用い、かつ通常の濾過、洗浄を行い、乾燥、解砕をして、シリカ層が形成されたコア粒子IIを得た。コア粒子IIの詳細を以下の表2に示す。
【0049】
〔製造例III〕
前記の(1)で得られたコア粒子Aのスラリーに、珪酸ソーダ3号をコア粒子Aに対してSi換算で0.10%添加して30分撹拌した。次いで、希硫酸をスラリーに加え、pHを6.0に調整した。このスラリーをフィルタープレスで濾過、洗浄した後に、再度水でリスラリーを行った。このスラリー100L(固形分50g/L)に、500g(コア粒子Aに対して10%)のイオン交換樹脂SK110(三菱化学製)を投入した。そして、スラリーを2時間攪拌してイオン交換を行った。その後、イオン交換樹脂をメッシュで濾過して除去し、通常の濾過、洗浄を行い、乾燥、解砕をしてシリカ層が形成されたコア粒子IIIを得た。コア粒子IIIの詳細を以下の表2に示す。
【0050】
〔製造例IV及びV〕
珪酸ソーダ3号の添加量を、コア粒子Aに対してSi換算で0.15%及び0.20%にする以外は製造例IIIと同様にして、シリカ層が形成されたコア粒子IV及びVを得た。これらのコア粒子の詳細を以下の表2に示す。
【0051】
〔製造例VI〕
前記の(1)で得られたコア粒子Aのスラリーに、珪酸ソーダ3号をコア粒子Aに対してSi換算で0.10%添加して30分撹拌した。次いで、希硫酸をスラリーに加え、pHを6.0に調整した。このスラリーをフィルタープレスで濾過、洗浄した。その後、乾燥、解砕をして、シリカ層が形成されたコア粒子VIを得た。コア粒子VIの詳細を以下の表2に示す。
【0052】
〔製造例VII〕
製造例IIIにおいて、イオン交換樹脂SK110(三菱化学製)の使用量を300g(コア粒子Aに対して6%)に減量した。また、イオン交換の時間を1時間に短縮した。これら以外は製造例IIIと同様にして、シリカ層が形成されたコア粒子VIIを得た。コア粒子VIIの詳細を以下の表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
(3)被覆マグネタイト粒子の製造
シリカ層が形成されたコア粒子IV(1kg)をハイスピードミキサ(深江パウテック社製LFS−2型)に投入し、回転数2000rpmで乾式撹拌しながら、n−ヘキシルトリメトキシシラン22.7g(0.11mol)を2分間にわたって滴下し、その後3分間撹拌した。次いで120℃で1時間大気下にて熱処理を行い、実施例1の被覆マグネタイト粒子を得た。また、シリカ層が形成されたコア粒子の種類及びアルコキシシランの種類を以下の表3に示すものとする以外は、前記と同様にして実施例2〜6並びに比較例1及び2の被覆マグネタイト粒子を得た。使用したアルコキシシランのモル数は、実施例1と同様とした。
【0055】
得られた被覆マグネタイト粒子について、水蒸気吸着量、有機溶媒に分散後の水蒸気吸着量及び水蒸気吸着量の増加率を、以下の方法で測定した。それらの結果を以下の表3に示す。
【0056】
〔水蒸気吸着量の測定方法〕
水蒸気吸着量測定装置BELSORP18(日本ベル株式会社製)を用いて、25℃、相対圧0.9における被覆マグネタイト粒子1g当たりの水蒸気吸着量(mg)を測定する。
【0057】
〔有機溶媒に分散後の水蒸気吸着量の測定方法〕
有機溶媒としてテトラヒドロフランが用いる。超音波分散処理の条件は、被覆マグネタイト粒子2gに対して有機溶媒10mLを加え、超音波ホモジナイザ(BRANSON社製SONIFIER450、超音波出力90W)を用い、超音波照射時間1分とする。再乾燥は、磁気によって被覆マグネタイト粒子を分離した後、50℃・120分の条件で行う。解砕はサンプルミルを用いて30秒行う。その後、上述の方法で被覆マグネタイト粒子の水蒸気吸着量(mg/g)を測定する。
【0058】
〔水蒸気吸着量の増加率〕
次の式から算出する。
水蒸気吸着量の増加率(%)=〔(分散処理後の水蒸気吸着量−分散処理前の水蒸気吸着量)÷分散処理前の水蒸気吸着量〕×100
【0059】
【表3】

【0060】
表3に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた被覆マグネタイト粒子(本発明品)は、比較例の被覆マグネタイト粒子に比べて水蒸気吸着量が少なく、表面の疎水性が高いものであることが判る。また、分散処理後も水蒸気吸着量が少なく、最表面のシラン化合物層が強固に結合していることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネタイトのコア粒子と、その表面を被覆するシリカ層と、該シリカ層の表面を被覆するシラン化合物層とを有する被覆マグネタイト粒子の製造方法であって、
カチオン交換樹脂を用いたイオン交換によって、シリカ層が形成されたコア粒子における該シリカ層中に含まれるアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンの量を低減させ、次いで
シリカ層が形成された前記コア粒子の表面をアルコキシシラン化合物で被覆し、引き続き熱処理を行ってシラン化合物層を形成することを特徴とする被覆マグネタイト粒子の製造方法。
【請求項2】
シリカ層が形成された前記コア粒子と前記アルコキシシラン化合物とを乾式法によって混合し、該シリカ層の表面を該アルコキシシラン化合物で被覆する請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記シリカ層におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量の合計が、被覆マグネタイト粒子の質量に対して50ppm以下となるようにイオン交換を行う請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
マグネタイトのコア粒子と、シリカ源とを混合し、表面にシリカ層が形成された前記コア粒子を得る請求項1ないし3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
第一鉄塩の中和反応によって生じた水酸化第一鉄コロイド溶液に酸化性ガスを吹き込む湿式酸化法によってマグネタイトのコア粒子を製造するときに、該コア粒子の表面にシリカを偏析させて、表面にシリカ層が形成された前記コア粒子を得る請求項1ないし3のいずれかに記載の製造方法。