説明

被覆剤

【課題】穀類澱粉を原料とし、製造工程においても危険な薬剤を使用することなく、かつ、長期間保存した場合であっても穀粒同士が結着することがない穀類用の被覆剤を提供することを技術的課題とする。
【解決手段】原料が穀類澱粉であって、前記穀類澱粉を水中で粉砕する粉砕工程と、粉砕された穀類澱粉を、酵素で分解して液状化する分解工程と、前記分解工程後の原料を所定の温度で所定の時間保温する保温工程と、前記保温工程後に原料を冷却する冷却工程とを含む、穀類用の被覆剤の製造方法において、前記分解工程で、原料のデキストリン分解度が8以上30未満の範囲になるように酵素分解を行う、という技術的手段を講じた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結着防止効果に優れる穀類の被覆剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、穀類澱粉を、酵素により加水分解することが行われている。例えば、特許文献1には、水を加えた穀類澱粉をα-アミラーゼによりデキストリン分解度 (以下、「DE」という)が5〜25となるように加水分解し、得られた加水分解物を食品の添加剤等に使用することが記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、食品に使用されている天然物質である澱粉を原料とする糖化液を、穀類の被覆剤として使用することが記載されている。
【0004】
特許文献2に記載されているようなコーティング米は、被覆剤を添加された直後に米粒表面を乾燥して前記被覆剤を固化させることで、米粒同士が結着することを防止している。確かに、前記乾燥直後は、米粒の表面に添付された被覆剤が固化するため、米粒同士が結着することを防止することが可能である。しかし、前記米粒を長期間保存した場合には、温度や湿度等の保存環境の影響により、米粒同士が結着してしまうことがあった。
【0005】
また、粒同士の結着を防止するための被覆剤(フィルムコーティング剤)として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」という)が知られている。このHPMCは錠剤用添加剤であり、錠剤の被覆剤として広く使用されている。また、2007年2月27日付の食品衛生法に基づく「食品、添加物等の規格基準」の一部改正により、これまで保健機能食品に用途が限定されていたHPMCの使用基準が廃止されたので、コーティング米の被覆剤にも使用できるようになった。
【0006】
しかし、HPMCを製造する場合には、その製造工程において強酸及び強アルカリの薬剤が使用されているので、「食の安全」についての関心の高まりから、製造工程においてもこれら薬剤が使用されていない被覆剤が望まれている。
【0007】
このため、食品に使用されている天然物質が原料であって、危険な薬剤を使用せずに製造可能で、かつ、長期間保存した後であっても穀類の粒同士が結着しない被覆剤が望まれている。
【0008】
【特許文献1】特公昭47−1811号公報
【特許文献2】特開2004−244249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題点をかんがみて、穀類澱粉を原料とし、製造工程においても危険な薬剤を使用することなく、かつ、長期間保存した場合であっても穀粒同士が結着することがない穀類用の被覆剤を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明は、原料が穀類澱粉であって、前記穀類澱粉を水中で粉砕する粉砕工程と、粉砕された穀類澱粉を、酵素で分解して液状化する分解工程と、前記分解工程後の原料を所定の温度で所定の時間保温する保温工程と、前記保温工程後に原料を冷却する冷却工程とを含む、穀類用の被覆剤の製造方法において、前記分解工程で、原料のデキストリン分解度が8以上30未満の範囲になるように酵素分解を行う、という技術的手段を講じた。
【0011】
さらに、被覆剤の粘度が900CP〜5000CPの範囲になるように酵素分解を行う、という技術的手段を講じた。
【発明の効果】
【0012】
本発明の穀類用の被覆剤を用いて穀類を被覆すれば、被覆後の穀類を長期間保存した場合であっても、穀粒同士が結着することを防ぐことができる。
【0013】
また、結着しやすい被覆剤を被覆した穀類の表面に、本発明の被覆剤を上塗りすることにより、穀粒同士の結着を防止することができる。このため、結着が問題となって従来穀類に被覆することが困難であったものも被覆することができるようになる。
【0014】
さらに、本発明では、従来、用途が限られ、場合によっては廃棄されていた古米、砕米、屑米及び被害粒等も原料に使用することができる。また、原料が穀類澱粉と水だけであり、使用する酵素はα−アミラーゼのみであるので、安全な天然素材のみで製造することが可能できる。
【0015】
その上、本発明の穀類用の被覆剤は、穀類に被覆するだけでなく、別の用途として、例えば飲料組成物として用いることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の一形態である穀類用の被覆剤の製造方法を、図1のフローチャートを参照して説明する。
【0017】
まず、穀類澱粉を水の中に投入し、前記穀類澱粉を水中にてホモジナイズして粉砕する(ステップS1)。次に、酵素(α−アミラーゼ)を添加し(ステップS2)、酵素添加後、水と粉砕された穀類澱粉とからなる原料を、前記穀類澱粉が糊化するのに適した温度にて保温する(ステップS3)。
【0018】
前記穀類澱粉には、澱粉質原料となる穀類を使用することができる。また、前記穀類が米である場合には、白米の他、古米、屑米、砕米、被害粒又は着色粒等を使用することが可能である。
【0019】
使用する穀類澱粉の量は、使用する水と穀類澱粉の総量に対して、20%〜50%が好ましい。より好ましくは30%〜50%である。例えば、使用する水の量が10kgであれば、この量の水に投入する穀類澱粉の量は、2.5kg〜10kgの範囲となる。
【0020】
また、前記ホモジナイズにはホモジナイザーを使用すればよく、未浸漬の穀粒を水中で粉砕する場合は、機器への負荷を考慮する必要があるので、粉砕開始直後はホモジナイザーを低速で回転させ、徐々に高速回転にする。また、原料である穀類澱粉は、水の中に一度に投入するのではなく、徐々に水の中へ投入するのが望ましい。穀類澱粉を粉砕する時間は、投入する穀類澱粉の量又は穀類澱粉の形状によるが、おおよそ30分程度である。
【0021】
粉砕後、酵素の活動を活発にさせるため、ホモジナイザーの低速回転により撹拌しながら、粉砕され液状化した原料(以下、「懸濁液」という)の温度を、穀類澱粉が糊化するのに適した温度に維持して保温する(ステップS3)。前記懸濁液を所定の時間、前記温度で保温することで、α−アミラーゼによる酵素反応(分解)を調節することができる。保温する時間は10分〜45分である。
【0022】
前記保温は、周知の方法により行えばよく、例えばホモジナイザーのタンク側面の周囲に温度管理された水を循環させて所定の温度に保温できるようにすればよい。
【0023】
なお、投入する穀類澱粉の量又は形状により、粉砕する時間及び撹拌する時間は適宜変更すればよい。原料に使用する穀類澱粉の形状が粒状である場合には、該穀類澱粉を事前に浸漬しておいてもよい。また、既に粉砕された粉末状態のものを使用してもよい。
【0024】
ステップS2で添加するα−アミラーゼの量は、原料の量又は添加する酵素により適宜変更することが望ましい。また、ホモジナイズ(水中粉砕)時に、穀類澱粉を投入した水が糊状化するのを防止するため、澱粉分解酵素であるα−アミラーゼをこのタイミングで投入してもよい。
【0025】
本発明では、製造した穀類用の被覆剤を穀類に被覆したときに穀粒同士が結着するのを防止するため、液状化した原料(懸濁液)のDEが8〜30未満の範囲になった時点で、α−アミラーゼによる酵素分解を停止するようにしている。
【0026】
ステップS3での保温後、懸濁液を90℃まで更に加熱し(ステップS4)、90℃の温度で20分間保温する(ステップS5)。これは、この保温によりα−アミラーゼを失活させるためである。
【0027】
ステップS5での保温終了後、懸濁液を冷却及び撹拌(ステップS6)し被覆剤を得る。冷却方法は自然冷却でもよく、前記撹拌は、冷却時に懸濁液が固化するのを防止するためであるので一般的な撹拌方法で撹拌すればよい。
【0028】
前記被覆剤は、α−アミラーゼの作用により酵素分解が行われている。なお、前記被覆剤は、DEが8〜30未満の範囲になるように調整する必要がある。DEが8よりも低いと、粘性が高いため、穀類表面に被覆する際の加工性が悪くなってしまう。また、DEが30を越えると粘性が低いため、穀類表面に被覆する際の加工性には優れるが、試験により穀粒同士の結着が発生することが確認されている。これは、酵素分解が進行したため還元末端の数が増加し、その結果、結着しやすくなったものと考えられる。
【0029】
ところで、本発明の被覆剤を使用する際に、ビタミン、ミネラル又はγ−アミノ酪酸等の栄養成分や、着色用の着色剤を添加して使用することも可能である。
【0030】
また、本発明の被覆剤を穀類表面に被覆することで、例えば、コーティング米のようなコーティング穀類を製造することができる。なお、前記コーティング穀類の製造には、一般的なコーティング装置を使用することができる。
【0031】
前記コーティング米は、米粒表面が被覆剤により覆われているため空気と接触することがないので、酸化が生じにくく、品質を保持しやすい利点がある。また、本発明の被覆剤を被覆することで米粒表面に透明感が出るとともに、光沢が生じて見た目がよくなり、商品価値も向上する。
【実施例1】
【0032】
本発明の実施の一形態である、原料の穀類澱粉に米を使用した場合の穀類用の被覆剤の製造方法を実施例によって説明する。
【0033】
まず、ホモジナイザーのタンクに20kgの水を投入し、4000rpmの回転速度でホモジナイザーの運転を開始する。ホモジナイザーの運転開始と同時に、タンク内の液温を1℃/分のペースで60℃まで上昇させる。この間に、原料である白米(2006年産広島コシヒカリ)15kgを5回に分けて3kgづつ前記タンクに投入し、ホモジナイズにより懸濁液を得る。なお、4000rpmの回転速度でのホモジナイズは、被覆剤が完成するまで行う。
【0034】
この場合、20kgの水に対して15kgの白米を使用するので、水と米(穀類澱粉)との総量に対して、約43%の穀類澱粉を使用することになる。
【0035】
なお、本実施例では、懸濁液が入っているタンク側面の周囲に、温度制御可能な水を循環させて、前記タンク内の液温の温度管理を行っている。
【0036】
ホモジナイズされている懸濁液の液温が60℃になった時点で、該懸濁液の酵素分解を行うために、懸濁液の総量の約0.17%に該当する60gのα−アミラーゼ(ビオザイムA、天野エンザイム株式会社)を添加する。そして、60℃の温度を維持して12分間保温し、前記懸濁液の酵素分解を行う。
【0037】
次に酵素分解された懸濁液を90℃まで加熱し、90℃の液温で20分間保温する。この保温により、添加したα−アミラーゼを失活させる。α−アミラーゼを失活させた後、40℃以下まで撹拌(本発明ではホモジナイズにより代用した)しながら冷却し、DEが5である被覆剤を得た。
【0038】
また、DEが5である被覆剤の他に、DEが8、10、20、30の被覆剤をそれぞれ製造した。これら被覆剤の製造方法は、DEが5である被覆剤を製造した上記の製造方法と同様であり、60℃の温度での保温時間のみを変更して被覆剤を製造した。これは、懸濁液の酵素分解を行う時間を調節することで所望のDE値の被覆剤を得るためである。
【0039】
なお、DEが8の被覆剤を製造したときの60℃の温度での保温時間は15分、DEが10の被覆剤を製造したときの60℃の温度での保温時間は20分、DEが20の被覆剤を製造したときの60℃の温度での保温時間は30分、DEが30の被覆剤を製造したときの60℃の温度での保温時間は45分であった。
【0040】
次に、DEの値による結着防止効果を確認するために、DEが異なる5種類の被覆剤を、米(2006年産広島コシヒカリ)にそれぞれ被覆してコーティング米を製造し、このコーティング米により、結着の有無の確認試験を行った。なお、前記コーティング米は、特許文献2に記載されているコーティング米の製造方法と同様な方法にて被覆剤の被覆を行った。
【0041】
ここで、前記確認試験の試験方法を説明する。まず、DEが異なる5種類の被覆剤を被覆した各コーティング米(200g)を、樹脂製の袋(大倉工業社製のスマイルチャックG4型)にそれぞれ充填して密封し、Air−Oven(ヤマト科学社製のDN43H)を使用して、前記袋を50℃の温度の環境下で2日間静置した。
【0042】
次に、Air−Ovenから取り出した前記袋内の各コーティング米を、ロータップ型試料選別篩分器(田中化学機械製造所社製のRS1型)により篩分けした。前記篩分器の振とう篩には目開き3mmのものを使用し、振とう数は250rpm、そして処置時間は2分間という条件で篩分けを行い、この条件での篩分け後に前記振とう篩の上にコーティング米が残留しているかどうかにより結着の有無の確認を行った。この確認試験の結果を下記の表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示すように、DEが5又は30の被覆剤を被覆したコーティング米は、2分間の篩分け後も振とう篩上に結合したまま残留していた。しかし、DEが8、10又は20の被覆剤を被覆したコーティング米は、2分間の篩分け後に振とう篩上に残留することなく、全ての米粒が振とう篩から落下していた。
【0045】
この試験結果より、穀類澱粉を酵素分解して穀類用の被覆剤を製造する場合、DEが8以上30未満、望ましくは8〜20の範囲となるように酵素分解を調整すべきと考えられる。なお、DEが8の被覆剤の粘度は5000CPであって、DEが20の被覆剤の粘度は900CP、DEが30の被覆剤の粘度は300CPであった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施の一形態である穀類用被覆剤の製造方法を示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料が、穀類澱粉であって、
前記穀類澱粉を水中で粉砕する粉砕工程と、
粉砕された穀類澱粉を、酵素で分解して液状化する分解工程と、
前記分解工程後の原料を所定の温度で所定の時間保温する保温工程と、
前記保温工程後に原料を冷却する冷却工程とを含む、
穀類用の被覆剤の製造方法において、
前記分解工程で、原料のデキストリン分解度が8以上30未満の範囲になるように酵素分解を行うことを特徴とする穀類用の被覆剤の製造方法
【請求項2】
請求項1に記載の被覆剤の製造方法で製造した被覆剤の粘度が900CP〜5000CPの範囲であることを特徴とする穀類用の被覆剤の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の製造方法で製造した被覆剤。




【図1】
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【公開番号】特開2009−189342(P2009−189342A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36321(P2008−36321)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】